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災害時、子育て中の避難はどうすればいい?女性ならではの準備とは?――専門家に聞く「女性の防災」

2021.12.28

NPO法人 MAMA-PLUGは、子育ての当事者が直面する社会問題について、クリエイティブな視点から解決に向けた取り組みを行うNPO法人。楽しく学び、賢く備え、自分で考え行動できる防災「アクティブ防災」を提唱し、東京都作成の女性視点の防災ブック「東京くらし防災」の制作に関わり、『子連れ防災BOOK』なども出版されています。普段の生活の中で気を付けることは?どんな備えをしたらいいの?女性が災害対策をする上で知っておくべきことは?などのポイントについて、理事の冨川万美さんにうかがいました。

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NPO法人 MAMA-PLUG アクティブ防災事業代表 冨川万美さん
NPO法人 MAMA-PLUG アクティブ防災事業代表 冨川万美さん

日本は自然災害大国です。
現在、新型コロナウイルスの蔓延で窮屈な生活を未だ強いられている中でさえ、阪神・淡路大震災や東日本大震災のような地震災害、大型の台風や九州豪雨・西日本豪雨のような風水害など自然災害がいつ起きてもおかしくない状況で生活をしています。

最近では首都圏でも久しぶりに緊急地震速報が鳴り響き、ヒヤッとした方も多かったのではないでしょうか。

まずお伝えしたいのが、世代や、性別などに一切関係なく、一番大切なのは「命」だということです。ですが、せっかく助かっても、その後の「生活」に苦しんできた方々も実際少なくありません。自分の「命」と「生活」を守る防災を私たちは「オーダーメイド防災」と名付けています。

災害時でも生活していくのは自分です。
防災セットを丸ごと買って満足してしまいがちですが、今一度、「自分自身」または「自分の大切な家族」が必要なものは何かという視点で、是非「オーダーメイド防災」を考えてみてください。

今回のテーマは女性の防災です。災害時、特に女性が知っておくと良いことをお伝えします。

 

①女性視点の防災について

多様性の時代において、女性だけ特別視されるべきことは本来あるべきではないのですが、災害時においては、身体面で男女に大きな差があることは事実です。
例えば、女性特有の体調不良・月経・妊娠・授乳・性犯罪の被害など女性の視点で考えるべき点は多くあります。

私たちの団体では、災害被災者の方へのヒアリングなどを実施していますが、実際、被災された女性の体験談の中で非常に多い声としては
「冷えや不潔な環境による体調不良」(膀胱炎や膣炎・自律神経の乱れなど)
「月経に悩まされた」(清潔でないこと・ゴミの処理・ナプキン不足・生理痛など)
「娘が避難生活中に初潮になった」
「妊娠中だった」(健診にいけない・出産場所不足・冷えやストレスなどによる体調不良など)
「授乳場所に困った」(プライベートな空間確保の困難・周りへの気遣いなどによるストレス・清潔なミルクセットがないなど)
「報道されにくい性犯罪」(セキュリティの低さ、死角が生まれやすい環境などが原因)
が挙げられます。

NPO法人 MAMA-PLUG セミナーでの風景
MAMA-PLUG主催のセミナーでの風景

上記はほんの一部に過ぎません。近年は女性の視点を意識した避難所作りなどが盛んに行われ改善されてきていますが、実際に災害が起きてしまうと、避難所などは生活しにくい場所です。基本的には自宅で過ごすことを前提としているため、女性はいかに自分で自分を守ることが必要かが伺えます。

 

【身体面で気をつけたいこと】

過去の災害では、高齢の女性が逃げ遅れてしまった例が多く報告されています。もちろん女性に限ったことではありませんが、特にご高齢者の場合、体力に男女差が生まれやすいのも事実です。避難する際の助け合いや支え合いがとても大切です。

