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「幸えび」を地元の特産品に! 関西電力が陸上養殖でエビを作る理由

2022.12.01

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【今月の密着人】関西電力株式会社 経営企画室 イノベーションラボ 山崎美緒(やまざきみお)さん(27歳)

季節や天候に左右されず、海を汚さないことから、次世代型養殖のスタンダードと目されている陸上養殖。この技術を用いてブランドエビ「幸えび」(ゆきえび)を生産しているのが関西電力発のスタートアップ企業です。「食も大切なインフラの一つ。未来を担う幸えびを、もっと多くの方々に知ってもらいたいです」と、目を輝かせる関西電力の山崎美緒さん。経理から広報、営業まで、子会社の幅広い業務支援をパワフルにこなす彼女に密着しました。


燃料調達からエビの養殖へ。未経験の舞台に立候補

やってきたのは、静岡県西部の磐田市。広大な田園地帯の中にある、関西電力発のスタートアップ企業「海幸(かいこう)ゆきのや合同会社」(以下、ゆきのや)です。ここでは、水産業が抱える課題を解決し、社会に貢献するべく、エビの陸上養殖に取り組んでいます。

関西電力 経営企画室 イノベーションラボの山崎美緒さんは、そんな「ゆきのや」を支援するのが仕事。ここで生産されているブランドエビ「幸えび」を広めるために、関西電力の立場から、広報や営業、さらには経理業務の支援など、さまざまな仕事を担っています。

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出迎えてくれた山崎さん。ゆきのやのロゴは、エビの形をイメージ

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養殖場は東京ドーム1個分の広さ。年間80トンのエビが生産される

山崎さん「『幸えび』は、バナメイエビという種類です。食用として一般的なエビで、身が柔らかく、甘みが強いのが特徴ですが、幸えびは循環型のクリーンなプールで薬品などを使わずに育てているので安心安全。人工波によって運動を促していて、身が締まっていてプリプリの食感が楽しめますよ」

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幸えびは用途によって使い分けられる6サイズ(SS〜3L)。身は雪を思わせるような透明感のある白さ

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熱を入れると鮮やかな赤色に。大きさがそろっているのも養殖ならでは

詳しく幸えびの説明をしてくれる山崎さんですが、ゆきのやとの関わりはまだ半年ほど。その前は、関西電力で発電に必要な燃料を調達する仕事に従事していました。

山崎さん「なるべく安く燃料を仕入れることで、会社のコストダウンに貢献することが主なミッション。とてもやりがいのある仕事ですが、規模が大きいため、自分が本当に貢献できているかがあまり実感できない、というのが悩みでした。それで、もっとお客さまの身近で顔が見える仕事がしたいと思うようになったんです」

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オンライン販売している冷凍の幸えび。他にもシェフ監修の加工品なども商品化されている

そこで思い出したのが、山崎さんが関西電力を志望するきっかけとなった、“事業領域の幅広さ”でした。関西電力はエネルギー事業以外でも社会に貢献していくため、社会の多様な課題に向き合う新規ビジネスに積極的に取り組んでいます。それらを担っているのが、山崎さんが現在所属するイノベーションラボです。

がん患者向けのカトラリー「猫舌堂」や、歩く速度で自走するモビリティ「iino」など、エビの養殖以外にも社外・社内ベンチャーを創出し、サポートしています。「ここなら、お客さまと近い距離で仕事ができる」——。そう考え、山崎さんはイノベーションラボに立候補したのです。

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「事業領域の幅広さはインターンのときに知り、実はずっと興味があったんです」

山崎さん「いくつかのチームを兼任していますが、中でもメインで担当しているのが、ゆきのやの事業支援です。食の分野は未経験でしたから、担当が決まった当時は、ワクワクと不安が半分ずつありました。でも今は毎日がとても充実しています。ベンチャーだけあって物事が進むのがとてもスピーディーなんです」

 

社内システムも営業も、独学でパワフルにチャレンジ

山崎さんが着任したのは、約半年前。養殖場が完成し、本格的な稼働を数カ月後に控えたタイミングでした。「本格稼働の前後となるここからの半年間は“とにかく濃い日々”」。特に大変だったのが、業務環境を整えることだったと言います。

というのも、これまでは稟議を通すにも判子が必要で、オンラインサイトの売上を決算に反映するのもすべて手作業。こうしたアナログな部分を効率化していくことが、最初の取り組みでした。

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水槽の水はろ過して循環しているため、海洋汚染を起こさずに養殖することができる

