あなたとエネルギーをつなぐ場所

ドイツのエネルギー政策ってどうなってるの?在独ジャーナリストの熊谷徹さんに聞いてみた(前編)

2024.10.30

Conちゃんドイツのエネルギー

エネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第35回のテーマは「ドイツのエネルギー政策」。発電量に占める再生可能エネルギーの比率が高く、カーボンニュートラルに向けた取り組みを積極的に進めるドイツ。「このような現状になっているのはなぜ!?」と思ったConちゃんが、エネルギーの専門家に聞いてきました!

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Conちゃん、ドイツのエネルギー政策を知る!

世界的な目標であるカーボンニュートラル達成を実現すべく、各国で脱炭素化が進められている現在。そんな中ドイツは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を2030年までに65%削減し(1990年比)、2045年までにカーボンニュートラルを実現することを目標に掲げている。

「ドイツの人たちはエネルギーに対しどのような考えを持って、どのような取り組みを進めているのだろう」と気になったConちゃん。ということで、今回はヨーロッパのエネルギー事情に詳しい方に話を聞きました。

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷さんは、34年前からドイツに住み、エネルギー・環境問題や政治・経済、社会について取材・執筆活動を続けている、ドイツの現状にとっても詳しい方。

Conちゃんドイツのエネルギー

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「ドイツが加盟している欧州連合(EU)には、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標があるんだけど、中でもドイツ政府は、再生可能エネルギー(以下再エネ)による電力が電力消費量に占める比率を2030年までに80%に引き上げること、そして2045年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を打ち出しているよ。ドイツは、EUの中で国内総生産(GDP)が最も多くて、二酸化炭素(CO2)の排出量が最も多いんだけど、EUと比べて、5年も早い目標を掲げているんだ」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「以前は火力発電をたくさん使っていたんだよ。ドイツは日本と同じように、自国で採れるエネルギー資源があまり多くないんだけど、『褐炭(かったん)』という燃料だけはたくさん採れて、しかも採掘するコストが比較的低いこともあって、長年、国の電力、そして産業を支えるエネルギー源として使われていたんだ。2000年時点では、褐炭、石炭、天然ガスを燃やして電気を作る火力発電が発電量全体の約60%を占めていたんだけど、化石燃料を燃やすとCO2が発生するから、ドイツ政府は地球温暖化・気候変動対策の一環として、将来は褐炭や石炭を使わないことに決めたんだ。褐炭と石炭を使う火力発電所を2038年までにすべて廃止すると宣言し、その代替として再エネへの移行を急速に進めているんだよ。今、ドイツでは家庭を中心に太陽光発電ブームが起きている。政府が多額の補助金を出したことで再エネの導入が進んでいて、実際に2023年には再エネで作った電力がドイツ国内の発電量に占める比率が初めて半分を超え、約53%になったんだ。2000年には6.6%だったから、23年間で再エネがおよそ8倍に増えたということだね。2024年1月から9月までのドイツの電力消費量に再エネ電力が占める比率は56%だったんだよ」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「再エネ急拡大の背景には、ドイツ人の環境意識がもともと高いことがあるよ。ドイツは連邦国家だから、人口が各地に分散していて、大都市でも広々とした公園や森があるんだ。子供の頃から、週末は家族と一緒に森に行って自然を楽しむ暮らしが根付いているから、環境を守り、美しい自然を維持することが大事だと思っている人が多いんだよね。メディアでは、エネルギーや環境問題、地球温暖化・気候変動に関するニュースが日本よりもたくさん取り上げられるし、国民の知識と関心は日本よりも深いんだ。だからドイツでは、再エネ拡大の方針は多くの国民の賛同を得られるし、2015年の『パリ協定』で掲げられた、『地球上の平均気温の上昇幅を産業革命以前に比べて2℃未満に抑える』という世界目標の必要性への意識も高いんだ。政界でも、一部の過激政党を除き全ての政党がCO2削減政策と再エネ拡大に賛成しているよ。それに、全ての大手電力会社が政府の脱炭素化政策を支持していて、再エネ発電などグリーン事業を経営戦略の中心に据えているよ。気候変動に歯止めをかけようという国民的な同意があると言えるね。ただ、景気後退が深刻化する中、市民の間で『環境保護ばかりではなく、企業の経済競争力の強化も重視してほしい』との声が高まっているから、ドイツがいつまでに再エネ比率を80%に引き上げられるかは未知数なんだ」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「カーボンニュートラルを達成するためには、発電するときにCO2を出さない原子力を活用するやり方もあるよね。欧州では、多くの国が再エネ拡大とともに原子力の活用を進めているんだ。フランス、英国、スウェーデンなど多くの国が原子力を活用していて、ポーランドのように原子力発電所の新設を計画している国もあるよ。一方で、ドイツは2023年に『脱原子力』を実行したんだ。2023年4月15日に、国内で運転されていた最後の3つの原子力発電所を廃止したんだよ。ドイツは、脱原子力と、脱褐炭・脱石炭を同時に進めている、世界でも数少ない国の一つだと言えるね。再エネも火力も原子力もバランスよく使うことにしている日本とは、かなり違う政策だよね」

 

Conちゃん、ドイツの現状が気になる!

Conちゃんドイツのエネルギー

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「確かに、太陽光発電や風力発電といった再エネは、太陽が照らない日、風が吹かない日には発電量が少なくなるから、他の発電方法も準備することが必要だよね。電力の需要と供給のバランスが崩れると、送電線(系統)が不安定になって、広い地域で停電が発生してしまう可能性があるから、いわゆる“調整力”として使えるバックアップのための発電所が必要になるんだ。多くの国では石炭や天然ガスを燃やして発電する火力発電と原子力発電がその役割を担っているんだけど、ドイツはカーボンニュートラル達成のために、褐炭や石炭を使う火力発電を2038年以降は使わない方針だし、原子力発電所はすでに廃止している。そこで今後は、燃やしてもCO2が出ない水素を活用しようとしているんだ。燃料を100%水素に切り替えられる天然ガス火力発電所を新設したり、初めから水素を使える『スプリンター発電所』と呼ばれる水素火力発電所を新設したりしようとしているよ。既存の天然ガス火力発電所の燃料を水素に切り替えられるようにするための設備改修も一部で始まっているんだ」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「そう。今ある褐炭・石炭の火力発電所を廃止して、将来は再エネで電力消費量の約80%をカバーし、残りの約20%を水素火力発電と周りの国からの電力輸入で補う。これがドイツ政府が進めている政策なんだよ」

 

Conちゃん、日本とドイツの違いを知る!

Conちゃんドイツのエネルギー

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「ドイツはフランスなど9カ国と国境を接していて、送電線がつながっているうえ、各国の電力の周波数も同じだから、周りの国々から電力を融通、つまり直接送ってもらうことができるんだよ。ヨーロッパの国々の間では、電力の輸出入が常に行われているんだ。電気が足りなくなりそうなときに、必要な分を他の国から分けてもらえることは、大きな安心材料になるよね。これは島国の日本ではできないから、大きな違いだね。実際にドイツでは、原子力発電を止めたことで他国からの電力の輸入量が増えているよ。ドイツはもともと電力の輸入量より輸出量の方が多かったけど、原子力発電所の運転を停止した2023年には、他国からの輸入量が増えて、輸出量を上回ったんだよ」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「どの方法でどれだけの量の電気を作るかはそれぞれの国が決めるものだってことは知っておくべきポイントだよ。ある国がどうやって電気を作るかを、EUや他国が指示することはできないんだ。例えば、フランスで作られる電力は約70%が原子力発電によるものなんだけど、ドイツが自国で原子力発電を止めたからといって、電気を送ってくれるフランスや他国に対して『原子力で電気を作らないでほしい』とは要求できないんだよ。そもそも、原子力で作られた電気を取り除いた電気をドイツに送ってもらうことは物理的にできないしね。外国から入ってくる電力はコントロールできないけど、自国で発電する電力をコントロールすることはできるから、ドイツは原子力発電を使わないことに決めたんだ」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「エネルギー政策は国の現状や目指す姿を踏まえて考えるべきものだから、どれが良いと一概に言えるものではないんだよ。どのようにカーボンニュートラルを達成するか、電力をどのような方法で作るのが良いか、全ての国に当てはめられる正解はないんだ。それぞれ異なる特長を持つ、いろんな電源(発電所)を組み合わせて電力を作ることを『エネルギーミックス』というんだけど、どのような組み合わせにするかは、それぞれの国が自国に適した方法をそれぞれきちんと考えて決めないといけないんだよ。エネルギーは、国の安全保障にも関わる大事な問題だからね」

ドイツのエネルギー政策は、カーボンニュートラルの実現を目指しながら、脱原子力・脱褐炭・脱石炭という政府の政策を踏まえて決められていることを知ったConちゃん。日本が参考にできることはあるのか? 次回、後編でリポートしていきます!

>後編に続く


取材協力:熊谷 徹

在独ジャーナリスト。1982年、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中にベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材する。ドイツが統一された1990年からフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住し、取材・執筆を続けている。2007年、『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』で年度平和・協同ジャーナリズム奨励賞受賞。2024年8月、新著として『ドイツはなぜ日本を抜き「世界3位」になれたのか – “GDP逆転”納得の理由 – 』(ワニブックス)を刊行。2024年10月現在、29冊目の本を執筆中。

★さらに「日本のエネルギー」について知りたい方はこちら!
エネルギーの「これまで」と「これから」-エネルギーに関するさまざまな話題を分かりやすく紹介-(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

ドイツのエネルギー政策からどう学ぶ?在独ジャーナリストの熊谷徹さんに聞いてみた(後編)

2024.10.30

Conちゃんドイツのエネルギー

エネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第36回のテーマは「ドイツのエネルギー政策」。前編で、ドイツのエネルギー政策や日本との違いを知ったConちゃんが、ドイツのエネルギー事情をさらに深掘りしてきました!

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Conちゃん、世界情勢がエネルギーに与える影響を知る!

EU全体が掲げる「2050年カーボンニュートラル」の目標を、それより5年早い2045年に達成しようとしているドイツ。再生可能エネルギー(以下、再エネ)導入を中心に、脱原子力、脱褐炭・石炭、水素の活用といった取り組みを進めてきている。

「ドイツのエネルギーのことをもっと知りたい!」と思ったConちゃん。前編に続き、ヨーロッパのエネルギー事情に詳しい在独ジャーナリスト・熊谷徹さんに話を聞きました。

>前編はこちら『ドイツのエネルギー政策ってどうなってるの?在独ジャーナリストの熊谷徹さんに聞いてみた(前編)

Conちゃんドイツのエネルギー

Conちゃんドイツのエネルギー

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「まずは、ドイツの原子力政策について説明するね。過去には原子力発電をたくさん使っていたドイツが、『脱原子力』に舵を切った大きな転機は、2011年の東日本大震災による福島第一原子力発電所事故だったんだ。私自身、当時はミュンヘンにいたんだけど、ドイツのメディアは当時、非常にセンセーショナルな報道を行っていて、人々の不安を煽るかのようだったよ。背景には、1986年に当時のソ連で起きたチェルノブイリ発電所事故の記憶があったからなんだ。ドイツではチェルノブイリ事故の影響で、一部の地域が放射性物質で汚染されたこともあって、多くの市民が原子力に対して批判的な態度を取るようになっていたんだ。そんな中でのセンセーショナルな報道だったこともあって、国内の不安が高まってしまった。このため、ドイツ政府は2022年末までに全ての原子力発電所を廃止することを決め、当時は全ての政党がこの決定に賛成したんだよ」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「東日本大震災から時間が経ち、原子力へのドイツ国民の不安感が大幅に薄らいでいた中で、2022年に起きたロシアによるウクライナ侵攻により、エネルギーをめぐってまったく別の不安が高まったんだ。ロシアが海底パイプラインを通じてドイツなどの西欧諸国に輸出していた天然ガスの供給を止めたことで、資源価格、特に天然ガスの値段が大幅に上がったんだよ。2022年8月には、一時、天然ガスの卸売価格がウクライナ侵攻前の7倍にまで上昇したんだ。ヨーロッパでは、天然ガスと電力の卸売価格が連動していて、資源価格の高騰に伴って電気料金も大きく上がったんだよ。2022年の夏には、一部の電力会社から消費者に対して、電気とガスの料金を2倍にするという通告が出されるほどの事態になったんだ。実際には、政府が日本と同じように激変緩和措置を取ったために2倍にはならなかったけど、多くの国民がエネルギー供給に強い不安を抱いたんだよ。電力や天然ガスの価格が高くなったことで、生産を縮小したりやめたりした工場もあったんだ」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「ドイツは2022年末で全ての原子力発電所を廃止することを2011年に決めたけど、前編で話したとおり、最終的に全てが廃止されたのはそれより少し先の2023年4月15日だったんだ。ウクライナ侵攻の影響でエネルギーを巡る不安が高まったことで、2022年の終わりごろに『電力供給が不安定になることを避けるために、原子力発電所の運転を当面継続するべきだ』という意見が野党や国民からたくさん出され、こうした世論を受けてドイツ政府は運転期間を3カ月半伸ばすことにしたんだよ。延期には、他の理由もあるんだ。通常ドイツは、電力が足りなくなりそうなときには、お隣のフランスなどから電力を輸入しているけど、当時はたまたまフランスの原子力発電所のほぼ半分が修理・点検のために運転を停止していたから、ドイツで電力が不足したときにフランスから電力を送ってもらえない可能性が強まったことも、理由の一つだよ。国民意識の傾向の変化は、世論調査を見ても明らかなんだ。2011年の東日本大震災直後は回答者の7~8割が早期の脱原子力に賛成していたけど、2022年のウクライナ侵攻後の世論調査では、回答者の82%が最後の3つの原子炉を2023年1月1日以降も運転し続けるべきだと回答したんだ。エネルギー不足や電気料金の高騰に対する不安で、世論が大きく変わったんだね」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「そういう主張をする政治家もいるけど、2011年に議会で決めた政策に基づいて法律を変更して脱原子力を実行したから、簡単には覆らないと思うよ。ただ、ある保守政党は、『特定のエネルギーを禁止せず、原子力発電を含めた多種多様なエネルギーの選択肢を持つべきだ。今のところ原子力発電を諦めるべきではなく、核融合発電も実用化するべきだ』と主張しているよ。この政党は今は野党だけど、世論調査ではドイツ国民の支持率がトップで、2025年9月の総選挙で政権に加わる可能性が高い。だけど、2023年に止めた3基の原子炉の再稼働を求める意見はまだ少数派だよ」

 

Conちゃん、気候変動の影響を知る!

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「ドイツには『再生可能エネルギー促進法』という法律があるんだけど、2023年に『カーボンニュートラルを達成するまでは、再エネ設備の建設と送電線などの建設運営を社会で最も重要な公共的利益として、他のあらゆる事柄よりも優先する』といった内容をこの法律に盛り込んで、再エネ拡大を進めていくことにしたんだ。すごく強力な、厳しい内容だよね。再エネは、発電するときにCO2を出さないというメリットがあるけど、陸上風力発電所の開発で野鳥の棲み処(生息地域)が奪われることを批判したり、自分の家の近くに風力発電所が建設されることに反対したりする人もいる。それでも、再エネ拡大をCO2削減のためにいま一番重要な課題として進めるという基本ルールを政府が法律に明記して、発電事業のグリーン化を最優先で推し進めることにしたんだ」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「ドイツは、外国から輸入する資源への依存度を下げ、エネルギー自給率を向上させるために、再エネを拡大しようとしているんだ。エネルギー自給率を重視するようになったきっかけの一つは、さっき話した、ロシアによるウクライナ侵攻。2022年夏にロシアが、海底パイプラインによる西ヨーロッパへの天然ガスの供給を止めたことで、ドイツ、そしてヨーロッパのエネルギー市場は大混乱に陥ったんだ。これを受けてドイツは、ロシアへのエネルギー依存度が高くなっていたことを反省して、エネルギー自給率を上げるために、再エネ拡大を進めることにしたんだ」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「ドイツが再エネを強く推し進めるもう一つの理由は、やっぱりカーボンニュートラル実現への強い決意。ドイツの人たちには、将来の世代のためにも気候変動に歯止めをかけなければならないという強い思いがあるんだ。ヨーロッパ各地では実際に、地球温暖化による影響が感じられるようになっているよ。ドイツのミュンヘンでは、2024年4月に28℃の気温を記録した。以前は、4月と言えばまだ冬のような寒さだった時期だから、こんなに気温が高くなるなんて大変なことだよね。2024年の春から夏には、毎月のように過去最高の平均気温が観測されたし、夏場の暑い時期には、熱中症で亡くなる人も増えているんだ。ヨーロッパ各地で大規模な洪水被害が増えているし、ヨーロッパ南部では、深刻な水不足や森林火災も起きているよ。ヨーロッパ、特に環境保護を重視するドイツでは、気候変動への危機感が強く、脱炭素化を進めなければならないという機運が高まっているんだよ」

Conちゃんドイツのエネルギー

 

Conちゃん、日本がドイツから学べることを考える!

Conちゃんドイツのエネルギー

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「お話ししたとおり、ドイツ政府は、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、国のエネルギー自給率を高めようとしている。エネルギーは国民の暮らしや経済活動を支える大事なものだから、国際情勢に影響されて供給が不安定にならないように、外国への依存は最小限にした方がいいよね。ドイツは、外国への依存度を下げるために、太陽光や風力を中心とする再エネ発電を最も重視しているんだ。外国への依存度を下げるには、太陽光や風力、水力などの再エネや、『準国産エネルギー』である原子力を活用するやり方があるよ。日本はドイツと同じように天然資源の少ない国だから、他国から輸入される資源にできるだけ頼らず、エネルギー自給率を引き上げていく方法を考えないといけないね」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「ヨーロッパでは、英国、フランス、ポーランド、チェコなど多くの国々が、原子力発電の比率を今後増やすことで、カーボンニュートラルを達成しようとしているよ。太陽光や風力による発電が少ない時には、原子力からの電力で補おうと考えているんだ。合わせて、ヨーロッパ全体の動きについても説明するね。前編でも説明したとおり、ヨーロッパ大陸の国々は地続きで、電力の周波数も同じだから、各国の間では毎日電気の輸出入が行われているよ。EUは、単一の電力市場を作ることを理想としていて、加盟国間の電気の輸出入を、これからさらに推進しようとしているんだ。ヨーロッパを、一枚の銅板のように電力が自由に行き来する地域にすることで、電力不足や価格高騰などの事態を防ごうとしているんだよ」

Conちゃんドイツのエネルギー

熊谷「ドイツは周りの国と送電線が繋がっているから電力を直接輸入することができるけど、日本は島国だからそれは難しい。だから、安定的に電力を使えて、そしてエネルギー自給率を向上させるためにはどうしたらいいのか、日本の状況に最も適した方法をきちんと考えて取り組まないといけないよね。政治的・地理的条件の違う日本がドイツをそのままマネしてもうまくはいかないんだ。日本でいま提案されているように、国土や政治・経済の状況などを考えて、あらゆる選択肢を排除せずに、再エネ、原子力、火力をうまく組み合わせて活用していく『エネルギーミックス』を追求することも一つの可能性かもしれないね。安定的なエネルギー供給体制を作り上げるためのコストを誰が負担するのか、透明性の高い議論を行っていくことも重要だね。そして、より良い日本のエネルギーのあり方を考えるためには視野を広げて、多くの国が再エネと原子力を使って安定供給を図ろうとしているヨーロッパの状況も注意深く見ていく必要があるんじゃないかな。1万キロメートル離れた遠い場所のことだと考えるのではなく、『ヨーロッパから学べることもある』と考えるべきだと思うよ」

Conちゃんドイツのエネルギー

夏の暑さが年々キツくなる……くらいにしか感じていなかった地球温暖化や気候変動のこと。でも、世界に目を向けてみると深刻な事態が起きていた。ドイツの現状を学んだことで、カーボンニュートラルをどのように達成するか、そしてどのようにエネルギーを上手く使っていくか、日本にとって一番いい方法を自分たちで考えていかないといけないんだなと思ったConちゃんでした。


取材協力:熊谷 徹

在独ジャーナリスト。1982年、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中にベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材する。ドイツが統一された1990年からフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住し、取材・執筆を続けている。2007年、『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』で年度平和・協同ジャーナリズム奨励賞受賞。2024年8月、新著として『ドイツはなぜ日本を抜き「世界3位」になれたのか – “GDP逆転”納得の理由 – 』(ワニブックス)を刊行。2024年10月現在、29冊目の本を執筆中。

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エネルギーの「これまで」と「これから」-エネルギーに関するさまざまな話題を分かりやすく紹介-(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

「エネルギー基本計画」って何? エネルギーに詳しい竹内純子さんに聞いてみた(前編)

2024.08.30

Conちゃん基本計画

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第33回のテーマは「エネルギー基本計画」。今年は政府が策定する「エネルギー基本計画」が見直され、将来の日本のエネルギー政策の方向性が決まる大事な年。「そもそもエネルギー基本計画って何?」と疑問に思ったConちゃんがエネルギーの専門家に聞いてきました!

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Conちゃん、エネルギー基本計画について知る!

今年は、日本のエネルギー政策の土台となる「エネルギー基本計画」が見直される年だという。すでに見直しに向けた検討がスタートしているみたいだけど、「そもそもエネルギー基本計画って、何?」と思ったConちゃん。ということで、今回はエネルギーの専門家に話を聞きました。

Conちゃん基本計画

Conちゃん基本計画

Conちゃん基本計画

竹内「日本はエネルギー資源に乏しい国だから、エネルギーを確保するのがほんとに大変なの。だから、安定して、なるべく安く、そして環境にも配慮したエネルギー(電気)を確保し続けることを目指して、エネルギー政策を考えなければならないの。そのためにまとめる計画なんだよ。この計画は、2002年に施行された『エネルギー政策基本法』に基づいて2003年に初めてつくられ、それ以降は3年ごとに見直されているんだ。今の第6次エネルギー基本計画は、2021年につくられたものだから、ちょうど今、見直しているところだよ」

Conちゃん基本計画

竹内「エネルギーは、日本の経済や国民生活を支える大事なもの。特に電力を確保し続けるには 、発電所や送電線などを整備していかないといけないの。そのためには、将来どのくらい電気が必要か長期の見通しが大事になってくるのよね。だから、政府として、エネルギーを取り巻く国内外のいろんな情勢を踏まえたエネルギー政策を計画的に進めるために、方向性を示しているの」

Conちゃん基本計画

竹内「エネルギー問題を考えるには、『安全性(Safety)』を大前提に、『安定供給(Energy Security)』と『経済効率性(Economic Efficiency)』と『環境適合(Environment)』を同時に実現する『S+3E』という考え方が大原則になっているよね。つまり、将来にわたって、電気をできる限り安定的に、かつできるだけ安く使えるようにするために、火力、原子力、再生可能エネルギーといった発電方法をどのように位置付けて活用していくかや、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、どう取り組んでいくかといったことがまとめられているんだよ」

Conちゃん基本計画

竹内「繰り返しになるけど、エネルギーを確保することは、日本にとってはすごく大事なことなの。日本は、島国で近くの国と送電線がつながっていないから、電気をどうしても国内の発電所でつくらないといけない。だけど、日本には火力発電の燃料となる石炭やLNG(液化天然ガス)などの資源がほとんどないから、海外からの輸入に頼っているの。万が一、それらが輸入できなくなると、電気が作れなくなってしまうの。電気がなければ、照明を灯すこともできないし、電車やパソコン、携帯電話、水道なども使えなくなってしまう。エネルギーで困らないために、将来を見据えた計画を立てているんだ」

 

Conちゃん、エネルギー基本計画の役割を知る!

Conちゃん基本計画

Conちゃん基本計画

竹内「ただ、少しずつ変化もあるの。2018年に作られた第5次エネルギー基本計画までは、景気動向や10年後の人口の推移などを考えて、必要な電気がどれくらいで、その電気をどういった発電方法で作っていくかを計画していたんだ。現状を踏まえて、将来に対する計画を立てるという意味合いが強かったの。でも、今はそうじゃないんだよね」

Conちゃん基本計画

竹内「2021年につくられた第6次エネルギー基本計画は、CO2排出量の削減目標とつじつまが合うことを優先的に考えて計画が立てられたの。世界では、2050年までにカーボンニュートラルを達成しようという流れになっていて、日本も同じ目標を掲げているんだ。そのためには、2030年や2035年には今よりもCO2の排出量を半分くらいに減らさないといけないの。そうすると、化石燃料を燃やして発電する火力発電の使える量が限られてくるから、必要な電気は再生可能エネルギーや原子力で賄わないといけないのよね。ただ、今の再生可能エネルギーの開発状況や原子力発電の再稼働状況などを考えると、こんなに化石燃料の利用を抑えてしまって本当に必要な電気を賄えるのかなと思うよね。つまり、今の第6次エネルギー基本計画は、日本の足元の状況から検討するものではなくなり、目標をもとに考えられているということね」

Conちゃん基本計画

 

Conちゃん、エネルギー基本計画の見直しの方向性を聞く!

Conちゃん基本計画

竹内「今の第6次エネルギー基本計画には、『野心的(できるかわからない)』って言葉がたくさん使われていて、これまでの計画と比べると本当にできるのかなってConちゃんが思うのもよくわかるよ。エネルギーは私たちの生活を支える生命線なので、その計画の中で『野心的』と言われると不安にもなるよね。でも、高いCO2削減の目標を掲げて、それを前提に考えることで、いろいろな企業が技術の開発や新しいビジネスの開発にチャレンジすることになるんだよね。カーボンニュートラルの実現を目指すことは世界的な流れだから、CO2を減らす技術は世界で売れることにもなるよね」

Conちゃん基本計画

竹内「CO2の削減目標を最優先に考えた上で、原子力と再生可能エネルギーの活用・導入がものすごく進んだことを想定したパターンと、それなりに進んだことを想定したパターン、うまく進まなかったことを想定したパターンみたいにいくつかのシナリオを示して、国際情勢の変化などに柔軟に対応できるように考えるんじゃないかな。どんな社会を目指すのか、国民に問いかけることにもなるかもしれないね」

21世紀に入り策定されたエネルギー基本計画が、日本の屋台骨を支えるエネルギーの在り方に大きな影響を及ぼしていることを知ったConちゃん。それが今、まさに見直されようとしている! 今回の見直しに向けた議論は、何がポイントなのか? 次回、後編でリポートしていきます!

>後編に続く


取材協力:竹内純子

国際環境経済研究所理事・主席研究員/U3innovations合同会社共同代表/東北大学特任教授。専門はエネルギー・温暖化政策。東京大学大学院工学系研究科にて博士(工学)取得。慶応義塾大学法学部法律学科卒業後、東京電力株式会社入社。主に環境部門を担務。2011年の福島第一原子力発電所事故を契機に独立し、研究者となる。国連気候変動枠組条約交渉に10年以上参加するほか、内閣府規制改革推進会議やGX実行会議など多数の政府委員を務めつつ、大学・研究機関においてエネルギー・温暖化政策の研究・提言に取り組んでいる。

★さらに「日本のエネルギー」について知りたい方はこちら!
エネルギーの「これまで」と「これから」-エネルギーに関するさまざまな話題を分かりやすく紹介-(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

「エネルギー基本計画」ってどんな見直しがされる? エネルギーに詳しい竹内純子さんに聞いてみた(後編)

2024.08.30

Conちゃん基本計画

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第34回のテーマは「エネルギー基本計画」。前編では「エネルギー基本計画」とは何か教えてもらった。今年は、その見直しが行われる年だけど、「どんな見直しがされるの?」と疑問に思ったConちゃんが専門家に聞いてきました!

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Conちゃん、エネルギーをめぐる情勢変化に驚く!

日本が必要とする「エネルギー」をどのように確保していくのか。そのエネルギー政策の方向性が示されているのが「エネルギー基本計画」。今は、2021年に策定された「第6次エネルギー基本計画」を基に、日本のエネルギー政策は進められている。しかし、ここ数年でエネルギーをめぐる情勢が激しく変化しているのは誰もが知るところ。日本の「エネルギー基本計画」はこのままでいいのだろうか???

そこで、前編に続き、エネルギーの専門家・竹内純子さんに話を聞きました。

>前編はこちら『「エネルギー基本計画」って何? エネルギーに詳しい竹内純子さんに聞いてみた(前編)』

Conちゃん基本計画

Conちゃん基本計画

Conちゃん基本計画

竹内「ここ数年、もうちょっと前からかな。各国がカーボンニュートラルを目指すことを掲げるようになり、世界的に気候変動対策の機運が高くなっているんだよね。ヨーロッパは以前から気候変動問題に熱心で、太陽光や風力のような発電時にCO2を出さない再生可能エネルギーの普及を進めてきたんだよね。日本やアジア諸国も同じようにできればいいんだけど、季節によって風向きが変わり、雨季と乾季がある気候のアジアは、欧州と比べて再生可能エネルギーの条件が良くないの。再生可能エネルギーは、気象条件によって発電量が大きく変わり不安定だから、急に発電量が少なくなった時には、他の発電方法でカバーしてあげるか、他国から電気を送ってもらうかしないといけないんだ。でも、日本はヨーロッパのように他国と送電線がつながっていないし、アジア諸国においても、それほどしっかりと送電線がつながってはいないケースが多いんだよね。ちなみに、近年、欧州も再生可能エネルギーだけでは厳しいことがわかりつつあるみたいだよ……

Conちゃん基本計画

竹内「発電量が不安定な再生可能エネルギーを使うには、発電量の調節がしやすい天然ガスなどの火力発電がバックアップに必要なんだよね。だから、ヨーロッパ諸国は再生可能エネルギーの普及を進める一方で、天然ガスを安定的に調達するために、ガスのパイプラインがつながっているロシアからの輸入を多くしてしまったんだ。これって、ロシアと友好的な関係が続くことを前提としてやってきたことなんだよね。でも、そこにウクライナ侵攻があって、ロシアから調達しなくなったことで、ヨーロッパ諸国は必要なエネルギーの確保に大混乱が生じたんだ」

Conちゃん基本計画

竹内「ウクライナ侵攻が起きる前からエネルギー価格が徐々に上がっていたんだけど、侵攻以降も高騰が続いて、各国の経済活動にも大きな打撃を与えたよね。この経験から、エネルギーを安定的かつ安価に確保することの重要性を、日本を含む世界の各国が再認識したんだ。世界の平和を維持する努力はし続けるけど、残念ながら世界の平和がずっと続くわけではないということを前提に、国としてのリスクを考えなければいけないよね。次のエネルギー基本計画もそういう観点が必要だね」

 

Conちゃん、第7次エネルギー基本計画の方向性について知る!

Conちゃん基本計画

Conちゃん基本計画

竹内「1点目は、『化石燃料の確保』。長い目で見れば、脱炭素を進めていかないといけないけど、2050年にCO2排出を実質的にゼロにするということは、化石燃料はほとんど使えないということになるよね。でも現状、日本全体の7割くらいの電気をつくっている火力発電をすぐにやめることはできないよね。そうすると、しばらくは、火力発電の燃料を海外から調達しないといけない。確実に調達するためには、例えば産油国や産ガス国と25年や30年といった長期で契約することになるけど、いまから30年契約をしたら2050年を越えちゃうよね。2050年カーボンニュートラルにするんじゃないのか、と言われてしまうので、じゃあ必要な時に市場で買ってくることにした場合、ウクライナ侵攻のような世界情勢の影響で火力発電の燃料が調達できなくなったら、みんなが使うだけの電気がつくれなくなったり、値段が高騰したりするよね。そうならないために、火力発電で使う石炭やLNG(液化天然ガス)などの化石燃料を安く安定的に調達できるように、エネルギー基本計画でしっかりとメッセージを出してもらいたいね。そして2点目は、『脱炭素電源投資の確保』。これはすごく重要なことなの」

Conちゃん基本計画

竹内「つまり、発電時にCO2を出さない電源のことだよ。脱炭素の実現に向けて、再生可能エネルギーは、今の第6次エネルギー基本計画にも、『最大限活用して、主力電源にしていこう』という方針が書かれているから、この方針は変わらないだろうね。むしろ課題は原子力なの」

 

Conちゃん、エネルギー基本計画の重要な論点に気づく!

Conちゃん基本計画

Conちゃん基本計画

竹内「気象条件に左右される再生可能エネルギーだけでは不十分なので、発電時にCO2を出さず、たくさんの電気が作れる原子力もしっかりと使っていかないといけないんだ。これからデジタル化やAIの活用が進んで、大型のデータセンターがたくさん作られると今よりもっと電気が必要になる。じゃあ、足りなくなりそうになってから発電所を作ればいいと思うかもしれないけど、それでは遅いんだ。原子力発電所を作るには、建設が順調にいっても10年、地元の理解を得るための時間を考えれば20年くらいはかかるだろうからね。東日本大震災以降、原子力を学ぶ人や、関わるメーカーが減ってしまっているけれど、将来、脱炭素を進めながら、電気を安定してつくっていくために、国としても、これから原子力をどう使っていくのか、しっかりと示しておく必要があると思うよ」

Conちゃん基本計画

竹内「3点目は、『コスト増に伴う費用負担や規制の導入についての国民理解』。気候変動対策には、企業側は技術開発や新しい規制等への対応でコストがたくさんかかり、そしてそれが国民の費用負担になるということを、みんなにも正直に伝えて、理解を得るということ。気候変動対策を進めていくには、どうしてもコストがかかるのよね。そうすると企業が提供する製品の値段が高くなる。例えばCO2を出さないEV車と、普通の車があったとするよね。同じ値段でできればいいけど、そうじゃないとしたら、Conちゃんは高くてもEV車を買えるかな? 難しいと思うかもしれないけれど、気候変動対策のためには国民みんながそうした製品を使うような社会をつくらないといけないのよね。そのために、国が『EV車しか認めない』といった規制を新たに導入することも考えられるんだよ。つまり、気候変動対策を進めていくと費用負担が増えたり、新たな規制が導入されるかもしれないなど、みんなにも何らかの影響があるということをわかってもらうべきだよね。ただ単に『みんなでグリーンにしながら経済成長しましょう』みたいな単純な言い方は、よくないと思うんだ」

Conちゃん基本計画

これからの未来は、エネルギーをどう確保するかだけの議論では終わらない。気候変動対策をどう進めていくのか、デジタル化がどう進んでいくのか、そうしたあらゆる要素を絡めて、エネルギーのことを考えなくてはならない。エネルギーはあくまで手段。どういった社会を創っていきたいのかを念頭に、エネルギー基本計画は変えていくべきなんだなと思ったConちゃんでした。


取材協力:竹内純子

国際環境経済研究所理事・主席研究員/U3innovations合同会社共同代表/東北大学特任教授。専門はエネルギー・温暖化政策。東京大学大学院工学系研究科にて博士(工学)取得。慶応義塾大学法学部法律学科卒業後、東京電力株式会社入社。主に環境部門を担務。2011年の福島第一原子力発電所事故を契機に独立し、研究者となる。国連気候変動枠組条約交渉に10年以上参加するほか、内閣府規制改革推進会議やGX実行会議など多数の政府委員を務めつつ、大学・研究機関においてエネルギー・温暖化政策の研究・提言に取り組んでいる。

★さらに「日本のエネルギー」について知りたい方はこちら!
エネルギーの「これまで」と「これから」-エネルギーに関するさまざまな話題を分かりやすく紹介-(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

これからの時代、火力発電って必要なの?専門家の山本隆三さんに聞いてみた(前編)

2024.05.01

Conちゃん火力

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第31回のテーマは「火力発電」。地球温暖化対策として、石炭や石油、LNGなどの化石燃料からの“移行を進める”ことがCOP28で世界的に合意された。一方、日本では化石燃料を利用する火力発電が約7割。「本当に移行できるの?」と疑問に思ったConちゃんが、日本への影響についてエネルギーの専門家に聞いてきました!

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Conちゃん、COPについて知る!

2023年11月から12月にかけてドバイで開催された「COP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)」。温室効果ガスの排出削減目標や気候変動対策について議論され、石炭や石油、天然ガス(LNG)などの化石燃料からの“移行(「transition away from fossil fuels」と記載されており、「脱却」という訳もあり)を進める”という表現が合意文書に盛り込まれた。

COPってよく聞くけど、「そもそもCOPって何?」と思ったConちゃん。ということで、今回はエネルギーの専門家に話を聞きました。

Conちゃん火力

山本さんは、住友商事地球環境部長やプール学院大学(現桃山学院教育大学)教授などを経て、現在、日本商工会議所、東京商工会議所の「エネルギー環境委員会」学識委員、NPO法人国際環境経済研究所所長などを務めるエネルギーのエキスパート。世界のエネルギー事情にとても詳しい。

Conちゃん火力

Conちゃん火力

山本「一般的にCOPって言うと、地球温暖化を防ぐにはどうしたらいいか、議論する会議を指すことが多いね。COP28はその第28回目の会議のことで、198の国・地域が参加したんだよ。だけど、実はCOPって気候変動に関する国際会議だけを指すわけではないんだ。COPは、『Conference of the Parties』の頭文字を取ったもので、『当事者の会合』って意味。だから、例えば、生物多様性をテーマにした会議など、世の中にはCOPって呼ばれるものは他にもたくさんあるんだ」

Conちゃん火力

山本「もともとは、1992年に『気候変動に関する枠組み条約』が採択されて、第1回のCOPが1995年に開催されたんだ。有名なのは、1997年の『京都議定書』。聞いたことあるんじゃないかな。先進国などを中心に、温室効果ガスの排出量を1990年と比べて2008年から2012年の期間に5%削減しましょうということが決まったんだよ」

Conちゃん火力

山本「ただ、インドや中国、アメリカなど排出量が多い国が削減義務を持たなかったこともあって、2015年の『パリ協定』で、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をしましょうということで、途上国を含むすべての参加国に対して努力目標として掲げられたんだよ」

 

Conちゃん、COP28の内容を知る!

