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地球温暖化ってどうやったら止められる?エネルギーの専門家に突撃インタビュー!

2019.07.17

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第3回は、エネルギーを研究する専門家に、地球が抱える大問題の根本的な原因と、それを止める方法についてインタビュー。「省エネして二酸化炭素(CO2)を減らせばいいんでしょ?」なんて思ってたけど、そんな簡単なことではなかった!?

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Conちゃん、地球を救う方法を知る

編集部員Conちゃんがいるのは、とあるビルの中。前回、気象予報士の手塚悠介さんに、異常気象の怖さ、そして異常を引き起こす原因の一つが地球規模でCO2が大量に排出されていることによる温暖化の影響だということを聞いて…

と、日本エネルギー経済研究所という研究機関を訪れたのだった。しばらく部屋で待っていると、来てくれたのが…

戦略研究ユニット国際情勢分析第1グループ主任研究員…何とも頼もしい。早速、質問してみた。

下郡「そうですね。CO2は、メタンガスなどと共に温室効果ガスと呼ばれる気体の一つです。温室効果ガスは熱を吸収しやすい性質があって、中でもCO2が最も地球温暖化に影響を及ぼすものだと言われています」

下郡「とはいえ温室効果ガスは、工場で物を作ったり、電気を使ったり、車に乗ったり、人間の活動によって増加したと言われています。なので、単純に減らすといっても、減らすことはかなり難しいんです。人間が増やしてしまったものを、自ら減らす。それが地球温暖化を直接的に止める方法ですね」

Conちゃん、世界は一つだったことを実感する

自分たちで増やしたものを、自分たちで減らす、とは「人間もなかなか素晴らしい」と感じたConちゃん。だけど、生活したら増えると言われても、美味しいものを食べたいし、スマホも使いたい…。どうしたらいいの?

下郡「ニュースなどで、『COP(コップ)』って聞いたことがないですか? 実は既にCO2の問題は世界が一つになって立ち向かっているんですよ。COPというのは、『Conference of Parties(条約における締約国会議)』の略称で、1995年にドイツで初めて開催されて以降、毎年各国で開かれる会議なんです」

下郡「地球の気候変動問題をどうすべきか議論しているんですよ。まさに、異常気象や地球温暖化について、世界の国々が集まって話し合っているんです。最近で一番有名なのが、2015年12月にパリで開かれた『COP21』と呼ばれる21回目の会議。2020年以降にどうやって温室効果ガスを減らしていくのかという世界全体のルールが決まりました。これは『パリ協定』と呼ばれていて、途上国や先進国を区別せず、全世界の地域と国が対象になっています。2019年1月時点では、世界195カ国が協定に参加しているんですよ」

下郡「また、各国がCO2削減量の目標やそれを達成するための取り組みを自己申告する形を取っているのも新しい試みなんです。それに、ただ申告するだけではなく、5年ごとに達成状況や、次の5年間に何をするのかといった各国の進捗を定期的に確認できるようにもなっていて、一般にはあまり知られていませんが、国際的にはこれまでにない革新的な仕組みなんです」

下郡「各国が自分たちで考えていて、例えば“2050年”までに“2000年”と比べてどれだけ削減するか、何をするか、というのを打ち出しているんです。日本の場合は、2030年度までに2013年度と比較して温室効果ガスを26%減らしますという目標を掲げています。また、それを実現するために、国内の発電量のエネルギー源別内訳を表す電源構成のバランスを変えたり、省エネ対策を進めたりといったさまざまな施策を挙げているんです」

下郡「対比する年は、好きに選んでいいんです。日本が2013年度を基準値としているのは、2011年の東日本大震災が関係していると思います」

下郡「震災以降、日本は原子力発電所を止めて、不足する電気を発電するために火力発電所をたくさん動かしています。つまり、その前後でCO2の排出状況が全く変わってしまって、CO2の排出量が増えたんです。なので、震災以降の新しい状況を基準にして目標を出したんですよ」

下郡「あまり知られていませんが、そもそも原子力発電は、発電するときにCO2が出ないんです。一方で代わりに運転させた火力発電は、天然ガスや石炭など燃料の種類によって量は違いますが、いずれもCO2を排出します。実際、2013年度の日本のCO2総排出量は14億1000万トン。過去最大の数値になりました」

下郡「2016年度は13億800万トンなので、3年かけて少しは減ってきています。国内で節電など省エネにものすごく力を入れているのも一因ですが、実はこれだけではありません。減らせているのは、太陽光発電など再生可能エネルギー(以下、再エネ)の普及と、少しずつ原子力発電所が再稼働していることが大きく影響しています」

Conちゃん、日本と世界の違いを考える

東日本大震災がこんなところにも影響を及ぼしていたことに驚くConちゃん。日本はいろいろと頑張っている感じだけど、そういえば…他の国は何やってるんだろう?

