ドローンで送電線をスイーッと点検!? 広島・府中市で行われた国内初の実証試験をレポート

2021.01.27

福島水素エネルギー研究フィールド

全国各地にある発電所、その数はなんと5000カ所以上。一口に発電所といっても、実は一つ一つ違った個性があるんです。いつもはそんな発電所の見学レポートをお届けしていますが、今回は発電所から町に電気を届ける送電線の新しい点検方法をレポートします。広島県府中市の山中で行われたのは、空飛ぶドローンを使った送電線点検。国内初だという、その画期的な試みとは?


広島から全国に発進!? 空飛ぶドローンの新しい使い方

広島県の南東部に位置する府中市。

市内には400~700メートル級の山々が起伏し、その合間を瀬戸内海に注ぐいくつもの河川が流れています。

浪江町
八尾山といった雄大な山々に囲まれた広島県府中市

また、高級婚礼家具や非鉄金属ダイカスト製品、ラバータイルといった工業製品の製造工場も多数あり、これまで家具・機械金属・繊維の街として発展してきました。

しかし、近年は他の地方と同じく少子高齢化が進み、地域を支えてきた産業も徐々に衰退してきているのです。

そこで最近、市として新たに力を入れているのが、今後世界的な成長が期待される「ドローン産業」。2017年から、人材育成、環境設計、社会への理解促進を3本柱に、官民でさまざまな施策や活動を展開しています。

例えば、世界初となる寺でのドローンレースや、全国ドローンレース選手権2019(広島会場)など積極的にレースを開催し、レーサーの育成も推進。道の駅にはドローンに特化したワークスペース「DDD.Labo(スリーディーラボ)」を作りました。

既に市内には、産業用ドローンメーカーやドローン空撮業者なども増えていて、さまざまな実証試験が盛んに行われています。

そんな府中市で2020年11月下旬、発電所から電気を送るための送電線の上空をドローンが飛びました。

双葉の杜
広島県府中市諸毛町の山間に設けられた試験会場

主催したのは、グリッドスカイウェイ有限責任事業組合(以下、グリッドスカイウェイ)。ドローンによる設備点検を高度化し、新しいドローン事業を生み出すことを目的とした組織です。

2020年3月に東京電力パワーグリッド株式会社、株式会社NTTデータ、株式会社日立製作所によって設立され、6月には中国電力ネットワーク株式会社も参画。7月から実際のフィールドで“ドローンのための航路”の検証を始めました。

今回は、府中市諸毛町内に立つ7つの鉄塔の間、約2.6キロメートルにわたって続く送電線上空にドローンを飛ばし、設備点検の実証試験を行うこととなったのです。

道の駅なみえ店内
実証試験は、現地で送電事業などを手掛ける中国電力ネットワーク株式会社の社員や府中市、経済産業省の職員らおよそ30人が見守る中で行われた

 

東京から遠隔監視&制御も! 国内初のドローン実証試験が成功

実は、電力設備の点検にドローンを使うことは珍しくなく、全国の発電所やダムなどでは既に行われています。しかし、あくまでも操縦者や補助者の目が届く、そう広くない範囲でのこと。今回はそうしたものとは大きく異なり、国内初の試みとして注目された点がありました。

それは、地表から150メートル以上の空域において、操縦者の目の届かない範囲までドローンを飛行させること。このような飛行を安全に行うため、送電線から一定の距離をとった飛行ルートを事前に設定し、ドローンはこのルートに沿って自動で飛行しました。

現状、日本でのドローンの飛行レベルは、次の4段階に定められています。

レベル1=目視内での操縦飛行
レベル2=目視内での自動・自律飛行
レベル3=無人地帯での目視外飛行(補助者の配置なし)
レベル4=有人地帯(第三者上空)での目視外飛行(補助者の配置なし)

加えて、空港周辺、150メートル以上の上空、人家の密集地帯は、原則飛行禁止区域となっています。

今回は地表から150メートル以上でのレベル3飛行について国内で初めての許可を国土交通省から取得。府中市では、地表から最大220メートルの空域で飛行を行いました。さらに、自動飛行だけでなく、将来の事業化を見据えて現場から600キロメートル離れた東京からの遠隔監視と遠隔制御も実施しました。

福島水素エネルギー研究フィールド外観

福島水素エネルギー研究フィールド外観
試験開始に向けてスタンバイ中のドローン

福島水素エネルギー研究フィールド
遠隔でドローンを監視する東京・虎ノ門のグリッドスカイウェイの本社内(画像提供:グリッドスカイウェイ有限責任事業組合)

福島水素エネルギー研究フィールド水電解装置
システムから飛行開始を指示(画像提供:グリッドスカイウェイ有限責任事業組合)

