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脱炭素社会の実現と経済成長のカギはエネルギー!?専門家の山本隆三さんに聞いてみた(後編)

2024.05.01

Conちゃん火力

日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材! 第32回のテーマは、前回に引き続き「火力発電」。前編ではCOP28で合意された内容などをお伝えしましたが、後編では、電力供給の約7割を火力発電が占める日本が、これからどのように進むべきか、エネルギーの専門家に聞いてきました!

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Conちゃん、火力依存が心配になる!

2023年11月から12月にかけてドバイで開催された「COP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)」。再生可能エネルギーや原子力発電の利用促進が掲げられたり、温室効果ガスの排出削減目標を再設定することが決められたり、化石燃料から“移行(「transition away from fossil fuels」と記載されており、「脱却」という訳もあり)を進める”ことが合意されたりしたことを知ったConちゃん。

>前編はこちら『これからの時代、火力発電って必要なの?専門家の山本隆三さんに聞いてみた(前編)』

そして、日本は電力供給の約7割を火力発電に依存していることも知った。そもそも、なぜ日本は火力発電がそんなに多いのだろうか。今後、どのように対応していくべきなのか。

Conちゃん火力

Conちゃん火力

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山本「日本は、オイルショックを経て、石油火力の割合を減らしつつLNGや原子力の活用を進めてきたけど、東日本大震災があり、国内のすべての原子力発電所が一旦運転を停止してしまったんだよ。だから、その分を火力など他の発電方法でまかなう必要があったんだ。もちろん再生可能エネルギーも活用しているけど、結果として、現在は火力発電が約7割を占めているということなんだよ」

Conちゃん火力

山本「温暖化対策のことを考えると、『火力発電は二酸化炭素(CO2)が出るからダメじゃないか!』となるだろうけど、そこは何を優先するのかということだね。海外の事例を見ても、人々の暮らしを守るためには、『エネルギーの安定供給』と『価格』が1番大事というのが国や国民の本音なんじゃないかな。

ロシアによるウクライナ侵攻を機に、天然ガスの価格が上がったことで、例えばドイツでは電気代が約1.5倍、イタリアでは約4倍になるなど、ヨーロッパの国々で、電気代が大幅に上がった。そのとき何が起きたかというと、安いけど、天然ガスよりもたくさんCO2を出す石炭をみんな使ったんだ。つまり、いざというときに優先するのは、安定供給や価格で、温室効果ガスの削減はその次ということだね。特にドイツにいたっては、環境に優しいといったイメージを持っているかもしれないけど、実態としては発電の3割は石炭を使っている。そういった諸外国の、国益を考えたしたたかさもあるということをきちんと知って、日本として現実的な対応を選択することが、とても大事なことだと思うよ」

 

Conちゃん、火力と環境の共存を考える!

Conちゃん火力

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Con「水素?アンモニア? 混焼ってなに? 埋めるってどういうこと?」

山本「今ある火力発電の設備を利用しながら、燃料となる天然ガスに水素を、石炭にアンモニアを混ぜて燃焼させることを混焼と言うんだよ。これによって、天然ガス、あるいは石炭だけで発電するよりも、混ぜた分の化石燃料を減らすことができるので、CO2の排出量を削減することにつながるんだ。

それから、CO2を地中に埋める『CCS(二酸化炭素回収・貯留)』といった技術の開発も進められているんだよ。発電所などから出たCO2を回収して、地中深くに貯める技術なんだ。国内では、電力会社などが、水素・アンモニアの混焼やCCSの実証実験を実施しているところなんだよ」

Con「なるほど、それなら火力発電を使いながら温室効果ガスを減らすことができるのか」

山本「こうした取り組みを進めながら、少しずつCO2を出さない発電方法の割合を増やしていくことが現実的な対応だね」

Conちゃん火力

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出典:国際エネルギー機関「Greenhouse Gas Emissions from Energy」2022 EDITIONを基に環境省作成

山本「これを見るとわかるよね。日本は、世界で6番目に多くのCO2を排出している国だけど、その排出量は世界全体の3%なんだ。そうやって考えると、日本の中だけで一生懸命にやってもほとんど貢献できないんだよ。ただ、日本はヒートポンプなど世界に貢献できる高い省エネ技術を持っているんだよね。温暖化防止に向けては、国内で地道に削減努力をすることはもちろんだけど、海外に技術を持ち込んで貢献していくということも大切だよ」

