私たちの暮らしに欠かせないスマートフォン(スマホ)。災害時には、情報収集や家族との連絡に役立つ一方、停電や通信障害によって使えなくなることもあります。いざというときに慌てないためには、平時からどのような備えをしておけばよいのでしょうか。今回は、国内外の被災地で救助や医療支援を行う国際災害レスキューナースの辻直美さんに、スマホを災害時に役立てるための備えや、おすすめの防災サイト・アプリ、さらにスマホが使えない場合を想定した心構えについてうかがいました。

国際災害レスキューナース、一般社団法人育母塾 代表理事の辻直美さん
覚えておきたい!災害時に役立つスマホの機能と連絡手段
――はじめに、辻さんの活動内容について教えてください。
「国際災害レスキューナース」として、国内外の被災地に足を運び、救助や医療支援を行っています。現場で直接命を救うだけでなく、次世代の災害看護師を育てるための教育にも力を入れています。また、これまでの経験を活かして、幼稚園や学校、自治体、企業、自衛隊などでの防災講演やコンサルティング活動も行っています。
――災害が起きたとき、スマホはどのような役割を果たしてくれるのでしょうか。
私たちの日常に欠かせないスマホですが、災害時にも心強い相棒になってくれます。具体的には、信頼できる情報を集めるツールとしてはもちろん、家族や知人の安否を確認する連絡手段、危険な場所を避けて安全に移動するための地図としても役立ちます。

発災時に通信が使える場合は、スマホで災害情報を確認し、その後の行動につなげることが大切(画像素材 / PIXTA)
――私たちが知っておくべき便利な機能や、おすすめの連絡手段があれば教えてください。
大規模災害時には、通信事業者などによって、災害用統一SSID「00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)」のWi-Fiが開放されることがあります。パスワード入力は必要なく、周囲に対応するアクセスポイントがあれば、通信会社との契約にかかわらず接続できます。
ただ、大勢が一斉にアクセスすると、災害用Wi-Fiの通信速度が低下したり、音声通話がつながりにくくなったりすることがあります。そうした状況でも、比較的少ない通信量で送受信できるLINEなどのメッセージサービスは、連絡手段の一つとして役立ちます。
大規模災害が起きると、LINEの画面上部に赤い枠の「安否確認」が表示されることがあります。そこから「無事」または「被害あり」を選び、自分の状況を友だちに共有できます。実際に表示されたときに落ち着いて対応できるよう、こうした機能があることを知っておきましょう。
また、日頃から家族のLINEのグループで位置情報を送る練習をすることもおすすめです。トーク画面の「+」から「位置情報」を選び、地図上で場所を指定して送信できます。詳しい操作方法は、LINE公式ガイドで確認しておきましょう。

LINEの「安否確認」は、大規模災害時に表示されることがあります。表示されたら必ずタップを(出典:LINEヤフー)
LINE公式ガイドでチェック▶「LINE安否確認を利用する」
LINE公式ガイドでチェック▶「位置情報を送信する」
あわせて、災害用伝言ダイヤル「171」や災害用伝言板(web171)、各携帯電話会社が提供する災害用伝言板など、いざというときに使える複数の連絡手段をあらかじめ確認しておくことも大切です。
今すぐ見直したい「スマホ防災」の基本
――万が一の事態に備えて、普段から準備しておきたい「スマホ防災」のポイントを教えてください。
まずは、モバイルバッテリーの常備です。遠出するときだけでなく、仕事や買い物など、普段の外出時にもバッグに入れて携帯しておくのが鉄則です。持ち歩ける範囲で、少なくともスマホを1回充電できる容量を備えましょう。より安心を求めるなら、20,000mAh程度の大容量モデルがおすすめです。機種によって異なりますが、スマホを複数回充電できます。

