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災害の専門家に聞く! 停電時にもあわてない『電気の備え』とスマートフォン活用の方法

2021.06.10

夏から秋にかけては、特に台風や豪雨などの災害が起こりやすくなる季節。

これからに備えてぜひ知っておきたい、災害時の“電気”への心構えと対策について、備え・防災アドバイザーの高荷智也さんにお話を伺いました!

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大地震、噴火、台風、豪雪……、日本は世界でも有数の自然災害大国ですが、毎年のように「想定外」「過去最大」などの言葉を含む災害報道がなされています。これらの災害でとりわけ問題となるのは人命が失われる事態ですが、人的被害が生じなくとも、建物やインフラに大きな影響をもたらすことがあります。

電気・ガス・水道といったライフラインに被害が生じると、物理的な被害が生じていなくとも生活に大きな影響がもたらされます。とりわけ「電気」が失われると、ガス器具や水道器具も使えなくなることがあり、大きな問題となります。このコラムでは、自然災害による停電への備えについて解説をいたします。

 

停電をもたらす災害について

災害で生じる停電はどのように生じるのでしょうか。火災や浸水の影響で自宅そのものが被害を受けた場合は、当然電気も使えなくなってしまいますが、自宅や地域が無事でも停電に巻きこまれることがあります。これは大きく分けると2つの原因があります。

■送配電網が被害を受ける場合

分かりやすいのは送配電網に対する被害です。例えば大地震の揺れや台風による暴風で、自宅周辺の電柱が転倒したり、飛来物により電線が切断されたりした場合は、周辺地域が停電することになります。大地震が発生した場合は被災地の送配電網が同時に破壊され、町の復旧とあわせて電力網の復旧を行うことになるため、いわば分かりやすい停電の原因と言えます。また、台風による暴風でも送配電網は大きな被害を受けますが、山間部の鉄塔などが被害を受けた場合は復旧に時間がかかるため停電が長期化することになります。

例えば2019年の令和元年房総半島台風(台風15号)では、千葉県を中心に大規模かつ長期間の停電が発生して問題となりましたが、これは暴風で送配電網に物理的な被害が多数生じたことが主要原因です。

 

■発電所が被害を受ける場合

一方、電柱や電線などの送配電網が無事だった場合や、被災地から離れた場所についても、災害による停電に巻きこまれることがあります。これは送配電網ではなく、電力を生み出す発電所が被害を受けたか、何かの原因で電力供給ができなくなった場合に生じる現象です。

例えば2018年の北海道胆振東部地震では、被災地から離れた地域を含む「全道停電」が発生しました。これは、大地震の影響で北海道最大の発電所である苫東厚真火力発電所および、周辺の発電所が立て続けに停止したことで、道内の電力需給バランスが崩れ、「ブラックアウト」と呼ばれる電力供給が停止する現象に発展したためです。結果、被災地以外の電力設備は無被害でしたが、発電所からの電力供給ができなくなり停電に至ってしまいました。

また2011年の東日本大震災でも、東京電力管内の原子力発電所および、東京湾にある大規模な火力発電所が停止したため電力不足となり、「計画停電」が実施される事態となりましたが、これも発電所由来の停電のひとつと言えます。被災地以外でも停電に巻きこまれる恐れがある、ということは知っておくべきことです。

 

停電の発生で問題になること

では、災害により停電が発生すると、具体的にはどのような問題が生じるのでしょうか。2つのシチュエーションについて紹介をいたします。

■安全行動と避難への影響

停電による最大の問題は、安全行動や緊急避難に支障が生じることです。2016年に発生した熊本地震など、夜間に大地震が発生して停電が生じた場合、室内に停電対応の明かりがないと、身動きが取れなくなってしまいます。暗闇の中では転倒する家具・落下する荷物・割れて飛散するガラスなどから身を守る安全行動が取りづらくなる他、津波や土砂災害などからの緊急避難にも時間がかかるため、命を落とす危険性が高まってしまいます。

大地震の揺れは、北海道から沖縄まで日本中いつでもどこにでも生じますので、夜間の大地震による停電対策はどの家庭でも必須です。また近い将来の発生が想定されている南海トラフ地震は、2011年の東日本大震災よりも震源が陸地に近くなる可能性があり、この場合地震発生から数分で津波の第一波が到達する地域が生じます。文字通り1分1秒を争った避難が必要になるため、停電時に素早い避難ができるようにする対策が重要となります。