また、女性は筋肉量の比率から身体が冷えやすいため、ブランケットやカイロ、衣類などの防寒対策、温かい食事の備えなどを意識すると良いでしょう。また、漢方やハーブ・ストレッチ・マッサージなどで温活することもおすすめです。

 

【妊娠中・産後に気をつけたいこと】

妊娠中と一言で言っても、初期・中期・後期で気をつけるべきポイントは変わります。初期はつわりなどで苦しいにも関わらず、周囲からはわかりづらいので無理をしてしまった妊婦さんも多くいらっしゃいました。中期から後期にかけては、ゆっくりと身体を伸ばし、無理ない体勢で過ごすことも非常に大切です。エコノミークラス症候群や妊娠高血圧症候群に注意し、栄養面や、居場所の確保などを心がけましょう。

何よりも、お腹の赤ちゃんとご自身を守るために無理をせず、周囲にサポートを求めることもとても大事です。

妊婦さん

新生児や生まれて間もない赤ちゃんがいる場合は、多くの人が集まる避難所などはとても過ごしづらいもの。被災地外への避難なども視野に入れ、プライベートが守られる場所を確保するよう心がけましょう。また、授乳中はリラックスできれば母乳は出続けます。水分補給を心がけ、授乳を安心して行えるよう、人目がある場合は授乳ケープや目隠しを準備しておきましょう。

ミルク育児や混合育児の場合は、清潔な哺乳瓶セットが必要です。煮沸消毒が難しい場合は使い捨てのものや液体ミルクなどを有効活用し、必要に応じてカップフィーディングなども実践できると心強いですね。

 

【子育て中に気をつけたいこと】

冒頭でもお伝えした通り、避難所自体、長期間の生活ができる場所ではありません。

在宅で避難生活をする場合、気をつけるべきポイントは
・子どもが食べたいものが備えられているか
・子どもの成長にあっているか
・日々の習慣になっていることを続けてあげられるか
になります。

食べ物に関しては、子どもに限らず自分が食べたいものを備えましょう。「乾パンやレトルト食品を食べてくれなかった」などという声も多くあります。
子どもが食べてくれない非常食でいっぱいにするよりは、そこまで栄養に拘らず、「美味しく食べてくれる」ことを重視してみてください。

我が家は息子の偏食が凄いので、お菓子などでもお腹がいっぱいになるよう備蓄していますよ。
また、子どもは成長のスピードが著しく、おむつや洋服のサイズはもちろん、食事スタイルも日々変化します。子どもの「今」と「少し先」の備えがあると安心です。

そして、習慣になっていることにも注意が必要です。
例えば、今の子どもたちはおそらくデジタルからは切っても切れない生活をしています。特に新型コロナウィルスの自粛生活で、動画配信やゲーム機などに助けられたご家庭も多いのではないでしょうか。

災害が起こると停電があり、デジタル生活が困難になりますが、なんの前置きも無しにいきなりデジタルを取り上げてしまうと子どもたちに大きなストレスがかかります。
復旧するまでの間ずっとというわけにはいきませんが、小型の発電機やバッテリーなどを利用して、

「今電気が使えなくなってしまったから、一緒に我慢しようね」

など説明する時間を確保するだけでも心に余裕ができます。

その他にも、できる範囲で身体を動かしたり、睡眠サイクルをなるべく守ってあげたりするなど、習慣をなるべく崩さないように生活できると良いですね。

親子

【メンタル面で気をつけたいこと】

体調を崩さないための備えも大切ですが、それと同じくらい大切なのは「心」を守ること。大きなストレス下の生活は、心身ともに苦しみをもたらします。
災害時だからといって、自分を我慢させることはありません。

実際に過去の体験談では、
「音楽に救われた」
「本ばかり読んでいた。その時は気が楽だった」
「推しが居てよかった」
「甘いものが食べられた時嬉しくて涙が出た」
「お酒をみんなで飲んだら前向きな気持ちになれた」
「子どもの遊びスペースができたときとても嬉しかった」
など、それまでの生活で心の支えになってきた存在がいかに大切であるかが多く寄せられました。
災害時に自分の心の支えになるもの。今のうちから是非考えてみてください。

