キャスター・コメンテーター 伊藤聡子さん
幅広い知識に基づく見解と視聴者の気持ちに寄り添うコメントが印象的なキャスター・コメンテーターの伊藤聡子さん。情報番組などでもおなじみの存在で、優しい語り口が老若男女から幅広く支持を集めています。そんな伊藤さんは「地域経済の活性化が、日本の元気を取り戻すカギ」を持論として、長年にわたり地域活性化に関する活動を積極的に行っています。今回は、伊藤さんのこれまでの歩みや地域活性化の重要性、そして日本のエネルギーを取り巻く現状についての思いを伺いました。
転機はアメリカへの留学。現在はマルチに活躍しながら「地域活性化」にまい進!
――――――まずは、伊藤さんの現在の仕事内容について教えてください。
主にコメンテーターとして、『ひるおび』(TBS)などの情報番組に出演しています。また、得意領域である地域活性化をテーマに、全国各地で講演や研究活動を行う他、コンサルタントとしても活動しています。他にも、事業創造大学院大学で客員教授を務めたり、企業の社外取締役を務めたり、地方創生やエネルギー、環境などの分野で国の委員会にも参加しています。活動の幅が多岐にわたるので、「本業は何?」と聞かれても答えるのが難しいですね(笑)。
多岐にわたる仕事を通し、人との出会いを大切にしているそう
――――――大学在学中にキャスターとしてデビューし、テレビ界の最前線で活躍されてきた伊藤さん。どのような経緯で地域活性化に取り組まれているのでしょうか。
20代から30代前半までは、キャスターとして報道番組などに出演し、目まぐるしい日々を過ごしていました。しかし、「アウトプットばかりで、新たなインプットがない」と、自分の現状に疑問を感じてしまったんです。そこで、一旦すべての仕事を辞めて米国・NYフォーダム大学に留学しました。築いてきたキャリアも収入も絶たれるわけですから、今となっては我ながら思い切った決断だったと思います(笑)。それでも、様々な国の学生と共に学ぶ時間を過ごすことで、世界の広さを実感し視野が広がったことは大きな転換点となりました。
帰国後は、JICA(国際協力機構)を通じて国際支援活動に携わりました。そこで感じたのは、「途上国こそ、ビジネスの視点が不可欠だ」ということ。国の発展のためには一時の金銭的な援助も重要ですが、持続的に収入を得られる仕組みをつくることがさらに重要だと気が付きました。
その頃、実家のある新潟県に帰る度、空き家や耕作放棄地が増え、地域が衰退している現実も目の当たりにしていました。都市部への人口流出が進み、若い人が減っていく中で地域を持続させるには、やはり「働く場所」と「稼ぐ力」が必要。そこで、地域の資源を活かしてビジネスにつなげる術を学ぶため、事業創造大学院大学に入学してMBAを取得しました。「伊藤聡子はコメンテーター」というイメージが強いかもしれませんが、私の活動の軸にあるのは「地域の中小企業の成長」や「地域資源の活用と魅力づくり」といったテーマなんです。
三重県尾鷲市で定置網漁を体験する伊藤さん(右から2人目)。地域資源を活かしたビジネスを各地で取材する(提供:伊藤聡子事務所)
――――――地方への移動も多く、お忙しい日々を過ごされていると思います。お休みの日はどのように過ごされていますか。
今春には長年所属した事務所を退所し、個人事務所を立ち上げたこともあり、今は丸一日休めるような日がなかなか取れなくて…。それでもリフレッシュする時間を持ちたいので、積極的に「ワーケーション(ワーク×バケーション)」を取り入れています。温泉が好きなので、温泉地でワーケーションをすることが多いですね。自然の近くで仕事をすると良いアイデアが浮かぶこともありますし、オンライン会議で疲れた時でもすぐ温泉に入れるって最高です!今はオンラインでできる仕事も増えましたから、皆さんにもぜひおすすめしたいです。
ワ―ケーションで和歌山県白浜市へ。午前はオンライン会議に参加し、午後から観光や温泉を楽しんだそう(提供:伊藤聡子事務所)
テレワークの浸透やサテライトオフィスの設置で、地方が住みたくなる場所に!
