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家庭における電気火災。身近に潜むその危険性と防止法について元レスキュー隊員の“タイチョー”こと兼平豪さんに聞いてみた

2023.08.31

電気製品の使い方を、うっかり間違えたりすることで発生してしまう電気火災。火災を引き起こす原因や、日頃からできる防災対策を、頭の中に入れておきたいところです。そこで、 “タイチョー”としてYouTubeの『RESCUE HOUSE』で防災情報を発信する、元レスキュー隊員の防災アドバイザー・兼平豪さんにインタビュー。多くの火災・災害現場での経験で培った、効果的な防火対策やいざという時の対処方法等についてうかがいました。

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元レスキュー隊員の“タイチョー”こと兼平豪さん

身近で起きる恐れのある電気火災

――あまり聞き慣れない言葉ですが、電気火災とはどのような原因による火災なんでしょうか?

電気火災は年々増加傾向にあるので、この機会にみなさんに知っていただきたいと思います。
電気火災の原因で多いのが、たこ足配線です。それ以外でよくあるのは、トラッキングと呼ばれる現象です。トラッキング火災とも呼ばれ、コンセントにプラグを長時間差し込んでおくと、コンセントとプラグの間に溜まったホコリが空気中の湿気を吸収して徐々に電気を通しやすい状態になり、そこから放電して発火してしまうんですね。特に手が届きにくい、冷蔵庫やテレビの裏などは要注意です。
また、配線コードを冷蔵庫など重たいものに踏まれたままにしておくと、配線がショートし、火災につながる恐れがあります。

 

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電気火災の原因で多いのが、たこ足配線。繋げ過ぎによる過負荷は要注意!

――”電源の周り”が多いということですね。

そうですね。例えば、たこ足配線により過電流が続いてしまうと、コンセントや電源タップが発熱し、火災になってしまうことがあるんですね。様々な火災現場を経験してきて、たこ足配線による過負荷(オーバーヒート)は、10代~20代の一人暮らしに多く、逆に60代~70代の家庭での電気火災は、トラッキング現象が原因になっていることが多いと感じます。特に、居住年数が長い方のケースでは、細部まで掃除できていないコンセント回りやエアコンから発火する場合があるんです。また、古い一軒家だと、分電盤が屋外に設置されていることもあり、経年劣化や雨に濡れたことによるショートが火災の原因になります。線状降水帯や大型台風による大規模な洪水など水害にも注意が必要ですね。

ちなみに、通電火災ってご存知ですか?実は、大地震による火災の半数以上は通電火災が原因なんです。例えば、揺れによって落下あるいは転倒などして壊れた家電に電気が流れて、破損箇所から出た火花が原因で火災になるようなケースもあるんです。このように災害時の電気による危険性を、皆さんにぜひ知っていただきたいと思います。

誰にでもできる、電気火災の防ぎ方や対処方法とは!?

――予防のために、どういった対策が必要でしょうか?

注意するのは、電源タップのたこ足配線ですね。接続する数を増やさないということです。よく消防庁が「使用する電気機器の電流値を確認して、容量オーバーにならないように」といった発信をしています。そして、100円ショップで買える『コンセントカバー』などを利用して、コンセントとプラグの間にホコリが溜まらないようにすることが有効だと思います。引越しやリフォームした際に、日頃手が届きにくい冷蔵庫やテレビ裏のコンセントに装着しましょう。たった100円で、電気火災のリスクをかなり減らすことができるのでおすすめです。
また、地震の際の通電火災のリスクを減らすために、大きな揺れを感じると電気を自動的に止める『感震ブレーカー』という器具を分電盤などに装着するのも1つの手です。これは、東日本大震災で実際に役立ったというデータも出ています。このような器具の利用も大切ですが、災害が起きたら、まずはブレーカーを落とすことを心掛けましょう。

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大規模地震に備えるための、家庭での停電対策についてのチラシ(内閣府 防災情報のページより引用)

そして、レスキュー隊員として僕が感じたことですが、部屋を常に綺麗にしておくことですね。なぜかというと、整理整頓ができていない部屋は、ホコリも溜まっていたり、服が脱ぎ散らかしてあったり、雑誌などが床に散らばっていたりと、燃えやすい環境でもあるからです。

――電気製品の適切な使い方や、家庭で注意すべきポイントがあったら教えてください。

電子レンジの正しい使い方を知らない人って、意外と多いんですよ。そして、誤った使い方による火災事故も多いんです。「電子レンジが燃えています!」って119番通報が消防に入るんですけど、まず僕が言いたいのは、それは燃えているのではなく、燃やしたんです、ということ。でも、電子レンジの中に入れていいものと、ダメなものって、どこでも習わないですよね。恐らくみなさんも「なんだっけ?」って、考えると思います。
例えば、肉まんとイモ類って、チンしますよね?実はこの2つは爆発的に燃えるので、とても危険なんです。肉まんはパッケージに記載されている「温め〇〇分」という指示通りなら大丈夫なのですが、怖いのは自動で温める場合。おすすめモードでピッと押すのはやめましょう。肉まんをテイクアウトした海外の旅行客が電子レンジで過度に温めすぎて、火災を起こすケースが見受けられるほど、よくある火災なんです。

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電子レンジも、使い方を間違えると大きな火災を起こす原因となる

また、電気製品の使用時に異常な熱量を感じるか?感じないか?という点も、注意すべきポイントです。僕の講演会で質問を投げかけてみると、「あれ?ドライヤーってこんなに熱かったっけ?」と思ったことがある人が7割くらいいました。買ったときと比べて熱くなるようであれば古くなった証拠です。異常な発熱を感じたら、使用するのを止めましょう。
それから、製品に『PSEマーク』があるかどうかも要チェックです。これは、この電圧なら日本での使用が安全と認証するマークで、電気製品を日本で製造・輸入する業者が、電気製品に表示しなければならない。つまりこのマークがないと国の定めた技術基準に適合していない恐れがあり、販売できないんですね。だから僕は、ECサイトの通信販売で海外から電気製品を購入する際、このPSEマークの有無を必ず確認しています。

――家庭での防災教育は、どのような方法が効果的ですか?

