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気象予報士から防災士、東京大学大学院での研究とマルチに活躍。脱炭素キャスターの千種ゆり子さんが考える日本の電気

2023.07.28

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気象予報士としてキャスターのキャリアをスタートし、NHK青森を経てテレビ朝日「スーパーJチャンネル(土日)」や、TBS「THE TIME,」で活躍した千種ゆり子さん。近年は、防災士の知識を生かした講演会や、東京大学大学院で地球温暖化と世論についての研究を行うなど活動の幅を広げています。日本一脱炭素に詳しい女性キャスターとしても知られる彼女に、これまでの歩みや仕事観、電気との関わり方などについて聞きました。

 

京都議定書や被災経験が活動の原点

――――――まずは普段取り組まれている活動内容と、その魅力を教えてください。

現在は講演活動と大学院での研究が中心ですが、キャスターはテレビ番組で天気コーナーという作品をつくり上げ、視聴者の方々にわかりやすくお届けする仕事です。

限られた時間で、多数の方に向けて放送するメディアですから、どうしても大勢の皆さんに共通してあてはまる情報に限定されがちになるのがもどかしい部分ではありますが、映像と音で瞬時にニュースを届けられることが魅力ですね。

 

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母校での講演会の様子

一方、防災に関する講演は60分や90分といった比較的長い時間で、たくさんのお話ができる仕事です。参加される人数としては50人~100人規模のものが多いですが、その方々に合った情報をお伝えできることが魅力です。

加えて、講演は参加者の方々と直接やりとりできるのも特徴で、例えば最近では天気のアプリが非常に進化しており、スマホを使ってその画面を見ながら使い方をお伝えしたり、状況に合った情報の閲覧方法をレクチャーしたりすることができます。そういった活用方法をご存知でない方も多く、「ためになった」という声をよくいただきます。これはテレビにはない魅力であり、講演ならではのやりがいだと思います。

――――――気象予報士を志したきっかけを教えてください。

小学1年生の時に阪神・淡路大震災で被災した経験と、東日本大震災の影響が大きいです。東日本大震災の時は現地にいたわけではありませんが、自然災害の恐ろしさを改めて感じました。

それと同時に、地震はなかなか事前の予測が難しいのですが、気象予報士は天気を事前に予想することができます。その情報を伝えることで、自然災害による被害を少しでも減らしたいという思いから気象予報士を目指しました。


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――――――では、脱炭素キャスターになろうと思ったきっかけは?

1997年に採択された、京都議定書が最初のきっかけです。気候変動の国際的な対策を話し合う会議で、日本でも地球環境や温暖化の問題が話題になりました。

その1年後の私が小学4年生のとき、このことをわかりやすく解説したマンガを読んだことがあったんです。そこには、このままでは海面上昇によってツバルという国がなくなってしまうことが描かれており、大きなショックを受けました。

その後2013年に気象予報士資格を取得するのですが、当時は温暖化について懐疑論が話題になっている状況でした。それに対して、真実はどうなのだろう?と。自分で判断できる知識を持つために、まずは毎日の気温変化があるのはなぜかを知るために勉強を始めました。そこから脱炭素というテーマに広がっていったのです。

脱炭素キャスターを名乗った時は、気象予報士になってから9年ほど経っていました。その間SDGsなど気候変動をめぐる世論も大きく変わり、もっと自分にできることはないかとも考えました。そのころには防災に関する講演活動の機会をいただけていたので、気候変動に関する内容も発信していきたいと思い、また、自分の意思表明の意味も込めて脱炭素キャスターを名乗ろうと考えました。
 

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脱炭素における日本の課題と優位点

――――――脱炭素化を目指す上での課題はどのようなところにあると感じていますか?

日本における課題は、脱炭素に向けて、最近様々な取り組みを進める企業側の変化に対して消費者側が追い付いていないことです。2017年以降、TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報の開示が世界中で進み、日本でも昨年東証プライム上場企業には開示が求められるなど整備が進みました。これによって企業側は大きく変わってきました。

一方で、消費者の意識や行動はまだ追いついていないといえるでしょう。この背景にあるひとつの壁は、コストの高さです。温暖化対策をしたほうがいいことはわかっていても、クライメート・フレンドリー(気候変動による平均気温上昇を防ぐ上で役立つこと)な製品は価格が高いため手が出せないという状況があり、この価格差を縮めることが解決の第一歩だと感じています。とはいえ、コストを下げることは簡単ではないとも思うのですが。

また、日本は温室効果ガスの大半を占めるCO2排出の4割は発電によるものですが、この部分はある程度目指すべき道筋が見えてきました。その点では発電以外が要因とされる残り6割のCO2の削減に、どう取り組んでいくのかが課題だといえるでしょう。たとえば運輸や産業部門(工場など)では電気使用以外にもさまざまな理由からCO2が排出されています。

発電についても「道筋が見えてきた」とはいえ、実際に計画通りにいくとは限りません。再エネであれ他の発電であれ、電源立地地域の皆さんとの共生が必要になります。太陽光や風力などの分散型電源が増えると、発電施設の数が増えることになるので、その分ステークホルダーが増えることになります。中には交渉が難航するケースも出てくる可能性があります。

 