Conちゃん火力

Conちゃん火力

山本「ストックテイクというのは、棚卸しを意味する言葉なんだけど、今回のCOP28で実施された『グローバルストックテイク』というのは、パリ協定の1.5℃目標達成に向けて、世界全体でどれぐらい取り組みが進んだかを評価する仕組みのこと。これから5年ごとに、進捗状況を評価するんだよ。

今回のCOPでは、「世界の気温上昇を1.5℃に抑える」という目標達成までに隔たりがあることが分かったんだ。だから、1.5℃目標を達成するために、2025年までに温室効果ガスの排出量をまずは減少に転じさせること、そして、2019年と比べて、2030年までに43%、2035年までに60%、減らす必要があることが確認されたんだよ」

Conちゃん火力

山本「パリ協定で、各国は5年ごとに削減目標を提出することが決まっているので、2025年を目途に、各国は次(2035年)の削減目標を出すことになるんだよ」

Conちゃん火力

山本「2030年までに再生可能エネルギーを世界全体で3倍にしましょうということや、エネルギー効率を世界平均で2倍に改善すること。また、排出削減対策をしていない石炭火力発電を段階的に減らしていくことや、原子力発電を活用しましょうといったことなどが合意されたんだよ。ちなみに、原子力が気候変動に対する解決策の一つとして正式に明記されたのは、今回が初めてなんだよ」

 

Conちゃん、日本への影響を考える!

Conちゃん火力

Conちゃん火力

山本「COP28では、2050年までに排出ゼロを達成するため、石炭や石油、LNGなどの『化石燃料からの移行を進める』ことが合意されたんだ。経済発展のため、価格の安い石炭などの使用をやめることができないインドや中国などの事情を考慮した表現なんだよ。ただ、現実的には、一次エネルギーにおいて、世界の8割がまだ化石燃料に依存しているので、実現するのはとても難しいと思う」

Conちゃん火力

(出典)国際エネルギー機関

Conちゃん火力

山本「日本も化石燃料が一次エネルギーの8割以上を占めていて、例えば発電の分野では、約7割が化石燃料を利用する火力発電なんだよ」

Conちゃん火力

出所:FEPC INFOBASE2023

山本「このグラフからも分かる通り、日本の電気の約7割は、「石炭」や「LNG」、「石油」などの化石燃料による火力発電が占めている。つまり、“化石燃料から移行”していくということは、この火力発電を減らしていく必要があるということなんだよ」

Conちゃん火力

山本「約7割も火力発電が占めているのだから、これを減らしていけば、当然、日本でつくる電気の量が減ってしまう。国際公約を守るために温室効果ガスの排出量をあと20年ちょっとでゼロにしていかないといけないけど、だからといって電力が足りなくなるのは困るよね。これらを両立するのはとても難しいと思わない?」

Conちゃん火力

山本「電気は、需要と供給をいつも一致させておくことが必要なんだけど、例えば、太陽光なら日照時間次第、風力なら風の状態次第で発電量が変わってしまうよね。下手すると、この需要と供給のバランスが崩れてしまって、停電してしまう恐れもある。電気をためる蓄電技術もまだまだこれから。だから、再生可能エネルギーの利用にあたっては、発電量を調整しやすい火力発電がバックアップとして必要になるんだ」

Conちゃん火力

山本「原子力も増やせるといいけど 簡単に増やせるものではないんだよ」

Con「え?どうして!?」

山本「原子力発電所の建設に適した場所が必要だし、建設期間が約20年と他の発電方法と比べてとても長い。そして、何より地域の理解を得ながら進めていくことが必要なので、そう簡単に増やすことはできないんだよ。東日本大震災以降、多くの原子力発電所が停止しているので、今は全国の電力会社が原子力発電所の安全対策をしっかり実施したうえで、地域の理解を得ながら再稼働を進めているところなんだ」

Conちゃん火力

山本「温室効果ガスを減らしつつ、電力が不足しないようにしないといけないし、加えて電気代のことも考えないといけないから、正直、とても難しい課題だと思うよ。とはいえ、だからと言ってあきらめるわけにはいかない。今は非常に難しい議論をしている段階だということをまずは理解して、現実的な対応をしてくことが必要だね」

COP28で議論・合意された内容が、日本のこれからにとって大きな影響を及ぼすことを知ったConちゃん。約7割を火力発電が占める日本は、今後どのように進むべきか、次回、後編でリポートしていきます!

>後編に続く


取材協力:山本隆三

NPO法人国際環境経済研究所所長。常葉大学名誉教授。京都大学卒。住友商事地球環境部長、プール学院大学(現桃山学院教育大学)教授、常葉大学経営学部教授を経て現職。経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。現在日本商工会議所、東京商工会議所「エネルギー環境委員会」学識委員などを務める

★さらに「日本のエネルギー」について知りたい方はこちら!
エネルギーの「これまで」と「これから」-エネルギーに関するさまざまな話題を分かりやすく紹介-(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

脱炭素社会の実現と経済成長のカギはエネルギー!?専門家の山本隆三さんに聞いてみた(後編)

2024.05.01

Conちゃん火力

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第32回のテーマは、前回に引き続き「火力発電」。前編ではCOP28で合意された内容などをお伝えしましたが、後編では、電力供給の約7割を火力発電が占める日本が、これからどのように進むべきか、エネルギーの専門家に聞いてきました!

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Conちゃん、火力依存が心配になる!

2023年11月から12月にかけてドバイで開催された「COP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)」。再生可能エネルギーや原子力発電の利用促進が掲げられたり、温室効果ガスの排出削減目標を再設定することが決められたり、化石燃料から“移行(「transition away from fossil fuels」と記載されており、「脱却」という訳もあり)を進める”ことが合意されたりしたことを知ったConちゃん。

>前編はこちら『これからの時代、火力発電って必要なの?専門家の山本隆三さんに聞いてみた(前編)』

そして、日本は電力供給の約7割を火力発電に依存していることも知った。そもそも、なぜ日本は火力発電がそんなに多いのだろうか。今後、どのように対応していくべきなのか。

Conちゃん火力

Conちゃん火力

Conちゃん火力

山本「日本は、オイルショックを経て、石油火力の割合を減らしつつLNGや原子力の活用を進めてきたけど、東日本大震災があり、国内のすべての原子力発電所が一旦運転を停止してしまったんだよ。だから、その分を火力など他の発電方法でまかなう必要があったんだ。もちろん再生可能エネルギーも活用しているけど、結果として、現在は火力発電が約7割を占めているということなんだよ」

Conちゃん火力

山本「温暖化対策のことを考えると、『火力発電は二酸化炭素(CO2)が出るからダメじゃないか!』となるだろうけど、そこは何を優先するのかということだね。海外の事例を見ても、人々の暮らしを守るためには、『エネルギーの安定供給』と『価格』が1番大事というのが国や国民の本音なんじゃないかな。

ロシアによるウクライナ侵攻を機に、天然ガスの価格が上がったことで、例えばドイツでは電気代が約1.5倍、イタリアでは約4倍になるなど、ヨーロッパの国々で、電気代が大幅に上がった。そのとき何が起きたかというと、安いけど、天然ガスよりもたくさんCO2を出す石炭をみんな使ったんだ。つまり、いざというときに優先するのは、安定供給や価格で、温室効果ガスの削減はその次ということだね。特にドイツにいたっては、環境に優しいといったイメージを持っているかもしれないけど、実態としては発電の3割は石炭を使っている。そういった諸外国の、国益を考えたしたたかさもあるということをきちんと知って、日本として現実的な対応を選択することが、とても大事なことだと思うよ」

 

Conちゃん、火力と環境の共存を考える!

Conちゃん火力

Conちゃん火力

Con「水素?アンモニア? 混焼ってなに? 埋めるってどういうこと?」

山本「今ある火力発電の設備を利用しながら、燃料となる天然ガスに水素を、石炭にアンモニアを混ぜて燃焼させることを混焼と言うんだよ。これによって、天然ガス、あるいは石炭だけで発電するよりも、混ぜた分の化石燃料を減らすことができるので、CO2の排出量を削減することにつながるんだ。

それから、CO2を地中に埋める『CCS(二酸化炭素回収・貯留)』といった技術の開発も進められているんだよ。発電所などから出たCO2を回収して、地中深くに貯める技術なんだ。国内では、電力会社などが、水素・アンモニアの混焼やCCSの実証実験を実施しているところなんだよ」

Con「なるほど、それなら火力発電を使いながら温室効果ガスを減らすことができるのか」

山本「こうした取り組みを進めながら、少しずつCO2を出さない発電方法の割合を増やしていくことが現実的な対応だね」

Conちゃん火力

Conちゃん火力

出典:国際エネルギー機関「Greenhouse Gas Emissions from Energy」2022 EDITIONを基に環境省作成

山本「これを見るとわかるよね。日本は、世界で6番目に多くのCO2を排出している国だけど、その排出量は世界全体の3%なんだ。そうやって考えると、日本の中だけで一生懸命にやってもほとんど貢献できないんだよ。ただ、日本はヒートポンプなど世界に貢献できる高い省エネ技術を持っているんだよね。温暖化防止に向けては、国内で地道に削減努力をすることはもちろんだけど、海外に技術を持ち込んで貢献していくということも大切だよ」

Conちゃん火力

山本「日本は世界に誇れる発電や送電の技術もたくさん持っているんだよ。例えば、『効率のいい石炭火力発電』の技術は世界トップクラス。この技術を旧式の火力発電を使っている途上国の国々に導入すれば、かなり有効に働くだろうね。それから、発電所でつくられた電気が家に届くまでの間に失われる『送電ロス』は、日本が圧倒的に低い。東南アジアなどでは送電ロスが非常に多いので、日本の技術を用いれば大きく改善できる。

火力発電は電気をつくる時にどうしてもCO2を出してしまうけど、発電効率を向上させたり、送電ロスを減らすことができれば、その分、資源や電気を無駄なく利用できるので、CO2の排出量を減らすことができる。日本が持つ高い技術を東南アジアなど海外でも積極的に導入していくことで、世界全体のCO2排出量を減らし、地球温暖化防止に大きな貢献ができると思うんだ」

 

Conちゃん、これからの日本の対応に期待する!

Conちゃん火力

Conちゃん火力

山本「今の日本は10年以上、原子力発電所を新しくつくっていないよね。つまり、この間に新設するために必要な技術や人材が減ってしまっているので、そうした技術や人材をいかに確保するかが重要なんだ。現在、海外で原子力発電所を計画通りに新しくつくることのできる国は、ロシア、中国、韓国の3か国と言われている。フランスは20年ぶりに原子力発電所をつくり始めたけど、大幅に予算と工期を超過しているんだ。アメリカは30年ぶりにつくろうとしたら、エンジニアがいなくて中国から呼ぶしかなかった。一度、発電所の新設をやめてしまうと、技術や人材が失われてしまうんだよね」

Conちゃん火力

山本「今後、日本における技術や人材が失われてしまって、日本で新しく原子力発電所をつくる、あるいは建て替えるとなったら、韓国からエンジニアを呼ばないと難しくなるかもしれない。そうならないためにも、日本が持つ原子力技術を、これから発電所を新設しようとしている東南アジアや中東で活かしていくことも、日本の技術や人材を守るための大事な取り組みの一つになると思うんだ」

Conちゃん火力

山本「最近よく話題にあがるデータセンターや半導体工場などが増えると、今よりもっと電力が必要になるし、水素社会の実現に向けて、2050年に2,000万トンもの水素が必要になるとも言われている。その場合、水素を水の電気分解でつくると電力需要が今の倍になるという試算もあるんだよ。

脱炭素社会の実現に向けては、電気自動車の導入など電化も進んでいくだろうから、需要が増えて、今後も発電所を新しくつくることが必要になると思う。しかも、温室効果ガスを出さない発電方法が理想だね。それから、日本の経済成長のためには、いかに安い電気を安定して確保するかということも重要だけど、経済政策の観点から考えると、日本製の発電所をつくることもポイントだね。

風力発電や太陽光発電だけを一生懸命つくっても、それらの発電設備のほとんどが中国製なので、日本の経済成長にはつながらない。国内で設備を作ることで技術を維持・向上させ、さらには雇用を生み出し、その対価として高い給料を国民に払う。日本は、自国の経済成長のためにも、そうしたことを、エネルギーや電力の分野でも考えないといけないんだよ」

Conちゃん火力

山本「中国頼みになってしまうということを除いて考えても、エネルギーを安定して供給するためには、“再生可能エネルギー100%”というのは難しい。かといって、火力や原子力だけというわけにもいかない。

日本としては、火力発電を残しながら、2050年の脱炭素社会の実現に向けて、できることを少しずつ進めていって、その中で国内の産業が発展していく方法も考えていきましょうということだと思うんだよ。

つまり、経済安全保障や経済成長も意識しつつ、日本の国情に応じたエネルギーミックスの実現が必要になるんだね」

Conちゃん火力

環境面だけで見れば、化石燃料を使う火力発電は少しずつなくしていった方がいいのかもしれない。でも、安定供給やコスト、再生可能エネルギーを利用するにあたっての調整役、海外への技術貢献など、火力発電の重要性をあらためて知り、これから日本としてどう進むべきか、しっかり考えていこうと思ったConちゃんでした。


取材協力:山本隆三

NPO法人国際環境経済研究所所長。常葉大学名誉教授。京都大学卒。住友商事地球環境部長、プール学院大学(現桃山学院教育大学)教授、常葉大学経営学部教授を経て現職。経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。現在日本商工会議所、東京商工会議所「エネルギー環境委員会」学識委員などを務める

★さらに「日本のエネルギー」について知りたい方はこちら!
エネルギーの「これまで」と「これから」-エネルギーに関するさまざまな話題を分かりやすく紹介-(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

電気料金の値上げを防ぐにはどうしたらいいの?エネルギーの専門家に聞いてみた(後編)

2023.11.22

玄海原子力発電所

日本を取り巻くエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第30回のテーマは、前回に引き続き「電気料金の値上げ」。前編では、電気料金の仕組みや値上げの背景などについて学んだところ。後編では、なぜ日本は火力発電に依存することになってしまったのか、どうすれば今後、値上げしないで済むのかをConちゃんがお伝えします!

>Conちゃんの紹介はこちら


Conちゃん、火力発電依存に疑問を抱く

発電に必要な燃料の価格が上がると、電気料金の値上げにつながることを知ったConちゃん。特に日本は、火力発電に依存しているため天然ガス(LNG)や石炭などの価格上昇が大きく影響することを前編で教えてもらった。

>前編はこちら『電気料金が上ったのはなんで? 電気料金の仕組みや値上げの背景などを専門家に聞いてみた(前編)』

そもそも、何で日本は火力発電に依存しているのだろうか?

玄海原子力発電所01

日本がなぜ火力発電に依存しているのか、そして、今後、値上げせずにすむにはどうしたらよいのか、前編に引き続き、今回もエネルギーの専門家、松尾豪さんに話を聞いた。

Conちゃん

玄海原子力発電所02

松尾「少し歴史を振り返ると、日本では、戦前は水力発電の割合が多かったんだよ。でも、例えば大渇水のように水が不足するときは、相当な節電をしなきゃいけないこともあった。日本の産業発展を支えるためにも、今後は火力発電が必要だということで開発を進めて、だんだん火力発電が主流になっていったんだよ」

玄海原子力発電所03

松尾「火力発電の燃料として、当初は国内外の石炭を活用していたけど、1950~60年代頃から、次第に原油を活用しようということになったんだ。その後、原油を燃料とした火力発電の比率が高まっていたところで1973年にオイルショックが起き、その影響を受けて電気料金も値上げされたんだよ」

玄海原子力発電所03

松尾「こうしたオイルショックなどを経て、日本として、例えば、水力発電や火力発電などどれか一つに依存するのではなく、バランスよくさまざまな発電方法を活用することにしたんだ。その取り組みとして原子力発電やLNGを燃料とした火力発電の開発を進めたんだよ。ここ最近では、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入も進んでいるね」

玄海原子力発電所03

松尾「東日本大震災以降、数多くの原子力発電所がまだ稼働できていないことに加えて、太陽光や風力などの再生可能エネルギーは天候に左右されてしまうため、今の日本において電気を安定して届けるためには、どうしても火力発電が必要なんだ」

 

Conちゃん、海外の値上げ状況についても知る

Conちゃん

玄海原子力発電所04

松尾「LNGや石炭の燃料価格は、一時期と比べると下がっているんだけど、この冬は、ヨーロッパでLNGが不足するかもしれないなんてことも言われている。もし本当にそうなると、世界的にLNGの需給がひっ迫することになるので、今後、再び燃料価格が上昇して、日本にまで影響が出てくる恐れもあると思うよ」

玄海原子力発電所05

松尾「LNGは、ある程度、安定した価格で取得できる長期契約と、その時々の需給状況に応じた市場価格で取得するスポット契約の2つの方法があるんだ。日本では、LNGのほとんどは長期契約で取得していたので、ヨーロッパなんかと比べると、電気料金の値上げ幅は限定的だったんだよ」

玄海原子力発電所06

玄海原子力発電所06

松尾「例えば、イタリアでは電気料金が2022年頃から急激に上昇し始めて、2020年の1月と比べて約3倍、イギリスでは約2倍になったんだよ。イタリアは特にLNGを燃料とする火力発電の割合が高いので、その分、影響を受けやすかったんだ。日本では家庭や企業などの負担を緩和するため、2024年5月まで電気料金が値引きされることになっているよね。海外においても、今回の価格高騰を受けて各国の政府がさまざまな支援策を講じているんだよ」

<電気料金の推移>

玄海原子力発電所07

※2020年1月の数値を基準「100」としている
出所:エネルギー白書2023を基に作成

 

Conちゃん、エネルギーミックスを考える

Conちゃん

松尾「一つは、原子力発電や太陽光発電、風力発電などの割合を少しずつ増やして、燃料価格高騰の影響を受けやすい火力発電の割合を減らしていくことだね。もう一つは、そうはいっても、日本においてはまだまだ火力発電が必要なので、長期契約を増やすなどして、LNGなど火力発電向けの燃料調達費用をできる限り抑えることが有効だね」

玄海原子力発電所09

松尾「価格ももちろん大切だけど、まわりを海に囲まれた島国であることやエネルギー資源が乏しいといった、日本固有の事情も考慮する必要がある。加えて、電力の安定供給を前提に2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることも必要。こうした状況をベースに、各発電方法のメリット・デメリットを踏まえた、日本にとって最適なエネルギーミックスを実現していく必要があるんだよ」

玄海原子力発電所09

電気料金が急に高くなったからといって目を丸くするだけじゃなく、その背景にあるのは何か、今後どうするべきなのか、しっかり考えていこうと思ったConちゃんでした。


取材協力:松尾豪

合同会社エネルギー経済社会研究所代表取締役。学生起業への参画などを経て、2012年イーレックス株式会社入社。営業部、経営企画部に在籍。アビームコンサルティング株式会社で国内外電力市場・制度の調査・事業者支援を担当した後、2019年株式会社ディー・エヌ・エー入社。引き続き国内外電力市場・制度の調査を担当したほか、分散電源事業開発に携わった。2021年3月より現職。CIGRE会員、電気学会正員、公益事業学会会員、エネルギー・資源学会会員。

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電気料金が上がったのはなんで? 電気料金の仕組みや値上げの背景などを専門家に聞いてみた(前編)

2023.11.22

玄海原子力発電所

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第29回のテーマは「電気料金の値上げ」。いろいろなものの価格が上がる中、2023年6月1日に電気料金も値上げされた。一方で、家庭や企業などの負担緩和のため2024年5月まで電気料金が値引きされることに。「それってどういうこと?」と疑問に思ったConちゃんが、電気料金の仕組みや値上げの背景などを専門家に聞いてきました!

>Conちゃんの紹介はこちら


Conちゃん、規制料金と自由料金の違いを知る

6月1日から大手電力会社の「規制料金」が値上げとなった。電気料金が値上げされるというニュースはよく目にしていたけど、よく見ると「規制料金」の値上げとある。

そもそも「規制料金」って何? なんで値上げが必要だったの?ということで、今回はエネルギーの専門家に話を聞きました。

玄海原子力発電所01

松尾先生は、合同会社エネルギー経済社会研究所の代表取締役。国内外のエネルギーに関する調査研究をするほか、大手企業のコンサルティングなどを実施しているエネルギーのエキスパートだ。

Conちゃん

玄海原子力発電所02

松尾「簡単に言うと、電気料金には『規制料金』と『自由料金』の大きく2種類があるんだ。電力会社の判断だけで料金を決めることができる『自由料金』に対して、『規制料金』は国の認可が必要で、電力の全面自由化前からある料金のことを指しているんだよ」

玄海原子力発電所03

松尾「もし、競争環境が十分に整っていない状態で自由化を進めてしまって、大手電力と自由化を機に新しく参入した新電力とでフェアな競争ができなかったらよくないよね。だから、競争環境がちゃんと整うまでは規制料金を残しましょうということになったんだ」

玄海原子力発電所03

松尾「実は、都市ガスにも似たような仕組みが元々あったんだけど、一定の競争環境が実現されたということで規制料金は撤廃されたんだ。電気についても、さらに自由化が進展して、条件がそろえば撤廃される予定だよ」

 

Conちゃん、値上げの理由を聞く

Conちゃん

松尾「火力発電に必要な天然ガス(LNG)や石炭などは、海外からそのほとんどを輸入しているんだけど、ロシアによるウクライナ軍事侵攻の前後くらいから、価格が少しずつ上がりはじめて、これまでにないくらい上昇したんだ。LNGだけでなく、比較的価格が安定していた石炭まで上昇して、エネルギー産業に多大な影響をおよぼしたんだよ。日本では、東日本大震災後にすべての原子力発電所が稼働を停止したよね。その後、少しずつ再稼働しているし、太陽光や風力といった燃料を必要としない再生可能エネルギーの導入・拡大も進んできているけど、まだまだ必要な電力の多くを火力発電でカバーしている状況だから影響を受けたんだよ」

玄海原子力発電所05

松尾「詳しく説明すると、元々規制料金には燃料価格がある一定の基準以上に上昇すると電気料金が上がって、逆に燃料価格が下がれば電気料金が下がる仕組みがあるんだ。毎月、ニュースなんかで耳にする『○月は値上がり(値下がり)します』は、この仕組みに基づくものだよ。ただ、規制料金は、上乗せできる金額の上限が設定されているので、これを上回る分は電力会社が負担する必要がある。つまり、燃料価格が高騰している状況がこのまま続くと、電力会社の負担が増え過ぎて、経営に大きな影響を与えることになるため、電力会社はこの基準となる価格を見直したんだ」

玄海原子力発電所06

松尾「自由料金にも燃料価格の変動を反映する仕組みを採用しているケースがあるけど、自由料金は上限を設定する必要がないので、ある意味、青天井のような状態。元々電力自由化の目的の一つは、電気料金の最大限の抑制だったけど、最近では、燃料価格が高騰している影響もあって、規制料金より高くなっているメニューもあるんだよ」

玄海原子力発電所07

玄海原子力発電所07

松尾「電力会社が申請した内容に関して、国の専門会合や公聴会などにおいて、無駄なコストがかかっていないか、より効率化できるのではないかといった視点で、いろいろな厳しい審査を受けた上で、当初の申請に比べ一定の圧縮がなされたんだよ」

<各事業者の申請概要及び査定結果>

玄海原子力発電所07

※2023年5月17日 第45回料金制度専門会合資料より抜粋

 

Conちゃん、値上げしなかった理由が気になる

Conちゃん

玄海原子力発電所08

松尾「一つは、原子力発電所の再稼働状況。そしてもう一つは再生可能エネルギーの導入状況の違いが大きな理由だね。例えば、今回、値上げをしなかった電力会社のうち、関西電力と九州電力は、他の大手電力7社と比べて、原子力発電所の再稼働が比較的進んでいるんだ」

玄海原子力発電所09

松尾「例えば、九州電力では4基の原子力発電所がすべて稼働していたし、関西電力も今年の秋までにすべて動く見込みが立っていた(2023年9月時点で7基すべてが再稼働済)。また、九州電力では再生可能エネルギーの導入も非常に多い。つまり、今回のような燃料価格の変動の影響をあまり受けなくてすむ事業環境が実現できていたから、値上げはしなかったということなんだよ」

玄海原子力発電所09

電気料金の値上げについて、その背景も含めて知ったConちゃん。一般的な商品と同じように、原材料である燃料の価格が値上がりした影響で、販売価格が値上げされるのは仕方がないかなと思うけど、なぜ日本は火力発電に依存しているのか、どうすれば今後、値上げしないで済むのか、次回後編でConちゃんがリポートします!

>後編に続く


取材協力:松尾豪

合同会社エネルギー経済社会研究所代表取締役。学生起業への参画などを経て、2012年イーレックス株式会社入社。営業部、経営企画部に在籍。アビームコンサルティング株式会社で国内外電力市場・制度の調査・事業者支援を担当した後、2019年株式会社ディー・エヌ・エー入社。引き続き国内外電力市場・制度の調査を担当したほか、分散電源事業開発に携わった。2021年3月より現職。CIGRE会員、電気学会正員、公益事業学会会員、エネルギー・資源学会会員。

★さらに「日本のエネルギー」について知りたい方はこちら!
エネルギーの「これまで」と「これから」-エネルギーに関するさまざまな話題を分かりやすく紹介-(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

再稼働後の「原子力発電所」の安全対策って?電力会社に聞いてみた(後編)

2023.09.08

玄海原子力発電所

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第28回のテーマは、前回に引き続き「原子力発電所の再稼働」。前編では、九州電力の現場担当者に原子力発電所が再稼働に至るまでの話を聞いたところ。後編では、再稼働後も行われるさらなる安全対策をConちゃんがお伝えします!

>Conちゃんの紹介はこちら


Conちゃん、再稼働後も続く安全対策に驚く

原子力発電所は、国が定めた厳しい新規制基準をクリアして、ようやく再稼働にこぎつけることを知ったConちゃん。

>前編はこちら『「原子力発電所」ってどうやって再稼働するの?電力会社に聞いてみた』

それに、原子力発電所の安全対策だけでなく、地域の皆さんから理解をいただいて、初めて再稼働できることがわかった。

玄海原子力発電所01

再稼働した後の原子力発電所の安全対策って何をやるんだろう。

Conちゃん

玄海原子力発電所02

佐藤「例えば、テロリズムによって原子炉の冷却機能が損なわれることまでを想定して、別の場所に同様の機能をもつ施設(特定重大事故等対処施設)を設置することが新規制基準では求められているんだ。この施設は設置期限が原子炉施設本体の工事計画認可から5年と定められているから、再稼働後も安全を最優先に工事を進めていたんだ」

玄海原子力発電所03

佐藤「事故時の指揮所の工事も進めているね。現在も新規制基準に適合した緊急時の対策所を運用しているけれど、さらに支援機能を充実させた緊急時対策棟の工事を進めているよ」

玄海原子力発電所04

佐藤「原子力発電所で使い終えた燃料は再処理工場に搬出することにしているけど、搬出されるまでの間は、原子力発電所の使用済燃料プールで冷却しながら貯蔵しているんだ。使用済燃料の貯蔵量に余裕をもたせるために、3号機の使用済燃料プールの貯蔵能力増強のための工事(リラッキング工事)などを進めているよ。使用済燃料を収めるラックの材質や位置を変えるからリラッキングと言うんだけど、2024年度にはすべての工事が完了する予定で、工事前と比べて使用済燃料622体分の貯蔵容量が増加するんだよ」

玄海原子力発電所05

佐藤「使用済燃料の発生量を減らすことを目的に、いま使っている燃料より長期間使用できて、定期検査で取り替える燃料を減らすことができる高燃焼度燃料を4号機で導入することにしたんだ。2025年度の導入を目指して、現在、国の審査を受けているところだよ」

 

Conちゃん、現場の人たちの日々の努力に感心する

Conちゃん

玄海原子力発電所06

佐藤「毎日、発電所内を歩き回ってパトロールをしているし、発電所を運転する中で変化がないか確認しているんだ。設備の健全性については、運転中の設備はもちろんのこと、事故対応で使用する設備についても定期的に試験運転を行って確認しているよ。それに、重大事故を想定した事故対応訓練を毎年繰り返し行って、緊急時の対応能力を高めているんだ」

玄海原子力発電所07

佐藤「原子力発電所をしっかりと運営していくためには、人材育成や技術継承も重要なんだ。だから、玄海原子力発電所の訓練センターを拠点にして、実際の設備を模擬して訓練用に作ったシミュレータでの運転技術の維持向上や、協力会社と一体となった保守技能の向上、経験豊富なOBの技術やノウハウを若手社員に伝えてもらう教育・訓練などにも取り組んでいるね」

玄海原子力発電所08

眞﨑「周辺地域の皆さんとのコミュニケーション活動の拠点として、玄海原子力総合事務所を開設したり、見学会や出前講座を実施したりするなど、さまざまなコミュニケーション活動を行っているよ。地域の行事にも積極的に参加して、顔の見える関係作りを目指しているの」

 

Conちゃん、原子力発電所の再稼働を考える

Conちゃん

玄海原子力発電所08

佐藤「原子力発電所は、原子炉に燃料を入れれば次回の定期検査まで燃料の入れ替えが不要。だから、他国の政情変化によるエネルギー資源をめぐる情勢などにあまり左右されず安定運転を行える長所があるんだ。一方で、放射性廃棄物処分場の問題など、ほかの電源にはない課題があるんだけどね」

玄海原子力発電所09

佐藤「再生可能エネルギーなどほかの電源にもそれぞれ一長一短あって、万能なエネルギーは現在のところ存在しないんだ。だから、一つの電源に偏らず上手に組み合わせて電力を安定してお届けしていくことが大切。その要素の一つとして原子力発電を安全に運転していくことが重要だと思っているよ。原子力発電所で働く所員は、日々、発電所内の設備の状態を間近で確認しながら各種点検や工事を行っているんだ。一人一人が安全性の向上に終わりは無いことを常に意識して、より安全性を高められる方策を検討して実施しているよ」

玄海原子力発電所10

眞﨑「日本が排出するCO2の約4割は、発電をするときに発生しているの。それは、発電時にCO2が出る火力発電の割合が高いから。発電時のCO2を減らすためには、CO2が出ない太陽光や風力などの再生可能エネルギーや、原子力発電の最大限の活用が必要になるんだよ」

玄海原子力発電所11

眞﨑「同時に、原子力発電に対して、安全性や放射性廃棄物処理の問題を不安に思っている方が多くいらっしゃるのも事実。カーボンニュートラルの実現に向け、不安に思われる方にも寄り添いながら、少しでも安心してもらえるようなコミュニケーションを取って、信頼関係を築いていくことが使命だと考えているよ」

玄海原子力発電所12

再稼働した原子力発電所は、何よりも徹底した安全対策が続けられ、地域の人たちが安心して暮らせることを最優先に運営されていた。

安定供給やカーボンニュートラルにも大きく貢献できる事実を知り、原子力発電への見方が少し変わったConちゃんでした。


取材協力:九州電力 玄海原子力発電所
https://www.kyuden.co.jp/genkai_index.html

★さらに「原子力発電所の再稼働」について知りたい方はこちら!
もっと知りたい!エネルギー基本計画⑦ 原子力発電(1)再稼働に向けた安全性のさらなる向上と革新炉の研究開発(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

 

「原子力発電所」ってどうやって再稼働するの?電力会社に聞いてみた(前編)

2023.09.08

玄海原子力発電所

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第27回のテーマは「原子力発電所の再稼働」。実は日本では東日本大震災後、既に2023年8月現在で11基も再稼働している原子力発電所。「そういえば、どうしたら再稼働ってできるんだっけ?」と疑問に思ったConちゃんが、電力会社の担当者に聞いてきました!

>Conちゃんの紹介はこちら


Conちゃん、どうしたら原子力発電所が再稼働できるかを知る

2011年以降、一時すべての稼働を止めた原子力発電所。2023年8月現在で11基の原子力発電所が再稼働している。

岸田首相は2023年夏以降、原子力規制委員会の主要審査を既に通過している7基について再稼働を進める方針を示しており、8月に高浜発電所1号機が再稼働した。Conちゃんは、「震災後に停止した原子力発電所って、どうやったら再稼働できるんだろう?」と考えた。

ということで、今回は九州電力の原子力発電所に話を聞きに行きました。

玄海原子力発電所01

2人が所属しているのは、佐賀県東松浦郡玄海町にある九州電力の玄海原子力発電所と佐賀県唐津市にある玄海原子力総合事務所。佐藤さんは原子力発電所の保守点検を、眞﨑さんは地域とのコミュニケーション活動をそれぞれ担当している。

Conちゃん

玄海原子力発電所02

佐藤「2012年に日本の原子力発電所は一時すべて稼働を止めたけど、2015年に鹿児島県にある九州電力川内原子力発電所が、国の策定した新規制基準の下で初めて再稼働したよ。それ以降、再稼働しているのは現在11基だね」

玄海原子力発電所03

佐藤「福島第一原子力発電所の事故の教訓を踏まえて、原子力発電所に関する新しい安全基準である『新規制基準』を国が策定して2013年7月8日に施行されたんだ。玄海原子力発電所は2013年7月12日に、このようにして新規制基準に適合させますっていう申請をしたんだ。具体的に言うとね、3・4号機の『原子炉施設設置変更許可申請※1』、『工事計画認可申請※2』、『保安規定変更認可申請※3』を一括して行ったんだ。その後、それぞれの許可・認可を受領し、発電所が新規制基準にきちんと適合しているかの確認を受けた後、3号機は2018年3月25日に、4号機も2018年6月19日に発電を再開したんだよ」

※1 原子炉施設設置変更許可申請:原子炉の基本的な設計や安全対策の方針について許可を得るための申請
※2 工事計画認可申請:詳細な設計について認可を得るための申請
※3 保安規定変更認可申請:発電所の運営ルールに関する認可を得るための申請

 

Conちゃん、再稼働への安全対策に感心する

Conちゃん

玄海原子力発電所04

佐藤「玄海原子力発電所では、福島第一原子力発電所事故を教訓として、発電所の設備(ハード面)と運用(ソフト面)の両方の面でさらなる安全対策に取り組んできたんだ。例えば、『炉心損傷の防止対策』。これまでも、原子力発電所の燃料を冷却するための常設のポンプを複数台配備していたけど、万一、重大な事故が発生して、その常設のポンプがすべて使用できない場合でも、燃料を冷却できるように、移動式のポンプ車などを敷地内に配備して冷却手段のさらなる多様化を図ったんだよ」

玄海原子力発電所05

佐藤「『放射性物質の拡散抑制対策』もしているよ。万が一、原子炉格納容器が破損して放射性物質が放出した場合に備えて、破損箇所へ放水し、放射性物質が大気に拡散するのを抑えるための放水砲や、放水時に放射性物質が海に拡散するのを防ぐためのシルトフェンスというものを新たに配備しているね」

玄海原子力発電所06

佐藤「想定した最大津波の高さは6mなんだけど、発電所の敷地は11mの高さにあるから、安全性に影響がないことを確認しているし、さらには、万一に備えて重要な設備のある建物の屋外に通じる扉は浸水しない扉にしているよ。また、想定される最大の基準地震動を踏まえた、さまざまな耐震対策も実施しているし、最大風速100m/sの竜巻を想定した対策として、安全対策に必要な資機材を守るための保管庫や竜巻防護ネットも設置しているよ」

玄海原子力発電所07

佐藤「それに万が一、重大事故が発生した場合の対策もしているよ。事故の対応要員として、中央制御室の当直員を含む、50名を超える要員が24時間体制で発電所内と発電所近くに待機しているんだ。いつでも事故に速やかに対応できるよう、日頃から繰り返し訓練も行っているよ」

 

Conちゃん、地域に住む人たちの思いが気になる

Conちゃん

玄海原子力発電所08

眞﨑「九州電力の理解活動は、フェイス・トゥ・フェイスによるコミュニケーションを基本としているの。“お客さまの声”をお聴きして、ご意見、ご質問に丁寧にお答えしながら、九州電力の思いや情報をわかりやすくお伝えしようと、『訪問活動』『発電所見学会、説明会』などに積極的に取り組んだんだよ」

玄海原子力発電所09

眞﨑「『訪問活動』では、玄海原子力発電所の安全性向上の取り組みについて理解いただけるよう、再稼働前の2017年に、玄海町と隣接する唐津市の鎮西町、肥前町、呼子町にある8,000戸以上の地域の皆さんを社員が訪問して、玄海原子力発電所の安全対策について説明させてもらったの。また、玄海3号機や4号機の新規制基準への適合性が確認された際には、発電所から30km圏内と佐賀県内の全区長を訪問して説明したんだよ」

玄海原子力発電所09

眞﨑「『発電所見学会、説明会』では、地域の皆さんに安全対策や訓練状況について実際に見てもらうことで、理解を深めてもらったの。説明会では、佐賀県、長崎県、福岡県の3県の11市町で、自治体主催の住民説明会に参加、ほかにも地区集会や商工会といった諸団体の会合の場にも出席して、説明させてもらったんだよ」

玄海原子力発電所10

眞﨑「再稼働にあたっては、私たちが安全性を確保することはもちろん、地域の皆さんに安全対策などを知っていただき、安心してもらえることが何よりも重要なの。その思いからこうした取り組みを行ってきたし、今もその思いは変わらないよ」

原子力発電所が再稼働するためには、安全対策の強化はもとより、地域の皆さんに理解いただくなど超えなければならないことがたくさんあった。玄海原子力発電所は再稼働したけれど、再稼働後の今はどんなことをしているんだろう? 次回後編でConちゃんがリポートします!

