薄い、軽い、曲がる!世界が注目する「フィルム型ペロブスカイト太陽電池」とは?

2025.07.14

今、日本発の技術でつくられた「フィルム型ペロブスカイト太陽電池」が世界で注目を集めています。その理由は、「薄い、軽い、柔軟性があって曲げられる」という特長にあります。現在主流となっているシリコン製の太陽光パネルはずっしりと重く、置く場所が限られていますが、フィルム型ペロブスカイト太陽電池はその柔軟性のおかげで建物の壁面にも設置できるため、多くの場所で活用され、太陽光による発電量を増加させることが期待されています。今回は、フィルム型ペロブスカイト太陽電池の開発をけん引する企業の一社である、積水ソーラーフィルム株式会社の取締役 技術・開発部長の森田健晴さんに、フィルム型ペロブスカイト太陽電池について教えてもらいました。

 

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積水ソーラーフィルム株式会社 取締役 技術・開発部長の森田健晴さん

 

設置場所の自由度が高い「フィルム型ペロブスカイト太陽電池」

――はじめに、森田さんが携わっているお仕事について教えてください。

私は、積水化学工業に所属しながら、積水ソーラーフィルムの取締役 技術・開発部長として「フィルム型ペロブスカイト太陽電池」の開発を管轄しています。フィルム型ペロブスカイト太陽電池の開発は、親会社である積水化学工業が2011年から進めており、2025年1月にフィルム型ペロブスカイト太陽電池の設計・製造・販売を行う新会社として積水ソーラーフィルムが設立されました。私はフィルム型ペロブスカイト太陽電池の開発初期から携わっています。

 

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2023年のG7広島サミットでは、カーボンニュートラルに貢献する日本の最先端技術としてフィルム型ペロブスカイト太陽電池が紹介された(提供:積水化学工業)

 

――フィルム型ペロブスカイト太陽電池とはどのようなものか教えてください。

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フィルム型ペロブスカイト太陽電池(提供:積水化学工業)

 

ペロブスカイト太陽電池は、「ペロブスカイト」と呼ばれる結晶構造を「発電層」に用いた新しいタイプの太陽電池です。ペロブスカイト太陽電池はガラスに埋め込むタイプのガラス型とフィルム型の2種類があり、日本で主流なのはフィルム型です。フィルム型は従来のシリコン製の太陽光パネルと比べて、重さが1/10程度と非常に軽く、厚さはわずか1ミリ程度。柔軟性が高く、曲げることもできます。また、フィルム上に原料となる溶液を塗布するだけで製造できるため、従来のパネルと比べて生産性が高いというメリットもあります。

原料を国内で調達できる点も大きな強みです。ペロブスカイトの主な原材料は「ヨウ素」で、日本はこのヨウ素の産出量が世界第2位、埋蔵量では世界第1位といわれています。

 

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フィルム型ペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコン製の太陽電池と比較してメリットが多い(提供:積水化学工業)

 

ペロブスカイト太陽電池は日本発の技術であり、世界をリードしています。2015年度からは、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が中心となって国のプロジェクトが始動。積水化学工業、東芝、パナソニックなどの企業が参画し、研究開発が本格化しています。

 

――なぜ今、ペロブスカイト太陽電池への注目が高まっているのでしょうか。

カーボンニュートラルの実現に向けて再生可能エネルギーの導入が進められていますが、太陽光発電に関しては、日本は平地が少なく、太陽光パネルを設置できる場所に限りがあります。すでに、日本の平地面積当たりの太陽光発電の設備容量は、世界第1位です。また、既存の住宅では屋根の耐荷重の制約から、シリコン製の重い太陽光パネルが設置できないケースも少なくありません。しかし、フィルム型ペロブスカイト太陽電池なら軽くて柔軟なので設置場所の自由度が高く、建物の屋上だけでなく、壁や窓、曲がる特性を生かして柱等の曲面にも設置できるため、活用が期待されています。

フィルム型ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた研究・開発を進める中で、太陽光をどれだけ電気に変換できるかを表す「変換効率」、そして「耐久性」が飛躍的に上がっています。エネルギー自給率向上と環境負荷低減に貢献する技術として注目されています。

 

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日本の平地面積あたりの太陽光設備容量は、各国と比較すると突出している状況。太陽光パネルの新たな設置場所の確保が課題となっている(出展:資源エネルギー庁「太陽光発電の政策動向」 2024年5月29日)

 

――フィルム型ペロブスカイト太陽電池の変換効率と耐久性について、詳しく教えてください。

一般的に、シリコン製太陽電池の電気への変換効率は20%程度と言われていますが、現在のフィルム型ペロブスカイト太陽電池は15%程度とそれより低い状況です。変換効率の向上に向け、東京大学、九州大学、京都大学などの研究室と連携して研究を行っているところで、すでに小面積での実験では25%を超える結果も出ています。面積を広げても同等の結果が出せるよう実証を進めながら、変換効率のさらなる向上を目指しています。

耐久性の面では、屋外で10年程度の耐用年数を見込める水準に達していますが、2025年中にこれを20年程度にまで引き上げること、そして将来的にはシリコン製と同等となる20年以上とすることを目標としています。この耐久性向上の鍵を握るのが、発電層をしっかり密閉し、雨などの侵入を防いで水分による劣化から守る「封止」という技術です。

