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【近藤教授が解説!】電気は作ってすぐ使うのが一番いい!

2019.07.03

普段の生活の中で「言われてみれば…たしかに何で?」と感じる疑問を、その道のプロに解決してもらおう!今回は、日々何かとお世話になっている電気が、世の中でどうしてこんなにも使われているのか。その疑問を、前回に続き、早稲田大学の近藤圭一郎教授に聞きました。日常の疑問に、答えて先生!


“貯電”はできない!お金に例える電気の考え方

電気は、そのままの形でためることはできないものの、さまざまなエネルギーに形を変えやすく、その形でならためることができる。第1回第2回で教えてもらった電気の特性を考えると、確かに広く使われているのは何となく理解できます。では、いろいろな形に変えられる電気を、一番効率的に使うにはどうしたらいいのでしょうか。

近藤「電気は熱、光、化学、運動といったさまざまなエネルギーに変えやすいのですが、変換する際には必ずコスト(ロス)がかかります。例えば海外旅行に行くとき、日本円を外国の通貨に両替すると、必ず手数料がかかりますよね。エネルギーも同じで、変換すると、必ず無駄なコストがかかるんです」

モータを使って、電気エネルギーを運動(機械)エネルギーに変えるとき、変換効率はおよそ90%とされています。これは、電気エネルギー100%のうち、90%は狙い通りの運動エネルギーになりますが、10%は熱エネルギーといった狙ったものとは違う不要な形に変換されてしまうということです。

近藤「もし、日本円だけが、入手した翌日には無価値になってしまう世界があったとしましょう。そうなればきっと、その日中に使ってしまうか、どうしてもためておきたいときは一番手数料が少ない外貨に変えるのではないでしょうか。電気もそれと同じなんです。毎日つくって、毎日使う。ためる必要がある場合だけ必要最小限だけためる。これが一番効率的なんです」

 

電気を悩ませる使用量の山と谷

そうなると、「使う分だけつくり続ければいい」と思うのではないでしょうか。答えは、その通り。ですが、実行するのはかなり難しいことのようです。

近藤「電気をつくるとき、多くても、少なくても問題が発生します(→詳しくはこちら)。それに、1日中同じくらい使われるならつくりやすいでしょうが、実際は必ず使用量に山と谷が発生するんです。そのため、一番使われる瞬間でも足りるよう、山となるピーク時に合わせて発電設備などを用意しておかなければなりません。電気が使われない時間帯には無駄なように思えますが、それらがないとピーク時に停電してしまうんです」


出典:一般社団法人 原子力文化財団 エネ百科「【1-2-10】 最大電力発生日における1日の電気の使われ方の推移」より作成

自分の生活を考えても分かるように、電気は深夜から朝にかけてあまり使われず、昼から夕方にかけて使用量が増えていきます。ですが、1日の消費電力を平均すると、ピーク時の使用量よりもずっと少なくなるんです。それなら、余った電気をどこか別の国や地域に送れないのでしょうか。

近藤「確かに他の国に売ったり、融通したりすれば、無駄は少なくなりますね。しかも電気は、地球上で一番速いとされる光と同じスピード。送るのも一瞬です。でも、電気をそのままの形で送るには、日本とその国の間を電線でつなげなければなりません」

世界的に見れば、欧州諸国では電線のネットワークがありますが、島国である日本は、海外の国々と電線がつながっていません。

近藤「余った電気は、ためられないし、送れないとなれば、使う量を予測・計画してつくり、すぐ使うしかないですよね」

 

電気が時代に選ばれた最大の強み

人類の歴史の中で、古くは、ガスの燃焼で明かりをともすガス灯や、石炭を燃焼させて走る汽車などが徐々に登場してきました。これらも、燃焼により発生するエネルギーを使って生活を便利にしてくれていましたが、時代が進むにつれ、その多くが電気をエネルギーとしたものに代わっています。

近藤「歴史的に考えれば、現代社会と一番相性が良かったということでしょう。電気は、別の形に変えやすく、送りやすい。運動エネルギーに変えて利用する洗濯機や、熱交換によって冷却できる冷蔵庫といった生活家電も、まさに電気があってこその代物です。時代の変化によって生まれてきたこれらの生活必需品が発達していく過程で、エネルギーとして一番扱いやすかったんです。だから電気は広く使われるようになったんでしょうね」

さまざまなエネルギーに変換することができ、扱いやすい電気。でも、よく考えれば電気自体が何かをしてくれるわけではありません。それ自体に価値はないのにいろいろなものに換えられる、そんなところもお金と似ているとも言えるかもしれません。

とはいえ、ためられないので、使う分だけつくり続けなくてはいけないところは、電気の方が手間がかかりますね。

近藤「そういう意味では、とても扱いが難しいところがあるエネルギーかもしれませんね。でも、それらを大きく上回るほどの価値がある。それが電気なんです」

 


取材協力・監修

近藤圭一郎

1968年、東京都出身。早稲田大学理工学術院教授。同大電動モビリティシステム研究室にて、電気鉄道や電気自動車を用いた電気エネルギーの有効利用技術を研究。編著書『鉄道車両技術入門』(オーム社)、監修書『ドラえもん化学ワールド 電気の不思議』(小学館)など。