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EV&PHVをもっと乗りやすく! 全国を充電ネットワークでつなげる未来のためのお仕事

2021.02.18

【今月の密着人】e-Mobility Power 企画部 アシスタントマネージャー 伏見允秀さん(35歳)

脱炭素化に向けた世界的な動きを背景に、自動車においては電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド自動車(PHV・PHEV)へのシフトが進んでいる。それに伴い、EV・PHV用充電器の整備が急務となっており、全国への普及を担う「株式会社e-Mobility Power」(以下、イーモビリティパワー)の社員は今、多忙を極めているという。同社企画部の伏見允秀(ふしみ・みつひで)さんがこの一年進めてきた仕事は、そんな未来のための土台作り。今後、“普通の景色”になる自動車用充電器、その裏方のお仕事とは?


始まりは新会社への出向。一人、静岡から上京

イーモビリティパワー01

世界はいま、脱炭素化に向けた転換期。日本も例外ではなく、2020年10月には、政府は2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュ—トラル」を宣言。その要として期待されているのが、次世代モビリティである電気自動車(以下、EV)やプラグインハイブリッド自動車(以下、PHV)だ。

東京電力ホールディングスと中部電力が共同出資するイーモビリティパワーは、EV・PHV普及の鍵を握る「充電インフラ」を整えるために2019年に設立された新会社。立ち上げにあたり、両社から約20人が出向した。その内の一人が、当時、中部電力の配電部門に勤めていた伏見允秀さんだった。

伏見「もともと地元・静岡県で約10年間、配電設備の設計やご家庭の電気供給の検討などを担当していました。確かに電気を扱うことは変わりませんが、電力会社とEV・PHV関連の会社とでは仕事がまったく違います。正直、出向が決まったときは驚きました。ずっと作業服しか着たことがなかったので、今スーツで出勤していることが、とても新鮮です」

イーモビリティパワーで伏見さんに任された主な仕事は、“充電器の設置ルールを確立する”こと。しかし、立ち上げ直後の会社だけに、「充電インフラを整える」という目的以外、その方法は特に決まっていなかった。例えるなら、公務員から立ち上げられたばかりのベンチャーに転職したようなもので、伏見さんにとって環境変化はすさまじかった。

伏見「これまでの仕事は、規定に則って粛々と行っていくもの。それが、いきなり規定そのものを作る側に回ることになったわけですから、戸惑いしかありませんでした。人数も少ないので、企画部所属と言いながらも、既存の充電器のリサーチなどの業務に加えて営業や総務の範囲まで、とにかくどんな仕事でもやりました」

実は、伏見さんは当初、EV・PHVに一度も乗ったことがなかったという。同様の社員も少なくなく、「まずは乗ってみる」ところからが事業のスタートだったとか。実際に街中を走り、充電してみると、EV・PHVの現在地と、ユーザーが直面している課題点が浮き彫りになってきた。

 

膨大な調査データから充電器の最適配置の基準を導き出せ!

イーモビリティパワー02

現在、日本の道路を走っている乗用のEV・PHVは30万台弱。全乗用車の数が約6000万台ということを考えると、200台に1台という割合だ。EV・PHVを街中で見掛けることはそう多くはないかもしれないが、一方で充電器を見たことがあるという人は少なくないだろう。

それもそのはずで、高速道路のSA・PA、ショッピングモールの駐車場などに、全国で約2万5000基が設置されており、人口カバー率(※)は既に93%を超えている。伏見さんも実際にEVで走行したときには、充電できる場所が思いのほかたくさんあることに驚いたという。それでは、一体、何が問題だというのだろうか。

※日本全国の可住地域において、10キロメートル四方で急速充電器が整備されている地域の割合

伏見「問題はとても複合的で、まずは必ずしも最適な場所に充電器が設置されているわけではないことでしょう。2014年~2015年にかけて国から大きな助成もあり、一気に充電器が設置されました。それにより、高速道路、道の駅、コンビニなど、移動の自由を確保する上で重要度が高い場所にインフラが整備されました。一方で、そのときは、限られた期間内で設置しなければならなかったため、設置場所が十分に確保できず、ユーザー目線の『ここにあったらいいのに…』という場所をカバーできていないケースも散見されます。これでは、道によって目的地にたどり着けない場合も出てしまいます。そうした、まだ課題がある充電インフラを整えていくことが私たちの使命であり、急務なんです」

そしてもう一つの大きな問題が、充電器の耐用年数だ。充電器の寿命は8~10年程度とされ、2014年ごろをスタートとすると、何もしなければ1~3年以内に日本にあるほとんどの充電器が寿命を迎えることになる。

