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街中の頭上はこんなに面白い!電線愛好家・石山蓮華の“レア電線探し”

2020.12.01

電気を運ぶインフラとしての電線。普段は何気ない街中の風景に溶け込んでいるこの電線も、視点を変えてみると実はワクワクと楽しさが詰まっていた…! 電線愛好家・文筆家・俳優の石山蓮華さんによる、街中で冒険できる“レア電線探し”のススメをお届けします。

 

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私の名刺の一番上には「電線愛好家」と書いてある。
日ごろから電線を見上げるのが好きで、電線のいいところを人に話すのも好きだ。
電線に詳しいのですか? と聞かれることはあるけれど、私が電線について知っているのはあくまでも自分の興味の手が届く範囲のことなので、なにも知らないわけではないけれど、詳しいと胸を張って言えるほど物知りなわけではない。
自分で作ったこの肩書きはマニアでもなく、専門家でもなく、ただ「電線が好き」という気持ちさえあれば名乗ることのできるものなので気に入っている。

 


年始にタイで川沿いの電線を撮影する著者

 

電線鑑賞のいいところはいくつもあるけれど、遠征の必要な登山や、茶道や社交ダンスなど道具の必要な趣味と比べてみると格段に敷居が低く、お金もかからない。
無電柱化のあおりを受けて電柱が地中化している道もあるけれど、国内では年間7万本のペースで電柱の数は増えているので、近所を一周するだけでもきっといい電線に出会えるはずだ。
敷居の高さでいえば無に近い電線鑑賞を細く長く、マイペースに続けていくためには電線をたのしむ目こと「電線アイ」をインストールするのがなにより手っ取り早い。
今回は電線愛好家として、電線アイのインストール方法をご紹介する。

 

1 電線アイのインストール方法

まず外に出て、車や歩行者に気をつけながらご近所をゆっくりと散歩する。
同時に頭上の電線に注目し、頭の上にたくさんの線が浮き、今まさにその一本一本が通電し、都市の血液として電気が流れているというスペクタルに思いを馳せる。

 

 

歩いているうちに、電柱ごとに設置された線の曲がり方や丸められ方が少しずつ異なっているのに気づけるはず。真下から見上げると複雑に絡み合う線の様子が生き物や、体のなかにある血管や神経のようにも見えないだろうか。
実際に、電線は都市の血管であり神経なのだ。かっこいい。
ここで開眼してしまえば、インストールはすでに80パーセント完了している。

気になる電線が見つかるまで電線を眺めながら歩を進め、電線への解像度をゆっくりと上げていく。好きな電線が見つかればインストールは120パーセント完了。
記念に写真を撮影して、友人にLINEスタンプ代わりに送ってもいいだろう。
相手に「なにこれ?」と聞かれたら、電線愛好家の仲間として、自分が気づいた電線の良さを存分に語ってほしい。オタク界隈の言葉でいう、布教だ。

ここまでの工程が一度に済んでしまう可能性もあるけれど、ピンと来なくともまったく心配はいらない。なんとなく電線が気になるようになれば、今週中か今年中か、3年後くらいにはいい電線と出会えるはずだ。電線鑑賞はマイペースにやっていくのがいい。

 

2 電線アイによって発見されるレア電線のご紹介

九九を覚えるのにも1週間で全部言えるようになる人もいるし、私のように中学校へ上がる直前まで8の段に自信の持てない人もいる。
九九を習ってもう20年以上経つが、最近7の段と8の段が怪しくなってきた。

電線アイのインストールにかかる時間も人によって差がある。
九九の練習や仕事、登山の準備などでゆっくり電線を見上げる時間のない忙しい人に向けて、普段の通勤・通学路や買い出しの途中などで見つかるいい電線、レア電線の実例をご紹介したい。

 

「ツタ系」

 

書いて字の通り、ツタ植物などが電線と一体化した状態。
季節の移り変わりによって咲いたり枯れたりする電線を愛でる。
諸行無常と植物の強さ、そして電線の丈夫さを一気に楽しめるいい電線。

 

「南国系」

 

南国に実る果物のように、電線に実った大きな丸が特徴的。
このような空中で丸められた電線を、「余長」「巻き溜め」などと呼び、一度電線を敷設した後に伸ばす必要があった場合に備えている。
きっちりだったり、ざっくりだったり、工事をされた方の性格も想像できて楽しい。 まれに、リボン型のものも発見される。

 

「光学迷彩系」

アニメ『攻殻機動隊』に登場する光学迷彩のように、電線が周囲の色と一体化した状態。
建物や家の外壁にある電線の引き込み部分で見られることが多い。

 

 

特にエイジングされたものは“令和のもののけ”的な妖気を発し、一見電線であることに気付かない場合もある。電線アイの解像度を上げ、経験値を積み重ねることが大切。

電線鑑賞は九九と違っていつ始めても遅くないし、九九と違って完璧な形もない。
今回ご紹介したのが仮に一の段、二の段、三の段だとすれば、四の段や七の段、まだ想像もできないAの段やBの段も見つけることができるかもしれない。
ぜひ、あなたも電線アイを磨いて自分なりのいい電線との出会いを楽しんでほしい。

 


石山蓮華

いしやま・れんげ/電線愛好家・文筆家・俳優。電線愛好家としてテレビ番組や、ラジオ、イベントなどに出演するほか、日本電線工業会「電線の日」スペシャルコンテンツの監修、オリジナルDVD『電線礼讃』のプロデュース・出演を務める。 主な出演作に映画『思い出のマーニー』、舞台『五反田怪団』、『遠野物語-奇ッ怪 其ノ参-』、『独特な人』、NTV「ZIP!」「有吉反省会」など。 文筆家として「Rolling StoneJapan」「月刊電設資材」「電気新聞」に連載のほか、雑誌「母の友」「週刊朝日」、ウェブ「She is」などに寄稿。

Twitter: @rengege


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Instagramフォトコンテスト「日常の風景にある電力」

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