日大文理RINGS エネルギーセミナー<前編> ~金田武司さんの特別講演「歴史から考える日本のエネルギー問題」をレポート!~

2026.02.24

2025年12月5日、日本大学文理学部キャンパスで日本大学文理学部次世代社会研究センター(以下、「日大文理RINGS」)主催のエネルギーセミナーが開催されました。セミナーの前半は、株式会社ユニバーサルエネルギー研究所代表の金田武司さんが登壇し、「歴史から考える日本のエネルギー問題」をテーマに特別講演。後半は、金田さんと日本大学文理学部 情報科学科准教授・日大文理RINGSセンター長の大澤正彦先生との対談が行われました。前編となる今回は、エネルギー資源が通貨の価値や戦争に関わっているという、これまで知ることがなかった新たな視点を提示された金田さんの特別講演の様子をレポートします。

 

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株式会社ユニバーサルエネルギー研究所の金田武司さん

 

「一万円の価値は誰が保証する?」エネルギー資源が少ない国の“国家破綻”という現実

一万円札の価値は、いったい誰が保証しているのでしょう。実は、日本では政府も日銀も「必ず一万円の価値がある」と約束しているわけではありません。その仕組みを考えてみると、エネルギーの話につながっていきます。

紅茶の産地として知られる南アジアの国・スリランカは、原油や石炭といったエネルギー資源がないため輸入に頼っていましたが、原油・石炭価格の高騰で支払不能(デフォルト)となって電力の供給が停止し、2022年に国家破綻しました。資源を持たない国は、破綻しそうになっても他の国がなかなか助けてくれません。「返せる見込みのない国にはお金は貸せない」という資本主義のルールがあるからです。資源がなければ電気が作れず、産業が回らず、借りたお金を返す力も生まれません。破綻直前には、イランから輸入していた石油の代金が払えずに、紅茶との物々交換を行っていたくらいです。

一方、世界最大の石油埋蔵量を持つベネズエラでは、「資源が豊富」という理由で大国から狙われるという問題が起きています。自国がなかなか豊かにならないことを問題視した政府が資源を国有化すると、アメリカとの対立が深まり、経済制裁によってハイパーインフレが発生しました。2019年1月のインフレ率は268万%。つまり、100円だったものが268万円になるという信じがたい事態です。

エネルギー資源の少ない日本も、極端なインフレが起こり得る国の一つ。「一万円に一万円の価値があるのはなぜか?」という問いは、遠い国の話ではなく、私たちの暮らしにもつながるテーマなのです。

 

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日大文理RINGSセンター長の大澤正彦先生(左)、日大文理RINGSに参加する土橋さん(中央)と古賀さん(右)の3名も壇上に上がり、金田さんと掛け合いをしながら和やかな雰囲気で講演が進められた

 

ドルの担保は金(ゴールド)から原油へ

では、「お金の価値は誰が決めているのか」。この話のカギになるのが、1971年にアメリカのニクソン大統領が発表した緊急声明です。一つ目は、「1ドル=360円」という固定レートの終了。二つ目は「金本位制の廃止」。これは、ざっくり言えば「ドルと金(ゴールド)は交換できますよ」という約束をやめるということ。それまでは、「ドルはいつでも金(ゴールド)と交換できる」ことから、ドルの価値は金(ゴールド)が決めていました。なぜこのようなことが起こったのかというと、実はアメリカはベトナム戦争で財政が逼迫していて、金(ゴールド)を出す余裕がなくなっていたから。

そこで、当時のキッシンジャー大統領補佐官は、世界経済をガラッと変えるアイデアを思いつきます。「金(ゴールド)がなくてもドルの価値を保証する仕組みをつくればいいじゃないか」と。そして打ち出されたのが、「中東の原油は、ドルでしか買えない」というルールでした。

原油は世界が豊かになるための必需品です。原油がなければ産業が動かず、経済は成長しません。そんな状況で「ドルを持っていない国は原油を買えません」と言われたら、世界中がドルを必要としますよね。こうして各国はドルをかき集め始め、ドルの価値は維持されていったのです。
 

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「原油はドルでしか買えない」というルールによって、ドルの価値が保証された(画像素材 / PIXTA)

 

しかし、当然ながら中東の産油国は、「うちの国の資源なのに、なぜアメリカだけが儲かるんだ!」と反発します。それに対してアメリカは、「他国から狙われる中東の油田はアメリカ軍が守る。そのために、油田の周辺に米軍を駐留させます」と切り返しました。一見すると親切な提案ですが、実際には軍事力によって、いつでも油田に影響力を及ぼせる(支配できる)立場を確保したわけです。