下郡「イギリスは、2050年までに1990年比で温室効果ガスを80%減らすという法律を作っていて、さらに2019年6月末には目標を100%に引き上げました。とても厳しい目標を掲げて、さまざまな取り組みを行なっています」

下郡「ドイツは、風力をメインとした再エネが広く普及している国ですが、実はそれだけで電力を維持できているわけではないんです。もともとあった原子力を一気に減らしたので、代わりに石炭火力を使うなどして、電力の供給バランスを保っています。日本と同じように原子力で減らせていたCO2が、石炭に変わったので増えているんです。CO2の観点からすると、逆行しているとも言えますね」

下郡「そのためドイツは『脱石炭』を掲げています。とはいっても、もともと石炭がたくさん採れる国なので、自国の資源があるなら使って当然ですし、採掘などで雇用も生まれているので、すぐにやめるというわけにもいかないですよね。地元の経済という違う側面の問題も抱えているんです」

下郡「近年、勢いに乗っている中国はというと、これまで安い石炭で電力を作り続け、産業を大きく発展させてきました。現在も大半のエネルギー源は石炭なのですが、大気汚染問題などから石炭利用を減らす方向に進んでいます。それに、人口を多く抱える新たな経済大国として、CO2排出量の削減で国際的に貢献しようとしています」

下郡「アメリカにはCO2排出量の削減目標はありますが、実はそれをどうやって達成するかという国全体の取り決めはないんです。州での取り決めが前提なので、再エネ100%を目標に掲げる州もあれば、石炭を利用する州もあって、バラバラなんですよ」

下郡「その通り。COPの交渉はなかなかまとまらないので、パリ協定ができたのは本当に素晴らしいことなんです。2018年11月にポーランドで開かれた『COP24』で、パリ協定の大枠のルールが決まったのですが、合意できなかったものもたくさんあります。このルールは認めないけど別のルールはOK、テーマごとに反対する国の組み合わせも変わるなんてこともざらです。ちなみに、代表的な国が自ら掲げた目標の一例がこれです」

出典)温室効果ガスインベントリオフィス 全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト「3-6 各国の温室効果ガス削減目標」より作成

下郡「そうでもないんですよ。2013年比較でそろえると、日本は26%減、米国は18~21%減、EUは全体で24%減になるので、決してひけをとる数値ではないんです」

下郡「そう思いますよね。2030年度は26%減ですが、2050年度に至っては80%減、今世紀後半のできるだけ早い段階でゼロに近づけていくとしています。2050年度の目標はかなり厳しい数値ですが、少なくとも2030年度は国が掲げている『エネルギー基本計画』という政策を基に算出した数値なんですよ」

下郡「その政策が実現できれば達成できる数値ではあるんですが…」

下郡「先ほど言った電源構成がカギになるんです。エネルギー基本計画の中では、2030年度までに日本の電源のバランスを、再エネが22~24%、原子力が22~20%、LNG(液化天然ガス)火力が37%にすることを目標にしています。そして、CO2排出量の26%減は、その状態になっていることを大前提に出した数値なんです。なので、2030年度までにそれが達成できるか否かというのが、逆に問題になってくるんです」

Conちゃん、エネルギーミックスを知る

下郡「原子力発電の割合を考えると、今そのように言える人は、そう多くないかもしれません。ですが、地球温暖化という観点から見れば、これまでどの発電方法がCO2排出量の削減に貢献してきたのかということを理解する必要もあるんですよね。なので、電源の組み合わせ、いわゆる『エネルギーミックス』という考えが非常に大事になってくるんです」

下郡「エネルギーのことを考えるとき、日本には『S+3E』という指標があります。『安全性(Safety)』を大前提に、『安定供給(Energy Security)』『経済性(Economy)』『環境保全(Environmental conservation)』を確保する。S+3Eは、それぞれの英字の頭文字をとった言葉です。各国が抱えている問題にもリンクしますね」

下郡「発電方法にはそれぞれメリットとデメリットがあるので、1つだけで『S+3E』のすべてを満たすことは絶対にできません。そもそも1つの電源に絞る必要はないんです。再エネ、原子力、石炭、天然ガスのどれもが完璧ではないと理解して、バランスよくいろいろな電源を持っておくのが最適なんです。それがひいてはCO2排出量の削減につながって、地球温暖化対策にもなるんです」

下郡「でも、国が示すエネルギーミックスが実現するかといえば、今の状況では現実的にかなり厳しいと思います。このままいけば、2030年度に他の国々が結果を出す中で日本は目標を達成できないという未来が待っているかもしれません」

世界が抱えている問題と、日本が直面している大問題を知ったConちゃんは、少し動揺…。そこで、何か気軽にできるCO2削減方法はないか聞いてみたら、「すぐにできるのはエアコンの温度調整です。冷房なら、設定温度を1℃上げればCO2の排出量が少し減りますよ。あとは、シャワーの使用量を減らすのも、意外と効果的です」と下郡さん。

と、すぐにメモを取ったConちゃんを制して、「でも、省エネだけで頑張ろうとすると、とても大変です。効率的に減らすためには、仕組みを大きく変えていくしかないんです」と大事なことを思い出させてくれた。

壁にあるコンセントを見たときぐらい、その先にある“日本の電源”のことも考えなきゃなぁ…と思ったConちゃんでした。


下郡けい

大分県出身。一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 戦略研究ユニット国際情勢分析第1グループ 主任研究員。専門分野はエネルギー政策(欧州地域)、原子力政策。2010年に早稲田大学法学部卒業後、2012年に東京大学公共政策教育部 専門職学位課程 国際公共政策コース修了、2012年日本エネルギー経済研究所 戦略研究ユニット 原子力グループを経て、2018年から現職。