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「カーボンリサイクル」って何だ?専門家に突撃インタビュー!

2020.03.30

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第9回は、地球温暖化問題で嫌われがちな「CO2(二酸化炭素)」の利用方法を教えてもらうため、電源開発株式会社(J-POWER)へ。実際に話を聞いたら、CO2のことをこれでもかというほど考えていました。人にも地球にも優しいCO2との付き合い方をConちゃんがお伝えします!

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Conちゃん、脱炭素化の深さを知る!

先日、広島県にある「大崎クールジェン」という実証試験施設を訪れたConちゃん。

石炭火力発電所から出るCO2を分離して回収する方法、そして、その先にCO2を有効利用する「カーボンリサイクル」という考え方があることを知った。

大崎クールジェンについて詳しくはこちら

うまく利用するっていうけど、果たしてそんな簡単にいくものなのだろうか?

ということで、カーボンリサイクルをもっと知るために、大崎クールジェンを中国電力と共同で作った会社、電源開発を訪れた。

電源開発は、戦後の電力不足の時代に生まれた電力会社の一つ。国内外に多くの設備を持っており、石炭火力発電所の設備の容量で日本一を誇る。

渡部「今の時代に『石炭火力発電所』っていうと、どう思う?」

渡部「だよね。だけど、エネルギーの側面から見ると、今後も日本を含めた多くの国々には必要とされるものだと思うんだ。でも一方で、地球温暖化はとても大きな課題。となると、石炭火力も“脱炭素”しないといけないよね」

荒木「それで今、会社として『2050年代までに何とかしよう!』としているんだ。だから、カーボンリサイクル。これを積極的に取り組んでいけば、将来の脱炭素化に向けた選択肢を増やしていけると考えているんだ」

荒木「だから、今はとにかく、できることは何でもチャレンジしようとしているよ」

渡部「……もう少し詳しく言うと、今は技術的な可能性を探っているところだね。国が示したロードマップというものがあって、カーボンリサイクルは『化学品』『燃料』『鉱物』『その他』と大きく4つに分類されているんだ」

渡部「そもそも、カーボンリサイクルというのは、『CCUS』(Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage:二酸化炭素回収・有効利用・貯留)という取り組みの中の手段の一つ。これを見てみて」

渡部「 CCUSは、CO2を『回収』したら、『有効利用』するか『貯留』する(埋めて留める)かという選択肢があって、有効利用の先にも3つの使い道があるんだ。簡単に言うと、『EOR』はより多く石油を採取するための技術に利用する、『CO2の直接利用』はCO2そのものを原料にする、『カーボンリサイクル』はそれ以外の新しい技術全部ってことだね」

荒木「私たちは特に枠組みにこだわっているわけではないから、カーボンリサイクルにも直接利用にも取り組んでいるよ。CO2をもとにして化学品やバイオ燃料が作れたら、誰もが喜ぶよね。その可能性を見いだすために、チャレンジするってことだよ」

Conちゃん、太古のCO2を考える!

カーボンリサイクルはいろいろとあることを知ったConちゃん。なんだかわかったようなわからなくなったような……。

渡部「そもそもCO2は、ドライアイスや炭酸飲料、溶接に使われてるって知ってるかな?」

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荒木「じゃあトマトの話も聞いたかな? 15年くらい前に北九州市・響灘(ひびきなだ)でカゴメさんと当社と共同で、ハウス栽培のトマト菜園を始めたんだ。そこで、昔からCO2を利用しているんだよ」

荒木「トマトの育成のためだよ。ハウスの中のCO2の濃度を上げると、収穫できるトマトが大きくなるんだ。だいたい1株あたり3割くらい」

渡部「実は、植物にとっては大気中のCO2が多いほどよく育つとする報告があるんだよ」

渡部「植物にとっては成長(光合成)するためにはCO2が必要なんだ。植物が大繁殖していた恐竜の時代なんかは、大気中のCO2濃度がとにかく高かったとされているんだ。当時に比べるとCO2濃度が低い今の時代の植物は、たぶん仕方なく生きている。彼らからしたら、CO2が増えると単純にありがたいかもしれないね」

荒木「今の地球の大気中のCO2濃度は、地下にたまった化石燃料を、この数百年で人間が燃やして大気中に放出した結果。現代の自然環境では、放出されたCO2の半分の量しか吸収できなくて、残り半分は大気中に残っているんだよ」

荒木「これが地球温暖化の問題につながっているなら、人間としては大気中にCO2を出してしまう量をどうにか減らしたいよね。その取り組みが、CCUSだし、カーボンリサイクルってこと」

荒木「まあ、そうだね。とはいえトマト菜園はもともとCO2を使っていたし、大崎クールジェンで回収したCO2を使えたら、CO2排出量削減に一歩前進すると考えているよ」

荒木「CO2を運ぶためには液体にしないといけなくて、液化するにも新しい設備が必要になるんだ。大崎クールジェンでそれを今から作ろうとしていて、2022年度スタートが目標。あと2年くらいだね」

Conちゃん、農業から漁業に思いをはせる!

