
日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材!前編では、地球温暖化の現状と「排出量取引制度」の仕組みを教えてもらったConちゃん。後編では、この制度が社会や私たちの生活にどんな影響を与えるのか、そして日本の温暖化対策はこれからどこへ向かうのか。引き続きエネルギー・環境問題の専門家である竹内純子さんに聞いてきました!
>CO2に値段が付く!?新たに始まった「排出量取引制度」の仕組みを竹内純子さんに聞いてみた(前編)
Conちゃん、排出量取引制度の影響を心配する!
2026年4月から「排出量取引制度」が本格的にスタート。電力、鉄鋼、化学、セメント、石油など、年間10万トン以上のCO2(二酸化炭素)の排出実績がある企業が参加し、国が各企業に割り当てたCO2の排出枠(排出できる上限量)に対して余った枠や不足した枠を市場で売買する仕組みだ。
2026年度は、対象となる企業の制度への参加が義務化され、CO2排出量の算定や報告を行う段階で、実際に取引が始まるのは2027年度から。まだ直接的な社会変化がないとはいえ、取引がスタートすると企業活動や私たちの暮らしにはどんな影響があるのだろうか。竹内さんに聞いてみた。



竹内「CO2排出削減努力の結果、余った排出枠を売る側に回れば、直接的な利益につなげられる。これはわかりやすいメリットだね。でも、CO2削減にはコストがかかるし、簡単に削減ができるわけではないの。この制度のメリットとして大きいのは、省エネや脱炭素化に向けた投資判断がしやすくなること。
これまでは『省エネ設備を導入するために必要なコストはいくら、エネルギーコストの削減によって、その投資が何年で回収できるか』という計算をしていたわけだけど、排出量取引制度が導入されると、CO2の削減量そのものにも経済的な価値が付いて、投資に向けたポジティブな判断材料が増えるの。だから、企業が環境対策に積極的になると期待されるんだよ」

竹内「実は、『1トンのCO2に対して5%の税金がかかる』みたいな税金型の方が、最初からコストが確定しているから企業は長期計画を立てやすいんだよね。CO2削減には技術開発を伴う長期的な取り組みが必要なので、予見性があることはとても大事なの。
一方、排出量取引制度は市場で価格が上下するでしょ。そうなると、たとえ自社でCO2削減につながる技術の開発に大きな投資をしようとしても、『市場で、投資にかかるコストより安い排出枠を買えばいい』という判断になりかねない。長期的なグリーン投資を促すという点では、実は税金型の方が優れている面もあるんだよ。
それに、適切な枠の設定や、適正な取引が行われているかを監視するなど、政府がしなければならないことがとても多いので、行政組織の肥大化が起きると言われているの。排出量取引制度がうまく機能して、企業のCO2排出削減に向けた投資や対策につながるように、制度設計も適宜見直していくことが大切だね」
Conちゃん、CO2のコストを分かち合う意味に気づく!
排出量取引制度が進むと、企業の活動がよりCO2削減に積極的な方向へとシフトしやすい社会が生まれそうで、「けっこういいんじゃない?」と思ったConちゃん。とはいえ、やっぱり気になるのは僕たちの暮らしの変化。どんなふうに変わるのだろうか?


竹内「私たち消費者が理解しなければいけないのは、グリーンはタダではない、ということ。CO2削減に向けた技術の導入にはコストがかかるの。社会を支えるインフラは、日本に暮らす全員で使うものだよね。だから、持続可能な社会を維持するためには、インフラにかかるコストは最終的に社会全体で分かち合う、つまり負担する必要があるんだよ。
例えば、再生可能エネルギーを増やすためには、最初に設備投資をしなければいけないよね。燃料代はかからないけれど、設備の導入や維持、そして太陽光や風力発電の場合は『必要な時』に発電してくれるわけではないから、電気をためて使う時間をシフトできるように蓄電池なども導入しなければいけないの。
だけど、それらには消費者のコスト負担が必要だよね。エネルギーは生活に必須のものだから、そのコストが上がることで、特に生活弱者と呼ばれる方たちに大きな負担になってしまうため、過度な負担にならないよう考慮しつつ、一方で、地球温暖化対策やエネルギー自給率の向上に向けた投資をしていく必要があるんだよ。政府がバランスをとって舵取りしていくことが大切だね」

