夏から秋は、特に台風や豪雨などの災害が起こりやすくなる季節。さらに、昨今は大型の地震への警戒も高まっている。防災月間でもある9月、防災関連の記事を改めてチェックして、災害への備えを考えてみよう。
2019年9月、千葉県に台風15号が上陸。その際、8万2000棟を超える住宅に被害が生じ、64万戸余りが停電しました。長期停電によって不便な生活を強いられる被災者の姿を通じて、「備蓄」に注目が集まりましたが、あれから数年経った今、備えることの大切さを忘れてしまっている人も多いのでは?
そこで今回は、管理栄養士・防災士・災害食専門員の今泉マユ子さんに在宅避難の備えについてお話を聞きました。
管理栄養士・防災士・災害食専門員の今泉マユ子さん
避難所は満員の可能性も!?「在宅避難」のための備えが必要
――はじめに、今泉さんは普段どのような活動をされているのでしょうか。
管理栄養士・防災士・災害食専門員の資格を持っていて、管理栄養士歴は30年以上になります。東日本大震災をきっかけに防災食の研究を始め、現在では防災食アドバイザーとして全国で講演活動を行っています。メディアでは「レトルトの女王」「缶詰の達人」「保存食の達人」とも紹介され、SDGsや食育にも力を注いでいます。
――災害が起こったらどこに避難すればいいのか判断に迷いそうです。どのように避難先を決めるべきでしょうか。
今、多くの自治体では「在宅避難」を勧めています。もともと避難所の数が足りていなかったところ、新型コロナウイルスの影響で1人当たりのスペース基準が見直され、避難所の収容可能人数が大幅に減少しているためです。避難所は地域住民全員が入れるわけではないということを、まずは知っておいてほしいですね。
プライバシーが確保できて避難所に比べるとストレスの少ない在宅避難ですが、災害時に在宅し続けるには、3つのポイントをクリアにしておく必要があります。
1.自宅の周辺に危険がないか
自宅の周辺に、氾濫しそうな川や土砂崩れしそうな山など差し迫った危険がないか。災害が起こる前にハザードマップで確認しておきましょう。
2.家の中が安全か
家の耐震補強、家具などの転倒・落下・移動防止対策ができているか。どんなに道具や食料の備えが万全でも、家の中をまず安全な場所にしなければ命は守れません。在宅避難することを想定して、災害が起こる前に家具の転倒防止など対策しておきましょう。
食器棚、冷蔵庫、本棚などは、いざという時に備えて転倒防止対策を(sanae / PIXTA)
3.備えがあるか
水・カセットコンロ・食料・懐中電灯・衛生用品・携帯トイレ・ラジオなどの備えがあるか。ただし、懐中電灯があっても電池がなければ使えません。パスタがあってもカセットコンロとボンベがなければ調理はできません。大抵は「使うもの」に対して「使うために必要なもの」があります。自分にとって必要なものを書き出して、実際に使ってみるといいでしょう。電気、ガス、水道がストップしても、備えがあれば在宅避難することは可能です。
非常時に「使うもの」と「使うために必要なもの」を考えてみよう(にしやひさ / PIXTA)
以上の3つのポイントのどれか1つでも欠けていれば、在宅避難はできません。その場合は、避難所や親戚・友人の家、ホテルなどに避難することになります。在宅避難するためにも、災害が起きてからではなく、今できることをやっておくことが大切です。
防災食は「普段から食べ慣れたもの」を用意。栄養バランスも考慮して
――平時から自宅にとどまる準備をしておくことが大切なのですね。では、防災食は何を準備すべきでしょうか。
絶対に備えておいて欲しいのが水です。水は1日1人あたり3リットル×最低3日分が必要で、1週間分あるとより安心です。家族が多いとかなりの量になりますが、子ども部屋や寝室など各部屋に置いておくことをおすすめします。飲料水は棚やベッド下、押し入れに、生活用水は空いたペットボトルに水道水をふちいっぱいまで入れて、トイレや物置きなどに分散して場所を確保しましょう。
保管場所の工夫をしながら水を分散備蓄
食べ物に関しては「これを備蓄しておけばOK」というような全員に共通するものはありません。なぜなら、食べたいものは一人ひとり違うからです。例えば、私は毎朝プルーンを食べているので、災害時にも同じものを食べられるよう、普段から多めに備えています。コーヒーが好きな方はコーヒーでも良いでしょう。災害時は、非日常が続くことがストレスになりますが、いつもと同じものを口にすることでホッとするんです。逆に、普段食べ慣れないものを災害時に「仕方なく」食べることは、ストレスにつながりそうですよね。長期保存ができる防災食にしても、まずは一度食べてみて、好きなものを見つけてほしいですね。
――普段食べているものを多めにストックしておくだけでも災害用の備蓄になるんですね!あとは、避難中の栄養バランスも気になります。
健康を維持するためにはもちろん栄養バランスも大事です。防災食を「エネルギーとなる糖質や脂質」・「血や肉になるタンパク質」・「体の調子を整えるビタミン、ミネラル、食物繊維」の3つのカテゴリーに分け、それぞれまんべんなくストックしておくといいでしょう。
・エネルギーとなる糖質や脂質
アルファ化米、パックご飯、餅、パンの缶詰、レトルトおかゆ、麺類など
・血や肉になるタンパク質
さば缶、ツナ、さきいか、コンビーフ、焼き鳥缶など
・体の調子を整えるビタミン、ミネラル、食物繊維
野菜ジュース、ミックスビーンズ、乾燥野菜、ドライフルーツ、フルーツ缶詰、海藻類など
おすすめは、ドライパックの缶詰やパウチです。ドライパックは開けてすぐにそのまま食べられて、災害時に不足しがちな野菜類も補えます。大豆、ひじき、ミックスビーンズ、コーン、ごぼう、キノコなどの種類があり、我が家では普段から活用しています。
また、長期常温保存できる豆腐もおすすめです。豆腐は水分補給にもなりますし、紙パックを切ってそのままスプーンで食べられます。
フェーズフリーで「日常=防災」に。ローリングストックを実践しよう
――防災食として買ったものを棚の奥にしまい込んだまま忘れてしまい、賞味期限切れになってしまうことがよくあります。
「防災食」や「非常食」と呼ばれるせいか、災害が起こった非常時に食べるものと思い込んでいる人は多いですよね。そこで大事なのが「フェーズフリー」という考え方です。フェーズフリーとは、「日常」と「非常時」という2つのフェーズ(局面)をフリーにするという意味。普段使っているもの、食べているものを、非常時にそのまま活用するんです。
そのためにもぜひやってほしいのが「ローリングストック」です。ローリングストックとは、普段食べているものを多めに買っておき、食べたら買い足すのを繰り返す方法です。ローリングストックをうまく回すには、食料品を非常用持ち出し袋にしまい込むのではなく、日常的に食べて消費することが大事です。
ローリングストックで備えることで、非常時も食べ慣れているものを口にできる(にしやひさ / PIXTA)
――「日常的に食べるもの」と「備蓄品」を分けて考えない方がいいんですね!
そうなんです。スーパーで冷蔵冷凍コーナー以外を見ると、そこにあるのは全部常温保存できるもの。シリアルも、ゼリー飲料も、乾物も、「こんなにたくさん種類があるんだ!」ということに気づくと、選べる食品ってすごく増えると思いませんか?普段からそれらを食事に取り入れて、好きなものは多めに買って置いておくことを繰り返すと、ローリングストックが習慣化していきますよ。
ローリングストックの習慣化には食品の「見える化」が大事
――ローリングストックで食品を上手に管理する方法を教えてください。
賞味期限を切らさないこと、そして、普段の食事で食べたいものが選べるように、「見える化」することが大事です。そこで、我が家で実践している管理法をいくつかご紹介します。
・賞味期限をマジックで書く
缶詰の賞味期限は、黒マジックで大きく書いています。戸棚に黒マジックを常時置いておくと、缶詰をしまう時にパッと書くだけなので簡単です。
賞味期限の「見える化」を意識
・レトルト食品は本棚に並べて保管
レトルト食品の箱は本棚に並べています。左側に賞味期限の近いものを置き、なるべく左から取ることを家族でルール化しています。本棚に並べるとスライドしやすく、取ったところが歯抜けになるので、ないことがすぐにわかります。ポイントはいろいろな種類を置いておくこと。非常時でも、その時の気分によって食べものを選ぶことが安心感につながります。
「選べるワクワク感があるようで、子どもたちにも好評です」と今泉さん
・賞味期限ごとにかご分けする
食品の種類別に分けると賞味期限を管理するのが難しくなるので、賞味期限ごとにかご分けしています。いろいろな食材が混じっていても、「サラダにツナを使おうと思ったけど、アサリの賞味期限が切れそうだから今日はこっちにしよう」と、その中から工夫して使うようになります。
・食べる日を決めて防災食を活用する
毎週水曜日、毎月1日など、日にちを決めて防災食を活用することをおすすめします。防災食の量や味、食べ方を知ることができますし、好きな防災食を見つけて備蓄のレパートリーを増やすきっかけにもなります。
もしもの時に備えて、普段からシミュレーションをしておこう
――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
普段やってないことは災害時に急にはできません。普段から「もしも」を想定したシミュレーションをしておきましょう。我が家は子どもが2人いるのですが、“防災訓練”となると身構えてしまうので、家族で楽しみながらできる「防災ごっこ」をよく行っています。私がおすすめしているのは、「もしもしごっこ」、「停電ごっこ」、「断水ごっこ」の3つです。
「もしもしごっこ」では、毎月1日、15日に体験利用ができる「災害用伝言ダイヤル(171)」を使ってみましょう。171番に電話をかけるとメッセージを登録・確認でき、自分の状況を知らせることや家族や親戚の安否を知ることができます。災害時は電話がつながりにくくなるので、いざという時に重宝するかもしれません。30秒で伝言を入れなくてはいけないので、初めてだと結構焦ると思いますよ。
毎月1日と15日は「災害用伝言ダイヤル(171)」の体験利用ができる(にしやひさ / PIXTA)
「停電ごっこ」では、夜真っ暗にして懐中電灯でご飯を食べてみてください。意外と暗いと感じて「懐中電灯やランタンを増やしておこう」と思うかもしれません。「断水ごっこ」では、備蓄している水だけで調理してみると、「水ってこんなに必要なの!?」と気づくことになるでしょう。
災害対策には色々なやり方があるので、普段から試してみることで自分に合う方法を見つけてみて下さいね。
いつ起こるかわからない自然災害。日頃から意識的にローリングストックしておくことは、いざという時の助けになるだけでなく、普段の食生活も豊かにしてくれそうですね!
2019年9月、千葉県に上陸した台風15号の影響により最大64万戸あまりで停電が発生し、完全復旧までに約2週間かかりました。この時は、強風の影響で鉄塔や電柱などの設備に被害が出て停電が長期化しましたが、実は、日本の停電発生頻度および停電時間は極めて少なく、世界トップ水準なんです。電気事業連合会の調べによると、2022年度のお客さま1軒当たりの年間停電回数は、0.04回、停電時間は、6分です。この実績が、「電気はいつでも当たり前に使えるもの」と思われている所以でしょうか。ただ油断は禁物ですので、もしもの時のために停電への備えはしっかりとしておきましょうね。
今泉 マユ子(いまいずみ まゆこ)
管理栄養士として大手企業の社員食堂、病院、保育園に長年勤務。食育、災害食、SDGsに力を注ぎ、2014年に起業。管理栄養士の他、調理師、食育指導士、防災士、日本災害食学会災害食専門員など多数の資格を有し、各ジャンルの知識を踏まえた災害時の備えについて、全国で400以上の講演を行う。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌など多方面で活躍。主な著書に『かんたん時短、「即食」レシピ もしもごはん 』(清流出版)、『親子で学ぶ防災教室 災害食がわかる本』(理論社)。
『かんたん時短、「即食」レシピ もしもごはん 』(清流出版)
企画・編集=Concent 編集委員会
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私たちの生活の中で、何気なく使っている“電気”。身近にありすぎて、なかなかその大切さを実感しづらいが、もし本当に電気が使えなくなったら…?この「電気なし生活」では、人気の漫画家が実際に電気を使わない生活にチャレンジ。私たちの暮らしになくてはならない電気について、改めて考えてみよう!
2024年3月16日、日本大学文理学部次世代社会研究センター「RINGS」と日本大学櫻丘高等学校の共同企画「探究学習成果発表会」が開催されました。発表会は、高校生、大学生、社会人が1つのグループとなってテーマごとに探究を進めるRINGSの「高大連携事業」が企画したもので、電気事業連合会もプロボノ(職務上の専門知識・技術を生かして行うボランティア)として参加しています。そこで今回は、探究学習成果発表会に潜入取材!発表会のレポートとRINGSの「高大連携事業」について詳しくお届けします。
RINGSの「高大連携事業」とは?
RINGSは、2020 年12 月に日本大学文理学部に設立された研究センターです。日本大学の学生や教員に限らず、他大学、自治体、企業、団体等、多種多様な立場の人々が参画し、コミュニティーベースで社会課題解決に向けた基盤の整備を目指しています。
RINGSは「名目だけの産官学連携」からの脱却を目指し、社会課題を解決していくためのコミュニティーベースの研究センター
そのRINGSで2021 年11月から実施しているのが、「高大連携事業」です。「高校生に素敵な学びを届け、かけがえのない思い出を作ってもらう」、「様々な人と出会い、自分の可能性を広げ深める」という理念のもと、高校生、大学生、プロボノとして参加する社会人、を交えたグループをつくり、探究学習を行っています。
今年度は2023年11月から、3グループが各グループのテーマに沿って探究を進めました。その学習の締めくくりの場となるのが、日本大学文理学部センターホールで開催された「探究学習成果発表会」です。
探究学習発表のテーマは「高校生が伝えるカーボンニュートラル」
「高校生が伝えるカーボンニュートラル」をテーマに、壇上で探究の成果を発表する高校生たち
「高校生が伝えるカーボンニュートラル」をテーマとするグループには、電気事業連合会がプロボノとして参加しており、高校生6名、大学生メンターの佐藤大悟さん、古賀日南乃さん、プロボノの電気事業連合会の佐竹智也さんというメンバー構成です。高校生たちは、大学生メンターから研究の進め方についてアドバイスをもらいながら、佐竹さんから適宜レクチャーを受け、カーボンニュートラルについての見識を深めていったそうです。
檀上では、学校で実施したカーボンニュートラルについてのアンケート結果や、日本における部門別のCO2排出量のグラフ、企業による様々なカーボンニュートラルへの取り組みをスライドで表示しながら、カーボンニュートラルに関する調査結果を発表。今回のプレゼンテーションのテーマである「カーボンニュートラル」を目指す重要性を訴えました。
そして、自分たちが今すぐに実践できる行動として、高校生の1日のスケジュールに沿って、「朝起きたらカーテンを開けて、電気ではなく自然光を使うことで節電する」「昼食は使い捨て容器ではなく、洗って使えるお弁当を使うことでゴミの排出を抑える」など、二酸化炭素の排出削減につながる行動の具体例を提案しました。
投影するスライドも高校生たちが手掛けたもの。アンケートやグラフを効果的に用いて、カーボンニュートラルを目指す重要性を説明した
地球温暖化の現状、そしてなぜカーボンニュートラルを目指すべきなのかが再確認できた今回の発表。他グループの高校生たちも熱心に聞き入り、カーボンニュートラルについて考えるきっかけとなったようです。
発表を終えた高校生たちの感想を聞いてみた!
発表会終了後、参加した高校生の皆さんに感想を伺うと、「他人ごとのように感じていたカーボンニュートラルが身近なことに感じられました」「普段接する機会のない社会人や大学生の方と一緒に取り組めて楽しかったです」と、充実感と達成感にあふれた表情で話してくれました。
初めはカーボンニュートラルというテーマに難しさを感じていた高校生たちでしたが、探究を進めるうちに楽しさややりがいを感じていったそう
メンターとして関わった大学生の佐藤さんにも話を伺うと、「発表に使うスライドの構成やデザインは、高校生たちにほぼ任せていたのですが、僕たちも使ったことがないアプリを駆使して、見事なスライドをつくり上げていました。彼らのポテンシャルの高さを感じました!」と驚きの様子。同じくメンターの古賀さんは、「高校生のみんながどうしたらやりやすいかを1番に考えて進めていきました。研究の進捗とともにみんなの仲が深まっていったことが、今日のすばらしい発表につながったのだと思います」と高校生のメンバーたちをねぎらっていました。
発表会の最後には高校生全員に修了証を授与。右から、プロボノとして参加した電気事業連合会の佐竹智也さん、大学生メンターの佐藤大悟さん、古賀日南乃さん、発表を行った高校生メンバーたち
RINGS「高大連携事業」のキーマンにインタビュー
普段の生活では接点を持つことの少ない高校生、大学生、社会人が関わり、探究を深めるRINGSの「高大連携事業」。さまざまな世代・立場の人がともに社会課題を考えるきっかけとなる、画期的な本プロジェクトについて、日本大学文理学部 情報科学科准教授/RINGSセンター長の大澤正彦先生と日本大学文学研究科教育学専攻博士前期課程2年/RINGS生・高大連携事業プロジェクトリーダーの谷本晃輝さんにお話を伺いました。
日本大学文理学部 情報科学科准教授/RINGSセンター長の大澤正彦先生(右)、日本大学文学研究科教育学専攻博士前期課程2年/RINGS生・高大連携事業プロジェクトリーダーの谷本晃輝さん(左)
――初めに、日本大学文理学部次世代社会研究センター「RINGS」を立ち上げたきっかけについて教えてください。
大澤先生:学校は、先生に言われた通りのことを上手にできる生徒が評価される傾向にあります。そうした現状は、学生を偏差値という指標で括って、一人ひとりの良さを理解することをおざなりにしている気がしたんです。産官学の壁を超えてさまざまな立場の人が連携するRINGSのような組織ができれば、学生が研究したいことや実現したいことをフォローアップし、新たな価値を創出できると考えました。
ちなみに、僕の夢はドラえもんをつくることですが、一人ひとりの良さを理解しようとしない世界では荒唐無稽に思われるでしょう。僕の場合はたまたま仲間に恵まれ、夢を認めてもらい、研究として夢を追いかけることができていますが、学生のみんなも言われたことをするだけではなく、自分がやりたいことを追いかけて生きていけるようになってほしいんです。誰かが決めた価値軸に従うのではなく、自分の価値軸を見つけ、それを応援してもらえるようなプラットフォームになればと、2020年12月にRINGSを立ち上げました。
――現在、RINGSには何名のメンバーが参加されていますか?
大澤先生:今は学生が約60名、外部のメンバーも含めると300名くらいです。RINGS立ち上げの際、大学側とかけあって内規を変更し、外部の人も参加できるようにしました。最初の時点で間口を広げたことが功を奏し、学生のみならず、自治体の方や研究者・技術者、企業に勤める方など、いろいろな方が入ってくれるようになったんです。結果として産官学の広い連携が実現し、オープンイノベーションが促進されています。学生でいえば、卒業後もRINGSのメンバーとして関わり続けてくれる人たちも多く、その輪は年々広がっています。
「僕はRINGSを立ち上げるために日大に来たようなもの」と話す大澤先生
1人の大学生の発案から始まった「高大連携事業」
――高大連携事業はどのようにスタートしたのでしょう。
谷本さん:高大連携は自分の提案から始まりました。自分自身、高校生のときに大人と一緒になってイベントを開催した経験があって、それによって視野が広がったことを実感したんです。その経験から、高校生が学校の外にも目を向ける機会を提供したいと考えていました。RINGSに加わってすぐの頃、大澤先生に自分の想いを話すと「じゃあ高大連携プロジェクトをやろう!」とその場で決定し、プロジェクトがスタートしました。
大澤先生:谷本くんと出会ったとき、彼の第一声は、「僕の夢は日本一の高校教師になることです」でした。1つのテーマを掘り下げる探究教育に情熱を注いでいることや、高校生のときの体験を熱く語ってもらう中で、彼の想いが叶う場所ができたらRINGSをつくった価値があると思いましたね。高大連携事業は谷本くんにリーダーを務めてもらい、今年で3年目に突入しています。僕自身も、谷本くんに探究について教わりながら学びを深めている所です。
――お話を伺っていると、先生と生徒の立場が逆転しているようですね。
大澤先生:冗談ではなく、僕の探究の師匠は谷本くんですから。当初、RINGSの構想に探究教育が入ってくることは全く想像していませんでした。彼から「探究」という言葉を教わって、これこそが自分が求めていたものだと気づくことができたんです。
RINGSは上も下もない、無重力型の組織です。誰が上、誰が下と固定する必要はなく、1つの目的に向かって進むときに、リーダーシップを取るのは誰か、リーダーを支えるのは誰か、ということが自然と決まっていけば良い。高大連携を例に挙げれば、僕よりも探究教育に熱量のある谷本くんがリーダーシップを取った方が取り組みは充実するはずですし、実際にそうなっています。立場や上下関係にとらわれていたら、良いものはできない。RINGSのメンバーとそんな関係性を築けていることが、僕はうれしいですね。
――高大連携事業に関わる高校生たちには、どういったことを期待していますか?
