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電力会社がハウス栽培? 高知県産シシトウのピンチを救う四国電力のスマート農業

2022.09.05

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電力会社の役割は、電気を作り、届けるだけではありません。地域の発展のため、環境を守るため、さまざまな活動を行っているんです。四国電力の子会社として発足した「Aitosa(アイトサ)株式会社」(以下、アイトサ)が取り組むのは、シシトウの養液栽培やAI・ITを活用したスマート農業の確立。私たちの食卓にも身近なプロジェクトの全貌をお伝えします。


高知県はシシトウの国内シェア日本一! 

天ぷらや炒め物はもちろん、そのまま焼くだけでも美味しいシシトウ。β-カロテンやビタミンCが豊富で、老化防止や疲労回復、美肌などにも効果が期待される、健康にもいい夏野菜です。

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甘さが引き立つ素焼きは、焼き鳥屋さんでも定番

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輪切りを添えれば料理の彩りに

そんなシシトウですが、国産のほとんどが高知県で生産されているって知っていましたか?

四国4県の中で一番の面積を誇る高知県は、豊富な日射量と温暖な気候を生かした農業が盛んな地域。1ヘクタール当たりの園芸作物等の産出額、すなわち生産性が日本一なんです。 シシトウのほかにも、ショウガ、ナス、ミョウガ、ニラなど、多くの野菜で国内トップシェアの生産量を誇ります。

中でもシシトウは、国内シェア40%。その理由の一つが、ハウス栽培により一年を通じ安定して生産できることであり、飲食店などにも重宝されているからだそうです。なので、冬場のシェアにいたってはなんと90%! 普段あなたが食べているシシトウは、高知県産である可能性が高いのです。

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収穫したばかりのシシトウ。発色が良く、つやつやと輝いている

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Aitosaがあるのは、農業が盛んな高知県南国市

しかし、高齢化が進むにつれ農業の担い手が不足してきており、機械化できない部分が多く、人の手がかかる農作物の代表 ともいえるシシトウの生産量もだんだんと落ち込んできています。1992年には5100トン(約77億円)もの出荷量があった高知県産のシシトウですが、2018年には半分以下の2300トン(約34億円)まで減少しています。

シシトウは高知県 にとって大切な農作物 の一つです。これを守っていかなければ! と立ち上がったのが四国電力でした。

四国電力は、地元の基幹産業の活性化に貢献するべく、2018年から本格的に農業に参入し、香川県でイチゴの生産・販売を行う「あぐりぼん株式会社」を設立。高知県南国市でシシトウを作るアイトサは、それに続く第2弾として、2020年に立ち上げられました。

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2021年7月に竣工したハウスは栽培面積約3000平方メートル 。1年目にして、基準となる面積当たりの収穫量は高知県下でトップクラスに

 

ハウスの中はハイテク設備が満載!

アイトサは、ただシシトウを栽培する会社ではありません。

(1)産地の維持・拡大
(2)AI・ITを駆使したスマート農業技術の研究開発
(3)養液栽培技術を用いた「最適栽培モデル」の確立

という3つの大きな目的による地域農業の活性化を実現するため、アイトサの栽培用ハウスは一般的なものとは一線を画しています。

まずは、見た目。大きく違う点として、養液栽培なので土がありません。シシトウの株は1本ごとにヤシ殻でできた培地に植えられており、そこに成長に必要な養液を与えることで育てています。

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シシトウの株の根元。ヤシ殻の培地には根がびっしりと張っている

当初、ほかのシシトウ農家からは、農業未経験の新規就農、一般的なシシトウ農家の3倍以上の栽培面積かつ前例のない養液栽培では「無理!」「うまく育たないのでは?」と心配の声が多かったそう。

すべてが初めてのことばかりで、試行錯誤したものの、栽培開始当初は生育状態がかんばしくなく、収穫量は計画の1/4程度と本当に苦しい日々を過ごしました。シシトウは、意外と繊細で育てるのが難しい野菜なんです。

そこでカギとなったのが、「データ駆動型農業」です。アイトサでは、四国電力のグループ会社である四国総合研究所が開発した栽培環境をモニタリングできるシステムを入れており、ハウス内の環境を数値で見える化しました。

さらに、高知県が取り組む栽培環境の共有システムIoPクラウドと連携し、知見のある他の 農家さんの栽培環境データを確認。データの分析や対策にプラスすることで、比較と参考ができるようになり、栽培方法を確立していくことができたのです。

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ハウスにある制御盤で、窓を開けたり、湿度を調整したりとさまざまな操作・設定ができ、ハウス内環境を自動でコントールしている

