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日本って「カーボンニュートラル」に乗り遅れてない!? 環境経済の専門家に聞いてみた(前編)

2021.11.10

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第18回のテーマ、最近頻繁に耳にするようになった「カーボンニュートラル」。二酸化炭素の排出量をゼロにしようとする世界的な動きだが、日本も本気で取り組んでいるんだろうか。Conちゃんが専門家に聞いてきました!

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Conちゃん、カーボンニュートラルの目標に物申す!

 

カーボンニュートラル――菅義偉前首相の所信表明で出てきた聞きなれない言葉。

二酸化炭素(以下、CO2)を含めた温室効果ガスの排出を極力減らしたうえで、どうしても出てしまう分を新しい技術などによって吸収し、排出量を正味でゼロにしていくことを指す。

つまり、排出量と吸収量がプラスマイナスゼロとなった状態が「カーボンニュートラル」だ。

地球温暖化を進める温室効果ガスは、どう考えても減らしていくべきだ。実現するために、日本が掲げている排出量の削減目標はというと…

 

 

いろいろなものを作ったり、買ったり、使ったり、生きていくためには経済活動や生活も続けなければならない。

でも、あと30年足らずでカーボンニュートラルを実現させるなら、もっともっとストイックにしていかなきゃいけないのでは?

ということで、今回は環境と経済の専門家に話を聞きました。

 

 

馬奈木先生は、環境・エネルギー経済学や都市工学などを専門に、国連のSDGsや企業のESGの評価手法を行うため国連「新国富報告書」の代表をするなど、さまざまなデータから世の中を見抜くエキスパート。

2030年以降の国連目標に、社会課題の価値化、ウェルビーイングを取り込むべく社会の「豊かさ」を計測する研究もしている。

 

 

馬奈木「もともと温室効果ガスを減らした経済活動にしていく『ローカーボン(低炭素)』という考え方がありました。それを発展させて30年でゼロにしようとなったのが『カーボンニュートラル』。今の削減目標はだんだんと高まっていった結果です」

 

 

馬奈木「日本の目標は、以前まで26%削減でした。2020年4月に発表された46%削減は、外交上の戦略や激甚化する災害対策などさまざまな要因を背景とし、大幅に引き上げられた、ものです」

 


出典:経済産業省 資源エネルギー庁『令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021)』(2021年7月)からConcent作成

 

馬奈木「何%削減といった数値は知っていて損はありません。ただ、そもそも多くの国が合意しているのは努力目標です。それに、実際の削減量を計算すれば日本が地球の環境にどれだけ貢献しているかが分かります」

 


経済産業省 資源エネルギー庁『令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021)』(2021年7月)、『「パリ協定」のもとで進む、世界の温室効果ガス削減の取り組み① 各国の進捗は、今どうなっているの?』(2019年5月)gov.uk『National Statistics Provisional UK greenhouse gas emissions national statistics 2019』からConcent作成

 

Conちゃん、理想と現実のギャップに気づく!

 

海外に比べて低すぎると思っていた日本の削減目標が、意外とそうでもないことを知ったConちゃん。

でも、目標は掲げているだけでは意味がない。

 

 

馬奈木「あくまで『進んではいる』です。可能な方向へと前進している、という理解で十分だと思います」

 


出典:環境省『2019年度(令和元年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について』(2021年4月)からConcent作成

 

馬奈木「温室効果ガスの排出量はここ10年単位で見れば、確実に減ってきていると言えます。それは、産業界の取り組みが着実に進展してきているということでしょう。それに、努力目標である何%削減といった数値を気にするよりも…」

 

 

馬奈木「エネルギー資源やテクノロジーの進歩、それに人間の考え方だって将来どうなるかわからないですよね? だから、数値はラフに捉えればいいんです」

 

 

馬奈木「考え方として、どちらも間違っているわけではありません。ただ、実現性を考えればその間で、現在の目標も設定されています。だから、日本はカーボンニュートラル達成に向けて可能な方向に進んでいる、という理解で十分だということです」

 

Conちゃん、再エネだけが正解ではないと改める

 

「目標が甘い!」と言ったら、即論破されてヘコんだConちゃん。

でも、目指すゴールが高くなったなら、できることはどんどん進めた方がいいんじゃないの?

日本のCO2排出量のうち、40%ほどが電気などエネルギーを生産している業界だという。

なら電気だけでも、すべてCO2フリーな電源「再生可能エネルギー」(以下、再エネ)にしてしまえばいいはず!

 

 

馬奈木「電気を使う側が求める電源構成(発電方法の割合)は、電気代との関係がとても深いんです。私の調査から見えた結論は、『比較的安く済むなら、再エネをどんどん増やしたい』で、電気代が2割程度の上昇までなら国民に許容されます」

 

 

馬奈木「実際に、再エネ拡大によって既に2割ほど電気代は高くなりました。でも、それ以上となれば話は変わります。なので、原子力発電など比較的安くなる電源をある程度許容しながら再エネも適度に入れようというのが、今の世の中の流れです」

 

 

馬奈木「『必要性は認める。でも、うちの地域に建てないで』(=Not In My Back Yard)という考えです。もともと他の発電施設に対して使われていましたが、山を削って建てられるソーラーパネルや、巨大な風車も含まれるようになりました」

 

 

馬奈木「不適切な場所に設置されたソーラーパネルが、土壌に影響して土砂災害を引き起こすことが懸念されています。一方で、そうした環境変化は生態系維持の面でマイナスが大きいと、環境推進派や再エネ推進派でさえも再エネの問題を考え始めたきっかけになったと思います」

 

 

馬奈木「さまざまな観点から見ると、再エネだけ、原子力発電だけ、と極端に偏るのは違うと私は考えています。例えば、私が暮らす福岡の九州電力は、再エネと原子力発電で電力の半分以上を賄っています。それは、『SDGs(持続可能な開発目標)先進地域』と言えるでしょう」

 

 

馬奈木「まず、CO2が発電時にほとんど出ない再エネと原子力発電は『ローカーボン』。太陽光や風を利用する再エネは『地産エネルギー』だし、発電所は地域を支える『産業』になります。カーボンニュートラルと同時にエネルギー生産、気候変動対策、まちづくりなどSDGs達成に向けて先進的ということ。先をいくエリアがリードして多くの人々を巻き込み、地域や業界の在り方を考えていく。それも日本のカーボンニュートラルを推し進める取り組みになるのではないでしょうか」

 

 

高く掲げた目標達成に向けて、着実に進んで“は”いた日本。

ちょっとだけ安心したけれど、そんな日本全体で進める一大プロジェクトに、僕なんかができることってあるのかな? 次回後編も、Conちゃんがリポート!

>後編に続く


取材協力:馬奈木俊介

九州大学主幹教授・都市研究センター長、九州大学 大学院 工学研究院都市システム工学講座教授、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)代表執筆者ほかを兼任。九州大学大学院工学研究科修士課程修了。米ロードアイランド大学大学院博士課程修了(Ph.D)。著書に『ESG経営の実践 新国富指標による非財務価値の評価』『SDGsの実践 ~自治体・地域活性化編~』など多数。

★さらに「カーボンニュートラル」について知りたい方はこちら!
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて(電気事業連合会)
「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)
「カーボンニュートラル」って何ですか?(後編)~なぜ日本は実現を目指しているの?(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)