谷本さん:自分が理想とする探究活動は、たくさんの人やモノと関わり、夢や人生をつくっていくこと。学校という括りがあると、生徒にとっての身近な大人は先生くらいで、どうしてもコミュニティが内々になってしまいます。もちろん先生から学ぶこともたくさんありますが、「もっと外を見てみよう」と伝えたいんです。外に目を向ければ刺激をくれる人がいるし、人生を変えるきっかけを持っている人だっているかもしれません。そういった人たちに出会うきっかけを、高校生たちに届けるような活動でありたいです。もちろん高校生だけでなく、大学生も社会人の方も、高大連携を通していろんな人がたくさんの学びや思い出をつくっていけると良いですね。
「自分がたくさんの人と関わることのすばらしさを知ったからこそ、高校生たちに高大連携事業で探究に取り組んでほしい」と、谷本さんは熱い想いを語っていた
――「探究学習成果発表会」の講評では、高校生たちの発表内容のレベルが年々上がっているという話もありました。
谷本さん:僕自身も講評を聞いてうれしくなりました。高大連携に毎年参加している大学生もいますし、電気事業連合会さんをはじめ3年間ずっと関わってくださっているプロボノの方々もいらっしゃるので、経験から年々ブラッシュアップされているのだと思います。
大澤先生:先輩たちの経験が伝播することで、発表内容に厚みも出ていますよね。僕たちは「ノウハウ(know-how)」を貯めているのではなく、「ノウフー(know-who)」を行う組織なんです。困ったときには、ネットワーク上で誰に聞けば良いのか分かる。それがチームとしてのRINGSの強みにもつながっています。
――高大連携事業の今後の展望を教えてください。
谷本さん:「探究活動といったら高大連携だよね」と、学内外で言われるようなプロジェクトに成長させたいです。日大は付属高校が複数あることも特徴なので、そのスケールメリットを生かした探究活動を展開していきたいです。自分も付属高校出身なのですが、付属高校がこんなにたくさんあるのに、交流は部活くらいしかなかったんですよ。学校によって特色も異なるので、ミックスさせていけば何か面白いことが起きるかもしれない。高大の縦のつながりだけでなく、高校同士の横のつながりも広げて、いずれ大きなチームをつくりたいですね。
――大澤先生は今後RINGSをどのように展開していきたいですか?
大澤先生:僕が目指したいことをみんなで目指すことになると、結局、僕が引っ張っていく従来型の組織体制になってしまいます。僕の役目は、学生のみんなが思いっきり活動できる枠組みを広げること、そして崩れないように固めること。活動のキャパシティをいかに広げられるかが、僕の個人ワークだと思っています。まずは日大文理学部から、日大全体に広げるための足掛かりを探っています。ある程度満足するところまでRINGSが成長したら、僕は身を引いてドラえもんをつくることに集中します(笑)。
探究学習成果発表会では、発表する高校生たちがいきいきとした表情をしており、「高大連携事業」に懸ける谷本さんの想いがしっかり形になっている様子が伺えました。日本大学文理学部を起点に、自由な発想で活動の輪を広げるRINGSの活動にこれからも目が離せません。
記事中に出てくる「学校で実施したカーボンニュートラルについてのアンケート」。その調査結果によると、カーボンニュートラルという言葉を知っている人は多いものの、説明できるのは、高校生の1割程度で、教職員でも4割程度。メディアなどでは日ごろから、当たり前のようにカーボンニュートラルという言葉が使われていますが、思ったよりも世の中には伝わっていないことがわかり、ハッとさせられました。
企画・編集=Concent 編集委員会
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厳しい暑さが予想されている2024年の夏。電気料金の値上がりもあり、家計への影響を心配する人も多いはず。プロが教える省エネ・節電術をチェックして、賢く・快適に猛暑の夏を乗り切りましょう。
2024年3月14日、東京都内で「2025年大阪・関西万博パビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』キャラクターおよびロゴ発表会」が開催されました。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)に出展する電気事業連合会のパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』のキャラクターが初お目見えということで、Concent取材班が潜入取材!当日は、大阪・関西万博の公式キャラクター・ミャクミャクも登場し、会場は大いに盛り上がりました。その様子をレポートでお届けします。
タマゴをモチーフにしたパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』とは?
電気事業連合会 大阪・関西万博推進室 岡田康伸室長
この日登壇したのは、電気事業連合会 大阪・関西万博推進室の岡田康伸室長です。まずは『電力館 可能性のタマゴたち』のパビリオンについてプレゼンテーションがありました。
「電力業界は今、2050年カーボンニュートラルの実現とその先の未来に向けて、エネルギーの様々な可能性の追求に全力で取り組んでいます。大阪・関西万博に出展する電力館では、カーボンニュートラルのさらにその先を見据えた未来社会を、電力業界ならではの視点で描きます。エネルギーに関するたくさんの『可能性のタマゴ』を実際に体験していただき、エネルギーの可能性で未来を切り開くというメッセージをお伝えしたいと考えています」と、力強く説明される姿が印象的でした。
電気事業連合会のパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』(完成予想図)
こちらが『電力館 可能性のタマゴたち』の完成予想図です。このタマゴ型の建物は、ツルッとした曲面ではなく、様々な形の平面が組み合わさってできているボロノイ構造になっています。外郭はシルバーの膜で覆われていて、時間帯や天候、周囲の光の状況によって見え方が変化するそう。キランと光を反射する姿が “未来感”を醸し出していますね!
パビリオンの中では、タマゴ型のデバイスを手に持って歩き回り、様々な体験を通じて「エネルギーの可能性」を感じるコンテンツが用意される予定です。詳しい内容については現在準備中とのことで、今後の情報公開が楽しみですね!
パビリオンのキャラクター『可能性のタマゴ』が登場!
ここでいよいよ『電力館 可能性のタマゴたち』のキャラクター発表です。ざわつく会場に入ってきたのは、銀色に光り輝く大きなタマゴ!
報道陣の視線とカメラが向けられる中、足元を確かめながらゆっくりと歩みを進める『可能性のタマゴ』
キャラクターの名称は、ズバリ『可能性のタマゴ』です。電力館のコンセプトをストレートに表現したもので、実は一体だけでなく、様々な形、そして個性豊かなタマゴたちが数えきれないほど存在するんです!
様々な形のタマゴ1つひとつが『可能性のタマゴ』という名前を持っている
パビリオンの特徴である、「タマゴ型の外観」と「ボロノイ構造」との親和性を持たせてデザインされたのだそう。
どれもインパクトのある見た目ではありますが、ピョコピョコ動く手に少し尖った頭頂部・・・見れば見るほど愛着が湧いてくるキャラクターですよね。
応援に駆けつけてくれた、大阪・関西万博の公式キャラクター・ミャクミャクとの2ショット。カメラマンからの「決めポーズお願いします!」の声に一生懸命応えていた
目、鼻、口が無いように見えますが、実はタマゴの中には、「未来を切り開く可能性」が存在していて、殻の内側に目、鼻、口があるそうです。様々な形をした個性豊かなタマゴたちの殻が割れたときには、いったいどんなものが飛び出してくるのか…想像するだけでも面白いですね!
パビリオンのロゴには様々な形をしたタマゴが!
この日はキャラクターと同時に、『電力館 可能性のタマゴたち』のロゴも発表されました。様々な形のタマゴに、パビリオンの名称をあしらったデザインになっています。
『電力館 可能性のタマゴたち」のロゴ
これは、未来を切り開く可能性のタマゴは世の中に数多く存在していること、そして姿・形も様々で、それぞれに個性があるということを表現しているのだそう。
キャラクター誕生の裏話を岡田室長に聞いてみた!
発表会を終えて、ほっと一息つく岡田室長をConcent取材班が直撃。発表会では語りきれなかった、パビリオンのキャラクター『可能性のタマゴ』が誕生した経緯や想いをお聞きました!
「発表会は緊張しましたが、たくさんのメディアの方々にお越しいただけてうれしかったです!」と話す岡田室長
――――――ついにパビリオンのキャラクターが発表されましたね。
岡田室長:パビリオンの準備を進めている電気事業連合会の大阪・関西万博推進室のメンバーと悩みに悩んで、デザイナーさんや社外の方の力もお借りしながら、ようやく誕生したのがこの『可能性のタマゴ』です。ネットで検索するとわかるのですが、タマゴをモチーフにしたキャラクターはすでに星の数ほど存在しています。そこで我々は「絶対に既視感のないものにしよう」と、今回のデザインにたどり着きました。
――――――あまりに斬新なビジュアルで、登場した瞬間は会場の報道陣もザワついていました。
岡田室長:世の中では親しみやすさを全面に出したゆるキャラが流行っていますが、「可能性を感じてもらう」キャラクターとして、ちょっと尖らせて面白みを出していこうと。そして万博終了までの期間限定のキャラクターですので、インパクトで勝負しようという狙いもあります。
「みんなに愛されるキャラクターになっていこうね」という言葉が聞こえてきそうな岡田室長の柔和な表情
――――――『可能性のタマゴ』を初めて目にしたとき、率直にどう思われましたか?
岡田室長:もともとインパクトを出したいと思っていたのですが、想像以上のインパクトでした(笑)。びっくりしたのと同時に「これはいけるぞ」と期待値が高まりましたね。ぜひこれからいろいろなイベントに登場させていきたいです。
――――――『可能性のタマゴ』の手がピョコピョコと動くところが、とってもかわいらしいなと思いました。
岡田室長:手はこだわったポイントの1つです。どんな手の形にしたらいいのか、手の位置を前にするのか真横にするのか、上のほうか下のほうか…。何度も議論を重ね、最終的には一番動かしやすい場所にしようという結論に至りました。子どもが手を伸ばしたときに手をつなぐことができる、ギリギリの高さに設計しています。ぜひ見かけたら、『可能性のタマゴ』と握手してあげてください。
左右の手がピョコピョコ動く姿は、「楽しい」という感情を表現しているよう!
『電力館 可能性のタマゴたち』の斬新かつユニークなキャラクター『可能性のタマゴ』。これからどんなシーンで活躍するのか、ますます目が離せませんね!
企画・編集=Concent 編集委員会
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いつ起こるかわからない自然災害。ひとたび大地震が起これば、家の倒壊や停電、断水で、普段どおりの暮らしができなくなることも。そんなときに気になるのが、災害時のトイレ事情です。自宅のトイレは流していいの?事前に備えておくべきものは?今回はそんな災害時のトイレに関する疑問について、日本トイレ研究所代表理事の加藤篤さんにお伺いしました。
NPO法人 日本トイレ研究所代表理事の加藤 篤さん(提供:日本トイレ研究所)
「トイレ」を通してより良い社会づくりを
――はじめに、加藤さんが代表理事を務める日本トイレ研究所は、普段、どのような活動をされているのでしょうか。
日本トイレ研究所は「トイレを切り口に社会を良くしていく」ことをコンセプトに活動しています。ここ数年は特に、「災害時のトイレ対策の推進」、「子どもやお年寄りが健康的に排泄するための環境づくり」、「街中のトイレのバリアフリー」の3つに力を入れており、トイレにまつわる情報をホームページやYouTubeなどで発信しています。
排泄における健康問題、し尿処理の改善といった課題は、多岐に亘る分野の人々がつながり話し合う必要があります。そのために、フォーラムやシンポジウムの開催、講演活動のほか、子どもたちにトイレにまつわる出前授業などを行っています。また、被災地まで避難所のトイレ利用や衛生状況に関する調査に行くこともあります。
加藤さんは排泄やトイレの大切さについて、全国各地で講演活動を行う(提供:日本トイレ研究所)
災害直後はトイレの水を流せない?災害時のトイレ事情
――地震などの災害直後、トイレの水は流さないほうが良いと聞きますが、それは本当でしょうか?
地震が起きた直後は、排水管や下水道等がどうなっているのかがわからない状態です。そんなときにいつものように排泄をしてしまうと、水が流せずに便器の中に汚物が残ったままになってしまう恐れがあります。また、水が流れたとしても、その先の排水管がどうなっているのかまではわかりません。
排水管は、戸建住宅だと1階と2階、集合住宅だと自分の住戸と上下階がつながっています。もしどこかで配管が壊れている場合、汚水が漏れてしまったり、トイレから溢れてしまったりと、何らかのトラブルが起きることが考えられます。
自分の家のトイレを守るため、そして排水管がつながっている先の人に迷惑をかけないためにも、大きな災害直後はすぐに水洗トイレを使わないことが基本です。まずは、携帯トイレなどの災害用トイレを使用するのが良いでしょう。
4つのタイプに分類される災害用トイレ
――災害用トイレにはどんな種類があるのでしょうか?
ひと口に災害用トイレといってもさまざまで、自宅や避難所などの屋内で使うものと、工事現場やイベント会場などの屋外で使うものがあります。今回は、4タイプの災害用トイレをご紹介します。
【屋内トイレ】
・携帯トイレ
元からある便器にかぶせて使う袋式のトイレ。凝固剤または吸収シートタイプがある。
携帯トイレ(提供:日本トイレ研究所)
・簡易トイレ
簡易的な便座・便器がセットになっているトイレ。携帯トイレを取りつけるものや貯留するものがある。袋を自動でパッキングするものもある。車椅子の人がトイレまでアクセスできない場合など、新たな場所にトイレを作る必要があるときに役立つ。
簡易トイレ(提供:日本トイレ研究所)
【屋外トイレ】
・仮設トイレ
工事現場や野外イベント会場などでもよく使われている移動式トイレ。給排水の工事が不要でどこにでも設置できるが、水の補給や汲み取りが必要。
仮設トイレ(提供:日本トイレ研究所)
・マンホールトイレ
避難所などで専用のマンホールの蓋を開け、その上に便器や仕切りを設置して使うトイレ。排泄物は下水道へ直接流れていくので衛生的。便槽に貯留するものもある。
マンホールトイレ(提供:日本トイレ研究所)
4タイプの災害用トイレを紹介しましたが、どれか1つがあればOKというわけではありません。携帯トイレだけを使い続けることになると、保管するゴミの量が増えてしまいます。仮設トイレやマンホールトイレが設置されていたら、日中はそれらを使用し、夜間や悪天候時は外には出ずに携帯トイレを使用する、という使い方も考えられるでしょう。利用する場所や人のニーズを考えながら、複数の災害用トイレを組み合わせて使用するのがベターです。
ただ、自宅で最低限備えておいてほしいのは「携帯トイレ」です。これさえあれば、いつも使っているトイレで用を足すことができます。私は、トイレには「安心」が一番大事だと考えています。災害の状況下にあったとしても、できるだけ日常に近い状態で排泄ができれば、多少なりとも安心につながるはずです。
携帯トイレの使い方と廃棄の仕方
――携帯トイレの使い方を教えてください。
ここでは、排泄物を凝固剤で固めるタイプの携帯トイレの使い方についてご説明します。
1. ポリ袋を便器にかぶせる
まずは45Lくらいのポリ袋を用意します。蓋と便座を上げて、便器にポリ袋をすっぽりかぶせてください。もともと便器内にある水は、臭いや害虫予防のためそのままで構いません。いきなり携帯トイレを取り付けると、便器に溜まった水で袋が濡れてしまい交換するときに面倒です。ポリ袋をセットしておけば、使用後は携帯トイレだけを交換すればOKです。
2. 携帯トイレの袋を取り付ける
便座を下げて、その上から携帯トイレを取り付けます。排泄物が漏れないように、便器の中にしっかり空間を作るのがポイントです。ここに用を足し、使用したトイレットペーパーも携帯トイレの中へ一緒に捨ててしまって構いません。
3. 排泄物の上に凝固剤を振りかける
排泄物の上に凝固剤を振りかけます。一回の排泄ごとに携帯トイレをはずし、しっかり空気を抜いて口を結びます。
今お話ししたのは、あくまで一般的な使い方です。携帯トイレには吸収シートを使うタイプもありますので、携帯トイレをお持ちの方は、その商品の取り扱い説明書に目を通しておきましょう。
また携帯トイレの使い方は、日本トイレ研究所のYouTubeチャンネル内【災害備蓄の必需品 携帯トイレについて】でも紹介しています。動画で確認したい方はぜひこちらもご覧になってください。
――使用済みの携帯トイレはどのように保管・廃棄するのが良いでしょうか?
ゴミの回収が来るまでは、臭いが漏れないように蓋のついた入れ物に入れて保管しておきましょう。し尿ゴミは燃えるゴミに分類されることが多いですが、お住まいの市区町村でのゴミの捨て方を必ず確認してください。
し尿ゴミを液体のまま出してしまうと、袋が破れて中身が飛散してしまうことも。非常に不衛生ですし、健康被害にもつながりかねません。排せつ物がしっかり固まった状態で捨てることが大切です。さらに、「大小便が入っているゴミ」ということがわかるようにして、普通の燃えるゴミとは袋を分けて出せるといいですね。
携帯トイレの選び方と用意する個数
――携帯トイレの選び方を教えてください。
携帯トイレを選ぶポイントは以下の3つです。
・住んでいる市区町村で回収できるもの
・吸収量が十分で、しっかり吸収・凝固するもの
・消臭・防臭対策が備わっているもの
最近は、携帯トイレの性能が向上し、特徴的な製品も多く出てきています。立ったまま使用できるものなど、バリエーションも豊富です。ただ、何よりも重要なのは使いやすさです。災害時でも安心して使えるものかどうか、試しに一度使ってみるのもおすすめです。
――携帯トイレはどれくらいの数を用意しておけばいいでしょうか?目安を教えてください。
政府の防災基本計画やガイドラインに基づくと、備えておくべき携帯トイレの目安は「5回×日数」「最低3日分、推奨7日分」です。ですから、1人あたり最低でも5回×3日分で15個は必要ですね。
ただ、人によってトイレに行く回数は異なるので、1日にトイレに行く回数を踏まえたうえで適量を備えておくと良いでしょう。
――最低でも1人15個となると、家族単位で考えると結構な量が必要ですね。
災害時に水や食料はすぐに配給されても、トイレの配備・整備には時間がかかるケースが多いです。トイレに行くのを控えようと水を十分に飲まず、体調を崩してしまう事例も過去に繰り返し起きています。そのうえ、携帯トイレは人からもらったり借りたりしづらいものです。ご自身やご家族の健康のためにも、絶対に備えておきましょう。
家族が安心できるトイレについて話し合ってみよう
――最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
自宅にしても避難所にしても、非常時は頭を悩ませることがたくさん出てきます。水や食事などの目下の問題から、場合によっては生活の再建についての不安もあるでしょう。そんなときに、少なくとも排泄については悩まなくて済むよう、平時のうちに災害用トイレを準備しましょう。
そして、携帯トイレの使い方や使い勝手、トイレに行く回数について、ぜひ家族で話し合ってください。そういった時間が、いざというときの備えと安心につながるはずです。
誰もが使うものなのに、見落としがちな災害時のトイレ対策。携帯トイレの備えが足りてないかも!と焦った人も多いのでは?いざというときのためにも安心できるトイレ環境をしっかり備えておきたいですね。
加藤 篤(かとう あつし)
NPO法人日本トイレ研究所 代表理事。トイレを通してより良い社会づくりを目指し、全国各地での講演のほか、小学校のトイレ空間改善や研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業などを展開。また、災害時にも安心できるトイレ環境づくりに取り組む。主な著書に『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)、『うんちはすごい』(イースト・プレス)。
SNS(X):https://twitter.com/pooprince/
公式HP:https://www.toilet.or.jp/
『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)
日本トイレ研究所では、多くの人に排泄に意識を向けてほしいという思いから「うんちweek」を毎年11月10日(いいトイレの日)~19日(世界トイレの日)に開催
企画・編集=Concent 編集委員会
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愛媛県・伊方町(いかたちょう)で、四国電力グループの一つ「伊方サービス」が始めたのは、ミカンの栽培。さらに、収穫したミカンを使ってジュースやパウダーなどの加工品も製造販売し、地域を支えるために活動しています。さらなる新商品の開発も進める中で育んでいる“地域愛”の形とは?
ミカン栽培のきっかけは高齢化?