トマト菜園で使われるCO2から人間と植物の違いを感じ、「これぞ多様性!」と思ったConちゃん。

だけど、それって地球のためにはどれくらい役立つんだろう。

荒木「響灘のトマト菜園では、毎年2500トンほどのトマトを出荷しているんだ。それを育てるのに年間2000~3000トンのCO2を使っているんだよ。だから15年で4万5000トンくらい。ちなみに家庭のCO2排出量は、1世帯あたり年間3トンほどとされているから約1万5000世帯分だね。ただ、このトマトを食べても、結局CO2は出ていってしまうんだよ」

渡部「トマトが育つときには使われるけど、生き物が食べたら呼吸で排出されるし、食べないで放置したら腐って放出されてしまう。つまり、CO2を留められる時間が限られているということだね」

渡部「もともと炭素は、地球全体を循環しているものなんだ。地中から大気へ、大気から植物へ、植物から人へ、みたいにね。だからCCUSの一つ一つは、どれくらいの時間、大気中にCO2を放出させないかに違いが出てくる。『貯留』っていうのは、まさに地中に埋め戻してしまうことだし。だから今、カーボンリサイクルの『その他』も注目されているんだよ」

渡部「自然に吸収させて、CO2の量そのものを減らそうという仕組みがあって、古くから行われているのが『植林』。それに、最近は『ブルーカーボン』っていう海藻類を利用する研究が進められているんだよ」

荒木「海に建造物を建てるときにブロックを基礎にするんだけど、それをCO2が吸収できる藻場(もば)にしようと考えているんだ。ブロックの原料は石炭灰。いわゆる産業廃棄物だね。海藻類が増えるってことは、それを餌にする魚も増える可能性もあるよね」

荒木「だから、産業廃棄物を有効利用できるし、漁業ともうまく共存できるかもしれない面白いテーマだと思っているよ。自然の力を利用する取り組みは、とても意義があると思わない?」

Conちゃん、カーボンリサイクルに射貫かれる!

自然の偉大さにあらためて気づかされたConちゃん。

“その他”扱いされている海と山をこれでもかってほど大事にして、CO2問題をすべて解決してもらったらいんじゃないかと思ってしまう。

渡部「CO2は、現代人が生きていくためにはどうしても出てしまう。自然に吸収させようにも、育てるのには膨大な時間がかかる。それなら、CO2を“資源”として捉えて、社会の中で循環させればいい。つまり、人間がCO2とうまく付き合っていくということだね」

荒木「でもいろいろと壁はあってね……今はやっぱりコスト」

荒木「使うとなれば、CO2を安定して提供できる施設が必要になるよね。そんな施設はほとんどないから、単純にコストが高い。それに、CO2をいろいろな形で利用するには水素が必要になる。この水素を作るのもまだまだコストが高いんだ」

渡部「CO2と水素は材料。それを使った研究開発をイノベーションで進めようという取り組みがカーボンリサイクルだよね。でも、まずは低コスト化が課題なんだ」

渡部「だから電源開発では、トマト菜園にも使うCO2の液化設備も含めて、これから大崎クールジェンの設備を整備しようとしているんだ。さらに、大崎クールジェンのある大崎上島(おおさきかみじま)全体がCO2を提供できる拠点になれれば、新しい技術が生まれるのをインフラからサポートできるよね」

渡部「さっき話した、国が示したカーボンリサイクル技術ロードマップは、2030年、2050年に向けて、イノベーティブな“技術の種”をまいて育てていこうという取り組み。課題もあるけど、『脱炭素社会』を形にするためには、とても期待されているんだよ」

次の世代、次の次の世代が担う世界のために、いろいろな種をまいて育ててみる。その試みの一つ一つがカーボンリサイクルという花を咲かせるかもしれない。

最後に2人は、「先が長いぶん、私たちも、今後の展開にワクワクしているんだよ」と言っていた。

これからの展開にワクワクするのは、映画や小説、マンガといった物語の世界も同じこと。「このカーボンリサイクルがすごい!」を探すのも面白そうだな~と思ったConちゃんでした。


取材協力:電源開発株式会社

戦後の電力不足を解消するため、1952年に国によって設立された電力会社。2004年に完全民営化。全国に水力、石炭火力、地熱、風力などの約100か所の発電所を保有し、総出力規模は約1800万kW。約2,400kmの送電線を通じて電気を送っている。世界各地での電源の開発や送変電設備のコンサルティング事業の知見を活かし、発電事業のフィールドを海外でも積極的に広げている。通称はJ-POWER。でんき犬は公式サイトで案内役を務めている。
https://www.jpower.co.jp/


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未来ではCO2が役に立つ?!「カーボンリサイクル」でCO2を資源に」(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)