>後編に続く


取材協力:九州電力 玄海原子力発電所
https://www.kyuden.co.jp/genkai_index.html

★さらに「原子力発電所の再稼働」について知りたい方はこちら!
もっと知りたい!エネルギー基本計画⑦ 原子力発電(1)再稼働に向けた安全性のさらなる向上と革新炉の研究開発(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

電力の需給ひっ迫を防ぐ方法は? 世界のエネルギー事情を専門家に聞いてみた(後編)

2023.01.31

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第26回のテーマは、前回に引き続き「日本と世界のエネルギー事情」。前編では、ヨーロッパの国々のエネルギー事情を聞いたところ。後編では、アメリカやアジア諸国の状況とともに、今後の日本が進むべき道をConちゃんがお伝えします!

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Conちゃん、アメリカのエネルギー自給率に憧れる

電気料金が上がる裏には、そもそも日本の「エネルギー自給率」の低さという課題があることを知ったConちゃん。そのため、日本は世界情勢の変化に大きく影響を受けてしまう状況にあることを前編で教えてもらった。

>前編はこちら『カギになるのはエネルギー自給率! 世界のエネルギー事情を専門家に聞いてみた』

それは日本だけでなく世界の国々も同様であり、ロシア・ウクライナ情勢の影響を受けたヨーロッパの国々は、国のエネルギー政策の転換はもとより、家庭レベルでも大打撃を受けていることを知った。

Conちゃんヒートポンプ01

ロシア産の天然ガスに依存していたヨーロッパの国々はわかるけれど、ほかの地域の国々はどうなんだろうか。

松本「アメリカは化石燃料の割合が非常に大きいものの、資源大国だから一次エネルギー自給率は100%を超えてとても高い。でも、アメリカが2021年に輸入した原油や石油製品に占めるロシア産の割合は7%あって、ロシア・ウクライナ情勢を受けて、それを禁輸したの。だから、その分を国内での増産や、別の国からの輸入で代替する方針に転換したんだ」

松本「原油の供給量が減ることへの懸念から先物価格が高騰してしまって、ガソリン価格が上昇。車社会のアメリカにとって、国民生活に思いっきり跳ね返ってしまったんだ」

松本「アメリカは50州のうち3分の1は化石燃料推進、3分の1はクリーンエネルギー推進、3分の1はニュートラルと分かれているの。だから、それによって電気代はバラバラ」

松本「一方で、バイデン大統領は2022年8月に『インフレ抑制法』という法律を通したんだ。これは再エネや原子力発電、グリーン水素製造、電気自動車製造などの気候変動対策やエネルギー安全保障に対して、10年間で50兆円規模の支援策を講ずるというもの」

 

Conちゃん、アジアの変化に気づく

松本「2022年8月に四川省で電力不足になったというニュースがあったけれど、四川省は省内の電力供給量の85%を水力発電に依存していたの。原因は雨不足。一つのエネルギー源に依存していたという意味では、ロシア・ウクライナ情勢の影響を受けたヨーロッパ諸国と似たようなことかもしれないね」

松本「大きな特徴として、今中国では10基ほどの原子力発電所を建設しているんだよ。新設で10基というのは恐らく世界で一番。だから、原子力発電による脱炭素電源にシフトしていくんじゃないかな」

松本「現在の中国は太陽光発電や風力発電の導入量がダントツで世界一。これからも国内の再エネを増やしていくだろうし、合わせて原子力発電も天然ガス火力も増やす。それによって石炭火力を減らしていく動きになっていくだろうね」

松本「国内に原子力発電所を造って、なおかつ海外にも輸出していく戦略が一つ。風力発電でも風車タービンの生産はヨーロッパに並ぶぐらいになっているし、太陽光パネルのモジュールは生産量・販売量ともに7割以上の世界シェア。圧倒的に中国が席巻している状況なんだよね」

松本「人口増加と経済成長によってASEAN地域のエネルギー需要は2050年までに2020年に比べて3倍に増加する見通しなんだ。経済発展によるエネルギー需要量の増大もあって、まだまだ安価な石炭火力が中心。逆に言うと、脱炭素化を目指す現代社会においては、石炭の割合が高いのが課題だね」

松本「特に再エネを推進していて、日本の企業も太陽光発電所などの事業で東南アジア諸国に入っているよ。それでも、電力の需要を賄うために、例えばベトナムでは新しく石炭火力発電所も造られているの。これには日本企業などが参画しているんだよ」

松本「経済発展するとともに人口も増加するし、エネルギー需要も増加する。そうなれば、温室効果ガスの排出量も自ずと増える。東南アジア諸国はこれから、それに対応できるインフラ整備や資源輸入方法を確保していかなければならないってことだね」

 

Conちゃん、日本は海外に依存することをやめるべきだと思う

松本「ドイツを例にすると、エネルギー自給率は約29%で、ロシアへの依存度も高かったから、今回のような危機的状況に陥ったんだよね。ロシアからの輸入をやめたとしても、結局は別の国から輸入しなければならないでしょ」

松本「実は2010年には、日本のエネルギー自給率は20%以上あったの。それ以前も20%から30%を維持していた。でも、福島第一原子力発電所の事故以降、原子力発電所が稼働を停止して、エネルギー自給率は大きく下がっているんだ」

松本「発電量の規模から言うと、安全性が確認された原子力発電所の再稼働が非常にインパクトは大きいと思うよ。それに、2030年に再エネの割合を36~38%の割合にするという目標を掲げているから、その目標に向けて着実に再エネを伸ばしていくということもとても重要だね」

松本「世界が推進する脱炭素化も実行しながら、まずはこのエネルギーミックスの目標に向けて着実にしっかりやっていくってことが私は重要だと思うよ。電力を使う側の取り組みとして、節電も大切だね」

松本「今回のロシア・ウクライナ情勢で、エネルギーが世界を動かすものだということは多くの人が理解したと思うんだ。エネルギー資源の調達と確保、そして電源をいかにバランスよく持てるか。国内に資源がほとんどない日本にとって、それが大事になる。私達ってすごく便利な生活を享受しているよね。でも、実はエネルギー自給率が13%しかない。そのことはしっかり意識してほしいな」

最後に松本先生は、「電力の需要と供給が厳しい状況は、もうしばらく続くと思います。だから、節電できるところはしっかり節電して、エネルギーを大事に使うことも考えてほしいですね」と言っていた。

真冬の暖房はどうしても消せない。けれど、例年よりは家の中でも厚着をして少しでも節電できるように、とできることから始めようと思ったConちゃんでした。


取材協力:松本真由美

大学在学中からTV朝日の報道番組のキャスター、リポーター、ディレクターとして取材活動を行い、その後、NHK BS1ワールドニュース・キャスターとして番組を担当。2008年より東京大学での環境・エネルギー分野の研究、および教育活動に携わり、NPO法人・国際環境経済研究所(IEEI)理事も務める。

★さらに「日本のエネルギー」について知りたい方はこちら!
今こそ知りたい!日本のエネルギー事情―「エネルギー白書2022」(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

カギになるのはエネルギー自給率! 世界のエネルギー事情を専門家に聞いてみた(前編)

2023.01.30

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第25回のテーマは「日本と世界のエネルギー事情」。ガソリン代や電気代などのエネルギー価格が上がっている日本。「これって日本だけ?」と疑問に思ったConちゃんが、日本と世界のエネルギー事情を専門家に聞いてきました!

>Conちゃんの紹介はこちら


Conちゃん、電力価格の高騰の原因を探る

電気代が高い……。電力の需給ひっ迫にエネルギー資源価格の高騰、ロシア・ウクライナ情勢のニュースが流れるたびに、また電気代が上がるかも、と心配になる。

確かに需要に供給が追いつかなければ、価格が上がるのはわかる。でも、なんで世界の変化にここまで日本の家庭が影響されるのだろうか。そう感じると同時にConちゃんは、「これって日本だけ?」と考えた。

ということで、今回は世界のエネルギー事情について専門家に話を聞きました。

Conちゃんヒートポンプ01

松本先生は、キャスターとして活躍した後、環境とエネルギーの視点から持続可能な社会のあり方を研究する専門家。2008年からは、東京大学で環境・エネルギー分野の研究、および教育活動に携わっている。

松本「その通り。火力発電の燃料となる天然ガスや石炭はほとんどが海外からの輸入。だから、日本のエネルギーの一番の問題は『エネルギー自給率』の低さかな」

松本「2021年度の実績で日本のエネルギー自給率は13.4%。だから、87%は海外からの輸入燃料に頼っているの。そうした中、コロナからの経済復興、ロシアによるウクライナ侵攻などが続き、燃料価格が世界的に高騰。これが海外からの輸入と化石燃料に依存している日本にとって大きな課題になっているんだよ」

松本「それに、エネルギー自給率を高める方法の一つである原子力発電所は、厳しい新規制基準によって再稼働が思うように進んでいないし、老朽化した火力発電所の休廃止が増えていることも影響しているだろうね」

松本「ロシア・ウクライナ情勢の影響もあって、各国、大小問わずエネルギー戦略の転換があったの。じゃあ、ここからはいろいろな国のエネルギー事情について見ていこうか」

 

Conちゃん、ヨーロッパの方針転換に驚く

松本「まずは、分かりやすく影響があった代表として、ドイツ。ドイツのエネルギー自給率は29%(2021年)なんだけど、化石燃料の海外依存度が非常に高いのが大きな課題。なおかつロシアへの依存度も高いから、燃料不足による電力の需給ひっ迫の懸念が出てきたんだよ。そこでドイツが打ち出したのは、ロシアに替わる発電燃料の調達先の確保と原子力発電所の稼働を延長すること」

松本「当初は、現在稼働している3基を2022年末にすべて廃止して脱原子力発電を完了する予定だったんだよ。でも、ドイツ政府は2022年10月に、この3基を2023年4月まで、緊急時の予備電源として稼働することにしたんだ」

松本「電気・ガス料金も高騰していて、一般家庭や企業への対策としては、2023年から段階的に電気・ガス料金の価格上限制を導入する方針。暖房需要が高まる冬に家計や企業の負担を直接和らげることを打ち出しているんだ」

松本「実際に、産業用の電力料金の2022年7月分と2021年を比較すると、約9割も上がっているんだよ。国全体が大変な経済危機に陥りつつあることを考えると、エネルギー価格の変動の影響ってとっても大きいよね」

松本「8割の値上げってすごいよね。もともと、一般的な家庭での年間の光熱費は大体1971ポンド(32万円)。それが、年間3549ポンド(57万5000円)になったの。毎月4万8000円の電気・ガス料金を払うことに。年間で25万5000円も増えるって、家庭には大打撃だよね」

松本「これもロシア・ウクライナ情勢の影響だね。エネルギー価格の高騰が家庭レベルに影響した一番わかりやすい事例だと思うよ。それでイギリスは、2022年9月末で閉鎖が予定されていた2つの石炭火力発電所を、電気料金を下げるために2023年3月まで稼働延長することに決めたの」

松本「こうした影響もあって、イギリスでは急激な物価上昇に対する、数千人規模の抗議デモが相次いだんだ」

 

Conちゃん、再エネ先進国の動きが気になる

松本「デンマークは電源構成の6割以上が再エネ。エネルギー自給率が6割を超えているって、ほかの欧州諸国に比べるととっても高いよね」

松本「ヨーロッパ全体で、2021年の年明けから例年より風の状況が悪かったの。だから、風力発電による発電量が伸び悩んで、デンマークも少なからず影響はあったと思うよ。それにデンマークもロシア産の天然ガスを輸入しているから、ロシア・ウクライナ情勢への対策が必要になったんだよ」

松本「デンマークは、2022年4月にロシア産天然ガスの依存脱却に向けた計画を発表していて、再エネやバイオガスへの移行を加速させるために国内の天然ガス生産を拡大することにしたの。加えて、現在ガス暖房を利用している40万世帯のうち半分は、2028年までに電気ヒートポンプなどに移行させる計画なんだよ」

松本「既に電力の半分が風力発電で賄われているから、化石燃料不足や燃料価格の高騰によるインパクトという意味ではドイツやイギリスに比べれば低いかもしれないね。でも、ロシア産の天然ガス依存度は10~15%。やっぱり影響はあるよね」

松本「デンマークは世界情勢の変化とエネルギー資源確保のリスクを考えた上で、天然ガス依存からの脱却を目指そうとしているんだね。ガス暖房が電気ヒートポンプなどになれば、暖房を再エネの電力で賄える。よりリスクを低減できるってことだよね」

日本だけでなく、いろいろな国で「エネルギー自給率」は重要だということに気づいたConちゃん。確かに資源を海外から買うしかない状況って、想像以上に怖いことかもしれない。じゃあ、ヨーロッパ以外の国は? 日本が目指すべきこれからとともに、次回後編でConちゃんがリポートします!

>後編に続く


取材協力:松本真由美

大学在学中からTV朝日の報道番組のキャスター、リポーター、ディレクターとして取材活動を行い、その後、NHK BS1ワールドニュース・キャスターとして番組を担当。2008年より東京大学での環境・エネルギー分野の研究、および教育活動に携わり、NPO法人・国際環境経済研究所(IEEI)理事も務める。

★さらに「日本のエネルギー」について知りたい方はこちら!
今こそ知りたい!日本のエネルギー事情―「エネルギー白書2022」(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

エネルギーは「安全保障」そのもの! 世界のエネルギー事情を知る専門家に聞いてみた(後編)

2022.09.29

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第24回のテーマは、前回に引き続き「エネルギーと安全保障」。前編では、電気代値上がりの理由や、ヨーロッパ各国のエネルギー事情を聞いたところ。後編では、激動の世界情勢の中で日本はどうしていけばいいのか? 進むべき道筋をConちゃんがお伝えします!

>Conちゃんの紹介はこちら


Conちゃん、エネルギーは安全保障だと気づく

前編でエネルギー情勢に詳しい金田武司先生に話を聞いて、今の電気代の値上がりが、ヨーロッパで“風が吹かなかった”ことに端を発したと知ったConちゃん。

>前編はこちら『風が吹かなきゃ電気代は上がる!? 世界のエネルギー事情を知る専門家に聞いてみた

Conちゃんヒートポンプ01

風力発電を中心とした再生可能エネルギー(以下、再エネ)への依存によってエネルギー不足となったヨーロッパ各国の需要が、こぞって天然ガスに向かい価格が高騰。ついで石炭、石油にも波及していき、いろいろなエネルギー資源の価格が高騰する今に至ったという。

そうした中で、資源がほとんどない日本はどうすればいいのか。

金田「そうだね。反対に日本が自力でつくれるエネルギーもある。再エネや原子力発電だね。ただ再エネは前編で説明した通り発電量が不安定、原子力発電は安定的で、数を増やせばそれだけ発電量も増やすことができるけれど、今はほとんどが止まっている。加えて、たとえ国内すべての原子力発電所を動かしても、日本全土のエネルギーは賄えない。結局、海外からエネルギー資源を輸入することには変わりないんだ」

金田「それでも経済大国にまで発展してこれたのは、日本が“安定供給”のために変動の小さい価格で長期間エネルギー資源を買えるように資源国と契約してきたから。島国で資源が乏しい日本の地理的な特徴を考えると、これがとても大事。他国と良い関係を築き続けながら、いかなるときでもエネルギー資源を売ってもらえる努力をしてきたってことだね」

 

Conちゃん、日本に今必要なエネルギー政策を知る

金田「制裁のために天然ガスの輸入を止めたら、日本国民の暮らしは苦しくなるよね。資源は余っているわけではないから、大量の資源を簡単に他国からの輸入に切り替えることなんてできないんだ。逆に、ロシアは日本に売れなくなっても自前のエネルギー資源で生きていけるし、他の国に売ってしまえば痛くも痒くもない。つまり痛い思いをするのは日本だけなんだ。これは日本だけの話ではなくて、ヨーロッパ各国も同じこと」

金田「ヨーロッパの各国は、ロシア国営のガス会社から天然ガスを買ってるんだ。しかも経済規模は年間約20兆円。それがロシアの利益となって、今なら戦争に使う兵器にもなっている。他の国々の命綱になっているだけに、この会社だけは制裁対象になっていないんだよ」

金田「天然ガスはマイナス162℃にした液体で日本に届くんだけど、100万キロワットの発電所にあるタンクは1個か2個か。もし、天然ガスが買えなくなったら、どうなると思う?」

金田「発電を続けられる期間はエネルギー資源によって異なっていて、国で備蓄している量を使い切るまで、石炭なら1カ月弱、石油なら半年くらい。そういう意味では、原子力発電は核燃料を一度使い始めれば3年間は持続できるものなんだ」

 

 

Conちゃん、エネルギーには安定性が必要だと感じる

金田「そのとおり。全部国民が選んでいることだよね。自分の生活を守るために、一人一人に責任があるということ。もし、エネルギー資源を他の国から売ってもらえない最悪の事態が起きたら、生命の危機や国の存続にまで発展する可能性もあることを頭の片隅に置いておかないといけない」

金田「ロシアのお金、ルーブルは高騰しているよね? それはロシアが天然ガスをルーブルでしか買えないようにしたから。需要の高い天然ガス=ルーブルになったら、価値は上がるでしょ。言い換えれば、ロシアには自国の通貨の価値を守る手段があるってこと」

金田「それは外交努力や技術力があったから。でも今後は、人口や労働力、経済に金融など、あらゆる分野が萎縮してくる。得意だった技術力まで低下したら日本の輸出力も下がって、国力そのものが低下してくるよね」

金田「再エネや原子力、石炭や石油に天然ガスなど、さまざまなエネルギー資源を確保しておくこと。それがいち早く日本を安定させることにつながる。そうすれば、ロシアの天然ガスへの依存度も低くできるかもしれない。ロシアが『売らない』と言っても、『買わない』という選択肢があれば、対等の立場になれるよね」

最後に金田先生は、「現代の暮らしにエネルギーは欠かせない。何よりも安定供給。その前提で、資源の重要性と大切さを考え、個人個人が何をすべきかを考え続けていくことが大事だね」と言っていた。

今年の夏も、エアコンの効いた部屋で快適に過ごしていた。それも電力が安定して供給されているおかげなのは間違いない。来年も再来年も、豊かな生活を続けるにはどうしたらいいのか、と改めて考えたConちゃんでした。
 


取材協力:金田武司

株式会社ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役。工学博士。東京工業大学 大学院 非常勤講師。八戸市地方再生政策顧問。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)技術委員。世界エネルギー会議(WEC)委員など歴任。

★さらに「日本のエネルギー」について知りたい方はこちら!
2021−日本が抱えているエネルギー問題(前編)
2021−日本が抱えているエネルギー問題(後編)

風が吹かなきゃ電気代が上がる!? 世界のエネルギー事情を知る専門家に聞いてみた(前編)

2022.09.28

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第23回のテーマは「エネルギーと安全保障」。「最近の電気代の上がり方は異常! ロシアとウクライナの戦争のせい? それとも電力会社が勝手に値上げしたせい?」と憤ったConちゃんが、その理由を専門家に聞いてきました!

>Conちゃんの紹介はこちら


Conちゃん、電気代の上がり方に憤る

エネルギーから生活必需品まで、値上げラッシュに悲鳴をあげる日本経済。国民は家計のやりくりに苦心し、耐える生活もズルズルと……。それに加えて、今年の夏と冬の電力ひっ迫の可能性が、さらに日々の暮らしに重くのしかかってきている。

そんな大変な状況にもかかわらず、一向に良くなる兆しが見えない事態に、Conちゃんは「何かのっぴきならない理由があるはずだ」と考えた。

ということで、今回はエネルギー情勢に詳しい専門家に話を聞きました。

Conちゃんヒートポンプ01

金田先生は、エネルギー分野のシンクタンクである株式会社ユニバーサルエネルギー研究所の代表を務める人物。世界のエネルギー情勢に精通し、精力的に国や地方自治体の政策立案や、企業の経営支援を行なっている。以前は日本のエネルギーの歴史を教えてもらった。

>>前回の記事はこちら『「日本のエネルギー政策」ってどうなの? エネルギーの歴史を振り返ってみた(前編)

金田「イギリス、ドイツ、スペインなどのヨーロッパ主要国が、近年、環境問題への配慮から主力電源を火力発電から風力発電に切り替えてきたんだ。ところが2021年の夏から秋にかけて、風の量がものすごく減っちゃったんだよ」

金田「足りない分を賄ったのが、天然ガスを使った火力発電。結果、ヨーロッパ中の国々が天然ガスを欲しがった。そうなると価格が高騰するよね? この天然ガスをたくさん持っているのが、あのロシア。ヨーロッパで使われている天然ガスは、40~50%がロシア産なんだ」

金田「日本が使う天然ガスのうち、9%はロシア産だよ。一つの国にエネルギー資源を10%も依存しているのは大変なこと。だから、ヨーロッパだけの話ではないのはわかるよね。それに、天然ガスだけで収まればいいけれど、そこで終わらないのがエネルギー資源。天然ガスが足りなくなれば他に需要が移るわけで、石油や石炭にも波及していったんだ」

金田「価格がいくらになっても海外から資源を買わざるを得ない日本は、価格高騰の影響を大きく受けるんだよ。原材料が高くなれば、当然販売価格も上がるよね。これが最近の電気代が上がった理由の一つなんだよ」

 

Conちゃん、今後のヨーロッパ情勢がすごく気になる

金田「原子力発電も石炭火力発電もやめると宣言しているからね。だから、ロシアの天然ガスに頼るしかなくなってしまったんだ。でも、今回のウクライナへの侵攻を目の当たりにして、ロシア依存のデメリットを今更ながら痛感させられている状況だね」

金田「イギリスは、再エネを中心に使うエネルギーを自由に選択できる電力自由化を強く押し出して、再エネを推進してきたんだ。自由っていいかもしれないけれど、再エネがうまくいかなくなったら、高い資源を高く買うしかなくなる。つまり、高騰の影響を大きく受けてしまったんだよ。そのおかげで電気代やガス代が6倍に……。国民の不満が爆発して、暴動まで起こったんだよ」

金田「フランスは、実は日本と同じように資源がほとんどない国。だけど、再エネではなく原子力発電の技術を磨き続けてきた。そのおかげで自国の電力を安定してつくり続けられるし、今ではヨーロッパ中に電力を供給して儲けるほど余裕を見せているよ」

 

Conちゃん、「原子力=危ない」という考え方は間違いかも……と思う

金田「もちろん他の意図もあったのかもしれないけれど、もし本当に原子力発電所を破壊しようとしたのであれば、ヨーロッパは今より重大な事態になってるはず。だけど、そうはなっていない。放射能が漏れたりしたら、自分の軍隊がダメージを受けるからね」

金田「そうだよね。戦争を想定した安全対策まで考えていたら何も作れない。豊かな暮らしを維持することも不可能になってしまうんだよ。本気で安全対策を徹底するなら、シェルターの中で暮らさなければならないかもしれないね。そんな我慢続きの生活はできるかな?」

金田「それに、エネルギーの中でも電力は本当に特殊で、使用量と発電量を常にピッタリ一致させないといけないんだ。もしバランスが崩れて、使用量が発電量を上回ってしまうと一気に停電する。上限を超えた後にちょっと調整できるようなものではないから、広い範囲が一瞬で停電してしまうんだ」

日本の電気代の値上がりは、戦争以前に“風”が影響していたことに驚いたConちゃん。でも、値上がりよりもむしろ、日本のエネルギーが足りなくなることの方が心配になってきた。どうすれば切り抜けられるんだろうか。これからの日本がどこを目指していくのか、 次回後編でConちゃんがリポートします!

>後編に続く


取材協力:金田武司

株式会社ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役。工学博士。東京工業大学 大学院 非常勤講師。八戸市地方再生政策顧問。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)技術委員。世界エネルギー会議(WEC)委員など歴任。

★さらに「日本のエネルギー」について知りたい方はこちら!
2021−日本が抱えているエネルギー問題(前編)
2021−日本が抱えているエネルギー問題(後編)

空気中の熱って再エネなの? 家から始める脱炭素「ヒートポンプ」のすごさを専門家に聞いてみた

2022.05.11

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第22回のテーマは「ヒートポンプ」。日本が進めている「カーボンニュートラル」って、応援はしているけど「特にやることはないなー」と考えていたConちゃんが、暮らしの中だからこそできる脱炭素の方法を教えてもらいました!

>Conちゃんの紹介はこちら


Conちゃん、日本の「電化率の低さ」に驚く!

 

いろいろ大変な地球のために、世界が目指すカーボンニュートラル(二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること)な社会。

2030年までにたくさん減らす!2050年には達成!みたいな目標は聞いたことがあるけど、実際のところ本当にできるのだろうか。

その実現に、これから「ヒートポンプ」というものがすごく貢献するらしい。

 

Conちゃんヒートポンプ01

 

そんなにすごいのなら、きっと日本のカーボンニュートラルがどれくらいうまくいきそうなのかも知っているはず。

 

 

ということで、今回は一般財団法人 ヒートポンプ・蓄熱センターに話を聞きに来ました。

 

 

梅辻「カーボンニュートラルを実現させるためには、国や企業だけが二酸化炭素(CO2)を出さないように頑張ればいいのではなくて、国全体で『電化』を進めなければならないって言われているからだよ」

 

 

梅辻「電化って『動力や熱などを電力の利用によってまかなう』ことだよ。ガソリン車が電気自動車に変わるようなもので、もっと簡単に考えてもいいんだ。例えばキッチンのコンロや、お湯を沸かす給湯器など、ガスや灯油などの燃料を燃やして使っていたものを電気で動く機器に置き換えれば、それは立派な電化なんだよ」

 

 

梅辻「そう考えると、電化って昔から誰もがしてきたことじゃない? それに、エネルギーって聞くと『電気』をイメージしがちだけど、実は暖房や給湯などの『熱』が大きな割合を占めているんだ」

 

 

Conちゃん、「ヒートポンプ」のすごさを知る!

 

 

梅辻「熱は熱いところから冷たいところへ移動する性質があるんだ。また、空気はギュッと小さく圧縮すると温度が上がり、逆に力を緩めてふくらませると温度が下がる性質もあるんだよ。わかりやすいように、ヒートポンプを空気入れで再現してみるね」

 

 

梅辻「モニターに映っているのは、空気を送り込めるガラス管のサーモカメラ映像だよ。空気を入れるとガラス管の中の空気が圧縮されて、どんどん温まる。実際には、このように発生した熱を別の空気や水などに移して、僕たちは利用しているんだ。これがヒートポンプの基本的な原理なんだ」

 

 

 

梅辻「ヒートポンプを利用している代表的な家電がエアコン。エアコンの場合は、空気の代わりに『冷媒』と呼ばれる物質が室内機と室外機をつなぐ管の中にあって、空気入れの役割を『コンプレッサー』という機械が、Conちゃんの役割(動力)を『電気』が担っているんだ」

 

 

梅辻「灯油ストーブの場合、『1』のエネルギーを持つ灯油を燃やすと、得られるのは『0.8~0.9』の熱エネルギー。でも、最新のエアコンだと『1』の電気エネルギーで得られるのは『7』の熱エネルギー。もちろん気温によって効率は変わるものの、氷点下でも機能するっていうのがヒートポンプのすごいところなんだよ」

 

Conちゃん、「ヒートポンプ」に親しみを感じる

 

 

梅辻「熱の移動を利用しているから、温めるだけじゃなく、冷やすこともできるんだ。エアコンと冷蔵庫は、基本的に全部ヒートポンプ。あと、お風呂や洗面台やキッチンの給湯もヒートポンプ式があるよ。さらに最近のドラム式洗濯機の乾燥機能は、省エネモデルとしてヒートポンプ式になっているね」

 

 

梅辻「オフィスビルの空調や温水プール、私の地元の北海道だと雪を解かすために道路を温めるシステムに使われているね。今後は工場や農場でも利用できないかと期待されているし、実は街中を見回してみるといろいろなところにあるんだよ」

 

 

梅辻「今、ヒートポンプで水を85℃まで温められるようになったから、さらに技術が進んで100℃にできれば、ほかにももっと利用できる場所が増えるかもしれないんだ」

 

 

Conちゃん、ヒートポンプが「再エネ」だと知る!

 

 

梅辻「毎日、天気予報で『気温』って見るでしょ? さっきも話したとおり、ヒートポンプが利用するのはこの空気中の熱、つまり『大気熱』なんだ。空気を温めるのは太陽。日が昇るたびに温まる。それを電気で数倍の大きさにして人が使えるようにしているんだ。だから日本の法律でも、太陽光や風力と同じ再生可能エネルギー源の一つに定められているんだよ」

 

 

梅辻「気温はだいたい10~30℃くらいだよね。この熱をそのまま何かに利用するのは難しいけれど、使えるようにできるのがヒートポンプのすごいところ。しかも、気温0℃からでも熱は集められるんだ。40℃くらいのお風呂のお湯を、貴重なガスで約1700℃の火を起こして沸かすって、ちょっともったいない気がしない?」

 

 

梅辻「最初に言ったとおり、国レベルで進める発電所や企業の脱炭素化だけではカーボンニュートラルは難しいんだ。実現させるために家庭レベルの電化を進める必要があるなら、ヒートポンプは一役を担えるはずだよね」

 

 

最後に梅辻さんは、「家電を買うときやマイホームを購入するときに、ちょっとだけ『ヒートポンプ』や『電化』を気にかければ、それだけで環境保全の一助になるんだよ」と言っていた。

「カーボンニュートラル」や「脱炭素」って聞くと難しく感じてしまうけれど、どんな家電を使うかを気にしたり、買い替えたりするだけで地球のためになるなんて。

まずは、いつの間にかヒートポンプ式になっているという自動販売機で飲みものを買って、春の陽気を感じてみようと思ったConちゃんでした。

 


取材協力:一般財団法人 ヒートポンプ・蓄熱センター

「ヒートポンプ」と「蓄熱」に関する国内唯一のナショナルセンター。ヒートポンプ・蓄熱システムの普及促進と技術向上に向けた事業などを積極的に展開している。
https://www.hptcj.or.jp/

 

電気事業連合会エネルギー・環境教育支援サイト エネラーニング
動画「THE POWER OF ELECTRICITY~電気の力で、未来をつなぐ~」
File.001 エネルギー×地球温暖化 ~水族館~

(前編)https://www.youtube.com/watch?v=gUGhU3wKT24
(後編)https://www.youtube.com/watch?v=hzEz0nuqDCc

将来のために押さえておくべき「再エネ」のメリット&デメリット! エネルギーの専門家に聞いてみた(後編)

2022.03.16

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 前回に続き、第21回のテーマは「再生可能エネルギー」。地球に優しくて燃料もいらない最高のエネルギーって思っていたけれど、専門家からすると、「きちんと知っておかなければならないこと」も実はいろいろとあるらしい。Conちゃんがさらにお伝えします!

>Conちゃんの紹介はこちら


Conちゃん、安全面から再エネ推し!

 

太陽の光や風の力、水の流れ、地中の熱など地球が生み出すエネルギーを、二酸化炭素(以下、CO2)を出さないで、人間が使いたいエネルギー「電気」に変えられる。

それが「再生可能エネルギー」(以下、再エネ)の良いところ。

でも、デメリットがまったくないわけではないことを知ったのは、前編のとおり。

>前編はこちら『日本は「再エネだけ」にするべきでしょ!? エネルギーの専門家に聞いてみた』

 

 

とはいえ、みんなで使う電気をつくるなら、とにかく安心で安全なものがいいはずだ。

 

 

小川「確かに、火事みたいな事故はほとんどないかもしれないね。でも、例えば山を切り開いて巨大な太陽光発電所を造ったら、“自然のダム”ともいわれる森の構造に影響して土砂崩れが発生しやすくなるかもしれないと懸念されています。風力発電所は、風車による騒音や、鳥がぶつかるバードストライクも問題視されているんだよ」

 

 

小川「太陽光パネルって、だいたいは家の屋根にあるよね。もし、壊れたり落ちたりしたら、まず自分で対処しなきゃいけなくなる。普通に電線を通じて買っている電気って、たとえ自然災害や事故で停電しても、全部電力会社の人がやってくれるから使っている私たちは何かしたってことはないよね。そのメンテナンスや管理を、自分でやらなきゃいけなくなる。これはすごく大きいこと」

 


 

小川「太陽光発電の設備は、経年劣化や施工不良で火災が発生するリスクもあります。『自分は大丈夫』って考えていると危険だよ」

 

 

小川「それに太陽光パネルには鉛、セレン、カドミウムなどの有害物質が含まれているんだよ。壊れたり、ましてや不法投棄なんてされたりしたら漏れる心配もあるよね」

 

 

小川「確率は低いかもしれないけど、事故の報告があるのは事実。メンテナンスや管理まで考えると、『電線を通じて電気を買う』ってシンプルに便利で安いんだよ。もし太陽光発電を自宅に設置するなら、そうしたことも負担できるように、自分事としてエネルギーを管理する気持ちをしっかりと持っていないとダメだよね」

 

 

Conちゃん、再エネから国の違いを知る

 

安全性には何の心配もしていなかった再エネだけど、細かく見ていくと大きな事故につながる可能性は、確かにゼロではないかもしれない。

「エネルギー管理」って、かなり難しそうだ。

それでも、CO2の排出を止めて、カーボンニュートラルな社会を目指す世界の国々は、本気で再エネを増やしていっているはず!

 

 

小川「例えば、よく比較に挙げられるドイツやイギリス。日本と違ってたくさん太陽光発電や風力発電を入れているけど、それができるのはヨーロッパの国々が電線(送電網)でつながっているからなんだよ」

 

 

小川「ドイツを見ると、再エネが多いように見えるけど、実態は他の国に支えてもらっているからできること。日本は島国で、近くの国々と電線がまったくつながっていません」

 

 

小川「ヨーロッパと違って、日本の周囲には少し政情が不安定な国もあるよね。そうした国に大きな弱みとなるライフラインを握られたら、不安にならない? それに電線をつなぐには、数兆円単位のお金がかかります。そのコストは一体、誰が払うことになるのかな。国? 電力会社? 私たち国民?」

 

 

Conちゃん、再エネの能力を冷静に考える

 

どんな国土や環境なのか。近くの国はどういう状況か。

太陽光や風力で再エネ100%を実現するには多くの条件があることを知ったConちゃん。

環境や経済、安全性や国土、さらに国際関係まで考えなければならないなんて…。

 

 

小川「世界で日本と似ている国はありません。島国で資源は乏しいのに、今なお世界第3位の経済大国で先進国。いろいろな産業をバランスよく持っていて、それぞれ成長させてきた。例えばニュージーランドは先進国で島国なのは似ているけれど、農業国だから産業の在り方がまったく違う。オーストラリアは島国で産業も似ているけれど、国土が広くて資源大国」

 

 

小川「そうして見ていくと日本って特殊な国で、その発展を支えてきた一つが安定して使える電力なんだよ。だから不安定な再エネだけに頼る状態にするのは、本当にこの国を危機的な状況に陥らせてしまう可能性が高いの」

 

 

小川「だけど、後になって『そんなリスクがあるなんて知らなかった!』ってならないように、再エネにもメリットとデメリットがそれぞれあることを今から伝えたいんです。火力や原子力、再エネの中でも太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど、いろいろなエネルギーをお互いのメリットとデメリットが補完し合えるバランスで使うこと。そうすると、それぞれのデメリットを小さく、メリットを大きくできるんだね」

 

 

小川「『一発当てたい!』って考えて一点集中で投資するのは、もはやギャンブルだよね。自分の資産でやるなら自己責任でいいけれど、日本全体の話だったらどう思う? 電力は人々の生活、つまり命を守るライフライン。そんな役割を担うものでギャンブルはできないです」

 

 

小川「電気は、安全に、安定的に、安くつくって届けることが重要。資源の乏しい日本が世界と渡り合ってこれたのは、この安定した電力に支えられた製造業があったからだし、もし電気の価格が上がったら、世界との競争力にも太刀打ちできなくなるかもしれないね」

 

 

小川「だから、地球温暖化の問題にも対処しながら国を安定させるためには、絶妙なバランスを考えなければいけないんです。エネルギーの面から見ると、日本って本当にものすごく難しい国なんだよね」

 

 

電気は人の命を守るライフライン。絶え間なく供給できる形を維持しないといけない。

最後に小川先生は、「再エネの割合を増やすためにも、個人でできることは省エネです。一人一人が使うエネルギーを正しく減らして“スマートな消費者”にならないと、日本のエネルギーは持続可能なものにはなりません」と言っていた。

CO2の排出量を減らすことと同じくらい、“エネルギーの安定感”がものすごく大事だと思ったConちゃんでした。
 


取材協力:小川順子

一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 環境ユニット 気候変動グループ 研究主幹。経済学修士(国際経済学)。専門は地球温暖化政策分析、省エネルギー政策分析。国際エネルギー経済学会(IAEE)、エネルギー・資源学会に所属。

★さらに「再生可能エネルギー」について知りたい方はこちら!
『「もっと知りたい!エネルギー基本計画① 再生可能エネルギー(1)コスト低減、地域の理解を得てさらなる導入拡大へ」』(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ

日本は「再エネだけ」にするべきでしょ!? エネルギーの専門家に聞いてみた(前編)

2022.03.16

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第20回のテーマは「再生可能エネルギー」。地球のために、環境に優しいエネルギーをもっと使うべきだと考えるConちゃんが、「再生可能エネルギーだけになんでしないのか?」、その理由を専門家に聞いてきました!