四国最西端に位置する愛媛県・伊方町は、北は瀬戸内海、南は宇和海の2つの海に囲まれた、日本で一番細長い半島にあります。
アジやサバ、タイ、サザエ、アワビ、伊勢エビなどさまざまな海の幸が水揚げされる地域であるとともに、愛媛県の特産品であるミカンの生産も盛ん。温州みかんや伊予柑、清見タンゴールといった柑橘類の産地として有名です。
佐田岬にある佐田岬半島ミュージアムから望む瀬戸内海
そんな自然豊かな伊方町の農業に、ある危機が訪れています。それは「高齢化」。伊方町の人口は約8,400人(2020年)。農業従事者は1,350人で、うち約800人が65歳以上となっているのが現状です。
ミカンは、山の斜面の段々畑で栽培されているため、畑への往復や重たいコンテナの運搬など、栽培はかなりの重労働。伊方町では高齢化によって、そうした作業ができなくなり、離農する農家が増えています。
このままでは伊方町の特産品が危ない――。そこで立ち上がったのが、四国電力グループの「伊方サービス」です。町内で生産されるおいしいミカンを守りたいと、離農する農家から畑を借り受け、ミカン栽培を始めたのです。
伊方サービスが栽培した温州みかんは「媛(ひめ)の輝き」というブランドで販売されている
伊方サービスは1995年に、地域振興への貢献と、放射線測定や水質検査、伊方ビジターズハウスの運営など、伊方発電所の業務支援を目的に、四国電力グループと地元団体によって共同で設立されました。広大な土地を必要とする発電所は地域あってのもの。地元を支え、盛り上げることも仕事の一つです。ミカン栽培も、そうした地域を守っていきたいという想いから始められました。
栽培をスタートしたのは2020年。初年度は0.9ヘクタールだった畑も、2023年には3.5ヘクタールへと拡大。しかし、ミカン栽培を始めたものの、痛感したのはミカン栽培の難しさでした。ミカン栽培を担当する伊方サービス 地域事業部の細谷真也さんは話します。
「勤務時間内で作業を行うことは、ものすごく難しいとわかりました。元々手掛けていた農家さんに教えてもらわないと、わからないことも多かったです。当初はデータ分析などをして科学的にも効率的にもおいしいミカンを作ろうと考えていましたが、ミカン栽培は理屈ではない、まずは『農家さんのおいしいミカンに近付けよう』というところから始めました」(細谷さん)
ミカン栽培を担当する細谷さん
四国電力グループならではの技術も取り入れています。四国総合研究所が開発した「iRフレッシュ」という近赤外線照射装置を用いることで、鮮度とおいしさを保てるように。また今後は、水分や日照時間などを測れるセンサーを畑に設置し、栽培に関するデータを集めてよりおいしいミカンを追求していくことも目指しています。
2023年は豊作の年で、これまで約50トンが収穫されました。夏場に雨が降らなかったため小ぶりの玉が多かったのですが、逆に味が凝縮され、甘味が際立ったミカンに育っているそうです。
伊方サービスが栽培したミカン。2023年は豊作だった
特産品で伊方町の魅力を全国に発信
伊方サービスが地域のために手掛けているのは、ミカンの栽培だけではありません。ジュースやパウダー(調味料)など、ミカンを使った伊方町の特産品も生み出しています。
「木なり「熟」みかん(720ml/2本)」(3,000円)。パッケージには佐田岬をデザイン
「みかんパウダー」(756円)。サラダやヨーグルトに振りかけても
最初の一歩は、地域にあるものを新たに商品化して情報発信していくことでした。まず始めたのは「お酒」です。八幡浜市にある川亀酒造と協力し、日本酒「八西(はっせい)」が誕生。ブランド化を進めました。
日本酒「八西(はっせい)」(1,760円~)
新たな日本酒の誕生と共に、商品を販売するためのサイト「四国のしっぽ」もスタートさせました。サイトには伊方サービスが開発したものだけでなく、地域で作られている柑橘ゼリーや鯛めしといった約50もの商品をラインアップ。ここから地域のおいしい逸品を全国に届けています。
「四国のしっぽ」で販売されている地域の特産品。ゼリーから日本酒までバラエティ豊か
また、「四国のしっぽ」では高校生が携わった商品も販売しています。伊方町唯一の高校である三崎高校から「生徒が発案・開発した、校庭のだいだいを活用したマーマレードを商品化したい」と相談を受けたことがきっかけで、試作をはじめ、商品名の考案、ラベル作り、販売ルートの検討などをお手伝い。「みさこぅ!のさぁいこー!なマーマレード」と名付けられた商品は、だいだいのほのかな渋みとレモンの酸味がアクセントになる、人気商品の一つです。
「みさこう!のさぁいこー!なマーマレード」(1,296円)
三崎高校の生徒が作った「みさこぅ!のさぁいこー!なマーマレード」はマーマレードの品評会での金賞受賞をきっかけに商品化
「四国のしっぽ」には、マーマレードの購入者からこんな心温まるメッセージも。
<主人が愛媛県出身で私も愛媛愛が強く、すぐに飛びつきました。甘さもちょうど良くておいしいです。高校生の発案で商品化されたと知り、“希望に満ちたマーマレード”だなと感じて、胸が熱くなりました>
商品づくりに携わった伊方サービス 地域事業部の井上晃子さんは、「本当にうれしいコメントでした。このマーマレードの商品化にはとても長い時間が掛かりましたが、世に出すことができてよかったです。開発に関わったすべての人たちで喜びを分かち合いました」と振り返ります。
マーマレードの商品開発を担当した井上さん(左)。「四国のしっぽ」で販売できる地域の特産品を常に探しているそう
そして今、進めているのが、認知機能の一つである記憶力の改善効果が期待できる成分「オーラプテン」が含まれる、河内晩柑という柑橘を使った飲料の商品化。機能性表示食品として開発中です。
商品開発を担当する伊方サービス 地域事業部の門田歩さんは、「2023年度内にも発売を目指しています。楽しみにしていてください!」と、力を込めます。
新商品の開発を担当する門田さん。ミカンの栽培も担う
地域の農業を守る地元愛
伊方サービスがミカン栽培や特産品開発をする一番の理由、それは地域を支えるためにほかなりません。
商品開発などのほか、地域の農業を守るために、2022年からスタートした伊方町主催の「伊方町柑橘サミット」に協力。愛媛県立農業大学校の学生を受け入れ、収穫体験の場などを提供しています。若い就農希望者が町を訪れるきっかけを作ることで、将来的に伊方町で農家を営む人を増やしていきたいという想いが込められています。
また、伊方サービスを含めた10軒の農家で雇用促進のための協議会も作りました。各地で行われる新規就農フェアなどに共同出展し、伊方町の名前を全国に広めています。
「伊方サービスの従業員は、大半がこの地域で生まれた人間です。ですので、最後まで伊方町を守れるよう、困りごとがあれば解決したい。そうした思いは強いです。この地域は2060年になると、人口が2,000~3,000人になり、社会インフラが崩壊してしまう恐れがあります。そうした人口減少からも地域を守っていけるような企業でありたいですね」(細谷さん)
伊方町の町おこしを盛り上げるためにも、ミカンがおいしいこの時期に、「四国のしっぽ」で愛媛の特産品を購入してみるのはいかがでしょうか。
■DATA
伊方サービス
http://www.ikata-s.co.jp/
四国のしっぽ
https://shikokunoshippo.com/
人口の高齢化や核家族化が進んでいます。いつか訪れるかもしれない家族の「介護」について漠然と不安を持っている方も多いでしょう。今は両親が元気でも、突然の病気や事故で介護が必要となるケースもあります。そんななか、新たなスタイルとして注目を集めているのがIoT機器を活用した「遠距離介護」です。介護作家でブロガーの工藤広伸さんは、東京と実家のある岩手県を行き来しながら介護を行っています。IoT機器を活用することで可能になる遠距離介護について、工藤さんご自身の体験に基づくお話を聞きました。
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介護作家でブロガーの工藤広伸さん
30代で、まさか親の介護をすることになるなんて!
まだ先のことと思っていても、急に介護が必要となる可能性はあります。私の場合、父親の介護が始まったのは私が34歳のときで、まさに青天の霹靂でした。
当時65歳の父が脳梗塞で倒れた場所は岩手県で、私は東京の会社で働いていました。岩手にUターンするか、このまま東京で仕事を続けるのか、いきなり人生の岐路に立たされてしまったのです。
もしも介護が始まったら、どんな壁にぶつかるのか?また、離れて暮らす親の介護は可能なのかについて、私の実体験を交えてご紹介していきます。
若くても他人事ではない親の介護
脳梗塞の後遺症でろれつが回らず、手の震えで字が書けなくなった父を見て、一生近くで介護をしなければならないと思いました。34歳の若さで社会のレールから外れるのはあまりに早すぎる、そんな思いでした。
今なら介護と仕事の両立はできると判断できますが、当時は介護の知識なんてゼロ。同世代の会社の同僚や友人で、介護をしている人はいませんでした。結局、誰にも相談できずに会社を辞めてしまいました。
私の知り合いの女性は、30代のときに祖母の介護に疲弊した母親を助けるために会社を辞めました。このように祖父母の介護をしている親が倒れて、孫である自分に介護が回ってくるケースもあるのです。
20~40代は結婚や出産、キャリアアップなど、重要なライフイベントを経験することが多い世代です。介護はまだ先の話と思うかもしれませんが、少しずつでも介護の知識を習得しておくことをおすすめします。もし家族の介護が必要になったとき、自分の人生を守る備えになると思います。
父は、発症から一年後に回復。私は一年半のブランクを経て、次の会社へ転職できました。
Uターンや呼び寄せではなく遠距離介護を選んだ理由
父の回復から5年が経った40歳のとき、今度は岩手で暮らす89歳の祖母が子宮頸がんで倒れ、同時に祖母の介護をしていた69歳の母が認知症と診断されました。さすがに二人の介護をしながら仕事は続けられないと思い、二度目の介護離職をしました。
二人同時に介護するとなったら、多くの人は地元へのUターンを選択すると思います。しかし、私は岩手に帰りたくなかったし、Uターンをすれば妻の仕事にも影響します。さらに母は住み慣れた自宅で生活したいと言い、がんで入院していた祖母を呼び寄せることも不可能でした。介護施設への入所という選択肢もありますが、膨大なお金がかかってしまいます。
家族全員の希望を叶えるためには、私が東京から岩手へ通う遠距離介護をするしかありませんでした。こうして2012年から遠距離介護がスタート。IoT機器やホームヘルパーさんたちの力を借りながら、母は今も自宅で一人暮らしを続けています。
東京から岩手までは東北新幹線を利用。実家に出向くのは年間で12回ほど
24時間の見守りを可能にするネットワークカメラ
遠距離介護で最も活用しているIoT機器は、ネットワークカメラ(見守りカメラ)です。認知症の進行とともに台数が増えていき、今では5台のカメラが稼働。岩手の実家で暮らす母を24時間見守っています。
きちんとご飯を食べているか、お薬を飲んでいるかなど、日常生活の見守りはもちろん、緊急時には特に重宝しています。
実家の居間に設置している見守りカメラ
2022年3月16日の深夜、福島県沖で震度6強の地震が発生し、東北新幹線の高架橋や電柱などが損傷しました。岩手の母の安否が気になりましたが、ご近所や親族に母の様子を見に行ってほしいと頼める時間帯ではありませんでした。
東京に居た私は、すぐに見守りカメラの映像で岩手の実家の状況を確認。寝室の家具や置物が倒れた形跡もなく、母は布団の中でスヤスヤ眠っていて無事でした。
最近の見守りカメラには、暗い場所も撮影できる暗視撮影や、カメラを使った声掛け、不審者に対してアラームを鳴らすなどの機能がついています。画質も鮮明になり、離れていても母の行動は手に取るようにわかります。
多くの家電を遠隔で操作できるスマートリモコン
見守りカメラの次に活用しているIoT機器は、スマートリモコンです。家電を操作する赤外線リモコンの機能をスマートリモコンに集約すると、スマートフォンのアプリ上で家電を操作できるようになります。
実家の居間に設置しているスマートリモコン。スマホから指示を受けたスマートリモコンがエアコンやテレビに赤外線を飛ばして作動させる
例えば、東京にいてもスマホを操作して、岩手の実家にあるエアコンの電源を入れたり、テレビのチャンネルを変えたりすることができます。新しい家電だけでなく、古い家電でもスマートリモコンで遠隔操作をすることができます。
特に夏場の熱中症の予防においては、このスマートリモコンが大活躍しました。認知症で季節感がなく、エアコンを操作できない母のために、エアコンを遠隔で操作して、快適な室温や湿度を保つようにしています。
認知症でエアコンの操作ができない母のために、「自動運転中」の貼り紙をして遠隔操作
東京にいながら、岩手の実家の室温をリアルタイムで把握できますし、例えば、冬場においては、室温が18度以下になったら暖房をつける、22度以上になったらエアコンの電源を切るなどの設定をしておけば、手動での遠隔操作は不要になり、節電にもつながります。
スマートリモコンと見守りカメラの併用が役立ったこともあります。以前、母が居間のテレビをつけっぱなしにしたまま寝てしまい、見守りカメラの映像からテレビの音がしていたことがありました。そこで東京にいる私が遠隔操作でテレビの電源を切り、電気の無駄遣いを防ぐことができました。
離れて暮らす親の介護を可能にするIoT機器の進化
私は全国の自治体や企業から依頼を受けて講演していますが、首都圏を中心に遠距離介護に関する講演依頼が増えています。核家族世帯が増え、かつ介護が必要な高齢者の数も増加しているので、離れて暮らす親の介護について知りたいニーズが高まっているのでしょう。
親の介護が始まったら、介護施設に預けるしかないと考えている方も少なくありません。しかし、これまでご紹介したIoT機器を活用すれば、住み慣れた自宅で暮らしたいと願う親の気持ちを尊重してあげられるかもしれません。
私の遠距離介護は12年目に入りましたが、この間にIoT機器の種類は大幅に増え、機能はめざましい進化を遂げ、価格も出始めの頃に比べて下がっています。社会的なニーズの拡大からも、介護に活用できるIoT機器はさらに増えていくでしょう。
この先、介護職の人材不足も予想されています。ホームヘルパーなど、介護のプロに頼りたくても頼れない場面が出てくるかもしれません。そんなときは今回ご紹介したIoT機器を使いつつ、頼れるところは人の手も借りながら介護をしていければといいと思います。
これまで介護で活用してきたIoT機器のすべてを、『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』(翔泳社)という本にもまとめています。ぜひこちらも参考にしてみてください。
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最近では、電力の消費データを分析して、離れて暮らすご家族の生活を見守るサービスも提供されています。高齢化の加速や労働力不足が懸念されるなか、介護ビジネスのますますの成長が期待されますね。一方、遠隔でのリモコンやカメラ操作には電力が必要ですので、今後もしっかりと電力を安定してお届けしていくことの重要性を再確認しました。
工藤広伸(くどう ひろのぶ)
介護作家・ブロガー。岩手県盛岡市出身、東京都在住。二度の介護離職を経験し、介護作家・ブロガーに転身。2012年から岩手に住む家族の遠距離在宅介護を行う。新聞やWeb連載のほかテレビ・ラジオなどの各メディアに多数出演し、無理のない認知症介護を提唱。『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』(翔泳社)ほか、著書多数。
公式HP:https://40kaigo.net/
企画・編集=Concent 編集委員会
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エアコンや洗濯乾燥機などの家電を購入する際によく聞く言葉「ヒートポンプ」。なんだか省エネらしいけど、いったいどんな技術なのか、いまいち、よくわからないという人も多いのでは?そこで今回は、家電ライターの田中真紀子さんに、ヒートポンプと省エネ家電についてお話を聞きました。
白物・美容家電ライターの田中真紀子さん
育児に追われる日々の中、電気圧力なべの魔法感に心を奪われて……
――まずは家電ライターの活動について教えてください。
家電についての記事の執筆や監修をするのが主な仕事内容です。実際に製品をお借りして自宅で日常的に使用してみて、その使い勝手をレビューすることもありますね。
仕事の中で特に大事にしているのは、新製品の発表会に行くことです。多い日は1日に3件の新製品発表会を渡り歩くことも。発表会では近年のトレンドなど最新情報を得られるだけでなく、メーカーさんがどんな思いで商品をつくり上げたのか、開発の背景から詳細に教えてくれることも多いんです。ですから、新製品発表会に行くと、ユーザーの皆さんが今、何に困っていて何に関心があるのか、すごくよくわかりますよ。
――最新家電を真っ先に試せるのは羨ましいです!田中さんはどうして家電ライターになろうと思ったのですか?
もともとは生活情報系のライターで、最初に家電の記事を書いたのは子供が1〜2歳の頃でした。毎日子育てに追われて疲れ切っていた時に、便利な家電の「魔法感」に心を奪われたんです。
例えば電気圧力なべ。材料を入れてスイッチを押したら、あとはほったらかしで煮込み料理が完成しちゃうんですよ。しかもちゃんとおいしい。 家電をうまく活用することによって家事の効率がこんなにも上がるんだ!と、救いの手を差し伸べられたような思いでした。その時の気持ちをたくさんの人に伝えたくて、家電についての記事をメインに書くようになりました。
電気代は家電選びの重要ポイント。省エネ性能が強く求められる時代に
――普段からさまざまな家電に接している田中さんから見て、家電の省エネ性能は上がってきていると思いますか?
そうですね。物価高などの社会情勢やエコに関するユーザー側の意識が高まる中で、省エネであることがより一層重視される時代になってきています。今や省エネは家電選びの一つの基準になっているので、メーカーも省エネ性能の高さをアピールした家電を多く打ち出してきています。
――洗濯機を購入する際に、「ヒーター式よりヒートポンプ式の方が省エネですよ」と勧められたことがあります。なぜヒートポンプは省エネなのでしょうか?
ヒートポンプが採用されている家電には、エアコン、冷蔵庫、洗濯乾燥機、給湯器、除湿機などがあります。
ヒートポンプとは、簡単に言うと空気中の熱を汲み上げて、必要な場所に移動させる技術です。気体は圧縮させると温度が上がり、膨張させると温度が下がる性質を持っています。熱の移動と気体の性質を利用して、暖房や給湯、あるいは冷房を行うわけです。
空気中の熱を汲み上げて、必要な場所に移動させるのがヒートポンプの役割(提供:一般財団法人 ヒートポンプ・蓄熱センター)
電気ストーブや石油ファンヒーターなどの燃焼系暖房だと、1のエネルギーから1もしくはそれ以下の熱エネルギーしか生み出せないところ、最新のヒートポンプエアコンだと、1のエネルギーで7の熱エネルギーを生み出すことができるんですよ。熱を生み出す効率が良いため、省エネにつながるというわけです。また、太陽が生み出した空気中の熱、つまり再生可能エネルギーを利用することになるので環境にも優しいと言えるでしょう。
――ヒートポンプはエコにもつながっているんですね!最近はめっきり寒くなり暖房をフル稼働するシーズンに入りましたが、省エネの観点からすると暖房器具はエアコンが良いのでしょうか?
熱効率の良さを考えると、やはりエアコン暖房がおすすめです。ただ、ある家電メーカーの調査では、エアコン保有者のうち、暖房機能を使っている人は約4割ということがわかったんです。降雪が多い寒冷地では、ガスや灯油などを必要とする燃焼系暖房の方が暖かいというイメージがあり、多く使われていることがその一因でしょう。
エアコンにはヒートポンプが採用されていて、省エネ性能が高い(yslab / PIXTA)
ただ、最近では寒冷地用エアコンもすごくパワフルになってきています。エアコン暖房は灯油を補給する手間もありませんし、火を使わないので火災の心配がないというメリットも。直接燃料を燃やすことがないため、CO2の排出も削減できます。
また、ガスや灯油を使った暖房器具が主流のヨーロッパでも、エネルギーの安定調達やカーボンニュートラル実現の観点からヒートポンプを取り入れていこうという動きがあります。日本は早くからヒートポンプの技術をリードし、多くの日系企業がグローバルに活躍しているので、今後もより一層注目されていくと思います。
高まる省エネへのニーズに応え、ヒーター式からヒートポンプ式への切り替えも
――これからますますヒートポンプ搭載の家電は増えるのでしょうか?
