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昭和40年代から守り続ける金型!キーパーソンに聞く「黒部ダムカレー」誕生秘話(前編)

2020.02.27

古くから、日本のエネルギーの一翼を担う水力発電。一般的には「ダム」のイメージが強いが、近年、その傍らによくあるのが「ダムカレー」だ。その数は全国で100を超え、形も味も千差万別。全国的にブームとなり数が激増したのは平成に入ってのことだが、その数十数年前にダムを模したカレーを生み出していた地があった!

実は昭和40年代生まれ?黒部ダムカレーの原点とは

「『ダムカレー』と呼ばれて全国さまざまな場所で食べられるようになる数十年前、黒部ダム近くのある場所で『アーチカレー』というメニューが生まれました」

最初にそう教えてくれたのは、黒部ダムカレー推進協議会の会長・柏原清さん。「黒部ダムカレー」誕生から現在までを知る、数少ない一人だ。


2016年まで黒部ダムレストハウスを担当し、現在は観光部門の事業改革担当を務める柏原清さん。現在、黒部ダムカレーに最も詳しい

「現在では、ご飯をダムの形に、ルーをダム湖に見立てたカレーが『ダムカレー』という名前で日本中に浸透していますが、黒部ダムカレーは、それ以前に別の誕生経緯があるんです。そもそもの歴史をたどると、黒部ダム建設当時にまでさかのぼります」

1956~1963年、観光地としても有名な黒部ダムは富山県東部を流れる黒部川上流域に建設された。日本最大級の“インフラ観光スポット”として知られるが、今なお関西圏の電力を支える現役の水力発電用ダムでもある。


年間約100万人の観光客が訪れる黒部ダム

「当時、黒部ダム建設工事の作業員の方々のために飯場(はんば)があり、そこで『ライスカレー』が提供されていたんです。昭和30年代はカレー自体が非常に珍しい料理で、飯場に出ると作業員の方々は大喜び。『次のカレーの日はいつ?』『昨日のカレーは残ってない?』と、飯場の方たちはよく聞かれていたそうです。その当時はもちろんダムカレーの形状ではなくいわゆる普通のカレーでしたが、ここが原点になります」

当時の飯場は、長野県大町市内から黒部ダムまでの間に点在していたそう。工事に関わった作業員は延べ1000万人。黒部ダムカレーの源流は、昭和の歴史を築き上げた数多くの人々の活力となっていたようだ。

「現在の大町市・日向山高原に建設基地がありました。そこの飯場では間違いなく提供されていたと聞いています。そして、黒部ダムが完成した後(1960年代初頭)、私の大先輩に当たる飯島さんという方が大町クラブハウス(後の、くろよんロイヤルホテル)に勤めていたときに、このカレーを発展させて黒部ダムカレーの原型を考えられたんです」

カレーで町おこしを!アーチカレーが黒部ダムカレーに変わった日

「最近あまり見ませんが、オムライスのチキンライスを入れて盛り付ける“金型”ってありますよね。飯島さんはご飯をダムのように造形するために、それを利用できないかと考えました。それで、昭和40年代初頭に、専用の金型を地元・長野県大町市内にあった鉄工所に作ってもらったそうです」


現役で使われている黒部ダムカレーの金型。形は今でも昭和40年代当時に作られたものほとんど変わらないという

ダムの堰堤(えんてい)の形にご飯を盛り付けて、ダム湖に見立ててカレーをよそう。現在のダムカレーと、ほぼ同じ構造を“施工”していたという。完成したカレーは、『アーチカレー』という名前で提供され始めた。

「つまり、このときが黒部ダムカレー誕生の日と言えるでしょう。飯島さんはもともとコックさん。創意工夫がある人だったようで、他にもいろいろな創作メニューを考案されていたと聞いています」

ダムカレーの元祖の一つとも言われる黒部ダムの「アーチカレー」は、当時、扇沢駅2階にある扇沢駅大食堂(現、扇沢レストハウス)で販売された。


アーチカレーが初めて販売された旧・扇沢駅大食堂は、名前を変えて、現在も扇沢駅の2階にある

「このアーチカレー、実はその時からずーっと続いているメニューなんです。昭和40年代から、平成、令和と。全国的にブレイクしたのは、2009年です。それまでは扇沢駅大食堂だけで出していたのですが、大町市内の飲食店さんに、このカレーで町おこしをしないかと声を掛けたんです」

町ぐるみで盛り上げるため、名称を「黒部ダムカレー」と統一。7店舗で始まった試みは、現在18店舗に広がった。このときに黒部ダムを目の前に望むレストラン「黒部ダムレストハウス」でも販売が開始された。

「最初は、雑誌社の営業さんと市の職員さんと私の3人で動き始めたことなんです。当時、既に富士宮焼きそばといったいわゆる“B級”のグルメが盛り上がっていたのですが、カレーなのでそこにしかない料理というわけでもない。それに、せっかくやるなら満足のいかないものにはしたくなかったので、価格を700円以上にするなどのルールを作りました」

黒部ダムカレーには絶対に守らなくてはならない掟がある。

1.お米をダムの堰堤の形にする
2.カレーのルーは必ず堰堤の内側に流し込む
3.カレーのルーの上に遊覧船に見立てたトッピングを乗せる
4.料金は700円以上
5.必ず水を付ける

という5つだ。


黒部ダムカレー(1100円)の味は本格的なグリーンカレー。スプーンは、お土産店で販売されているオリジナルのスコップスプーン(※レストランでは付きません)

「長野県大町市の美味しい水を必ず付けるというのは、地元ならではのものでしょう。掟はありますが、実のところカレーの味にはルールがありません。黒部ダムレストハウスの黒部ダムカレーも、見た目こそ2009年当時からほとんど変わりませんが、細かく何度も味をリニューアルしてきました。そうやって味と文化を育ててきたんです」

>>後編では、「黒部ダムレストハウス」で提供されている、“今食べられる”ダムカレーと、お家でできるダムカレーの盛り付け方をご紹介します!

黒部ダムレストハウス

住所:富山県中新川郡立山町芦峅寺ブナ坂11 国有林内

電話:080-2105-4886

時間:レストラン9:00~15:00※11月5日から10:00~14:30
   売店7:30~17:00※11月5日から8:30~16:00

定休日:なし