あなたとエネルギーをつなぐ場所

「災害時における停電の不安から人々を守りたい」東北電力・倉石澄人さん

2018.09.11
「エネルギー業界」と聞くと、「身近に感じない」「難しそう」といったイメージを持つ方も少なくないはず。そこで今回は、東北電力で働く若手社員に、仕事の内容からやりがい、そして休日の過ごし方まで、リアルな現場の声を聞きました。密着取材で見えてきた、エネルギー業界の“今”を生きる人々の想いとは!?

 

【今月の密着人】 

東北電力株式会社 新潟電力センター 倉石澄人(くらいしきよと)さん(27歳)

 

失われて気付いた電気の大切さ

 

東北6県と新潟県の電力を発電し、供給する東北電力株式会社。2018年4月で入社4年目を迎えた倉石澄人さんは、新潟県下越地方を管轄する新潟電力センター制御所で、発電から配電までを統合したシステムである電力系統の監視や制御の任に就いている。

身長185cmのスマートなモデル体型で、物腰は柔らかく、その優しさが笑顔から伝わってくる。学生時代から続けているバドミントンで鍛えられた鋭敏な判断力は、職務にも生きているという。

生まれは米どころの秋田県だが、「今では新潟産の米も大好き」だという倉石さん
 

そんな倉石さんがエネルギー業界に興味を持ったのは、2011年に起きた東日本大震災がきっかけだった。

倉石さん「当時はまだ大学生で、仙台で一人暮らしをしていました。震災直後から電気などのライフラインが全て止まり、いつ復旧するかも分からない状態で、ものすごく不安な時間を過ごしていたことを、今でもはっきりと思い出します」

落ち着かない日々が続く中で、最初に復旧したのが電気だった。

倉石さん「電気がついたときは、本当にうれしくて……。普段何気なく使っているエネルギーが、どれだけありがたいものなのかを実感した瞬間でした」

それ以来、電力に興味を抱くようになった倉石さん。大学では電気工学を学んでいたこともあり、東北電力へと進むことを決めたという。

 

安全かつ的確・迅速、送配電の要を担う仕事

 

倉石さんの職場は、24時間365日稼働する新潟電力センターの制御室。4人1組、計5班による交替体制で、地域の電気の流れをチェック、またコントロールしている。日々、発電所から家庭までは送電線・配電線を通して電気が送られているが、その間で、発電所でつくられた高電圧の電気は、家庭用などに向けて低圧に変圧されている。

倉石さんは、6万6000Vから6600Vに変圧される区間を担当し、変電所や送電線、配電線などの状況が表示される系統監視盤に目を光らせながら、担当区間内の全ての設備で、電力の供給に支障がないかを監視している。

倉石さん「制御室にある系統監視盤には、事故で停電している箇所や、点検作業のために停止している箇所がリアルタイムで表示されています。その該当箇所で、何が起きているのか、どんな作業が行われているのかといった正確な情報を集め、電力の復旧、停止を遠隔操作し、またどの部門と連絡を取るべきか、というような多くの判断を下しています」

新潟電力センター制御所内の制御室。正面に県内全域の系統監視盤を表示する巨大スクリーンがある
 
デスクで担当エリアの監視業務に当たる倉石さん
 
発電所、変電所、送電線のつながり、状況が表示されている系統監視盤。管轄エリアごとに色分けされている
 

停電が起きた際には、正確さと緻密さに加え、当然のことながら一秒でも早く復旧させるための迅速性も求められる。

倉石さん「送電線や変電所など、多い日には30件の点検作業が展開されます。複数箇所から多くの情報が集まってきますが、一歩間違えれば重大な事故につながりかねません。最悪の場合は管轄エリアの商業ビルや中規模工場、各家庭などで大規模停電という事態になってしまいます」

不測の事態を起こさないために重要なのは、正確で早い情報のやり取り。社内の連絡手段は、電話が常だという。

倉石さん「大切なのは、一本の電話で正確に情報を把握すること。そして同じように、相手にも的確な情報を分かりやすく説明することです。そのため、社内では必ず時間、場所、事故の原因または作業の目的と内容、回線名の順序で話すように徹底しています」