省エネ意識の高まりもあって、ヒートポンプを導入した家電はすでにたくさんありますが、今後ますます増えてくるのではないでしょうか。
例えば、洗濯機の乾燥方式には、ヒートポンプ式とヒーター式の2種類があります。ヒーター式は乾燥力が高い反面、ドライヤーの温風を長時間当て続けるようなものなので、どうしても電気代が高くなってしまうのが難点でした。そこで、これまでヒーター式を採用していたあるメーカーは、その乾燥性能を維持したまま、ヒーター式からヒートポンプ式への変更を実現し、大きな話題になりました。
洗濯乾燥機のヒートポンプ搭載機種も増えている。画像はイメージ(shimi / PIXTA)
また、空気中から熱を取り込む際になるべく温度を下げないようにするなど、ヒートポンプ自体の性能もアップしています。大型家電の買い替えの際は価格に目が行きがちですが、星マークが並ぶ「省エネ性能ラベル」などもチェックしてみてください。同時に、省エネ性能が高い家電を選ぶことは、地球温暖化対策につながるということも意識したいですね。
田中真紀子(たなか まきこ)
白物・美容家電ライター。家事をラクにしてくれる白物家電や、エステに行けなくても自宅美容できる美容家電などの情報を生活者目線で発信。製品の紹介記事やレビュー記事を雑誌、ウェブにて執筆するほか、専門家として記事監修、企業コンサルタント、アドバイザー業務、テレビ・ラジオ出演なども行っている。
公式HP:https://makiko-beautifullife.com/
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(提供:2025年日本国際博覧会協会)
「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマの2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のコンセプトは、「People’s Living Lab(未来社会の実験場)」。持続可能な開発目標(SDGs)の達成など、世界共通の課題解決に向けて、アイデアを創造&発信する場になることを目指しています。新しいエネルギー、新しい移動手段、新しいリサイクルの取り組み…。大阪・関西万博には、未来を見据えた新しいチャレンジがいっぱい!今回は万博運営のキーマンである、2025年日本国際博覧会協会 持続可能性部長の永見 靖さんに、大阪・関西万博における持続可能性に関する取り組みや最新のエネルギー技術、そして万博を通じて伝えたい未来社会などについてお話を伺いました。
公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会 企画局上席審議役兼持続可能性部長を務める永見 靖さん
持続可能性に配慮した大阪・関西万博を目指して
永見さん「大阪・関西万博では持続可能な運営を目指し、環境と人権の問題にセットで取り組んでいます。持続可能性というと、2020年ぐらいまでは主に環境への配慮をイメージすることが多かったと思いますが、最近では人権も含む概念になっています。一つ例を挙げると、大阪・関西万博で来場者の方が何か“もの”を新しく買って使う時。その“もの”の原材料はどこから来たのか、開発途上国などで過酷な労働を強いてつくられたものではないか、つくる過程で環境を破壊していないか、使い終わった後はどこにどんな風に廃棄されるのか、廃棄される場所の近くに住む人に影響はないか…など、環境と人権の両面への配慮を欠かさないようにしています。私が所属する持続可能性部が中心となり、博覧会協会内で準備にあたる他部署への働きかけはもちろん、民間パビリオンも含めた大阪・関西万博に関わるあらゆる方々に“持続可能性”の視点の重要性を伝え、取り組みを推進しています」
具体的な取り組みとして、例えば万博の会場では、使い捨ての容器やプラスチック製品はなるべく使わないことなどを各レストランやパビリオンにも協力を要請する予定だそう。また、海外からの来場者や障がいのある人たちも安心して楽しめるよう、自動翻訳やユニバーサルデザインなどの導入も積極的に進められているようです。
国籍や障がいの有無にかかわらず、来場者全員が楽しめる万博を目指す(提供:2025年日本国際博覧会協会)
会場では電化を推進。電気で動くバスも運行予定!
国を挙げて2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指す今、大阪・関西万博でも脱炭素の先進的な取り組みに挑戦しようとしています。
永見さんは「大阪・関西万博では電化をはじめ、あらゆる側面から脱炭素化に取り組む」と力強く話す
永見さん「大阪・関西万博は、SDGs達成を目指すだけではなく、その先の『SDGs+beyond(エスディージーズ プラス ビヨンド)』への飛躍の機会と捉えています。SDGsは2030年までの達成が目標とされていますが、2030年以降の未来をどのように見せていくのか、足元でどのような対策をしていくのかを示すため、2023年に『EXPO 2025 グリーンビジョン』を策定しました。まず足元の対策でベースとなるのが、エネルギーの脱炭素化。そこに大きく貢献するのが電化(暮らしや経済活動に必要なエネルギー源を、CO2を排出する化石燃料から電気に置き換えること)です。大阪・関西万博の会場内ではできるだけ電気を使うことにして、その発電にはCO2を排出しない再生可能エネルギーなどの非化石電源を利用します。万博の会場内では『EVバス(電気バス)』も導入する予定です。それと並行して、省エネの取り組みも進めていきます」
大阪・関西万博会場内で運行予定の「EVバス」(提供:関西電力・Osaka Metro)
永見さん「また、使用済み天ぷら油などの廃食用油を再利用してつくるバイオディーゼル燃料や、太陽光発電などからつくる合成燃料の利用も促進します。例えば、バイオディーゼル燃料は5%ぐらいであれば軽油に混ぜて使うことができるので、電化が難しいトラックなどの物流に生かせると考えています。こうした脱炭素の取り組みを利用して、大阪・関西万博におけるカーボンニュートラルの達成を目指していきたいと思っています」
来場者や地域の方々と一緒に脱炭素に貢献する
大阪・関西万博では、開催期間中や会場内だけでなく、開催前後や会場外の温室効果ガス排出量などにも意識を向けています。
過去の万博や東京2020オリンピック・パラリンピック等で公表されてきた数値をもとにして試算すると、大阪・関西万博開催期間中の会場内における温室効果ガス排出量が合計3万トン程度であるのに対し、来場者の移動や宿泊、飲食料品などの製造から廃棄といった開催前後や会場外における排出量は315.2万トン(※)となり、今回の大阪・関西万博を運営する中で突出した排出源になると推定されています。こうなると、運営側の努力だけで大幅な排出量削減をするのは難しいのでは…?
※「持続可能な大阪・関西万博開催にむけた行動計画 第1版概要版」温室効果ガスの排出量推計と目標設定Scope3 相当(会期前後や会場外の排出)」より
開催期間中の想定来場者数は約2,820 万人。来場者の移動や宿泊などで排出される温室効果ガスの削減についても働きかけを行う(提供:2025年日本国際博覧会協会)
永見さん「大阪・関西万博の開催前後や、開催期間中の会場外の温室効果ガスの排出削減に関しては、みなさんのご協力が不可欠だと思っています。そこで予定しているのが、『EXPOグリーンチャレンジ』という取り組みです。具体的な内容は構想段階ですが、『マイボトルを使いました』『使用済み天ぷら油の回収に協力しました』など、温室効果ガスの排出削減につながる行動を起こしていただいた時に、専用アプリを通してポイントを付与。ポイントが貯まったらプレゼントの抽選に応募できるなど、みなさんが楽しんで取り組むことができる仕組みづくりを進めています」
マイボトルの利用も温室効果ガスの排出削減につながる(shimi / PIXTA)
永見さん「現在、レストランなどで使われた業務用の廃食用油回収は進んでいますが、家庭からの回収はこれからという段階。万博をきっかけに使用済み天ぷら油の回収といった行動が日常的なものとなれば、それ自体が閉会後も大阪・関西万博の『レガシー』として残ります」
一人ひとりの行動が変われば、未来社会に踏み出す大きな一歩となりそうです!
新たなエネルギーの技術を通して明るい未来を提示
永見さん「2050年カーボンニュートラル達成に向けた具体像として、エネルギーに関する新たな技術もお見せしていきたいと考えています。例えば、従来型の太陽光パネルよりもはるかに薄くて軽いペロブスカイト太陽電池は、これまでは重さがネックとなって設置できなかった建物の壁面や屋根、さらに曲面の部分にも貼り付けることができます。万博の会場では、バスシェルターの屋根に設置し、蓄電池に貯めた電力を夜間のLED照明などに活用しようと考えています」
ペロブスカイト太陽電池は、その特長を生かし、将来的には街中のさまざまな場所で幅広く活用される可能性が高いとか。また、製鉄の副産物として発生した、あるいは再生可能エネルギーでつくった水素の運搬・発電の技術や、二酸化炭素を大気中から直接回収したり、貯めたり、活用したりする技術などを、企業や団体、公式参加者とも協⼒しながら⾒せていきたいとのこと。大阪湾に囲まれた夢洲(ゆめしま)が、未来のエネルギーを体感できる場所になりそうです!
会場の西ゲート交通ターミナルのバスシェルター。屋根にフィルム型のペロブスカイト太陽電池を設置する(提供:積水化学工業)
永見さん「今回の万博は将来的に実用化が期待される新たなエネルギーを含めた環境、そして人権について、『初めて知りました!』という体験がたくさんできる場にしていきたいと考えています。取り組みの一つとして、代替肉を使った料理の提供も今後検討していきます。動物愛護の視点だけではなく、代替肉は温室効果ガスを排出する家畜を育てずに効率よくカロリーを摂取できる食べ物です。ヴィーガンの⽅も安⼼して⾷べられます。万博をきっかけに『大豆ミートって意外とおいしいかも!』と感じることも一つの気づきです。大阪・関西万博で感じたことや新たな発見が行動の変化につながり、明るい未来、いのち輝く未来へと、さらにつながっていくとうれしいですね」
大阪・関西万博の会場「夢洲」
永見 靖
ながみ やすし。公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 企画局上席審議役兼持続可能性部長。1996年上智大学法学部卒業後、環境庁(現 環境省)に入庁。2016年に環境教育推進室長(兼民間活動支援室長)に就任、2018年に四国経済産業局総務企画部長に出向後、2022年1月より現職。
企画・編集=Concent 編集委員会
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電気事業連合会 大阪・関西万博推進室 重光郁徳さん
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)に出展する電気事業連合会のパビリオン名称は『電力館 可能性のタマゴたち』。2023年10月に開催された「民間パビリオン構想発表会」では、名前の通り“タマゴ”のような最新ビジュアルも公開されました。長い時間をかけて練られたというパビリオンの構想。電気事業連合会の中では、どのようにパビリオンの準備が進められているのでしょうか。そして電気とタマゴを結び付けるユニークな発想の由来は…?電気事業連合会 大阪・関西万博推進室(以下、万博推進室)の重光郁徳さんにお話を伺いました。
カーボンニュートラルに取り組む研究や最新技術をわかりやすく伝えたい
電気事業連合会の万博推進室は2021年に発足。電気事業連合会に加盟する各電力会社から選抜されたメンバーで構成されており、中国電力から出向中の重光さんもその一人です。パビリオンの企画から設計・建築や運営、広報に催事、バーチャル万博(リアルでの大阪・関西万博と同時にオンライン空間で開催される万博)といったITに関連する業務などを、8人で対応しているそう。
重光さん「8人それぞれが個性豊かで明るい職場です。幅広い世代の方に楽しんでいただけるパビリオンを目指し、学校の先生や学生さんなどの意見も伺いながら準備を進めています」
万博推進室での業務が始まって以来、「忙しいけど楽しんでますよ(笑)」と話す重光さん。「中国電力を代表して万博に携わっている」というプライドを胸に、日々準備に奮闘している
『電力館 可能性のタマゴたち』は、メンバー全員で幾度も議論を重ね、周囲の協力も得ながら徐々に形に。電気事業連合会が大阪・関西万博への出展を通して伝えたいこととは?
重光さん「現在、我が国では2050年までに温室効果ガスの排出量を減らし、どうしても出さざるを得ない部分に関しては森林などに吸収してもらい、実質的に排出量をゼロにする『カーボンニュートラル』を目指しています。日本全体でのCO2排出量のうち、約4割が電力部門からの排出と言われており、我々としても、そこは大きな課題だと考えています。電気事業連合会に加盟する各電力会社は、CO2削減に向けてすでに実施している安全を最優先とした原子力発電の活用や、再エネの最大限の導入、蓄電池の活用、水素やアンモニアの混焼といった取り組みに加え、日々さまざまな研究や技術開発を行っています。そんな我々の取り組みを見ていただきたいというのが、パビリオンを出展する目的の一つですね」
未知なるエネルギー「可能性のタマゴたち」で未来を描く
『電力館 可能性のタマゴたち』のテーマは、「エネルギーの可能性で未来を切り開く」。カーボンニュートラルにつながる取り組みだけでなく、電力業界ならではの視点でさまざまな未来への可能性が提示される予定です。
重光さん「2050年にカーボンニュートラルが達成できればOK、ではありません。51年、52年…と、その先もずっと社会は続いていきます。カーボンニュートラルのその先へ向かっていく、我々は今まさにその転換点にいると考えています。エネルギーの使用を我慢するのではなく、技術の発展によってうまく使っていく。効率よく使っていければ、5年しか使えなかったものが、10年、15年と使えるようになるかもしれませんよね?また、今まで目をつけていなかった“何か”からエネルギーを取り出すことができるかもしれません。例えばですが、海からエネルギーを取り出せるんじゃないか、遠い宇宙からもエネルギーを取り出せるんじゃないかとか……そういった未来の可能性を体感できるパビリオンを目指しています」
「妄想に近いかもしれませんが」と微笑みながら、未来のエネルギーの可能性について話す重光さん
重光さん「実は、パビリオンの名称にある『可能性のタマゴたち』の“たち”がすごく重要なんです。例えば火力発電でCO2が排出されるのであれば、なるべく出ないようにしたり、回収したりする。そして、回収したCO2を野菜や果物に与えたら成長が早くなるかもしれない。この例だけでなく、その他にもエネルギーには“いろいろな可能性”があるということを来館者の方々に知ってほしい、その思いが可能性のタマゴたちの“たち”に込められています。このパビリオンがカーボンニュートラルの先の未来をみんなで考えるきっかけになってほしいですね」
“タマゴ”が未来社会のカギに!?
2025年の会場で実際にどんな可能性のタマゴたちが見られるかは、「絶賛検討中です(笑)」とのこと。タマゴ型のデバイスを持ってパビリオン内を巡るなど、大人も子どももエネルギーの可能性にたくさん触れて、楽しみながら学び、もっと探し集めたくなるような仕掛けを考えているそう。
重光さん「パビリオンの名称にちなんで、外観もタマゴ型なんです。ツルッとしたタマゴではなく、いろいろな形の平面が組み合わさった『ボロノイ構造』を採用しています。色はシルバーで、天候や時間帯によって見え方が変わります。日中は少し白っぽく見えたり、夕方の西日に照らされるとオレンジっぽく見えたり。可能性のタマゴは変化しないものではなく、どんどん成長していくものですから、それを表現するとともに、会場の雰囲気や環境、自然などと調和する造りになっています。また、役目を終えた太陽光パネルのガラスを骨材に使用している舗装ブロックを採用し、SDGsにも取り組みます。さらに、パビリオンの外に屋外ステージを併設し、いろいろな団体、企業、学生のみなさん等とのコラボレーションを通じて、さまざまなメッセージを発信する予定です」
“パビリオンの表面にはいろいろな形の平面が組み合わさった「ボロノイ構造」を採用。舗装ブロックに使用済み太陽光パネルのガラスを使用するなどSDGsにも配慮する(完成予想図)
屋外ステージではさまざまなイベントを開催する予定(完成予想図)
電力のDNAを受け継ぎ、エネルギーの可能性とワクワク感を創出
電気事業連合会は、1970年の大阪万博、1985年のつくば科学博、1990年の花の万博、2005年の愛知万博(愛・地球博)にも出展しています。例えば、大阪万博では「人類とエネルギー」をテーマに、新しいエネルギーとして注目されていた原子力発電にまつわる映像や、電気などを使ったイリュージョンショーを展開。また、愛・地球博では「Powerful Imagination ~想像力は豊かな未来を創る活力~」をテーマに、宇宙や自然界、人々のエネルギーが詰まった地域のお祭りなどの展示を電車型ライドで巡りました。大阪万博では500万人、愛・地球博では370万人を超える電力館への来場者数を記録したそうです。
1970年の大阪万博で出典したパビリオン「電力館」は高さ約40m、4本柱のつり構造の本館、別館の水上劇場の2つの建物で構成
愛・地球博のパビリオン「ワンダーサーカス電力館」。外壁には国内外の子供たちが描いた30枚の絵を飾り、賑やかに演出した
重光さん「電気を通じて暮らしを支えるという、脈々と受け継がれてきた電力のDNAを私たちもしっかりと受け継いで未来につないでいきたいです。今回の万博では電力業界が目指す未来である、カーボンニュートラルの世界観を感じてほしいと思っています。電気やエネルギーって小難しいと思うので、エンタメ性を持たせながら、来ていただく人にワクワクするような体験を提供し、エネルギーの可能性や先端技術を伝えていきたいですね。『エネルギーって実はおもしろいじゃん』って楽しんでもらえるような展示を考えていますので、ぜひご来館をお待ちしています。絶賛検討中なのに、気が早いですかね(笑)」
「つくる側が楽しくなければ、みなさんにも楽しんでいただけない」。そう断言する重光さんの横顔からは、ワクワク感と「絶対に良いパビリオンをつくってみせる」という自信が感じられました。受け継がれてきた電力のDNAとその未来を表現する『電力館 可能性のタマゴたち』は、エネルギーの可能性にあふれたパビリオンになりそうですね。“絶賛検討中”の展示内容に期待が高まります!
企画・編集=Concent 編集委員会
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朝晩はめっきり寒くなり、だんだん冬が近づいてきている感じがします。寒くなると、お家にこもってぬくぬくと過ごしたくなりますよね。だけど電気代が気になるので、できるだけ暖房費は抑えたいのが正直なところ。そこで、部屋づくりのプロフェッショナルであるインテリアコーディネーターのMAKOさんに、節電につながるインテリアコーディネートのアイデアをうかがいました。
インテリアコーディネーターのMAKOさん
お部屋マニアだった子ども時代。不動産会社勤務を経てインテリアコーディネーターへ
――まずはインテリアコーディネーターのお仕事について教えてください。
インテリアコーディネーターとは、主に新築やリフォームの際に床や壁などの内装材についてアドバイスしたり、家具や照明などを選んだりする仕事です。私の場合は他にも、テレビや雑誌といったメディアでのスタイリング、コラムの執筆、セミナー講師なども行っています。最近ではYouTubeでインテリアコーディネートのコツや空間の使い方に関する情報も積極的に発信しています。
――MAKOさんがインテリアコーディネーターになったきっかけを教えてください。
幼い頃から自分の部屋の模様替えをするのが好きで、素敵な部屋の実例がたくさん載っているインテリア雑誌が愛読書でした。小学6年生の頃には、お年玉を貯めてソファーベッドを買ったこともあるくらい(笑)。
不動産会社で働いていたとき、物件をご紹介する際に「もっと収納があればいいのに」とか「壁紙の色が好きじゃないな」といったお客様の声をよく聞いていました。そこで、自分にもう少し専門的な知識があれば、お客様にとってより心地良い空間がつくれるのでは…と考え、インテリアコーディネーターの資格を取得しました。その後、独立して現在に至ります。
――MAKOさんはどんな雰囲気のコーディネートを得意とされているのでしょうか?
シンプル&ナチュラルなスタイルが得意ですね。高級感が漂うクラシック、ヴィンテージ感のあるインダストリアルなど、お客様の好みのスタイルにあわせてコーディネートする際にも、常にシンプル&ナチュラルがベースにあります。
シンプル&ナチュラルをベースにしたMAKOさんのコーディネート
――コーディネートする上で大切にしていることは?
お客様と向き合ってヒアリングを重ねる中で、どんなスタイルを望んでいるのか、しっかり汲み取っていくことが大切だと思っています。「センスがないからお任せで」とオーダーされるお客様も多いのですが、実は誰しもが好きな世界観を持っています。人の頭の中は見ることができませんから、その方の好みは発する言葉や着ている服、持ち物などから判断するしかありません。雑談の中からお客様の人柄や、ご要望が見えてくることも多いので、フランクな雰囲気になることを心がけてお話させていただいています。
お部屋がガラリと変わる“ビフォー/アフター”の瞬間がたまらない!
――インテリアコーディネーターとして活動するなかで、どんなことにやりがいを感じますか?
最もやりがいを感じるのは、家具などを一気に搬入してガラッと変貌した部屋を見たお客様が「ワーッ!!」って声をあげて感激してくださる瞬間です。「部屋が狭いのにインテリアだけ変えても…」と話すお客様の部屋に、圧迫感の少ない家具を選定・配置して空間を仕上げたところ、その変化にものすごく驚かれたこともありました。そうした瞬間に立ち会えるのがこの仕事の醍醐味ですね。
――私たちがインテリアを選ぶ際にどんなことを意識したらいいでしょう?
