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日本は「再エネだけ」にするべきでしょ!? エネルギーの専門家に聞いてみた(前編)

2022.03.16

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第20回のテーマは「再生可能エネルギー」。地球のために、環境に優しいエネルギーをもっと使うべきだと考えるConちゃんが、「再生可能エネルギーだけになんでしないのか?」、その理由を専門家に聞いてきました!

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Conちゃん、再エネ100%をオススメする

 

地球温暖化による自然災害や環境破壊、いろいろ大変な地球のために世界が実現を目指すカーボンニュートラルな社会。

今の時代でとにかくやるべきは、二酸化炭素(以下、CO2)を出さないこと。

地球を第一に考えるConちゃんは、「日本は、環境に優しい再生可能エネルギーだけにすればいい」と考えた。

 


出典:一般社団法人 日本原子力文化財団『エネ百科「【3-1-1】新エネルギーの定義」』(2016年3月14日更新)をもとにConcentが作成

 

再生可能エネルギー(以下、再エネ)といえば、太陽光や風力など「エネルギー源として永続的に利用できる」ものと日本では定義されている。

ほかにもいろいろあるのだから、再エネ以外の発電方法は止めてもいいはず。

ということで、今回は地球環境とエネルギーに詳しい専門家に話を聞きました。

 

 

小川先生は、エネルギーに特化した研究所で、気候変動や省エネルギーなどの分析を専門にする研究者。地球環境対策とエネルギー問題を日々考えている。

 

 

小川「もちろん私も、地球のために再エネは増やしていくべきだと思っているよ。それでも100%にするのは、今のままでは現実的に難しいのが事実。安定して供給できなければいけないし、経済的にも成り立たせなければならないなど理由はいくつかあるんだけど、わかりやすいのは『風土の特徴』と『需要と供給のバランス』かな」

 

 

小川「1つ目の『日本の風土』は、7割以上が山地で平坦ではない土地が多いという地形的な問題と、台風が頻繁に通るといった日本の気象の特徴のこと。例えば、そうした場所にたくさんの太陽光発電所や風力発電所を造るのはものすごく難しい。難しいと、そのぶんお金がかかるよね」

 


 

小川「2つ目の『需要と供給のバランス』は、電気って『使う量』と『つくる量』が同じ時間に同じ量(同時同量)でないと停電の原因になるんです。基本的に大量に電気はためることができないから、需要に合わせて常に発電する量を調整しているんだよ。太陽光発電は雨の日や夜は発電できないし、風力発電は風がなければ発電できない。天気や自然環境次第となると、人間がコントロールするのは難しいよね」

 


出典:一般財団法人 日本原子力文化財団『エネ百科「【3-1-3】太陽光・風力発電の出力変動」』をもとにConcentが作成

 

小川「実際は、再エネが自然に左右される部分は火力発電で補っていて、再エネの発電量が多ければ火力発電所の出力を下げる、少なければ上げるみたいにバランスを取っているんだよ。もしも、太陽光と風力だけで100%の電気をつくったら、『バランスを保つ電源』がなくなってしまう。日本全体でこれをコントロールするのは、ものすごく大変なことなんです」

 

Conちゃん、問題はCO2だけじゃないと気づく

 

とにかく「再エネだけにすればいい」と考えていたら、「日本の風土と電力のバランスの問題があるから今すぐは難しい」と出鼻をくじかれたConちゃん。

確かに自然をコントロールするなんて、簡単ではないのはわかる気がする。

それでも、再エネにはいろいろな問題を解決できる良いところがたくさんあるはず。

 

 

小川「太陽光や風力、水力や地熱といった再エネはCO2を出さない。これは現代にとても合う大きなメリットで間違いありません。それに、エネルギー源が自然から生み出されるものだから、使った後にごみが出ないのも正しいです。でも…」

 

 

小川「一般的にパネルの寿命は20年程度といわれていて、2030年以降にたくさん廃棄される時期がくると心配されているんだよ」

 

 

小川「2012年に『固定価格買取制度』(FIT法)というルールができて、そこから急激に企業から家庭レベルまで太陽光発電が広がったんです。それからもう10年経ちました」

 

 

小川「処理の問題もあって、材料になっている希少資源は回収しないといけないし、不法投棄の心配も出てくる。簡単にいうと、パソコンや大型家電を捨てるときに起こりがちな問題と一緒だね」

 

 

