世の中は電気を利用することで生み出された“便利”であふれている。スマホやヘアアイロンなど、昔からしたら魔法のようなアイテムを誰もが持つような社会になった。しかし、そんな時代に逆行するように、あえて“無駄”なものを生み出しているのが、コンテンツクリエイターで発明家の藤原麻里菜さんだ。「目覚ましを止めてくれるマシーン」「イヤホンを絡ませるマシーン」など、「無駄づくり」と冠した作品は200以上。必要のない、むしろあっても困るだけとも思える「無駄」を作り始めた理由や電気との付き合い方について聞いた。
無駄づくりとは、人間の、そして自分の無駄の肯定
2013年にYouTubeチャンネル「無駄づくり」を開始し、翌年には「歩くたびにおっぱいが大きくなるマシーン」という作品がSNSで話題になった藤原麻里菜さん。その後もユニークな作品を生み出し続け、多くのメディアから注目。その勢いは日本に留まらず、海外で展示会を開くなど人気を博している。
「『無駄づくり』を始めたきっかけは、YouTube上で何か面白いことができないかなと思ったからです。もともとものづくりは好きだったので、便利なものはたくさん作っている人がいるから、私くらいは“無駄なもの”を作ってもいいだろうと」(以下コメント、全て藤原さん)
自身は合理的な気質で、「本当は、世の中にあるほとんどのものを無駄だと思っている」と話す。しかし、「無駄=必要ない」と思いがちだが、そうとも限らない。
「エンターテインメントは、厳密に考えれば無駄なものだと思うんです。でも、見る人が楽しいならあった方がいいし、アートとかクリエイティブなものも同じように、作っている人が楽しいならあった方がいい。そういう無駄なものを肯定するという意味でやっています」
感情や欲求など理性的でない部分に人間の面白さがあると語る藤原さん
とはいえ、藤原さん自身は「本当に無駄なものなのか?」ということをあまり重要視していない。
「後から意味付けして価値を付けることって簡単にできて、むしろ無駄なものを無駄なまま愛する方が、かなり難しいんですよ。その辺に転がっている石に感情を向けることはできないけど、『あの人がきれいって言った石』とか、『置物にちょうどいい石』とか 別の価値を与えると興味や感情が湧いてきますよね」
実は「無駄を肯定する」というコンセプトがはっきりしたのは、ここ最近のこと。概念がない状態でも彼女が作品を作り続けられたのは、縛りを設けず、自由に発想してきたからだ。
「『無駄とは何か』を突き詰めると哲学的になってしまうので、考えすぎないようにしています。無駄の定義を考えることこそ無駄かなって。言葉のインパクトが強いからか、明らかにいらないものでも、必ず『これは無駄じゃない』と言ってくる人も出てきますし。だから『無駄を作るぞ!』という気持ちでやっているわけではありません。自分の中の感情とか欲求とか、そういう単純で全く合理性のないところに目を向けて作ることが多いです。他人のことはわからないので、自分のことしか見ていません」
ロボットアームを使った作品「札束で頬をなでられるマシーン」。なでられると、なんとも言えない優しさを感じる
これさえあれば誰でも作れる!? 無駄づくり、命のパーツ
YouTubeに初めて投稿してからおよそ6年がたち、2018年には台湾で個展を開催。全くのアウェーながらも、2万5000人以上が集まるほど、藤原さんの「無駄づくり」は規模が大きくなってきた。それでも比較的、彼女は冷静だ。
「正直、他にやることがなくて毎年やめようと思いながら続けていたら、だんだんと大きなことになってきて。それで、また続けようかなって。誰にも求められなくなったら、今度こそやめるかもしれないですけど……。いや、やめなさそうだな」
無駄づくりに没頭するための作業用デスク。作業室内には、普段使う電子工作用の部品がたくさんそろえられている
そうは言いながら、さまざまな仕事で忙しく過ごす現在でも、最低月に2つは作品を制作する。それどころか、「アイデアはいくらでも出てくるので、時間さえあれば週に1つペースで発表したい」と、やる気は満々のようだ。すぐにやめるつもりだったのに、なぜ今も意欲的に続けられているのか。
「思いついたものをパッと形にして、反応をもらって、次はこれを作ろうって考えることが楽しいんですよ。これまで、何かにハマったことはほとんどなかったので、単純にめちゃくちゃ無駄作りが性に合っているんだと思います」
藤原さんが近年発表した作品の多くは、電子工作で作った電動マシーンだ。
初期のアナログな工作から電子工作へと踏み出したのは、無駄づくりを始めてから2年ほどたったころ、「Arduino(アルドゥイーノ)」という安価に電子工作ができるデバイスに出会ってからだ。これを工作に組み込むと、LEDライトを点灯させたり、モーターを動かせたりと、さまざまな電子工作を作ることができる。
