
日本を取りまくエネルギーの今を伝えるべく、Concent編集部きっての好奇心旺盛なCon(コン)ちゃんが突撃取材!今回のテーマは、2026年4月にスタートした「排出量取引制度」。地球温暖化の原因の一つであるCO2(二酸化炭素)の排出量を減らそうと始まった制度だが、「排出量取引って、何だか難しそう……どういう制度?」と、疑問に感じたConちゃんが、エネルギー・環境問題の専門家である竹内純子さんにこの制度が導入された背景や仕組みについて教えてもらいました!
Conちゃん、地球温暖化の今を知る!
「地球温暖化ってよく聞くけど、どれくらい進んでいるんだろう?」「実際、私たちの生活にどんな影響があるんだろう?」。脱炭素やカーボンニュートラルという言葉をよく耳にするようになって、こんな疑問を感じている人は少なくないのでは?
地球温暖化の原因の一つと言われるのが、私たち人類が長年にわたって大気中に放出してきたCO2。CO2の排出を続けてきたことで徐々に進んだ地球温暖化は、もう将来の話ではなく、すでに私たちの現在の暮らしに影響が出てきているという。
そこで、CO2による地球温暖化のリアル、CO2排出量の削減に向け2026年度から始まった「排出量取引制度」について知るため、Conちゃんはエネルギー・環境問題の専門家である竹内純子さんのもとへ向かった。



※2024年実績(気象庁2025年3月発表資料より)
竹内「もちろん、1年間の平均気温だけで判断はできないけれど、この傾向が続くと私たちの生活にも大きな影響が出るかもしれないんだよ。
CO2の排出量には、エネルギーの消費量が大きく関係しているんだ。人間が大量にエネルギーを使うようになったのは、18世紀の産業革命から。それ以前は、薪(木材)や家畜のフンなどエネルギー密度が小さい燃料を使っていたんだけど、産業革命で大量のエネルギーが必要になり、蒸気機関の普及とともに石炭を大量に消費するようになったことで状況が一変、CO2の排出量が増えるようになったんだよ。
その後、大量生産や自動車・飛行機の普及、窒素肥料の製造技術が開発されて人口が大きく増えたことなどによって、石油や天然ガスなどの化石燃料を使う量もどんどん増えていったんだよね。当然CO2が大量に放出されるようになり、その影響で地球の平均気温が上昇していて、産業革命の前と比べると、2023~2025年の3年平均では約1.5℃も上がったと観測されているの。
気温が上がることで、大雨や洪水、熱波や森林火災などの異常気象が頻発したり、海面上昇や農林水産漁業への影響、感染症などさまざまな課題を引き起こしたりすることが懸念されているんだよ」


出典:気象庁「日本の気候変動2025-大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書-」(2025年3月)より改変
竹内「そうなったら大変だから対策を急ごうと、世界各国は1992年の気候変動枠組条約の締結以来、毎年会議を開いて対策を議論しているの。でも環境への取り組みは、コストを負担するなど自ら取り組んだ人にメリットが生じるわけではないから、取り組みを広げること、続けることが難しいんだよね。
人口が増えたり経済が成長したりすれば、エネルギーの消費量は増えて、基本的にはCO2排出量も増えてしまうの。なので、現実にはリーマン・ショックやコロナ禍のように経済が停滞していた時期を除いて、CO2の排出量はずっと増え続けているんだ」
Conちゃん、排出量取引制度誕生の背景に気づく!
今、地球温暖化が深刻な状況になっていることはわかった。でも竹内先生は、もう一歩踏み込んで、この問題を語り始めた。CO2を減らすことは、遠い未来のためだけじゃない。日本の産業や私たちの暮らしを守るエネルギー安全保障にも、深く関わっているのだという。


竹内「『日本は環境対策が遅れている』という意見もあったりするけど、1970年代に2度のオイルショックを経験して、エネルギー効率を高めることに国を挙げて取り組んできた歴史があるの。電気の作り方も、火力だけに頼るのではなく、原子力や再生可能エネルギーなどほぼ国内で作れる電源を増やしてきたんだよ。日本は火力発電に使う化石燃料(石油・石炭・天然ガスなど)のほとんどを輸入に頼っているから、省エネを進めることでエネルギーの使用量そのものを減らして、海外依存のリスクを減らしてきたんだよ。
そして、エネルギーのコストはあらゆる製品・サービスの価格に影響するから、省エネは価格競争力を上げる取り組みでもあったの。ヒートポンプや省エネ家電などの世界トップクラスの技術力が生まれたのも、そうした背景があったんだよね。省エネは国際競争力にも直結する死活問題だったんだ」