また、一人で抱え込まず、複数で行動することも重要なポイントです。
災害時は、パニックに陥り、冷静な判断や行動が困難になります。積極的に声を掛け合い、友人やご近所さんなど協力して過ごすと良いでしょう。

 

【犯罪面で気をつけたいこと】

あってはならないことですが、災害時に性犯罪が起こったのも事実です。停電により死角の増加、他者との生活スペースの共有によりセキュリティ面が低下してしまうためです。また、本当に残念なことに、そのような事実は、被害者を保護するため他の情報に比べて報道されることが少なく、犯罪者が野放しになってしまっているケースまであります。何も言えずに苦しんでいる方々(これは女性に限りません)がいらっしゃることを忘れてはならないのです。

これは決して許されるべきことではありません。
私たちにできることは、そのような犯罪に巻き込まれないよう自身の身を守ることと、そのような犯罪者を追求し続けるべきことだと思います。

気を付けるべきポイントとしては、
・なるべく一人で行動しないこと
・ユニセックスな服装で過ごすこと(普段は全く自由であるべきですが、特に寝る時間などは気を付けると良いでしょう)
・不審な人が万が一いた場合は、誰かに即知らせること
死角のない、安全な避難場所を積極的に作っていくことも防災の大切な視点です。

 

② 災害時に大切な電気について

前述もした通り、災害が起こると、ライフイン(電気・水道・ガス)が滞ってしまいます。

特に停電は、多くの被災体験で、
「真っ暗闇を初めて体験した」
「死角ばかりで日が落ちるのが怖かった」
「エアコンが止まって寒かった」
「スマホのバッテリーがなくて情報収集が困難だった」
などの声が寄せられています。

パニック状態に陥りやすい災害時、手元や空間を照らす明かりは真っ先に必要なもの。また、私たちの今の生活に必要なスマホの携帯用バッテリーも欠かせないアイテムです。
・懐中電灯(ヘッドライトタイプがおすすめ)
・ランタン(各部屋に準備しておくと安心)
・モバイルバッテリー(スマホの充電用)
・家庭用小型発電機
などが家にあると心強いでしょう。

また、気をつけなければならないのが「通電火災」です。
災害時に一気に停電になり、復旧した際にショートしてしまうことなどが原因で起こる火災のことです。東日本大震災の際も、通電火災が原因のものがありました。

自然災害で停電した際には、
・ブレーカーを落とす
・電源プラグを抜いておく
などの対策を図ってください。

いかがでしたか? 女性に限らず、様々な視点でみてみると、必要な防災が改めて見えてきます。 「命」と「生活」を守る防災、是非周りを巻き込んで防災力を上げていきましょう!

 


冨川万美さん

冨川 万美(とみかわ・まみ )

NPO法人 MAMA-PLUG アクティブ防災事業代表。 青山学院大学卒業後、大手旅行会社・PR会社勤務を経てフリーランスに転向。東日本大震災の母子支援を機に、子連れや家族のための防災を啓発するためにNPO法人MAMA-PLUG設立に携わる。被災体験を元にした「アクティブ防災」を提唱し、全国各地でのセミナー・自治体との連携・イベント・企業との協働・書籍の出版及び監修など様々な分野で活躍中。東京都「東京くらし防災検討・編集委員」、農林水産省「あってよかった家庭備蓄」委員、厚生労働省「非常時における児童館の活動に関する調査・研究」委員、東京都「帰宅困難者対策に関する検討会」委員などを務める。主な著者に、「子連れ防災BOOK」、監修本に「いまどき防災バイブル」。

【WEBページ】https://web-mamaplug.com/


★さらに災害時の対策・備えについて知りたい方はこちら!


電気事業連合会特設サイト「災害にそなえて」