「知識があまりなかったので、最初は何をどうすればいいのか全くわからなかったんです。でもネットで調べたら、すぐ使えるようになりました。一からプログラミングをやらなくてもいいので、作っていくうちにセンサーの組み合わせ方や、どのボタンを押したら何が動くのかといったことを学んで、自分の好きなように動かせるマシーンが作れるようになりました」
藤原さんの電子工作の要となるArduino。小さな基板にCPUやメモリ、モジュールなどが詰まっている
藤原さんが作品のために獲得してきた技術は全て独学。“電子工作”と聞くと専門知識が必要にも思えるが、このArduinoの使い方さえマスターすれば、藤原さんが手掛けたほとんどの作品が作れるようになるそう。
「もちろん、センサーが読み込めないとか、この重さだとモーターが動かないとか、物理的なトラブルはいくらでも発生します。でも、電子工作を趣味でやっている人やエンジニアの人って技術をシェアする文化があるので、自分のトラブル対処法をブログなどに書いてくれているんですよ。だから、何かを作るときには必ず参考にしています。壁にぶつかったら調べて、まねして、解決して、知識を増やしていく。私の作品作りは、その繰り返しですね」
スマートフォンをはめて撮影すると、写真に“指を入り込ませられる”作品「インスタ映え台無しマシーン」
電気はエンタメ、電気そのものを楽しんでみたい
電子工作との出会いは、作品だけでなく彼女の興味も広げた。藤原さんは2019年9月、テクノロジーとお笑いを融合させた「テクノコント」に参加。お笑いコンビのラブレターズや技術開発ユニットのAR三兄弟らが参加するその舞台で、新たな方向を見つけたのだ。
「テクノロジーとお笑いってまだ可能性があるというか、わざわざ『テクノコント』って言わなくてもさらに濃密に融合できるのでは、と思いました。テクノロジーを駆使して作ったものを、芸人がうまく利用すると、そのものがさらに面白くなる。私の作品ももっと活性化させたいですね。もっともっとお笑いとして成立させたいです」
テクノロジーとエンターテインメント。最近、それがうまく使われている場所を意外なところで見つけたという。
「熱海にある『秘宝館』がすごいんですよ。とてもレトロでマニアックですが、よく見ると、いろいろなところで電子工作が使われていたんです。椅子に座るとセンサーが反応して、マジックミラーに女性が現れるとか。こういう技術の使い方、いいなあって思います」
秘宝館は「夢を現実にした素晴らしい場所」だと語る藤原さん
創作意欲をかき立てる電子工作との出会いより以前、神奈川に住んでいた2011年当時に、藤原さんは東日本大震災で停電を経験した。「当たり前にあったものがなくなる恐怖を感じました」と当時を振り返る。現在は、生活面はもちろんのこと、仕事においてもたくさんの電気を使うため、別の不安を抱えているそうだ。
「展示会など、外で作品を動かさなくてはならないときは、電源が届くかとか足りるかどうかとか、いつも不安で。かばんに延長コードをたくさん入れて持っていくこともあるので、電気のことは常に意識します。それに、よく考えれば、作品を作るときはパソコンがないと作れないし、動かすときにはモーターの一つも動かせない。発表するにも動画は撮れなくなるので、電気がなくなると、きっと私の仕事自体が成立しなくなりますね」
作品を作る、動かす、発表するに至るまで、藤原さんの根幹を支えている電気。こうして創作活動ができるのも、彼女の元に電気が安定的に届いているからこそと言えるかもしれない。一方で、クリエイターとして電気を見つめたとき、その着眼点は一味違う。
「電気はエンターテインメントに欠かせないものだと思っています。その昔、江戸時代の話ですが、静電気をためておける『ライデン瓶』という装置を使って、大人数で手をつないで電気ショックを受けるという“遊び”のような実験もあったらしいんです。みんなで手をつないで電気を体感するなんて、楽しそうだから私もやってみたいですね」
電子工作について検索を始めると、表情を輝かせる藤原さん。気になったことをいろいろと調べるのが好きなようだ
もし「電気」自体をテーマとした「無駄づくり」を手掛けるなら、人の感情の動きを“電気”そのもので目に見えるようにしてみたいという。
「装着している人の心拍数が上がったら、外に向けて放電するようなマシーンを作ってみたいですね。“怒り”という心のエネルギーを電気エネルギーで見える形にして表現する。周りの人がちょっとビリビリして、着けている人の感情がわかるなんて、面白そうですよね」
藤原麻里菜
ふじわら・まりな/1993年生まれ。コンテンツクリエイター、発明家、文筆家、映像作家。「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。デイリーポータルZなど、各媒体で連載中。著書に「無駄なことを続けるために」(ヨシモトブックス)がある。
HP:無駄づくり
Twitter: @togenkyoo