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自動車ジャーナリスト今井優杏さんに聞く、日本の電気自動車の未来

2023.02.10

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YouTubeチャンネル「今井優杏の試乗しまSHOW!」をはじめさまざまなメディアで自動車の魅力を発信し、日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員も務める自動車ジャーナリストの今井優杏さん。現在の仕事を志したきっかけから仕事や自動車の魅力、そして昨今の電気自動車事情までお話をうかがいました。

 

自動車の魅力って?

――――――まずは、自動車ジャーナリストを志したきっかけを教えてください。

もともとはバイクが好きで、大学生の時にバイクの維持費を得るためにレースクイーンを始めました。その仕事で行ったフォーミュラ・ニッポン(現在のスーパーフォーミュラ)で四輪のレースを初めて生で見て、すごくかっこいい!と思って、四輪もどんどん好きになっていったんです。そして30歳くらいのころ、レースの知見を生かした仕事ができないかなと考えていた時に高名な自動車ジャーナリストの清水和夫さんに出会い、こういう道もあるんだ!と知り弟子入りを直談判しました。でも5年間以上は下積みでしたね。きちんと責任をもって記事を届けていくためには、たとえばエアバッグの袋の折り畳み方まで勉強しなければいけません。エンジンの燃焼や車の構造など、人生でいちばん勉強しました(笑)。そうして知識が増えていくなかで、仕事もだんだんいただけるようになりました。

 

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――――――自動車のどんなところに魅力を感じていますか?

正直、志した当初は市販車にすごく興味があったわけではありませんでした。でも勉強していくうちにどんどん好きになりましたね。自動車は、複合的な工業部品が合わさってひとつの動力になっているんですよね、“動く”こと自体がやっぱり素晴らしいことです。エンジンでいうと熱エネルギーを動力に変えることにロマンを感じて、グッときちゃったんですよ(笑)! そのロマンを表現するためにどういうテクノロジーや技術が使われているかということを深堀りしていくと…、自動車ジャーナリストは生半可な気持ちではできません。

――――――勉強していくうちに市販車の魅力にはまったということですが、なにか印象的な出来事があったのでしょうか。

弟子入りした2007年に、ドイツ・フランクフルトで2年に1度開催される世界最大のモーターショー「IAA(国際モーターショー)」を取材したんですが、その時に“市販車ってすごい”と、衝撃を受けました。その年のIAAは、まさに今の環境技術の息吹のようなものが生まれた年だったんです。従来は大きなエンジンをパワフルにするために使われていたターボから、エンジンの排気量を小さくして燃料消費を抑える一方、ターボで過給することでパワー不足を補う「ダウンサイジングターボ」という技術が生まれたり、バイオ燃料が生まれたり…そういう環境技術が各メーカーからこぞって展示されているのを見て、“この世界めちゃめちゃおもしろい!”と思ったんです。環境負荷を低減させるためにこれだけのメーカーがいっせいに動かなければいけない時代に入っていくというのを目の当たりにして、ギアが入りましたね。

 

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日本のEVの未来は?

――――――カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を実質ゼロにする)を目指し欧州では電気自動車の普及が進んでいますが、日本でも2035年から乗用車の新車販売をBEV(電気自動車)、HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池自動車)のみとする方針が政府から発表されています。その方針についてのご意見を聞かせてください。

普及のためには政策、プロダクト、インフラ整備など総合的に進めていく必要があると思います。特にインフラ整備に関しては、日本は集合住宅が多いため、自宅充電の問題が普及に歯止めをかけている面があります。保有台数の増加に合わせて、確実に充電できるスポットを増やしていかなければいけないですよね。しかし一方で、車を走らせる電気が火力発電で作られていては、カーボンニュートラルにはなりません。原子力発電の比率が高い国だと政策はスムーズですし、9割が水力発電のノルウェーは自然エネルギーなのでEVも浸透やすかったようです。空港の駐車場ひとつひとつに充電ポートが付いているんですよ。でも、同じ北欧でも人口の少ないフィンランド最北のラップランド圏では、インフラ整備の難しさに加え低気温ということもあり、エリアによってディーゼル車しか現実的に難しいという状況もあります。こうした前例を含めて、全体的に議論しなければいけないと思います。

 

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でも、今、とても電気代が高いですよね。EVに乗ろうという政策があるのに、節電しなければいけないという現実がある。化石燃料は航空機に残しておかなければいけないので、モビリティ全体で考えて私たちの足が化石燃料以外で賄えるならそうしたほうがよいと個人的には考えています。今後エネルギーをどうシェアするのかということを、きちんと考えないといけない時期に来ているのではないでしょうか。

――――――プロダクトの開発自体は、日本の自動車メーカーでも進んでいるのでしょうか。

進んでいます。実際に商品も出てきていますしね。以前は電気自動車が「日産 リーフ」しかなかったので消費者のマインドも低く、そんななか海外からプレミアムセグメントのEVが先んじて入ってきてしまったので、価格的にも消費者は選びにくい状況になっていました。そういった意味で考えると、2022-23日本カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた「日産 サクラ」と「三菱 eKクロスEV」は大きな功績を遺す車になっていると思いますし、こんな値段で買えるんだという消費の起爆剤になっていくと思います。高級なものはより高級に、安価なものはより安価に、電気自動車が成熟してきている。日本では国産の電気自動車が出始めてまだ間もないですが、技術も作れば作るほど成熟していくので、まだまだ伸びしろがあります。

――――――伸びしろがある分、これからの商品開発に期待ができますね。電気自動車はガソリン車に比べてどう違い、なにが魅力なのでしょう。

これまで内燃機関しかなかったなかで、EVは加速感もテクノロジーも、運転フィールがエンジンで生み出されるものと全然違うので新しく感じますよね。そして、安全運転や運転の楽しさという点でもとても魅力的です。ガソリン車などの内燃機関は燃料を燃焼させてピストンを動かすことで動力にするという手間があります。一方、電気は瞬間的に伝達が行われるので、電気自動車にはきめ細やかかつ早い制御をプログラムに組み込みやすい。たとえば四輪駆動の横滑り防止機能や高度運転支援技術などは、電動化とすごく相性がいいんです。

 

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――――――インタビューを通じて今井さんは物事に対してとても前向きな取り組みや考え方をされていると感じました。今後の目標などありましたら教えてください。

わかりやすく伝えることをテーマにしながら、そのなかで少しだけ掘ったところにある魅力を伝えて、“あ、ちょっと楽しいかも!”と思ってもらえる発信を心がけています。それをきっかけに消費者が興味を持ってくれたら、自分の生活により合った自動車を選ぶことができるようになる。少しでも詳しくなって自動車を身近に感じてもらえる発信をこれからも続けていきたいと思っています。

――――――最後に、今井さんにとって電気とはなんでしょう。

まず思い浮かぶのは…機材の充電、とにかく充電(笑)。パソコン、カメラ…、ユーチューバーとしては、電源がないと何もできないんですよ。車に関することをアウトプットするのに必須です。コンセントが1か所あれば、ほっとします。


今井優杏

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いまい・ゆうき。自動車ジャーナリスト、モータースポーツMC。日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeや雑誌、ウェブメディアなどで情報を発信するほか、「おぎやはぎの愛車遍歴」(BS日テレ)のMCを務めている。

YouTubeチャンネル「今井優杏の試乗しまSHOW!」:https://www.youtube.com/channel/UCC0EDAN3QKCw5lP3ZjXFKTQ/

Instagram:https://www.instagram.com/yu_kiimai/

Facebook:https://www.facebook.com/yuukiimai.1210/

 

インタビュー:Concent編集部


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