重大なミスにつながるケアレスミスを防ぐために、指差し確認は必須
 
デスクのモニターに映る電圧表示と、大型スクリーンの情報を照らし合わせてトラブルが起きている箇所を再確認する
 
チームの責任者と話し合いながら不具合の解決策を探る。ときには大きな声が飛び交うほど緊迫した状態にもなるという
 

また、いつどこで起きるか分からない自然災害による事故への対応も、気を抜くことができない。

倉石さん「冬の豪雪や日本海の塩分を含む強風をはじめとした、この地域特有の気候を把握することは不可欠。送電線に積もった雪の影響で上下の線が近づいて短絡事故(ショート)が起こったり、塩分を含んだ雨や雪によって電線が絶縁不良になって地絡事故(アース)になったりすることが多いです。学生時代に住んでいた仙台とは気候が全く違うので、最初は戸惑いましたね」

デスク上のモニターには電力系統以外にも、電圧表示、電力需要の推移、気象情報などが表示でき、さまざまな情報をもとに的確な指令を出す

 

日本の電力を守るエキスパートになりたい!

 

倉石さんの仕事に対する熱意や向上心は、この4年間で年を追うごとに高まっているという。休みの日にも気象情報を欠かさずチェックするのは、その表れの一つだそう。

倉石さん「特に意識しているのは、警報や注意報。また、夏場は毎日のように落雷による短絡や地絡事故が起こるので、発雷情報にも常に目を向けています」

社内にも独自の気象予報システムがあり、日々のデータが記録されている。それらの情報を欠かさず得ることで、事故を予測、想定するための勘が養われるという。

倉石さん「情報を集めながら、これまでの経験を反芻することで、実践では焦らず対処できるようになりました。また社内でも事故を想定した訓練やトレーニングを定期的に行って、不測の事態に備えています」

「向上心を持つことや、有効的な時間の使い方を意識するようになったのは、高校時代から寮での一人暮らしを経験したおかげです」
 

そして、倉石さんがこの仕事に就いて一番印象に残る出来事は、そうした努力や訓練が実を結び、仕事への自信と誇りを手に入れた一日だったと教えてくれた。それは2017年度冬、新潟を豪雪が襲った日だった。

倉石さん「ものすごい強風と大雪でした。一晩で1m以上の雪が積もり、100件ほどの事故が起きたんです。深夜1時から朝7時まで電話は鳴りっぱなし、制御室内は大声が飛び交い、私も必死で対応しました。何とか朝までに全てを復旧させ、停電を最小限にとどめられたときは、思わずチームのみんなで互いに健闘をたたえましたね。『ありがとう』と言い合ったことが、強く心に残っています」

朝までに電力を復旧させた。それは、2011年に倉石さんが経験した不安感から、管轄エリアに住む人々を守ったとも言える。電気はあって当たり前。しかし、その裏には彼らの奮闘があってこそ成り立っていることを忘れてはいけない。

「将来的には新潟県だけでなく、東北全域を管轄する中央給電指令所、ひいては北海道電力や東京電力など他地域の電力会社と連携して日本の電力を守る広域的な運用機関での業務に携わりたいです」と、倉石さんは力強く爽やかな笑顔で今後の目標を語る。

日本の電力を守る――常に高みを目指し邁進する決意に満ちあふれた表情が清々しい
 

ちなみに休日は、バドミントンで汗を流してリフレッシュする傍ら、カフェで資格試験の勉強と、努力も怠らない。休みの時間も有効活用するとは、まさに非の打ち所がない。

倉石さん「でも、全然そんなことはなくて……お酒を飲み過ぎてしまうこともあります(笑)。新潟の冬は厳しく危ないので、飲み過ぎには注意しています」

自分の失敗を語るときもやわらかな笑顔は絶やさず、かわいらしい一面として魅力に変えてしまう倉石さん。日本のエネルギー業界のさらなる発展に尽力したいという情熱を抱く、彼の今後に期待したい!

 
★倉石澄人さんプロフィール
年齢 27歳
趣味 バドミントン、お酒を飲むこと
好きな食べ物 ラーメン、米、甘いもの
好きな映画 ジブリ作品
好きな音楽 Bruno Mars、Maroon5
好きな芸能人 マツコ・デラックス