小川「たしかに長く使おうと思えば使えるかもしれないね。でも、効率はどんどん落ちる。 もし自宅の電気を太陽光発電で100%まかなっていたら、それこそ家電と同じように買い替えたいと思うでしょ? 家のほとんどのものを動かす電気がつくれなくなっていくんだから」

 

 

小川「これまでエネルギーを安定して生み出すために、日本は海外から化石燃料を輸入し続けてきたんだけど、太陽光発電や風力発電は自然由来のものだから、それがないよね。資源が本当に少ない日本にとって、これはすごく有効です」

 

 

小川「太陽光パネルや風力発電の風車を輸入しているってこと。下のグラフは世界の太陽光パネル生産数の推移。2001年は半分くらいが日本製だったのに、今はほとんどが中国製になってきているの…」

 


出典:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)『太陽光発電開発戦略2020』(※株式会社 資源総合システム『太陽光発電マーケット(2007、2012、2015、2016、2017、2018)』からNEDO作成図)をもとにConcentが作成

 

小川「当然、日本も中国などから購入していて、石炭や石油などの燃料と同じように海外にお金が出てしまっているんです。それに、太陽光パネルの材料は日本にほとんどない希少資源。日本製が減ったのも、作るのに必要な素材が国内にないのが原因の一つ。日本で作ろうとしても、結局は材料を買わなきゃいけなくなるんだよ」

 

 

小川「もしも中国が『もう日本に輸出しません』ってなったらどうなるかな? 今あるものが寿命を迎えたとき、国内の電力がストップしてしまうかもしれないよね」

 

Conちゃん、実は日本では再エネが進んでいることを知る

 

CO2は出さない、けれどごみは出る。燃料はいらない、けれど機械は海外から買っている。

太陽光発電をはじめとした再エネには、環境面でも経済面でもメリットとデメリットがあった。

世界はCO2を出さない再エネをどんどん導入しているって耳にした。

 


出典:経済産業省 資源エネルギー庁『日本のエネルギー2020「各国の太陽光発電導入容量(2018年実績)」』(2021年2月発行)をもとにConcentが作成

 

小川「さらに、たくさんの電気を太陽光発電でつくるには広い土地が必要だけど、でも、国土面積あたりで見たら…」

 


出典:経済産業省 資源エネルギー庁『国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案』(2021年10月1日)をもとにConcentが作成

 

小川「しかも、太陽光発電はできるだけ斜面が無い平らな土地に設置するのが向いているので、平地面積あたりで見たら…」

 


出典:経済産業省 資源エネルギー庁『国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案』(2021年10月1日)をもとにConcentが作成

 

小川「『平地面積あたり』とは、現実的な費用で設置できる場所で考えるってこと。つまり、日本は狭く山が多いながらも頑張って、可能な土地にできる限り設置している状態なんだね」

 

 

小川「2030年に日本の電源の再エネ比率を36~38%にしようとなっているけれど、それって今の約4倍。再エネ電源を増やすためにできた固定価格買取制度によって、電力会社が再エネ発電所から電気を買い取る金額は年間3.8兆円に上ります。これを支えるために国民全員で『再エネ賦課金』というお金を払っていて、一般的な家庭の負担額は年間約1万円。それを電気の使用料金とは別に払い続けているんだよ」

 

 

小川「現在、再エネは日本の電源全体の10%。一般家庭で年間1万円。じゃあ100%にするためには? 単純計算でおよそ1家庭あたり年間10万円になります。もちろん再エネの導入には賦課金以外のさまざまな費用がかかっているから、本当はもっと負担することになると思います。100%にするかしないかは、私たちが電気代とは別にこのお金を払ってもいいかってことだね」

 

 

小川「再エネを増やすアイデアとして、人里離れた土地に造ったらいいって話もあるけれど、そこに電線も引かないと電気は届けられない。都会などたくさん使う場所から離れれば、送るときのロスも大きくなる。発電だけじゃなく、届けることも考えないと、電気って使えないんだよね」

 

 

いろいろな面でメリットとデメリットがあった再エネ。しかも、海外に遅れていると思っていたら、そうでもなかった。

再エネ100%にするのはちょっと無理があるようだけど、世界にはそれを目指す国もある。これからの日本はどうしようとしているんだろう? 次回後編も、Conちゃんがリポート!

>後編に続く


取材協力:小川順子

一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 環境ユニット 気候変動グループ 研究主幹。経済学修士(国際経済学)。専門は地球温暖化政策分析、省エネルギー政策分析。国際エネルギー経済学会(IAEE)、エネルギー・資源学会に所属。