女性にとって生理や不妊、妊娠、更年期障害などの健康課題は、働き方やライフイベントにまで影響があることも。しかし今、テクノロジーの進化によって、女性のQOL(クオリティ オブ ライフ)を向上してくれる製品やサービスが、続々と登場しているのだそう。そこで今回は、産婦人科専門医で「THIRD CLINIC GINZA」院長の三輪先生に、女性のヘルスケアアイテムの最新事情についてお話を聞きました。
産婦人科専門医・マンモグラフィ読影認定医・産業医、「THIRD CLINIC GINZA」院長の三輪綾子先生
女性が「我慢せずに働ける社会」が日本の明るい未来をつくっていく
――はじめに、三輪先生は普段どのような活動をされているのでしょうか。
産婦人科専門医として働きながら、一般社団法人予防医療普及協会の理事として、女性のヘルスケアの啓発をしています。その一環として、2022年に女性の社会参画を支援する「Qプロジェクト」を発足しました。女性が我慢しないで健やかに働ける社会をつくりたいという理念のもとに、女性のヘルスケアに関する企業向けの講演会やセミナーの開催、社員がより快適に過ごせる職場環境づくりのお手伝いなどを行っています。
Qプロジェクトでは「女性が我慢しないですむ社会」を目指す(Fast&Slow / PIXTA)
「フェムケア」「フェムテック」の浸透でタブーのない社会へ
――最近は女性のヘルスケアに関して、「フェムケア」「フェムテック」というワードをよく耳にします。
「フェムケア」とは、「Feminine(女性の)」と「Care(ケア)」を組み合わせた造語で、女性特有の健康問題に対するケアを指す言葉です。そして、「フェムテック」とは、「Feminine(女性の)」と「technology(テクノロジー)」を組み合わせた造語で、女性の健康課題をテクノロジーで解決しようというものです。
日本においては、「フェムテック」という言葉はある種のムーブメントとして使われていると感じます。例えば、これまで生理用品といえばほぼナプキン一択でしたが、現在は月経カップ、月経(吸水)ショーツなど、さまざまな選択肢が普及し始めています。そもそも生理の時の痛みや経血の量は人によって全く違うのだから選択肢を広げていこう、そうした動きも含めて「フェムテック」と総称していることも多いです。
――「フェムケア」「フェムテック」が社会に浸透することで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
生理、更年期、妊娠、不妊治療など、これまで女性がオープンにしにくかった悩みについて、声を上げやすくなっていると思います。そして、男性もそういったワードに触れることで、タブー感がなくなりつつあります。もちろんデリケートな内容ですから、男女間で一定の配慮が必要ですが、女性のヘルスケアについて拒絶感がない社会に少しずつ近づいていけると良いですよね。
女性特有の悩みを我慢せず、オープンにできる環境が重要(USSIE / PIXTA)
ゲーム感覚で膣トレ!?最新テクノロジーを使った「フェムテック」
――「フェムテック」の製品やサービスにはどんなものがありますか?
生理日や排卵日などを記録することで自分の体調や生理周期を管理する「月経管理アプリ」を使っている女性は多いと思います。最新テクノロジーを使ったフェムテックと言えますね。
100年ほど前の女性は多産だったこともあり、生涯を通して50回くらいしか生理がありませんでした。しかし現代の女性は出産回数が少なく、生理が始まる年齢も若年化しているため、生涯で約450回も生理を経験すると言われています。その450回とうまく付き合っていくためにも、自分のデータを蓄積して、どのくらいの周期で生理が来るのか、どんなタイミングで気分の浮き沈みが現れるのか、そういった体調の変化をログに取って自分で把握できるというのは、すごく画期的なことだと思います。生理周期を管理するだけじゃなくて、「自分を知る」ためのデバイスアプリですね。
三輪先生は「月経管理アプリはぜひ活用してほしい」と話す(SeventyFour / PIXTA)
――三輪先生が注目している「フェムテック」アイテムを教えてください。
個人的に驚いたのは、生理痛の緩和や自律神経を整える効果のある音楽が流れるアプリです。“デジタル鎮痛剤”とも謳われていて、「ザワザワ~」と耳をくすぐるようなヒーリングサウンドが痛みの知覚に働きかけるのだそうです。
ゲーム感覚で骨盤底筋トレーニングができるデバイスも面白いと思います。出産や加齢によって骨盤底筋が緩んでくると、くしゃみをした瞬間や椅子から立ち上がった時など、ふとした拍子に尿もれしやすくなります。そこで効果的なのが、骨盤底筋トレーニング、いわゆる「膣トレ」です。膣内に医療用シリコンでできた本体を挿入して膣をキュッと引き締めると、内蔵されたセンサーが膣内の筋肉の動きを測定して、専用アプリにデータを送信します。膣圧によってアプリ内のゲームの動きを操作することで、骨盤底筋を鍛えることができます。
このように、最新のテクノロジーを使ったフェムテックアイテムは日々進化しているので、チェックしてみると面白いですよ。
――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
社会はどんどん変化していて、女性がやりたい仕事に就き、活躍できる環境が整ってきています。だからと言って、多少無理をしてでも頑張るのではなく、自分の体を第一に考えて大切にしなければいけません。特に女性の場合は、子宮頸がん、乳がんなど、若い頃から予防しておくべき病気がたくさんあります。
ですから、自分で自分の体とちゃんと向き合って、心身共に健康であり続けられる方法を常に模索していくことが、社会で活躍していくためには重要です。つらさを一人で我慢せずに、「ちゃんと解決方法があるんだ」ということをまずは知っておいてほしいですね。
テクノロジーの進歩は、社会や私たちの生活をより良いものに変えてくれます。今後は、フェムテックをはじめさまざまな分野でAIの普及が見込まれ、それに伴い膨大なデータを処理するデータセンターも増加し、今よりもたくさんの電気が必要になると予測されています。 こうした状況に対応するために、新たな発電所を建設することも必要になるかもしれませんが、発電所の建設にはすごく時間がかかります。今まさに、将来必要な電気をしっかりと確保できる仕組み作りが議論されていますので、みなさんも大切なエネルギーについて考えていくことが必要です。
三輪 綾子(みわ あやこ)
2010年、札幌医科大学卒業。順天堂大学産婦人科学講座に入局。産婦人科専門医、マンモグラフィ読影認定医、産業医。「予防医療普及協会」の理事として、女性特有の健康問題や疾患について情報発信していくためメディアに多数出演。2022年、THIRD CLINIC GINZA(サードクリニック)を開院し院長に就任。著書に『女性の「ヘルスケア」を変えれば日本の経済が変わる』(青志社)。
Qプロジェクト:https://q.yobolife.jp/
企画・編集=Concent 編集委員会