>Conちゃんの紹介はこちら


Conちゃん、再エネ100%をオススメする

 

地球温暖化による自然災害や環境破壊、いろいろ大変な地球のために世界が実現を目指すカーボンニュートラルな社会。

今の時代でとにかくやるべきは、二酸化炭素(以下、CO2)を出さないこと。

地球を第一に考えるConちゃんは、「日本は、環境に優しい再生可能エネルギーだけにすればいい」と考えた。

 


出典:一般社団法人 日本原子力文化財団『エネ百科「【3-1-1】新エネルギーの定義」』(2016年3月14日更新)をもとにConcentが作成

 

再生可能エネルギー(以下、再エネ)といえば、太陽光や風力など「エネルギー源として永続的に利用できる」ものと日本では定義されている。

ほかにもいろいろあるのだから、再エネ以外の発電方法は止めてもいいはず。

ということで、今回は地球環境とエネルギーに詳しい専門家に話を聞きました。

 

 

小川先生は、エネルギーに特化した研究所で、気候変動や省エネルギーなどの分析を専門にする研究者。地球環境対策とエネルギー問題を日々考えている。

 

 

小川「もちろん私も、地球のために再エネは増やしていくべきだと思っているよ。それでも100%にするのは、今のままでは現実的に難しいのが事実。安定して供給できなければいけないし、経済的にも成り立たせなければならないなど理由はいくつかあるんだけど、わかりやすいのは『風土の特徴』と『需要と供給のバランス』かな」

 

 

小川「1つ目の『日本の風土』は、7割以上が山地で平坦ではない土地が多いという地形的な問題と、台風が頻繁に通るといった日本の気象の特徴のこと。例えば、そうした場所にたくさんの太陽光発電所や風力発電所を造るのはものすごく難しい。難しいと、そのぶんお金がかかるよね」

 


 

小川「2つ目の『需要と供給のバランス』は、電気って『使う量』と『つくる量』が同じ時間に同じ量(同時同量)でないと停電の原因になるんです。基本的に大量に電気はためることができないから、需要に合わせて常に発電する量を調整しているんだよ。太陽光発電は雨の日や夜は発電できないし、風力発電は風がなければ発電できない。天気や自然環境次第となると、人間がコントロールするのは難しいよね」

 


出典:一般財団法人 日本原子力文化財団『エネ百科「【3-1-3】太陽光・風力発電の出力変動」』をもとにConcentが作成

 

小川「実際は、再エネが自然に左右される部分は火力発電で補っていて、再エネの発電量が多ければ火力発電所の出力を下げる、少なければ上げるみたいにバランスを取っているんだよ。もしも、太陽光と風力だけで100%の電気をつくったら、『バランスを保つ電源』がなくなってしまう。日本全体でこれをコントロールするのは、ものすごく大変なことなんです」

 

Conちゃん、問題はCO2だけじゃないと気づく

 

とにかく「再エネだけにすればいい」と考えていたら、「日本の風土と電力のバランスの問題があるから今すぐは難しい」と出鼻をくじかれたConちゃん。

確かに自然をコントロールするなんて、簡単ではないのはわかる気がする。

それでも、再エネにはいろいろな問題を解決できる良いところがたくさんあるはず。

 

 

小川「太陽光や風力、水力や地熱といった再エネはCO2を出さない。これは現代にとても合う大きなメリットで間違いありません。それに、エネルギー源が自然から生み出されるものだから、使った後にごみが出ないのも正しいです。でも…」

 

 

小川「一般的にパネルの寿命は20年程度といわれていて、2030年以降にたくさん廃棄される時期がくると心配されているんだよ」

 

 

小川「2012年に『固定価格買取制度』(FIT法)というルールができて、そこから急激に企業から家庭レベルまで太陽光発電が広がったんです。それからもう10年経ちました」

 

 

小川「処理の問題もあって、材料になっている希少資源は回収しないといけないし、不法投棄の心配も出てくる。簡単にいうと、パソコンや大型家電を捨てるときに起こりがちな問題と一緒だね」

 

 

小川「たしかに長く使おうと思えば使えるかもしれないね。でも、効率はどんどん落ちる。 もし自宅の電気を太陽光発電で100%まかなっていたら、それこそ家電と同じように買い替えたいと思うでしょ? 家のほとんどのものを動かす電気がつくれなくなっていくんだから」

 

 

小川「これまでエネルギーを安定して生み出すために、日本は海外から化石燃料を輸入し続けてきたんだけど、太陽光発電や風力発電は自然由来のものだから、それがないよね。資源が本当に少ない日本にとって、これはすごく有効です」

 

 

小川「太陽光パネルや風力発電の風車を輸入しているってこと。下のグラフは世界の太陽光パネル生産数の推移。2001年は半分くらいが日本製だったのに、今はほとんどが中国製になってきているの…」

 


出典:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)『太陽光発電開発戦略2020』(※株式会社 資源総合システム『太陽光発電マーケット(2007、2012、2015、2016、2017、2018)』からNEDO作成図)をもとにConcentが作成

 

小川「当然、日本も中国などから購入していて、石炭や石油などの燃料と同じように海外にお金が出てしまっているんです。それに、太陽光パネルの材料は日本にほとんどない希少資源。日本製が減ったのも、作るのに必要な素材が国内にないのが原因の一つ。日本で作ろうとしても、結局は材料を買わなきゃいけなくなるんだよ」

 

 

小川「もしも中国が『もう日本に輸出しません』ってなったらどうなるかな? 今あるものが寿命を迎えたとき、国内の電力がストップしてしまうかもしれないよね」

 

Conちゃん、実は日本では再エネが進んでいることを知る

 

CO2は出さない、けれどごみは出る。燃料はいらない、けれど機械は海外から買っている。

太陽光発電をはじめとした再エネには、環境面でも経済面でもメリットとデメリットがあった。

世界はCO2を出さない再エネをどんどん導入しているって耳にした。

 


出典:経済産業省 資源エネルギー庁『日本のエネルギー2020「各国の太陽光発電導入容量(2018年実績)」』(2021年2月発行)をもとにConcentが作成

 

小川「さらに、たくさんの電気を太陽光発電でつくるには広い土地が必要だけど、でも、国土面積あたりで見たら…」

 


出典:経済産業省 資源エネルギー庁『国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案』(2021年10月1日)をもとにConcentが作成

 

小川「しかも、太陽光発電はできるだけ斜面が無い平らな土地に設置するのが向いているので、平地面積あたりで見たら…」

 


出典:経済産業省 資源エネルギー庁『国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案』(2021年10月1日)をもとにConcentが作成

 

小川「『平地面積あたり』とは、現実的な費用で設置できる場所で考えるってこと。つまり、日本は狭く山が多いながらも頑張って、可能な土地にできる限り設置している状態なんだね」

 

 

小川「2030年に日本の電源の再エネ比率を36~38%にしようとなっているけれど、それって今の約4倍。再エネ電源を増やすためにできた固定価格買取制度によって、電力会社が再エネ発電所から電気を買い取る金額は年間3.8兆円に上ります。これを支えるために国民全員で『再エネ賦課金』というお金を払っていて、一般的な家庭の負担額は年間約1万円。それを電気の使用料金とは別に払い続けているんだよ」

 

 

小川「現在、再エネは日本の電源全体の10%。一般家庭で年間1万円。じゃあ100%にするためには? 単純計算でおよそ1家庭あたり年間10万円になります。もちろん再エネの導入には賦課金以外のさまざまな費用がかかっているから、本当はもっと負担することになると思います。100%にするかしないかは、私たちが電気代とは別にこのお金を払ってもいいかってことだね」

 

 

小川「再エネを増やすアイデアとして、人里離れた土地に造ったらいいって話もあるけれど、そこに電線も引かないと電気は届けられない。都会などたくさん使う場所から離れれば、送るときのロスも大きくなる。発電だけじゃなく、届けることも考えないと、電気って使えないんだよね」

 

 

いろいろな面でメリットとデメリットがあった再エネ。しかも、海外に遅れていると思っていたら、そうでもなかった。

再エネ100%にするのはちょっと無理があるようだけど、世界にはそれを目指す国もある。これからの日本はどうしようとしているんだろう? 次回後編も、Conちゃんがリポート!

>後編に続く


取材協力:小川順子

一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 環境ユニット 気候変動グループ 研究主幹。経済学修士(国際経済学)。専門は地球温暖化政策分析、省エネルギー政策分析。国際エネルギー経済学会(IAEE)、エネルギー・資源学会に所属。

「カーボンニュートラル」で何が変わる? 環境経済の専門家に聞いてみた(後編)

2021.11.10

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 前回に続き、第19回のテーマは「カーボンニュートラル」。何気なく、国や企業が二酸化炭素を減らしていくんだろうと考えていたが、実は私たち国民こそがキーパーソンになるかもしれない。これから訪れる未来の変化を、Conちゃんがお伝えします!

>Conちゃんの紹介はこちら


Conちゃん、カーボンニュートラルに関わりたくなる

 

2050年の実現に向けて、世界が進めるカーボンニュートラル。

実はそうとう高い目標を掲げていた日本は、達成に向けてそこそこうまく進んでいるらしい。

>日本って「カーボンニュートラル」に乗り遅れてない!? 環境経済の専門家に聞いてみた(前編)はこちら

 

 

2050年まで残り30年足らずだけど、あまり心配しなくて大丈夫なのかも。

国や企業が進めるプロジェクトなら、僕たち一般人にできることなんてないだろうし…。

 

 

馬奈木「例えばヨーロッパなどでは、流通コストがかからない上流のものを買う、高くても環境に優しい商品を買うという動きが活発です。日本の消費者も、ゆっくりとそうした意識が育ってきています」

 

 

馬奈木「カーボンニュートラルを目指すためにも、これからはより『サステナビリティ』へ向かい、『ウェルビーイング』が重要視されていくでしょう」

 

 

馬奈木「例えば、睡眠とストレスについて考えると…」

 

 

馬奈木「快適さのプラスと、CO2排出のマイナスの両面を考えながらウェルビーイングを高め、それをサステナビリティなものにしていく。『地球のために、死ぬまで頑張りましょう』なんて考えだと、持続可能ではないですし、誰も幸せになれませんよね」

 

Conちゃん、省エネ家電への買い替えがカーボンニュートラルだと知る

 

ウェルビーイングとサステナビリティ。「ずっと続く幸せ」なんて誰もが欲しいはず。

ということは、カーボンニュートラルって僕の暮らしや人(豚)生にものすごく関係があることなのかも?

 

 

馬奈木「多くの人にとって、幸せは仕事とプライベートの中で見いだせると思います。まず仕事は、新しく事業を始めたり、誰かに求められたりするのは幸せでしょう。自分の仕事にカーボンニュートラルを適応させる方法を考えるといいかもしれませんね」

 

 

馬奈木「例えば、勤めているのがIT関係の会社だったら、ユーザーが簡単にカーボンニュートラルにかかわれるアプリを提案するとか、製造関連の会社なら、製品や工程についてCO2削減の改善方法を考えてみるとか。これらは利益向上だけでなく、ユーザーの満足につながるため、企業にも市民にもウェルビーイングでサステナビリティ。最終的にカーボンニュートラルにも貢献できます」

 

 

馬奈木「プライベートは難しく考えずに、新しい物を買う際の意思決定で役立てればいいと思います。自分の快適度を優先しながら、効率の良いエアコンや燃費の良い自動車を選ぶだけです」

 

 

馬奈木「もちろん、節電やゴミ拾いも悪いわけではありません。ただ、短期的な効果はあるかもしれませんが、5年10年使うものを買う大きな意思決定の方が、トータルとしての影響は大きくなります。『我慢しましょう』は効果があるように思えますが、新たなトライアルをすることこそ、これからの時代には適しているでしょう」

 

 

Conちゃん、カーボンニュートラルに親近感がわく

 

家電の買い替えも、カーボンニュートラルにつながることを知ったConちゃん。

国策というイメージだったけれど、なんだかとても身近なものに感じてきた。

国も企業も個人も前向きに捉えてきているなら、もう難しく考えなくてもいいんじゃないか?
 

 

馬奈木「確かに少しずつ前には進んでいます。ただ、あと何年で特定の課題を実現しないとダメだと言いながら、あまり大きく変わらなかったのが日本のここ10年です。国の政策も大事ですが、海外や大手企業の動きの方が消費者やそのほかの企業への影響力が大きく、急に進展させるかもしれません。実質、それが国の方針にも間接的に影響していきます」

 

 

馬奈木「私の身近なところだと、福岡県久山町で『J-クレジット』の実証事業。J-クレジットは設備などによるCO2排出削減量と、森林管理によるCO2吸収増加量を、クレジットとして国が認める制度です。昔は誰も買わなかったんですが、今はまったく反応が違います」

 

 

馬奈木「まだ小さな動きですが、カーボンニュートラルに向けた実現可能なビジネスの一つです。小さくとも、こうしたトライアルを成功させ横展開していければ、大きな変化を生み出すかもしれません」

 

 

馬奈木「今でこそ2050年達成を目指していますが、世の中のトレンドが動けばそうした設定は変わる可能性もあります。なので、『○%削減』といった遠い未来の数値目標にとらわれず、個人や企業がサステナビリティ、ウェルビーイング、そしてカーボンニュートラルという指針を見失わないことが大事です」

 

 

世界が推し進めるカーボンニュートラルは、どこか遠くの話で誰かがやってくれていると思っていたけれど、意外と自分に関係する身近な話だった。

馬奈木さんは、「テストで40点の子どもがいたら、努力して60点、次は80点と少しずつ100点に近づいていくはず。長期目標は目標として、あくまで次のステップに進むことが大事」と言っていた。

最初の一歩を踏み出すために、まずは家電のカタログでも眺めてみようと思ったConちゃんでした。


取材協力:馬奈木俊介

九州大学主幹教授・都市研究センター長、九州大学 大学院 工学研究院都市システム工学講座教授、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)代表執筆者ほかを兼任。九州大学大学院工学研究科修士課程修了。米ロードアイランド大学大学院博士課程修了(Ph.D)。著書に『ESG経営の実践 新国富指標による非財務価値の評価』『SDGsの実践 ~自治体・地域活性化編~』など多数。

★さらに「カーボンニュートラル」について知りたい方はこちら!
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて(電気事業連合会)
「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)
「カーボンニュートラル」って何ですか?(後編)~なぜ日本は実現を目指しているの?(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

日本って「カーボンニュートラル」に乗り遅れてない!? 環境経済の専門家に聞いてみた(前編)

2021.11.10

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第18回のテーマ、最近頻繁に耳にするようになった「カーボンニュートラル」。二酸化炭素の排出量をゼロにしようとする世界的な動きだが、日本も本気で取り組んでいるんだろうか。Conちゃんが専門家に聞いてきました!

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Conちゃん、カーボンニュートラルの目標に物申す!

 

カーボンニュートラル――菅義偉前首相の所信表明で出てきた聞きなれない言葉。

二酸化炭素(以下、CO2)を含めた温室効果ガスの排出を極力減らしたうえで、どうしても出てしまう分を新しい技術などによって吸収し、排出量を正味でゼロにしていくことを指す。

つまり、排出量と吸収量がプラスマイナスゼロとなった状態が「カーボンニュートラル」だ。

地球温暖化を進める温室効果ガスは、どう考えても減らしていくべきだ。実現するために、日本が掲げている排出量の削減目標はというと…

 

 

いろいろなものを作ったり、買ったり、使ったり、生きていくためには経済活動や生活も続けなければならない。

でも、あと30年足らずでカーボンニュートラルを実現させるなら、もっともっとストイックにしていかなきゃいけないのでは?

ということで、今回は環境と経済の専門家に話を聞きました。

 

 

馬奈木先生は、環境・エネルギー経済学や都市工学などを専門に、国連のSDGsや企業のESGの評価手法を行うため国連「新国富報告書」の代表をするなど、さまざまなデータから世の中を見抜くエキスパート。

2030年以降の国連目標に、社会課題の価値化、ウェルビーイングを取り込むべく社会の「豊かさ」を計測する研究もしている。

 

 

馬奈木「もともと温室効果ガスを減らした経済活動にしていく『ローカーボン(低炭素)』という考え方がありました。それを発展させて30年でゼロにしようとなったのが『カーボンニュートラル』。今の削減目標はだんだんと高まっていった結果です」

 

 

馬奈木「日本の目標は、以前まで26%削減でした。2020年4月に発表された46%削減は、外交上の戦略や激甚化する災害対策などさまざまな要因を背景とし、大幅に引き上げられた、ものです」

 


出典:経済産業省 資源エネルギー庁『令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021)』(2021年7月)からConcent作成

 

馬奈木「何%削減といった数値は知っていて損はありません。ただ、そもそも多くの国が合意しているのは努力目標です。それに、実際の削減量を計算すれば日本が地球の環境にどれだけ貢献しているかが分かります」

 


経済産業省 資源エネルギー庁『令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021)』(2021年7月)、『「パリ協定」のもとで進む、世界の温室効果ガス削減の取り組み① 各国の進捗は、今どうなっているの?』(2019年5月)gov.uk『National Statistics Provisional UK greenhouse gas emissions national statistics 2019』からConcent作成

 

Conちゃん、理想と現実のギャップに気づく!

 

海外に比べて低すぎると思っていた日本の削減目標が、意外とそうでもないことを知ったConちゃん。

でも、目標は掲げているだけでは意味がない。

 

 

馬奈木「あくまで『進んではいる』です。可能な方向へと前進している、という理解で十分だと思います」

 


出典:環境省『2019年度(令和元年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について』(2021年4月)からConcent作成

 

馬奈木「温室効果ガスの排出量はここ10年単位で見れば、確実に減ってきていると言えます。それは、産業界の取り組みが着実に進展してきているということでしょう。それに、努力目標である何%削減といった数値を気にするよりも…」

 

 

馬奈木「エネルギー資源やテクノロジーの進歩、それに人間の考え方だって将来どうなるかわからないですよね? だから、数値はラフに捉えればいいんです」

 

 

馬奈木「考え方として、どちらも間違っているわけではありません。ただ、実現性を考えればその間で、現在の目標も設定されています。だから、日本はカーボンニュートラル達成に向けて可能な方向に進んでいる、という理解で十分だということです」

 

Conちゃん、再エネだけが正解ではないと改める

 

「目標が甘い!」と言ったら、即論破されてヘコんだConちゃん。

でも、目指すゴールが高くなったなら、できることはどんどん進めた方がいいんじゃないの?

日本のCO2排出量のうち、40%ほどが電気などエネルギーを生産している業界だという。

なら電気だけでも、すべてCO2フリーな電源「再生可能エネルギー」(以下、再エネ)にしてしまえばいいはず!

 

 

馬奈木「電気を使う側が求める電源構成(発電方法の割合)は、電気代との関係がとても深いんです。私の調査から見えた結論は、『比較的安く済むなら、再エネをどんどん増やしたい』で、電気代が2割程度の上昇までなら国民に許容されます」

 

 

馬奈木「実際に、再エネ拡大によって既に2割ほど電気代は高くなりました。でも、それ以上となれば話は変わります。なので、原子力発電など比較的安くなる電源をある程度許容しながら再エネも適度に入れようというのが、今の世の中の流れです」

 

 

馬奈木「『必要性は認める。でも、うちの地域に建てないで』(=Not In My Back Yard)という考えです。もともと他の発電施設に対して使われていましたが、山を削って建てられるソーラーパネルや、巨大な風車も含まれるようになりました」

 

 

馬奈木「不適切な場所に設置されたソーラーパネルが、土壌に影響して土砂災害を引き起こすことが懸念されています。一方で、そうした環境変化は生態系維持の面でマイナスが大きいと、環境推進派や再エネ推進派でさえも再エネの問題を考え始めたきっかけになったと思います」

 

 

馬奈木「さまざまな観点から見ると、再エネだけ、原子力発電だけ、と極端に偏るのは違うと私は考えています。例えば、私が暮らす福岡の九州電力は、再エネと原子力発電で電力の半分以上を賄っています。それは、『SDGs(持続可能な開発目標)先進地域』と言えるでしょう」

 

 

馬奈木「まず、CO2が発電時にほとんど出ない再エネと原子力発電は『ローカーボン』。太陽光や風を利用する再エネは『地産エネルギー』だし、発電所は地域を支える『産業』になります。カーボンニュートラルと同時にエネルギー生産、気候変動対策、まちづくりなどSDGs達成に向けて先進的ということ。先をいくエリアがリードして多くの人々を巻き込み、地域や業界の在り方を考えていく。それも日本のカーボンニュートラルを推し進める取り組みになるのではないでしょうか」

 

 

高く掲げた目標達成に向けて、着実に進んで“は”いた日本。

ちょっとだけ安心したけれど、そんな日本全体で進める一大プロジェクトに、僕なんかができることってあるのかな? 次回後編も、Conちゃんがリポート!

>後編に続く


取材協力:馬奈木俊介

九州大学主幹教授・都市研究センター長、九州大学 大学院 工学研究院都市システム工学講座教授、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)代表執筆者ほかを兼任。九州大学大学院工学研究科修士課程修了。米ロードアイランド大学大学院博士課程修了(Ph.D)。著書に『ESG経営の実践 新国富指標による非財務価値の評価』『SDGsの実践 ~自治体・地域活性化編~』など多数。

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オイルショックの反省が令和を導く? 日本のエネルギーの歴史を振り返ってみた(後編)

2021.04.01

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 前回に続き、第17回は「エネルギーの歴史」をお勉強。幕末から続く日本の歩みを専門家に教えてもらったら、現代がけっこう“ヤバイ”ことが見えてきた。知られざるエネルギーの近代史を、Conちゃんがお伝えします!

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Conちゃん、昭和のオイルショックの裏側に驚く!

日本のエネルギーの未来を教えてもらおうと専門家にインタビューしたConちゃん。

しかし、日本が選んできたエネルギーの歴史を知らないと、「結局よくわからないよ」ということで、逆に過去をお勉強することに。

ここまで明治の「石炭時代」、大正の「電気時代」を教えてもらった。次は「昭和」だ。

金田「石油によって自動車が走り、飛行機が飛んだ。石炭や電気の時代から飛躍的に豊かになりました。一方で、さまざまな悲劇を生むことにもなるんです」

金田「日本は国内に石油がないため、他国から運ぶ以外に生き残る手段がありませんでした。そして、これが第二次世界大戦へのきっかけになります」

金田「第二次世界大戦の引き金になった国といえば、日本、イタリア、ドイツです。この3カ国は前編でお話しした通り、当時も今もエネルギーの自給がままならない国の代表格」

前編はこちら『「日本のエネルギー政策」ってどうなの? エネルギーの歴史を振り返ってみた』

金田「当時の日本にとって石油はどうしても必要で、国民生活や産業活動になくてはならない存在となっていました。それが日本のエネルギー政策を急速にシフトさせ、東南アジアの石油の確保に奔走します」

金田「でも、世界からはこの動きに対して批判を受け、日本の海域を封鎖されてしまいます。そのため、エネルギー資源を持たない日本は、石油を入手できるルートを確保するために、無謀にも真珠湾攻撃へと向かっていきます」

金田「第二次世界大戦の後、舞台は東南アジアから中東諸国に移ります。安い油田がたくさん発見され、『今度は中東だ!』と世界中が注目するようになります」

金田「油田確保のために大変な争いをして、それは今も続いています。戦争の話ばかりなのもよくありませんが、エネルギーの歴史を語る上で避けては通れないのも事実です。そして、最も中東の国々が反発した原因が、アメリカ大統領のある演説です」

金田「昭和46年(1971年)8月15日、ニクソン大統領がエネルギーの歴史上、最も重要な演説をしました。ニクソン・ショックやドル・ショックと呼ばれ、前触れもなく、固定為替と金本位制をやめると言ったんです」

金田「それまで日本の円なら1ドル=360円と為替レートが固定されていて、ドルはいつでも金(ゴールド)と交換できるルールでした。つまり、ドルの価値を金で保証していたんです。そんな世界の常識を急にやめる、と宣言したんです」

金田「エネルギーの視点から見ると、アメリカの狙いは別にあります。『中東の石油はドルでしか買えない』という新しいルールを作ったんです」

金田「ドル以外で石油を売ってはダメと、中東の国々にお触れを出したんです。世界経済はドルを軸に回っているので、その価値を保証する中東の石油が世界経済を支えるようになったというわけです」

金田「短期間で約4倍に高騰したんです。そして、世界で最も悪影響を受けたのが日本。その後、第四次中東戦争が起こり、皆さんがよく耳にするオイルショックが起こります」

金田「昭和49年(1974年)に起こった第1次オイルショック。当時のことをよく覚えています。母がどこにもトイレットペーパーがないって慌てていました。学校で習ったのはそこまでだと思いますが、実際はもっと大変だったんですよ」

金田「石油がないから物流が止まって、食べものも輸送できない。日本中からものがなくなり、日本経済が本当に止まりました」

金田「これを機に、中東の石油だけに依存するのは危険と反省し、昭和40年代(1970年代)に『省エネルギー』『新エネルギー』『原子力』というエネルギー政策を打ち出します」

 

Conちゃん、昭和から令和に続くエネルギー政策を知る!

石油の奪い合いから発生したオイルショック。世界一ダメージを受けたのは日本だったことに衝撃を受けたConちゃん。

でも、それを猛反省したからこそ、新アイデアが生まれたという。

省エネ、新エネ、原子力、何となくわかるけど、どんなことをやったんだろう?

金田「まずは『省エネルギー』。そもそもエネルギー資源が少ない国なのだから、せっかく買った資源は大事に使おうということ。これは使うときの話だけでなく、モノづくりの段階から始まります」

金田「例えば、自動車なら燃費を良くしてガソリンを使わないようにする。エアコンや冷蔵庫なら空調効率を上げる。そういった製品を作りましょうとしました。ここから日本ブランドが生まれ、世界一のモノづくりの国へと成長していきます」

金田「次は『新エネルギー』。太陽光や風力といった再生可能エネルギーと呼ばれるものです。実は、今でこそヨーロッパやアメリカが先進国と言われますが、世界に先立って政策を打ち出したのは日本なんですよ」

金田「新エネルギーは、日本が先陣を切って世界に普及した技術です。ただし、当時の狙いは環境のためではなく、エネルギーの自給のため。太陽電池や風車を作り、電気を少しでも自前で供給できるようにした政策なんです」

金田「最後が『原子力』です。電気も石油で作っていたので、別の方法として考えたのが原子力発電。オイルショック後、日本は世界に先駆けて原子力発電所をたくさん造りました」

金田「速やかに原子力発電所を稼働させるため、当時は海外から設備を輸入し、各地で建設を進めたんです」

金田「当時の急激な経済発展を支えるため、石油に代わる原子力発電を含めたエネルギーの獲得が急務だったんです。静岡県にある浜岡原子力発電所もその一つ。建設工事開始時に当時の町長さんが贈った祝辞から、その時代の空気がわかります」

金田「原子力という技術に、地域が何を期待していたのか。日本のために地域一丸となって協力しようと、多くの人たちが考えていたのかもしれません」

金田「幕末からの歴史を踏まえて、オイルショックの失敗がすべての原点です。そして平成14年(2002年)、こうした政策や理念を基に初めてできたのが『エネルギー政策基本法』という法律です」

「エネルギー政策基本法」詳しくはこちら

 

Conちゃん、令和に続くエネルギー問題を知る!

オイルショックでの反省からエネルギーの法律が生まれ、さらにエネルギー政策がメイド・イン・ジャパンブランドの誕生にもつながっていたことに感心したConちゃん。

ようやく現代に近付いてきたけど、結局どのエネルギーがいいのかわからなくなってきた……。

金田「平成にできた『エネルギー政策基本法』。その中で、将来のエネルギー政策の方針となる『エネルギー基本計画』を示さなければならないと定められています。今まさに、国は第6次エネルギー基本計画の議論を進めているところです」

金田「必要ではありますが、エネルギーの自給から考えると、再生可能エネルギーにも課題はあるんですよ」


写真素材-フォトライブラリー

金田「日本にある太陽光発電施設の約8割は輸入品、風力発電機も約7割が海外製です。日本製に見えるものもありますが組み立てただけで、あくまで主要部材のほとんどは海外で作られて輸入されたものなんです」

金田「日本の“国産ウナギ”は、海外で稚魚から育てられ、最後に日本の湖で泳がせて出荷されたものがほとんどです。これは日本で作った、つまり“自給したウナギ”ですか?」


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金田「再エネも同じこと。再エネは、燃料が自然のエネルギーなので、どうやって設備を手に入れるかが重要になります。海外から買っている石油を使って発電することは自給ではないと思うでしょうが、太陽光発電も海外から設備を買ってきています。海外に頼らずに発電することを自給とするなら、この2つは同じ状況だといえませんか?」

金田「新興国の影響で世界のパワーバランスが変わり、エネルギー資源の奪い合いはさらに苛烈になっています。今の状況は、石油に依存していた時代と同じ轍を踏んでいるのかもしれません」


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金田「CO2(二酸化炭素)の排出量削減は地球規模で重要な課題。これに取り組まないわけにはいきません。その中で、CO2をどれだけ削減できるか、安定してエネルギーを供給できるか、そして自給できるかを考えて選択していくのです」

金田「再生可能エネルギーはCO2が出ないかもしれませんが、自給したものと言い切れない。コストは安いけれど環境面では課題がある石炭火力は、日本の技術ならCO2排出量を抑えることができます。さまざまな課題は抱えているものの、原子力ならCO2の排出量はほぼゼロで、一度燃料を輸入すれば繰り返し利用できる“準国産エネルギー”でもあります。ただ、それらの中から一つに絞るのではなく、無数の選択肢を組み合わせながら複合的に答えを見つけた方がいいということです」

金田「特定のものに依存する怖さを、日本は既にどこの国よりも深く知っています。これからはますます電化が進み、自動車も電気で動くようになり、電気の重要性はさらに増していきます。発電のために石油と天然ガスは輸入するしかないのなら、原子力発電と再生可能エネルギーは日本にとって重要です。今、原子力発電所は止まっていますが、CO2の排出量削減と電力を安定して供給できるようにするには、積極的に活用していった方がいいと思います」

金田「エネルギー基本計画という国の将来を決める話し合いが行われている今、海外の資源頼みではなく、日本の中でお金が回り、安定して暮らせる仕組みって何だろうか、と考えてみてください」

幕末から明治、大正、昭和、平成、そして令和まで。黒船来航から始まったエネルギーを取り巻く約160年は、日本だけでなくあらゆる国々が密接に絡み合うエネルギーの争奪戦の歴史だった。

金田さんは最後に、「危機から脱出するには、他人に頼るのではなく、自分の力で何とかするしかない。それに一人一人が気付くことが、普段の暮らしの中で日本のエネルギー自給率を高める第一歩です」と言っていた。

薬局から消えたマスクや、これから足りなくなるかもしれないワクチン。コロナ禍で身に染みる、海外頼みの不安定さ。他に左右されることなく、自分に必要なものを自分の力で手に入れる大切さを、今夜はうな重でも食べながら考えてみようと思ったConちゃんでした。


取材協力:金田武司

株式会社ユニバーサルエネルギー研究所 代表。東京都生まれ。東京工業大学大学院エネルギー科学専攻博士課程修了。1990年三菱総合研究所入社。同社エネルギー技術研究部次世代エネルギー事業推進室長などを務めた。2004年ユニバーサルエネルギー研究所を設立。国内学会や政府、自治体の委員など公職を歴任する。著書に『東京大停電 電気が使えなくなる日』。
http://www.ueri.co.jp/

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『2020—日本が抱えているエネルギー問題(前編)』(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)
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「日本のエネルギー政策」ってどうなの? エネルギーの歴史を振り返ってみた(前編)

2021.03.31

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第16回は、日本のエネルギー政策の今について、エネルギーの専門家に聞いてみました。そこで語られたのは、日本が歩んできた道のり。まずは幕末から大正にかけて、エネルギーの歴史をConちゃんがお伝えします!

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Conちゃん、日本の分岐点に立つ!

これまでいろいろな発電方法、エネルギーについて学んできたConちゃん。

火力、原子力、水力、風力、太陽光とさまざまな発電方法があり、どのエネルギーにも良いところと悪いところがあることを知った。

それぞれが一生懸命に頑張っているのはわかったけれど、電気を作るために、なんでこんなにたくさんの発電所を同時に動かさなければならないんだろう。どれかに絞った方がよくない?

ということで、今回はエネルギーの専門家に聞いてみました。

金田さんは、三菱総合研究所でエネルギー技術研究部次世代エネルギー事業推進室長などを務め、自治体などの公職を歴任。特に「エネルギーの歴史」に詳しい専門家だ。

金田「後でわかりますが、その理由を簡単に説明することもできません。では、まず日本、イタリア、ドイツの共通点ってわかりますか? 先進国の中でエネルギー自給率が低い国のトップ3。自給率が低いとは、国の中にエネルギー資源がとても少ないということです」

金田「エネルギー資源が少ないので、こうした国々は他の国からお金で買っています。それは私たちがいくら稼いでも、お金が海外に出ていくことを意味します。日本の場合、私たちが払った電気代は燃料の購入代として海外に出ていき、私たちの生活には還元されていません」

金田「先ほど言った通り、日本にはそもそもエネルギー資源がほとんどありません。ですから、エネルギーの自給ができないのです。さらに、島国のため、周辺国から融通することもできません。資源の少ない日本がこれからのエネルギーをどのように選択するか、それを考えることは私たちの生活に直結するとても重要なことなのです」

金田「コロナ禍で経済が苦境に立たされている今、日本はまさにエネルギー政策の分岐点に立っています。今後どのようにかじ取りしていくかによって、外交にも経済にも、さらには私たちの生活にも非常に大きな影響を与えることになります」

金田「さらに、国内事情だけで語れないのがエネルギー政策です。長い年月をかけてさまざまな経緯があって築いてきたものなので、現在の状況だけで判断すると、どこかに歪みが生じてしまう可能性もあります」

金田「これからのことを考えるために、まず知るべきは『何をやってきたのか』ということ」

 

Conちゃん、黒船から始まるエネルギーの歴史を学ぶ!

日本ってけっこう深刻なんだなぁ、と少しナーバスになったConちゃん。

どういった道を歩んできたのかを知れば、今のことがわかりやすくなるのも確か。

金田「江戸時代末期に、黒船が石炭を使ってはるか遠くから海を渡ってやってきました。目的は日本を石炭燃料などの補給地にすること。つまりエネルギーを確保するためです。そして、大砲を放ち『開国せよ』と迫った瞬間、日本はハッとしました。どんな剣の達人だろうと石炭の力にはかなわないと」

金田「このままじゃ占領されちゃうかも、と感じた黒船来航こそ、石炭に脱帽して日本も使おうと心に決めた瞬間です。つまり、ペリーが黒船でやってきたことが、日本のエネルギー政策の発端だといえるでしょうね」

金田「そして黒船来航から、すべてのストーリーが始まります。明治時代となり、石炭のエネルギーを使って始めたのが鉄作り」

金田「現在の神奈川県横須賀市にある浦賀に、日本初の製鉄所ができました。さらに、鉄から造ろうとしたのが戦艦です。これを機に、日本初の本格的な造船所もできました。こうして幕末から明治に続く、石炭時代が始まったのです」

金田「そして、その数十年後に世界最強とうたわれたロシアの艦隊が日本を襲ってきました」

金田「刀で戦っていた日本なんか勝てないと世界が思っていた中、石炭で動く戦艦があったおかげで圧勝したんです。それ以前にも海外との戦いの歴史はありますが、それらとは違い、初めてエネルギーの力で日本を守ったといえる歴史的エピソードなんですよ」

金田「うまくいったので、日本はますます石炭にシフトしていきます。石炭をエネルギー源にできるよう、いろいろなものが機械化され、次第に日本は豊かになりました。明治期の近代化と日本の独立を守った原動力、それが石炭だったんです」

 

Conちゃん、大正ロマンに電気の夢を見る!

