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東京電力が野菜栽培? 静岡の工場で作るレタスがおいしい理由

2021.09.03

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「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の役に立つため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしているのをご存じでしょうか。今回は、東京電力グループが手掛ける世界最大級の野菜工場にフォーカス。食料の大部分を輸入に頼る日本にとって、またSDGs(持続可能な開発目標)達成に向けて大きな期待が寄せられています。気になる味や安全性など、工場生まれの野菜の魅力に迫りました。


東京電力が静岡県藤枝市の工場で育てる野菜とは?

見るからにおいしそうな、青々とした立派なレタスたち。

彩菜生活のレタス
左から時計回りに、グリーンリーフ、フリルレタス、サニーレタス

実はこれ、“工場生まれ”の野菜です。種まきから収穫まで一度も屋外に出さず、すべての作業が工場の中で行われています。

食べてみると、葉の一枚一枚が肉厚でみずみずしく、食感はパリッ! 何もつけずそのままでもおいしいだなんて、これならサラダもごちそうになりそうです。

作っているのは、静岡県藤枝市にある彩菜生活合同会社(以下、彩菜生活)の藤枝工場。2020年7月にスタートした世界最大級の生産能力を誇る「完全人工光型植物工場」が、このレタスたちの故郷です。

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藤枝市の完全人工光型植物工場の内部。彩菜生活は、東京電力エナジーパートナー株式会社、芙蓉総合リース株式会社、株式会社ファームシップの3社による合同会社として設立された

完全人工光型の植物工場とは、LEDライトを利用し、人工の光だけで植物を育てる工場ということ。現在、毎日約2.5トンのレタスが収穫され、全国各地の食品加工工場へと出荷されています。

味は「おいしい!」と断言できるものの、気になるのが普通の畑で育てられた露地栽培の野菜との違い。実際のところ工場で作った野菜とは、どんなものなのでしょうか。

 

工場産の野菜だから無農薬でも長持ちする

露地栽培との決定的な違いは、天候や虫などの自然環境に左右されることなく、安定した栽培ができるところにあるそうです。

LEDライトの光の強さや当てる時間だけでなく、温度や湿度、二酸化炭素濃度、水の量、栄養素の配合など、あらゆる要素を調整できるため、野菜にとって快適な環境を人工的に作り出すことができます。

栽培時に理想的な環境を安定させると、野菜は同じような大きさに、早く、健康的に育ちます。だから…

・露地栽培よりも早く収穫できる
・無農薬でも虫食いや病気の心配が少ない
・形の違いなどによる廃棄ロスが少ない

などメリットが多いのです。

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パレットの下には養液で満たされたプールがあり、野菜はそこから水分と栄養を取り込む

また、衛生的で長持ちすることも特筆すべき点。

ホコリや虫を入れない徹底した衛生管理のもと、雑菌の多い土を使わない水耕栽培(水と液体肥料による栽培方法)で育てられているため、野菜を腐らせる原因となる細菌の数を圧倒的に減らしているといいます。

どのくらい違うかといえば、1グラムあたりに付着している生菌数(細菌の数)が露地栽培の野菜はおよそ100万個なのに対して、藤枝工場の野菜は1000~1万分の1 (同社調べ)。それだけ工場生まれの野菜は傷みにくいというわけです。

しかも、ここで作られた野菜は、工場内で密閉されて出荷するのが原則です。出荷先の食品加工工場も衛生管理が行き届いた屋内で開封・加工するため、基本的には商品になるまで屋外にさらされることがありません。

「葉の裏に小さな虫が…」というような、葉物野菜を買うとたまに経験するアレがないに等しい、というのも大きなメリットでしょう。

 

野菜栽培に役立つ電力会社の省エネ技術

「実は世界的に見ても、日本は完全人工光型植物工場のシーンをリードする存在です」

そう教えてくれたのは、彩菜生活の立ち上げに深く関わる東京電力エナジーパートナー株式会社 法人営業部の井田健介さんです。

東京電力エナジーパートナー株式会社の井田健介さん
井田さんは彩菜生活のアイデアを立案した中心人物の一人。そこに込めた思いを熱く語ってくれた

彩菜生活を立ち上げるきっかけとなったのは、井田さんが仕事で訪れた食品関連会社からの相談でした。

「『最近、野菜が安定的に手に入らなくて困っている』というのです。気象状況の変化が原因で野菜が不作になることが増え、さらに入手できても質が悪く、価格が高いこともあると。それで調べてみたら、状況の深刻さに驚きました」

世界的な人口爆発による食料難や日本の農業が抱える人手不足など、気候変動の他にも問題は山積みだったといいます。

「社会問題の解決の役に立つことは、電力会社の使命だと考えています。そのためには電気を別の価値のあるものに変換し、提供してもいいはず。そう考えた結果が、野菜工場でした」