 

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フィルム型ペロブスカイト太陽電池の断面構造(提供:積水化学工業)

 

発電層を保護するバリアフィルムの下に、「封止樹脂」を接着剤として使用することで劣化を防ぐのですが、実はこの封止技術は、テレビやパソコンなどの液晶ディスプレイに使われるもので、積水化学工業がもともと得意としていた分野です。この封止技術を応用することで、耐久性を飛躍的に向上させることができました。もちろん水だけではなく、光や熱に対する耐久性も重要ですので、発電層のペロブスカイト自体にも改良を加え、耐熱性・耐光性を強化しました。封止技術を軸に、ペロブスカイトや周囲の材料の性能も合わせて高めていくことが、実用化に向けたブレイクスルーにつながると考えています。

 

防災拠点に導入し、非常時の電力確保を目指す

――フィルム型ペロブスカイト太陽電池の今後の展開について教えてください。

2025年度中に一般販売を開始できる見込みです。まずは、体育館などの防災拠点に導入を進めていきたいと考えています。一般的に、体育館の屋根は軽量な金属でつくられているため、シリコン製の太陽光パネルは重すぎて設置できないことが多いです。しかし、軽いフィルム型ペロブスカイト太陽電池なら設置することができ、非常時の電力供給に役立てることができます。

 

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香椎浜小学校(福岡県福岡市)の体育館の屋根にフィルム型ペロブスカイト太陽電池を設置し、実証実験を進めている(提供:積水化学工業)

 

――メリットの多いペロブスカイト太陽電池ですが、普及に向けた課題はありますか。

先ほどお話しした耐久性の向上に加えて、コスト面での課題があります。従来のシリコン製の太陽光パネルと比べ、フィルム型ペロブスカイト太陽電池の価格は数倍となっているのが現状です。

しかし、初期コストは高くても、設置、メンテナンス、廃棄までを含めた一連の「ライフサイクルコスト」全体では、コストを低く抑えられる可能性が高いと考えています。

重たいシリコン製の太陽光パネルを50階建てビルの屋上に設置しようとすると、大規模な足場や機材が必要で、費用は億単位に上る可能性があります。フィルム型ペロブスカイト太陽電池をビルの壁面に設置する場合、例えば屋上から巻物を垂らすようにしてレールにはめていくだけの作業での設置が実現すれば、比較的少人数での対応が可能となります。 

 

大阪・関西万博のバス停に世界最大級のフィルム型ペロブスカイト太陽電池を導入

――ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けて、さまざまな実証実験が進んでいると伺いました。

大阪の夢洲(ゆめしま)で開催中の2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)で、世界最大級の規模となるフィルム型ペロブスカイト太陽電池を設置し、発電性能等を検証する実証実験を進めています。会場西側の交通ターミナルのバス停屋根に、全長250メートル、約500平方メートルのフィルム型ペロブスカイト太陽電池を設置し、発電した電力を蓄めて夜間の照明に利用しています。会場の「西ゲート」から出てすぐ近くにありますので、大阪・関西万博に行かれる際は一目見ていただけるとうれしいです。

 

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大阪・関西万博のバス停に設置されたフィルム型ペロブスカイト太陽電池(提供:積水化学工業)

 

その他にも、福岡市、香川県、福島県などの自治体と連携し、公共施設や学校などの建物にフィルム型ペロブスカイトを設置し、実証実験を行っています。今後、私たちの身近な場所でさらに導入が進んでいくことでしょう。

 

――最後に、今後の展望について教えてください。

フィルム型ペロブスカイト太陽電池を普及させるため、技術開発に力を入れるだけでなく、事業としての成功を目指していきたいと考えています。過去を振り返れば、シリコン製の太陽電池は、世界に先駆けて日本が開発をリードしていたものの、事業化の段階で中国に抜かれてしまった苦い経験があります。まずは国内でのサプライチェーン(製品をつくるための原材料や部品の調達から、製造、販売等を通じて消費者の手に届くまでの流れ)を構築し、量産化を実現させます。そして、競合他社も含めて日本企業がペロブスカイト太陽電池の海外展開をサプライチェーン全体で、まさにオールジャパンの体制で仕掛けていけば、日本の技術力で世界シェアを獲得することも夢ではないと思っています。

 

【編集後記】
「薄い、軽い、曲がる」という特長を持つフィルム型ペロブスカイト太陽電池は、設置場所の選択肢を広げ、様々な場所で活用されることが期待されます。日本発の技術が、世界をリードしエネルギーの未来を大きく変えると思うと、非常にわくわくしますね。
 

積水ソーラーフィルム株式会社

森田健晴(もりた たけはる)

1992年積水化学工業株式会社入社、カリフォルニア工科大学学術派遣、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)への出向を経て、2016年にコーポレート R&Dセンター 開発推進センター 次世代PVグループ長に就任。2011年NEDOからの復職以降、フィルム型ペロブスカイト太陽電池開発の中心メンバーとしてプロジェクトを進行。2025年1月に積水ソーラーフィルム株式会社が設立され、同社の取締役 技術・開発部長に就任。

積水化学工業株式会社:https://www.sekisui.co.jp/

積水ソーラーフィルム株式会社:https://www.sekisui.co.jp/company/network/japan/corporate/1426113_39950.html

 

企画・編集=Concent 編集委員会


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