Conちゃん火力

山本「日本は世界に誇れる発電や送電の技術もたくさん持っているんだよ。例えば、『効率のいい石炭火力発電』の技術は世界トップクラス。この技術を旧式の火力発電を使っている途上国の国々に導入すれば、かなり有効に働くだろうね。それから、発電所でつくられた電気が家に届くまでの間に失われる『送電ロス』は、日本が圧倒的に低い。東南アジアなどでは送電ロスが非常に多いので、日本の技術を用いれば大きく改善できる。

火力発電は電気をつくる時にどうしてもCO2を出してしまうけど、発電効率を向上させたり、送電ロスを減らすことができれば、その分、資源や電気を無駄なく利用できるので、CO2の排出量を減らすことができる。日本が持つ高い技術を東南アジアなど海外でも積極的に導入していくことで、世界全体のCO2排出量を減らし、地球温暖化防止に大きな貢献ができると思うんだ」

 

Conちゃん、これからの日本の対応に期待する!

Conちゃん火力

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山本「今の日本は10年以上、原子力発電所を新しくつくっていないよね。つまり、この間に新設するために必要な技術や人材が減ってしまっているので、そうした技術や人材をいかに確保するかが重要なんだ。現在、海外で原子力発電所を計画通りに新しくつくることのできる国は、ロシア、中国、韓国の3か国と言われている。フランスは20年ぶりに原子力発電所をつくり始めたけど、大幅に予算と工期を超過しているんだ。アメリカは30年ぶりにつくろうとしたら、エンジニアがいなくて中国から呼ぶしかなかった。一度、発電所の新設をやめてしまうと、技術や人材が失われてしまうんだよね」

Conちゃん火力

山本「今後、日本における技術や人材が失われてしまって、日本で新しく原子力発電所をつくる、あるいは建て替えるとなったら、韓国からエンジニアを呼ばないと難しくなるかもしれない。そうならないためにも、日本が持つ原子力技術を、これから発電所を新設しようとしている東南アジアや中東で活かしていくことも、日本の技術や人材を守るための大事な取り組みの一つになると思うんだ」

Conちゃん火力

山本「最近よく話題にあがるデータセンターや半導体工場などが増えると、今よりもっと電力が必要になるし、水素社会の実現に向けて、2050年に2,000万トンもの水素が必要になるとも言われている。その場合、水素を水の電気分解でつくると電力需要が今の倍になるという試算もあるんだよ。

脱炭素社会の実現に向けては、電気自動車の導入など電化も進んでいくだろうから、需要が増えて、今後も発電所を新しくつくることが必要になると思う。しかも、温室効果ガスを出さない発電方法が理想だね。それから、日本の経済成長のためには、いかに安い電気を安定して確保するかということも重要だけど、経済政策の観点から考えると、日本製の発電所をつくることもポイントだね。

風力発電や太陽光発電だけを一生懸命つくっても、それらの発電設備のほとんどが中国製なので、日本の経済成長にはつながらない。国内で設備を作ることで技術を維持・向上させ、さらには雇用を生み出し、その対価として高い給料を国民に払う。日本は、自国の経済成長のためにも、そうしたことを、エネルギーや電力の分野でも考えないといけないんだよ」

Conちゃん火力

山本「中国頼みになってしまうということを除いて考えても、エネルギーを安定して供給するためには、“再生可能エネルギー100%”というのは難しい。かといって、火力や原子力だけというわけにもいかない。

日本としては、火力発電を残しながら、2050年の脱炭素社会の実現に向けて、できることを少しずつ進めていって、その中で国内の産業が発展していく方法も考えていきましょうということだと思うんだよ。

つまり、経済安全保障や経済成長も意識しつつ、日本の国情に応じたエネルギーミックスの実現が必要になるんだね」

Conちゃん火力

環境面だけで見れば、化石燃料を使う火力発電は少しずつなくしていった方がいいのかもしれない。でも、安定供給やコスト、再生可能エネルギーを利用するにあたっての調整役、海外への技術貢献など、火力発電の重要性をあらためて知り、これから日本としてどう進むべきか、しっかり考えていこうと思ったConちゃんでした。


取材協力:山本隆三

NPO法人国際環境経済研究所所長。常葉大学名誉教授。京都大学卒。住友商事地球環境部長、プール学院大学(現桃山学院教育大学)教授、常葉大学経営学部教授を経て現職。経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。現在日本商工会議所、東京商工会議所「エネルギー環境委員会」学識委員などを務める

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