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「道産子として、地元で頼られるような一人前になりたい」北海道電力・室谷司さん

2020.03.30

【今月の密着人】北海道電力株式会社 送配電カンパニー 倶知安ネットワークセンター 配電課 室谷司(むろやつかさ)さん(24歳)

道を歩けば当たり前のようにある電柱。私たちのもとへ確実に電気が届くよう、その一本一本が人の手によって管理されている。冬には一面が雪に覆われる北海道も例外ではない。電柱に積もった雪で設備が故障しないよう、「冠雪(かんせつ)落とし」という作業が人知れず行われているのだ。今年からその作業を担う北海道電力の室谷司さんに密着しながら、“配電”という仕事に対する思いを聞いた。


町に電気を届けるため電柱に積もった雪と格闘

2020年1月、世界有数のスキーリゾート・ニセコ町のお隣、倶知安(くっちゃん)町には、暖冬にもかかわらずきれいな雪景色が広がっていた。

北海道の中でも指折りの豪雪地帯にある北海道電力 倶知安ネットワークセンターの室谷司さんを訪ねると、ちょうど作業車に荷物を積み込んでいるところだった。今日は倶知安ネットワークセンターの冬の恒例となっている作業、「冠雪落とし」の日だ。


車両に荷物を積み込む室谷さん。冠雪落としとは、電柱上部に積もった雪を落とす設備保全作業。放っておくと停電などのトラブルにつながるため、雪深い地域では欠かせない

室谷さんは現在入社3年目。2019年に前任地の夕張郡栗山町から倶知安町に転勤になったばかりで、普段は新しく建つ家やビルに電気を引き込むための工事設計などを担当している。初めて迎える倶知安町での冬、冠雪落としは今回が初めてだという。

そんな室谷さんが電力業界に興味を持ったのは、電気に関わる仕事をしていた父親の影響だった。

室谷「父は『電材』といって、いわゆる電線や制御盤などの電気材料を扱う店を経営していました。幼いころから電気の資材や機材が身近にあったので、いつからか北海道の電力を支える仕事に就きたいと思うようになったんです。大学では電気科で、主に発電機のことを学んでいました」

大学の専攻の関係から入社するときには、発電所勤務を希望していたそうだが、実際に配属されたのは配電課だった。


室谷さんは北海道出身。「道産子として、地元に貢献したい」と、さわやかな笑顔の中にも熱意を感じさせる

室谷「正直なところ、配電課は第3希望ぐらいでした(笑)。もちろん今ではこの仕事が大好きですよ! 配電課は、技術系の中では最もお客さまと接する機会の多い部署ですから」

配電課の仕事は、電力供給の最前線でライフラインを支えることにつきる。実際に利用者のもとへ足を運び、顔を合わせながら仕事を進めていく。「一番お客さまの目につくのが配電課。お客さまにとっては北海道電力=僕たちなんです」と誇らしげに付け加える。

室谷「お客さまのお宅などで何かトラブルが起きたときや、ご要望があった際には真っ先に駆けつけます。なので、そんなときでも失礼にならないように、常にワイシャツにネクタイを締めて仕事をしているんです。これは、新入社員だったときに仕事を叩き込んでくれた、上司の教えなんですよ」


冠雪落としでは、普段人が入らないような山道を歩く。雪が1メートル以上積もっているため、体が沈まないようスキー板を履いてクロスカントリーのように進む


足跡など全くない真っ白な雪の中を電線に沿って山の中へ

復旧作業に奔走した北海道胆振東部地震で成長

職場の上司や先輩の教えを守りながら、日々の職務に当たっている室谷さん。配電業務を担う社員として大きく成長させたのが、2018年9月に発生した北海道胆振(いぶり)東部地震だった。

室谷「実は台風21号が北海道に接近していたので、地震が起きる前日から職場に待機していたんです。だからすぐに動き出すことはできました。配電設備の修理ばかりか、電線に引っかかった倒木の処理など、設備の復旧に向けて何でもやりました。とにかくいち早く復旧できるようにと必死でしたね」