 

■被災生活への影響

災害の直接的な影響から命を守った後は、生活を維持することが必要になります。しかし停電が発生した場合、自宅にある電化製品全般が利用できなくなる他、ガスが来ていても給湯器が動かせなくてお湯を使うことができなくなったり、水道が無事でもマンションの送水ポンプが停止することで特定建物だけ断水したりと、電気以外のライフラインに影響が生じることもあり得ます。

またタワーマンションなどの場合はエレベーターが停止することで身動きが取れなくなりますし、地域の信号などが止まることで流通に影響が生じたり、店舗が営業できなくなったりすることで、食品や日用品の買い物ができなくなることも考えられます。停電が生じると、家電が使えなくなるだけでなく、他のインフラ全般が止まってしまうため、防災備蓄品の事前準備などが必要になります。

 

停電への備え

こうした被害に備えて、どのような準備をしておくべきでしょうか。家庭で行っていただきたい停電への備えについて紹介をいたします。

■避難用の明かりを確保

まずは安全行動・避難行動を取るための明かりを確保することが重要です。玄関・廊下・脱衣所・リビングなど、無防備になりやすい場所や避難時の導線になる場所には、停電時自動点灯ライトなどを設置することをおすすめします。写真のライトは、日頃からコンセントに挿しっぱなしにしておくタイプで、常にフル充電されるため電池切れの心配がなく、停電すると勝手に点灯して周囲を照らします。

災害時の電源
日頃からコンセントに挿しっぱなしにしておく上記のようなタイプのライトは、常にフル充電されるため停電時に電池切れの心配がなく便利

寝室の枕元には、ライト・ホイッスル・軍手・スリッパなどを入れたポーチを、大地震の揺れでも飛ばされない様に固定して置いておくことを推奨します。スマートフォンなどを充電しながら寝ている場合でも、大地震のゆれでどこかに飛ばされてしまうと見つけることは困難です。周囲を照らす明かり、手足を守る軍手とスリッパ、身動きが取れない場合に助けを呼ぶ笛を、枕元に固定しておくとよいでしょう。

枕もとのバッグに入れておきたい停電の備え
ポーチの中身イメージ。ライト・ホイッスル・軍手・スリッパ・必需品の眼鏡などを入れたポーチを、大地震の揺れでも飛ばされない様に枕元周辺に固定しておく

 

■電力そのものを蓄電する

生活用の電力としては、まず電気そのものを貯めておくことを考えます。大容量のポータブル電源、スマートフォン用のモバイルバッテリー、乾電池などの準備がこれに該当します。在宅用の医療器具や、熱帯魚用のポンプなどを維持したい場合は、大容量のポータブル電源と、充電するためのソーラーパネルや発電機の準備が必須です。自動車がある場合、EV車やPHEV車などでコンセントが付いている自動車であれば延長コードを、なければシガーソケットから100Vの電力を得るインバーターなども準備しておきましょう。

災害時に用意しておきたい電源
大容量のポータブル電源、スマートフォン用のモバイルバッテリー、乾電池や各種ケーブルを生活や用途に合わせて準備しておきましょう

安価に済ませる場合は、モバイルバッテリーや乾電池などを準備しておきます。モバイルバッテリーは日頃から使っていれば流用できますが、防災専用に準備する場合は定期的な充電の手間やコストがかかるため、乾電池の備蓄を多めにして、乾電池スマートフォン充電器などを用意しておくと良いでしょう。また自宅で使う乾電池器具、LEDライト・携帯ラジオ・スマートフォン充電器などは、全て「単三電池」で動く器具に統一するなどすれば、使い回しができて便利です。

 

■電力の代替品を準備する

電力を貯めておくことは大変ですし、停電により他のライフラインが停止する場合もありますので、電気の代替手段を準備することも重要です。まず非常用トイレは重要な備蓄品ですので、必ず用意して下さい。1日5回×家族人数×最低7日分を目安に、袋と凝固剤がセットになっている「非常用トイレ」を用意します。停電時に水道が止まるマンションなどに住んでいる場合は特に重要です。断水対策として、飲料水のペットボトルや、ウェットティッシュなども用意しておくと良いでしょう。