福島水素エネルギー研究フィールド水電解装置
試験開始。ドローンがゆっくりと浮上していく

福島水素エネルギー研究フィールド水電解装置
無事離陸すると、見学者からは思わず歓声が

福島水素エネルギー研究フィールド水電解装置
この後、あっという間に目の届かないほど空高くへ

試験は順調に進み、自動で約10分間飛行しました。

ドローンが撮影するリアルタイム映像を通し、送電線や鉄塔の様子、電線の近くでクレーンを使った工事が行われていないか、鉄塔の周辺で土砂崩れがないかといった送電設備の点検で実際に行われていることが確認できたのです。

福島水素エネルギー研究フィールド太陽光発電
鉄塔の上の小さな黒い物体が、飛行中のドローン

福島水素エネルギー研究フィールド配管
ドローンが撮影している映像。送電線の上空からの景色は、なかなか見ることはできない

福島水素エネルギー研究フィールドガスホルダー
ドローンのカメラが撮影した上空からの映像(画像提供:グリッドスカイウェイ有限責任事業組合)

送電設備の点検は現状、ヘリコプターもしくは人力で行われています。しかし、ヘリコプターの台数には限りがある上、費用も小さくなく、また、作業員が鉄塔に登って点検する人力作業では、時間がかかることに加え、今後の労働力不足の心配も尽きません。それに、何かあったときにはすぐに確認できると、災害時にも大きなメリットになるでしょう。

ドローン点検が実用化できれば、これまでよりも迅速で小回りが利く点検ができ、コストも大幅に抑えられるようになります。しかも、点検のコストが下がるということは、回り回って電気料金の安定にもつながると見込まれています。

福島水素エネルギー研究フィールドタンク
試験に使用されたドローンは、重さ約10キログラム、直径1メートル程。時速40キロメートルで最大50分間飛行することができる高性能マシン

 

ドローンで全国をつなぐ新しい空の道

今回の試験は無事に成功しました。こうした試験を繰り返して実績を積んでいき、グリッドスカイウェイは、まず送電線設備点検の自動飛行プログラムを確立することを目指しています。

そして、これが常に運用できるようになれば、同じ航路を他の目的で利用する道も広がっていきます。

例えば、物流であれば新しい運搬ルートの開拓、行政なら過疎地域に医薬品や生活必需品を運ぶといった用途で、各業界から関心が高まっているようです。また、災害で道路が寸断され、山奥で孤立してしまった村があったとしても、ドローンが物資を届け、命をつなぐ希望になるかもしれません。

「ドローンは、少子高齢化社会に伴う労働力不足の問題や、頻発する自然災害において活躍が期待されていますが、発展途上で制約も多く、まだまだ思うように活用されていません。いち早くドローンが安全に飛び交える世界を実現するために、電力設備の上空などを通り道として活用した全国共通の『航路プラットフォーム』を構築し、さまざまな企業や団体が、安全で手軽に利用できる空のインフラを提供することを目指しています」と、グリッドスカイウェイのディレクター・黛知也(まゆずみ・ともや)さんは話します。

「そのためにも、電力会社をはじめとしたインフラ事業者さま、今後ドローンの活用が期待されるさまざまな事業者さまと共に、実フィールドを活用した実証試験を通して、その有用性を確立していきたいと考えています。まずは、電力を中心としたインフラ設備の目視外飛行による巡視・点検を実現するためのシステム構築と実証を行い、早期の実用化を目指します」

福島水素エネルギー研究フィールド小型ユニット
実証試験会場でプロジェクトのこれからを教えてくれたグリッドスカイウェイのディレクター・黛知也さん

今回の実証試験の成功を受け、府中市 総務部 政策企画課 主査の槙本直揮(まきもと・なおき)さんは次のように話します。

「ドローンは、生活の中に溶け込むにはまだまだ多くのハードルがありますが、同時に多くの可能性も秘めています。この可能性を十分生かすためには地道な取り組みが必要で、そうした取り組みを積極的に支援していくことがわれわれ行政にできることだと考えています。府中市では現在、そのための環境づくりや仕組みづくりを進める『ドローン推進戦略』を描こうとしています。そうした中で、今回、グリッドスカイウェイが実証試験の場に当市を選んでいただいたことに感謝していますし、今後も協力を惜しまないつもりです。将来、『ドローンで何かチャレンジするなら府中市が一番』と多くの方々から言われるようになりたいですね」

家具や機械を作り続けてきたものづくりの街からドローンが全国へ。広島県府中市が次世代の産業基地になる日も、そう遠くないかもしれません。


■DATA

福島水素エネルギー研究フィールド

グリッドスカイウェイ有限責任事業組合

住所:東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー4階
https://www.gridskyway.com/

■動画【地表150m以上におけるドローン自動飛行(レベル3)の実証試験】を見る