「先頭を歩くと、新雪をかき分けて進まないといけないので、かなり大変でした」

台風と地震のダブルパンチの被害状況の中でなんとか進めた復旧作業。関係者が総力を挙げて尽力した結果、2日間という早さで約99%の停電が解消した。しかし、それはあくまで仮の復旧だったという。

室谷「停電の解消を最優先する仮復旧という段階があって、まずは応急処置で電気を使えるようにするんです。その後に本復旧を進めていくのですが、結果的には地震があった9月から12月ごろまで復旧工事を続けていたんですよ」


雪山を歩きながら、電柱を一本一本確認していく。10キログラム弱の装備を身に着けているため、かなりの重労働だ

地震が起きたときは、まだ入社してから1年半ほど。思うようにいかず、悔しい思いもした。

室谷「一番心に残っているのは、お客さまから掛けていただいた言葉でしょうか。復旧が少しずつ進んできたときの『ありがとう』という言葉や、反対に『あっちは電気がついているのに、なんでこっちはダメなのか』とお叱りの言葉をいただく中で、嬉しさとか悔しさとかが入り混じり、正直、精神的に厳しい状況でした……。でも、なんとか乗り越えられたことで、一回り成長できたような気がします」


配電課としては3年目なので、電柱を登るのは慣れたもの。様々な装備を身に着けていても、スイスイと登れる

自分の強みを見つけて一人前になりたい

真面目で誠実。そんな言葉が似合う室谷さん。配電業務を担う社員として一人前になるため、日々の勉強は欠かさない。

というのも最近、急速に発展しているスキーリゾート・ニセコ町の工事設計を手掛けているのが理由の一つだという。

室谷「ニセコ町は外国人が急速に増えていて、別荘やホテルなども次々に建っています。このエリアは電線が地中化されているため、これまでとは勝手が全然違うんですよ。未経験な部分が多いので、今は徹底的に勉強しているところです」


積極的に学ぼうとする姿勢に、先輩たちも室谷さんに好感を抱いているそう

そして、忘れてはならない冠雪落としも、室谷さんの新しい仕事の一つだ。初めての作業日は、暖冬の影響からか電柱に雪が積もっていなかったが、実際に雪山に分け入り、電柱に登って設備の点検を行った。

室谷「スキー板を履いて歩くこと自体が初めてだったので、終わった後は、もう足がパンパンです(笑)。でも、これも電気を届けるための大切な作業。なんとかモノにしたいと思います」


住宅街の電柱と違い、山肌に建っている電柱は比較するものがないため、より高さを感じる

その後の2月中旬。ひと月前の冬晴れがうそのように、倶知安町は深い雪に覆われた。室谷さんは、初めての冠雪落としの作業を行った。

室谷「電柱に登ってみると遠目で見るよりも冠雪が大きく、雪質も想像以上に硬くなっていたため、絶縁スコップが入りづらく苦戦しました。また、落とした雪が自分の方に落ちてきて、顔が雪まみれになることもありましたが、慣れてくるにつれコツもわかってきて、安全作業と設備に損傷を与えないことを第一に、雪を細かく分けて、無事に落としきることができました」


2020年2月に行われた冠雪落とし。電柱の上にたくさん積もった雪を落としていく

この3年間は、十二分に濃い時間を過ごしてきたことは間違いない。それでも、室谷さんは貪欲だ。もっと経験を積んでいきたいと熱い思いを語る。

室谷「未体験の業務は、まだまだたくさんあるんです。電線の地中化もその一つですし、緊急事態に対応する仕事もあります。まずは、その全てを経験してみたい。そこから自分の得意なことを見つけて伸ばしていきたいと思っています」


最近、必要性を感じているのが英語。ニセコ町に増えている外国人は、電柱の存在自体を知らないことも少なくなく、利用者とコミュニケーション取らなければならない業務では苦労しているとか

これまでに出会ってきた先輩は、特定の業務でスペシャリストとして活躍している人が多かったという。

室谷「そういった頼りがいのある存在になりたい。それが、結果として当社に対するお客さまからの信頼につながっていくと信じています。『北海道電力なら安心・安全だね』と思ってもらえるように、これからも精進していきたいです」