彩菜生活のレタスの種
ウレタン製のパレットにレタスの種を撒いて数日立つと、少しずつ芽が出てくる

完全人工光型植物工場の場合、工場や機材などへの初期費用、空調設備やLEDライトの光熱費をはじめとした維持・管理費用がかかり、露地栽培に比べると多くのコストがかかります。当然、最終的な野菜の価格も少し高くなります。

ただ、それを上回るメリットは前述のとおり。仕入れを安定させながら衛生面も徹底しなければならない食品加工業者にとっては、喉から手が出るほどのもの。とはいえ高いとなると、なかなか使えません。

そこで重要となるのが、栽培のさまざまな場面で使われる電気の消費量です。工場生まれの野菜の価格を左右するといっても過言ではなく、このコントロールが業界全体の悩みとなっていました。

消費電力の抑え方が重要となれば、電気の使い方や省エネにノウハウを持つ電力会社の出番だ、と井田さんは感じたそうです。

「電力会社は電気の安定供給を使命とし、さまざまな企業に日々電気をお届けしていますが、オフィスや工場の省エネコンサルティングも重要な役割の一つです。そのノウハウを生かすことができれば、野菜工場による“食料の安定供給”を成功させることができると考えています」

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一定の大きさに育つと、ゆとりのあるパレットへお引っ越し。上部のLEDライトがついたり消えたりすることで昼夜を再現する

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さらに大きく育ったら、もっと間隔の広いパレットに移動。収穫まではもうすぐ

 

野菜工場を世界に求められる日本の産業に

立ち上げ前、井田さんが特に危機を感じたと語ってくれたのが、日本の食料自給率が30%台という事実でした。

今後、農業人口の高齢化や減少により、さらに低下してしまうであろうことが現実問題となっています。

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収穫時の大きさは20センチメートルほど。栽培室は2階建てで、一日最大5トンを収穫できる生産能力がある

「いざというときのことがほとんど考えられていないのが、日本の現状です。電気と同じで、そこにあるのが当たり前だと考えていては、いざ供給がストップし、慌てて対応しても遅いでしょう。一刻も早く、食料を安定的に調達・供給できる仕組みを確立していかなければならないのです」

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収穫されたレタスは袋に密閉、箱詰めされ冷蔵庫へ。そこからトラックで出荷される

同時に、食料自給率を上げることができれば、輸入にかかっているコストや、輸送時に排出される二酸化炭素量が軽減されるなど、別の効果が期待できることも忘れてはなりません。

野菜工場は、SDGsの目標として掲げられている「飢餓をゼロに」や「気候変動に具体的な対策を」などを達成に近づける実現可能な方法の一つと言えるのです。

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野菜作りはSDGsの目標「飢餓をゼロに」、そして結果的に二酸化炭素排出量の削減につながれば 「気候変動に具体的な対策を」にも寄与する

彩菜生活からレタスを仕入れているコンビニに商品を卸す食品加工会社は、「安定した野菜の入手が難しくなってきている中で、私たちの仕事を持続させるためにも、将来的にできる限り多くの工場野菜を取り込んでいきたい」と、大きな期待を寄せています。

また、藤枝市にある食品加工会社からは「もっと地場産の食材を取り入れたいと考えていたので、地元に世界最大級の野菜工場ができてとてもうれしい」「新しい雇用が生まれ、地方創生にもつながる」といった声も。

野菜工場の誕生は、SDGsに掲げられる目標の「働きがいも経済成長も」や「産業と技術革新の基盤をつくろう」 にもつながりそうです。

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地元に雇用を生み出すとともに、地域創生にもつながることから、SDGsの目標「働きがいも経済成長も」や「産業と技術革新の基盤をつくろう」にも貢献する

現在、彩菜生活のレタスは食品加工会社を通じて、サラダやサンドイッチへと姿を変え、全国のコンビニやスーパーの店頭などで手に取ることができます。

今後は、ニーズに応じて他の野菜や穀物を育てることも視野に入れているそうです。

「最終的には、世界へと輸出できる産業に成長させていきたいと考えています。SDGsの達成を目指すこれからの時代にとって、野菜工場が持つ価値をもっと広く知ってほしいです」

彩菜生活のレタス
彩菜生活のレタスは、カット野菜やサラダなどの加工食品になってコンビニなどに並んでいる

味はもちろん、地球にも優しい工場生まれの野菜。日本の食料問題の解決やSDGsという世界の目標を形にするためにも、野菜工場のさらなる広がりに期待したいですね。


■DATA

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彩菜生活合同会社 藤枝工場

住所:静岡県藤枝市高柳2712-2

■電気事業連合会ホームページ「地域共生への取り組み」
URL:https://www.fepc.or.jp/sp/social/