見落としがちなのが“金額の優先順位”をつけることです。数年後に引越しをするかもしれない、家族が増えるかもしれない、といったことが予想されるのであれば、少し先のライフスタイルを考慮して“今お金をかけるべき家具はどれなのか”を決めていきましょう。なんとなく部屋のイメージを変えたいからとお店に行って、デザインに一目ぼれして衝動買いをしてしまうのは絶対にNGです。
また、意外と多いのはソファにはこだわるのに、照明やカーテンには予算をあまりかけないケース。部屋のコーディネートにおいて、わかりやすく違いが感じられるアイテムこそが、実は照明やカーテンなんです。取り外しできるタイプの照明器具や移動が可能なフロアスタンドなら、部屋が変わっても使いやすいでしょう。カーテンは窓の大きさに合わせて購入するケースが多いと思いますが、アジャスターのついたカーテンフックやカーテンクリップを使えば、多少のサイズ違いは自分で調節できます。また、丈の長いカーテンを短くするのであれば、お直し屋さんでサイズ変更をすることも可能です。引っ越しても使い続けることができれば経済的ですよね。せっかくなら本当に自分が素敵だと思えるものを選んで、長く付き合っていきたいですね。
お洒落なフロアスタンドは部屋のアクセントにもぴったり
寒い季節におすすめ!節電につながるインテリアコーディネートアイデア5選
――これから暖房器具が活躍する時期になりますが、節電につながるインテリアコーディネートのアイデアがあれば教えてください。
インテリアをうまく活用することで、暖房の設定温度を上げず暖かさアップにつなげることができるアイデアを5つご紹介します。
1:暖色アイテムを取り入れて体感温度を約3℃アップ
暖色と寒色では体感温度に約3℃の違いがあると言われています。そこで冬は積極的に赤、オレンジ、ベージュ、ブラウンなどの暖色をお部屋に取り入れてみてください。家具はそのままでも、ラグやクッション、カーテン、タペストリーなどを暖色系に変えることであたたかみのあるお部屋をつくることができます。
暖色系のアイテムはあたたかさを感じるだけでなく、食欲を増進させる効果もあるので、家族が集まるダイニングやリビングにもぴったりです。
ダイニングに暖色系のアイテムを取り入れたコーディネート例
2:ロールスクリーンや暖簾を活用して部屋の間仕切りをする
リビングに階段があるような間取りの場合、空気が階段から通り抜けてしまうため暖房の効きが悪くなります。そんなときはロールスクリーンで間仕切りをして、空気の流れを遮断するといいでしょう。突っ張り棒を使えば簡単に設置できますし、暖簾などでもOKです。1枚仕切りがあるだけで体感温度がかなり変わってきます。
3:冬向けのカーテンに衣替えする
夏と冬でカーテンを使い分けてみましょう。冬は、窓から入ってくる冷気をなるべく防ぐため、厚地のドレープカーテンがおすすめです。厚地のカーテンは、見た目からもあたたかみが感じられます。衣替えするように、季節に合わせて部屋の雰囲気をガラッと変えてみるのも楽しいですよ。
4:暖かさを演出するインテリアアイテムを活用する
暖かさを感じるインテリアアイテムをお部屋に取り入れてみましょう。例えば、ふわふわのファーラグ。リビングに大きめのファーラグを敷けば、フローリングの寒さ対策になります。小さめのものをダイニングチェアの背もたれにかけたり、ソファの上に敷いたりするのもいいでしょう。お部屋のおしゃれを楽しみながら防寒もできるアイテムは、これからの時期の必需品。見た目の雰囲気が変わるだけでも、ぐっと温もりを感じるはずです。
小さめのファーラグをふわっと椅子にかけておくだけ。暖かさを演出しつつ防寒対策にも
5:窓から離れたお部屋の一角に“あったかゾーン”をつくる
外気は、窓やドアといった開口部分から家の中に入ってきます。窓の近くにヒーターなどの暖房機器を設置してしまうと、なかなか部屋全体が温まらず、その分、たくさん電気を使ってしまいます。
そこで、できるだけ窓から離れたお部屋の奥のスペースに、“あったかゾーン”をつくってみましょう。1ヶ所に熱を集めるようなイメージで、クッションやラグ、暖房器具などを設置して、ゆったりくつろげる場をつくるのがおすすめです。
また、冬場はエアコンの温度を控えめにして、ひざかけや湯たんぽなどを活用することも多いと思います。小物が出しっぱなしになっていると、散らかったようにも見えてしまいますが、そんな時はおしゃれなバスケットを1つ置いておくのも一手。使いたい時にすぐ取り出せますし、使わない時はバスケットに戻しておけば、お部屋もスッキリ見えるでしょう。
節電は「やらなきゃいけないもの」として捉えると、「あっちもこっちもスイッチを切らなくちゃ」となんだか心が寂しくなってしまいます。私の自宅では調光機能のある照明を使っています。寝る数時間前から照度をだんだん落として、自分の体が眠りに入りやすい状態にしていきます。気分が安らぎますし、無駄な電気も減らせて一石二鳥です。心は豊かなまま、自然と節電につながるのが理想ですね。
今回ご紹介したアイデアを参考にしながら、この冬は体も心も温まるインテリアコーディネートを楽しんでもらえるとうれしいです。
MAKO(まこ)
株式会社Laugh style代表取締役、インテリアスタイリング協会理事。インテリアコーディネーターとして、新築時や引っ越し時の家具のレイアウトや選定、店舗・病院・エステサロン等のインテリアデザインなどをトータルプロデュースする。平成28年度 インテリアコーディネーションコンテスト スタイリング部門 優秀賞を受賞。セミナー講師、新聞・雑誌等のコラム執筆、メディア出演などで幅広く活動する。
公式HP:https://www.laugh-style.jp
企画・編集=Concent 編集委員会
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2023年10月4日、東京都内で「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)民間パビリオン構想発表会(第1弾)」が開催されました。大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。民間パビリオン出展者13者のうち7者が、万博のテーマと各出展者のオリジナリティを掛け合わせたパビリオンの構想を発表しました。(第2弾は10月18日に6者で開催されました)
この日は、出展を決めている電気事業連合会も登壇し、パビリオンの正式名称を公表するとともに、建物の外観などを披露しました。そんな構想発表会にConcent取材班が潜入!当日の様子をレポートでお届けします。
電気事業連合会のパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』(完成予想図)
“エネルギーの可能性”を探究するパビリオン構想
電気事業連合会 大阪・関西万博推進室 岡田康伸室長
万博開幕500日前を間近に控え、万博への機運を高めつつ、民間パビリオンの構想をアピールする場である今回の発表会。電気事業連合会からは、大阪・関西万博推進室の岡田康伸室長が登壇し、出展への想いやパビリオンの内容について、来場者にプレゼンテーションしました。
「今、私たちは、カーボンニュートラルを実現し、その先の未来へと進む大きな転換点に立っています。進むべき道は、エネルギーの使用を我慢するのではなく、技術の発展によってエネルギーをうまく使う道です。世界中の隅々まで目を凝らすと、実は“エネルギーの可能性”にあふれています。まだ、適切な取り出し方を知らないだけのエネルギーの可能性、使い方を工夫するだけで得られるエネルギーの可能性、増えすぎてしまったCO2を減らす技術の可能性。
重要なのは、様々なエネルギーの可能性を探し集め、丁寧に育て、柔軟に選択していくことです。そんなエネルギーの可能性のタマゴをたくさん体験して楽しく理解し、もっと探し集めたくなるようなパビリオンを目指しています。とにかく、たくさんの可能性のタマゴに出会ってほしい。そんな思いを込めて、パビリオンの名称は、『電力館 可能性のタマゴたち』としました」
パビリオンのテーマは「エネルギーの可能性で未来を切り開く」
『電力館 可能性のタマゴたち』では、建物内を「タマゴ型デバイス」を手に持って巡り、様々な体験を通じて、未来のエネルギーや先進技術を楽しく理解できるパビリオンになる予定。詳細は検討中とのことなので、続報が楽しみです!
『電力館 可能性のタマゴたち』の外観を初公開!
『電力館 可能性のタマゴたち』の模型。発表会当日は多数のメディアが撮影していました
こちらが当日、会場で展示されていた電気事業連合会のパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』の模型です。ぜひ注目してほしいのは、その斬新なデザイン。
万博会場の東側ゲートから来場者が入ると、まずはこの大きなタマゴ型のパビリオンが目に入ります。「万博」という特別感や非日常感が味わえそうですね!
特徴的なタマゴ型の外観。表面には様々な形の平面が組み合わさった「ボロノイ構造」を採用(完成予想図)
よく見るとツルッとした曲線ではなく、多角形の平面がいくつも組み合わさってできた「ボロノイ構造」でつくられています。このタマゴ型のデザインについて、岡田室長は、「可能性のタマゴは変化しないものではなく、どんどん成長していくものなので、その成長へ向かう変化を表現している」と紹介していました。
外郭はシルバーの幕で覆われており、時間帯や天候、周囲の光の状況に応じて見た目が変化します。これによって、自然や周囲の環境と調和していくそう。
夕刻はパビリオンが西日に照らされ、オレンジ色に輝く(完成予想図)
トークセッションで明かされたタマゴ型の理由とは?
トークセッションでパビリオンの魅力をアピール(素材提供:2025年日本国際博覧会協会)
発表会の後半では、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーの落合陽一氏をファシリテーターに迎え、出展者とのトークセッションが行われました。
落合氏:電気事業連合会は日本を代表するインフラ企業の集まりだと認識しています。そこから出てきた構想が「タマゴ」とは驚いたのですが、一体どうしてタマゴなのか、タマゴの中に何が詰まっているのか。そして、電気事業連合会が万博に出展することにどんな意味があるのでしょうか?
ファシリテーターを務めた落合陽一氏
岡田室長:インフラ企業のイメージにタマゴって全く出てこないですよね。そういった意外性を打ち出したいというのもメッセージの一つとして込められています。電力館のパビリオンというと、「ちょっと堅いんじゃない?」「真面目で面白くないんじゃない?」というイメージを持たれている人も多いのかなと思います。そこで、エンターテインメント性を追求しつつ、未来を切り開いていくエネルギーの可能性を感じてもらうパビリオンにしていきたいということで、「可能性のタマゴ」としています。
万博では、電気事業者として、2050年にカーボンニュートラルを実現する世界観を描くことに意味があると思っています。(電気事業者がカーボンニュートラルに向けて)真剣に全力で取り組んでいる姿を世界中に届けたいです。ぜひ、パビリオンにお越しいただければと思います。
******
発表を終えた岡田室長は、「今回の発表会で、他のパビリオンの内容も徐々に見えてきました。どこも斬新な構想を発表されていて、開幕がより待ち遠しくなりました。『いのち輝く未来社会のデザイン』がテーマの大阪・関西万博では、どんな世界観が広がるのか今から楽しみです」と期待を寄せていました。
2025年の万博開催まであと500日ほど。電気事業連合会のパビリオン『電力館 可能性のタマゴたち』は今年11月に着工しました!その姿を目にするのが今から待ち遠しいですね。
2023年10月26日に会場となる大阪・夢洲(大阪市臨海部)にて起工式を実施。電気事業連合会の池辺会長による刈初の儀の様子
企画・編集=Concent 編集委員会
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昨今、配膳サービスロボットの導入など、ロボットの存在を身近に感じることが増えてきたと感じる方も多いのではないでしょうか。高齢化の進展や出生率の低下などによる働き手不足が懸念されている中、今後の日本では、ロボットはさらに存在感を増し、未来の労働力を担う存在になっていくと想像できます。完全自走式の配送ロボットなど、屋外の物流分野で活躍するロボットの開発を行うLOMBY(ロンビー)株式会社に話をうかがいました。
自動配送ロボットLOMBY「LM-R1」
ロボット配送サービスの登場は、2023年からが本番!?
――“自動配送ロボット”とは、一般的にどういうものを指すのでしょうか?
自動配送ロボットとは、運転や操作が不要で、自動的に目的地まで走行できる機能を持っている小型の配送ロボットを指すことが一般的です。最近、レストラン内で配膳をするロボットが普及し始めましたが、これらは屋内で走行する自動配送ロボットです。
一方、弊社で開発中のロボットは屋外を主に走行するロボットです。物流拠点から届け先である個人宅までの区間など、利用者が宅配物を手にするまでの最後の配送区間はラストワンマイルと呼ばれており、今は人が配送していますが、それを無人で行うことを目標としています。
――すでにロボットでの配送サービスが導入されている事例はあるのでしょうか?
2023年10月末時点で、国内で大規模に商業利用されている屋外の自動配送ロボットはありません。2023年4月に改正道路交通法が施行され、「遠隔操作型小型車」という新しい区分ができ、自動配送ロボットが公道の歩道部分を走行できるようになりました。今後、自動配送ロボットがさらに普及していくことが期待されています。
今後、様々なエリアで自動配送ロボットがさらに普及することを期待
ロボット導入のメリット
――ロボットでの無人配送が可能になる大きなメリットは何でしょうか?
日本は世界でもっとも高齢化が進んだ超高齢社会であり、将来的に国内の労働人口は減少していくと予測されています。一方、コロナ禍で通販やフードデリバリーを初めて使われた方も多いと思いますが、自宅へのデリバリーはここ数年で日常生活の一部として定着しました。今後、こうしたデリバリー慣れした消費者の高齢化に伴って、配送需要も増加していくと考えています。
ロボットは、こうした将来的な配送需要に対して、人手に頼らず対応できます。また、人件費のように社会環境の変化に伴って急激に変動したり、採用等の管理コストがかかったりせず、労働コストを安価で安定したものにすることが可能です。
建物内での配達のイメージ
自動配送ロボット「LOMBY」について
――貴社は自動配送ロボット「LOMBY」の実証実験を行っていますが、そもそも、どのようなことができるのでしょうか?
LOMBYは、屋外を無人で走行して飲食店の店舗や配送会社の拠点から個人宅へ配送することが可能です。道路交通法上で最高時速は6km/hと人の小走り程度に速度制限されていますが、拠点から2km圏内を遅くとも30分程度で配送することが可能です。
LiDAR(ライダー)と呼ばれる車の自動運転にも用いられているレーザー光を照射して、自分の位置を特定したり、障害物を検知したりできます。それによって、昼夜問わず自動で走ることができるんです。
現在は、都内の天王洲アイルエリアや広島市内で実証実験を行っています。都内では、国内外からの遠隔操作の試験やセンサー類の調整等のため、歩道での走行試験を実施しています。すれ違う方々には「かわいい!」と言っていただけますが、お散歩中の犬にはとても警戒され、怯えられてしまいます…笑。また、広島市内では地元の大学に協力いただき、高層階への配送試験も実施しています。
今後、実際に使っていただき「便利!」と言ってもらえるようなサービスにしていきたいと思っています。
――開発のきっかけは?また、いつごろから開発が始まったのでしょうか?
LOMBYの開発は、物流におけるラストワンマイルの再配達をなくすことを目指して、置き配バッグOKIPPA(オキッパ)という簡易宅配ボックスを製造している、Yper(イーパー)株式会社の新規事業として2021年の4月に開始しました。
OKIPPAも累計販売数20万個を突破して、多くの方に利用いただいている商品ですが、今後、国内の労働人口が減少する中で玄関前まで届ける人が不足する方がより社会的に大きな課題になるのではないかと感じ、人に頼らない労働力の提供方法について検討に入りました。その後、本格的に量産化を進めるため、1年後の2022年4月にLOMBY株式会社を新設し、開発を始めました。
――開発で苦労している点などはありますか?また、こだわりのポイントはどんなところでしょうか。
現在、世界でも屋外の公道で本格的に商業展開しているロボットを用いた配送事業者はいないため、ハードからソフトまで自分たちで開発する必要があり、手探りでの開発は苦労の連続です。
エレベーターとのシステム連携試験を行なっている様子
現在、世の中に存在する配送ロボットは、人が荷物をロボットに預け入れ、配送先で人が荷物を取り出すようなオペレーションになっていますが、それだといつまでも現場に人が必要です。そこで、LOMBYでは、ロボットに自動で荷物を積み込むことができる宅配ロッカーも開発しています。それが実現すると24時間無人でモノを移動させることが可能になり、ロボットの利用価値も高まると思っています。
また、LOMBYは屋外から建物内まで入って走行できるように開発しており、エレベーターとシステム連携をして建物内の各フロアまで荷物を届けることが可能です。
エレベーターとのシステム連携により建物内の各フロアまで荷物を届けることが可能に
――1回の充電でどのくらい動けるのですか?搭載できる重量などはどのくらいでしょうか。
1回の充電で5-6時間連続走行できる交換式のバッテリーを2台搭載できるようになっています。荷台には最大25kgの荷物を入れて運ぶことが可能で、人が登ると「大変だ」と感じる傾斜10度くらいまでの坂道も登ることができます。
これからの社会に向けて
――どのような場所での導入・活用を想定していますか?屋外公道での走行向けにスズキ株式会社さんと共同開発もされていくとのことで、その点もお伺いさせてください。
宅配便や飲食店、小売店の拠点から2km以内の近距離配送での活用を想定しています。また、ロボット配送であればコンビニエンスストアからの24時間無人配送や、配送依頼してからあまり待たずとも荷物が届くオンデマンド配送など、人では難しいサービスもできる可能性があります。
スズキ株式会社は高齢者向けのセニアカーや電動車椅子で国内トップシェアの企業です。今後の超高齢社会の中でそうしたモビリティの需要は高まると予測され、高齢者向けモビリティと配送ロボットの部品を共通化できれば、製造コストや整備コストを安く抑えることができます。そうなれば、安価なサービスを社会に提供できると考えており、共同開発を進めさせていただいています。
屋外公道での走行向けにスズキ株式会社さんと共同開発も行なっている
――最後に、読者にメッセージをお願いします。
まだまだロボットでのサービスは発展途上で、人と比較するとできないことは多いのですが、今後、ロボットだからこそできる付加価値サービスを考えていきたいと思います。ぜひ皆さんの生活圏内でLOMBYサービスが開始したら、お気軽に試していただき率直な感想を頂けると大変嬉しいです。
LOMBY株式会社
2022年4月創業のスタートアップ。国内の労働人口が減少する中で、屋外の物流分野にロボットでの労働力の提供を目指して、現在、自動配送ロボットを開発中。
公式HP:https://lomby.jp/
企画・編集=Concent 編集委員会
★節電情報について知りたい方はこちら!
電気製品の使い方を、うっかり間違えたりすることで発生してしまう電気火災。火災を引き起こす原因や、日頃からできる防災対策を、頭の中に入れておきたいところです。そこで、 “タイチョー”としてYouTubeの『RESCUE HOUSE』で防災情報を発信する、元レスキュー隊員の防災アドバイザー・兼平豪さんにインタビュー。多くの火災・災害現場での経験で培った、効果的な防火対策やいざという時の対処方法等についてうかがいました。
元レスキュー隊員の“タイチョー”こと兼平豪さん
身近で起きる恐れのある電気火災
――あまり聞き慣れない言葉ですが、電気火災とはどのような原因による火災なんでしょうか?
電気火災は年々増加傾向にあるので、この機会にみなさんに知っていただきたいと思います。
電気火災の原因で多いのが、たこ足配線です。それ以外でよくあるのは、トラッキングと呼ばれる現象です。トラッキング火災とも呼ばれ、コンセントにプラグを長時間差し込んでおくと、コンセントとプラグの間に溜まったホコリが空気中の湿気を吸収して徐々に電気を通しやすい状態になり、そこから放電して発火してしまうんですね。特に手が届きにくい、冷蔵庫やテレビの裏などは要注意です。
また、配線コードを冷蔵庫など重たいものに踏まれたままにしておくと、配線がショートし、火災につながる恐れがあります。
電気火災の原因で多いのが、たこ足配線。繋げ過ぎによる過負荷は要注意!
――”電源の周り”が多いということですね。
そうですね。例えば、たこ足配線により過電流が続いてしまうと、コンセントや電源タップが発熱し、火災になってしまうことがあるんですね。様々な火災現場を経験してきて、たこ足配線による過負荷(オーバーヒート)は、10代~20代の一人暮らしに多く、逆に60代~70代の家庭での電気火災は、トラッキング現象が原因になっていることが多いと感じます。特に、居住年数が長い方のケースでは、細部まで掃除できていないコンセント回りやエアコンから発火する場合があるんです。また、古い一軒家だと、分電盤が屋外に設置されていることもあり、経年劣化や雨に濡れたことによるショートが火災の原因になります。線状降水帯や大型台風による大規模な洪水など水害にも注意が必要ですね。
ちなみに、通電火災ってご存知ですか?実は、大地震による火災の半数以上は通電火災が原因なんです。例えば、揺れによって落下あるいは転倒などして壊れた家電に電気が流れて、破損箇所から出た火花が原因で火災になるようなケースもあるんです。このように災害時の電気による危険性を、皆さんにぜひ知っていただきたいと思います。
誰にでもできる、電気火災の防ぎ方や対処方法とは!?
――予防のために、どういった対策が必要でしょうか?