竹内「例えば、家庭で出るゴミを捨てるときって、自治体によってはゴミ袋を買わなければいけないよね。これはゴミを捨てて処理してもらうために払っているコスト。でも、CO2を空気中に排出するのは、これまでずっとお金がかからなくて、言ってしまえば『出したもん勝ち』だったんだよ。地球にとってマイナスになることが『やったもん勝ち』では地球の環境は悪くなっていってしまうよね。なので、その影響を抑えるために必要なコストを、その人や企業がきちんと負担する。それが排出量取引制度の本質なんだよ」

竹内「電気代が上がるのはつらいよね。しかも、一部の国だけがこうした取り組みを強化しても、他の国が今まで通りであれば、気候変動問題は全く解決しないということになってしまうの。ただ、CO2排出削減に向けた投資が進めば、海外から輸入する化石燃料を減らすことができるよね。ということは、日本のエネルギー確保が海外の影響を受けにくくなるってことだね。これは社会のレジリエンス(強靭さ)を高めることに直結するんだ。
これから数十年間にわたって、中東情勢の緊迫化など地政学上のリスクは何度も起きる可能性は否定できないでしょ?排出量取引にかかるコストは、世界情勢の変化のたびに日本のエネルギー事情が不安定になるのを防ぐための長期的な投資だと考えてもらえるといいかな。CO2を出さない生活の方が地球環境や道徳的に良いというだけではなくて、日本に暮らす自分にとっても得になる。そういう時代に生きていることを意識すると、排出量取引制度の意味も少し違って見えてくるんじゃないかな」
Conちゃん、温暖化対策が進む未来にワクワクする!
排出量取引制度が経済や社会、生活に与える影響が見えてきたConちゃん。では、この制度は今後どのように発展して、その目的である日本の温暖化対策はどこへ向かうのだろうか。


竹内「EU(欧州連合)は排出量取引市場を先駆的に立ち上げたんだけど、もう何度も制度改正を重ねてきているんだよ。排出量取引制度は作ったら終わりではなく、制度の効果やその国の経済状況などを見ながら絶えず見直し続けるものだと思ってほしいんだ。特に大きな課題を挙げると、『国際的な公平性』という考え方があるよ。
日本はオイルショックを契機に省エネを進めてきたという話を前編でしたよね。そのために、エネルギーの利用にはさまざまな税金が既にかかっていて、企業や消費者にとって大きな負担になっているんだよ。そこに排出量取引制度が加わると、日本国内での製造コストがさらに大きくなる可能性があって、国際競争力への影響に注意する必要があるんだ」

竹内「今までにないような全く新しいグリーン技術が生まれても、ただ存在するだけでは意味がなくて、企業にとっては、今使っている技術より安く導入できるくらいまでコストが下がらないと普及はしないんだよ。普及しないと、温暖化対策にはならないよね。だから、その技術のコストを下げるイノベーションこそが、地球温暖化を解決する本丸ともいえるよね。
エネルギーの分野では今、日本は核融合や次世代太陽光パネルといった技術で世界をリードできないか研究開発を進めているの。難しい挑戦だけど、一つひとつ科学技術を進歩させ積み上げていくことが、遠回りに見えるけれど着実にCO2排出削減を実現する一番の近道かもしれないね」

CO2を削減するためにはコストがかかる――。その事実を社会全体で理解し分かち合うことが、排出量取引制度の根本にある考え方だ。CO2削減に向けた投資の拡大によって、僕たちの暮らしはまた少し変わるかもしれない。でも、それは日本の産業発展やみんなの生活のため、そして持続可能な社会のために考えられた結果なのだろう。温暖化対策を進めることは地球のためだけでなく、安心できる今と未来の暮らしをつくるための投資でもあるんだなと思ったConちゃんでした。
取材協力:竹内純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員/U3イノベーションズ合同会社共同代表/東北大学特任教授。専門はエネルギー・温暖化政策。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、東京電力株式会社に入社し、主に環境部門を担当。福島第一原子力発電所事故を機に独立し、研究者となる。東京大学大学院工学系研究科にて博士(工学)を取得。国連気候変動枠組条約交渉に10年以上参加するほか、日本成長戦略会議やGX実行会議など多数の政府委員を務めながら、エネルギー・温暖化政策の研究・提言に取り組んでいる。
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