外出の際はモバイルバッテリーを必ず携帯(画像素材 / PIXTA)
ちなみに、バッテリーは使っていなくても少しずつ自然放電してしまうので、定期的に十分充電されているか確認する癖をつけてください。さらに、複数のスマホを同時に充電できる複数ポート搭載モデルや、雨や砂埃にも強い防水・防塵機能がついたものを選んでおくと、災害時に役立ちます。なお、落下などによる強い衝撃や圧力、高温になる場所での使用・保管は避け、発熱や膨張などの異常が見られた場合は、すぐに使用を中止しましょう。
また、画面の明るさを下げる、消灯までの時間を短くする、不要なアプリのバックグラウンド通信や位置情報利用をオフにするなど、スマホの設定を見直すことで、バッテリーを長持ちさせやすくなります。ただし、防災・気象情報アプリなど、現在地に応じた通知が必要なものはオンにしておきましょう。
――自分自身に何かあったときのために、スマホに登録しておくべき情報などはありますか。
今すぐにでも登録してほしいのが、緊急連絡先や医療情報です。iPhoneの「メディカルID」やAndroid端末の緊急情報機能には、緊急連絡先のほか、アレルギーや持病、服用中の薬などを登録できます。
災害時に意識を失うなど、自分で状況を説明できない場合でも、周囲の人や医療従事者が必要な情報を確認できる可能性があります。名称や表示方法は機種によって異なるため、平時のうちに設定方法を確認しておきましょう。

iPhoneの「ヘルスケア」アプリを開き、「メディカルID」に緊急連絡先や医療情報を登録。画像は入力例
辻さんおすすめの防災サイト&アプリ
防災では、災害が起きてからではなく、普段から備えておくことが大切です。そこで、辻さんおすすめのサイト&アプリを【平時】と【発災時】に分けてご紹介します。
【平時】に確認しておきたいサイト・サービス
1. 地域の災害リスクを知る「地震10秒診断」
地震10秒診断(出典:防災科学技術研究所/日本損害保険協会)
https://nied-weblabo.bosai.go.jp/10sec-sim/
現在地を入力するだけで、今後30年以内に、震度5弱~震度7の各段階の揺れに見舞われる確率や、建物が全壊する確率をシミュレーションしてくれます(※)。さらに、「停電」「ガスの停止」「断水」といったライフラインが止まる日数も提示されます。
診断結果を確認することで、現在の備えに何が足りないのかを考えるきっかけになります。「この地域では強い揺れが想定されるから、家具の固定を見直そう」「断水が長引く可能性があるから、水の備蓄を増やそう」と、その場で予測を立てる習慣をつけましょう。
※診断結果はあくまでシミュレーションであり、実際の被害を保証・予測するものではありません。
2. 家庭の備えを見直す「パーソナル防災サービス #pasobo(パソボ)」
パーソナル防災サービス #pasobo(パソボ)(画像:pasobo公式サイト)
全13項目の質問に回答するだけで、家族構成や住環境などに合わせて、自分に合った防災グッズを確認・購入できます。子どもや高齢者、ペットの有無など、それぞれの生活環境に応じた備えを気軽に見直せるのが特徴です。
家族の人数や年齢によって、必要な備えは異なります。まずはこのサービスを使って、現在の備えを見直してみましょう。
3. 災害リスクを重ねて確認できる「重ねるハザードマップ」
「重ねるハザードマップ」では、洪水などの災害リスクを地図上で確認できる(出典:ハザードマップポータルサイト)
※画像は「ハザードマップポータルサイト」を加工して作成
大雨や台風などの備えに役立つのが、「重ねるハザードマップ」です。洪水、内水氾濫、土砂災害、高潮、津波など、複数の災害リスクを地図上に重ねて確認できます。
自宅や職場、通学路の周辺にどのような危険があるかを確認したら、避難先や移動経路も考えておきましょう。ハザードマップで避難所を確認するだけでなく、実際に歩いてみることも大切です。地図だけではわからない階段や急な坂道、狭い道幅などもあるため、家族で実際の避難経路を確認しておくと安心です。
【発災時】の情報収集に役立つアプリ
1. 周辺の防災情報を受け取る「Yahoo!防災速報」
「Yahoo!防災速報」アプリ(出典:LINEヤフー)
地震や津波、大雨、避難情報など、さまざまな防災情報をプッシュ通知で受け取れます。投稿された周辺の災害状況を地図上で確認できる「災害マップ」や、日頃の備えに役立つ「防災手帳」機能もあります。
2. ニュースや災害情報を確認する「NHK ONE ニュース・防災」
「NHK ONE ニュース・防災」アプリ(画像提供:NHK)
https://www.nhk.or.jp/nhkone/service/app/news_bousai/
ニュースや災害・気象情報を配信するNHKの公式アプリ。最新ニュースや気象情報はもちろん、ニュース番組の同時配信や見逃し配信、ハザードマップもスマホから確認できます(※)。
発災時には、「Yahoo!防災速報」や「NHK ONE ニュース・防災」など、信頼できる情報源を確認しましょう。災害時はネット上にデマや誤情報が飛び交うこともあります。パニックに陥らないためにも、信頼できるアプリをあらかじめダウンロードしておきましょう。
※利用にあたってはNHK受信契約が必要です。すでに世帯で契約している場合、追加の負担はありません。
「半日スマホOFF」で、スマホが使えない事態に備えよう
――一方で、災害時にはスマホが使えなくなる可能性もありますよね。私たちが今からできる備えや、心構えはありますか。
災害時にとても便利なスマホですが、「スマホさえあれば大丈夫」という過信は危険です。本当に大きな地震が直撃して基地局や電柱が破壊されてしまえば、そもそもスマホは使えなくなってしまうからです。南海トラフ巨大地震のように広範囲が被災した場合は、通信の復旧にも相当な時間がかかるでしょう。停電や通信障害によって、スマホ決済を利用できない場合もあるので、現金を用意しておくことも大切です。
いざというときに慌てないために、電波があるときの情報の取り方や連絡のコツだけでなく、「もしスマホが使えなくなったらどうするか」まで、普段から家族でシミュレーションしておきましょう。家族の電話番号を紙に控え、公衆電話の場所や使い方も確認しておくと安心です。