伏見「もちろん、寿命だからといってすぐに使えなくなるわけではなく、使用頻度や設置環境によっても変わります。しかし、初期に設置された充電器は、今となっては出力が小さいので、最近のEV・PHVの電池性能を考えるとスペックを高める必要があります。それらを適切なタイミングかつ適切な場所にリプレースしていくことが必要なんです」

また、どんな充電器を設置するのが将来的に適切なのかというのも重要な要素になる。というのは、一口に充電器といっても設置場所によって求められる充電スピードが異なるからだ。

高速道路のSA・PAであれば行列を作らない時間で充電できる急速充電器がいいだろうし、宿泊施設などであれば夜の間にゆっくり充電できるものでサービスとしては十分足りる。

伏見「こうした課題やニーズは、机上だけでは見えない部分も多く、現地に行って分かったことも少なくありません。設置場所を実際に見たり、細かなデータをひたすら打ち込んだりと、地道にコツコツデータを積み重ねていきました。とにかく一歩ずつでも前に進まないといけないことは分かっていましたし、ゴールはあるので、つらくはありませんでしたね」

こうして集めた調査データは、利用実績や周辺の人口・世帯数、移動時間、移動距離など多岐にわたる。さまざまなデータを掛け合わせ、精査することで、伏見さんはチームでの検討を重ね、ようやく充電器の設置場所の目安となる“基準を創る”ことに成功した。

 

設置基準に基づいてイーモビリティパワー充電器第1号が始動

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会社設立から約1年。伏見さんが形にした最適配置の基準に沿って、充電器を設置してくれるパートナー企業を見つけるべく営業活動が進められた。目標として掲げたのは、7000口ある既存の急速充電器を、2025年までに倍の1万4000口にすること。今後EV・PHVの普及率も伸びていくことを考えると、それだけの数が必要だという判断だ。

やっとの思いで創った基準が会社に採用されたという喜びも束の間、伏見さん自身も営業の外回りに同行するなど、相変わらず忙しい日々を送っているという。

伏見「まだ一人で営業に回れているわけではありませんが、自分のできることは何でもしていきたいです」

そしてついに、イーモビリティパワーとして第1基目となる充電器の設置が完了した。

伏見「ホームセンターの株式会社カインズ様と包括的な契約を結ぶことができ、2020年11月にカインズ朝霞店で当社として1台目が稼働し始めました。設置したのは、1基で2口の充電ポートを持つ海外メーカーの充電器。日本では初導入の機器となるので、今後はどのように使われているのか、お客さまのニーズに合っているのか、トラブルが起こらないかなどさまざまな観点を見ながら、サポートしていきたいと思っています」

これを皮切りに全国の店舗で導入が進められるほか、他パートナー企業の店舗などでの設置も決定しており、2025年までに1万4000口という目標に向かって邁進していく予定だ。

伏見「営業活動で難しいのは、まだEV・PHVの普及が誰もが実感できるほど進んでいるわけではないため、共感が得られにくい点です。充電器の設置はお店の集客にもつながるといった魅力もあるのですが、現在のようなコロナ禍では、それもなかなか響きにくい。また、たとえパートナー企業様が見つかっても、その企業様が希望する設置店舗と、私たちの設置方針とがマッチしないこともあります。私たちは必要な場所に必要な数を設置することが目標。丁寧に理由を説明して、調整しています」

それでも、大きな視点で見れば、今は追い風が吹いているという。

伏見「環境保全や災害対策への社会的意義があると捉えてくださる企業様が増えており、協業したいと声を上げてくださる方々が増えてきています。充電器は、EV・PHVの普及のためには欠かせないインフラです。その使命には、やりがいをとても感じますし、共感してくださる方たちからはエネルギーをもらっています」

新会社への合流、そして充電器の設置基準や計画をまとめた2020年。年が明けた今年は、これまでEV・PHV普及をけん引してきた合同会社日本充電サービスの事業を引き継ぎ、さらなる事業拡大を見込み、実際に充電器を設置し、ネットワークをつなげていくことがメインとなる。

営業範囲が全国なだけに、北海道から沖縄まで日本中の設置工事事業者とのパイプ作りもこれから必要だ。ただ、充電器の設置は電気工事。配電で培ってきた知識と経験を生かせる場面も増えてくるのではと、伏見さんはやる気に満ちあふれている。

伏見「正直、自分の性格的には配電の仕事の方が合っていると未だに思う部分はあるのですが、反面、とてもいい勉強をさせてもらっているなとも思っています。特に今はお話させていただく企業様がどういう状態にあるのかを把握しなければならないので、経済ニュースをチェックするなど、昔と比べて視野が広がりました。一人前のビジネスマンとしてスキルを高めて、もっと成長していきたいです」

イーモビリティパワー伏見允秀

イーモビリティパワー充電器