――――――ニュースでも「地方創生」という言葉をよく目にします。なぜ今、地域活性化が重要とされているのでしょうか。
都市部への人口流出による、人口減少と労働力不足が地方の大きな課題となっています。人口が減り、働き手がいなくなれば、事業が成り立たない企業も出てきます。働く場所が減れば、さらに若い人は都市部へ流れていきます。まさに悪循環ですよね。一方、人口が集中する東京は、家賃が高く、子育て世代ではやっと生活が成り立つような状況です。結果として、生活に余裕がないと感じる人が増え、出生率も右肩下がりとなっています。
人口減少を食い止め、日本という国を維持するためには、地方が若い人に「選ばれる」場所になる必要があります。そのためには、地域活性化が重要です。希望する仕事ができ、自然豊かな場所で子育てができ、子育てを支援する施設や教育環境も充実している。さらにおいしい食べ物やきれいな空気もある。こうした環境が整えば、十分に地方が「選ばれる」理由になると思います。
地域活性化は国全体を考えるうえでも重要と語る
デジタル技術の進化により距離の制約が薄れつつある今、「本社は東京」という固定観念は変わりつつあります。また、地方のサテライトオフィスの方が生産性や業績が高いという例も報告されています。地方の方が通勤時間も減る傾向にあり、「職住近接」が実現しやすいため、プライベートの時間が増えることで生活にメリハリがつき、結果として仕事のパフォーマンスも上がるのではないでしょうか。もちろん業務の内容にもよりますが、場所に縛られない働き方が広がっているのはとても良いことですよね。
――――――自治体側も地域活性化に向けて、多様な取り組みを進めていると聞きます。
ユニークな取り組みを進めている自治体はたくさんあります。例えば、茨城県境町では、移住を希望する子育て世帯を対象に、境町が提供する賃貸住宅に25年住み続ければ、土地・建物を無償譲渡するという、太っ腹な制度を導入しています(※)。加えて、町内全ての公立小中学校にネイティブの英語教師が常駐し、授業はもちろん、日常的に英語に慣れ親しめる環境を整えています。こうした施策が功を奏して、全国各地から若い世代の応募が殺到しているそうです。
※2025年6月時点では満室。最新情報は境町移住定住ホームページをご覧ください。
茨城県境町を視察し、地方の可能性を実感。左は境町長の橋本正裕氏(提供:伊藤聡子事務所)
長野県伊那市では、オンラインで購入したふもとのスーパーの商品を、中山間地までドローンで配送してくれます。ドローンは市内に流れる川の上空を航行することで、万が一落下した場合でも人に危害がおよびにくいため、国交相の許可が下りたそうです。まさに地方だからこそ実現できた、最先端の生活スタイルですよね。また、伊那市はモバイルクリニック事業も展開しています。中が診察室になっている遠隔診療専用車両が患者さんの自宅近くに出向き、同乗する看護師さんの補助を受けながら、オンラインでつながる医師の診察を受けられます。問診だけではなく、患者さんの体に当てた聴診器の音もリアルタイムで伝わるそうです。さらに処方箋はオンラインで調剤薬局へ送られ、薬はドローンで届けられるという、まさに未来の医療です。
地域資源が強みになる時代へ
――――――地方ならではのエネルギーに関する取り組みもありますか。
地域資源をエネルギーに活かす取り組みが進められています。森林の多い地域では、間伐材を燃料として電力を生み出すバイオマス発電についてよく耳にします。また、木片や木くずなどからつくられる木質ペレットを燃料とする「ペレットストーブ」の購入に補助金を交付し、普及を促している自治体もあります。
木片や木くずなどからつくられる木質ペレット(samsam / PIXTA)
現在、日本の電力の約7割は火力発電から生み出されていますが、燃料となる石油や石炭は海外から購入している状況です。しかし、廃棄される木くずなどを資源として活用すれば、エネルギーの自給自足が可能になります。まさに、資源循環の好事例です。
食料はもちろん、エネルギーも地元で賄いながら、最先端の暮らしを送る。そんな新しいライフスタイルに共感する若い人たちは、実際とても増えています。都会の便利さとは違う、「自然の豊かさとテクノロジーの融合」は魅力に感じますよね。
――――――すでに若い人が増えている自治体もあるのですね!成功につながるポイントはどんなところにあるとお考えですか。
やはり首長さんの手腕ですね。アイデアマンの首長が就任すると、町の様子が劇的に変化するんです。抱える課題を悲観するのではなく、「この地域には宝がある」というポジティブな考えで施策を打ち出し、地域全体を巻き込んで成功に導いていると感じます。
一方で、施策を打ち出そうにも、地域活性化に充てる財源がないというケースがあるのも事実。今後は、都市部に本社があるような大企業が地方に目を向け、地域の資源に新たな価値を生み出し、ビジネス化につなげることがカギになると思います。こうした動きは、新規事業の展開や資源循環の取り組みを進めるきっかけとなるなど、企業側にもメリットがあると考えています。鉄やアルミなど海外への依存度が高い資源の価格が高騰し、調達の持続可能性が危ぶまれる中、代替資源が地方で見つかる可能性も秘めています。
地域資源のビジネス化は、自治体と企業の双方にメリットがあると話す
例えば、福島や山形では、鉄筋の代わりに竹を活用する「竹筋(ちっきん)コンクリート」という技術を復活しようという動きがあります。戦時中、鉄が使えなかった時代に生まれた技術で、東北地方には竹筋でつくられた橋が残っており、震災にも耐えたそうです。竹は成長が早く、処理にコストがかかる厄介者でしたが、資源として活用することで地域課題の解決と産業振興の両立が可能になります。
日本は食料もエネルギーも海外に依存していますが、円安や物価高で限界が見え始めています。日本がサーキュラーエコノミー(循環型経済)に向けて舵を切るなら、国内資源の活用は避けて通れません。都市も地方も関係なく、「地域こそが資源」という発想をみんなが持つ必要があると思います。
複数のエネルギー源を組み合わせる「エネルギーミックス」が重要
――――――燃料を海外に依存していることをはじめ、日本のエネルギーを取り巻く状況にはさまざまな課題があります。伊藤さんは現状をどのように捉えていますか?