“開国”のイメージしかなかった黒船が、実はエネルギーの重要性を日本が知るきっかけとなっていたことに驚いたConちゃん。

幕末から明治にかけて、石炭でガラリと変わった日本。続く大正時代は?

金田「電気を使い始めたのは大正初期、まさに電気と共に歩んだ時代です。大正2年(1913年)ごろから、日本中で水力発電所が造られるようになりました。私財をはたいてダムを作る実業家が現れ、ここから日本の電気事業は始まったのです」

金田「『これからの時代は電気だ』と、多くの実業家たちが主張しました。発電して使うまでの仕組みを国全体で作らなければ、諸外国に後れを取ると。日本は水資源が多く、起伏に富んだ山が多いため、落差を利用する水力発電に合っていました。そのため、ダムを造ればすぐに発電ができたので、これを機に日本は大きく“電化”していきます」

金田「石炭の時代と同じく、電気が普及すると同時にいろいろなものを電気で動かせるようにしていったんです。世界中が電気を使う流れにポンっと日本が飛び乗れた最も大きな要因は、水力発電に合う地形にあったと思います。ちなみに“大正ロマン”なんていいますが、実は電気を使い始めたことを指しているんですよ」

金田「暗くなったら寝るしかなかった時代から、電気が使えるようになって夕方や夜も生活できるようになりました。そうすると新しい文学など、その時間ならではの文化が生まれる。それが大正時代のロマンだったんですね」

金田「もちろん文学だけじゃなく、産業も栄えました。あらゆる動力が、石炭から電気にシフト。石炭でモクモクやるよりも、電気を使った方がスマートで静かですよね。職場環境もぐっと良くなったことでしょう」

金田「ただ、その背景に大変な努力と犠牲があることを忘れてはいけません」

金田「黒船来航のように、『外国に占領されないように発展しなければ!』というのが日本のエネルギー政策の起こりです。そして、日本中の人々がそう思うようになりました。昭和にかけて炭鉱やダム建設で多くの事故があり、たくさんの犠牲者が出ましたが、それでも国中が必死になってエネルギー開発は進められました」

金田「これは日本のエネルギーの歴史を語る上で、非常に重要なことです。現代なら建設工事で人が亡くなったら、その工事はストップします。でも、当時は止められなかった。やらざるを得なかったんです」

金田「例えば、時代は進み、昭和時代に建設された黒部ダム(富山県)。多くの尊い犠牲がありましたが、それでも完成させました。背景には、喫緊の課題だった大阪の産業化があり、現在の大阪があるのは黒部ダムのおかげといえます」

金田「愛知県と静岡県の県境にある佐久間ダムも、名古屋の繁栄に大きく貢献しています。そこに至るきっかけとなったのが、石炭から電気へとメインとするエネルギーが切り替わった大正時代。電気であらゆるものを作ることにエネルギー政策のかじを切ったからです。それ以降、もはや電気がなければ何も始まらない時代になったのです」

便利な暮らしや大正ロマンといった文化を生み出し、日本そのものをイノベーションさせた石炭や電気。一方で、多大な犠牲の上に成り立っていた。

国全体で推し進めなければならなかった理由は、日本の将来のため。つまり私たちが生きる現在のためだ。

そして昭和、平成、令和へ。エネルギーの歴史から見える今後のエネルギー政策とは。次回も、Conちゃんがリポート!

>後編に続く


取材協力:金田武司

株式会社ユニバーサルエネルギー研究所 代表。東京都生まれ。東京工業大学大学院エネルギー科学専攻博士課程修了。1990年三菱総合研究所入社。同社エネルギー技術研究部次世代エネルギー事業推進室長などを務めた。2004年ユニバーサルエネルギー研究所を設立。国内学会や政府、自治体の委員など公職を歴任する。著書に『東京大停電 電気が使えなくなる日』。
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『2020—日本が抱えているエネルギー問題(前編)』(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)
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「再処理工場」っていつから動く? 電気料金は上がる? 日本原燃に突撃インタビュー(後編)

2021.02.25

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第15回は、前回に続いて日本原燃さんにオンラインインタビューしました。原子力発電の使用済燃料を再処理すると、どんなメリットがあるのか? 電気料金は上がるのか? Conちゃんがリポートします!

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Conちゃん、再処理後のプルサーマルを知る!

原子力発電所で使い終わった燃料(使用済燃料)を、もう一度使えるようにするため「再処理」する青森県六ヶ所村の再処理工場。

「再処理しなきゃダメなの?」と思ったConちゃんは、前回、初めてのオンライン取材で日本原燃株式会社(以下、日本原燃)広報グループの四十物春奈(あいものはるな)さんに、再処理する目的や方法などを教えてもらった

前編はこちら『「原子燃料サイクルって必要なの?」日本原燃に突撃インタビュー(前編)』

使用済燃料は再処理工場で使える部分と使えない部分に分けられ、リサイクルされて、再び燃料としてエネルギーになる。

この大きな流れを「原子燃料サイクル」と呼んでいて、使える部分であるウランとプルトニウムを元にリサイクルしてできるのが「MOX燃料(Mixed Oxide燃料、混合酸化物燃料)」だ。

四十物「プルトニウムの入ったMOX燃料を一般的な原子力発電所(サーマル・リアクター)で使用することを、和製英語で『プルサーマル』って呼んでいるんだけど、聞いたことないかな?」

出典:一般財団法人 日本原子力文化財団サイト『エネ百科』より

四十物「確かにMOX燃料は、通常の燃料(ウラン燃料)より放射線がやや強くて熱の伝わり方も違うから温度が高くなる傾向があるの。でも、原子炉の中に入れる燃料のうち、MOX燃料が3分の1以下なら、通常の燃料と大きな差はないとされているんだ。今、国内にあるプルサーマル炉(プルサーマルを行える原子炉)でも、そういうふうに運用されているよ」

四十物「日本では1980年代から1990年代にかけて行われた実証試験で、安全に発電できることが確認されているんだよ。フランスをはじめ世界の国々では1960年代から利用されていて、国際的な実績は豊富。もちろん日本では国の規制委員会による世界最高水準の審査に沿って、安全最優先で進められていて、九州電力の玄海発電所をはじめとして国内の4ヵ所の原子力発電所で使用した実績があるんだよ」

四十物「そもそもプルトニウムは、発電に使ったときにウラン燃料から生まれてくるものなんだよ。実はこのときに発生したプルトニウムって、現在の原子力発電所の中でも発電するための燃料の一部になっているの。つまり、普通の燃料で発電しているときも、原子炉の中はプルサーマルと同じような状態になっているの」

四十物「原子力発電所の燃料になる天然のウランは、地球から採れる鉱物の一つ。だから限りがあるよね。石油や天然ガスなどを含めて、エネルギー資源のほとんどを輸入に頼っている日本の未来を考えると、今あるものをどうやって使っていくのか真剣に考えていかなければならないんだ。プルサーマルは“資源をリサイクルする”という点で、エネルギーの有効活用を図れる手段の一つなんだよ」

四十物「私たちの子どもや孫、その先の世代のためを考えると、この仕組みは必要なものだと考えているんだ。現在、日本国内で稼働している原子力発電所は9基。このうち、プルサーマル炉は4基。原子力発電所を運営する電力会社は、新たなプルサーマル計画を発表して、2030年度までに少なくとも12基でプルサーマルを実施することを目標に掲げているんだよ」

参考:電気事業連合会『新たなプルサーマル計画について』(2020年12月)

 

Conちゃん、電気料金の値上げを疑う!

ウラン燃料が原子力発電所で使われ、MOX燃料、プルサーマルへ。原子力発電の燃料が進んでいくサイクルの仕組みを知ったConちゃん。

でも、これが実際に動き始めたら、毎月払っている電気料金にその分が上乗せされるんじゃ……。

四十物「法律で定められた電気料金だから、勝手にというわけではないんだよ。これまで日本は長い間、原子力発電所を動かしてきたよね。そこで発生した使用済燃料の処理や処分をするために必要な費用は、原子力発電所を持っている全ての電力会社が販売した電気の量に応じて支払っているの。将来的に必要になるから、さっき言った使用済MOX燃料の再処理のための費用もね」

四十物「電力会社が払っている費用は、『使用済燃料再処理等既発電費相当額』という法律に定められた電気料金の一部として、電気を使う全ての家庭や企業から平等に集めているんだよ。これは、全国につながる電線を使っていれば、どんな電力会社から電気を買っても同じことなんだ」

四十物「そういうわけでもないんだよ。発電所の種類別で建設費や運転維持費、燃料費などで計算される『発電コスト』の試算というものがあるの。原子力発電所は40年間、70%の能力で動かしたとして費用を計算すると、1キロワット時(kWh)当たり10.1円程度なんだよ」

出典:総合資源エネルギー調査会 発電コストワーキンググループ『長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告』(平成27年4月)を加工して作成

四十物「10.1円のうちの1.5円が原子燃料サイクル全体の費用、その中の0.5円が再処理の費用。これが電気料金の基準になるんだけど、原子力は既に原子燃料サイクルや廃棄物の処分などにかかるすべての費用が盛り込まれているの」

出典:経済産業省 資源エネルギー庁サイトスペシャルコンテンツ『原発のコストを考える』より

四十物「それに、例えば火力発電所だと、石油や天然ガスといった燃料を海外から買って持ってくることにかかる費用が運営コストの多くを占めるんだよ。使う量は多いし、再利用できないから使い切り。それでいて価格変動の影響も大きいし、かなり大きな金額になるの。円相場が安くなれば価格がグンッと上がったりするの。一方で原子力発電所は、一度燃料を仕入れれば長く使えるし、発電する能力も高い。燃料費の割合もそんなに大きくないから、価格高騰に左右されにくい」

四十物「海外に払う資源の購入費用というのもバカにならなくて…。東日本大震災以降に原子力発電所が停まったことで、2011~2016年度の6年間で追加の燃料費は15.5兆円。消費税がたとえ1%でも一千数百億円って大きさなんだよ。この費用は、国民一人当たりの負担で換算すれば約12万円。燃料をリサイクルすれば、私たち国民が作った国の財産が国外に出ていくことを防ぐ効果もあると思うんだ」

四十物「日本の食料自給率が40%を下回って大問題って言われているよね。でも、エネルギー自給率は11.8%で、もっと低い。今、自動車や半導体で日本は世界をリードしているでしょ。そういった産業は、製造時などにたくさんの石油や天然ガスが必要になるの。といっても輸入量は限られている。日本の強みである他の産業のことを考えたら、節約できるエネルギー分野が節約した方よくない?」

四十物「原子燃料サイクルがスムーズに回れば、電気料金の安定化や日本の経費削減、資源の有効な分配が図れる。そういった社会全体のメリットは大きいと思うんだ」

 

Conちゃん、再処理工場のこれからに期待する!

日本のエネルギー確保のため、そして日本の資源とお金を守ることにつながる原子燃料サイクルに感心したConちゃん。

本格的にはまだ動いていない六ヶ所村の再処理工場は、実際いつから動き始めるのだろう。

四十物「1993年から建設し始めていて、実はほぼ完成しているんだ」

四十物「2011年の東日本大震災で発生した福島第一原子力発電所の事故の経験をもとに、国の規制基準がとても高くなったの。その基準に合うよう設計などを変更していって時間がかかったけれど、2020年7月にようやく国の安全審査に合格したんだ」

四十物「新規制基準は、2013年7月に施行された原子力施設の設置や運転の可否を判断する国が定めた新しい基準。地震や津波対策が強化されて、新たにその他の自然災害や重大事故対策、テロ対策が追加。その結果、“世界一安全対策に厳しい規制基準”になったんだよ」

四十物「想定外のことへの対処法まで計画しなければ合格できないから、何百回もの審査を受けて一つ一つ細かく答えていったんだ。例えば、審査のために400メートルくらいの大きな穴を掘って、直接断層がないことを確認したんだよ」

四十物「客船が入るくらいの巨大な穴(トレンチ)だったんだよ。審査にかかった期間は6年半。時間と手間と労力をかけて、ようやく合格したところなんだ」

四十物「将来的に予測されている中国やインドの人口爆発。こうした国々の生活水準が上がると、必ずエネルギーの争奪戦が起こるの。そうすると……」

四十物「日本が今持っている資源を有効に使って、エネルギーを安定して供給させるためには、再処理工場はなくてはならないの。それに、青森県民にとっては別の意味でも意義があることなんだよ」

四十物「日本原燃には約3000人の従業員がいるんだけど、そのうちの60%以上が青森県出身なの。私もその一人。今年の新入社員だと、81人のうち69人が青森県民。かなりインパクトのある数字じゃない?」

四十物「その他、現在は新規制基準の安全性向上工事で毎日5000人くらいの人がサイクル施設で働いていて、大きな雇用が生まれているんだよ。私が地元で暮らし続けることができるのも、この工場があるからかなぁ、と思っているよ」

四十物「もちろん、青森県と六ヶ所村の協力があってできていることだね。夏には、地元の方々と毎年社員寮でお祭りをして盛り上がることもあるんだよ」

四十物「近い将来から遠くの未来までのことを予測して、日本に暮らす人たちの豊かな生活を守るために考えた対策の一つが再処理工場であり原子燃料サイクルなんだ。この先、どんな未来が待っているのかは誰もわからないけど、将来設計は大事だよね」

使用済燃料の再処理工場は、原子力発電に使われるエネルギー資源のサイクルの輪をつなぐ要となる。世界の変化に取り残されないために、日本が今できる対策の一つが、この輪をつなぐこと。

日本全体、さらには青森県の経済も支える日本原燃や再処理工場のこれからに期待したConちゃんでした。


取材協力:日本原燃株式会社

青森県六ヶ所村に本社を構え、原子燃料サイクルの中核を担う。日本のエネルギーの安定供給を目指して、ウランの濃縮、使用済燃料の再処理、MOX燃料の製造などの5事業を展開している。社員の6割以上が青森県出身者。略称はJNFL。
https://www.jnfl.co.jp/ja/

★さらに「原子燃料サイクル」について知りたい方はこちら!

『「使用済燃料」のいま~核燃料サイクルの推進に向けて』(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

「原子燃料サイクルって必要なの?」日本原燃に突撃インタビュー(前編)

2021.02.24

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第14回は、原子力発電の使用済燃料を「再処理する」とはどういうことなのか。青森県六ヶ所村にある再処理工場を運営する日本原燃さんに教えてもらいました。日本のエネルギー問題を解決する方法を、Conちゃんがお伝えします!

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Conちゃん、オンラインで再処理を問う!

鉞(まさかり)のような形をした下北半島。そのちょうど付け根のところにあるのが青森県六ヶ所村だ。

下北半島と太平洋の恵みを受けて、スルメイカやサケ、ウニにアワビといった海産物が豊富に取れる。

前回までのNUMOや幌延(ほろのべ)深地層研究センターで聞いた話の中に、たびたび出てきた「使用済燃料」という言葉。

原子力発電所で使い終わった燃料のことで、そこから出るごみ「高レベル放射性廃棄物」を地下深くに最終処分するためには、その前に「再処理」という工程が入ると言っていた。

ConちゃんがNUMOにインタビュー『「原子力発電のごみの最終処分」って何? 専門家に突撃インタビュー!(前編)』

Conちゃんが幌延深地層研究センターにインタビュー『「地層処分」って本当に安全なの? 幌延深地層研究センターに突撃取材(前編)

Conちゃんは、「再処理って必要なのかなー?」と思ったので、海の幸にも期待しつつ、建設が進む再処理工場がある六ヶ所村を目指す……はずだった。

だけど、こんなご時世なので青森へ行くのは自粛することに……ということで、今回はオンラインで取材することにした。

取材に応じてくれた日本原燃株式会社(以下、日本原燃)は、六ヶ所村で原子力発電の燃料となるウランを濃縮する工場や、原子力発電所で出る低レベル放射性廃棄物というものを処分する埋設センターなどを運営している。

今回の目的地だった再処理工場も、その一つだ。

四十物「青森に来てほしかったけど、今回は画面越しでよろしくね!」

四十物「ウラン鉱石って知っているかな? これを海外から輸入、加工して原子力発電の燃料にするんだけど、火力発電の燃料になる天然ガスや石油と同じように、燃料の調達先を海外に頼っていると、世界情勢が不安定になったら心配になるよね」

四十物「実は原子力発電の使用済燃料は、約96%が再利用できるんだ。つまり、使い終わっても、まだまだ燃料として使えるってこと。そもそも日本はエネルギーの資源に乏しいの。貴重なウラン資源をもっと有効利用できれば、エネルギーを安定させることにつながる。だから、一度輸入したウランをリサイクルして、より長く使えるようにしていこうとしているんだよ」

四十物「再処理っていうのは、原子力発電所で使い終わった燃料からまだ使えるものを取り出す仕組みのこと。その再処理を行うのが六ヶ所村の再処理工場だよ」

四十物「再処理工場では、原子力発電に再利用できるウランとプルトニウムを取り出してリサイクルできるようにするの。国内に今、使用済燃料は約1万9000トンあるの。これをリサイクルすれば、日本国内で消費される約1年半分の電力がつくれるんだよ」

 

Conちゃん、意外な再処理の仕組みに驚く!

再処理工場が、新たな日本のエネルギー資源を生み出すために、原子力発電の使用済燃料をリサイクルしようとしていることがわかったConちゃん。

でも、プルトニウムって……それってあっていいんだっけ?

四十物「理由はいろいろあるんだけど、再処理工場にある使用済燃料から回収されたプルトニウムには、核分裂しやすいプルトニウムの割合が約6割程度しか含まれていないので、核分裂しやすいプルトニウムが9割以上必要となる核兵器に転用することは技術的に困難なの。それに、工場の中にはIAEA(国際原子力機関)のカメラがたくさんあって、査察官が日本でそういったプルトニウムを抽出して核兵器の材料を作らないかしっかり見ているんだよ」

四十物「見ているって言うと“たまに来て見る”ようなイメージかもしれないけど、そんなレベルじゃないよ。24時間365日工場を監視しているんだ。逆に言えば、私たちが『作っていない』ってことを国際的に保証してもらっているの。私だって核兵器を作るためにこの会社に入ったわけじゃないからね」

四十物「多くの原子力発電所は軽水炉っていう原子炉を使ってウランからエネルギーを取り出しています。このウランの一部がプルトニウムに変化するんだけど、その中から、まだ使えるウランとプルトニウムを取り出しているんだ。六ヶ所村の再処理工場は、年間で最大800トンの使用済燃料を再処理することができる能力があって、試験で既に425トンを処理しているんだよ」

四十物「実証試験でね。2006年から2013年までの試験で既に425トンの使用済燃料を処理しているよ」

四十物「具体的には、原子力発電所から運んできた使用済燃料を保管して、『①せん断・溶解』『②分離』『③精製』『④脱硝』と4つの工程でウラン酸化物とウラン・プルトニウム混合酸化物にして貯蔵するの」

四十物「②分離の部分で、再利用できるウランとプルトニウム、再利用できない廃液を分けるのは、ドレッシングみたいな感じをイメージするとわかりやすいかな」

四十物「ドレッシングって振ると混ざるけど、放置すると水と油が分かれていくよね。この硝酸溶液っていう液体も同じように、ウランとプルトニウムは上の方に、廃液は下の方に分かれていく性質があるの。そうやって使える部分と使えない部分を分けているんだよ」

四十物「全体の約5%だけ出てしまう、どうしても再利用できない部分のこと。廃液はガラスと溶かし固めて『ガラス固化体』にするんだ。それを『高レベル放射性廃棄物』って呼んでいるんだけど、この間、聞いたんじゃないかな?」

四十物「最終処分のプロジェクトはNUMO(ニューモ)が進めているのは知っているよね」

ConちゃんがNUMOにインタビュー『「原子力発電のごみの最終処分」って何? 専門家に突撃インタビュー!(前編)』

Conちゃんが幌延深地層研究センターにインタビュー『「地層処分」って本当に安全なの? 幌延深地層研究センターに突撃取材(前編)

四十物「それにともなって最終処分する場所の面積も半分以下に縮小できるから、環境面などでもとても大事な作業なんだよ」

 

Conちゃん、壮大な原子燃料サイクルを知る!

技術的には、とてつもないものなんだろうけれど、再処理が意外とシンプルな仕組みだったことに驚いたConちゃん。

でも、これをやったら放射線の影響が……。

四十物「再処理工場が稼働すると、使用済燃料を切断する工程でどうしてもトリチウムやクリプトンなどの放射性物質が出てくるの」

トリチウムについての詳しい解説はこちら 電気新聞特設サイト「トリチウムの基本Q&A

四十物「それに放射性物質が放出されることの影響はもちろんゼロではないけど、実は自然からの放射線の量の100分の1程度なんだよ。これまでも世界の原子力施設では排出基準を守ったうえで海洋などに出しているんだよ」

四十物「『トリチウムが出る』って聞いたら、とても危険に感じるのはよくわかるよ。でも数値にすると、再処理工場から放出する放射能による人体への影響は1人当たりで年間最大0.022ミリシーベルト。例えば、呼吸によるもの(年間1.26ミリシーベルト)や食べ物から(年間0.29ミリシーベルト)など、自然からの放射線量は日本平均で年間2.1ミリシーベルトとされているの。ちなみに、病院で受ける胸のX線検診は1回で0.06ミリシーベルト、全身のCTスキャンは1回で平均7ミリシーベルトなんだよ。だから、日常の暮らしの中で普通に受けている放射線よりも、一般の方々に影響を与えるものではないと考えているよ」

四十物「それに、トリチウムは一つ当たりのエネルギー量がとても小さいから、数が多くても、影響に換算するととても小さくなるんだよ。また、トリチウムは水として存在するので、体の中に入ってもすぐ外に出てしまうんだ」

四十物「一般的な原子力発電所で使われる燃料は、最初に言ったウラン鉱石から作るものだよね。リサイクルしてできるのが、このMOX燃料。混合酸化物燃料(Mixed Oxide)の略称で、取り出したウランとプルトニウムで作るんだ。こうした一連の流れを、『原子燃料サイクル』っていうんだよ」

四十物「原子燃料サイクルっていうのは、原子力発電所→再処理工場→MOX燃料工場で燃料を再利用すること。再処理工場もMOX燃料工場も国の安全審査に合格して、原子燃料サイクルの実現に向けて進んでいるよ」

原子燃料サイクルの歴史について詳しくはこちら『「もんじゅ」の廃炉計画と「核燃料サイクル」のこれから」』(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

四十物「六ヶ所村の再処理工場はまだ本格的に動いていないけど、これまでもフランスなどに依頼して再処理自体は進められているんだ」

四十物「これは一般の商品にも言えることだけど、新品とリサイクル品だと、新品を買う方が安くすむこともあるよね。だけど、身近な紙やプラスチックと同じように、リサイクルするのは資源の問題。最初に言ったように、日本がウランや石油、天然ガスといったエネルギーの資源を海外に頼らなくてもよくすることで、自分の国の中に今ある資源を大事に使おうってこと」

原子力発電の燃料を再処理した先には、限りある燃料をサイクルする壮大なプロジェクトがあった。

作る、使う、リサイクルして、また使う。その先にはどんな未来が待っているのか。次回はさらに掘り下げて、Conちゃんがリポート!

後編に続く


取材協力:日本原燃株式会社

青森県六ヶ所村に本社を構え、原子燃料サイクルの中核を担う。日本のエネルギーの安定供給を目指して、ウランの濃縮、使用済燃料の再処理、MOX燃料の製造などの5事業を展開している。社員の6割以上が青森県出身者。略称はJNFL。
https://www.jnfl.co.jp/ja/

★さらに「六ヶ所村の再処理工場」について知りたい方はこちら!

『「六ヶ所再処理工場」とは何か、そのしくみと安全対策(前編)』(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

地下は第3のフロンティア! 幌延深地層研究センターに突撃取材(後編)

2020.11.06

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第13回は、前回に続いて北海道にある「幌延深地層研究センター」からお届け。地下350mにある研究施設の内部に、Conちゃんが突入します!

Conちゃんの紹介はこちら


Conちゃん、地下350メートルの坑道に入る!

北海道・幌延深地層研究センターにやってきたConちゃん。

前回、地上の施設で地層処分の方法や安全性などを教えてもらったので、今回は実際に研究が行われる現場である地下の坑道に入ることに。

>【前編はこちら】天然&人工バリアで防ぐ地層処分のすごさ!

早野「この建物の中に、立坑(たてこう)と呼ばれる深い縦穴が掘られています。深さは365メートル。これが敷地内に全部で3本あって、それらをつなぐように140、250、350メートルの深さに調査坑道という横穴が掘られています」

早野「ここからエレベーターで地下まで一直線。毎分100メートルで降りていきます」

早野「地層処分システムの性能確認や地質環境の研究を行っています。先ほど地上で見てもらったガラス固化体(高レベル放射性廃棄物)を処分するための『人工バリア』であるオーバーパックと緩衝材を実際に設置して、実際の地下深くではどういう状態になるのか、どのような埋め方がいいのかなどを調べる試験を行っているんだよ。また、どのような岩石が分布しているのか、地下水がどう流れるのかといった地質環境を調べることも行っています」

早野「地下350メートルの調査坑道には、試験坑道という研究用の短かめな横穴が5カ所あります。ここの総延長は757.1メートル。八の字のようにぐるッと回れる構造になっているんです」

早野「立坑に向かって地下水が集まるよう、ちょっとずつ傾けているんです。ちなみに坑道の壁、白いですよね? これは本来の地層ではなくて、コンクリートで覆っているから。でも、本来の地層も見られるように“窓”を開けています」

早野「通称『幌延の窓』。これが地層のオリジナルの色です。坑道周辺には、声問(コエトイ)層と稚内層という2つの地層が広がっていて、地下350メートルの周りは稚内層ですね」

早野「どちらの地層も海の中で藻の仲間である珪藻(ケイソウ)の殻が積もっていって、長い年月をかけて固まっていったものなのですが、硬さが異なっています。珪藻(ケイソウ)はガラスと同じ成分なのですが、声問層より深いところにある稚内層の珪藻(ケイソウ)は結晶化が進み、稚内層の方が硬い岩石になっています」

Conちゃん、地下の研究結果に震える!

広くて深い地下350メートルの坑道にワクワクしてきたConちゃん。

ここで、どんな試験が行われて、なにがわかったんだろう。

早野「このコンクリートの壁の向こうに実物の人工バリアを埋めて、状態の変化を確かめたんです。実際に地層処分するガラス固化体は入れられないので、実物を再現するために電熱ヒーターで表面温度を現在は50℃(その前は90℃)にして試験しています」

早野「もともとこの壁の奥に水平な坑道とその床に人工バリアを置く縦穴があって、そこに人工バリアが埋められています。約5年の間モニタリングしてきたんですよ」

早野「地下水を注入して、人工バリアの温度や、水分量などの変化を見ているんです。中にセンサーや計器が入っていて、ケーブルをつないでこっちの小屋にデータを送っています」

早野「試験を始める前にコンピューターでシミュレーションした初期モデルというものがあって、簡単に言うと、それの答え合わせをしているんです。その答えが、まさに今集めているデータ」

早野「シミュレーションと合っているかどうかを確認して、合わないのなら合わない理由を探る。そうしてモデルを改良していくと、ノウハウになって実際に活用できるようになるんです」

早野「これは『オーバーパック腐食試験』をした穴です。金属は土に埋めると腐食するんですが、人工バリアの一部のオーバーパックも金属製。なので、実際の地層に埋めて腐食速度を測ったんです」

早野「少なくとも1000年間もつように設計されているオーバーパックが、本当に1000年間もつのか。一年間でどれくらい腐食していくのかを計測したら、結果として事前の予想よりもずっと遅かった」

早野「研究結果からわかっているのは、1000年閉じ込めるのに必要なオーバーパックの最大の厚さは12.1センチメートル。今考えられている19.0センチメートルの厚さであれば、約1万7000年の間は閉じ込められる可能性があると予想されています(※)。十分な安全性を優先し、19.0センチメートルの厚さを設定した設計の正しさも、ここの試験で確認されたんです」

※原子力発電環境整備機構(NUMO)『包括的技術報告書』(2018年11月)より

早野「腐食の計測を終え、2018年に取り出しました。今は次に進み、オーバーパックにどんなさびの成分が付いているのかなど詳しい分析を進めています」

早野「他にも、人工バリアのいろいろな埋め方についても研究開発をしています。考えられている施工方法が本当にうまくいくのか、確かめているんですよ」

Conちゃん、幌延の地下にロマンを感じる!

人工バリアが想像以上だったことに驚いたConちゃん。

実際に地下深くの地層を使うと、わかることはたくさんあるようだ。

早野「2020年1月に、研究開発期間を2028年度まで延長することを地元に受け入れてもらったんです。私たちは、それまでの9年間で計画したことを実直に進めていくんです」

早野「“地上の施設”(前編)でも聞いたかと思うけれど、地元の北海道、幌延町との約束で、研究開発が完了したら、ここは埋め戻すんです」

早野「放射性廃棄物を持ち込むことや使用することはしない。地層処分を行う実施主体に譲渡や貸し出すこともしない。研究開発が終了したら地上施設を閉鎖して、地下施設は埋め戻す。これが大前提。なので、絶対にないんです」

早野「今後は、これまでの研究開発をさらに発展させて、技術の信頼性を高めていくんですよ」

早野「大きくは①実際の地質環境における人工バリアの適用性確認、②処分概念オプションの実証、③地殻変動に対する堆積岩の緩衝能力の検証、という3つの課題に取り組んでいきます」

早野「……簡単に言うと、①は人工バリアの内部の熱が下がるとどうなるのかを観測したり、人工バリアの解体作業を行ったり……」

早野「②は坑道の閉鎖についてさまざまな選択肢を検討したり、100℃以上の状態を想定して人工バリアの性能を確認したり……」

早野「③は、大きな断層による地震動の影響に対して、堆積岩が自ら元の状態に回復する力について確認する試験を行ったり……」

早野「さまざまな試験を組み合わせて、実際の地下環境での振る舞いを調べて、地層処分の事業に使うことができる新しい技術や調査方法を整備できたときが、一つのゴールでしょうか」

早野「それと、地下深くの基礎データを集めることも大事。平地の地下深いところにあるこのような施設は、日本では少ないと思います。そのため、ここで蓄えられたデータも日本の財産であり、これは大きな成果だと思います」

早野「そもそも、ここの坑道は一般的な道路トンネルと同じ土木の技術により掘削されています。ここで技術やデータが蓄積されれば、将来、日本で行われているトンネル工事や地下施設の建設に役立てることができるかもしれません。『地下空間は、宇宙、海洋に続く第3のフロンティア』とも呼ばれていますが、他にも地下にかかわる分野で、掘る、埋める、建設する技術に共通する部分があれば、使える知見はたくさんあると思いますよ」

実際に地下深くで研究開発される地層処分は、安全が第一に考えられ、改良し続けられている未来のための技術だった。

しかもこの技術を高めていくと、地下に眠る未知の可能性も掘り起こせるかもしれない。

地層処分の不安感をぬぐってくれた幌延深地層研究センターに、信頼とロマンを感じたConちゃんでした。


取材協力:幌延深地層研究センター

日本原子力研究開発機構が運営する研究施設。350メートルにある調査坑道を有し、高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する研究開発を行っている。地層処分や研究開発内容が学べる「ゆめ地創館」は一般見学可能(月曜(祝日の場合は水曜日)、年末年始は休館)。地下施設の状況は、毎週金曜にホームページで写真配信されている。
https://www.jaea.go.jp/04/horonobe/

★さらに「地層処分の世界の取り組み」について知りたい方はこちら!

「北欧の「最終処分」の取り組みから、日本が学ぶべきもの①」(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

「地層処分」って本当に安全なの? 幌延深地層研究センターに突撃取材(前編)

2020.11.05

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第12回は、原子力発電のごみ対策となる「地層処分」が本当に安全なものなのか教えてもらうために北海道の研究所へ。知られざる地下研究の今を、Conちゃんがお伝えします!

Conちゃんの紹介はこちら


Conちゃん、北の大地にある地下研究所に行く!

前回、「原子力発電のごみ(高レベル放射性廃棄物)」の最終処分を担うNUMO(ニューモ:原子力発電環境整備機構)を取材したConちゃん。

>「原子力発電のごみの最終処分」って何?

そこで、日本は「地層処分」という方法でごみ対策を進めていることを知った。

でも「これ……本当に進めて大丈夫!?」と思ったので……

来ました。北海道の北端、稚内。

ここから南に車で1時間ほど行ったところにある幌延町に、地層処分のさまざまなことを研究開発する研究所があるそう。

幌延町は東京23区と同じぐらいの広さに約2300人が暮らしている。酪農が盛んで乳牛は7700頭ほど。

そんな町の市街地から少し北にあるのが、今回の目的地となる「幌延深地層研究センター」だ。

川澄「ようこそ。幌延深地層研究センターへ」

川澄「まずはこの研究所のことを知ってもらおうかな。ここは、地層処分に関わる技術を研究開発する拠点なんだ。2001年から3段階に分けて研究開発を進めているところで、2018年度には、それまでに得られた成果を取りまとめた報告書を公開しているよ」

川澄「2020年度からはさらに研究開発を深めていく計画を、地元の北海道と幌延町に認めてもらったんだよ。地層処分の研究開発は、古くは1976年から始まっていて、1999年にまとめられたレポートがあるんだけど、簡単に言うと『日本でも、信頼性高く地層処分を行うことができる』というもの。国や国際機関から『このレポートは信頼に値する』という評価も受けていて、これを基にして、この幌延でのプロジェクトが進められているんだよ」

「海底や南極の氷の下、宇宙への処分や地上での長期貯蔵管理などいろいろ検討されたんだけど、管理期間の長さやリスク、それに未来に暮らす人々のことを考えたときに、最適なのが地下なんだよ」

川澄「地層処分の方針を決めたり規制したりするのは国。実際に事業を進めるのはConちゃんも話を聞きに行ったNUMO。私たちの役割は、この規制と事業の両輪を支える軸になる“技術の基盤”を作っていくこと」

川澄「最終的に安全性を評価するためにも使われていくことになるから、地層処分の技術の信頼性をどれだけ高められるか。これが、幌延深地層研究センターの大きな最終目標になるんだ」

Conちゃん、バリアの強度に驚く!

幌延深地層研究センターが地層処分の土台となる研究開発をしていることがわかったConちゃん。

でも、どうして地層処分が安全だって言えるんだろう。

川澄「原子力発電の燃料は使い終わっても95%くらいリサイクルできるのは知っているよね?でも残りの5%は再利用できない放射能(放射線を発する能力)の高い液体が発生するんだけど、これをガラスの原料と溶かし合わせて容器に入れて、固めたのがガラス固化体。いわゆる高レベル放射性廃棄物で、これが地層処分するものだね」

>【ConちゃんがNUMOにインタビュー】「原子力発電のごみの最終処分」って何?

川澄「ガラスで固めるのは、水に溶けにくく、化学的に安定していて、物質を長く閉じ込められるから。例えば色ガラスってあるよね? この色が目で見えるのは、色素が移動せずにガラスの中に閉じ込められているからなんだ。つまり、物質を長く安定して動かなくできるってことだね」

川澄「このガラス固化体を安全に地層処分する方法が、天然の岩盤のバリアと人工物のバリアを組み合わせた『多重バリアシステム』だよ。まず、人工バリアを見てもらおうかな」

川澄「①のガラスで放射性物質を閉じ込めて、②の金属製の容器でガラス固化体と地下水の接触を防ぐ。③は水を通しにくく、物質をくっつける性質で地下水と放射性物質の動きを遅らせる。放射性物質を閉じ込める3つの人工バリアなんだ」

川澄「ガラス固化体以外は全部本物だよ。組立てた人工バリアは最終的には高さ約3.3メートル、直径は約2.2メートル、全体の重さが32トンぐらいになるね」

川澄「オーバーパックの厚さは19センチメートル。少なくとも1000年間は確実に閉じ込められるように、余裕をもって設計しているんだ」

川澄「オーバーパックの役割は、少なくとも1000年間は地中に流れる地下水とガラス固化体を接触させないというもの。それをさらに粘土のブロックで外側から包んで地下水から守っているんだよ」

川澄「これは本物の緩衝材ブロックだよ。これの主な材料は、猫のトイレの砂などにも使われているベントナイトという粘土。2000トンの力で圧縮してつくっているんだ。水を通しにくくするという性質を利用して、ブロック同士をぴったりくっつけ、地下水がガラス固化体に触れるのを遅らせるんだ。それに、地下水そのものの流れを遅らせる役割も果たすんだよ。ちなみに、これはブロックの形をしているけど、他にも粘土を吹き付けるなど、さまざまな設置方法も考えられているんだ」

Conちゃん、地下の懐の深さに感謝する!