――――――では世界における日本の取り組みの優位点を教えてください。

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技術でいえば、近年になって注目を集めているペロブスカイト太陽電池があります。これは日本の技術者が生み出した太陽電池で、従来の太陽光パネルに比べて圧倒的に薄くて軽く、フィルム状であるため設置場所に利点があります。量産化に関しては中国に後れを取っていますが、こうした革新的な技術力は日本ならではですね。

また、政府としては、日本は石炭火力発電に関して高効率な技術を持った国であるという評価をしています。そのため、実際に日本の高効率な石炭火力やアンモニア混焼の技術で海外と協力する動きもあります。
 

脱炭素キャスターから脱炭素コミュニケーターへ

――――――今までのお仕事や活動の中で印象に残っていることを教えてください。

気象予報士になってからですと、2015年の関東・東北豪雨がありました。鬼怒川の堤防が決壊して家屋が流される様子が映像に収められるなど、こちらも極めて視覚的なインパクトがありました。このように、身近な日本で大きな災害が起こるたび、自然への脅威とともに自らの原点を振り返ります。

――――――大学院での活動も教えてください。現在の研究内容は?

主題はやはり、気候変動についての研究です。具体的には気候変動に関する、リスクや機会を個人や社会がどのように受け取り、どのように意見形成し、表出していくかという文系寄りの研究ですね。

例えば、原子力発電や火力発電の是非、電気自動車への関心などエネルギー全般における各イシューの可視化。太陽光発電は暮らしのそばにあるものの、そこに対する世論や意見はまだ細かく調査されていない部分が多く、それらを明らかにしようという研究が対象のひとつです。

大学院を志した理由は、私が報道に携わる中、やはり受け手の方があってこその情報だと感じたからです。私が伝えた情報を、どう理解し行動につなげていただけるのだろうと、そこに興味が湧きました。そこで、受け手の方がどう思うのかを深く理解したいと考えました。

現在は修士2年。その先の博士課程で、より世論分析に取り組みたいですね。そして中長期的には、日本における気候変動コミュニケーションの研究に従事したいと考えるようになりました。

そのきっかけは、2023年5月に参加した国際コミュニケーション学会です。そこには各国から、ナショナリズムやフェミニズム、政治など各分野の研究者や学生さんが集まっており、環境部会に関してはほとんどが気候変動コミュニケーションの研究者だったんですね。

環境学会は欧米を中心とした学会ではあるのですが、そこにはたくさんの気候変動コミュニケーションの研究者がいました。日本でも、ゴミの分別など環境配慮行動全般に関する研究者は一定数いるのですが、気候変動に関するコミュニケーションのスペシャリストはいないのが現状です。

そのため、簡単ではありませんが、その分野に長けた人材になりたいというのが、現在の大きな目標です。
 

電気のふるさとに思いを馳せてほしい

――――――数々の活動から、今後どのようなことを発信していきたいとお考えですか?

私は気候変動をなんとかしたいと思っていますが、それはあくまでも個人の価値観であり、それを押し付けようとは思いません。ただ、人間の活動によって気候変動や地球温暖化が起きているのは事実であり、それをもし解決したいと思うならば、こういう道筋や方法がありますよ、と事実を伝えることを徹底していきたいと思っています。

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価値観ではなく事実を伝えるという考えは、大学院の指導教官の影響が大きいですね。あるとき教官から、「脱炭素には推進派がいる一方で反対派もおり、それ以外にもさまざまな主張がある。それらの声に、フラットな観点でしっかり耳を傾けることが大切」と指導いただいたことがあり、これは私にとって大きな気づきとなりました。

その上で、私が行っている気候変動に関した世論の分析や研究は、世論の事実を正確に把握したいという探求心があるからであり、そこから中立的な立場で事実を伝え続けていきたいと考えています。
 

――――――最後に、千種さんにとって電気とは?

なくてはならないものであり、だからこそ電気がつくられる場所、いわば電気のふるさとに思いを馳せる必要があると考えています。夏や冬に電力需給ひっ迫の話題がでますが、私は気象予報士という立場上、毎年の電力需給が大丈夫かどうかは常に気になっています。その上で考えるのは、電気のふるさとへの関心です。首都圏は人口の多さから電力消費量も多いですが、普段はふるさとが見えづらいですよね。ただ、電力需給ひっ迫となると、電気がどこでつくられているということを考える機会となります。

エネルギーを使うことは環境に何らかの影響を与えています。景観や生態系、地球環境への影響など、何かしら人間への跳ね返りはあるのです。全てを解決する万能なエネルギー源は現状では存在しないので、そのあたりを私たちがどのように考え、どのように民意を示すのか。電気のふるさとに思いを馳せながら、一人一人が考え続ける必要があると思います。
 


千種 ゆり子

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ちくさ ゆりこ。埼玉県富士見市出身。一橋大学法学部を卒業後、一般企業に就職。幼少期に阪神淡路大震災で被災したこと、東日本大震災をきっかけに防災の道に進むことを決意。2013年に気象予報士資格取得。キャスターやコメンテーターとして活躍するほか、2021年には東京大学大学院に入学し、気候変動コミュニケーションについて研究中。原案とプロデュースで携わった映画が2024年春完成予定。

公式HP: https://chikusayuriko.com/

インタビュー:Concent編集部


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