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地震で停電や断水になったら?専門家に聞く「災害時のトイレ対策」

2024.03.29

いつ起こるかわからない自然災害。ひとたび大地震が起これば、家の倒壊や停電、断水で、普段どおりの暮らしができなくなることも。そんなときに気になるのが、災害時のトイレ事情です。自宅のトイレは流していいの?事前に備えておくべきものは?今回はそんな災害時のトイレに関する疑問について、日本トイレ研究所代表理事の加藤篤さんにお伺いしました。

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NPO法人 日本トイレ研究所代表理事の加藤 篤さん(提供:日本トイレ研究所)

 

「トイレ」を通してより良い社会づくりを

――はじめに、加藤さんが代表理事を務める日本トイレ研究所は、普段、どのような活動をされているのでしょうか。

日本トイレ研究所は「トイレを切り口に社会を良くしていく」ことをコンセプトに活動しています。ここ数年は特に、「災害時のトイレ対策の推進」、「子どもやお年寄りが健康的に排泄するための環境づくり」、「街中のトイレのバリアフリー」の3つに力を入れており、トイレにまつわる情報をホームページやYouTubeなどで発信しています。

排泄における健康問題、し尿処理の改善といった課題は、多岐に亘る分野の人々がつながり話し合う必要があります。そのために、フォーラムやシンポジウムの開催、講演活動のほか、子どもたちにトイレにまつわる出前授業などを行っています。また、被災地まで避難所のトイレ利用や衛生状況に関する調査に行くこともあります。

 

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加藤さんは排泄やトイレの大切さについて、全国各地で講演活動を行う(提供:日本トイレ研究所)

 

災害直後はトイレの水を流せない?災害時のトイレ事情

――地震などの災害直後、トイレの水は流さないほうが良いと聞きますが、それは本当でしょうか?

地震が起きた直後は、排水管や下水道等がどうなっているのかがわからない状態です。そんなときにいつものように排泄をしてしまうと、水が流せずに便器の中に汚物が残ったままになってしまう恐れがあります。また、水が流れたとしても、その先の排水管がどうなっているのかまではわかりません。
排水管は、戸建住宅だと1階と2階、集合住宅だと自分の住戸と上下階がつながっています。もしどこかで配管が壊れている場合、汚水が漏れてしまったり、トイレから溢れてしまったりと、何らかのトラブルが起きることが考えられます。

自分の家のトイレを守るため、そして排水管がつながっている先の人に迷惑をかけないためにも、大きな災害直後はすぐに水洗トイレを使わないことが基本です。まずは、携帯トイレなどの災害用トイレを使用するのが良いでしょう。
 

4つのタイプに分類される災害用トイレ 

――災害用トイレにはどんな種類があるのでしょうか?

ひと口に災害用トイレといってもさまざまで、自宅や避難所などの屋内で使うものと、工事現場やイベント会場などの屋外で使うものがあります。今回は、4タイプの災害用トイレをご紹介します。 

 

【屋内トイレ】

・携帯トイレ

元からある便器にかぶせて使う袋式のトイレ。凝固剤または吸収シートタイプがある。

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携帯トイレ(提供:日本トイレ研究所)

 

・簡易トイレ

簡易的な便座・便器がセットになっているトイレ。携帯トイレを取りつけるものや貯留するものがある。袋を自動でパッキングするものもある。車椅子の人がトイレまでアクセスできない場合など、新たな場所にトイレを作る必要があるときに役立つ。

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簡易トイレ(提供:日本トイレ研究所)

 

【屋外トイレ】

・仮設トイレ

工事現場や野外イベント会場などでもよく使われている移動式トイレ。給排水の工事が不要でどこにでも設置できるが、水の補給や汲み取りが必要。

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仮設トイレ(提供:日本トイレ研究所)

 

・マンホールトイレ

避難所などで専用のマンホールの蓋を開け、その上に便器や仕切りを設置して使うトイレ。排泄物は下水道へ直接流れていくので衛生的。便槽に貯留するものもある。

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マンホールトイレ(提供:日本トイレ研究所)

 

4タイプの災害用トイレを紹介しましたが、どれか1つがあればOKというわけではありません。携帯トイレだけを使い続けることになると、保管するゴミの量が増えてしまいます。仮設トイレやマンホールトイレが設置されていたら、日中はそれらを使用し、夜間や悪天候時は外には出ずに携帯トイレを使用する、という使い方も考えられるでしょう。利用する場所や人のニーズを考えながら、複数の災害用トイレを組み合わせて使用するのがベターです。

ただ、自宅で最低限備えておいてほしいのは「携帯トイレ」です。これさえあれば、いつも使っているトイレで用を足すことができます。私は、トイレには「安心」が一番大事だと考えています。災害の状況下にあったとしても、できるだけ日常に近い状態で排泄ができれば、多少なりとも安心につながるはずです。

 