高レベル放射性廃棄物の影響を、少なくとも1000年間閉じ込めるというオーバーパックの能力に驚いたConちゃん。

でも、このバリアって、長~い年月をかけて処分する高レベル放射性廃棄物の影響から、人間の生活を守れるんだろうか。

川澄「天然バリアは、地下深くの岩盤が持っている放射性物質を閉じ込める機能のこと。酸素がほとんどないから人工バリアで使われている金属への影響も少ない。それに、地下水の流れは地上と比べてとても遅くて、1年間で平均わずか数ミリメートルくらいなんだよ」

川澄「まず、ガラス固化体の放射能は1000年後までに大きく下がって、その後も緩やかに減少していくんだ。地下深くの地下水の動きは非常に遅いこと、それに岩盤には地下水に溶けている物質をくっつける能力があるんだ。 だから、放射性物質が人工バリアから漏れても、移動する速さ(※)はすごく遅いと考えられているんだよ」

※原子力発電環境整備機構(NUMO)によると、地下水の何十分の1、場合によっては何千分の1を下回る速度

川澄「幌延深地層研究センターは、それを確かめるために実証試験をしているんだね」

川澄「とっても大事なんだよ! 地下水には物質を溶かす性質があるでしょ? つまり、放射性物質が漏れたら溶けて流されてしまう。だから、地下水の流れや化学的な性質などを調べることがとても重要になるんだよ。これ、地下深くの地層から採取した岩石のサンプルなんだけど…」

川澄「そうだね。上は堆積岩で、下は花崗岩。日本に広く分布している岩石で、幌延で研究対象にしているのは堆積岩だよ。音が違うのは硬さが違うから。花崗岩は、ほとんど金属音だよね」

川澄「地層処分に必要な条件を満たせば、基本的に岩石の種類にかかわらず安全な地層処分は可能だと考えているよ。花崗岩は硬くて強く、岩盤の割れ目を地下水が流れるのが特徴だね。一方で堆積岩は、花崗岩に比べると柔らかいけど、小さな粒が積もった構造になっていて、地下水がその隙間をゆっくりと動いていくんだ」

川澄「そうだね。しっかり研究して、安全な地層処分の技術的な基盤になる成果を上げてきているよ。ちなみに、この施設の地下は100万年より前の日本海に堆積してできた泥が固まってできた岩石。そこに“100万年前より古い海水が閉じ込められていたんだよ」

川澄「さっきの花崗岩は、日本にもう一つある研究施設、瑞浪超深地層研究所(岐阜県)が対象にしている岩石なんだ。日本の地下深くは、花崗岩と堆積岩が大きな割合を占めているんだよ。だから、2カ所の研究所で地層処分に関する技術について研究しているんだ。ちなみに、瑞浪超深地層研究所は研究を終了していて、2020年2月から埋め戻しを始めているんだよ」

川澄「日本の場合、実際に地層処分をする場所を決めるのはこれからだから、幌延も瑞浪も技術を磨くためだけに造られた研究施設。だから、研究期間が終わったら、地上も地下も元に戻す約束なんだよ」

川澄「高レベル放射性廃棄物を自分の国で地層処分していくのは国際的な共通認識。だから状況は国によって変わるけれど、世界各国で進められているんだ。もう地層処分場の建設が始まっている国もあるし、候補地に研究施設を建てている国もあるよ」

川澄「実際にここから300メートル以上も深い地下にある坑道の中で研究開発しているんだよ。行ってみる?」

天然バリアと人工バリアを研究開発し、高レベル放射性廃棄物をどれだけ安全に処分できるかの方法論を追究する幌延深地層研究センター。

次回は、地下350メートルの坑道へ。Conちゃんがリポート!

>後編に続く


取材協力:幌延深地層研究センター

日本原子力研究開発機構が運営する研究施設。地下350メートルにある調査坑道を有し、高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する研究開発を行っている。地層処分や研究開発内容が学べる「ゆめ地創館」は一般見学可能(月曜(祝日の場合は水曜日)、年末年始は休館)。地下施設の状況は、毎週金曜にホームページで写真配信されている。
https://www.jaea.go.jp/04/horonobe/

★さらに「高レベル放射性廃棄物の地層処分」について知りたい方はこちら!

「放射性廃棄物の適切な処分の実現に向けて」(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

高レベル放射性廃棄物の処分場ってどこにつくるの? 専門家に突撃インタビュー!(後編)

2020.06.23

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 前回に続き、第11回は「原子力発電のごみ」の地層処分プロジェクトを進めるNUMO(ニューモ:原子力発電環境整備機構)からお届け。処分場がどこになるのか、さらにその先は? Conちゃんがお伝えします!

Conちゃんの紹介はこちら

前編はこちら:「原子力発電のごみの最終処分」って何?


Conちゃん、どこで処分すべきか頭を悩ませる!

 

NUMO広報部の実松由紀さんに説明してもらったおかげで、地下に秘められた能力が、「原子力発電のごみ」であるガラス固化体(高レベル放射性廃棄物)の処分に強みを発揮することがわかったConちゃん。

 

 

実松「地層処分のための処分場は、地下と地上に施設が必要になるんだけど、地下施設は6~10平方キロメートルほどを見込んでいて、一辺が羽田空港の滑走路と同じくらいの長さになるの。でも、地上は1~2平方キロメートルほどだから、地下施設の5分の1くらいですむんだよ。それを地図に落とし込むと、この赤い点の大きさなの」

 

 

実松「ガラス固化体4万本以上埋めることができる処分場を、日本の中に1カ所造る計画なんだよ」

 

 

実松「まだ決まっていないんだ。今はたくさんの方々に全国で説明して、『そもそも地層処分とは何か』ということについて理解を深めてもらっているところなんだ」

 

 

実松「今後、もしも地層処分に関心を持っていただける地域が出てきたら、その先にある文献調査、ボーリングなど主に地表から行う概要調査、地下の調査施設における精密調査へと、地域の方々の声をしっかりと伺いながら、段階ごとに進めていくの。その後、施設の建設、操業、そして最終的には地上施設を撤去して更地に戻すんだよ」

 

 

実松「原子力発電所を今動かすか止めるかは、また別の話かな。既にガラス固化体は日本にあるでしょ? だから、最終処分場はどうしても必要なんだ。それに、そもそも使用済燃料をリサイクルする際に発生するガラス固化体は、地下に埋められるようになるまで30~50年の冷却期間が必要なの。でも、だからといってのんびりしていいわけではないから、私たちの世代で解決できるように動いているところなんだよ」

 

 

実松「今は青森県の六ヶ所村と、茨城県の東海村にある施設で一時保管されているよ。さっき言ったように、出来たばかりのガラス固化体は高温で放射能レベルも高いから、冷却期間が必要なの。それに、この冷却期間で放射能レベルは80%も減るんだよ」

 

 

実松「次の世代に負担を残さないためにも、原子力発電による電気を利用してきた私たちの世代で、できるだけ早く道筋をつけるのが使命だと思っているよ。それに今、原子力発電のごみ処分は、世界のみんなでもっと協力して進めていこうっていう動きもあるんだよ」

 

 

実松「2019年から『最終処分国際ラウンドテーブル』っていう国際会議が開催されているの。原子力発電を利用する14カ国が参加して、これまでの経験や知見を伝え合いながら、これから進むべき方向を話し合ったんだ。世界の国々が原子力発電のごみ処分の課題を、協力して解決していこうと約束したんだよ」

 

 

実松「世界の人たちが協力して進める中で私たち世代が頑張るのは当然なんだけど、最終処分の取り組みは、若い人たちにもぜひ知ってほしいんだ」

 

Conちゃん、地層処分に故郷を想う!

 

調査、処分場の建設、さらには処分場の閉鎖まで、長期にわたるこの計画。

 

みんなで考えなければならないことはたくさんあるけれど、一歩ずつ進めているんだなーと思ったConちゃん。

 

 

実松「これから将来を担う世代にはこの問題に触れてほしいし、日本の課題として、今一緒に考えてほしいからね」

 

 

実松「それに、最近の学校の教科書って見たことある? 実は、今の子どもたちっていろいろな教科でエネルギーについて触れているんだよ」

 

 

実松「理科でエネルギー、社会でもエネルギー、家庭科でも環境やごみの問題でエネルギー。日本がエネルギー資源に乏しいってことだったり、火力、原子力、再生可能エネルギーを組み合わせるエネルギーミックスという考え方だったり、それらを自然と学ぶ機会が多いの。むしろ、今の社会人世代より詳しいかもしれない」

 

 

実松「だから、最終処分もその中の課題の一つとして考えてほしいんだ。いろいろな発電方法があって、それぞれメリットとデメリットが必ずあるってことを」

 

 

実松「ちなみに、学校に説明に行くと、東日本大震災を覚えていない10歳ぐらいの子からは、『CO2をたくさん出すのに、なんで原子力じゃなくて火力発電所をいっぱい使うの?』って聞かれることもあるし、大学生ぐらいの子からは、『最終処分、どうして早く進めないんですか?』って声もあったりする。自発的にSNSなどで広げている子もいるんだよ」

 

 

実松「もちろん全員が全員、そういうわけではないけどね。頭では理解して大事だって思っても、処分場が地元に来たらって考えると……っていうのが正直なところだと思うの。でも、それをビジネスチャンスと捉えて地元をアピールすればいいっていう意見も出てくるんだよ」

 

 

実松「実際に、処分場の建設が決まっているスウェーデンのエストハンマル市では、インフラの整備や中小企業の支援、科学教育に力を入れるといった、処分場ができることで生まれる地域発展のメリットが挙げられているの。ハイテク技術や研究者が集まる工業地域になるかもしれないし、観光地になるかもしれないって」

 

 

実松「他にこういった施設がないから、やっぱり不安に感じるのも当然だと思うの。でも、まずは最終処分について知ってもらって、日本社会全体の課題として捉えてほしい。そして、みんなで考えていきたいんだ。その方法や安全性といったさまざまな疑問には、私たちが一つ一つ丁寧に答えていこうと思っているよ」

 

 

電気を使うと出てしまう「ごみ」の正体、その先にあった処分方法の今。話を聞いてみたら、既に決まっているということ、そしてこれからすべきことについてもちゃんと考えられていることがわかった。

 

実松さんは、「処分場をつくるまでには、NUMOの本社もそこに移転するの。故郷として共生していくんだよ」と言っていた。

 

この国を故郷と思っているからこそ、電気を使った後のことも真剣に考えていかなきゃダメだなーと感じたConちゃんでした。

 


取材協力:原子力発電環境整備機構

高レベル放射性廃棄物等を安全に処分する地層処分の実現に向けて事業を行う日本で唯一の事業体。英文名「Nuclear Waste Management Organization of Japan」から、略称はNUMO。各地で、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する対話型全国説明会を行っている。グーモは、イベントや公式サイトなどに登場するマスコットキャラクター。
https://www.numo.or.jp/

 

★さらに「高レベル放射性廃棄物の地層処分」について知りたい方はこちら!

「高レベル放射性廃棄物処分問題」を学生と考えてみた(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

 

★地層処分について、見てほしい・知ってほしいコト

・次世代とともに「地層処分」を考える

・地層処分アカデミー(出前授業)

・リケジョの現場リポート

「原子力発電のごみの最終処分」って何? 専門家に突撃インタビュー!(前編)

2020.06.16

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第10回は、よく耳にするけど何だかよくわからない「原子力発電のごみの最終処分」のことを教えてもらうために、その中核を担うNUMO(ニューモ:原子力発電環境整備機構)へ。実はかなり昔から真剣に考えられていた取り組みをConちゃんがお伝えします!

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Conちゃん、“最終処分”が何を処分するのか知る!

 

実は、電気を使うと「ごみ」が出る。

 

電気は無からは生まれない。電気をつくるために、火力発電なら燃料を燃やすことでCO2(二酸化炭素)が、太陽光発電なら鉛やセレンなどの有害物質を含む寿命を迎えた太陽光パネルが、ごみとして出てしまっている。

 

 

原子力発電は、電気をつくるときにCO2は出さないものの「高レベル放射性廃棄物」というごみが出てしまう。今回は、この「高レベル放射性廃棄物」を処分するとはどういうことなのか、日本での処分を担うNUMOを訪れた。

 

 

NUMOは、2000年に制定された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(最終処分法)によって設立された、高レベル放射性廃棄物を処分する日本で唯一の組織。

 

実松さんは、難しい「最終処分」のいろいろなことを、学校などいろいろな場所でわかりやすく教えているそう。早速ですが……

 

 

実松「昔から方法は決まっているよ。今はどこで処分するか、場所を探しているところだね」

 

 

実松「日本はエネルギー資源が少ないことは知っているかな? 原子力発電所はウラン燃料を使って発電するんだけど、これをリサイクル(再処理)すれば、もう一度燃料として利用することができるんだ。一度使い終わった燃料は『使用済燃料』と呼ばれていて、具体的には重量にして95%はリサイクルできるんだけど、5%だけはどうしても残ってしまうの。この5%を安全に処分しようというのが『高レベル放射性廃棄物の最終処分』だよ」

 

 

実松「たしかに数字だけ聞くととても少なく感じるかもしれないね。でも、最終処分はとても大事なことなんだ」

 

 

実松「考え始めたのは、もっとずーっと昔。日本で原子力発電が商業的に利用されるよりも4年前の1962年から。だから、最近になって急にってわけではなくて、ずっと考え続けられてきたことなんだよ」

 

 

実松「使用済燃料がリサイクルする工場に届けられて処理されると、さっきの5%が出てくるでしょ。それを、さらに処分できるように加工したものを『高レベル放射性廃棄物』と呼んでいるんだよ」

 

 

実松「まず、高レベル放射性廃棄物ってどんなものなのかを知ってもらおうかな。使用済燃料をリサイクルするときに、まだ燃料として使えるウランやプルトニウムという放射性物質を取り出すと、最後に放射性廃液という液体が残るの。この液体をガラス原料と高温で溶かし合わせて、ステンレス製の容器に流し込んで冷やし固めると……」

 

 

実松「……難しいよね。まあ、結果的に『ガラス固化体』っていうものが出来上がるんだけど、このガラス固化体=高レベル放射性廃棄物だから、同じものだと思っていいよ。つまり、これが『原子力発電のごみ』と言われるものだね」

 

 

実松「ガラスを使うのは放射性物質を長期間、安定して閉じ込めておくことができるからで、このガラス固化体……」

 

 

実松「そう思う人もいるかもしれないけど、このガラス固化体が爆発することはないよ。爆発が起きる原因となるウランやプルトニウムは取り出しちゃっていてほとんど含まれていないし、化学的に爆発を引き起こす物も含まれていないからね」

 

 

実松「今、国内にあるガラス固化体は約2500本。でも、それだけじゃないの。これまでに使われた燃料を全てリサイクルして、そこで出るごみをガラス固化体にしたと仮定すると、全部で約2万6000本」

 

 

実松「原子力発電って、その歴史は結構長くて、日本で使い始めてから50年以上たっているんだよね。私たちの世代は知らず知らずにその恩恵を受けてきた。だから、まず使った分の2万6000本は絶対に処分しないといけない。それに、この道筋は私たちの世代でつけないとだめだよね」

 

 

実松「ただ、いくつか課題もあって。作られたばかりのガラス固化体は非常に高温だから冷まさなきゃいけないし、放射能のレベルがとても高い。自然界にあるウラン鉱石と同じくらいのレベルに下がるまでには、数万年~10万年かかるの」

 

 

実松「この長い期間を地上で管理し続けるのが現実的かといえば……」

 

 

実松「数万年といった長期間にわたって地上施設を維持・管理していくとなると、コスト的な問題もあるし、台風、地震、津波など災害のことを考えると地上では現実的には難しいよね。それで今、最適と考えられているのが『地層処分』という処分方法なんだよ」

 

Conちゃん、地層処分の実力を太古に見る!

 

地層処分が何を処分するのかわかってきたConちゃん。だけど、数万年の長さで考える処分ってどんなものなんだろう。

 

 

実松「ガラス固化体をたくさんの人工のバリアで囲った上で、地下深くの安定した岩盤(天然のバリア)の中に埋める処分方法のこと。今、日本は300メートル以上深いところに埋めることが決まっているよ」

 

 

実松「地下深くに埋めようってこともすぐに決まったことではなくて、世界中でいろいろな処分方法が考えられてきたんだよ。宇宙や海底、南極の氷の下とか」

 

 

実松「ダメダメ。宇宙へ飛ばすには、ロケットに乗せないといけないよね。でも、ロケットの発射は100%成功するとは限らないでしょ。もし、失敗して落ちてきたら…。そういったリスクや、とても長い間管理しなければならないことによる将来世代への負担などを考えたときに、現時点で最適だったのが地層処分なんだよ」

 

 

実松「これは日本だけではなくて、原子力発電を行っている世界各国での共通の認識なの。例えばフィンランドは、もう地層処分をする処分場の建設が始まっているんだよ」

 

 

実松「ポイントは大きく3つ。人間の生活環境から隔離できる、酸素が少ないから錆びにくい、それに長い期間動きにくい」

 


出典:高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する対話型全国説明会『説明資料』(2020年2月17日更新)より

 

 

実松「“安定して閉じ込められる”ってことだね。アンモナイトの化石って見たことあるかな? あれは約9000万年前の地層から当時の形を残したまま出てきたものだよね」

 

 

実松「他にも、紀元前のガラス工芸品がきれいな状態で出てきたこともあって、地下は形を維持したまま閉じ込めておける性質があるってことだね。このガラスで固めるのも、放射性物質を長期間にわたって安定した状態で閉じ込めておけるからなんだ。こういった地下やガラスの能力を借りれば、人間の手から離しても安心できるよね」

 

 

実松「だからこそ、地層処分なの。地下の特性を利用すれば、数万年もの長い間、人間が常に管理し続けなくてもよくなるし、放射性物質が人の生活環境に影響を与える心配をかなり小さくすることができるの。それに、フィンランドみたいに使用済燃料を地下に“直接処分する”のではなくて、日本は“リサイクルしてから処分する”から、ごみの量も減らせるんだよ」

 

 

実松「それを今、探しているところなんだけど、避けるべきところはハッキリしているよ。活断層や火山の近くはダメだし、石油や石炭といった資源があるところも、遠い将来に掘り起こされてしまう可能性があるから適さない」

 

 

実松「そう思うよね。だから、そうしたことをみんなで話し合いながら考えていけるように、実は2017年に国が専門家に議論してもらって『科学的特性マップ』というものを公表したんだよ。それがこの地図」

 


出典:経済産業省 資源エネルギー庁

 

実松「一定の基準に基づいて、これまでにわかっているデータを客観的に整理してまとめ、4色に色分けされているの。最終的に処分地を選ぶにはもっと詳しい調査が必要だから、この地図で決まるものではないけれど、少しでも理解を深めてもらえればと思っているよ」

 

 

実松「例えば、オレンジはさっき言った火山や活断層に近いといった好ましくない特性があると推定されている地域。反対にグリーンは、安全な地層処分ができる可能性が他の色に比べて高い地域ってことが示されているんだよ。ちなみに、グリーンの地域の割合は日本全国の3分の2ほど。その中で処分場に必要な広さが、この赤い点」

 

 

 

地下に秘められた能力が、ガラス固化体の処分に強みを発揮することがわかったConちゃん。地図で見るとすごく小さな処分場。これって、どこにできるんだろう? 現在進行形で進む地層処分の今と、その先に迫ります!

後編に続く


取材協力:原子力発電環境整備機構

高レベル放射性廃棄物等を安全に処分する地層処分の実現に向けて事業を行う日本で唯一の事業体。英文名「Nuclear Waste Management Organization of Japan」から、略称はNUMO。各地で、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する対話型全国説明会を行っている。グーモは、イベントや公式サイトなどに登場するマスコットキャラクター。
https://www.numo.or.jp/

 

★さらに「科学的特性マップ」について知りたい方はこちら!

「科学的特性マップ」で一緒に考える放射性廃棄物処分問題(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

 

★地層処分について、見てほしい・知ってほしいコト

・次世代とともに「地層処分」を考える

・地層処分アカデミー(出前授業)

・リケジョの現場リポート

「カーボンリサイクル」って何だ?専門家に突撃インタビュー!

2020.03.30

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第9回は、地球温暖化問題で嫌われがちな「CO2(二酸化炭素)」の利用方法を教えてもらうため、電源開発株式会社(J-POWER)へ。実際に話を聞いたら、CO2のことをこれでもかというほど考えていました。人にも地球にも優しいCO2との付き合い方をConちゃんがお伝えします!

Conちゃんの紹介はこちら


Conちゃん、脱炭素化の深さを知る!

先日、広島県にある「大崎クールジェン」という実証試験施設を訪れたConちゃん。

石炭火力発電所から出るCO2を分離して回収する方法、そして、その先にCO2を有効利用する「カーボンリサイクル」という考え方があることを知った。

大崎クールジェンについて詳しくはこちら

うまく利用するっていうけど、果たしてそんな簡単にいくものなのだろうか?

ということで、カーボンリサイクルをもっと知るために、大崎クールジェンを中国電力と共同で作った会社、電源開発を訪れた。

電源開発は、戦後の電力不足の時代に生まれた電力会社の一つ。国内外に多くの設備を持っており、石炭火力発電所の設備の容量で日本一を誇る。

渡部「今の時代に『石炭火力発電所』っていうと、どう思う?」

渡部「だよね。だけど、エネルギーの側面から見ると、今後も日本を含めた多くの国々には必要とされるものだと思うんだ。でも一方で、地球温暖化はとても大きな課題。となると、石炭火力も“脱炭素”しないといけないよね」

荒木「それで今、会社として『2050年代までに何とかしよう!』としているんだ。だから、カーボンリサイクル。これを積極的に取り組んでいけば、将来の脱炭素化に向けた選択肢を増やしていけると考えているんだ」

荒木「だから、今はとにかく、できることは何でもチャレンジしようとしているよ」

渡部「……もう少し詳しく言うと、今は技術的な可能性を探っているところだね。国が示したロードマップというものがあって、カーボンリサイクルは『化学品』『燃料』『鉱物』『その他』と大きく4つに分類されているんだ」

渡部「そもそも、カーボンリサイクルというのは、『CCUS』(Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage:二酸化炭素回収・有効利用・貯留)という取り組みの中の手段の一つ。これを見てみて」

渡部「 CCUSは、CO2を『回収』したら、『有効利用』するか『貯留』する(埋めて留める)かという選択肢があって、有効利用の先にも3つの使い道があるんだ。簡単に言うと、『EOR』はより多く石油を採取するための技術に利用する、『CO2の直接利用』はCO2そのものを原料にする、『カーボンリサイクル』はそれ以外の新しい技術全部ってことだね」

荒木「私たちは特に枠組みにこだわっているわけではないから、カーボンリサイクルにも直接利用にも取り組んでいるよ。CO2をもとにして化学品やバイオ燃料が作れたら、誰もが喜ぶよね。その可能性を見いだすために、チャレンジするってことだよ」

Conちゃん、太古のCO2を考える!

カーボンリサイクルはいろいろとあることを知ったConちゃん。なんだかわかったようなわからなくなったような……。

渡部「そもそもCO2は、ドライアイスや炭酸飲料、溶接に使われてるって知ってるかな?」

大崎クールジェンについて詳しくはこちら

荒木「じゃあトマトの話も聞いたかな? 15年くらい前に北九州市・響灘(ひびきなだ)でカゴメさんと当社と共同で、ハウス栽培のトマト菜園を始めたんだ。そこで、昔からCO2を利用しているんだよ」

荒木「トマトの育成のためだよ。ハウスの中のCO2の濃度を上げると、収穫できるトマトが大きくなるんだ。だいたい1株あたり3割くらい」

渡部「実は、植物にとっては大気中のCO2が多いほどよく育つとする報告があるんだよ」

渡部「植物にとっては成長(光合成)するためにはCO2が必要なんだ。植物が大繁殖していた恐竜の時代なんかは、大気中のCO2濃度がとにかく高かったとされているんだ。当時に比べるとCO2濃度が低い今の時代の植物は、たぶん仕方なく生きている。彼らからしたら、CO2が増えると単純にありがたいかもしれないね」

荒木「今の地球の大気中のCO2濃度は、地下にたまった化石燃料を、この数百年で人間が燃やして大気中に放出した結果。現代の自然環境では、放出されたCO2の半分の量しか吸収できなくて、残り半分は大気中に残っているんだよ」

荒木「これが地球温暖化の問題につながっているなら、人間としては大気中にCO2を出してしまう量をどうにか減らしたいよね。その取り組みが、CCUSだし、カーボンリサイクルってこと」

荒木「まあ、そうだね。とはいえトマト菜園はもともとCO2を使っていたし、大崎クールジェンで回収したCO2を使えたら、CO2排出量削減に一歩前進すると考えているよ」

荒木「CO2を運ぶためには液体にしないといけなくて、液化するにも新しい設備が必要になるんだ。大崎クールジェンでそれを今から作ろうとしていて、2022年度スタートが目標。あと2年くらいだね」

Conちゃん、農業から漁業に思いをはせる!

トマト菜園で使われるCO2から人間と植物の違いを感じ、「これぞ多様性!」と思ったConちゃん。

だけど、それって地球のためにはどれくらい役立つんだろう。

荒木「響灘のトマト菜園では、毎年2500トンほどのトマトを出荷しているんだ。それを育てるのに年間2000~3000トンのCO2を使っているんだよ。だから15年で4万5000トンくらい。ちなみに家庭のCO2排出量は、1世帯あたり年間3トンほどとされているから約1万5000世帯分だね。ただ、このトマトを食べても、結局CO2は出ていってしまうんだよ」

渡部「トマトが育つときには使われるけど、生き物が食べたら呼吸で排出されるし、食べないで放置したら腐って放出されてしまう。つまり、CO2を留められる時間が限られているということだね」

渡部「もともと炭素は、地球全体を循環しているものなんだ。地中から大気へ、大気から植物へ、植物から人へ、みたいにね。だからCCUSの一つ一つは、どれくらいの時間、大気中にCO2を放出させないかに違いが出てくる。『貯留』っていうのは、まさに地中に埋め戻してしまうことだし。だから今、カーボンリサイクルの『その他』も注目されているんだよ」

渡部「自然に吸収させて、CO2の量そのものを減らそうという仕組みがあって、古くから行われているのが『植林』。それに、最近は『ブルーカーボン』っていう海藻類を利用する研究が進められているんだよ」

荒木「海に建造物を建てるときにブロックを基礎にするんだけど、それをCO2が吸収できる藻場(もば)にしようと考えているんだ。ブロックの原料は石炭灰。いわゆる産業廃棄物だね。海藻類が増えるってことは、それを餌にする魚も増える可能性もあるよね」

荒木「だから、産業廃棄物を有効利用できるし、漁業ともうまく共存できるかもしれない面白いテーマだと思っているよ。自然の力を利用する取り組みは、とても意義があると思わない?」

Conちゃん、カーボンリサイクルに射貫かれる!

自然の偉大さにあらためて気づかされたConちゃん。

“その他”扱いされている海と山をこれでもかってほど大事にして、CO2問題をすべて解決してもらったらいんじゃないかと思ってしまう。

渡部「CO2は、現代人が生きていくためにはどうしても出てしまう。自然に吸収させようにも、育てるのには膨大な時間がかかる。それなら、CO2を“資源”として捉えて、社会の中で循環させればいい。つまり、人間がCO2とうまく付き合っていくということだね」

荒木「でもいろいろと壁はあってね……今はやっぱりコスト」

荒木「使うとなれば、CO2を安定して提供できる施設が必要になるよね。そんな施設はほとんどないから、単純にコストが高い。それに、CO2をいろいろな形で利用するには水素が必要になる。この水素を作るのもまだまだコストが高いんだ」

渡部「CO2と水素は材料。それを使った研究開発をイノベーションで進めようという取り組みがカーボンリサイクルだよね。でも、まずは低コスト化が課題なんだ」

渡部「だから電源開発では、トマト菜園にも使うCO2の液化設備も含めて、これから大崎クールジェンの設備を整備しようとしているんだ。さらに、大崎クールジェンのある大崎上島(おおさきかみじま)全体がCO2を提供できる拠点になれれば、新しい技術が生まれるのをインフラからサポートできるよね」

渡部「さっき話した、国が示したカーボンリサイクル技術ロードマップは、2030年、2050年に向けて、イノベーティブな“技術の種”をまいて育てていこうという取り組み。課題もあるけど、『脱炭素社会』を形にするためには、とても期待されているんだよ」

次の世代、次の次の世代が担う世界のために、いろいろな種をまいて育ててみる。その試みの一つ一つがカーボンリサイクルという花を咲かせるかもしれない。

最後に2人は、「先が長いぶん、私たちも、今後の展開にワクワクしているんだよ」と言っていた。

これからの展開にワクワクするのは、映画や小説、マンガといった物語の世界も同じこと。「このカーボンリサイクルがすごい!」を探すのも面白そうだな~と思ったConちゃんでした。


取材協力:電源開発株式会社

戦後の電力不足を解消するため、1952年に国によって設立された電力会社。2004年に完全民営化。全国に水力、石炭火力、地熱、風力などの約100か所の発電所を保有し、総出力規模は約1800万kW。約2,400kmの送電線を通じて電気を送っている。世界各地での電源の開発や送変電設備のコンサルティング事業の知見を活かし、発電事業のフィールドを海外でも積極的に広げている。通称はJ-POWER。でんき犬は公式サイトで案内役を務めている。
https://www.jpower.co.jp/


★さらに「カーボンリサイクル」について知りたい方はこちら!

未来ではCO2が役に立つ?!「カーボンリサイクル」でCO2を資源に」(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

CO2が暮らしを支える? 「大崎クールジェン」に突撃取材!(後編)

2020.03.18

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 前回に続き、第8回は「大崎クールジェン」からお届け。瀬戸内の島にある試験場を訪れたら、実は地球温暖化の原因の一つとされる「CO2(二酸化炭素)」が、私たちの暮らしに欠かせないものだったことを知ることに…! 地球を救うプロジェクトのその先を、Conちゃんがお伝えします!

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前編はこちら


Conちゃん、壮大なプロジェクトの現場を見る!

広島県・大崎上島(おおさきかみじま)にある会社、大崎クールジェンを訪れているConちゃん。

前回、大崎クールジェンの久保田さんに“究極の石炭火力発電”を生み出す計画「大崎クールジェンプロジェクト」の全貌を教えてもらったので、次はその“現場”に連れて行ってもらえることに。

久保田「これが実証試験で使った『石炭ガス化設備』だよ。奥に見えるのが一番重要なガス化炉。あそこに石炭を送ってガスにしているんだ」

久保田「全部ではないけど、ほとんど新しく建設したものだね。今は停まっているけれど、ここはもともと大崎発電所っていう中国電力の石炭火力発電所なんだ。だから煙突や石炭を貯めている場所などは、あったものを使っているんだよ」

久保田「大崎クールジェンプロジェクトは3段階に分けられていて、第1段階はこれらの設備で2017年3月から約2年間実施していたんだ」

久保田「第1段階は、石炭をガス化して効率良く発電できるか。第2段階は、そのガスからCO2を分けて効率良く回収できるか。第3段階は、CO2を分離したときに発生する水素を使って燃料電池で効率良く電気を作れるか。これをそれぞれ実証するんだ。全部できたら“究極“ってことだね」

久保田「発電効率や環境性能、経済性といったすべての面で目標をクリアできたんだ。特に商用機のIGCC(石炭ガス化複合発電)へとスケールアップしても、熱効率が49%(※)まで向上する見通しで、CO2の排出量をこれまでより15%も削減できるんだよ」
※送電端、LHV

久保田「火力発電は、電気が使われる量に合わせて発電量を調整する大切な役割があるんだ。この実証試験で、例えば再生可能エネルギーの発電量が天候によって変わっても、今までより柔軟に対応できることもわかったんだよ。その次に、2019年12月から始めたのが第2段階。CO2を分離して回収する実証試験だね」

久保田「分離回収にはSweetシフト、物理吸収という方式を採用しているんだ。まず、シフト反応器という機器で『CO+H2O → CO2+H2』のシフト反応を起こし、その後、物理吸収液を使って吸収塔とフラッシュドラムを通して分離回収す……」

久保田「簡単に言うと、石炭から作ったガスを機械に入れて蒸気と反応させると、CO2と水素になる。このCO2に特殊な液体を垂らせば、CO2だけ吸収できる仕組みなんだよ。それができる設備がコレなんだ」

久保田「もちろん仕組みはもっと複雑なんだけど、これを使って、ガスの中から90%以上のCO2が回収できるんだ。ちなみに、吸収用の特殊な液体は何度も再利用できるんだよ」

久保田「石炭を燃やした後に出る排煙から回収する方法もあるんだけど、ガスにしてから燃やす前に回収した方が、圧倒的に効率がいいんだ。同じCO2回収量で比較すると、回収元になるガスの体積は50分の1以下」

久保田「小さな設備で、CO2がたくさん取れるってことだね。しかも、石炭ガスから回収した方が簡単で安い。地球にも懐にもエコな技術だと思わない?」

Conちゃん、CO2の知られざる価値を知る!

石炭をガスにして、CO2だけを抜き取る方法があることを知ったConちゃん。

その他のものは、なんだかうまく発電に利用されているようだけど、集めたCO2はどうするんだろう。

久保田「捨てるわけにはいかないよね。大崎クールジェンプロジェクトとは別の話になるんだけど、集めたCO2は液体にして運んで、貯留するか使うかについて考えられているところだよ」

久保田「もちろん、“使う”ためだよ。CO2って地球温暖化を進める温室効果ガスの一つっていうイメージがあるけれど、実は日本で一年間に100万トン程度使われているって知ってた?」

久保田「身近なところでは、ドライアイスや炭酸飲料を作るために使われているね」

久保田「大崎クールジェンでは、トマト栽培やコンクリート製造に利用しようと考えているよ」

久保田「光合成って知ってるよね。植物はCO2を吸収して育つから、トマトにとってCO2は栄養のようなもの。コンクリートは、CO2を固定化できる特別なものなんだよ」

久保田「ただし、日本でCO2は年間12億トンくらい出ているんだ。だから今、排出される大量のCO2を回収して利用しようという動きが進められているんだよ。『カーボンリサイクル』って言うんだけど……」

久保田「カーボンは『炭素資源』、リサイクルは『再利用』。つまり……そのままだね。2019年9月には、経済産業省から大崎上島を『カーボンリサイクルの研究の拠点として整備する』という発表もあったんだよ」

久保田「悪者のイメージが強いけれど、CO2を資源ととらえて再利用するカーボンリサイクルの考えからすれば、CO2の扱いは変わっていくかもしれないね。それに、この実証試験の中でも、石炭のガスから取り除いた硫黄分は石こうとして回収しているし、ガスにするときに出る石炭灰も溶けてスラグ(ガラス状の固化物)として排出され、セメントの原料として有効利用しているんだ。CO2も売るほど回収できるようになれば、この島が担う役割はさらに大きくなるかもしれないね」

Conちゃん、地球を想う!

CO2は生活の中で必要なこと、それに「カーボンリサイクル」という考え方があることを知ったConちゃん。

久保田「最終的に、窒素と酸素は煙突から排出しているし、汚泥は回収して廃棄しているんだけど、第3段階に進んでも、排出されるのはそれだけだね」

久保田「まだ準備期間だから、設備はないんだ。でも、2021年度を目途に実証試験をスタートさせる予定だよ。最新の燃料電池を2台設置して、水素ガスで発電するんだけど、これができれば、つくれる電気の量が単純に増えるから、全体の発電効率が上がるんだ」

久保田「ただ、この試験で使う燃料電池は、かなり値が張るものなんだよ……だから実用化するには、価格が下がるような技術的なブレイクスルーが必要になるかもしれないね」

久保田「まだ、具体的なことは決まっていないけどね。でも、完成すれば、この仕組み自体を輸出できるようになる。そうなると、世界のCO2排出量の削減に、日本は“技術で貢献した”って見方もできるんだよ」

久保田「“2035年時点での石炭火力発電によるCO2排出量の予測”というものがあるんだけど、そこで排出量の70%以上を占めているのが中国・米国・インド。この3カ国の石炭火力発電所に大崎クールジェンプロジェクトの『石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)』を入れられたら、日本が一年間に排出している2倍くらいの量、年間で約29億トンのCO2が削減できるようになるんだ」

久保田「それに、石炭をガスにする技術は、発電所以外にも合成燃料や化学原料の製造現場で幅広く利用できるし、さっき言った通り、発生するもののほとんどは別の形で利用することができる」

久保田「そうなんだけど……そうでもないんだよ。2019年12月にスペインで開催された『COP25』(国連気候変動枠組み条約 第25回締約国会議)って知ってる? 日本がいまだに石炭火力に頼っていることが非難されて……大崎クールジェンの研究も国内のいろいろな人から心配されたんだよね」

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久保田「国際エネルギー機関(IEA)から、2040年に世界の発電電力量の約30%は石炭火力が担うと予測されているから、今後も重要な役割を担うことは間違いないんだ。だけど、2040年の世界のCO2排出量を予測すると、その約30%もが石炭火力発電所からのものになる。世界の国々が一つになって、温室効果ガス削減に向けて取り組んでいる今、石炭火力を取り巻く環境はだいぶ厳しいんだよ」

久保田「でも、今の技術では再生可能エネルギーだけで日本の電力をまかなうことはまだ難しいから、安定して手に入る石炭を使いながらほとんどCO2を出さないこの技術は、これからの時代に必要とされると思っているよ」

久保田「大事なのは、みんながこれから何を求めるのかなんだ。クリーンだから再生可能エネルギーだけで発電した方がいいとなれば、家庭で負担する電気代は高くなるかもしれない。逆に、安いから従来の石炭火力発電だけにしようとなれば、環境は大変なことに、なんて極端なことも考えられるよね。大崎クールジェンで進めているプロジェクトは、環境や費用、技術などのさまざまな面を考えてできたアイデア、つまりみんなが選べる手段の一つなんだ」

瀬戸内の小さな島で行われていた壮大なプロジェクト。究極の石炭火力発電、そして排出されるCO2をうまく使うことができれば、地球温暖化対策につながるだろう。

「今は地球環境のことを第一に、必要なエネルギーをどうつくり出すかを考えなければならないとき」と、久保田さんは言っていた。

電気を使うときに、地球のことまで考えたことはない。帰りの船上で、なんだか波のしぶきが目に染みるConちゃんでした。


取材協力:大崎クールジェン

住所:広島県豊田郡大崎上島町中野6208-1
電話:0846-67-5250
https://www.osaki-coolgen.jp/

撮影協力:安芸津フェリー
http://sanyo-shosen.jp/akitsu/index.html


★さらに「石炭のゼロエミッション化」について知りたい方はこちら!