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高知県のIoPクラウド「SAWACHI」によってスマートフォンからハウス内の環境や市場値動き、収穫量データなどをリアルタイムで確認・比較できる

加えて、周辺のシシトウ農家さんの協力の下、養液栽培に適した温度や湿度、CO2濃度に培養液の処方や潅水量などを細かく検証しました。

そのおかげで、1日1.6万個程度(約80キログラム)だった収穫量が、今では最大1日8万個超(約400キログラム)まで増加。アイトサの年間計画を大きく上回る結果となり、関係者一同驚きだったとか。

今後は栽培モデルをさらにブラッシュアップし、農業未経験者でも養液栽培を手軽に始められるモデルの確立を目指します。

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電気で動くヒートポンプ空調設備。最適なハウスの環境を保つため、常に稼働している。環境にも配慮し、次世代型の農業には電力が欠かせない存在に

また、手間と人手が掛かる作業を自動化する仕組みも。現在、スマート農業技術の開発研究を行う会社と共同で研究を進めているのは、薬剤を自動散布する自走式のロボットです。

シシトウの安定的な生産には、病害虫予防として薬剤の散布が必要。現在は、温度と湿度が高いハウス内で保護用の服を着て作業を行う重労働ですが、このロボットが完成すれば大幅な負担軽減が見込めます。将来的には、収穫や選別作業、パック詰めなどの自動化も目指し、研究を進めていく考えです。

 

地域に寄り添い、共に未来をつくる

アイトサが目指しているのは、手間の掛かるシシトウ作りをAI・ITで省力化することで未経験でも参入しやすい土壌を作り、将来の就農人口を増やして、地域の活性化につなげていくこと。

この取り組みは、高知県の農業を背負っていく次世代の農家にも快く受け入れられている、と高知県農業振興部 IoP推進監の岡林俊宏さんは話します。

「アイトサさんは、地元の農家さんだけでは実現できない夢のある取り組みを進めてくださっています。情報発信も積極的にしていただいているおかげで、地元の若い農家さんや地区外の農家さんからも注目されています。アイトサさんの活動を通じて、高知県の施設園芸が若者にとってさらに魅力的な産業となっていくことを期待しています」

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葉も身も緑色のシシトウは、AIロボットによる自動収穫の難易度が高い

本来、次世代型の生産スタイルは、地元農家からライバル視されてもおかしくないものです。それなのにアイトサと地域が良い関係を築けているのは、アイトサがあくまでも“一生産者”という立場を貫いているから。

農場長の菊池功一さんが、そこに地元高知への愛とプライドを持っていると熱く語ってくれました。

「アイトサで作られたシシトウは地元の農協を通じ、高知県産のシシトウとして、他の農家さんが作ったものと一緒に全国に向けて出荷されています。独自にブランディングして販路を作るのではなく、美味しいシシトウをたくさん作ることで、『高知のシシトウ』としてのブランド力を高める。私たちはそのために生産しています」

Aitosaの菊池功一さんと武田博文さん
農場長の菊池功一さん(左)、代表取締役社長 武田博文さん(右)

一年中、いつでも欲しい量が手に入るからこそ、高知県産のシシトウは市場で安定した価値を保っています。その産地競争力を揺るぎないものにするべく、縁の下から地元を支えることがアイトサの取り組みなんです。

そうして地域に受け入れられたことで栽培方法のアドバイスなどの協力を得られ、未知数だった養液栽培によるシシトウ作りも早期に軌道に乗せることができました。

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サイズの選別も現在は手作業。画像認識技術が進めば、作業はぐっと楽になる

「私自身、1年間農業担い手育成センターで勉強したとはいえ、元は電力会社の社員です。農業に取り組むのは初めてですから、家族にも負担をかけ、言葉では言い表せないほどの苦労もありました。でも、事業がいいスタートを切れたことをとてもうれしく思っています。今後は生産量をさらに増やしていくと同時に、生産者も増やしていく農業学校のような役割も担っていきたいですね。経営を含めて学び、地元で独立していただければ、地域全体がもっと明るくなっていくはず」と、菊池さんは意気込みます。

どこまでも地域のために、“愛”をもってスマート農業に取り組むアイトサ。全力で走り続ける彼らが作ったシシトウは、きっと皆さんがよく行くスーパーにも並んでいるはずです。未来の農業が生み出す味わいを体感してみてください。

 


■DATA

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Aitosaスタッフ

 

Aitosa株式会社
住所:高知県南国市植田1825番地
https://www.aitosa.com/

個性的なシシトウやシシトウ料理も紹介されているAitosaのInstagramはこちら
https://www.instagram.com/aitosa_farm/

四国電力
https://www.yonden.co.jp/

<貢献する主なSDGsの目標>
SDGsSDGs

■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み