注意するのは、電源タップのたこ足配線ですね。接続する数を増やさないということです。よく消防庁が「使用する電気機器の電流値を確認して、容量オーバーにならないように」といった発信をしています。そして、100円ショップで買える『コンセントカバー』などを利用して、コンセントとプラグの間にホコリが溜まらないようにすることが有効だと思います。引越しやリフォームした際に、日頃手が届きにくい冷蔵庫やテレビ裏のコンセントに装着しましょう。たった100円で、電気火災のリスクをかなり減らすことができるのでおすすめです。
また、地震の際の通電火災のリスクを減らすために、大きな揺れを感じると電気を自動的に止める『感震ブレーカー』という器具を分電盤などに装着するのも1つの手です。これは、東日本大震災で実際に役立ったというデータも出ています。このような器具の利用も大切ですが、災害が起きたら、まずはブレーカーを落とすことを心掛けましょう。
大規模地震に備えるための、家庭での停電対策についてのチラシ(内閣府 防災情報のページより引用)
そして、レスキュー隊員として僕が感じたことですが、部屋を常に綺麗にしておくことですね。なぜかというと、整理整頓ができていない部屋は、ホコリも溜まっていたり、服が脱ぎ散らかしてあったり、雑誌などが床に散らばっていたりと、燃えやすい環境でもあるからです。
――電気製品の適切な使い方や、家庭で注意すべきポイントがあったら教えてください。
電子レンジの正しい使い方を知らない人って、意外と多いんですよ。そして、誤った使い方による火災事故も多いんです。「電子レンジが燃えています!」って119番通報が消防に入るんですけど、まず僕が言いたいのは、それは燃えているのではなく、燃やしたんです、ということ。でも、電子レンジの中に入れていいものと、ダメなものって、どこでも習わないですよね。恐らくみなさんも「なんだっけ?」って、考えると思います。
例えば、肉まんとイモ類って、チンしますよね?実はこの2つは爆発的に燃えるので、とても危険なんです。肉まんはパッケージに記載されている「温め〇〇分」という指示通りなら大丈夫なのですが、怖いのは自動で温める場合。おすすめモードでピッと押すのはやめましょう。肉まんをテイクアウトした海外の旅行客が電子レンジで過度に温めすぎて、火災を起こすケースが見受けられるほど、よくある火災なんです。
電子レンジも、使い方を間違えると大きな火災を起こす原因となる
また、電気製品の使用時に異常な熱量を感じるか?感じないか?という点も、注意すべきポイントです。僕の講演会で質問を投げかけてみると、「あれ?ドライヤーってこんなに熱かったっけ?」と思ったことがある人が7割くらいいました。買ったときと比べて熱くなるようであれば古くなった証拠です。異常な発熱を感じたら、使用するのを止めましょう。
それから、製品に『PSEマーク』があるかどうかも要チェックです。これは、この電圧なら日本での使用が安全と認証するマークで、電気製品を日本で製造・輸入する業者が、電気製品に表示しなければならない。つまりこのマークがないと国の定めた技術基準に適合していない恐れがあり、販売できないんですね。だから僕は、ECサイトの通信販売で海外から電気製品を購入する際、このPSEマークの有無を必ず確認しています。
――家庭での防災教育は、どのような方法が効果的ですか?
僕自身が仕事で家をよく空けているので、子供たちには、「パパがいない時に、どうやって命を守るのか?」って、教えていることがあります。それは、先ほども言った、「災害が発生したらブレーカーを落とす」ということです。逆に、それしか伝えていません。「窒息消火にはこういう方法があって、あとは消火器がここにあるからこれで消火する」って、細かく言っても覚えられないじゃないですか。素人が判断をして、「うん。安全になった」っていうのは、僕からすると、まだまだ危険が残っている恐れがあります。簡単に子供たちでもできる安全策となると、ブレーカーを落とすことが対処法として最適です。もちろん119番に電話することも忘れてはいけませんね。
災害が発生したら、まずはブレーカーを落とすことが最善の策
それから、子供たちには、みんなが手を出しにくいところを掃除するように、“ホコリ探しゲーム”として、日頃から掃除することも教えています。2ヶ月に1回くらい、おばあちゃんの家に遊びに行くのですが、そのときに「ホコリ探しゲームしよう」と一緒にやっています。ホコリだけでなく、たこ足配線まで見つけたり、子供と家で楽しく遊びながらやるっていう対策はしていますね。すべての防災対策において、楽しくて自分からやりたくなることが重要だと思っています。
――家庭で電気事故に直面した場合の対処法について、正しい知識を得るにはどうしたらいいでしょうか?
正しい知識を得るには、消防の防災イベントや救命講習に出るのがおすすめですね。あとは自治体が発信している動画を視聴するのも一つの手です。そして、『RESCUE HOUSE』のYouTubeで消防豆知識や防災豆知識などの動画を観てください。消防では、今でも地震があったら机の下に隠れようと言っています。でも学生たちは「もう知っている、面白くない」と、避難訓練も真剣には取り組みません。防災について伝えようとしても今までの方法では響かないので、『RESCUE HOUSE』では、興味を持って視聴いただけるように、みなさんが知らない非現実部分と防災を織り交ぜて配信するように心がけています。
消防・防災を中心にさまざまな情報を発信するYouTubeチャンネル『RESCUE HOUSE』
電気製品による火災って、水で火が消せないって知っていますか?このときの行動が生死をわける分岐点になるんです。もし、初期消火で水をかけたら、爆発してしまうかもしれません。正解はブレーカーを落としてコンセントからプラグを抜くことです。冷蔵庫の裏にコンセントがある場合は、ブレーカーだけでも落としてください。意外と知られていないので、これだけでも知っておくとパニックにならずに済みますよ。日本の防災教育って、江戸時代の火消しからアップデートされていないんです。習う場所がないというのが現状なんですね。そのため、みなさんどうしても勉強不足になってしまうのです。
企業での研修時の様子
一人でも多くの人と手を繋ぎ、未来を守る防災を
――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
いつ、どこで、誰が、災害に遭うかわからないんですよ、本当に。危険は常に隣り合わせなんです。防災について“知る”ということは、あなたと大切な人の“命を守る”ことにつながります。ですから、人の命は運任せにしてはいけないと僕は思います。よく映画やアニメで死んだ人が復活するシーンがありますが、災害で失った命はどれだけ悔やんでも、お金を積んでも、絶対に戻ってこないです。あなたと大切な人の未来を守るため、ほんの5分でもいいので防災について学ぶために時間を割いて欲しいなと思います。
――防災って、まさに未来を守ることですね。
そうです。命を失ってしまったら絶対に戻らないんですよ。僕は、火災をはじめ様々な災害防止のために普及・啓発の活動をしています。でもそれを素晴らしい活動だと思って欲しくないんです。僕は、「〜をしていたらよかった」をなくしたい。災害が起きた時に、「あれをやっておけばよかった」、「これができていたら助かったんじゃないか」って後悔するのは、レスキュー隊員だけでいいと思っています。この後悔をみなさんにして欲しくないというのが僕の願いです。後悔しないために、今この5分でできることがあるんです。それを1人でも多くの方に理解して実践いただきたいですね。
この仕事は、防災についてただ発信すればよいというわけではないと思っています。防災をして!これを持っていて!ではなく、「そういえばタイチョーこんなこと言っていたな。俺たちもこうしよう」と当たり前のように行動できるように、1人でも多くの方と手を繋いでいく。それが本当の意味での防災だと思っています。
タイチョー(兼平豪)
元大阪市消防局職員/防災アドバイザー。株式会社VITA代表取締役。元レスキュー隊員として「助かる命を助けるために」をテーマに、防災YouTubeチャンネル「RESCUE HOUSE」を運営。災害現場のリアルな声とともに、災害大国ニッポンならではの「気づき」を日々発信している。YouTube登録者27.8万人(2023年8月現在)。
公式HP:https://vita-rescue.com
著書『消防レスキュー隊員が教える だれでもできる防災事典』(KADOKAWA)
企画・編集=Concent 編集委員会
★節電情報について知りたい方はこちら!
夏は、冷房を使うなど、電気をたくさん使用するシーズン。昨今、電気代の値上げが話題になることも多いため、「我が家でも!」と節電に取り組まれているご家庭も多いのではないでしょうか。一方で、誤った知識で行なってしまうと逆効果になることも…。今回は、テレビや雑誌など多くのメディアで活躍されている節約アドバイザーの和田由貴さんに、「勘違いしやすい節電と、正しい節電方法」について教えていただきました。
節約アドバイザーの和田由貴さん
エアコン、冷蔵庫、照明器具の3つの家電が、家庭で消費する電力の半分以上!まずはここから節電を
節電する際に気をつけておくべきことは、消費電力※1の大きな家電を気にするより、使用頻度の高い家電をチェックして全体的な消費電力量※2を知ることです。エアコン、冷蔵庫、照明器具の3つ※3が、家庭で使用する電力の半分以上を占めています。
※1 消費電力=電化製品を1秒動かすのに必要な電力の大きさのこと。製品の性能を示すもので、W(ワット)と表記される。
※2 消費電力量=消費電力×使用時間で計算し、電気代の目安となるもの。Wh(ワットアワー)と表記される。
※3 資源エネルギー庁 省エネポータルサイトより https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/
STEP1
夏場は、冷房の電気代を特に気にされる方が多く、そのためエアコンの使用を我慢してしまうというケースがあります。でもエアコンの場合、設定温度を極端に下げたりしない限り、実は暖房より冷房の方が圧倒的に電気代が掛かりません。ですから、夏場は熱中症などの危険性もあるので、エアコンの使用を我慢してまで行う節電は避けましょう。
エアコンの設定温度を1℃変更するだけで、なんと約10%消費電力量が変わります。たった1℃の差が、電気代に大きく影響します。ただ風量は、ほとんど消費電力に影響がありません。つまり、風量は強くしても電気代は大きくは変わらない。人は同じ温度でも、強い風が体に当たると体感温度が下がるので、風量を強くしてあげることで涼めます。設定温度を下げるのではなく、風量で調整しましょう。
設定温度を控えめにするコツは、部屋の環境を整えることです。日本の住宅は断熱性が低く熱伝導率が高いところも多いため、遮光カーテンを使っても、窓に日が当たると部屋がすぐ暑くなります。直射日光がかなり当たる状態では、いくら冷房を入れても部屋の温度はなかなか下がりません。ですから、窓に日が当たらないように、外側で何かしらの対策をしてあげることが必要です。例えば、夏の場合は、外側に簾や葦簀(よしず)を設置して日陰を作ると効果的です。
また、もう一つ誤解されやすいところとして、環境省が「温度を28℃に」と推奨していますが、これは、設定温度ではなく目安となる部屋の温度ということに注意してください。エアコンの設定温度を28℃にしても、古いエアコンや部屋の環境によっては、いくら稼動させても室温が28℃にならない場合もあります。設定温度を28℃にこだわってしまうと、場合によっては熱中症になる危険性もあります。ですから、熱中症予防のためには室内に湿度も測れる温度計をおいて、室温の目安として28℃を保つように心がけるといいと思います。外気温が高くなり蒸し暑くなる夏場は、室内の湿度は40~60%が理想的とされています。
STEP 2:冷房と除湿の使い分け
エアコンには、冷房と除湿運転があります。除湿運転を、「なんか電気代が安そう」「なんかエコっぽい」と信じて使っていませんか?これはよく勘違いしがちなポイントなんです。実は、除湿運転も基本的な効果は冷房と変わりません。除湿の仕組みは室内の空気を冷やして結露を作り、その水滴をドレンホースから外に流し出しているので、一般的なエアコンの除湿運転は「弱冷房」であり、その名前の通り弱い冷房を使用しているのと同等の効果なのです。弱い分、冷房よりは電気代も安いですが、冷房より弱いため除湿できる量も少なくなります。本当は、冷房のほうが除湿量は多いです。
また、再熱除湿と呼ばれる除湿方式が搭載されているエアコンの場合、部屋はあまり冷えませんが、冷房運転よりも除湿量は少なく電気代は高くなります。除湿運転は、ちょっと肌寒い梅雨の時期や湿気が多いとき、部屋の温度を下げたくないけど湿気を取りたいときに活用しましょう。つまり、夏の暑いときに除湿したいと思ったら、冷房がベストな選択です。
STEP 3:室外機の設置と掃除
室外機も意外と重要な部分です。エアコンのフィルターはみなさんよく掃除されていますが、外にある室外機は見落としがちだと思います。泥ハネや蜘蛛の巣が張って汚れていたり、雑草がボーボーに生えて空気の排出がしづらい状態で室外機を設置していたりしませんか?熱交換を行う重要な装置なので、汚れていると運転効率が下がるだけでなく、放熱できずに余計な電気代がかかってしまいます。さらに、直射日光がガンガン当たる状態も良くないので、日陰を作り設置する環境を整えることも大切です。
室外機は、雨に濡れても基本的に大丈夫な構造になっているので、水洗いしても大丈夫です。ただし、掃除をする際に高圧洗浄機を使用するのは、絶対に避けましょう。アルミのフィンが折れ曲がったりするので、傷つけないように柔らかいスポンジで軽く洗うのがオススメです。
室外機の設置場所は、日なたよりも日陰のほうが好ましいです。ただ、すでに日なたに設置してある場合は、動かすことができません。室内機と繋がっている冷媒配管は、故意に折り曲げたりすると冷媒と呼ばれるガスが漏れる場合もあり、故障の原因となります。ですから、絶対に室外機は動かしてはいけません。そこで利用したいのが、アルミが貼られている日除けシートです。ホームセンターなどで売っているので試してみてください。
STEP 4:コンセント
コンセントからプラグを抜くことも、実は故障の原因になります。待機電力を気にされてこまめにプラグを抜く方がいますが、エアコンに関しては止まったように見えても、室外機が外で動いていたり、冷媒の循環が完全に止まっていなかったりすることが十分に考えられます。ですから、スイッチを止めたあと数時間はプラグを抜くのはやめましょう。抜くのはオフシーズンなど、長時間使用しない場合のみがいいと思います。
部屋の照明器具は、早めにLEDに変更を!
照明器具は、早急にLEDへチェンジしましょう。従来の照明器具と電気代を比較すると、蛍光灯で約1/2、白熱灯だと約1/10の消費電力量に抑えられます。それから、発熱量が少ないので、室温の上昇に影響を与えにくいです。白熱灯は点灯してすぐに熱くなり、夏の室温に大きな違いが出ます。冷房を利用しながら部屋を温めてしまっているので、電気代が非常に無駄です。こういう観点に鑑みてもLEDがオススメなのです。
照明器具は頻繁に点けたり消したりすると、点灯時に電力を消費して電気代がかかると思っている人がいるようですが、これは間違いです。白熱灯やLEDは、短い時間でも消灯するように心がけてください。消し忘れが多い方は、人感センサーが内蔵された電球もオススメです。ECサイトで某国内家電メーカーのモノが900円前後で販売されています。トイレや玄関に使うと大変便利に活用できます。ただし、蛍光灯の場合は1回の点灯で寿命が1時間短くなると言われているので、頻繁にオン・オフするのは避けたほうがいいかもしれません。
古い冷蔵庫は買い替えましょう。庫内の収納量も節電のキーポイントに!
次に冷蔵庫。省エネ性能が低い冷蔵庫を使っていると、節電をいくら頑張っても努力が水の泡になります。エアコンは10〜15年前の製品でも省エネ性能に優れていますが、冷蔵庫の場合は15年も前の製品の場合、年間の電気代に1万円近く差が出ることもあります。古い場合は、早めに買い替えも検討しましょう。
また、ファミリータイプの大型製品と、一人暮らしサイズの小型製品を比較した場合、大きい製品のほうが電気代が安い場合もあります。コロナ禍の影響で買い置きが増えたため2台目の冷蔵庫を購入するケースも増えたようですが、2台所有すると電気代が2倍かかってしまいます。今の冷蔵庫が手狭になったなら、大きな冷蔵庫に買い替えたほうが電気代は安いですし、以前のモデルと比べて同サイズでも容量は増えているので、省スペースで活用できてお得です。
使い方にも注意点があります。冷蔵室にモノを詰め込みすぎると、冷気の循環が悪くなって無駄な電力がかります。7割くらいを目安にして、冷気の吹き出し口を塞がないように工夫すると良いでしょう。逆に冷凍室には、たくさんモノが入っているほうが電気代が安くなります。隙間があるなら水を入れたペットボトルを凍らせておくと、停電対策にもなり一石二鳥です。
夏場はこれで万全!冬場の節電対策は、窓際の防寒・断熱対策をチェック!
冬は夏と違い、部屋の内側で熱を逃さない防寒対策をするのが基本です。カーテンの裾と床の間にできる隙間も、部屋が冷える原因の1つです。冷たい空気は重たく低いところに溜まるので、カーテンと床に隙間があると冷たい空気がどんどん入ってきます。簡単な対策としては、厚手のカーテンを使用して引きずるくらい長くする。もし隙間があるなら、タオルやクッションで塞ぐだけでも効果があると思います。
逆に、暖かい空気は上に溜まります。暖房を利用していると、どうしても天井の方ばかり温めてしまいます。生活空間は床に近いので、暖房効率が悪くなり電気代もムダになります。きちんと空気を攪拌(かくはん)して、暖かい空気を下の方まで回してあげると、床まで暖かくなり暖房効率も上がります。
そこで、冬場は暖房と同時に、サーキュレーターの使用をオススメします。扇風機とサーキュレーターは、風を出す電化製品ですが、それぞれ用途・目的が全く違います。扇風機は広く柔らかい風を出し、人に直接風を当てるための家電。一方のサーキュレーターは強く直進的な風を出し、空気を循環させるための家電です。
扇風機は首が上に向かないと思うので、冬にサーキュレーターの代用として使うなら、高い家具の上に置いたりして天井方向に向ける必要があります。ただし夏は、風が当たったほうが体感温度が下がるので、エアコンと併用するなら扇風機のほうがより快適に体感温度を下げられます。
最後に:家電の機能を有効活用したりスマート家電を採用したりして、無理のない節電を心がけましょう!
政府による電気・ガス料金の緩和措置による補助金も段階的に縮小、廃止する方針が示されております。7月現在、燃料費は多少落ち着いていますが、世界情勢の動きによってどうなるかわからないので、今後も節電は注目されるでしょう。
効率よく節電をするなら、まず消費電力量が大きな家電を中心に考えましょう。スマホの充電器を抜いている人もいますが、ほぼ待機電力ゼロですから頑張っても節電効果はあまり期待できません。そこを気にするなら、エアコンの設定温度を1℃変える方が有効です。人感センサー付きの照明を使ったり、テレビ画面の明るさもセンサー機能を活用したりすると消費電力は抑えられます。家電に備わっている機能を上手に駆使しながら節電を心がけるのも、賢く節電をするポイントになります。節電の効果が出やすいところは徹底し、そうでないところは気にしない。そんな感じで良いと思います。家の中には家電がたくさんあるので、全ての家電で節電を頑張ろうとすると疲れてしまいます。
あと、スマートリモコンやスマートプラグなど、スマート家電を有効に活用するのもオススメです。防犯目的で照明をつけっぱなしの人もいますが、スマート家電を利用すると、そういう場合もタイマーで点灯できるようになります。さらに、エアコンも外出先から操作して、帰宅する頃に部屋を快適にしておけます。そういった便利な知識も身につけておくと、効果的な節電が無意識にできるようになるでしょう。
和田由貴
わだゆき。節約アドバイザーとして、消費生活や家電製品、食生活など暮らしや家事の専門家として幅広く活動中。また、環境カウンセラーや省エネ・脱炭素エキスパートという顔も持ち、環境問題にも精通する。2007年に環境省の「容器包装廃棄物排出抑制推進員(3R 推進マイスター)」に選出。活動のモットーは「節約は、無理をしないで楽しく!」で、耐える節約ではなく快適と節約を両立したスマートで賢い節約生活を提唱している。
公式HP: http://wada-yuki.com/
企画・編集=Concent 編集委員会
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近年、地震や台風などの自然災害が日本を含む世界中で頻繁に発生しています。これらの災害は私たちの生活に大きな影響を与えるだけでなく、ペットにも危険が及ぶ可能性があります。私たちは大切な家族の一員であるペットの安全を守るためにどう備えるべきか、NPO法人ペット防災サポート協会理事長の三浦律子さんにお話をうかがいました。
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NPO法人ペット防災サポート協会理事長の三浦律子さん
ペット防災はペットと飼い主を守るだけではない。地域社会全体での取り組みが大切
――ペット防災サポート協会立ち上げのきっかけについて教えてください。
私は現在ドッグトリミングサロンを経営しているのですが、お店をオープンした年に東日本大震災が起きました。知識も経験もない状態では災害時のボランティアはできないと感じ、お客様とペットのために自分ができることを考えました。当時は、ペット防災に関する情報や啓発活動もまだまだ不足していたので、ペット防災という考え方を伝える必要性を感じていました。この時からペット防災について学び、被災地でトリマーとして、ペットのケア方法やペット防災を伝えるボランティア活動に取り組み始めました。活動を通して、ペット防災はペットと飼い主さんを守るためだけのものではなく、地域社会全体で重要性を認識して取り組むことが大切だと感じるようになりました。そうした活動を継続していく中で、同じ思いの仲間が集まりペット防災サポート協会が立ち上がりました。
ペットと家族の避難計画と適切な備えを
――災害時の対応において最も重要なポイントは何ですか?
やはり備えをしている人と、していない人では大きく違いが出てきます。備えをしていないと、人もペットも命に関わります。「モノ」の準備だけではなく、ペット連れは避難場所をいくつか具体的に考えておくことが重要なポイントになるかと思います。具体的には、飼い主も一緒に避難する場合は知人宅や少し離れた親戚宅など。ペットだけで短期間の場合はペットホテルやサロン、長期の場合は動物団体に相談しましょう。特に大規模な災害の際には、ペットを受け入れる施設や場所が限られていることがあるので、ペットと家族の避難計画を事前に立て、適切な備えをすることが重要です。住んでいる地域の防災計画や自治体の広報誌、ウェブサイトなどで災害時の避難所の所在地や避難ルートを確認し、避難所にペットを連れて行く際の注意事項も、あらかじめ管轄の自治体に確認しておきましょう。
適切な温度管理には電力が必要不可欠。それぞれのペットに合った対策を
――災害時にペットの安全を守り、ストレスを軽減させるにはどのような対策が必要ですか?