【インタビュー】「先進技術で石炭のゼロエミッション化を目指し、次世代のエネルギーに」−北村 雅良氏(後編)」(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

しまなみ海道のお隣で壮大なプロジェクトが進む! 「大崎クールジェン」に突撃取材!(前編)

2020.03.17

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第7回は、広島県・大崎上島町にある「大崎クールジェン」へ。瀬戸内に浮かぶ島の一つで行われていた地球を救う壮大なプロジェクト。その全貌をConちゃんが2回に渡ってお伝えします!

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Conちゃん、島に渡る!

今回、Conちゃんがやってきたのは広島県。

エネルギーや地球温暖化を止める方法をいろいろと勉強していたら、環境に配慮した発電方法を研究する「大崎クールジェンプロジェクト」という計画があることを耳にした。

そこで、プロジェクトを進める大崎クールジェンという会社がある、広島県の離島・大崎上島(おおさきかみじま)を目指している。

大崎上島は瀬戸内の島々を自転車で巡る観光スポットとして有名な「しまなみ海道」のちょっと西にあり、人口は約7500人とそこそこ大きい島。

ただ、本州と橋でつながっていない。なので……

船に乗ること30分。港から歩くことさらに30分。

東京から約7時間かかり、ようやく「大崎クールジェン」に着いた。

大崎クールジェンは、大崎上島にある長島という小さな島にある。離島の離島。こんな場所で進められている「環境に優しい発電方法の研究」ってどんなものなのだろう。早速聞いてみた。

久保田「ここは、『究極の石炭火力発電』を作ろうと実証試験と研究をしている会社だよ。大崎クールジェンという会社名は、環境に配慮した石炭火力発電を目指すという日本の政策『Cool Gen計画』を実現しようという思いが込められているんだ」

久保田「IGCC、IGFCとCCSを組み合わせた『革新的低炭素石炭火力発電』の実現を目指す実証試験研究プロジェクトのことなんだけど……」

久保田「IGCCは『石炭ガス化複合発電』、IGFCは『石炭ガス化燃料電池複合発電』、CCSは『CO2(二酸化炭素)の回収・貯留』のことで……」

久保田「つまり、これを組み合わせると、さっき言った『究極の石炭火力発電』ができるってこと。これが実現できると、革新的なんだ」

久保田「確かにそうだよね。でも、エネルギーの資源がほとんどない日本にとって、石炭はとても重要なものなんだよ」

久保田「ポイントは3つ。1つ目は、石油や天然ガスといった他の化石燃料に比べて、採掘できる量が豊富なこと。2つ目は、採掘できる場所が世界中にあって、比較的に政治が安定した国が多いから、輸入できなくなるという心配が少ないこと。3つ目は、量も採掘場所も多いから、安定して価格が安い!」

久保田「世界に比べると、日本はエネルギーを自給できる割合が9.6%(2017年)とかなり低い。だから、供給力の安定性が高くて、経済的にも優れている石炭火力は、“日本の電源”のバランスを取るのには不可欠なんだ」

久保田「外国の政治や経済、社会情勢に左右されず、適正な価格でエネルギーを安定して供給する『エネルギーセキュリティ』という考え方があるんだけど、こういった特徴を踏まえると、日本という国では重要な資源ということになるよね」

Conちゃん、大崎クールジェンプロジェクトを知る!

プロジェクトの全貌を知る前に、石炭の重要性を知ったConちゃん。でも、「ストップ地球温暖化」の時代に日本は逆行しているんじゃ……。

久保田「そういうわけでもないんだよ。地球温暖化を止めるために、世界規模でCO2の排出量を削減していこうとしているのは知ってるよね」

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久保田「でも実際、世界の発電電力量の約4割は石炭火力。今でも最も大きな割合を占めているんだよ。風力発電といった再生可能エネルギーの導入が進むドイツやデンマークでも、電力を安定させるために使われているし、日本でも約3割は石炭火力。つまり、今の社会を維持していくために、簡単に『ゼロ』にはできない発電方法と言えるのかな」

久保田「出ちゃうね。だから、大崎クールジェンプロジェクトを進めているんだよ。資源も豊富で安いから、本当はみんな使いたい。でも、CO2の排出量は減らさなければ地球が危ない。なら、石炭で発電しても、CO2が出ないようにすればいい。それを実現しようとしているってこと」

久保田「さっき『IGCC』『IGFC』って言ったの覚えてる? それがその技術のこと。簡単に言うと、石炭をガスにして、ガスタービンを回す。それで発電機を動かして発電する。さらに、ガスタービンを回し終えた排ガスは、まだ十分な余熱があるから、IGCCでは、この余熱を使って水を沸騰させ、蒸気タービンを回し、ダブルで発電する。加えて、IGFCでは、途中でガスから分離させる水素を使い、燃料電池で発電するっていう、トリプル発電の仕組みを作ろうとしているんだよ」

久保田「ガスと蒸気で同時にタービンを回して発電する技術は既にあるものだし、燃料電池は自動車で使われているのは知っているよね。だから、基本的には全て世の中にある技術なんだけど、こういったさまざまな技術を発電所の中に組み込んで、石炭火力発電の『究極の複合化技術』を生み出すのがゴールなんだ」

久保田「そこで重要になるのが、CO2を分離して回収する技術。石炭は、燃やすとCO2が出るよね。排出されたCO2を集めるのは大変なんだけど、燃やす前に回収できる技術があるんだ」

久保田「これが全て実現できれば、今動いている多くの石炭火力発電発所と比べて、発電効率は約7ポイント上がるし、CO2の排出量は90%以上も減らせるんだ」

Conちゃん、世界からの熱い眼差しを感じる!

大崎クールジェンは、いろいろな技術を組み合わせて、CO2をできるだけ出さずに石炭で効率的に発電する方法を考えていることがわかったConちゃん。

久保田「実は、研究自体が始まったのは1981年、だから約40年前だね。三菱日立パワーシステムズ(MHPS)が始めた研究から実験を繰り返していって、規模をどんどん大きくして、現在の大崎クールジェンで大型の実証試験ができるようになったんだ」

久保田「そうだね。この技術が実現すれば、日本だけでなく、世界中の石炭火力発電所のリプレイス、つまり入れ替えに使えるよね」

久保田「日本の石炭火力発電所は、40~50年くらい使われてきた設備がたくさんあって、そろそろ入れ替えなければならない時期。地球のことを考えたら、従来のものと同じ仕組みの設備は入れられないよね。だから、この技術は必然的に求められるようになると思っているよ」

久保田「それに、世界中で、特にアジアではこれからも石炭がたくさん使われるだろうから、CO2を出す量を小さく抑えながら、たくさんの電気をつくることができれば、求める国は多いと思うんだ。インドネシアやオーストラリアといった“産炭国”からも大崎クールジェンへ視察に来ているんだよ」

久保田「国内からもたくさん視察に来ていて、商業、産業、地方自治体、ガスの関連団体といった人たちが、一年で1000人以上この島に訪れているね。まず知ってほしかったことはこんなとこかな。さてと、じゃあそろそろ実証試験をやっている実際の設備を見に行こうか」

大崎クールジェンプロジェクトが今、どうして必要なのかを知ったConちゃん。いよいよ、その現場に向かう。でも、「CO2ってどうやって回収するんだろう?それに回収した後は……?」その先に迫る!

後編に続く


取材協力:大崎クールジェン

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【インタビュー】「安定的で安価な石炭は今も重要なエネルギー源、技術革新でよりクリーンに」−北村 雅良氏(前編)」(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

東京からでも日帰りできる!「黒部ダム」1dayトリップガイド

2020.02.26

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第6回は番外編のおでかけレポート。雄大な山々と湖面がつくる絶景が魅力の観光スポット「黒部ダム」に。一度は見てみたいなーなんて思うけれど、ちょっと遠いし…と旅行のハードルはやや高め。でも、首都圏からなら、実は“日帰り”でも行けるって知っていますか?そこで編集部員のConちゃんが、東京から黒部ダムまで弾丸旅行へ行ってきました。黒部ダムの行き方&楽しみ方のすべてをお伝えします!

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Conちゃん、黒部ダムに1日で行ってみる!

Concent編集部のConちゃん、早朝に自宅を出発してJR東京駅に来た。目指すは「黒部ダム」。

車で行く方法もあるけど、今回は新幹線とバスで移動。

乗るのは、東京-長野の北陸新幹線。往復自由席で1万5620円(乗車券+特急券)だった。もちろん、少しお金を払って指定席にしたり、もっと安くしたりする方法もある。

新幹線は「かがやき」「はくたか」「あさま」なら、どれでもJR長野駅は停車するものの、1時間22分~1時間45分と移動時間がかわることと、「かがやき」だけは全席指定なのでご注意を。(※実際の運転ダイヤや料金などについては、運行会社公式サイトなどをご確認ください)

ということで、まずはJR長野駅へ。

ダムとは、発電や貯水、水量調節をするために、河川などの水をせきとめる大きな堤防のこと。

法律では、地下にも埋まっている本体(堤体:ていたい)からてっぺんまで全てを含めた高さが15メートル以上あるものが「ダム」と呼ばれていて、それ以下のものは「堰(せき)」や「ため池」というふうに区別されている。

ぼんやりとダムに思いを馳せているとすぐに…

ここからはバス移動。

バスの停留所は、JR長野駅東口を出て目の前にある「25番」乗り場。乗るのはアルピコ交通の「長野~大町線」というバスだ。

到着したらすぐに、バス停手前にある「科の木(しなのき) 東口店」という売店のカウンターで往復乗車券(大人4600円、子ども2300円)を買おう。

片道だと大人2800円になるので、往復の方がお得。

そしてこのバスが東京~黒部ダムアクセスの行程中、最も重要だ。

まず、バスは1時間30分~2時間に1本しかなく、予約は不可。乗車は先着順。

駅改札からバス停までは急いで歩けば5分。片道乗車券はバス車内でも購入できる。でも、乗り遅れたら待ちぼうけ…なのでお目当てのバスを決めたら、遅刻だけはお気をつけて。

そして、もう一つ注意したいのが「トイレ」。JR長野駅から下車する扇沢駅までの約1時間45分、トイレ休憩タイムがない。

なので、バス停近くにある公衆トイレには行っておいたほうが安心だ。

しばらく住宅街を走るものの、この先、道中には犀川(さいがわ)や北アルプスといった信州の豊かな景色も待ち受けているため、旅気分はきっと盛り上がるはず。

今回は広めの観光バスだったので乗り心地は快適。しかも、なんと座席の横に1席ひとつずつ携帯充電用のコンセントが付いていた。(※車両によって無い場合もあります)

この後に写真をたくさん撮ることを考えれば、ここでの充電は必須!

そのうち窓の外はのどかな風景に。川に沿って走り、森の中へ。途中、右手に小田切ダムという犀川にあるダムも目に入る。

富山県にある日本一の高さを誇る「黒部ダム」。

戦後にあった深刻な電力不足から、当時秘境とも言われていた黒部峡谷に造られた関西電力の電力施設で、黒部川第四発電所と合わせて「くろよん」と呼ばれている。

ダム好き、建築好きでもないのに、Conちゃんだけでなく「名前だけはほとんどの人が知っている」理由は、おそらく小・中学校の一部の教科書に載っていたから。


写真協力:関西電力株式会社

黒部ダムの建設工事が始まったのは1956年、完成したのが1963年。延べ1000万人もの人手によって、実に7年もの年月がかかった。

総工事費用は当時の金額で513億円、今の価値にするとざっと3000億円ほど。日本一高いあのタワーの建設費が約400億円とも言われているので、そのスケールの大きさは相当なもの。

国語の教科書にはその歴史が、社会の教科書には写真などが載っていたことで、多くの人が何となく知っているのかもしれない。

田んぼや白く可憐な花を咲かせるそば畑といった田園風景、信濃大町駅を過ぎてしばらくすると、日向山高原に入る。

道すがら、「日向山高原別荘地」という看板が見えてきたら、もう間もなく。

「終点扇沢~扇沢駅です~」

ここで、もし最短時間で黒部ダムまで行きたいなら、すぐに「電気バス」に乗り換えを。

乗車券は、バスを降りてすぐに見えてくる1階の窓口で購入できる(往復で大人2610円、子ども1310円)。

このバスもWEB予約などは不可、乗車も先着順だが、電気バスは7:30(4月15日~11月4日、他は8:30~)から30分ごとに出ているうえ、乗車時間は16分ほど。焦らなくても大丈夫。

黒部ダムに着いたらアップダウンの多い徒歩散策。それを考えれば、ここでひと休みを入れるのもいいかも。

扇沢駅の2階に上がり、バス停留所へ。

ここまで来たら黒部ダムはすぐそこ。もし混雑していても、複数台のバスが同時に出発するので、落ち着いて動こう。

実はこのバス、2019年4月から新しくなっている。

「トロバス」の愛称で54年間親しまれてきたトロリーバスがその役目を終えて、新たに「電気バス」に変わった。

架線から電気を得て走っていたトロバスからバッテリーを内蔵した充電式へと進化。電気バスも走行時に二酸化炭素を排出しないエコな乗り物で、レトロでかわいかったトロバスのデザインも引き継いでいるのだとか。

Conちゃん、トンネルを抜けて「黒部ダム」に立つ!

電気バスに乗って少しだけ山道を上るとすぐに入るのが「関電トンネル」。

扇沢駅と黒部ダム駅をつなぐトンネルで、全長は5.4キロメートル、最大13度の急勾配があるうえ、気温は夏でも10℃前後。

バス車内から見ても、かなり“いい雰囲気”を醸し出している。

それもそのはず。この「関電トンネル」こそが、黒部ダムが教科書にまで載るほどに超有名な難工事となった、まさにその現場。

通称“くろよん”建設で最も大変だったとされるのが、秘境とも呼ばれる山の中に、膨大な資材や機材をどうやって運ぶのか、というところ。

結果、「トンネルを造ろう!」となったのだが、通す場所は厳しい冬を迎える富山県と長野県の間にある山岳地帯。

1956年8月に長野県大町市側からのトンネル工事開始から9カ月後、県境手前約400メートルの地点で、「破砕帯」と呼ばれる軟弱な地層に遭遇。大量の土砂と毎秒660リットル、4℃という冷たい地下水が噴出した。

それでも、くろよん建設にかける関西電力の思いは強く、一時中断したものの工事は続行。

国内外のさまざまな技術を結集して…もう、とにかくみんな頑張った!そうだ。

破砕帯に遭遇してから7カ月後、ようやく全長約80メートルもの破砕帯を突破。その後、1958年5月に現在の関電トンネル(旧、大町トンネル)が開通したのだ。

電気バスが到着する黒部ダム駅はトンネルの中。夏場でもわりとひんやりする。

駅から中に入ると、黒部ダムまでの道が上り階段と下り階段の2つに分かれている。

上りは「ダム展望台」に、下りは「ダム湖」の目の前に出られる。

外に出ればつながっているので、後で回ることはできるものの…

【上り】最初は大変、後は楽ちん。最初に展望の景色が見られるので、「これぞ黒部ダム!」とすぐに味わえる
【下り】最初は楽ちん、後は大変かも…。出口に着いたら「ほんわか」できる

と大きな違いがある。

220段の階段を上り切ったら見える光景が…

60段の階段を下り切ったら見える光景が…

好みで選ぼう。

今回は、最初に大迫力を感じるため、220段を上り切って「ダム展望台」に。

ここは、北アルプスの大パノラマが広がる標高1508メートルに位置し、黒部ダムを真下に見下ろせる絶景スポット。


写真協力:関西電力株式会社

すぐ下のフロアに休憩所や売店もあるので、疲れた足を労わるのも忘れずに。

黒部ダムは、「堰堤(えんてい)」と呼ばれるダム壁の幅が492メートル、高さは186メートルもある。展望台からは、その全貌を一望することができる。

そして、黒部ダムで一番の見どころが、100メートルを超える高さから毎秒最大15トンもの水を流す「放流」(観光放水)だ。

実物をよーく見ると分かるが、水がそのままドバーっと出ているわけではない。

実は真下にある岩盤への衝撃を小さくするために、霧状に水を出している。

そのため、天気が良ければダムの中にキレイな虹が描かれることも。もし行くなら、晴天の“黒部ダム日和”な日を狙いたい。


写真協力:関西電力株式会社

ただし、観光放水は期間限定。毎年6月26日から10月15日までなので、ご注意を。(※時期により時間は異なる。天候などにより中止する場合があります)

最上部の展望台まで上れば、あとはいろいろ見ながら下るだけ。「外階段」と呼ばれる長い階段をゆっくり降りていこう。

階段の途中には、さまざまなものが展示されている。

「ケーブルクレーンの滑車」や「コンクリートバケット」といった当時の建設工事に使われた機材を見ることができる。

外階段に沿って降りていくと到着するのが「レインボーテラス」という場所。

放流の様子をさらに近くで見られるので、迫力と水しぶきを感じたければ、必ずここへ。

近くには、建設時の地面に残ったダンプカーや足跡のモニュメントがあったり、黒部ダムの壮絶な建設工事を描いた映画『黒部の太陽』のトンネルセットなども展示されたりしている。

トンネルセットの手前では、くろよん建設の歴史などを分かりやすくパネルで解説。

立ち寄ってみるとダムの見え方も、かなり変わってくるはず。

ちなみに『黒部の太陽』は、俳優の三船敏郎と石原裕次郎が主演した昭和の超大作映画。

当時の映画製作費が平均3000~4000万円だったのに対し、『黒部の太陽』の総製作費は約4億円。

黒部ダムは、工事も映画もスケールが大きすぎる!

Conちゃん、日本最大のアーチ式ダムを見る、歩く、食べる

放流する黒部ダムの反対側を見ると、広大なダム湖が広がっている。

黒部ダムの総貯水量は約2億トン(=立法メートル)。一般的にお風呂の浴槽にためるお湯は200リットル(0.2トン)ほどなので、浴槽10億杯分の水がためられることになる。

また、一般的にダムは、「アーチ式」や「重力式」といった“型式”と呼ばれる種類で分けられている。その中でも黒部ダムは、「カーブを描くアーチ式をベースに、両サイドを重力式で支える、コンクリート造りのダム」という少し特殊なものだ。

正式には、「アーチ式ドーム越流型コンクリート造り(ウィングダム直線重力式非越流型)」という名前の型式。きっと覚えなくてもいい。

ダムがすごすぎて頭に浮かんでこないかもしれないが、黒部ダムは「発電専用」のダムだ。

黒部ダムの水を利用して発電する「黒部川第四発電所」は、ここからさらに下流にある。

ただ、絶対にその姿を見ることはできない。それは…


写真協力:関西電力株式会社

地下200メートルの場所にあるから。

1961年に1・2号発電機が運転を開始した黒部川第四発電所。「完全地下式」という世界的に見てもまれな発電所と言われている。

発電所があるのは、ダム湖左側にある取水口から、距離約10キロメートル、有効落差545.5メートルの先。水力発電に使われた水は、その後、再び黒部川に流れていくそう。

最大33万5000キロワット(kW)の出力を持つ黒部川第四発電所は、運転開始から半世紀たった今でも、関西圏の電力を支えるために、現役で働いているのだ。

急いでいろいろ見て回ると、そろそろお腹がすいてくる。

黒部ダムを眺めながらひと休みできる「黒部ダムレストハウス」に。

2階のレストランでは「黒部ダムカレー」(1100円)や「アーチダムカレー」(900円)が、1階の売店では「幻の埋蔵金ソフトクリーム」(1000円)が食べられる。

>>「黒部ダムカレーの誕生秘話」を詳しく知りたいならこちら

売店には、他にもフランクフルトやタイ焼き、ビールまで、さまざまな「黒部ダムグルメ」が満載。

ただし、売店は7:30~17:00(11月5日からは8:30~16:30)までオープンしているものの、レストランは9:00~15:00(11月5日からは10:00~14:30)と早めに終わってしまう!レストランがクローズする前にダムカレーは食べておこう。

また、3階からはダム湖と堰堤が見えるテラスに出ることもできる。

来るときに乗った電気バスのモニターに映っていた黒いネコ、黒部ダムのマスコット「くろにょん」は、だいたい堰堤の上を歩いているらしい。

雨が降ると扇沢駅にも出没するそうだが、なぜかこの日は会えなかった。

黒部ダムレストハウスの1階と2階には全700アイテムほどがそろうお土産ショップがあり、黒部ダム色100%のグッズが多いので、ここまで来た自分へのご褒美をぜひゲットしたい。

そうこうして黒部ダムレストハウスを楽しんでしまうと、もう夕方に。

黒部ダム駅発の最終バスは17:35(4月15日~11月4日、他期間は16:35が最終)。

ダム湖には、日本一高所にある遊覧船や湖畔の周りを散策できる遊歩道などもある。全部回るとなると、そこそこの時間がかかるので、“終バス”に乗り遅れない時間配分を。

17:51に扇沢駅に到着したら、もう後はずんずん戻るだけ。

JR長野駅行きのバスは18:05発が最終便(~11月4日、以降は16:40発が最終)。これを逃したら、もう周辺で泊まるしかない…。

そして、JR長野駅で北陸新幹線に乗れば…

22:12に新幹線、到着。見事、その日のうちに、JR東京駅まで帰ってくることができる。

実際に丸一日かかるものの、しっかり観光の時間も取れるし、地元グルメも楽しめる。泊まりは難しいな~という理由で「黒部ダム」を避けていたなら、今度の休みに日帰りで行ってみるものいいのでは。


【黒部ダム1dayトリップDATA】
◆経路:JR東京駅⇔(北陸新幹線)⇔JR長野駅⇔(アルピコ交通バス)⇔扇沢駅⇔(電気バス)⇔黒部ダム駅⇔(徒歩)⇔黒部ダム
◆所要時間:14時間57分(+JR東京駅~Conちゃんの家)(行き5時間57分、滞在4時間13分、帰り4時間47分)
◆交通費:往復2万2830円(新幹線1万5620円、バス合計7210円)

◆アルピコ交通バス(長野駅⇔扇沢駅)
https://www.alpico.co.jp/traffic/express/nagano_omachi/

◆電気バス(扇沢駅⇔黒部ダム駅)
https://www.kurobe-dam.com/access/

※価格は全て消費税込(10%)
※出発・到着時刻、乗車時間などは2019年8月末時点の情報で記載しています
※購入方法等で料金は異なる場合があります

日本の絆を電気でつなぐ「特殊な変電所」に突撃取材!

2020.01.29

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第5回は、静岡県静岡市にある東清水変電所へ。発電所は知っているけど、「変電所」って何をやっているところ? 行ってみてわかったのは、日本の「絆」をつなぐ場所だったということ。陰ながら頑張る変電所の真の姿を、Conちゃんがお伝えします!

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Conちゃん、電線をたどる!

きれいな青空が広がる冬晴れのある日、編集部員Conちゃんがいるのは、静岡県のほぼ真ん中にある清水港。

前日、仕事の出張で泊まったホテルでパソコンをつないでいたコンセント。ふと思った。

「この先って、どうなってるんだろう?」

疑問を解決するために、今日はホテルから電線をたどってみることにしたのだった。

これまで、そこそこ電気について勉強してきたと自負するConちゃん。

ホテルにつながる電線(引き込み線)から、電柱に。

そこからつながる電線、電柱、電線、電柱…をたどっていけば、きっと発電所までたどり着くと思っていた。

だんだんと電柱は鉄塔に変わり、町を抜けて山へ。

たどり着いたのは、巨大な鉄塔。その下には大きな建物が。

とりあえずConちゃんは、そこに入ってみた。

「君、何してるの?」

怒られた…。

Conちゃんに声をかけた中部電力の市川さんが言うには、ここは静岡県静岡市清水区にある「東清水変電所」という場所。

その名の通り「変電所」だ。

2013年11月から全設備が本格運用を開始したという、比較的新しい施設で、その敷地総面積は17.1ヘクタール。東京ドームおよそ4個分という広さ。

市川「変電所は、発電所から送られてくる電気の『電圧』を変えている場所だよ。発電所から届く電気は超高電圧。そのまま町に送っても使えないから、いろいろな変電所で電圧を少しずつ下げて、家庭やビル、工場など、それぞれが使いやすい電気にして届けている中継地点だね」

市川「東清水変電所は、中部電力エリアの火力や水力といった発電所から送られてくる電気を、静岡市東部にある町や他の変電所に届けているんだよ。それでこれが…」

市川「27万5000ボルトという超高電圧の電気を7万7000ボルトに下げているんだ。ここで変圧された電気は、地下にあるケーブルを通って、あっちにある送電線に送られていくんだよ」

市川「地面に備え付けられているのは、『ガス絶縁開閉装置』と呼ばれる装置。簡単に言うと、スイッチとブレーカーみたいなものかな」

市川「設備の保守点検をするときには電気の流れを止めることができるし、送電線につながる設備に故障があったときには故障したところに流れてしまう大きな電流を瞬時に止められるんだ。だから変電所は、電圧を変えて電気を送りながら、発電所から町までの間の電気の流れを安定させる役割も担っているんだね」

市川「もちろん、防水やホコリ防止の対策は、機械自体に設計されているから大丈夫。とはいえ、本来はホコリや汚れに弱い機械なんだ。それでも外に置いてあるのは、発生する熱を冷やす方が重要だから。無骨に見えるけど、けっこう繊細なものなんだよね」

市川「ちなみに、どの機械も茶色かったと思うけど、それにも意味があるんだよ」

市川「ここから北東にそびえる富士山のことを考えてるんだ。清水港の西側にある日本平から富士山を眺めると、東清水変電所が目に入ってしまう。だから、景観を損なわないように、施設の大型機器は、すべて山の地肌と同じ色にして作ったんだよ」

市川「それに、当時、ここは山を削って建設したから、地滑り対策もしなきゃいけなかったんだ。自然への配慮も考えなきゃということで、山の斜面には、『フリーフレーム工法』っていうものを施しているんだよ」

市川「コンクリートで格子状の枠を造って、山の斜面を覆っているんだ。枠の隙間は山の地肌が出ることになるよね。そうすれば、山の環境もある程度維持できる。建設当時には、土が出ている部分に植樹もしたけど、今では自然に植物が生えるようになったんだよ」

Conちゃん、東清水変電所が持つ別の能力を知る!

変電所がかなり大事な役割を担っていたことを知ったConちゃん。

でも、発電所から送られてきた電気が、変圧器と地下ケーブルを通って、そのまま町まで送られているなら、他にもたくさんある機械や施設はいったい何だろう?

市川「東清水変電所は、実は『変電所』だけじゃなくて『周波数変換所』としての役割もあるんだよ。だから、他のものは、周波数を変換するための設備だね」

市川「家電製品のラベルとかで60ヘルツ(Hz)とか50ヘルツとか目にしたことないかな? あれが電気の周波数。1秒間にプラスとマイナスを行き来する波の周期が、60ヘルツなら60回、50ヘルツなら50回あるという意味なんだ」

市川「まあ簡単に言えば日本の電気は2種類あるっていうこと。静岡県富士川と新潟県糸魚川あたりを境にして、西日本では60ヘルツ、東日本では50ヘルツの電気が使われているんだよ」

市川「これは歴史の話になるんだけど、さかのぼること明治時代。電力事業が初期のころに、西日本の電力会社がアメリカから、東日本の電力会社がヨーロッパから、それぞれ発電機を輸入したんだ。アメリカ製は60ヘルツ、ヨーロッパ製は50ヘルツだった。……で、今に至っているんだよ」

市川「もちろん、これまで統一しようとした動きもあったんだけど、そろえるには莫大なお金と時間が必要で、今に至っているんだよ。ちなみに、周波数の違いは工場の機械に影響がある、って聞いたことないかな? 実際には、モーターの回転で動くあらゆるものに影響があるんだ。身近なところで言えば、ドライヤーや洗濯機」

市川「周波数の違いでモーターの回転速度が変わるから、50ヘルツ用の機械を60ヘルツの電気で動かすと、何かしらの不具合が起きるとされているんだよ。昔は、『東日本で買った家電製品は、西日本では使えない』みたいなことが言われていたけれど、これがその原因。でも、最近あまり意識しなくなったのは、どちらの周波数でもできる限り影響が出ないような製品が多くなっているからって言われているよ」

市川「西と東で周波数が違うって、不便だよね。でも、そろえるのも大変。だから、異なる周波数の電気をやり取りするために、周波数変換設備で50ヘルツを60ヘルツに、60ヘルツを50ヘルツに変えるっていうこと。さっき周波数は“波”って言ったけど、『交流』と『直流』ってわかるかな?」

市川「交流と直流は、電気の流れ方の種類。流れる向きや大きさが周期的に変化するのが交流で、変わらずに一定なのが直流なんだ。例えば、ピアノでドの音をミにしたいとき、どうする?」

市川「そうだよね。似たようなことで、西日本で作られた60ヘルツの波を一度まっ平にして、東日本で使える50ヘルツの波を新しく起こしているんだよ。そうすれば、西と東で電気を送り合うことができるようになるよね」

市川「西から東へ、つまり60ヘルツから50ヘルツで言うと……

……というふうに電気を変換していくんだけど……?」

市川「……直流リアクトルという装置を挟んで、それぞれ60、50ヘルツ用の同じ装置が設置されているから、どちらからでも変換できるんだ。まあ、とにかく周波数変換設備を使うと、西と東で異なる周波数の電気を、双方向で送れるようになるってことだね」

Conちゃん、日本の電気をつなぐ心臓部に入る!

西と東で違う電気を使っていたこと、さらにそれを変換してどちらからも送り合えることにビックリしたConちゃん。

さらに、電気の周波数を変えるための心臓部となる建物の中に入れてもらえることに。

その建物は、60、50ヘルツの変換用変圧器に挟まれたちょうど真ん中。東清水変電所の上空から見ると……

中に入ると、体育館ほどのスペースに、左右対称に並ぶ機械の一群が。

市川「この外側にさっき見た茶色の変換用変圧器があって、突起の部分から電気を送っているんだよ」

市川「これが、交流と直流を相互に変換できる『サイリスタバルブ』。右が60ヘルツ用で左が50ヘルツ用だね。黄色い枠の一つ一つがモジュールと呼ばれる装置になっていて、4つのモジュールで1層、それが4層積み重なっているんだよ」

市川「そのモジュールの中には、『サイリスタ』っていう7枚の半導体素子が入っているんだけど、簡単に言えば、素子の中心に光を当てることでサイリスタがオンになり、電気を通すことができる仕組みを利用して……まあ、周波数が変換できるんだ」

市川「この部屋は温度や湿度などの管理が徹底されたクリーンルーム。常に一定だから、熱くもないし、寒くもない。サイリスタバルブや、外にあった変換用変圧器などを全てまとめて周波数変換設備と呼んでいるんだけど、どれか一つでも止まると周波数変換はできなくなってしまう。だから、どの設備も十二分に管理しているんだよね」

サイリスタバルブの建物を出て、今度は別の建物へ。

長い廊下に左右対称で並んだドアの奥には、それぞれ大型の機械が一定の音を鳴らして並んでいた。

市川「これは『交流フィルタ』。高調波って呼ばれる電気機器のトラブルの元となる周波数のひずみを吸収してくれる装置で、廊下の両側に60、50ヘルツ用が数台ずつ設置されているよ」

市川「よく気付いたね! このブーンって音が、まさに周波数の違い。50ヘルツに比べると、60ヘルツの方がちょっと高いんだ」

Conちゃん、周波数変換設備が日本をつないでいることに涙する!

交流を直流に、さらに直流を交流に変える周波数変換設備が、とにかくすごい機能を持っていることをなんとなく理解したConちゃん。

市川「長野の新信濃変電所、静岡の佐久間周波数変換所と東清水変電所で、合わせて3カ所だけだよ」

市川「新信濃変換所の容量は60万キロワット(kW)、佐久間は30万キロワット、東清水も30万キロワット。だから今は、日本全国で120万キロワット分の電気がやり取りできるということだね」

市川「2007年の中越沖地震のときや、2011年の東日本大震災のときも西日本から東日本に出来る限り電気が送られたんだけど、実は、今の方が大量の電気が送り合われているんだ」

市川「もしも、西日本か東日本で大災害が発生したとしたら、Conちゃんはどうしてほしい?」

市川「それなら、より大量に送り合えるように、送るためのパイプはもっと太い方がいいよね。送れる量が増えれば、東日本大震災のときのような『計画停電』はしなくてよくなるかもしれないし、どんなときでも普段と同じくらい電気が使えるようになるかもしれない」

市川「だから今、西と東の電力融通を強くするために、周波数変換設備の増強計画が進められているんだよ」

市川「新信濃は岐阜県に建設中の飛騨変換所と連系して90万増の150万キロワットに、佐久間は30万増の60万キロワットに、ここ東清水は30万を2機増やして90万キロワットにそれぞれ増強して、全体で2027年度末目途で今の2.5倍の容量、つまり300万キロワットに増やす計画なんだ」

市川「さっきも言ったけど、大規模な災害があった直後は、電気が届かなくなるリスクがあるよね。そうした事態に対応できるためにも、電気を安定して送り届けるという観点から、増強計画が進められているんだ。それに、他にもメリットはあるんだよ」

市川「例えば、周波数が違う東西の電気をもっと取り引きできるようになるなど、経済的な効果も期待できるんだ」

市川「東清水変電所に新しく増設する2台は、2020年4月から工事を始めて、2024年ごろに周波数変換設備を設置、2027年度末目途で全ての運転を開始する予定なんだ。もうそんなに遠くない未来の話だね」

変電所や周波数変換設備は、電気自体を作れるわけではない。けれど、使いやすいように、いつもの生活を変えないようにと、電気を「作る場所」と「使う場所」をつないでいた。

同時に、明治時代に袂を分けた西と東をつなげるなんて……東清水変電所は日本を支える「名バイプレーヤーだなぁ」と感じたConちゃんでした。


取材協力:東清水変電所

住所:静岡県静岡市清水区広瀬
電話:054-366-7261
http://www.chuden.co.jp/


★さらに日本の電力インフラについて知りたい方はこちら!

より強い電力インフラ・システムをつくるために~災害を教訓に進化する電力供給の姿」(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

「放射線」と「放射能」の違い、説明できる? 原子力の科学館に突撃取材!

2019.12.11

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第4回は、茨城県東海村にある原子力科学館へ。「原子力」と聞いて思い浮かぶのは「放射線」。でも、そもそも放射線って何なのかよく分からない…その正体をConちゃんが調べてきました!

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Conちゃん、「放射線」が日常にあふれていた事実に驚く!

編集部員Conちゃんが降り立ったのは、JR常磐線の東海駅。

茨城県北部にある東海村唯一の駅で、まさに村の玄関口。

東海村は、原子力発電所や量子ビームの研究センター、原子力施設の展示館である東海テラパークといった原子力関係の施設がたくさんある場所だ。

その中で、今回取材に訪れたのが、ここ。

原子力や放射線の基礎を伝えるべく、1966(昭和41)年に原子力展示館として東海村に開館。窓に描かれた「Ibaraki Museum of Nuclear Science」という文字が映えるアカデミックな建物だ。

ということで、Conちゃんはまずは近くの入口から建物の中へ。

パネルには、放射線を利用したものが置かれているとの解説が。

ケースの中を見ると、身の回りにある、ありとあらゆるものがあった。

宝石やガラスは、放射線を当てることで色が付けられるそう。しかも表面だけでなく、内部までというから不思議なものだ。

ちなみに、トパーズという宝石は、その多くが放射線加工で美しく彩られているらしい。

さらに…

コンビニで売られているマスクや絆創膏はもちろん、病院で使われる医療器具のほとんどは、出荷前に放射線が照射されている。

なぜかといえば、「パッケージのままで滅菌できる」から。

薬品などを使って消毒することもできるものの、パッケージのままでは消毒できないし、中身を空けてしまえば意味がない。

その点で放射線は、何ならダンボールに詰め込んだままでも、外側から照射することで中身を滅菌できるのだそう。

医療器具の他に、マーガリンなど食品の容器にも同じことが行われている。

また、ゴムやプラスチックの強度を高めることもできるので、パソコンやスマホなどのケーブル、自動車のタイヤ、テニスラケットのガットや三味線の弦まで。

身の回りの様々な物に、何かしらで利用されている。

早速、放射線が日常にあふれていたことに驚いたConちゃん。

一通り見終わってしまい、「この科学館、何だか狭いな~」と思っていたところ、どうやら別館に入っていた模様。

本館に入ると、放射線の歴史に欠かせない科学者の一人、アインシュタインが出迎えてくれた。

Conちゃん、「放射線」の正体を知る!