山崎さん「システムに詳しくはなかったので、先輩に聞いたり、他社の事例を調べたり、本を読んだり、社外のオンラインセミナーを聞いたりしながら進めました。必要なシステムの選定や、導入、ゆきのや社内メンバーへの周知と、今でも手探りの日々です」

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エビが泳ぐプールは傾斜があり、食べ残したエサなどを取り除ける仕組みに

その甲斐もあって、山崎さんの現在の1日は、SNS運用のミーティングや、お客さまとのさまざまな調整など、社内外とのやり取りでスケジュールが埋まっています。しかし、営業支援では、悔しい経験もしてきました。

山崎さん「幸えびを取り扱っていただく小売店と契約を交わすシーンでのことでした。契約書の条件交渉で、これでは承諾できないと返されてしまったのです。燃料調達の仕事で契約書の作成には慣れていたつもりでしたが、そもそも燃料はこちらが買う側、エビは買ってもらう側。立場が逆であるにも関わらず、こちらの業界理解が足りていなかったんです。最終的には契約していただくことができましたが、もっと勉強しなければと実感した出来事でした」

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緑色の人工海草がエビの住処となる

社内の働きやすさを改善することも、社外への営業活動も、すべて幸えびを広めるために必要なこと。だからこそ頑張れると山崎さんは言います。

山崎さん「今、世界的に天然の水産物が捕れないと言われている中で、養殖は今後も絶対に必要な技術です。ですが、いま主流の海面養殖では、エサや糞が海を汚してしまったり、マイクロプラスチックが魚に悪影響を与えたりするなどの課題もあるんです。その点、ゆきのやが取り組んでいる陸上養殖は、そういった問題をクリアした、次世代の養殖方法。そういう意味でも、幸えびを成功させることに意義があるし、だからこそ、もっともっと、たくさんの人に幸えびを届けたいんです」

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1分間隔で人工的な波を起こし、エビの運動を促進することでプリプリの身になる

 

得意分野を伸ばして食のインフラに貢献したい

時にはつまずきながらも、これまでほとんど独学でやってきた山崎さん。これまでの努力が実を結び、ようやく自分の成長や仕事の成果を実感し始めています。

山崎さん「一番の成果だと感じているのは、業務のシステム化を進め、効率化できたことです。それによって自分の業務もやりやすくなりましたが、ゆきのやで働く方々に『楽になった、ありがとう』と言っていただけることが何よりうれしいです。それに、SNS運用でも順調にフォロワー数を増やすことができています。これまでの取り組みが間違っていなかったと思うとうれしいですね」

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ゆきのやの社長を務める秋田亮さん(左)と。現場を知ることも大切にしている

そうした実感から、自信を持って仕事に取り組むことができるようにもなりました。

山崎さん「これまでは、まず先輩や上司に相談してから判断して、慎重に進めていました。最近では、自分で考えて“こうした方が良い”と思ったものは、責任を持ってまずはやってみよう、という進め方に変わりました。まだまだ未熟ですが、成果や反応がダイレクトに分かるので、やりがいにもつながっています」

関西電力は電力を支えるインフラ企業。あたりまえを守り、創る企業です。同じように、ゆきのやでは食のあたりまえを守り、創っていくことを目指しています。そこに向けて、まずは“知ってもらうこと”に力を入れていきたいと話します。

山崎さん「私事ですが、先日結婚式を挙げまして、披露宴の料理の中で幸えびを出してもらったんです。すると式場のシェフが『こんなエビがあったんだ!』と気に入ってくださって、縁起も良いしおいしいからと、取り扱ってくださることになったんです。そうやって知ってもらうことができれば、きっと気に入っていただけるはず。多くの方に幸えびを食べて幸せになってもらいたいです」
 

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「エビは国内消費量の内約9割が輸入頼み。国産化していくことで、輸送にかかるコストやCO2の削減にもつながります」

最後に、山崎さんが思い描く、幸えびと山崎さん自身の未来について聞きました。

山崎さん「陸上養殖で国産の水産物を作っていくことは、日本の将来のためにも絶対に必要なもの。幸えびをきっかけにそのことも知ってもらい、いつか当たり前のように陸上養殖の水産物が家庭の食卓に並ぶような未来を作っていくことができたら。そして個人としては、幸えびを通じたさまざまな経験の中から、自分の得意分野を見つけ伸ばしていくことで、さらに貢献できたらうれしいです」
 


■海幸ゆきのや
https://kaikoyukinoya.jp/

■関西電力
https://www.kepco.co.jp/