僕自身が仕事で家をよく空けているので、子供たちには、「パパがいない時に、どうやって命を守るのか?」って、教えていることがあります。それは、先ほども言った、「災害が発生したらブレーカーを落とす」ということです。逆に、それしか伝えていません。「窒息消火にはこういう方法があって、あとは消火器がここにあるからこれで消火する」って、細かく言っても覚えられないじゃないですか。素人が判断をして、「うん。安全になった」っていうのは、僕からすると、まだまだ危険が残っている恐れがあります。簡単に子供たちでもできる安全策となると、ブレーカーを落とすことが対処法として最適です。もちろん119番に電話することも忘れてはいけませんね。

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災害が発生したら、まずはブレーカーを落とすことが最善の策

それから、子供たちには、みんなが手を出しにくいところを掃除するように、“ホコリ探しゲーム”として、日頃から掃除することも教えています。2ヶ月に1回くらい、おばあちゃんの家に遊びに行くのですが、そのときに「ホコリ探しゲームしよう」と一緒にやっています。ホコリだけでなく、たこ足配線まで見つけたり、子供と家で楽しく遊びながらやるっていう対策はしていますね。すべての防災対策において、楽しくて自分からやりたくなることが重要だと思っています。

――家庭で電気事故に直面した場合の対処法について、正しい知識を得るにはどうしたらいいでしょうか?

正しい知識を得るには、消防の防災イベントや救命講習に出るのがおすすめですね。あとは自治体が発信している動画を視聴するのも一つの手です。そして、『RESCUE HOUSE』のYouTubeで消防豆知識や防災豆知識などの動画を観てください。消防では、今でも地震があったら机の下に隠れようと言っています。でも学生たちは「もう知っている、面白くない」と、避難訓練も真剣には取り組みません。防災について伝えようとしても今までの方法では響かないので、『RESCUE HOUSE』では、興味を持って視聴いただけるように、みなさんが知らない非現実部分と防災を織り交ぜて配信するように心がけています。

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消防・防災を中心にさまざまな情報を発信するYouTubeチャンネル『RESCUE HOUSE』

電気製品による火災って、水で火が消せないって知っていますか?このときの行動が生死をわける分岐点になるんです。もし、初期消火で水をかけたら、爆発してしまうかもしれません。正解はブレーカーを落としてコンセントからプラグを抜くことです。冷蔵庫の裏にコンセントがある場合は、ブレーカーだけでも落としてください。意外と知られていないので、これだけでも知っておくとパニックにならずに済みますよ。日本の防災教育って、江戸時代の火消しからアップデートされていないんです。習う場所がないというのが現状なんですね。そのため、みなさんどうしても勉強不足になってしまうのです。

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企業での研修時の様子

一人でも多くの人と手を繋ぎ、未来を守る防災を

――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

いつ、どこで、誰が、災害に遭うかわからないんですよ、本当に。危険は常に隣り合わせなんです。防災について“知る”ということは、あなたと大切な人の“命を守る”ことにつながります。ですから、人の命は運任せにしてはいけないと僕は思います。よく映画やアニメで死んだ人が復活するシーンがありますが、災害で失った命はどれだけ悔やんでも、お金を積んでも、絶対に戻ってこないです。あなたと大切な人の未来を守るため、ほんの5分でもいいので防災について学ぶために時間を割いて欲しいなと思います。

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――防災って、まさに未来を守ることですね。

そうです。命を失ってしまったら絶対に戻らないんですよ。僕は、火災をはじめ様々な災害防止のために普及・啓発の活動をしています。でもそれを素晴らしい活動だと思って欲しくないんです。僕は、「〜をしていたらよかった」をなくしたい。災害が起きた時に、「あれをやっておけばよかった」、「これができていたら助かったんじゃないか」って後悔するのは、レスキュー隊員だけでいいと思っています。この後悔をみなさんにして欲しくないというのが僕の願いです。後悔しないために、今この5分でできることがあるんです。それを1人でも多くの方に理解して実践いただきたいですね。
この仕事は、防災についてただ発信すればよいというわけではないと思っています。防災をして!これを持っていて!ではなく、「そういえばタイチョーこんなこと言っていたな。俺たちもこうしよう」と当たり前のように行動できるように、1人でも多くの方と手を繋いでいく。それが本当の意味での防災だと思っています。

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タイチョー(兼平豪)

元大阪市消防局職員/防災アドバイザー。株式会社VITA代表取締役。元レスキュー隊員として「助かる命を助けるために」をテーマに、防災YouTubeチャンネル「RESCUE HOUSE」を運営。災害現場のリアルな声とともに、災害大国ニッポンならではの「気づき」を日々発信している。YouTube登録者27.8万人(2023年8月現在)。
公式HP:https://vita-rescue.com

 

著書『いますぐ食べたい! 冷凍食品の本[レシピ付き]』(自由国民社)

著書『消防レスキュー隊員が教える だれでもできる防災事典』(KADOKAWA)

 

企画・編集=Concent 編集委員会


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