ようやく原子力科学館・本館の中に入ったConちゃん。

2フロアに分かれた館内を歩き回ってみると…

原子力や放射線の基礎を遊びながら理解できるような展示物はたくさんあるものの、やはり難解なものもそこそこある。

しょぼくれていたConちゃんに…

助け舟を出してくれたのが、原子力科学館の古川伸一さん。やはり難しい内容だけに、普段から科学館の人たちは訪れる人に声を掛けているそうだ。

古川「何か分からないことがあったら、質問してね」

古川「一般の方々が言っている放射線というのは、『電離放射線』のこと。電離放射線というのは、物質を電離させられる能力を持っていて、例えば、電磁波のガンマ線、X線、粒子線の中性子線、アルファ線、ベータ線。同じように思える紫外線や赤外線は放射線の仲間ではあるけれど、電離させる能力を持っていないから、別の種類なんだ…」

古川「……。すごく簡単に言うと、例えば焚火をしたときに感じる『熱や光』のようなものかな」

古川「熱や光を出す焚火が『放射性物質』、焚火から出る熱や光が『放射線』、熱や光を出す能力が『放射能』。火に当たると、温まったり火傷したりするでしょう。放射線にさらされると被ばくするというのも、似たようなことだね」

古川「ちなみに、ベクレル(Bq)とシーベルト(Sv)って単位を聞いたことがないかな? 両方、放射線に関係する単位なんだけど、意味は全く違うんだ。ベクレルは、ある物の放射能の強さを表した単位。シーベルトは、放射線がどれくらい人体に影響するかを表した単位。覚えておいた方がいいのはシーベルトで…」

古川「……。とても簡単に言うと、例えばボクシングで、ある選手が打ったパンチの回数がベクレル、相手選手が受けたダメージがシーベルト。パンチを打つ回数は選手によって違うし、頭や脇、ガード越しみたいにパンチを受ける場所によって、同じ力のパンチでもダメージは変わってくるよね。もし審判だったら何を判定基準にする?」

古川「正解。パンチを出した回数じゃなくて、与えたダメージで評価するよね。同じように放射線による被ばくも、ベクレルよりシーベルトの方が重要とされているんだ」

古川「放射線にさらされた状態のことだよ。人の細胞のDNAを傷つける可能性があるんだ。これが放射線による健康影響と言われているもの。これは、さっき言ったアルファ線とかベータ線といったいろいろな放射線によって、その影響度合は変わるんだけど、例えば、アルファ線なら皮膚の表面で止まるし、ベータ線なら薄い金属の板で遮ることができる。でも、中には通り抜ける力が強いものもあって、厚い鉄板じゃないと防げないものもあるんだ。一番身近なのは、自然から出るガンマ線かな」

古川「放射線は目に見えないから普段は気にならないけれど、空気中にもあるし、大地や宇宙からも出てる。だから、いつどこにいたって、目の前にあるんだよ。この『自然放射線』と呼ばれるもの、日本なら平均で年間2.1ミリシーベルト(シーベルトの1000分の1)の被ばくをしているんだ。世界の平均は2.4ミリシーベルトと少し高い。これは、木造建築が多い日本と違って、外国には石壁が多いから。例えば、花崗岩(かこうがん)はウランを含んでいるため、花崗岩が多いトンネルの中を電車で通ると、他の場所より放射線量は高くなる。地質によって変わるんだよ」

古川「だから、墓地や神社、なかなかレアだけど石畳なんかがある大きな家は少し線量が高いかもしれないね。それと、もう一つ日本には大きな特徴があって、自然放射線の被ばく線量は空気や大地からがおよそ半分で、残り半分は食品からのものなんだ」

Conちゃん、食べ物に放射性物質が含まれていることに驚く!

ちょっと難しい話を聞き過ぎて疲れたConちゃんは、ランチ休憩。

「もしかしてジャガイモにも放射性物質が入ってるの?」と思ったConちゃん。聞いてみた。

古川「もちろん。ただし、食べ物には食品中の放射性セシウム濃度の基準値というものが設けられていて、この数値を上回ったものは出荷できないルールになっているんだ。だから、スーパーなどで販売されているものは、きちんと検査された基準値以下のものなんだよ」

古川「日本では、食品からの被ばく線量が、年間1ミリシーベルトを超えないように設定されているんだ。『1キログラム当たり、一般食品は100ベクレル、牛乳は50ベクレル』のようにそれぞれ決められていて、これは乳幼児をはじめ全ての世代に配慮した値。しかも、世界と比較すると、日本は前提条件が厳しい値になっているんだよ」


◆食品基準値の考え方
【日本】被ばく線量が年間1ミリシーベルト以内になるように設定。一般食品は50%、飲料水と牛乳、乳児用食品は100%が汚染されていると仮定して算出。
【米国】被ばく線量が年間5ミリシーベルト以内になるように設定。食品中の30%が汚染されていると仮定して算出。
【EU】被ばく線量が年間1ミリシーベルト以内になるように設定。食品中の10%が汚染されていると仮定して算出。
※基準値は、食品や飲料水から受ける線量を一定レベル以下にするためのものであり、安全と危険の境目ではありません。また、各国で食品の摂取量や放射性物質を含む食品の割合の仮定値等の影響を考慮してあり、数値だけを比べることはできません。
出典)一般財団法人 日本原子力文化財団「原子力総合パンフレット Web版」より引用 ※厚生労働省「食品中の放射性物質の新たな基準値について」などより作成

古川「ちなみに、何でセシウムという元素を基準にしているかと言うと、他の放射性物質に比べて最も大きな数値を出す物質だから。セシウムの値を測れば、全体が分かると言ってもいいんだ。安全を確保するための検査だから、引っ掛かるものでいち早く探すために基準にしているんだよ」

古川「野生のキノコは気を付けた方がいいと言われているけれど、食品によって含まれる量は違うものの、その差は微々たるもの。そういった違いを気にするよりも、野菜をたくさん食べて、単純に健康を目指す方が絶対にいい。放性物質を含まない食品はないから、それを意識したら、何も食べられなくなっちゃうでしょ」

Conちゃん、科学者たちが本気で頑張っていたことに感謝する!

普段の生活の中で、思っていた以上に放射線が身近だったことを知ったConちゃん。

館内を古川さんと巡っていると、ある展示物に心が奪われた。

そう、放射線の中の一つ、X線を利用した空港の保安検査場にある手荷物検査の機械だ。

古川「これに入る人はまずいないけれど、X線など放射線を利用した医療用検査機器はたくさんあるよね。放射線を受ける量は、胸部のX線検診1回で0.06ミリシーベルトとされているよ。X線で病気を発見できることもあるんだ」

古川「実は、ある装置を使えば、通り道は見ることができるんだよ。それがこの『霧箱』」

古川「よく見てごらん。中に白い線が見えるでしょう。これが放射線の……」

古川「正しくは、“放射線が通った跡”。これは『飛跡』と呼ばれていて、放射線自体ではなく、放射線が通った部分が飛行機雲と同じ原理で白いスジ状になって見えているんだ。つまり、この場所の空気中にも放射線が飛んでいることが分かるよね」

古川「最初に寄っていた別館で見たと思うけど、医療では診断や治療に、工業では滅菌や装飾、強化、農業なら品種改良や保存、害虫駆除など、現代の生活を支えている身の回りの様々なものに放射線は使われているんだよ」

古川「それに、人類が生まれる前から放射線は地球上にあって、人間はその前提で生きてきたんだ。何かを検査しても、基本的に自然の中に放射線はあるから、その数値がゼロを示すことはあり得ない。だから、ある場所や特定の食品に対して、『放射線が出てるんでしょ?』と問われれば、『出てます』という答えになる。そう言うとそれに固執する人も少なくないけれど、“あり、なし”だけでなく、その数値も見てほしいんだ」

古川「なので、あらゆる場所に放射線があることをまず理解して、気にするべきところは気にして、まるっきり関係のないところは気にしない。気にしすぎて、別の意味で体を壊してしまっては困るでしょ。目に見えないものは、やっぱり理解するのがなかなか難しいよね」

原子力科学館を後にして、持参した最後のジャガイモを一口。「日本で唯一、食品に直接放射線を当てているのがジャガイモ。芽が出るのを防ぐために利用されている」と古川さんが教えてくれたことを思い出した。

大好物がかなり深い関係にあったことに衝撃を受けつつも、放射線のことをもっと知りたくなったConちゃんでした。


取材協力:原子力科学館

住所:茨城県那珂郡東海村村松225-2
電話:029-282-3111
http://www.ibagen.or.jp/index.php


★さらに日本の食品基準値について知りたい方はこちら!

風評に立ち向かう」(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)

地球温暖化ってどうやったら止められる?エネルギーの専門家に突撃インタビュー!

2019.07.17

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第3回は、エネルギーを研究する専門家に、地球が抱える大問題の根本的な原因と、それを止める方法についてインタビュー。「省エネして二酸化炭素(CO2)を減らせばいいんでしょ?」なんて思ってたけど、そんな簡単なことではなかった!?

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Conちゃん、地球を救う方法を知る

編集部員Conちゃんがいるのは、とあるビルの中。前回、気象予報士の手塚悠介さんに、異常気象の怖さ、そして異常を引き起こす原因の一つが地球規模でCO2が大量に排出されていることによる温暖化の影響だということを聞いて…

と、日本エネルギー経済研究所という研究機関を訪れたのだった。しばらく部屋で待っていると、来てくれたのが…

戦略研究ユニット国際情勢分析第1グループ主任研究員…何とも頼もしい。早速、質問してみた。

下郡「そうですね。CO2は、メタンガスなどと共に温室効果ガスと呼ばれる気体の一つです。温室効果ガスは熱を吸収しやすい性質があって、中でもCO2が最も地球温暖化に影響を及ぼすものだと言われています」

下郡「とはいえ温室効果ガスは、工場で物を作ったり、電気を使ったり、車に乗ったり、人間の活動によって増加したと言われています。なので、単純に減らすといっても、減らすことはかなり難しいんです。人間が増やしてしまったものを、自ら減らす。それが地球温暖化を直接的に止める方法ですね」

Conちゃん、世界は一つだったことを実感する

自分たちで増やしたものを、自分たちで減らす、とは「人間もなかなか素晴らしい」と感じたConちゃん。だけど、生活したら増えると言われても、美味しいものを食べたいし、スマホも使いたい…。どうしたらいいの?

下郡「ニュースなどで、『COP(コップ)』って聞いたことがないですか? 実は既にCO2の問題は世界が一つになって立ち向かっているんですよ。COPというのは、『Conference of Parties(条約における締約国会議)』の略称で、1995年にドイツで初めて開催されて以降、毎年各国で開かれる会議なんです」

下郡「地球の気候変動問題をどうすべきか議論しているんですよ。まさに、異常気象や地球温暖化について、世界の国々が集まって話し合っているんです。最近で一番有名なのが、2015年12月にパリで開かれた『COP21』と呼ばれる21回目の会議。2020年以降にどうやって温室効果ガスを減らしていくのかという世界全体のルールが決まりました。これは『パリ協定』と呼ばれていて、途上国や先進国を区別せず、全世界の地域と国が対象になっています。2019年1月時点では、世界195カ国が協定に参加しているんですよ」

下郡「また、各国がCO2削減量の目標やそれを達成するための取り組みを自己申告する形を取っているのも新しい試みなんです。それに、ただ申告するだけではなく、5年ごとに達成状況や、次の5年間に何をするのかといった各国の進捗を定期的に確認できるようにもなっていて、一般にはあまり知られていませんが、国際的にはこれまでにない革新的な仕組みなんです」

下郡「各国が自分たちで考えていて、例えば“2050年”までに“2000年”と比べてどれだけ削減するか、何をするか、というのを打ち出しているんです。日本の場合は、2030年度までに2013年度と比較して温室効果ガスを26%減らしますという目標を掲げています。また、それを実現するために、国内の発電量のエネルギー源別内訳を表す電源構成のバランスを変えたり、省エネ対策を進めたりといったさまざまな施策を挙げているんです」

下郡「対比する年は、好きに選んでいいんです。日本が2013年度を基準値としているのは、2011年の東日本大震災が関係していると思います」

下郡「震災以降、日本は原子力発電所を止めて、不足する電気を発電するために火力発電所をたくさん動かしています。つまり、その前後でCO2の排出状況が全く変わってしまって、CO2の排出量が増えたんです。なので、震災以降の新しい状況を基準にして目標を出したんですよ」

下郡「あまり知られていませんが、そもそも原子力発電は、発電するときにCO2が出ないんです。一方で代わりに運転させた火力発電は、天然ガスや石炭など燃料の種類によって量は違いますが、いずれもCO2を排出します。実際、2013年度の日本のCO2総排出量は14億1000万トン。過去最大の数値になりました」

下郡「2016年度は13億800万トンなので、3年かけて少しは減ってきています。国内で節電など省エネにものすごく力を入れているのも一因ですが、実はこれだけではありません。減らせているのは、太陽光発電など再生可能エネルギー(以下、再エネ)の普及と、少しずつ原子力発電所が再稼働していることが大きく影響しています」

Conちゃん、日本と世界の違いを考える

東日本大震災がこんなところにも影響を及ぼしていたことに驚くConちゃん。日本はいろいろと頑張っている感じだけど、そういえば…他の国は何やってるんだろう?

下郡「イギリスは、2050年までに1990年比で温室効果ガスを80%減らすという法律を作っていて、さらに2019年6月末には目標を100%に引き上げました。とても厳しい目標を掲げて、さまざまな取り組みを行なっています」

下郡「ドイツは、風力をメインとした再エネが広く普及している国ですが、実はそれだけで電力を維持できているわけではないんです。もともとあった原子力を一気に減らしたので、代わりに石炭火力を使うなどして、電力の供給バランスを保っています。日本と同じように原子力で減らせていたCO2が、石炭に変わったので増えているんです。CO2の観点からすると、逆行しているとも言えますね」

下郡「そのためドイツは『脱石炭』を掲げています。とはいっても、もともと石炭がたくさん採れる国なので、自国の資源があるなら使って当然ですし、採掘などで雇用も生まれているので、すぐにやめるというわけにもいかないですよね。地元の経済という違う側面の問題も抱えているんです」

下郡「近年、勢いに乗っている中国はというと、これまで安い石炭で電力を作り続け、産業を大きく発展させてきました。現在も大半のエネルギー源は石炭なのですが、大気汚染問題などから石炭利用を減らす方向に進んでいます。それに、人口を多く抱える新たな経済大国として、CO2排出量の削減で国際的に貢献しようとしています」

下郡「アメリカにはCO2排出量の削減目標はありますが、実はそれをどうやって達成するかという国全体の取り決めはないんです。州での取り決めが前提なので、再エネ100%を目標に掲げる州もあれば、石炭を利用する州もあって、バラバラなんですよ」

下郡「その通り。COPの交渉はなかなかまとまらないので、パリ協定ができたのは本当に素晴らしいことなんです。2018年11月にポーランドで開かれた『COP24』で、パリ協定の大枠のルールが決まったのですが、合意できなかったものもたくさんあります。このルールは認めないけど別のルールはOK、テーマごとに反対する国の組み合わせも変わるなんてこともざらです。ちなみに、代表的な国が自ら掲げた目標の一例がこれです」

出典)温室効果ガスインベントリオフィス 全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト「3-6 各国の温室効果ガス削減目標」より作成

下郡「そうでもないんですよ。2013年比較でそろえると、日本は26%減、米国は18~21%減、EUは全体で24%減になるので、決してひけをとる数値ではないんです」

下郡「そう思いますよね。2030年度は26%減ですが、2050年度に至っては80%減、今世紀後半のできるだけ早い段階でゼロに近づけていくとしています。2050年度の目標はかなり厳しい数値ですが、少なくとも2030年度は国が掲げている『エネルギー基本計画』という政策を基に算出した数値なんですよ」

下郡「その政策が実現できれば達成できる数値ではあるんですが…」

下郡「先ほど言った電源構成がカギになるんです。エネルギー基本計画の中では、2030年度までに日本の電源のバランスを、再エネが22~24%、原子力が22~20%、LNG(液化天然ガス)火力が37%にすることを目標にしています。そして、CO2排出量の26%減は、その状態になっていることを大前提に出した数値なんです。なので、2030年度までにそれが達成できるか否かというのが、逆に問題になってくるんです」

Conちゃん、エネルギーミックスを知る

下郡「原子力発電の割合を考えると、今そのように言える人は、そう多くないかもしれません。ですが、地球温暖化という観点から見れば、これまでどの発電方法がCO2排出量の削減に貢献してきたのかということを理解する必要もあるんですよね。なので、電源の組み合わせ、いわゆる『エネルギーミックス』という考えが非常に大事になってくるんです」

下郡「エネルギーのことを考えるとき、日本には『S+3E』という指標があります。『安全性(Safety)』を大前提に、『安定供給(Energy Security)』『経済性(Economy)』『環境保全(Environmental conservation)』を確保する。S+3Eは、それぞれの英字の頭文字をとった言葉です。各国が抱えている問題にもリンクしますね」

下郡「発電方法にはそれぞれメリットとデメリットがあるので、1つだけで『S+3E』のすべてを満たすことは絶対にできません。そもそも1つの電源に絞る必要はないんです。再エネ、原子力、石炭、天然ガスのどれもが完璧ではないと理解して、バランスよくいろいろな電源を持っておくのが最適なんです。それがひいてはCO2排出量の削減につながって、地球温暖化対策にもなるんです」

下郡「でも、国が示すエネルギーミックスが実現するかといえば、今の状況では現実的にかなり厳しいと思います。このままいけば、2030年度に他の国々が結果を出す中で日本は目標を達成できないという未来が待っているかもしれません」

世界が抱えている問題と、日本が直面している大問題を知ったConちゃんは、少し動揺…。そこで、何か気軽にできるCO2削減方法はないか聞いてみたら、「すぐにできるのはエアコンの温度調整です。冷房なら、設定温度を1℃上げればCO2の排出量が少し減りますよ。あとは、シャワーの使用量を減らすのも、意外と効果的です」と下郡さん。

と、すぐにメモを取ったConちゃんを制して、「でも、省エネだけで頑張ろうとすると、とても大変です。効率的に減らすためには、仕組みを大きく変えていくしかないんです」と大事なことを思い出させてくれた。

壁にあるコンセントを見たときぐらい、その先にある“日本の電源”のことも考えなきゃなぁ…と思ったConちゃんでした。


下郡けい

大分県出身。一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 戦略研究ユニット国際情勢分析第1グループ 主任研究員。専門分野はエネルギー政策(欧州地域)、原子力政策。2010年に早稲田大学法学部卒業後、2012年に東京大学公共政策教育部 専門職学位課程 国際公共政策コース修了、2012年日本エネルギー経済研究所 戦略研究ユニット 原子力グループを経て、2018年から現職。

日本の天気って本当に異常なの?気象予報士の手塚悠介さんに突撃インタビュー!

2019.05.15

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第2回は、天気のプロである気象予報士さんに、年々増え続ける異常な気象状況についてインタビュー。「50年に一度の!」「観測史上初!」ってよく聞くけれど、これからの日本は大丈夫?Conちゃんが聞いてきました!

Conちゃんの紹介はこちら


Conちゃん、大雨の危険性におののく!

Conちゃんが訪れたのは、東京・赤坂のとあるビル。気持ちいい快晴の空のもと、この空模様を読み解くプロフェッショナルに会いにきたのだ。

ビルを上へと昇り、目的のフロアへ。

たどり着いたのは、ウェザーマップという会社。たくさんの気象予報士さんが所属し、気象情報を提供するサービスを行っている。中に通してもらうと、そこで待っていたのが……。

気象予報士の手塚悠介さんだ。

「全国好きな気象予報士ランキング」で2年連続1位になったこともある素敵な笑顔の持ち主で、現在は、テレビ朝日の気象デスクを担当し、各番組のサポートなどを行っている。

手塚「さて、今日は天気について聞きたいということですが……?」

手塚「いきなりですね!でも、少しおかしくなってきているのは確かです。昔に比べると、大きく変わっていることが2つ。それは、雨と気温ですね」

手塚「一つずつ説明しましょう。まずは雨。降水量が年々増えているというわけじゃなくて、降り方が激しくなり、滝のように降る雨の回数が増えているんです。『ゲリラ豪雨』って知っていますか?」

手塚「つまり、突発的で局地的な大雨が増えてきているということなんです。ちなみに、『夕立』って知っていると思いますが、あれも言ってしまえばゲリラ豪雨なんです。でも、『なんだか昔よりすごい』と一般的に認識されるようになってきたので、メディアで『ゲリラ豪雨』と名付けられました。つまり、ゲリラ豪雨自体は日本でも古くからある現象で、今はその激しさが変わったということなんです」

手塚「それに伴って、やはり災害級の雨がとても増えてきているように感じています。最近だと2018年の西日本豪雨、少し前だと2015年に鬼怒川の堤防を決壊させた関東・東北豪雨など、雨が原因になった大きな災害が増えてきています」

Conちゃん、大雨を甘く見て叱られる!

ここ数年、ちょっとおかしいなーくらいに軽く考えていた天気のこと。聞けば、災害級なんて背筋が凍る言葉が手塚さんの口から出てきてしまった。

手塚「近年の雨は、量と期間、両方に問題があると言えます。単に長い時間降ることで降水量が多いケースももちろんありますし、逆に短い時間でたくさん降ってしまって災害につながることもあります。そして土地によっても、雨による災害の影響度に違いがあるんです」

手塚「例えば、広島だと総降水量200~300mmくらい雨が降っただけでも土砂災害の危険度がかなり高まるのですが、一方で、高知だと総降水量が1000mmまで達しても災害があまり起こらないとか。災害になってしまうかは、水はけなど土地の特性も関係するんですよ。なので、気象庁が設定している大雨警報などには地域差があるんですね」

手塚「『50年に一度の大雨』や『観測史上初めての大雨』とは言葉通り、50年に一度起こるか起こらないかの大雨ということです。最近たくさん聞くと感じるのは、昔より情報を集める場所が細分化されているからで、よりピンポイントなデータが取れるようになったからというのも理由の一つとしてはあります。だから、ある場所では観測史上初めての大雨だとしても、少し離れれば普通ということはよくあります」

手塚「その考えは危ないですね。自分の周りで降ってなくても、少し離れた場所では実際に大雨は降っているんです。狭い範囲で起きることだからといって甘く見てはいけません。確かに頻繁に見聞きするようになったので、危険と感じなくなっている人はいるでしょう。でも警報は警報。出ていたら『またか…』とは思わないでほしいです。同じ県内や隣の県で起こっていることは、もしかしたら自分の場所に来るかも、と考えた方がいいと思いますよ。先ほども言ったように大雨の回数が増えてきているという事実もあり、降り方が強くなっているので、『50年に一度の大雨』という滅多にないようなことが頻繁に起こるようになっている。そのような捉え方もできるんです」

手塚「最初に言った2つのうちのもう一つの変化、気温です。温暖化が激しい雨を降らせている原因の一つと言われています」

手塚「豪雨も含めて、『異常気象』というのは、過去に経験した現象から大きく外れていることを『異常』として扱っているんです。具体的には、『30年に一度あるかないか』という現象のことを指しています」

手塚「そして、世界で起こる熱波や大寒波といった異常が起こるのは、『偏西風の蛇行』が大きな要因とされているんです」

手塚「上空を西から東へ吹いている偏西風は、常に南北に蛇行しています。この蛇行の幅が、いつもより大きくなると、異常と思えるような暑さや寒さになるんです。そして、この大きな蛇行の頻度が“温暖化”によって増えるのではないかと言われているんです」

Conちゃん、温暖化が身近で深刻なことに気付く!

二酸化炭素などの増加によって、地球全体の平均気温が急激に上がる現象「温暖化」。それが豪雨や大寒波といった一見関係のなさそうな異常気象にも関わっていることに驚くConちゃん。確かに何となく気温が上がっているなーと思うことはあるけど、いまいち実感できてないのが正直なところ。

手塚「このまま温暖化が進めば、60年くらい先の未来、2080年~2100年ごろには今より気温が3~4℃上がると言われています。そうなると、例えば東京は鹿児島や奄美大島の気候に近くなりますし、仙台は東京のようになるかもしれません」

手塚「気温が上がると、四季の景観も変えてしまいます。桜の開花は、50年に5日くらいのペースで早くなってきていて、2080年には3月中旬ごろの卒業式の時期に満開なんてことになるかもしれません。お茶なら、茶摘みの時期はもともと5月の頭ごろだったのに、静岡ではもう4月の後半には始まっているんです。さらに紅葉は全国的なデータでみると、年々遅くなっていることも分かります。肌感覚で春と秋が短いと感じることがあると思いますが、やっぱりそれは気温が上がってきているからなんですよ」

手塚「さらに言えば、真夏日と呼ばれる30℃以上の日数。これは現在、東京で年間50~60日ほどありますが、50年後にはそこからさらに40日くらい増えると言われています。逆に、冬日といわれる0℃未満の日数はどんどん減る。東京では例年10日前後しかないので、ほぼなくなってしまうと予測されています」

手塚「日本のようにきれいに四季がある国があまりないのですが、ちょっと近いと思うのは、ベトナムのハノイ」

手塚「ベトナムはすごく暑いのですが、北部は四季に近いものがあって、日本の気温変化に似ているんです。ずっと温暖化が続いていけば、そのあたりの気候に近付いていくかもしれません。

極端にレベルが上がれば、インドのニューデリーくらい暑く……いや、正直ないと思いますけどね」

手塚「もちろん、これから20~30年の間では、大きく生活は変わらないですよ。でも、植物や農作物にはすぐに大きな影響が出てくると思います」

手塚「気温が上がっていくと、植物が生息できる範囲が変わるんです。各地で特産品とされる農作物が作りにくくなったり、もしくは作れなくなったりするかもしれません。例えば、ミカン。九州では温暖化の影響で気温が上がってきていて、栽培するミカンが病気になるなど既に影響が出始めているというレポートがあります。なので、暑さに強いデコポンという品種に変えている農家さんもいるそうです」

手塚「もし今の特産品を維持しようとしたら、農家さんは設備投資をしなければならないでしょうし、そうするとコストがかかる。その上、設備を動かそうとすれば、今よりもエネルギーが必要になってくるでしょう。それは、温暖化の原因とされる二酸化炭素をさらに出してしまうことにつながるかもしれないし、結果的にはもっと温暖化を進めてしまうかもしれないという悪循環になるんです。その先には、日本の農業や食料自給率への影響も考えられますし、温暖化の影響で海水温も上がってきているので、水産業にも同じことが言えるでしょう」

手塚「これって、各地の文化が変わってしまうことなんじゃないかと思っています。特産品が変わったり、失われたり。暖かくなれば新しく生まれるものもあると思いますが、今あるものがどんどん少なくなってきてしまうのはさみしいですよね。それを維持するか別の道に進むかの瀬戸際に今、立たされているんだと思います」

手塚「地球規模で考えれば、今よりももっと暑く、もっと寒いときは当然あったので、温暖化が進んだからといって人類が死滅することはありません。ですが、雨の問題も含め、私たちが温暖化によって増えるリスクとどううまく付き合っていくか、それが大事だと思います。個人的には、日本の四季がとても素敵だと感じているので、後世に受け継いでいきたいと思っているんです。今あるもの、自分が経験したものがなくなってしまうのは、やっぱりさみしいですよね」

天気の話を聞きにいったら、温暖化が四季や特産品にまで悪影響を及ぼしている事実があったなんて……。怖い話が多かったので、最後に明るい天気の話題は何かないかと聞いたら、「今の予報精度は、かなり高いですよ!」と手塚さん。今日からもっと真剣に天気予報を見ようと思ったConちゃんでした。


手塚悠介

1982年11月2日、埼玉県出身。気象予報士。2013年3月に気象予報士資格を取得し、2014年3月よりウェザーマップに所属。2014年から静岡第一テレビで天気キャスターを3年半務める。2018年春からは放送局番組サポートをしながらTBSニュースバードに出演。現在はテレビ朝日の気象デスクを担当している。

国内最新!今しか見られない原子力発電所内部を突撃レポート!

2018.11.27

全国にある原子力発電所の今を、Concent編集部きっての好奇心の持ち主Con(コン)ちゃんが突撃取材! 第1回は、中国電力の島根原子力発電所へ。2006年から建設工事を進めている3号機の最奥部がどうなっているのか、Conちゃんがお伝えします!

Concent編集部員 Conちゃんの紹介はこちら


Conちゃん、原子力発電所の巨大さに驚く!

編集部員Conちゃんがやってきたのは、島根県松江市にある島根原子力発電所。宍道湖の真北、目の前に日本海が広がる場所に位置する。

厳重なセキュリティを前に待っていると、「Conちゃーん、Conちゃーん」と呼ぶ声が。

迎えてくれたのは島根原子力本部の平木なつみさん(以下、平木)。取材に快く応じてくれた島根原子力発電所を代表して、発電所内を案内してくれるらしい。セキュリティでいろいろとチェックを受けたら、いよいよ発電所内へ。

発電所内はバスで移動。それもそのはず。ここの敷地面積は約192万㎡。その広さは、なんと甲子園球場(約3万8500㎡)50個分!

島根原子力発電所は、日本有数の歴史ある原子力発電所。1974(昭和49)年に運転を開始した。

平木「3つの原子炉を保有していて、初の国産原子炉である1号機は廃止措置作業中、2号機、3号機は稼働に向けて国の審査を受けているんだ」

平木「今は、発電所は稼働していないけれど、この中で中国電力や関連会社など3000人以上の人が働いているんだよ」

平木「違うよ。発電所の運転には、たくさんの水が必要になるの。だから、日本の原子力発電所は海沿いに建てられているんだよ。ちなみにここは、日本で唯一、県庁所在地にある原子力発電所なの」

平木「確かに原子力発電所での事故につながる大きな要因の一つが津波。津波が建物の中に入ると、重要な設備が水浸しになって、使えなくなってしまう場合があるの。だから、海に面している岸壁には最大11.6mの津波を想定して、海抜15mになる防波壁を設置しているんだよ」

平木「それに防波壁を超えるような大きな津波が起こったときも想定して、建物の入口などは厚さ15~30cmの水密扉で、水の浸入を防ぐ対策をしているの」

平木「事故につながるもう一つの要因は地震ね。原子力発電所は固い岩盤の上にあることが絶対条件。ここも例外じゃなくて、大地震でも耐えられる場所を選んで建てられているんだよ」

Conちゃん、最新鋭の3号機建物の中に入る!

発電所敷地内を一周して、次は島根原子力発電所3号機に向かったConちゃん。

ほぼ完成済みの3号機は、稼働に向けた審査の真っ最中。国内最新の原子力発電所の一つで、稼働すれば出力137.3万kW、廃止が決まった1号機の約3倍の発電能力があるのだとか。

平木「鳥取県と島根県で1年間に使う電気全部を、3号機だけでつくれるくらいかな」

原子力発電所の心臓部とも言うべき原子炉が格納されている3号機の建物。物々しい様子をイメージしていたが、思いのほかシンプル。さっそく内部を取材しようとすると……。

平木「ここは部外者立ち入り禁止! 関係者だとしても施設に入る前の生体認証など、厳重なチェックをクリアしないと絶対に入れないの。だから今日は……ごめんなさい!」

平木「うそだよ。今は稼働していないから大丈夫。今回は特別にConちゃんに中を見せてあげるよ」

ようやく3号機の建物内に入ると、そこはまるで迷路のようだった。

いくつもの分厚いドアを抜け、エレベーターで昇ったり降りたり……奥深くへと進んで着いたのは、どでかい体育館のように広い空間。

平木「これは原子炉じゃなくて、発電用のタービンと発電機。実際に電気をつくる場所だよ。原子炉で核分裂を起こして、発生する蒸気でタービンを回しているの。蒸気を使うのは火力発電と一緒だね」

平木「1つの原子核が2つに分裂する現象のこと。原子力発電所では、燃料を燃やす代わりに、ウランの核分裂で発生する熱エネルギーを使って発電しているの」

そして、さらに奥へと進むConちゃん。いよいよ未知の領域へ!

Conちゃん、今しか入れない発電所の心臓部に潜入!

分厚い扉をいくつも通り、奥が見えないほどの長い廊下を歩き続けること数分。

ついにたどり着いた発電所の心臓部、そう「原子炉」だ。

稼働前の今だからこそ特別に入ることができたが、発電が始まれば、部外者は立ち入れない領域だ。

平木「その通り。原子炉は、核分裂の熱で蒸気を発生させる機器全体のこと。稼働中はこの中に、燃料棒や水が入っているの。全体は鉄筋コンクリート製の原子炉格納容器で守られているんだよ」

平木「この中で核分裂を起こすんだけど、さっき言ったとおり、その燃料はウラン。容器内に格納される燃料棒の中にはたくさんのウラン燃料の固まり(ペレット)が入っていて、核分裂によって発生した熱で水を沸騰させるの。その蒸気でタービンを回すんだよ」

平木「ペレット1つは小指の先くらいの大きさなんだけど、それだけで一般家庭が使う電気の8~9カ月分を作り出すことができるんだよね」

平木「ちなみに、この3号機は沸騰水型原子炉(BWR)をさらに進化させた、最新鋭の改良型沸騰水型原子炉(ABWR)なんだよ」

平木「基本的な仕組みは同じだけど、改良点は原子炉建物と原子炉格納容器が一体になったことや、水を循環させるポンプが原子炉に内蔵されたことかな。もっと簡単に言うと、構造がシンプルになったから、安全性が上がったってこと」

次はこの部屋の下に向かうConちゃん。

平木「ここは原子炉の真下。効率的に発電するためには、核分裂をコントロールする必要があるんだけど、そのためにはブレーキのような装置が必要になるの。その役割を果たす制御棒を動かす装置があるところなんだよ」

平木「最新鋭の3号機では、この制御棒を動かすシステムを2つ備えていて、1つのシステムにトラブルが起きても、もう1つのシステムで動かせるようにしているんだよ」

続いてConちゃんがたどりついたのは、階段を上った先にある広い部屋。

平木「原子炉が破損すると、放射性物質が漏れるおそれがあるの。破損の大きな要因になるのが、原子炉内の圧力が高まること。そういうリスクを防ぐための設備が、原子炉を筒状に囲っている圧力抑制室なんだよ」

平木「稼働中はここに水が溜められていて、圧力が上昇したときには原子炉内の蒸気を水の中に逃がして圧力を下げるんだよ」

Conちゃん、備えに備えた安全対策に驚愕する!

原子炉建物を後にしたConちゃんは、ここぞとばかりに広大な敷地内を散策する。

平木「発電所の外からの電気が使えなくなったときに活躍する高圧発電機車や、原子炉を冷やすための大量送水車など、いろいろな状況に対応するためにこういった特殊車両も敷地内の至るところに準備しているの」

平木「発電所、特に原子力発電所には、過去の災害を踏まえて多くの規制基準が設けられていて、日本の基準の厳しさは世界でもトップクラスと言われているんだ。例えば、森林火災が起きたとき、発電所内に燃え広がるのを防ぐために、山の斜面をコンクリートで覆うなど、さまざまな事態を想定して対策しているんだよ」

平木「いざというときに即対応できるように、毎年1回の発電所総出での総合防災訓練や、年に数十回もの個別訓練を実施しているの。今見てもらっているのはアクセスルート確保訓練といって、瓦礫などで道がふさがれたときにいち早く復旧するための訓練。ちなみに、平成29年度は総合防災訓練を1回、個別訓練を77回行ったんだよ」

平木「どんなときでも電気が使えるように、安定して電気をお届けするのが電力会社の使命なの。日本は資源のほとんどを輸入に頼っているんだけど、原子力発電は少しの燃料でたくさんの電気を作れるから、電気を安定してお届けするのに役立つんだ。しかも発電時にCO2を排出しないから温暖化対策に有効なの。日本の置かれている状況を考えると、原子力を含め、いろいろな発電方法を組み合わせる必要があるんだよ」

漠然と“危険”というイメージが強い原子力発電所。でもそこには、エネルギーの安定と安全を守るため多くの取り組みが行われていて、日々、頑張っているたくさんの人たちがいるんだなと思いながら、食堂で名物の肉うどんを食べて発電所を後にしたConちゃんでした。


取材協力

中国電力株式会社 島根原子力発電所

住所:島根県松江市鹿島町片句654-1

電話:0120-209-050(フリーダイヤル)

http://www.energia.co.jp/atom_info/shimane/index.html

 

Concent編集部員 Conちゃん紹介「みんなの気になることを聞いてくるよ!」

2018.11.22

ConちゃんはConcent編集部のルーキー。

全国の発電所や電気にまつわることを突撃取材!

常に好奇心旺盛なムードメーカーです。

Conちゃん自己紹介01

Conちゃん自己紹介02

Conちゃん自己紹介03

Conちゃんの活躍に乞うご期待!