またカセットコンロとガスも大変役立ちます。停電が生じるほどの災害では同時にガスも停止する可能性が高いためです。むろんIHなどを使っている場合も、停電時にはカセットコンロが必須となります。ボンベ1本で60分程度使えますので、家族1~2名につき1日1本×7日分程度あると安心です。また発災直後は調理などをする余裕がないこともありますので、そのまま食べられるものを中心とした非常食を3日分程度。カセットコンロ調理を前提とした備蓄食をさらに4日分程度、あわせて1週間分程度の備蓄品も用意しましょう。

 

災害時のスマートフォン活用について

前述のモバイルバッテリーの用意などがあれば、携帯基地局が生きている限りスマートフォンを使うことができます。スマートフォンはある意味では最も進化した防災グッズのひとつと言えますので、上手く活用ができるように事前準備などを行ってください。

■安否確認について

災害時は通信規制の影響をうけるため、電話やE-mailが利用できなくなることがあります。一方、スマートフォンによるインターネットは利用できる可能性が高いため、LINEや各種のSNSアプリなど、Web完結型の連絡手段を用意しておき、あらかじめ家族グループなどを作っておくと、安否確認がスムーズになります。停電直後は携帯基地局がバッテリーなどで稼働するため利用できる可能性が高いですが、停電が長引くとダウンして使えなくなりますので、安否情報だけは早めに確認しておくとよいでしょう。

 

■避難に関する情報収集

防災アプリでおすすめしたいものが、「Yahoo!防災アプリ」と「NHK ニュース・防災アプリ」です。Yahoo!防災アプリは、緊急地震速報や、各種の気象警報、自治体からの避難情報などをまとめて受け取ることができます。携帯キャリアの緊急地震速報はWi-Fiで使えないなどの問題がありますが、各種のアプリはこうした問題もなくおすすめです。また災害直後の広域情報は、NHKアプリで確実な情報だけを収集できます。この2つのアプリを最低限入れておくと、災害の不意打ち防止と直後の情報収集に大変役立ちます。

 

■停電情報に関する確認

停電に関する情報収集も、スマートフォンアプリが役立ちます。停電したのにスマートフォンで情報収集が可能なのかと疑問に思われるかもしれませんが、前述の通り停電時は携帯基地局がバッテリーなどで動作するため、停電直後でもスマートフォンによる情報収集がしやすい場合があります。

各電力会社が、停電情報を通知してくれるアプリなどを公開していますので、お住まいの地域の送配電会社の停電速報アプリインストールや、HPのお気に入り登録をしておくと良いでしょう。以下に、いくつかの例をご紹介します。

東京電力ホールディングス…TEPCO速報

https://www.tepco.co.jp/info/sp_app-j.html

中部電力パワーグリッド…停電情報お知らせサービス

https://powergrid.chuden.co.jp/takuso_service/ippan/safety/taishoho/tei_oshirase/

関西電力送配電…関西停電情報アプリ

https://www.kansai-td.co.jp/others/teiden-appli/

 

■災害後のスマートフォン活用

電子書籍などで防災ブックや応急手当ブックなどをダウンロードしておくとかさばらずに便利です。また自宅や家財が被害を受けた場合は、後日の罹災証明取得や保険請求時に写真があると役立ちますので、片付けを始める前にスマートフォンでたくさんの写真を撮っておくと良いでしょう。災害にもスマートフォンは役立ちますが、充電手段が必要ですので、前述のような蓄電の準備をぜひ行ってください。

 


高荷智也(ソナエルワークス代表|備え・防災アドバイザー)

「備え・防災は日本のライフスタイル」をテーマに、「自分と家族が死なないための防災対策」のポイントを理論で解説するフリーの専門家。大地震や感染症など自然災害への備えから、銃火器を使わないゾンビ対策まで、堅い防災を分かりやすく伝える活動に定評があり、講演・執筆・メディア出演の実績も多い。著書に『最善最強の防災ガイドブック』『ゾンビから身を守る方法』など。1982年、静岡県生まれ。

【公式サイト「備える.jp」】https://sonaeru.jp


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