ペットの種類や性格にもそれぞれ違いがあるので、その子に合わせた対策が必要ですが、全てのペットに共通することは適切な温度管理です。犬や猫はもちろん、エキゾチックアニマル(トカゲやヘビ、ハリネズミなど)を飼っている方は特に重要になってきますし、鳥などは他の鳥からの感染症にも注意しなければなりません。ペットの性格や年齢、体調なども考慮して、避難後の過ごし方まで考えておく必要があります。季節や天候に応じた準備が必要なので、エアコンを利用できることが望ましいですが、電力の供給が制限されることもあるため、ペットの温度管理に役立つ保温マットや冷却マットなどを用意するなど、ペットの体温調整を常に意識するようにしましょう。ポータブルバッテリーなどの予備電源を準備しておくと安心です。電力はペットの快適な生活環境を整える上でも必要不可欠です。
特に新しい環境や外部からの刺激が多い場合、ペットにストレスを与えることがあります。リラックスできるように、ペットが過ごすケージに目隠しになるタオルを被せたり、好きなおやつなどの嗜好品の準備をしたり、適度な運動ができる環境を整えることも必要です。ストレスから病気になるペットもいるので、普段からペットの性格や健康状態、生活スタイルなどを防災ノートに記しておきましょう。防災ノートを見れば、飼い主以外の方もお世話ができます。
ペット防災サポート協会が作成した「人とペットの防災ノート」
――ペットの避難時に必要な備品や物資について教えてください。
避難するときに、持ち出し品(すぐに持ち出すもの)と、備蓄品(家に置いておくもの)とを分けて考えておく必要があります。ペットの種類によっても必要なものにそれぞれ違いがあるので、実際にリュックなどに入れて持ってみることで、重すぎるものは備蓄品にしておくなど、必要なものがどれなのか事前に把握しておきましょう。
例)犬、猫の場合
〇持ち出し品(すぐに持ち出すもの)
療法食、薬、ごはん3日分くらい、キャリーバック、ケージ等、首輪やリード(伸びないもの、係留するのに便利なもの)、ペットシーツ、排泄物の処理用具、猫砂(猫の場合)、食器、暑さ・寒さ対策グッズ、目隠しになる大きなタオル等、除菌シートやスプレー等(避難先を汚した際に使用)、ゴミ袋、ワクチン証明(携帯電話や防災ノートに保存)
〇備蓄品(家に予備で置いておくもの)
ごはん、水、ペットシーツ、猫砂、ガムテープ、ペットの写真、おやつ、グルーミンググッズ、予備の首輪やリード(周りへの安全性を考えて伸びないものが良い)、充電済のポータブルバッテリー
持ち出し品の一例
「人とペットの防災ノート」のチェック項目
学ぶことは、自分を守ること
――ペット防災に関する教育や啓発活動について、現状どのような課題がありますか?
私がペット防災を学び始めた頃は、「まずは人の防災からでしょう?」と言われることが多くありました。時代は変わり、今は15歳未満の子供よりペットのほうが数が多いと言われています。少しずつ関心は高まってきているとは思いますが、まだまだペット防災はペットだけを守ることと思われている傾向があるように感じます。
ペットの存在が人とペットの綿密な避難計画を立てることにつながり、社会全体の防災にも大きく関わってくるので、全ての人にペット防災を学んでほしいと思います。人と動物の命の大切さがわかり、自分を守ることにもなると思います。
愛媛県立伊予農業高等学校で実施したペット防災教育の様子
――最後に読者の方へメッセージをいただけますでしょうか?
防災というと何だか堅い感じがして、「何とかなるでしょう?」とか、「特に何も用意していません」という声もまだまだ聞きます。ペット防災はペットを飼っている、飼っていないに関係なく皆さんに関わってきます。地域でのペットを含めた普段の生活が災害時にも関係してきます。
避難所でペットと一緒に生活するということは大変な部分もあり、過去の災害においてトラブルなどもありましたが、避難所でのペットの存在は悪いことばかりではなかったということも被災地で見聞きしてきました。人が抱えた災害時の不安やストレスを、ふれあった動物たちが癒やしてくれて、生きる希望を与える存在になったということもありました。このように、人と動物の共生がもたらす良い側面は多くあります。私共の団体は、ペットの存在が人々にもたらす良い影響や、ペット防災について様々な視点で学ぶことの重要性を伝えています。今後ペット防災についての取り組みが社会全体の備えとなり、日本の防災意識を変えることにつながるかもしれません。ぜひ、ペット防災に関心を持っていただければと思います。
三浦 律子(みうら りつこ)
愛媛県松山市出身 大阪府東大阪市在住。
NPO法人ペット防災サポート協会 理事長(大阪市住之江区防災パートナー登録)
特定非営利活動法人 全国動物避難所協会 理事
ペット防災の日 制定 (2021年9月7日)
静岡県避難所 HUG (使用許諾060号)
たすかるノート with PET 製作(宮崎県動物愛護管理センター・大阪府河内長野市等)
DogSalon OHANA オーナートリマー(大阪府アニマルパートナーシップ保管第3号)
★節電情報について知りたい方はこちら!
2022年11月に世界の総人口が80億人を突破したことが、国連「世界人口推計2022年版」で明らかになりました。そればかりか、今後15年ほどで90億人を超えるだろうとも言われており、食料問題に関しては地球規模で真剣に考えていかなければなりません。食料自給率が約4割しかない日本にとっても、重要な検討課題になっていくのではないでしょうか。
現在、各方面から“次世代のたんぱく源”として注目を浴びている昆虫食。皆さんの中には、虫に対する苦手意識がある方もいたり、もしくは郷土料理で●●は食べたことがあるから想像はできるな……と思う方がいたりするかもしれません。そこで昆虫食について、TVやイベントなどでも活躍する昆虫料理研究家の内山昭一さんに「昆虫食っていつから始まったの? 食べても大丈夫なの?」という素朴な疑問から、「人類の未来の救世主になるって本当?」「実際食べるとしたら、どんなふうに?」といった先々の展望まで、詳しく解説していただきます!
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1.人類は700万年前から昆虫を食べ続けてきた
ヒトがサルの祖先と分かれたのが700万年前といわれています。道具を持たない「裸のサル」にとって、量が多くて採りやすい昆虫は格好の食料でした。悠久の昔から食べ継がれてきた昆虫だからこそ、人間の体に優しい食べ物といえるでしょう。
世界を見渡すと20億人が2000種の昆虫を食べています。日本でも大正8年の全国的な調査によると、55種類の昆虫が食べられていました。いまでもイナゴやハチノコなどは佃煮として長野など一部地域で食べられています。イナゴは高タンパク低脂肪なのでダイエット食材としても適しています。味覚センサーで計るとハチノコはウナギに、セミ幼虫はアーモンドに味がよく似ています(図表1)。
図表1:ハチノコとセミ幼虫を味覚センサーで計る(出典:内山昭一『昆虫食入門』平凡社、2012年、139頁)
私たちが開催する試食会でも、ウナギのかわりにハチノコを巻いた「う巻き風ハチ巻き卵」(写真1)や、セミ幼虫をチリソースで炒めた「セミチリ」(写真2)は美味しいと好評です。昆虫はヘルシーで美味しい食材として見直されてきています。
写真1:ウナギのかわりにハチノコを巻いた「う巻き風ハチ巻き卵」
写真2:セミ幼虫をチリソースで炒めた「セミチリ」
2.昆虫食新時代を招いたFAO報告
地球規模の人口増加や温暖化による異常気象のため食料不足が危惧されるなか、コロナウイルスの世界的な広がりや、ロシアによるウクライナ侵攻が追い打ちをかけています。また、日本の食料自給率は38%ととても低く、食料安全保障は大きな課題となっています。
国連食糧農業機関(FAO)が2013年に出した報告書があります。題して『食用昆虫―食料と飼料の安全保障に向けたこれからの展望』です。報告書から家畜と昆虫のエネルギー効率を比較してみました。コオロギなどの昆虫は、牛に比べてエネルギー効率がはるかに良いことが分かります(図表2)。
図表2:昆虫がエネルギー効率のいい食材である理由
報告書が出てから昆虫食ビジネスが世界的な広がりを見せています。なかでもEUは環境負荷の少ない昆虫食品への関心が高いようです。ただ、これまで昆虫を食べたことのないほとんどの日本人にとって、たとえばコオロギは食べて本当に安全なのか不安に思う人が多いでしょう。そこで参考になるのは、EU域内の食品の安全性を検証する専門機関である欧州食品安全機関(EFSA)が2022年、「コオロギは甲殻類(エビ・カニ等)に近い成分を含みアレルギー反応を誘発する可能性以外、ヒトの消費に対して安全である」と結論づけたこと。
それを受けて欧州委員会はコオロギを「新規食品」として正式に認可し、EU内で自由に取引できるようになりました。もちろん、それは食品としての可能性の定義の話であり、「昆虫を食べるか食べないかは消費者の自由な選択に任されており、昆虫は新たなたんぱく源ではなく、昔から世界各地でふつうに食べられてきた食べ物」というのが欧州食品安全機関の基本的な考え方です。「コオロギ生産ガイドライン」もでき、農薬や汚染物質、衛生面でリスクの低い生産が可能になっている側面もあります。ただし、重ねての注意点として、エビやカニでアレルギーを発症する人は食べないほうがいいでしょう。
栄養面を見てみると、昆虫にはタンパク質が家畜とほぼ同等の平均60%(乾燥重量)と多く含まれています。特に昔から食べられているイナゴはタンパク質が76.8%、脂肪が5.5%と、高タンパク・低脂肪の代表選手といえるでしょう(図表3)。必須アミノ酸が基準値100以上だと優れた食品とされていますが、たとえばハチノコで知られるクロスズメバチ幼虫のアミノ酸スコアは100とする報告もあります。イナゴやハチノコも『食品成分表』に載っているれっきとした食品なのです。
図表3:家畜と食用昆虫のタンパク質、脂肪などの栄養価
食用昆虫の脂質にも注目です。必須脂肪酸として何かと話題のオメガ3とオメガ6。オメガ3とオメガ6の摂取比率は1:4がよいとされていますが、現代の肉類の多い食生活ではオメガ6が多くなりやすく、意識的にオメガ3を多く取ることが大事です。ここでイナゴとカイコの出番です。いずれもオメガ3の「α-リノレン酸」を多く含み、魚油に多く含まれる「DHA」と「EPA」も体内で合成されます。また、ビタミンB群を多く含み、ミネラルも豊富です。
※オメガ3は必須脂肪酸の「DHA」と「EPA」、「α-リノレン酸」の総称で、血液サラサラ効果があり、動脈硬化の予防、中性脂肪値の低下、肥満・メタボ予防が期待されます。
※オメガ6も必須脂肪酸の「リノール酸」「アラキドン酸」の総称です。オメガ3の効果とは反対の血液凝固作用があります。
しかも、昆虫には腸内環境を整える機能のあることが知られています。ビフィズス菌が増えることで、がんなど炎症性腸疾患に関連するタンパク質を減らす効果があります。昆虫の外骨格であるキチン質は食物繊維的な働きがあり便秘解消にも役立ちます。
3.女性ならではの昆虫料理
私たちは「昆虫料理を食べる会」を定期的に開いていますが、「コオロギパウダーを練り込んだものを食べたので今度は形のあるものを食べてみたい」といって参加する女性がたくさんいらっしゃいます。パウダーの次は食感や味を知りたくなるのだそうです。参加される女性の多くは「昆虫が生きて動いていると触れないけど食材としてなら平気」と言います。確かに生きた魚をさばける人は少ないでしょう。このように食事会に集まる女性にとっては“昆虫食”ではなく“昆虫料理”なのです。ミツバチベビーを入れて焼いたオムレツ(写真3)や、ゾウムシの赤ちゃんが可愛く顔をのぞかせるパン(写真4)など、アイデアあふれる作品が毎回登場します。グルメな彼女たちにとって昆虫は「“体”の栄養+“心”の栄養」なのかもしれません。
写真3:ミツバチの子入りオムレツ
写真4:ゾウムシパン
参加者から時々差し入れがあるのですが、先日もイナゴクッキーをいただきました。お父さんが長野から買ってきたイナゴの佃煮を細かく刻んで入れたそうです。千葉にお住まいなので地元産の落花生も刻んで混ぜた郷土愛あふれるサクサク美味しい一品でした。
料理は前頭前野を活性化し脳年齢を若返らせるといいます。昆虫を使った料理はレシピ作りにかなりの想像力が求められ、前頭前野をいっそう鍛えるに違いありません。加えて未知の食べ物を食べる刺激はさらに脳年齢を若返らせることでしょう。
ここまでお読みになっていかがでしたか。私たちが開催する「昆虫を食べる会」にお気軽にご参加ください。「未知のおいしさが詰まった宝石箱」に出会えるかもしれません。
内山昭一(うちやま しょういち)
1950年長野市生まれ。昆虫料理研究家、NPO法人昆虫食普及ネットワーク理事長、NPO法人食用昆虫科学研究会理事。幼少より昆虫食に親しむ。著書に『新装版 楽しい昆虫料理』(ビジネス社)、『昆虫食入門』(平凡社新書)、『人生が変わる!特選昆虫料理50』[共著:木谷美咲](山と渓谷社)、『昆虫は美味い!』(新潮新書)、『食の常識革命! 昆虫を食べてわかったこと』(サイゾー)。監修に『食べられる虫ハンドブック』(自由国民社)、『世界をすくう虫のすべて』(文研出版)、『めちゃうま!?昆虫食事典』(大泉書店)。好きな(美味しい)昆虫はカミキリムシ、スズメバチ、セミ、モンクロシャチホコ、タイワンタガメ、トノサマバッタ、ほか多数。テレビ、ラジオ、雑誌、新聞、インターネットなどあらゆるメディアで昆虫食の普及・啓蒙に努めている。東京都日野市在住。
主な書著
「昆虫食入門」(平凡社)、「人生が変わる!特選 昆虫料理50」(山と溪谷社)、「昆虫を食べてわかったこと」(サイゾー)、「昆虫は美味い!」(新潮社)、「食べられる虫ハンドブック」(自由国民社)、「ホントに食べる?世界をすくう虫のすべて」(文研出版)、「新装版 楽しい昆虫料理」(ビジネス社)、「めちゃうま!? 昆虫食事典」(大泉書店)
公式HP:公式HP:昆虫食を楽しもう! 内山昭一 Official Website | 昆虫食彩館(http://insectcuisine.jp/)
Twitter:@insectcuisine
保存が利くうえに調理の手間がかからないなどの魅力が年々支持され、市場規模も拡大している冷凍食品。その保存に欠かせないものが冷凍庫ですが、できるだけ節電したいところ。そこで、“冷凍王子”として活躍する西川剛史さんにインタビュー。節電や食品ロス削減に効果的な冷凍のコツをはじめ、おすすめのアレンジレシピや注目の冷凍食品トピックスなどをうかがいました。
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“冷凍王子”として活躍する西川剛史さん ※画像:いますぐ食べたい!冷凍食品の本(自由国民社)より
時短で栄養も摂れる冷凍食品で多忙な現代人の力に!
――西川さんが冷凍食品の専門家になったきっかけから教えてください。
もともと食べることも料理することも好きで、中学生の頃には家族のお手伝い感覚で料理するほどでした。母が買ってくる食品への関心も高く、高校生の時に食べた「あんかけ五目焼きそば」という冷凍食品のおいしさに感動したのが原点です。
基本的に、料理は手間と時間をかけたほうがおいしいですよね。でも冷凍食品は簡単かつスピーディーながら絶品。「どうやったら、こんなに本格的で作りたてのようなおいしさの商品にできるんだろう?」と、非常に興味が湧いたんです。
その後大学で栄養学などを勉強していた時に、忙しい人ほど不健康な食生活を送りがちであることに気づきました。しかし簡単便利で栄養も摂れる冷凍食品であれば、その課題を解決できると考え、冷凍食品の道を究めたいと思ったんです。
その後は冷凍食品の大手企業に採用いただき、働きながらブログを書いていました。それが有名TV番組のディレクターさんの目に留まって出演したことが、私が広く知られるようになった一大転機です。2012年のことですね。
冷凍庫の開放時間を短くして隙間をなくそう!
――冷凍庫を節電するコツを教えてください。
保冷効果を高めることが大切ですね。お店から買って帰る際も、なるべくとけていないほうが節電できます。そのためには1パックよりもまとめ買いするよう心掛け、冷凍食品同士を密着させるように袋詰めしましょう。
※画像:いますぐ食べたい!冷凍食品の本(自由国民社)より
保冷バッグの中も、できるだけ隙間ができないようにするのがコツ。また、冷気は上から下に降りるので、保冷剤やその代用にする冷凍食品は最上に置くことがポイントです。
※画像:いますぐ食べたい!冷凍食品の本(自由国民社)より
冷凍庫の使い方としては、大前提として庫内の整理整頓とカテゴリーごとの定位置化、食品の見える化を心がけましょう。これは、見つけやすくして開けている時間を短くするためです。食品探しに時間がかかるとその間に庫内の温度が上がり、冷気を出す冷凍庫の電気代もかかってしまいますから。
加えて、冷凍庫は隙間があると温度が上がりやすいので、できるだけ冷凍食品や凍った食材でいっぱいになっているほうが電気代はかかりません。もしスペースが空いている場合は、保冷剤やペットボトルに水を入れて凍らせたものを入れておくのも手です。
――食品ロスを削減するためには、どんなテクニックがありますか?
余った食材や料理を冷凍すること自体が食品ロスの削減となりますが、長期の冷凍保存は霜の原因になるなど味の劣化につながりますので早めに消費しましょう。ポイントは、庫内を整頓したうえで、使いかけの食品やこまごましたもののスペースを作ること。それらを一度に使う日を決め、カレーやスープ、鍋類など食材の汎用性が高い料理に用いるのがおすすめです。
このように冷凍庫内を整理整頓することがポイント ※画像:いますぐ食べたい!冷凍食品の本(自由国民社)より
なお、作った料理を冷凍する際は完全に冷めてから冷凍してください。熱を持っていると庫内の温度が上がって、その分電気代もかかってしまいます。
餃子の炊き込みご飯やパスタのオムレツをお試しあれ
――おすすめの冷凍食品アレンジレシピを教えてください。
いくつかあるのですが、冷凍食品の中でも人気の高い、餃子を使った炊き込みご飯を紹介しましょう。炊飯器で炊く際、水に醤油、鶏ガラスープの素、ニンニクを混ぜてお米を浸します。その上に凍ったままの餃子を並べて通常モードで炊き、完了したらゴマ油をひとかけ。ざっくり混ぜ、お椀に盛ったら刻んだ青ネギや生姜を乗せて完成です。
炊飯器に冷凍餃子と調味料を入れて炊き上げるだけ ※画像:いますぐ食べたい!冷凍食品の本(自由国民社)より
餃子の炊き込みご飯 ※画像:いますぐ食べたい!冷凍食品の本(自由国民社)より
冷凍餃子をそのまま炊飯器に入れるレシピなので、フライパンが必要ありませんし、ご飯とおかずが同時に作れます。味わいも、お肉のうまみや皮のツルンとした食感をご飯と一緒に楽しめるのでおいしいですよ。
もう一品は、冷凍パスタを使ったオムレツをご紹介しましょう。パスタのオススメはミートソース系です。まずはパッケージの記載通りに、冷凍パスタを電子レンジで調理。その間にボウルに卵とチーズを入れてしっかり混ぜ、レンチンしたパスタも加えてさらによく混ぜます。
次にフライパンでオリーブオイルを温めたらボウルの中身を流し入れ、両面を3分ずつ焼いて完成です。オムレツを裏返す際は、お皿を使うと反転させやすいですよ。パスタの本場イタリアでもこの料理はおなじみなので、ぜひ試していただけたら。
調理の下準備 ※画像:いますぐ食べたい!冷凍食品の本(自由国民社)より
冷凍パスタを使ったオムレツ ※画像:いますぐ食べたい!冷凍食品の本(自由国民社)より
注目は「餃子」「ラーメン」「高級冷食」「プラントベース」
――冷凍食品は進化も著しいですが、注目のジャンルはありますか?
おかず系であれば冷凍餃子ですね。二大ブランドである、味の素冷凍食品の「ギョーザ」とイートアンドフーズの「大阪王将 羽根つき餃子」がけん引しており、前者は油と水なしで、後者はさらにフタも不要でパリパリの羽根つき餃子が焼けます。
主食系で特に注目しているのは冷凍ラーメン。メーカーではキンレイの「お水がいらない」シリーズが画期的で、スープ、麺、具材と3層構造でまるっと冷凍にすることにより、その名の通り水要らずで調理できます。
冷凍ラーメンは、有名店がお取り寄せや自動販売機で発売するケースが増えていたり、調理までしてくれる自販機「ヨーカイエクスプレス」が登場したりと盛り上がっていますが、価格は800円とか1000円とか、それなりにするんですね。
その点キンレイは人気店とのコラボにも積極的でお店の味を再現しつつ、300円台程度とお手頃価格なのも魅力です。とはいえ800円や1000円の冷凍ラーメンが高いというわけではなく、普通はそれだけ原材料や手間がかかるんですね。それをスケールメリットや技術でコストカットできるのが、長年のノウハウを持つキンレイの強みといえるでしょう。
――スタートアップで注目のメーカーはありますか?