特に子どもがいる家庭では、公衆電話の使い方を一緒に練習しておくと安心(画像素材 / PIXTA)
そこで、ぜひ試してほしいのが、半日だけスマホの電源を切って生活してみることです。ちょっとしたデジタルデトックスをして、「自分は不安にならないか」「スマホなしでどうやって楽しく過ごすか」を体験してみるんです。その上で、スマホ以外から情報を取るにはどうしたらいいかを考えてみてください。「テレビなら、どのチャンネルをつければいいのか」「ラジオの周波数はどうやって合わせるのか」など、普段から実際に触っておくことが、実践的な防災訓練になります。
――最後に、Concent読者へメッセージをお願いします。
災害はいつ起こるかわかりません。何か一つでも備えておけば、その分、災害時に助かる可能性を高められます。「災害」は怖いものですが、備えを試したり、家族で練習したりする「防災」は、暮らしをよりよくすることにもつながります。まずは、今できることを一つ始めてみてくださいね。
災害はいつ起きるか分からないため、さまざまな視点で備えておくことが重要です。こうした中、日頃のスマホの使い方次第で、いざという時に危険な地域を避けて行動でき、的確な情報をキャッチすることにつながると再認識しました。一方、深刻な災害では通信網が被害を受け、たとえモバイルバッテリーがあったとしても、スマホ自体が使えないことも想定されます。このような事態も考え、紙のメモや地図など、アナログな対策を用意しておくことも大切ですね。
辻直美(つじ なおみ)
国際災害レスキューナース/一般社団法人育母塾 代表理事。看護師歴35年、レスキューナース歴31年。国内外30か所以上の被災地派遣を経験。「国境なき医師団」での活動や、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件での救急対応を経て災害医療の道へ。現在はフリーランスの看護師として被災地で救助にあたるほか、企業の防災コンサルタントや全国での講演活動も行っている。近著に『レスキューナースが教える 最強版 プチプラ防災』(扶桑社)。
Instagram:@nao_saigairescue
育母塾公式サイト:https://www.ikubojyuku.org/bousai
企画・編集=Concent 編集委員会