東日本大震災以降、原子力発電の稼働停止により、その分の電力供給を火力発電に頼らざるを得ない状況が続いています。しかし、先ほどもお話しした通り火力発電に使用する化石燃料は海外からの輸入で賄っています。世界情勢などによって燃料価格が大きく変動するリスクを負っていることになりますよね。化石燃料の輸入に多額の資金を費やす国費流出の構造からの脱却は、大きな課題だと思います。
ウクライナ情勢が影響し、2022年から化石燃料の価格が高騰(出典:財務省「貿易統計」、経済産業省資源エネルギー庁「エネこれ」)
さらに、世界的に気候変動の影響が年々顕著になっており、脱炭素化が急務となっています。日本全体のCO2排出量のうち、約4割が電力部門からの排出です。政府も、「GX(グリーントランスフォーメーション)」を掲げ、国を挙げてエネルギーの安定供給、経済成長、脱炭素の推進に向けて取り組みを進めています。
もちろん、すべての電力を再生可能エネルギーにすれば良いという簡単な話ではありません。太陽光発電は日照に左右されますし、風力発電も風が吹かなければ発電できません。再エネにはコスト高の課題もあります。不安定な再生可能エネルギーの出力を補うためには、季節や天候を問わず安定的に発電できる原子力発電や出力を柔軟にコントロールできる火力発電など、複数のエネルギー源を組み合わせる「エネルギーミックス」が重要となります。一方で、原子力発電は安全性の確保や理解の浸透、火力発電は燃料価格高騰のリスクといった課題があります。「電気をどのようにつくるか」という問いに多くの人が関心を持ち、エネルギーの安全保障と生活コストの両面からバランスを考えることが大切です。
政府は、省エネの徹底をはじめ、製造業における燃料の転換、再生可能エネルギーや原子力などのCO2を排出しない電源の活用などでGXを推進する(Andrei / PIXTA)
子どもたちの笑顔があふれる持続可能な社会を目指す
――――――今後の展望を教えてください。
実は「将来こうなりたい」といった明確なビジョンは持っていないんです。これまで自分がやりたいことよりも、周りから勧められて挑戦したこと、そして与えられた役割を一生懸命やってきたことが少しずつ認められ、おかげさまで今とても充実して仕事に取り組めています。意外と周囲の方が自分の適性を見抜いてくれてることってあると思うんです。これからも、新しいご縁や学びを柔軟に受け入れていきたいと思っています。
ただ、私自身が新潟県出身ということもあり、「地方が衰退する日本のままでは良くない」という強い課題意識があります。地域活性化に関する活動を通して、子どもたちの笑顔があふれる持続可能な未来づくりに少しでも貢献していきたいです。
伊藤聡子さんの地元・新潟県糸魚川市の風景(ばりろく / PIXTA)
――――――最後に、伊藤さんにとって「電気」とは何でしょうか?
ビジネスもモノづくりも、すべて電気があってこそできること。電気は私たちの暮らしには欠かせない、「国の根幹」とも言える存在です。これまで多くの発展途上国を訪れましたが、スイッチを入れれば電気がつくという当たり前の環境は、とても恵まれたものだと実感しました。手頃な価格で電気が安定供給され、脱炭素にも対応する、そんな環境をどう整えるかは、日本にとって非常に重要な課題です。その恩恵を受ける一人として、私自身、これからも電気の大切さをしっかりと考えていきたいと思っています。
伊藤聡子さんの挑戦と地域活性化への熱い想いに触れ、地方が持つ可能性とエネルギーのあるべき姿を改めて考えさせられるインタビューでした。そして、多様な経験を活かし、持続可能な社会づくりに貢献する姿勢がとても印象的でした。
伊藤聡子
いとうさとこ。キャスター、コメンテーター、事業創造大学院大学客員教授、開志専門職大学客員教授。大学在学中に『サンデーモーニング』(TBS系)でデビュー。2002年にNYフォーダム大学へ留学し、帰国後はJICAを通じて国際貢献の現場を視察。ビジネスによる社会課題の解決のアプローチについて取材する。現在は、地方創生や企業経営などをテーマに幅広く活動している。
オフィシャルサイト:https://www.itosatoko.jp/
オフィシャルブログ:https://ameblo.jp/ito-satoko/
Instagram:@satokoito73
企画・編集=Concent 編集委員会
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