竹内「私たちの社会が使っているエネルギーの全体像で言うと、電気は3割くらいで、あとの7割くらいは化石燃料に頼っているんだよ。例えば自動車はガソリンを燃やして動いているし、おうちの給湯器はガスを燃やしてお湯を作るでしょ?こうした機器のエネルギー消費を減らすには、燃費改善の技術開発を頑張るしかないんだよね。もちろん、私たちがエコドライブを心掛けるということも大切だよ。
でも、電気はとても効率が良いエネルギーだから、自動車や私たちが使う設備を『電気で動く』ものに変えて、同時に電気の作り方を再生可能エネルギーや原子力などに変えていくことで、とても効率の良い省エネ社会になるの。我慢や節約の意識だけが省エネではないってこと。こういう省エネでCO2も減らして、同時に、エネルギー安全保障の効果も上げていきたいよね」

竹内「地球温暖化対策を進めようという国際的な議論を受けて、日本でも2020年に政府が『2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする(=カーボンニュートラル)』を目指すことを宣言したんだ。その後、『2050年のカーボンニュートラル実現』に向けて、『GX(グリーントランスフォーメーション)推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)』という法律を制定したんだよ。
GXとは、脱炭素を実現しながら持続可能な経済成長も目指すという取り組みのことで、その一つの手法として『カーボンプライシング(炭素の価格付け)』という考え方があるんだよ。 “CO2を出すとコストがかかる仕組みなの」

竹内「もう少し具体的にいうと、カーボンプライシングの導入は、企業などが排出するCO2に値段を付けて、排出する量に応じて金銭的な負担をかけることによって、『CO2をたくさん排出することは損になる』『CO2を減らせば得をする』というように行動を変化させることが目的なんだよ。
例えば、CO2排出分のコストを織り込んで商品やサービスの価格が決まるとき、同じ技術や製品であればCO2排出量が少ない方が安くなるから、企業も消費者も『お得』な方を選ぶようになるよね。そうなれば、企業は自然とCO2を減らす工夫をしたり、省エネ技術などへの投資を進めたりするようになるという考え方なんだ。つまり、市場の力を使ってCO2削減を促す仕組みなの。
カーボンプライシングには、排出量に対して税金をかける『炭素税』という仕組みや、CO2を排出できる量を取引する『排出量取引』などの仕組みがあって、その中で、日本で2026年4月からスタートしたのが『排出量取引制度』なんだよ」
Conちゃん、排出量取引制度の仕組みを学ぶ!
「排出量取引制度」と聞いても、何をどうするのかピンとこないConちゃん。竹内先生に、できるだけわかりやすく教えてもらった。


竹内「この制度に参加が義務付けられているのは、電力、鉄鋼、化学、セメント、石油など年間10万トン以上のCO2を排出する大規模企業だよ。制度の仕組みは、まず、国が企業ごとに排出できるCO2の量の上限(=排出枠)を決めて、その『排出枠』を企業に無償で配るんだ。
すると、企業は省エネ設備の導入や脱炭素エネルギーの利用などによりCO2の排出を減らす努力をするんだけど、CO2の排出量を上限より少なくできた企業は、『余った枠』を市場に売ることができるんだよ。逆に『排出枠』を超えてCO2を排出してしまった企業は、『超えた分』を市場で買って補う必要がある、そういう仕組みなの。このように『排出枠』の売買を市場で行うことを『排出量取引』というんだよ」

出典:経済産業省「排出量取引制度」
竹内「排出枠を市場から買うのか、省エネ投資などをして排出量を減らす努力を行うのかを、企業が自分で選ぶことになるよね。今すぐ投資できない状況なら排出枠を買うことで対応するのもいいけど、長い目で見ると省エネや脱炭素エネルギーに投資して、CO2排出削減を行う方が有利になるように設計されているんだ。制度によって、企業の環境対策が単なるコストではなく、総合的に見た際にメリットが生まれるようにしてるんだね」

竹内「参考までに、CO2の取引価格は1トン当たりの価格の幅(上限4300円・下限1700円※2025年12月19日経済産業省公表)が設定されているんだよ。これが高いのか安いのかはわからないかもしれないけれど、企業がこれくらいの価格なら環境対策に投資するだろうという水準で設定されているよ。同じような制度を導入しているEU(欧州連合)では1トン当たり数千円~1万円(2024年時点)ほどで、日本より高い水準になっているんだけど、いきなり高い価格を設定すると経済への悪影響が出る可能性もあるから、段階的に定着させていくための配慮なのかもしれないね」
排出量取引制度は、企業が環境対策に取り組むよう誘導する新しい仕組みだった。果たして、この排出量取引制度が経済や社会、僕たちの暮らしにどんな変化をもたらすのか。そして、CO2を出すことにコストがかかる社会の中で、僕たちは何を意識して暮らしていけばいいのか。その問いに、後編で答えていきます!
取材協力:竹内純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員/U3イノベーションズ合同会社共同代表/東北大学特任教授。専門はエネルギー・温暖化政策。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、東京電力株式会社に入社し、主に環境部門を担当。福島第一原子力発電所事故を機に独立し、研究者となる。東京大学大学院工学系研究科にて博士(工学)を取得。国連気候変動枠組条約交渉に10年以上参加するほか、日本成長戦略会議やGX実行会議など多数の政府委員を務めながら、エネルギー・温暖化政策の研究・提言に取り組んでいる。
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