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【近藤教授が解説!】電池の中で何が起きている?~ためられない電気~

2019.05.20

普段の生活の中で「言われてみれば…たしかに何で?」と感じる疑問を、その道のプロに解決してもらおう!今回は、毎日みなさんが使っているスマートフォンの命とも言える「電池」の疑問を、第1回に続き、早稲田大学の近藤圭一郎教授に聞きました。日常の疑問に、答えて先生!


電池の中に電気は入っていない!?

スマートフォンやノートパソコン、デジタルカメラに電動歯ブラシなど、いろいろなところで使う電池。最近の機種では取り外せなくなりましたが、今手に持っているスマートフォンの中にも入っています。使っていると、あの中に「電気」が入っていると思いがちですが、厳密にはそうではないのです。

近藤「前回もお話ししましたが、電気は、潜在的に何かの仕事ができるポテンシャルを持った状態、言い換えると『エネルギー』です。電気エネルギーは、他の熱エネルギーや運動エネルギーなどさまざまなエネルギーに変換して、使いやすいという特徴があるのですが、同時に、ためておくことができないという特徴があります(第1回参照)。では、何で電池につなぐと電気が使えるのかというと、電気エネルギーを一度、化学的なエネルギーに変換して蓄えているからです」

例えば、多くのスマートフォンに使われているリチウムイオン電池。充電して繰り返し使える「蓄電池」の一つですが、この中ではどのようなことが起こっているのでしょうか。

近藤「リチウムイオン電池の中には、『電解液』という液体が入っています。これにプラス極とマイナス極を入れて、プラス極に電流を流し込みます。このとき、プラス極にあるリチウムという物質がイオンの形になってマイナス極に移動します。すると、マイナス極にリチウムイオンが蓄えられる。これこそ電池が『充電』された状態です。電流として流した電気のエネルギーは、プラス極でリチウムをイオンにすることに費やされるので、ここで電気エネルギーが化学エネルギーに変わるのです。この状態で、プラス極から電流を外に取り出すのが『放電』です。このときは前述した充電とは逆のメカニズムで、マイナス極からプラス極にリチウムイオンが移動し、化学エネルギーが電気エネルギーとして外部に取り出されます」

充電すればイオンの状態から元に戻れるのが蓄電池で、一度電気を放出してしまったら再び元には戻れないのが乾電池。電池としての基本的な造りは同じであり、中に入っている物質の種類が違うため、性質が変わってくるのだそうです。電池は、電気エネルギーを中に入れることで化学エネルギー(リチウムイオン電池ならばリチウムイオン等の形)としてため、逆の作用で電気エネルギーを放出できる。つまり、エネルギーの形を変換して蓄えられるものなんです。

ちなみに、冒頭マンガの「液漏れ」。いろいろな原因がありますが、電池内部に異常発生したガスを安全に抜くための動作として、電池の構造として備わっているものです。

超巨大電池を作ったらどうなる?

勝手なイメージですが、1人暮らしくらいであれば、1日の生活で、最低限使う電気は照明とテレビ、スマホ、冷蔵庫くらい。大きな電池を作れば1人が消費する量1日分くらいなら、まかなえそうな気がしませんか?

近藤「普通の電池と同じように、大きな電池にためれば、おぎなうことはできます。実際に、100万円以上するものの、家庭用の大型蓄電池というものが販売されています。蓄電容量がフル充電でだいたい7000ワット(W)を1時間、350ワットなら20時間使い続けられるというようなものです。でも、冷蔵庫は1時間で200~300ワットくらい使われ続けることもあります。そうすると、100万円の電池を買ってきても冷蔵庫が1日ほどしか使えないとなると、現実的ではないですよね。しかも、何らかの方法で毎日充電しなければならない。そう考えると、持ち運ぶ・電源が無い場所で使うといった別の価値がない限り、電気を日常的に電池にためながら使うことは、あまり得策ではないのかもしれません」

電気はやっぱり、ためられない!

電池は、本当に便利です。ですが、電気の特性を理解すると、電池はあらゆる場面で使えるほど万能ではないようです。

近藤「前提として、電池に電気をためるには化学的なエネルギーに変える必要があります。だから電気をためて使うのは、あまり得策ではないと言いました。ですが、今私たちが持っているスマートフォンは、電池にエネルギーをためて使わざるを得ない事例です。出た当初は、電池が全然もちませんでしたが、今では待ち受けだけであれば2~3日は充電しなくても大丈夫ですよね。当時は連続通話時間なんかも重要な訴求ポイントでしたが、今はもうほとんどの機種が十分な性能を備えているため、誰も気にしていないと思います。これは、ひとえに電池の性能が上がったおかげです」

スマートフォンは、電池によって“電気を携帯”できます。電気エネルギーを別の形にしてためることで、全く新しい価値が生まれるのであればためてもいい。これは私たち、電気を使う側の要望とためる側の技術次第ということだそうです。

近藤「スマートフォンやPCなどをコンセントにつないで充電していると、きっと『電気がたまっている』と考えてしまうでしょう。ですが、絶対に『電気はためられない』んです。わざわざ一度、別の形に変換してためて、使う際に再度電気にしている。つまり、スマートフォンは電気エネルギーではなく、化学エネルギーを持ち運んでいるということですね」

次回は【 電気が便利な理由 】のお話です。


取材協力・監修

近藤圭一郎

1968年、東京都出身。早稲田大学理工学術院教授。同大電動モビリティシステム研究室にて、電気鉄道や電気自動車を用いた電気エネルギーの有効利用技術を研究。編著書『鉄道車両技術入門』(オーム社)、監修書『ドラえもん化学ワールド 電気の不思議』(小学館)など。