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「重要なのは災害が起こった時、どれだけ迅速に行動できるか」日本原子力発電・齋藤陽平さん

2018.10.26

【今月の密着人】 日本原子力発電株式会社 美浜原子力緊急事態支援センター 技術グループ 齋藤陽平さん(31歳)
 
「エネルギー業界」と聞くと、「身近に感じない」「難しそう」といったイメージを持つ人も少なくないはず。そこで今回は、日本原子力発電で働く社員に、仕事の内容からやりがい、そして休日の過ごし方まで、リアルな現場の声を聞きました。密着取材で見えてきた、エネルギー業界の“今”を生きる人々の想いとは?

子供のころから身近に感じていた原子力発電所

 
原子力発電所などにおいて、万が一重大事故が発生した場合でも、多様かつ高度な災害対応を可能とする「美浜原子力緊急事態支援センター」。
 
2013年に福井県・敦賀市に「原子力緊急事態支援センター」として発足後、2016年に福井県・美浜町へと移設され、本格運用を開始した。原子力災害発生時に、速やかに現場へ資機材と要員を派遣し、事業者と協働して高放射線下での原子力災害に対応できる国内唯一の支援組織だ。
 


齋藤さんが勤める美浜原子力緊急事態支援センターは、福井県の美浜町と若狭町にまたがる5つの湖・三方五湖(みかたごこ)近くにある

この支援センターで働く齋藤さんは、さまざまな原子力関連施設がある地元・福井県の出身。幼いころから身近にある原子力やエネルギー業界に興味を持っていたそうだ。
 
齋藤さん「周りに原子力発電所の仕事に携わる方が多く、子供のころから原子力発電所の存在を身近に感じていましたし、そこで働く人たちに尊敬や憧れの念を抱いていました」
 


異動によって東京から地元にUターンした齋藤さん。「地元はやっぱりいいですね!」 物腰の柔らかさがありながら、強い意志を感じられる目力が印象的

子供のころに感じた思いをそのままに、自然な流れでこの仕事を選んだという。入社当初は事務職として総務関係の業務に携わり、その後、美浜原子力緊急事態支援センターに異動となった。異動が決まったとき、齋藤さんの胸中には新たな決意が芽生えた。
 
齋藤さん「入社以来ずっと事務職として働いていました。こちらへの異動を伝えられた時に、まず今までの業務内容とは大きく変化があると感じました。技術職として新しいことに挑戦していくために、支援センター業務や必要な資格取得に積極的に取り組んでいきたいと強く思いました」
 


支援センターへの異動は自身の新たな挑戦になったという

常に災害発生時を想定して高める向上心と危機意識

 
支援センターは、技術グループの中にUAV(Unmanned aerial vehicle:ドローン)チーム、無線重機チーム、ロボットチームがあり、3チームで構成されている。
 
齋藤さんが所属するUAVチームは、災害が起きた際には車両の中からドローンを操作し、カメラや放射線測定器で現場を偵察することが役目。平常時には、ドローンなどの操作訓練は欠かさない。それは重機やロボットを含む、全ての資機材に及ぶという。
 


上からドローン、無線重機、小型ロボットと、操作できなくてはならない資機材は幅広い

齋藤さん「訓練で初めてドローンを操作することになったとき、当時マスコミなどで話題になっていたので胸が高鳴りました。しかし、実際に操作してみると、やはり空を飛行するものなので、不安にもなりましたね」
 


施設内でドローンを操作する齋藤さん。その大きさは幅約2m、高さ90cmというから驚きだ


ドローンの操作は専用のコントローラーで。GPS機能を搭載したものは、「飛行中は比較的安定して操作できる」そう

操作訓練や支援センター運用に係る業務はもちろんのこと、原子力事業者の災害対策要員への講師としても活躍している。
 
齋藤さん「私たちは緊急時に備えるとともに、全国にある電力会社の原子力発電所で働く社員の方々に資機材の操作方法などを教えることも重要な仕事です。ドローンの操作訓練でいえば、本格運用開始後に64名もの人たちが支援センターで訓練を受けました。操作は簡単ではないので、訓練後も、継続的に操作技能を維持することが非常に重要となります」
 


「原子力事業者要員の方々に、資機材の操作方法などを的確に伝えられるよう、日々勉強をしています」

災害対応を担う仕事で一番気に掛けていることは何かを尋ねてみると、特に意識しているのは「いつでも出動できる状態にしておくこと」だという。
 
齋藤さん「災害が発生すればいつでも出動し、対応できるようにする。これが私たちの使命。特にUAVチームは、まっさきに現場へと向かい、状況を把握して伝える、災害支援の先導役です。この重要な役割を確実に果たすため、普段から常に災害発生時を想定して資機材や車両の維持管理、操作技能の維持・向上に努めています。その際も常に安全かつ迅速に行動することを肝に銘じています」
 


万が一の災害時には車両内部からドローンやロボット、無線重機を操作し、現場での対応を行う

さらにUAVチームでは、災害発生時での行動をより具体的にイメージし、危機意識を高めているという。
 
齋藤さん「万が一原子力発電所で災害が起こった場合、機体に搭載したカメラを頼りに状況を把握していかなければなりません。ドローンは飛行するものであり、天候や現場の状況に左右されるため、想定どおりに偵察できないことも考えられます。そういった多くのリスクを頭に入れ、自分たちの役割を果たすべく、危機意識を常に持って訓練に励み、業務にあたっています」
 


ドローンなどの機体は入念に定期点検を行い、万が一の事態に備えている

プライドを胸に技術と精神を高め続けたい

 
災害対策用のUAVチームというのも珍しいが、さらに美浜原子力緊急事態支援センターは原子力災害対応を専門とする支援組織だ。ここで働くうえでは、各種資機材の熟達した操作技術と、「災害時にどのように行動すべきか」を常に考える危機意識と判断力が求められる。それだけに、普段の業務に対しても大きな“誇り”を感じているという。
 
齋藤さん「センター設立当初から携わっていることもあり、この組織に愛着を非常に感じています。自分たちの組織に誇りを持ち、これからも原子力災害時における対応力を一層高めていきたいと思っています」
 


「支援センターは発足したばかりなので、今後もしっかりと訓練を重ね、さらに操作技能を高めていきたいです」

常に緊張感が求められる職場環境の中で、日々の仕事に勤しむ齋藤さんだが、リフレッシュはどのようにしているのだろう。
 
齋藤さん「個人的な趣味は、航空自衛隊の機体を撮影すること。特に戦闘機が好きなんです。飛んでいる姿は本当にカッコいい。だからなのか、ドローンも最初から好きになれたんですよね!休日になると、1歳の子供と外出したり近所の公園で遊んだりするのが何よりの楽しみです」
 
美浜原子力緊急事態支援センターの一員として、また災害対応の空のスペシャリストとして、これからも誇りと気概を持って業務に取り組み続けてくれることだろう。
 


飽くなき向上心と安全への高い意識を併せ持つ齋藤さんの今後に期待したい

★齋藤陽平さんプロフィール
年齢 
31歳
身長・体重・血液型
170cm・62kg・A型
趣味
航空自衛隊の機体の撮影・関連グッズ集め、子供と遊ぶこと
好きな食べ物
肉、焼きそば
好きな映画
となりのトトロ、もののけ姫