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離島の電気を再エネ100%に! 台風を避ける風力発電所を作った沖縄電力の挑戦

2022.11.10

波照間島風力発電01

沖縄電力株式会社 離島カンパニー 離島事業部 離島技術グループ 副主任 平良 亮(34歳)

沖縄県には、島内で電気を作り、島民に電気を届けなければならない10の離島があります。その一つである波照間島(はてるまじま)で沖縄電力が沖縄県の実証事業で実現したのが、再生可能エネルギーで島内の電力を100%まかなうプロジェクト。このプロジェクトを担当した沖縄電力の平良 亮さんに、実現に至るまでの背景と離島の電力事業に掛ける想いを聞きました。


波照間島の電力が再エネ100%になった日

波照間島風力発電02

沖縄本島から約460キロメートル離れた日本最南端の有人離島・波照間島。人口500人ほどの島を舞台に2020年11月27日から12月7日にかけて、世界のエネルギー事情に変化をもたらす可能性を秘めたプロジェクトが成功しました。それは、風力発電設備由来の電気だけで、10日もの間、波照間島内で必要な電力を100%まかなったこと。

「社内は大喜びだった」と話すのは、このプロジェクトに携わった沖縄電力の平良さん。当時の波照間島での成功を、こう振り返ります。

平良さん「正直、島の方々からは、特に反響といった反響はなかったんです。風力発電設備自体はもう10年以上動いているので、もしかしたらずっと前から100%だと思っていたのかもしれません。でも、それくらい島の暮らしに影響が出ない、しっかりとした運用ができたのだと感じています」

このプロジェクトは、元々あった風力発電設備と蓄電池に、MG(Motor Generator)セットを設置したところからスタートしました。

MGセットとは、電気で動くモーターによって発電機を回す発電システムのこと。強い風が吹けば風力発電設備からの発電量は多くなります。しかし島の電力需要に対しその発電量が多くなり過ぎると、離島の電力供給の主となっているディーゼル発電機側の制約のために風車の出力を抑えなければならない場面もあるなど、もっと風力発電を活用する方法はないものかと考えたのが原点でした。

平良さん「やはり再生可能エネルギー(以下、再エネ)の電源は、他の発電設備に比べて天候によって左右されてしまう不安定なもの。従来は、その不足分をディーゼル発電機で補っていましたが、そこに風力発電でつくり過ぎた電気をためられる蓄電池と、その電気で発電できるMGセットを導入することで、再エネ由来100%の電気を形にできたんです」

プロジェクトは2017年から開始され、2018年に1時間47分、その後実証を繰り返して2020年に約10日間を記録。

平良さん「MGセットはディーゼル発電設備と違い出力を0キロワットにもできます。そのためディーゼル発電設備の運用をMGセットに置き替えることで、風が強ければ風力による発電量だけで電力の供給が行えます。また、MGセットから蓄電池に充電することも可能なため、風が弱くなって風力発電による発電量が十分に得られない時には、風が強過ぎて充電しておいた電気をMGセットから放電し、発電量を補います。そうすることで長い時間安定して再エネ由来100%での電力を島内に供給できるんです」

 

沖縄の離島で電力を安定供給する難しさ

波照間島風力発電02

海底ケーブルなどで沖縄本島と連系されていない波照間島を含む10離島は、そのすべての島で発電所を構えなければなりません。沖縄の離島で電力を安定供給するのは、殊のほか難しいと言います。

平良さん「各島の主要電源はディーゼル発電機になります。ただ、化石燃料の重油が燃料になるため、原油価格高騰の影響が大きく、さらに各島へ燃料を輸送する費用もかかり、結果的に燃料費も高くなる上、CO2(二酸化炭素)排出量の懸念もあります。そこで風力発電などの再エネの導入に力を入れてきました」

それから各島で風力発電設備は利用されてきましたが、台風によって羽が折れるなどの大きな設備被害が発生。そこで沖縄電力は、風に耐えるのではなく避ける方向にシフトしました。

平良さん「2009年に波照間島で国内初となる可倒式風車を導入しました。可倒式というのは、風車が立っている状態から90度近く倒せる風車のことで、現在では波照間島や南大東島など4つの島に計7機導入しています」

可倒式風車は、基本的に台風が接近したら、強風を避けるために倒されます。倒す時間は1時間もかからず、あの巨大な風車が地上へ近づいてくるさまは圧巻だそう。

平良さん「定期的なメンテナンスのためにも倒していて、地上で風車の目視点検ができるようになったのもメリットですね。とはいえ、台風による大きな被害がなくなったことが最も大きな変化です」

 

離島の生活を支える風力発電

波照間島風力発電04

10日間にわたる再エネ100%を実現した2基の風車には、2009年の設置当時に地元の小・中学生によって付けられたニックネームがあります。1号機が“波照間の力”を意味する『ベスマースィカラ』、2号機が地元の方言で“もったいない”を意味する『あったらさやー』。まさに波照間島の風を受け止める風車にぴったりな名前ではないでしょうか。

この2基とMGセットの仕組みに対して沖縄県庁からは、「多良間島(たらまじま)や粟国島(あぐにじま)など、波照間島と同じように再エネの出力が制限されているような小規模離島は他にもあります。知見を横展開できれば、そうした島々が抱える課題の解決が図れるはず」とコメントも。今後の進展に大きな期待を寄せています。

平良さん「今、波照間島でできたことを足掛かりとして、他の地域でもできるのか検討しているところです。さらに、当社のグループ会社では、沖縄で培った技術を海外展開していく動きもあります」

平良さんが所属する離島事業部は沖縄電力の中で唯一、カンパニー制を導入しています。発電から配電、電気使用などの受付や電気料金収納まで、離島の電気事業のすべてを一つの部署で担当するため、安定して電力を供給することはもちろん、赤字削減から温暖化対策まで幅広いことに取り組むチャレンジングな部署です。

平良さん「離島事業部は、離島の電力事業のすべてを担っており、とても面白い部署ですね。仕事にはやりがいを感じています。私たちの使命は電気を安定して供給すること。そして当社のコーポレートスローガンは『地域とともに、地域のために』です。まさに離島の電気事業はこの言葉通り。今後も、地域とともに、地域のために安定して電力を届けていく。それが私の役割です」

 

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波照間島風力発電08


■沖縄電力
https://www.okiden.co.jp/

■沖縄電力「再生可能エネルギーによる100%電力供給への挑戦」
https://www.okiden.co.jp/company/recruit/adoption_detail/project06.html