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本気でドラえもんをつくるAI研究者・大澤正彦さんが語る人とロボットの未来

2023.03.07

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幼少期から「ドラえもんをつくりたい」と思い続け、大学生のころに研究をスタートした大澤正彦さん。現在は日本大学文理学部情報科学科助教、次世代社会研究センター(RINGS)センター長を務めながら、人の心や、人とロボットの関係性に着目したHAI(ヒューマン・エージェント・インタラクション)を軸にミニドラ的エージェント(ロボット)作りに取り組んでいます。ドラえもんをつくる道のりや、AIと人との関係性などについてお話をうかがいました。

 

みんなが認めたら、ドラえもん

――――――大澤さんが考える「ドラえもん」とはどういうものですか?

「世界中のみんながドラえもんと認めたら、ドラえもんである」と言っています。ドラえもんを好きな理由や、ドラえもんはこうあってほしいという願いが人によって違うので、「〇〇ができる」というような機能を要件にすると、「それは私にとってはドラえもんではないです」という人が出てきてしまいます。“友だち”という存在と同じだと思うんです。「お互い友だちだと思っていたら友だち」というような、そんな定義の仕方が本質的にぴったりくるなって思ったんです。
定義が決まるとアプローチの仕方が見えてきました。例えばドラえもんはタイムマシーンに乗ってやって来ますが、タイムマシーンは作らなくてもいいかもしれない。目の前にいるドラえもんを愛してやまない人に「でも僕タイムマシーンで来ていないんだけど、それでも僕のことドラえもんとして見てくれる?」と聞いたら、「いいよ」と言ってくれる人も結構いると思うんです。そういう“科学技術と世論や人の思いとの接点”を初めて見つけたんですよ。

だから技術で解決することだけでなく、人とロボットのコミュニケーションで解決すること、技術と未来のコミュニケーションを想像してそこから逆算してつくることを大切にしてつくっています。

 

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大澤さんが研究室のメンバーとともに開発中のミニドラのようなロボット

――――――現在は、“役立つ”“かわいい”を両立するロボットとして、「ドララ」とだけ言葉を発するミニドラのようなロボットをつくられていますね。

このロボットをつくる技術の軸になっているHAIという技術は、かみ砕いていうと物に心があるように感じさせる技術です。単体だと何もできないけれど、人とのかかわりで面白いことができます。例えば、ランダムに「ドララ」という言葉を発するようにプログラムされたロボットと「ドララ」だけで1時間半も会話をした人は、「人間みたいに知能があるんですね」と言われていました。「いい天気だね」という質問に返ってきた「ドララ」という反応を、人がおのずと「そうだね」と言ったと理解するというような感じです。単体だとランダムに動くだけのモーターのつながりでしかありませんが、人とロボットの関係性でとらえると、1時間半の楽しい会話が生まれるんです。また、二頭身の形も幼い子どものようで、助けてあげよう、サポートしてあげようという態度で人がかかわってくれる。その曖昧さと幼さがうまく調和しているんです。

――――――人がロボットに寄り添っていく、ロボットが人の優しさを引き出していく、優しいロボットですね。

3歳の娘がいるんですが、知能の研究者なので、生まれる前は赤ちゃんの動きに「あぁ、これは反射的な反応だ」と捉えてしまって、かわいいと思えないんじゃないかと不安だったんです。でも、いざ生まれてみたら、めちゃくちゃかわいくて(笑)。あぁ、もうこれには科学は勝てないなぁと思いました。賢さも何も身につけていない状態のときから愛されていて、愛されているところが出発点。愛されているなかでかかわってもらえるから、賢く、人に馴染める人になっていく。ロボットもそうあるべきだなと感じています。

 

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――――――いろいろな専門分野の方と協力して開発されているんですよね?

ひみつ道具を作っている仲間たちがいるから、僕はドラえもん本体をつくることに専念できています。さらに、ロボットの体を作れる僕より優れた友人がいるので、僕はロボットの心の部分に専念できる。ドラえもんのほんの一部しかつくっていないけれど、仲間とつながってドラえもん全体をつくっているという感覚があります。そのうえで、大学で教壇に立つことや、取材でお話しすることも僕の役割分担だと思っています。

――――――チームを大切にされているんですね。

チームを大切にするというよりも、ドラえもんをつくるためにチームが必要で、必要なものがたまたま大切で好きなものだったという感覚です。みんなで取り組んでいる時間も楽しいし、それが楽しかったということはラッキーだなと思います。

――――――ミニドラ的エージェントを使ったワークショップを各地で開催されていますが、印象的な出来事はありますか?