携帯トイレの使い方と廃棄の仕方

――携帯トイレの使い方を教えてください。

ここでは、排泄物を凝固剤で固めるタイプの携帯トイレの使い方についてご説明します。

1. ポリ袋を便器にかぶせる 
まずは45Lくらいのポリ袋を用意します。蓋と便座を上げて、便器にポリ袋をすっぽりかぶせてください。もともと便器内にある水は、臭いや害虫予防のためそのままで構いません。いきなり携帯トイレを取り付けると、便器に溜まった水で袋が濡れてしまい交換するときに面倒です。ポリ袋をセットしておけば、使用後は携帯トイレだけを交換すればOKです。

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2. 携帯トイレの袋を取り付ける 
便座を下げて、その上から携帯トイレを取り付けます。排泄物が漏れないように、便器の中にしっかり空間を作るのがポイントです。ここに用を足し、使用したトイレットペーパーも携帯トイレの中へ一緒に捨ててしまって構いません。

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3. 排泄物の上に凝固剤を振りかける
 排泄物の上に凝固剤を振りかけます。一回の排泄ごとに携帯トイレをはずし、しっかり空気を抜いて口を結びます。

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今お話ししたのは、あくまで一般的な使い方です。携帯トイレには吸収シートを使うタイプもありますので、携帯トイレをお持ちの方は、その商品の取り扱い説明書に目を通しておきましょう。
また携帯トイレの使い方は、日本トイレ研究所のYouTubeチャンネル内【災害備蓄の必需品 携帯トイレについて】でも紹介しています。動画で確認したい方はぜひこちらもご覧になってください。

 

――使用済みの携帯トイレはどのように保管・廃棄するのが良いでしょうか?

ゴミの回収が来るまでは、臭いが漏れないように蓋のついた入れ物に入れて保管しておきましょう。し尿ゴミは燃えるゴミに分類されることが多いですが、お住まいの市区町村でのゴミの捨て方を必ず確認してください。

し尿ゴミを液体のまま出してしまうと、袋が破れて中身が飛散してしまうことも。非常に不衛生ですし、健康被害にもつながりかねません。排せつ物がしっかり固まった状態で捨てることが大切です。さらに、「大小便が入っているゴミ」ということがわかるようにして、普通の燃えるゴミとは袋を分けて出せるといいですね。

 

携帯トイレの選び方と用意する個数

――携帯トイレの選び方を教えてください。

携帯トイレを選ぶポイントは以下の3つです。

・住んでいる市区町村で回収できるもの
・吸収量が十分で、しっかり吸収・凝固するもの
・消臭・防臭対策が備わっているもの

最近は、携帯トイレの性能が向上し、特徴的な製品も多く出てきています。立ったまま使用できるものなど、バリエーションも豊富です。ただ、何よりも重要なのは使いやすさです。災害時でも安心して使えるものかどうか、試しに一度使ってみるのもおすすめです。

 

――携帯トイレはどれくらいの数を用意しておけばいいでしょうか?目安を教えてください。

政府の防災基本計画やガイドラインに基づくと、備えておくべき携帯トイレの目安は「5回×日数」「最低3日分、推奨7日分」です。ですから、1人あたり最低でも5回×3日分で15個は必要ですね。
ただ、人によってトイレに行く回数は異なるので、1日にトイレに行く回数を踏まえたうえで適量を備えておくと良いでしょう。

 

――最低でも1人15個となると、家族単位で考えると結構な量が必要ですね。

災害時に水や食料はすぐに配給されても、トイレの配備・整備には時間がかかるケースが多いです。トイレに行くのを控えようと水を十分に飲まず、体調を崩してしまう事例も過去に繰り返し起きています。そのうえ、携帯トイレは人からもらったり借りたりしづらいものです。ご自身やご家族の健康のためにも、絶対に備えておきましょう。

 

家族が安心できるトイレについて話し合ってみよう

――最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。

自宅にしても避難所にしても、非常時は頭を悩ませることがたくさん出てきます。水や食事などの目下の問題から、場合によっては生活の再建についての不安もあるでしょう。そんなときに、少なくとも排泄については悩まなくて済むよう、平時のうちに災害用トイレを準備しましょう。
そして、携帯トイレの使い方や使い勝手、トイレに行く回数について、ぜひ家族で話し合ってください。そういった時間が、いざというときの備えと安心につながるはずです。

 

 

誰もが使うものなのに、見落としがちな災害時のトイレ対策。携帯トイレの備えが足りてないかも!と焦った人も多いのでは?いざというときのためにも安心できるトイレ環境をしっかり備えておきたいですね。

 


加藤 篤(かとう あつし)

NPO法人日本トイレ研究所 代表理事。トイレを通してより良い社会づくりを目指し、全国各地での講演のほか、小学校のトイレ空間改善や研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業などを展開。また、災害時にも安心できるトイレ環境づくりに取り組む。主な著書に『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)、『うんちはすごい』(イースト・プレス)。

SNS(X):https://twitter.com/pooprince/

公式HP:https://www.toilet.or.jp/

 

「トイレからはじめる防災ハンドブック」

『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)

 

「うんちweek」

日本トイレ研究所では、多くの人に排泄に意識を向けてほしいという思いから「うんちweek」を毎年11月10日(いいトイレの日)~19日(世界トイレの日)に開催

 

企画・編集=Concent 編集委員会


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