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これからの時代、火力発電って必要なの?専門家の山本隆三さんに聞いてみた(前編)

2024.05.01

Conちゃん火力

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第31回のテーマは「火力発電」。地球温暖化対策として、石炭や石油、LNGなどの化石燃料からの“移行を進める”ことがCOP28で世界的に合意された。一方、日本では化石燃料を利用する火力発電が約7割。「本当に移行できるの?」と疑問に思ったConちゃんが、日本への影響についてエネルギーの専門家に聞いてきました!

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Conちゃん、COPについて知る!

2023年11月から12月にかけてドバイで開催された「COP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)」。温室効果ガスの排出削減目標や気候変動対策について議論され、石炭や石油、天然ガス(LNG)などの化石燃料からの“移行(「transition away from fossil fuels」と記載されており、「脱却」という訳もあり)を進める”という表現が合意文書に盛り込まれた。

COPってよく聞くけど、「そもそもCOPって何?」と思ったConちゃん。ということで、今回はエネルギーの専門家に話を聞きました。

Conちゃん火力

山本さんは、住友商事地球環境部長やプール学院大学(現桃山学院教育大学)教授などを経て、現在、日本商工会議所、東京商工会議所の「エネルギー環境委員会」学識委員、NPO法人国際環境経済研究所所長などを務めるエネルギーのエキスパート。世界のエネルギー事情にとても詳しい。

Conちゃん火力

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山本「一般的にCOPって言うと、地球温暖化を防ぐにはどうしたらいいか、議論する会議を指すことが多いね。COP28はその第28回目の会議のことで、198の国・地域が参加したんだよ。だけど、実はCOPって気候変動に関する国際会議だけを指すわけではないんだ。COPは、『Conference of the Parties』の頭文字を取ったもので、『当事者の会合』って意味。だから、例えば、生物多様性をテーマにした会議など、世の中にはCOPって呼ばれるものは他にもたくさんあるんだ」

Conちゃん火力

山本「もともとは、1992年に『気候変動に関する枠組み条約』が採択されて、第1回のCOPが1995年に開催されたんだ。有名なのは、1997年の『京都議定書』。聞いたことあるんじゃないかな。先進国などを中心に、温室効果ガスの排出量を1990年と比べて2008年から2012年の期間に5%削減しましょうということが決まったんだよ」

Conちゃん火力

山本「ただ、インドや中国、アメリカなど排出量が多い国が削減義務を持たなかったこともあって、2015年の『パリ協定』で、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をしましょうということで、途上国を含むすべての参加国に対して努力目標として掲げられたんだよ」

 

Conちゃん、COP28の内容を知る!

Conちゃん火力

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山本「ストックテイクというのは、棚卸しを意味する言葉なんだけど、今回のCOP28で実施された『グローバルストックテイク』というのは、パリ協定の1.5℃目標達成に向けて、世界全体でどれぐらい取り組みが進んだかを評価する仕組みのこと。これから5年ごとに、進捗状況を評価するんだよ。

今回のCOPでは、「世界の気温上昇を1.5℃に抑える」という目標達成までに隔たりがあることが分かったんだ。だから、1.5℃目標を達成するために、2025年までに温室効果ガスの排出量をまずは減少に転じさせること、そして、2019年と比べて、2030年までに43%、2035年までに60%、減らす必要があることが確認されたんだよ」

Conちゃん火力

山本「パリ協定で、各国は5年ごとに削減目標を提出することが決まっているので、2025年を目途に、各国は次(2035年)の削減目標を出すことになるんだよ」

Conちゃん火力

山本「2030年までに再生可能エネルギーを世界全体で3倍にしましょうということや、エネルギー効率を世界平均で2倍に改善すること。また、排出削減対策をしていない石炭火力発電を段階的に減らしていくことや、原子力発電を活用しましょうといったことなどが合意されたんだよ。ちなみに、原子力が気候変動に対する解決策の一つとして正式に明記されたのは、今回が初めてなんだよ」

 

Conちゃん、日本への影響を考える!

Conちゃん火力

Conちゃん火力

山本「COP28では、2050年までに排出ゼロを達成するため、石炭や石油、LNGなどの『化石燃料からの移行を進める』ことが合意されたんだ。経済発展のため、価格の安い石炭などの使用をやめることができないインドや中国などの事情を考慮した表現なんだよ。ただ、現実的には、一次エネルギーにおいて、世界の8割がまだ化石燃料に依存しているので、実現するのはとても難しいと思う」

Conちゃん火力

(出典)国際エネルギー機関

Conちゃん火力

山本「日本も化石燃料が一次エネルギーの8割以上を占めていて、例えば発電の分野では、約7割が化石燃料を利用する火力発電なんだよ」

Conちゃん火力

出所:FEPC INFOBASE2023

山本「このグラフからも分かる通り、日本の電気の約7割は、「石炭」や「LNG」、「石油」などの化石燃料による火力発電が占めている。つまり、“化石燃料から移行”していくということは、この火力発電を減らしていく必要があるということなんだよ」

Conちゃん火力

山本「約7割も火力発電が占めているのだから、これを減らしていけば、当然、日本でつくる電気の量が減ってしまう。国際公約を守るために温室効果ガスの排出量をあと20年ちょっとでゼロにしていかないといけないけど、だからといって電力が足りなくなるのは困るよね。これらを両立するのはとても難しいと思わない?」

Conちゃん火力

山本「電気は、需要と供給をいつも一致させておくことが必要なんだけど、例えば、太陽光なら日照時間次第、風力なら風の状態次第で発電量が変わってしまうよね。下手すると、この需要と供給のバランスが崩れてしまって、停電してしまう恐れもある。電気をためる蓄電技術もまだまだこれから。だから、再生可能エネルギーの利用にあたっては、発電量を調整しやすい火力発電がバックアップとして必要になるんだ」

Conちゃん火力

山本「原子力も増やせるといいけど 簡単に増やせるものではないんだよ」

Con「え?どうして!?」

山本「原子力発電所の建設に適した場所が必要だし、建設期間が約20年と他の発電方法と比べてとても長い。そして、何より地域の理解を得ながら進めていくことが必要なので、そう簡単に増やすことはできないんだよ。東日本大震災以降、多くの原子力発電所が停止しているので、今は全国の電力会社が原子力発電所の安全対策をしっかり実施したうえで、地域の理解を得ながら再稼働を進めているところなんだ」

Conちゃん火力

山本「温室効果ガスを減らしつつ、電力が不足しないようにしないといけないし、加えて電気代のことも考えないといけないから、正直、とても難しい課題だと思うよ。とはいえ、だからと言ってあきらめるわけにはいかない。今は非常に難しい議論をしている段階だということをまずは理解して、現実的な対応をしてくことが必要だね」

COP28で議論・合意された内容が、日本のこれからにとって大きな影響を及ぼすことを知ったConちゃん。約7割を火力発電が占める日本は、今後どのように進むべきか、次回、後編でリポートしていきます!

>後編に続く


取材協力:山本隆三

NPO法人国際環境経済研究所所長。常葉大学名誉教授。京都大学卒。住友商事地球環境部長、プール学院大学(現桃山学院教育大学)教授、常葉大学経営学部教授を経て現職。経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。現在日本商工会議所、東京商工会議所「エネルギー環境委員会」学識委員などを務める

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