「僕、ドラえもんをつくりたいんだ」と言ってくれる子どもに初めて会ったこと。そしてその子の思いを守ろうとしているお母さんを見て、そんな子どもの思いが折られてしまうような世の中だと思われていることに、ドキッとしました。
今は、ドラえもんをつくりたい子たちとつながって「ドラえもんをつくる子どもの会」を開催しています。月に1回、日本各地や世界とオンラインでつながって、何をしたかを共有したり、ゲストを呼んで話を聞いたり。回を重ねていくと子どもたちのボルテージが上がって、SNSで作った物の発表会が行われるように(笑)。月1回、1時間半話すだけで後押しになることに驚いたし、当然だとも感じました。自分が子どものころにあったらよかったなと思うことを届けたいと思って、力を入れてやっています。
同じ夢を持っている人が一人でもできたときに世界は変わっていくし、それは“つながる”という簡単なことだから、それが当たり前にできるようにやっていきたいです。
 

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日本科学未来館で行われたワークショップの様子

100人が100人のために

――――――人とのつながりを大切にする大澤先生らしく、RINGSはコミュニティベースの研究所ですね。カーボンニュートラルの研究もされているとか。

RINGSは、いろいろな分野から人が集まって仲良くなり、根っこの部分で考えていることを話し合える場を作り、あとはその人たちの中で自然にプロジェクトが生まれていくという設計です。カーボンニュートラルの研究はドイツ文学科の学生から輪が広がり、ボードゲームに詳しい学生を中心にカーボンニュートラルを学べるゲームを作って体験会をしました。ユーチューバーの学生がそのゲームの実況動画を作ったり、高校生に向けてゼミを行なったり。大澤研究室でも節電の呼びかけをするエージェントを研究して、学生が国際会議などでも発表しています。電気事業連合会さんにも、エネルギー施設見学会などを通じた学習支援をいただきながら活動をしています。

――――――研究がいろいろ枝分かれして広がっていくんですね。先生ご自身は火力発電所に見学に行かれたことがあると聞きましたが、エネルギー問題は身近に感じていますか?

みんなが不便なく快適に生活できているのは、優れた技術でトラブルなく支援をしてくれているから。エネルギーはその最たる例で、ボタンを押せば光が灯るくらい、自動化されています。火力発電所を見学した時に、熟練した技術を持つ人たちが長い間支えてくれていること、この人たちがいることで僕たちはエネルギーの存在に気づかないでいられるんだと思えました。誰にも気づかれずにそうやっている姿を、心から尊敬したんです。
エネルギーは僕らの当たり前になっていて、今も最先端でどんどん深く新しい技術が生まれ取り込まれています。一般の人がそれを全部理解するのはすごく難しいですよね。性能、必要性、メリットやデメリットなど全部を説明しきれないなかで、どうエネルギーと向き合っていくのか、チャレンジとしてとても興味深いです。エネルギー開発が世論とともに歩んでいる技術であるように、人工知能やロボットも負のイメージを持つ人が少なくなく、世論とともに歩んでいく技術です。世論と向き合うことを、今いちばん実践しているのが、エネルギーの分野の人たちだと思うので、そこまで自分のプロジェクトが到達できるのかということを考えると、エネルギーの分野にあこがれます。

――――――大澤さんにとって電気エネルギーはあこがれですか?

そうかもしれませんね。電気とは、というより、それを支えている人にあこがれているのかもしれません。電気って多くの人に支えられた、宝物だと思います。

――――――RINGSでコミュニティベースという新しい取り組みをされ、未来に向けて研究はどうあるべきだと考えていますか?

受験、会社などで評価されるためには、評価軸に合わせるという形をとらなければいけません。でも僕は、それぞれの価値軸のある世界観がいいなと思っています。ミニドラを目指したロボットがまさにそれで、イメージ先行で作ったものに対し、それがなぜ素晴らしいのかという価値軸を作っていったのが僕の研究です。なぜそれが素晴らしいのかをみんなで見つけていくと、自分では気づけなかった世界や価値観がある。自分の好きなことに突っ走っていけるって素晴らしいよね、というコミュニティベースになれたらいいなと思っています。「100人で100人の夢をかなえる」がキャッチフレーズ。1人の夢は100人で支えます、その関係性は100人分あり、100×100で1万人分の力が出ます、ということを目指したいです。

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――――――ドラえもんづくりのプロジェクトは2044年に完了の目標を掲げていますが、今後の展望を教えてください。

ドラえもんの作り方が定まったという意味では、自分としては想像以上の成果が出たと思っていて、プロジェクトとしては順調です。現在はドラえもんをつくる準備やPR活動を一生懸命やっています。それを全部やり終えて、残りの15年を技術者としてドラえもんの開発に取り組むのが僕の目標です。


大澤正彦

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おおさわ・まさひこ。日本大学文理学部情報科学科助教、次世代社会研究センター(RINGS)センター長、専修大学ネットワーク情報学部ネットワーク情報学科兼任講師。博士(工学)。東京工業大学附属科学技術高等学校情報・コンピュータサイエンス分野、慶應義塾大学理工学部情報科学科をいずれも首席で卒業。2017年慶応義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了。学部時代に設立した人工知能コミュニティ「全脳アーキテクチャ若手の会」は2500人規模に成長。IEEE Young Researcher Award (2015年)をはじめ受賞歴多数。グローバルな活躍が期待される若きイノベーターとして「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」2022に選出。著書に『ドラえもんを本気でつくる』(PHP新書)。

 

インタビュー:Concent編集部


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