納得のいかない産油国では不満が爆発し、第4次中東戦争が起きた際に原油の値段を4倍にするという強烈な対抗策に出ました。これが世に言う「オイルショック」です。原油価格が跳ね上がり、世界中が大混乱に陥りました。しかし、それでも世界は原油がなければ経済が回らない。結局、どんなに価格が高くなっても、各国は原油をドルで買い続けるしかありませんでした。こうして「原油を買うにはドルが必要」という構図がより一層強固なものとなり、ドルは世界の基軸通貨となっていきました。

 

風が止まれば戦争が起きる!?エネルギーと戦争の意外な関係

似たようなことがロシアとウクライナの戦争でも起きています。西側諸国はロシアへの金融制裁として、「ルーブルを取り扱わない」という措置を取りました。でも、プーチン大統領はまったく慌てませんでした。なぜなら、ロシアには天然ガスという豊富な資源があるからです。ルーブルが暴落したタイミングで、ヨーロッパ向けのガスはルーブルでしか売らないことを宣言すると、ヨーロッパ諸国は慌ててルーブルを買い始め、1ヶ月も経たないうちにその価値は元に戻りました。これが、エネルギーが持つ絶大な力なんです。

 

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ロシアは欧州にとって重要なガス・石油の供給源となっている(画像素材 / PIXTA)

 

そもそも、ロシアとウクライナの戦争はどうして起きてしまったのか。ウクライナはソ連の一部だった歴史があり、「元に戻したい」というロシア側の思いが背景にある。そんな話はよく聞きますよね。でも、実はもう一つ意外な要因があるんです。それは「風が吹かなかったこと」です。

ヨーロッパでは2020年の秋から冬にかけて風が弱まり、風力発電の電力が不足しました。電力が不足すると、ヨーロッパはロシア産の天然ガスに頼らざるを得ない状況になりました。そうなると、ロシアは見返りを求めます。その最たるものがウクライナです。ウクライナの黒海沿岸には冬でも凍らない不凍港があり、海が凍ってしまうロシアにとっては、物流や国防の面で喉から手が出るほど欲しい場所。「ガスを売る代わりに、こちらの要求も聞いてほしい」そんな力関係が生まれてしまったのです。

 

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講演をする金田さん。世界情勢の背景を学生たちも真剣な表情で聞き入っていた

 

日本がたどった特殊なエネルギーの歴史

ここで少し、第二次世界大戦のお話をしましょう。当時の日本は、原油をほとんどアメリカから輸入していました。ところが戦争前、その原油が突然ストップされてしまいます。そこで日本は、油田を求めて東南アジアへ出向きました。アメリカ側は、「日本のタンカーを見つけたら撃沈せよ」と厳しい対応をとったと言われています。

戦後、アメリカのアイゼンハワー大統領は、日本に向けてこんな趣旨のメッセージを送ります。「外国のエネルギーに頼りきりになるのは危険だ。これから日本の経済成長をサポートする代わりに、我々が持つ原子力の技術を使っていきなさい」。これをきっかけに、日本では原子力の導入について国を挙げた大論争になりました。でも、戦後の日本に石油を売ってくれる国はほとんどなく、結果として、日本は原子力へ大きく舵を切ることになります。

振り返れば、日本のエネルギー史はとてもめまぐるしいものです。江戸時代は薪や炭、明治は石炭、大正には水力発電が生まれ、昭和は石油とともに始まり、石油の危機で揺れ、やがて原子力へ。そして福島第一原発の事故で原子力が止まり、その穴を埋めているのがLNG(液化天然ガス)です。こうした極めて特殊なエネルギーの変遷を経験してきた国は、日本以外にありません。

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自国で産出できる資源がほとんどない日本は、多様なエネルギー源を次々と乗り換えてきた(出典:株式会社ユニバーサルエネルギー研究所)

 

日本が「原子力をどう使うか」は避けて通れない問題

いま日本は、エネルギー資源のほとんどを海外から買うしかありません。その金額はなんと年間約30兆円。世界トップで、2位のドイツの2倍にあたります。これだけのお金が海外に流出しているとなると、「日本はこのままでいいのか」と不安を覚えざるを得ません。

 

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エネルギーを海外に依存する状況は日本経済にも大きく影響している(出典:株式会社ユニバーサルエネルギー研究所)

 

だからこそ私は、「原子力をどう使うか」は避けて通れない問題だと考えています。原子力がなぜ必要なのかということは、安全か危険かという議論も大切ですが、その議論を超越して、私たちが生き残るためなのです。明治時代からたどってきたエネルギーの歴史を踏まえると、原子力をやらざるを得なかったということは、日本の歴史上、確かなことなのです。私たちが持つ「一万円の価値」を守るためのエネルギーをどう確保するべきか。そこまで含めて考えなければいけないのです。

エネルギーを語る時、よく「ベストミックス」という言葉を使いますが、本来、その国の歴史に裏付けされた知恵としての電源ミックスがあります。火力・原子力・再生可能エネルギーなどを、安全性・安定性・経済性・環境性の4つを踏まえて、最適なバランスで組み合わせる考え方です。エネルギー政策とは、「新しいエネルギーが良さそうだから全部それにしよう!」というほど簡単ではなく、その国が歩んできた歴史にも裏付けられているものなんです。

福島の事故後、日本の原子力発電所はすべてストップしました。その結果、失われた電力を補うために大量の代替燃料を海外から買うことになり、2011年には31年ぶりに貿易赤字となりました。大雑把な計算ですが、100万キロワット級の原発1基が生み出す売電収入は1日で約5億円。たった1日止まるだけで5億円の損失です。その穴埋めは、皆さんの電気代に上乗せされています。「原子力は危ないから止めよう」と言うのは簡単ですが、燃料費の高騰分は、結局のところ私たちのお財布から出ていることは知っておかなければなりません。

 

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2030年度の電源構成では、原子力や再生可能エネルギーを増やすことを見込んでいる(出典:資源エネルギー庁「エネこれ」)

 

今日は、歴史をひも解きながらエネルギーについて考えるヒントについてお話しました。世界的には大きなニュースでも日本ではあまり報じられず、知らなかった事実もあったと思います。今後、皆さんが社会の動きを見る時のちょっとした参考になれば幸いです。

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普段何気なく使っている電気のことを、深く考えさせられた金田さんのお話。質疑応答の時間には、日本大学 大学院修士課程の土橋さんと日本大学文理学部情報科学科の古賀さんから率直な質問が寄せられました。
 

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学生を代表して金田さんに質問する土橋さんと古賀さん

 

土橋さん:「エネルギー問題についてもっと考えよう」という話はよく耳にしますが、日々の生活の中でずっと意識し続けることは難しいと感じます。私たち学生は、エネルギー問題とどう向き合うべきでしょうか?

 

金田さん:答えは簡単です。私たちを取り巻く日常のあれこれは、すべてエネルギーに関連しています。今日は暑いね、寒いね、お米が高くなったね……その背景には、必ずエネルギーが関わっているんです。日本には石油やガス、金塊のような担保になる資源がほとんどありません。だから円の価値が下がりやすい。これはエネルギー資源が少ない国の宿命です。だからこそ、あらゆる情報に触れた時に、「これはエネルギーと関係ある?」と少しだけ考えてみてほしいんです。その積み重ねは、社会の奥底にある仕組みを理解する第一歩になります。

 

古賀さん:お話をうかがって、自分の国でエネルギーを賄うことの大切さを改めて感じました。ただ、石油やLNGに頼りすぎるのは良くない一方で、自然エネルギーは天候に左右されて安定しません。結局どんなバランスで進むのが正解なのでしょうか。

 

金田さん:「これが正解」という答えはありません。ただ、今の日本のエネルギーミックスは、歴史が作り上げたバランスの上に成り立っています。日本は山と豊かな水に恵まれ、水力発電が発展しました。石炭も全国各地で採掘できていました。良い港があり、中東から巨大タンカーで石油を運ぶこともできました。つまり、日本が積み重ねてきた経験そのものが、今のベストミックスにつながっているんです。

だから、「新しいエネルギーだけに頼ればいい」ということはあり得ません。情報が一面的になると、ヨーロッパがロシアに依存せざるを得なくなったように、思わぬ落とし穴にはまる可能性もあります。歴史を無視して一方向に舵を切ってしまうと、非常に危険なんです。エネルギーの話は総合学習。海外の記事を読むと見える景色が変わることもあるし、歴史をたどると背景が理解できる。数学も、化学も関わってくる。興味の入り口はどこでもいいので、まずは広い視野で情報を知ること。そこから何が正しいのか、自分なりに考えられるようになりますよ。

 

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講演を終えて、登壇した4名で記念撮影!セミナーがエネルギーへの考えを深める機会となりました

 

 

金田武司(かねだ たけし)

株式会社ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長。慶應義塾大学理工学部機械工学科卒業、東京工業大学大学院総合理工学研究科エネルギー科学専攻博士課程修了後、1990年に三菱総合研究所へ入社。2004年、ユニバーサルエネルギー研究所を設立し、エネルギー分野において政策支援や技術導入支援、社会実証事業などを実施。国内の学会、政府・自治体の各種委員などを歴任。著書に『東京大停電 電気が使えなくなる日』(幻冬舎)。

株式会社ユニバーサルエネルギー研究所HP:https://www.ueri.co.jp/

 

企画・編集=Concent 編集委員会


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