高級冷凍食品を手掛ける「ブレジュ」ですね。フレンチの三ツ星シェフ、ダニエル・マルタン氏の監修というのが最大の特徴。さすがに高価ですが相応のハイクオリティな味わいで、冷凍食品は便利なだけでなくごちそう級のおいしさも楽しめることを世に知らしめたブランドです。
――中長期的に気になるトピックスは?
ひとつは、植物由来の原材料を使ったプラントベースの冷凍食品です。植物性原材料は環境負荷や倫理的な側面などでSDGs的にも礼賛されており、世界的にニーズが高まっています。
そんな中、冷凍食品でもプラントベースが注目されつつあり、メーカーでは「Grino(グリノ)」というブランドが注目されています。たとえばカルボナーラに関しては、ベーコン、卵、生クリーム、チーズといった本来は動物性の食材を、植物性食材に置き換えて商品化しています。
ほかには、イオングループが手掛ける「アットフローズン」、京阪百貨店の「ゴエフ」、液体凍結技術の企業「テクニカン」による「TŌMIN FROZEN」など、冷凍食品専門店が徐々に増えている点も注目ですね。冷凍食品自体の進化とともに市場は拡大しており、販売手法やお店も多様化していくはずです。同時に家庭用の冷凍庫も、より省エネできるモデルへと進化していくでしょう。
今回お話しした内容は、私の最新著書「いますぐ食べたい!冷凍食品の本[レシピつき]」に詳しく載っています。節電のコツについてもイラスト付きで解説していますので、ぜひご一読いただき、上手に電気を使っていただけたらうれしいです。
西川 剛史(にしかわ たかし)
冷凍生活アドバイザー、冷凍食品開発コンサルタント。高校生のころから冷凍食品に興味を持ち、冷凍食品会社に就職。冷凍食品の商品開発などの経験を生かし、現在は冷凍専門家として活動中。冷凍王子としてテレビ番組「マツコの知らない世界」「ヒルナンデス!」「王様のブランチ」「NHKごごナマ」など、その他テレビ、雑誌などに多数出演。
著書『いますぐ食べたい! 冷凍食品の本[レシピ付き]』(自由国民社)
★節電情報について知りたい方はこちら!
世界的なエネルギー需給ひっ迫のなか、いまや家計的にも環境的にも、節電・節約を意識する人が増えているのではないでしょうか。節電・エネルギー節約のために冷蔵庫の貯蔵量をおさえる、家電や調理の稼働時間を減らす、といった努力はまず手始めにできることとして挙がります。とはいえ、その中でも健康的にたっぷりと野菜を調理してしっかり食べ、買い置きをしつつ冷蔵庫の中身を少量化したい! そんな、「健康を意識しつつ節電・節約と両立できる日常の中の工夫」について、テレビや雑誌で活躍する家事アドバイザー・節約アドバイザーの矢野きくのさんにお話をうかがいました。
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家事アドバイザー・節約アドバイザーの矢野きくのさん
1.食事と節電 普段の生活の中でも実践できる節電・節約
エネルギー価格の高騰を起因とする光熱費はもちろん、食費やその他のあらゆる生活費までが値上がりし、家計を圧迫しています。「節約をしなくては」と感じている人も多くいることでしょう。
筆者の講演のときに来場者へアンケートを取ると、節約したい費目のいちばんめに来るのが残念ながら食費です。しかし、食費や光熱費を節約するがあまり健康を損なってしまっては本末転倒。また「節約しなくては」という気持ちが強すぎて、精神的に苦しくなると、日々の生活が楽しくなくなり、節約を続けることもできなくなってしまいます。 大切なのは、しっかりとした情報を得るように心がけ、無理なく日頃の生活の中で続けられる節約方法をとることです。
例えば、節電というと口にする人が多い「待機電力のカット」。使っていない家電のコンセントを抜いてまわるというものですが、実は労力ほどの節電効果はありません。筆者がこの仕事をはじめた20年ほど前は待機電力が多い家電もありましたが、その後、技術が進化し、今は全消費電力のうちの6%ほど。テレビなどはほとんど待機電力もかかっていないのです。
時間と手間をかけてコンセントを抜いてまわるのであれば、生活を維持しながら効果のある節電方法を見極めるべきではないでしょうか。
2.野菜選びが節電につながる?
健康な食生活を送る中で欠かせないのが野菜です。野菜は常温、冷蔵、冷凍、乾物、缶詰など種類があり、何を選ぶかによっても食費の節約にも、節電にもつながります。家庭で野菜を保存する際に電力を必要としないのは、常温保存できる野菜と乾物、缶詰です。野菜というと冷蔵、冷凍を思い浮かべがちですが、このような保存に電力を必要としない野菜を意識して摂るようにすることも大切です。
常温保存ができる野菜の代表は、玉ねぎ、じゃがいも。かぼちゃ類もカットする前は常温で保存できます。乾物の野菜の代表は切り干し大根、干し椎茸が挙げられますが、近年技術が進歩してそれ以外の乾物野菜も登場しています。また、自家製で干し野菜を作る人も増えてきました。趣味をかねて干し野菜に挑戦してみるのも良いでしょう。冷蔵や冷凍の野菜の割合を少なくしていくことで、野菜を摂取しながらも節電することはできるのです。
3.知っておけば役立つ! おすすめの「調理術」
また野菜の調理方法を変えることでも、節電することは可能です。
根菜類の下茹では電子レンジで
大根やじゃがいもなど特に根菜類は、鍋に水を入れて下茹でするよりも、電子レンジで加熱したほうがエネルギー消費を少なくすることが可能です。ただし、アクの元になるシュウ酸を多く含んでいるほうれん草は、茹でることによってシュウ酸を食材から落とすことができるので、ほうれん草に関しては電子レンジ加熱ではなく茹でることをおすすめします。
余熱調理・保温調理を活用する
カレーやシチュー、その他の煮込み料理などは、余熱調理や保温調理を活用することで省エネにつながります。仮に20分煮込む必要があるとき、最初の10分で火を止め、残りは鍋にふたをして余熱を利用することで調理できるものもあります。余熱調理・保温調理の時間の割合は、使っている鍋の厚みや食材によって変わってくるので、ご家庭でメニューにあわせて調整してください。
野菜を細かく切る
野菜の切り方でも節電・節ガスにつながります。煮込み料理でも炒めものでも、野菜を薄く、細かく切っているほうが中まで熱が入りやすく、加熱時間を短縮することができるのは容易に想像できるでしょう。メニューによって野菜が細かくても良いものは、ぜひ試してみてください。
4.野菜✕節電 時短にもなるおすすめメニュー
野菜をたくさん食べたいけれど節電もしたい。そんなときにおすすめなのが“リメイクレシピ”です。
まずは大きな鍋で必要人数分以上の野菜スープを作ります。味付けはシンプルなコンソメがおすすめ。
初日に野菜スープをいただいたら、翌日はそこに缶詰のトマトと最後にチーズを足して濃厚なトマトスープにリメイク。さらに3日目は残っているトマトスープにカレールーを足してカレーの出来上がりです。
リメイクしていくことで加熱時間は少なくすみ、節電・節ガスにもつながります。
日頃の暮らしを維持しながらでもできる節電方法はまだまだいろいろあります。ぜひ楽しみながら取り組んでみてくださいね。
矢野きくの(やのきくの)
家事アドバイザー・節約アドバイザー。女性専門のキャリアコンサルタントを経て女性が働くためには家事からの改革が必要と考えて現職に。家事の効率化、家庭の省エネを中心にテレビ、雑誌、講演ほか企業サイトや新聞での連載。テレビクイズ問題の作成や便利グッズの開発にも携わる。
Twitter:https://twitter.com/yanojapan
Facebook:https://www.facebook.com/kikuno11
主な書著
「シンプルライフの節約リスト」(講談社)
★節電情報について知りたい方はこちら!
今年は世界的な情勢により、電力需給ひっ迫の懸念が高まり、夏期に続き冬期にも節電の要請が出ました。寒さが厳しくなるにつれ、暖房などによるさらなる電力需要の増大に合わせてひっ迫への懸念も高まってきています。そこで、節約アドバイザー・ファイナンシャルプランナー(AFP)・消費生活アドバイザーの丸山晴美さんに、この冬の電気のことや、今日からでも実践できる節電・節約方法についてお話をうかがいました。
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丸山晴美さん
2022年冬電力需給がひっ迫するかも!? なんでこうなったの?
――この冬、電気料金アップのニュースを目にしました。夏期から続く電力需給のひっ迫の懸念も、冬期はいっそう気をつけたいところ。こういった状況は、なぜ起きているのでしょうか?
現状、日本の発電の多くは火力発電に頼っており、発電のために必要なLNG(天然ガス)や石炭の価格が高騰し、それに伴い発電コストが上昇しているため、電気料金も値上がりしています。
高騰している理由はいくつかありますが、最近ではロシア軍のウクライナ侵攻により、LNGや原油、石炭といったエネルギー輸出国であるロシアが輸出量を減らしていることで、燃料価格が高騰しており、さらに急激な円安も燃料価格の上昇に追い打ちをかけています。
――こういった状況でふと不安に思った時、どんなことに注目して日々のニュースなどを見ていればいいのでしょうか?
まずは資源価格(例えば、海外における原油先物価格の変動が電気料金に反映されるまで、4~9カ月程度のタイムラグが生じる※)やロシア、ウクライナ情勢、円安といった全体的なこと。そして、毎月のように値上がりしている電気代と年々上昇している「再エネ賦課金」のニュースに注目するとよいでしょう。
具体的に、どんな点に気をつけて節電をしたらいい?
――燃料価格の高騰や円安は一朝一夕には解決しない問題です。日常の中でまずできることとして、生活の中でどんな点に気をつけたらいいでしょうか? また、おすすめの節電方法などがあればおうかがいしたいです。
熱が出るもの、使用時間が長いものほど使用電力量が高くなる傾向があります。
資源エネルギー庁の省エネポータルサイトによると、夏、冬ともにエアコン、冷蔵庫、照明の順番に消費電力量が多くなります。待機電力を意識するのもよいですが、消費電力量が多い家電製品から節電する仕組みを作っていきましょう。
出典:家庭でできる省エネ(経済産業省 資源エネルギー庁)より
一番簡単な節電方法は、冷蔵庫やエアコン、テレビなどの設定にエコモードや省エネモードがあれば、それに切り替えるだけで、使いながら節電ができます。そのようなモードがない場合は、冬場は冷蔵室の設定を弱設定にしたり、テレビの音量や明るさを下げるだけでも大丈夫です。
他には照明をLED照明に交換したり、10年以上使っている冷蔵庫やエアコンを最新のものに買い替えると、使いながら節電ができます。
エアコンやヒーターの設定温度も20℃を目安に設定しつつ、リビングで家族みんなで過ごすウォームシェアや、肌寒いと感じたときに1枚羽織る、レッグウォーマーやネックウォーマーを使うといったウォームビズを意識しましょう。
――冷房に比べて、暖房の方が電力使用量が高くなる傾向あると聞いたことがあります。ほかに、冬の家の中で、節電・節約のために気を付けたいことはありますか?
上記のウォームシェアやウォームビズに加え、窓や保温も気を付けるとよいでしょう。
外の冷気は窓ガラスを通して入ってきて、暖めた部屋の暖気は窓ガラスを通して逃げて行ってしまいます。おしゃれなカーテンもよいですが、断熱性のある厚手のカーテンを引くと暖房効率が上がります。
寒い冬は、暖房便座や電気ポットなど温かい保温が恋しくなりますが、暖房便座は低温にしたり、使用後は便座のフタを下ろす、電気ポットは日中在宅していないのであれば、その間は切る。
1回あたりのお湯の使用量がカップ1杯程度など1リットル未満であれば、電気ケトルを使用するとよいでしょう。炊飯器も4時間以上保温をするなら、小分け冷凍や冷蔵をして食べる分だけレンジで温めなおした方が節電になります。
――節電や節約は、やろうやろうと思っても、日々の生活の中でなんとなく見過ごしてしまったり、面倒だなと感じてしまう人もいるかと思います。私もその一員で……。節約への心構えをうかがいたいです。
値上がりが続きますが、大変なときこそ今一度固定費などの家計を優先順位を考えながら見直しましょう。
節約=ケチやランクDOWNではなく、日ごろの無駄を省いて必要な時にお金が出せるようになることで、生活の質が上がりランクUPにつながります。
――ありがとうございました!
※https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2016html/data/361-5-4.pdf
丸山晴美
節約アドバイザー・ファイナンシャルプランナー(AFP)・消費生活アドバイザー。 22歳の時に節約に目覚め、1人暮らしをしながらも1年で200万円を貯めて26歳で住宅を購入した経験がメディアに取り上げられ、その後コンビニ店長などを経て2001年節約アドバイザーとして独立。食費や通信費など身の回りの節約術やライフプランを見据えたお金の管理運用のアドバイスなどを執筆、監修している。
ゆとりうむプロジェクト理事:https://yutorium.jp/
公式HP:http://www.maruyama-harumi.com
主な書著
「節約家計ノート2023」(東京新聞)
「シングルママのお金に困らない本」(徳間書店)
インタビュー:Concent編集部
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【今月の密着人】関西電力株式会社 経営企画室 イノベーションラボ 山崎美緒(やまざきみお)さん(27歳)
季節や天候に左右されず、海を汚さないことから、次世代型養殖のスタンダードと目されている陸上養殖。この技術を用いてブランドエビ「幸えび」(ゆきえび)を生産しているのが関西電力発のスタートアップ企業です。「食も大切なインフラの一つ。未来を担う幸えびを、もっと多くの方々に知ってもらいたいです」と、目を輝かせる関西電力の山崎美緒さん。経理から広報、営業まで、子会社の幅広い業務支援をパワフルにこなす彼女に密着しました。
燃料調達からエビの養殖へ。未経験の舞台に立候補
やってきたのは、静岡県西部の磐田市。広大な田園地帯の中にある、関西電力発のスタートアップ企業「海幸(かいこう)ゆきのや合同会社」(以下、ゆきのや)です。ここでは、水産業が抱える課題を解決し、社会に貢献するべく、エビの陸上養殖に取り組んでいます。
関西電力 経営企画室 イノベーションラボの山崎美緒さんは、そんな「ゆきのや」を支援するのが仕事。ここで生産されているブランドエビ「幸えび」を広めるために、関西電力の立場から、広報や営業、さらには経理業務の支援など、さまざまな仕事を担っています。
出迎えてくれた山崎さん。ゆきのやのロゴは、エビの形をイメージ
養殖場は東京ドーム1個分の広さ。年間80トンのエビが生産される
山崎さん「『幸えび』は、バナメイエビという種類です。食用として一般的なエビで、身が柔らかく、甘みが強いのが特徴ですが、幸えびは循環型のクリーンなプールで薬品などを使わずに育てているので安心安全。人工波によって運動を促していて、身が締まっていてプリプリの食感が楽しめますよ」
幸えびは用途によって使い分けられる6サイズ(SS〜3L)。身は雪を思わせるような透明感のある白さ
熱を入れると鮮やかな赤色に。大きさがそろっているのも養殖ならでは
詳しく幸えびの説明をしてくれる山崎さんですが、ゆきのやとの関わりはまだ半年ほど。その前は、関西電力で発電に必要な燃料を調達する仕事に従事していました。
山崎さん「なるべく安く燃料を仕入れることで、会社のコストダウンに貢献することが主なミッション。とてもやりがいのある仕事ですが、規模が大きいため、自分が本当に貢献できているかがあまり実感できない、というのが悩みでした。それで、もっとお客さまの身近で顔が見える仕事がしたいと思うようになったんです」
オンライン販売している冷凍の幸えび。他にもシェフ監修の加工品なども商品化されている
そこで思い出したのが、山崎さんが関西電力を志望するきっかけとなった、“事業領域の幅広さ”でした。関西電力はエネルギー事業以外でも社会に貢献していくため、社会の多様な課題に向き合う新規ビジネスに積極的に取り組んでいます。それらを担っているのが、山崎さんが現在所属するイノベーションラボです。
がん患者向けのカトラリー「猫舌堂」や、歩く速度で自走するモビリティ「iino」など、エビの養殖以外にも社外・社内ベンチャーを創出し、サポートしています。「ここなら、お客さまと近い距離で仕事ができる」——。そう考え、山崎さんはイノベーションラボに立候補したのです。
「事業領域の幅広さはインターンのときに知り、実はずっと興味があったんです」
山崎さん「いくつかのチームを兼任していますが、中でもメインで担当しているのが、ゆきのやの事業支援です。食の分野は未経験でしたから、担当が決まった当時は、ワクワクと不安が半分ずつありました。でも今は毎日がとても充実しています。ベンチャーだけあって物事が進むのがとてもスピーディーなんです」
社内システムも営業も、独学でパワフルにチャレンジ
山崎さんが着任したのは、約半年前。養殖場が完成し、本格的な稼働を数カ月後に控えたタイミングでした。「本格稼働の前後となるここからの半年間は“とにかく濃い日々”」。特に大変だったのが、業務環境を整えることだったと言います。
というのも、これまでは稟議を通すにも判子が必要で、オンラインサイトの売上を決算に反映するのもすべて手作業。こうしたアナログな部分を効率化していくことが、最初の取り組みでした。
水槽の水はろ過して循環しているため、海洋汚染を起こさずに養殖することができる
山崎さん「システムに詳しくはなかったので、先輩に聞いたり、他社の事例を調べたり、本を読んだり、社外のオンラインセミナーを聞いたりしながら進めました。必要なシステムの選定や、導入、ゆきのや社内メンバーへの周知と、今でも手探りの日々です」
エビが泳ぐプールは傾斜があり、食べ残したエサなどを取り除ける仕組みに
その甲斐もあって、山崎さんの現在の1日は、SNS運用のミーティングや、お客さまとのさまざまな調整など、社内外とのやり取りでスケジュールが埋まっています。しかし、営業支援では、悔しい経験もしてきました。
山崎さん「幸えびを取り扱っていただく小売店と契約を交わすシーンでのことでした。契約書の条件交渉で、これでは承諾できないと返されてしまったのです。燃料調達の仕事で契約書の作成には慣れていたつもりでしたが、そもそも燃料はこちらが買う側、エビは買ってもらう側。立場が逆であるにも関わらず、こちらの業界理解が足りていなかったんです。最終的には契約していただくことができましたが、もっと勉強しなければと実感した出来事でした」
緑色の人工海草がエビの住処となる
社内の働きやすさを改善することも、社外への営業活動も、すべて幸えびを広めるために必要なこと。だからこそ頑張れると山崎さんは言います。
山崎さん「今、世界的に天然の水産物が捕れないと言われている中で、養殖は今後も絶対に必要な技術です。ですが、いま主流の海面養殖では、エサや糞が海を汚してしまったり、マイクロプラスチックが魚に悪影響を与えたりするなどの課題もあるんです。その点、ゆきのやが取り組んでいる陸上養殖は、そういった問題をクリアした、次世代の養殖方法。そういう意味でも、幸えびを成功させることに意義があるし、だからこそ、もっともっと、たくさんの人に幸えびを届けたいんです」
1分間隔で人工的な波を起こし、エビの運動を促進することでプリプリの身になる
得意分野を伸ばして食のインフラに貢献したい
時にはつまずきながらも、これまでほとんど独学でやってきた山崎さん。これまでの努力が実を結び、ようやく自分の成長や仕事の成果を実感し始めています。
山崎さん「一番の成果だと感じているのは、業務のシステム化を進め、効率化できたことです。それによって自分の業務もやりやすくなりましたが、ゆきのやで働く方々に『楽になった、ありがとう』と言っていただけることが何よりうれしいです。それに、SNS運用でも順調にフォロワー数を増やすことができています。これまでの取り組みが間違っていなかったと思うとうれしいですね」
ゆきのやの社長を務める秋田亮さん(左)と。現場を知ることも大切にしている
そうした実感から、自信を持って仕事に取り組むことができるようにもなりました。
山崎さん「これまでは、まず先輩や上司に相談してから判断して、慎重に進めていました。最近では、自分で考えて“こうした方が良い”と思ったものは、責任を持ってまずはやってみよう、という進め方に変わりました。まだまだ未熟ですが、成果や反応がダイレクトに分かるので、やりがいにもつながっています」
関西電力は電力を支えるインフラ企業。あたりまえを守り、創る企業です。同じように、ゆきのやでは食のあたりまえを守り、創っていくことを目指しています。そこに向けて、まずは“知ってもらうこと”に力を入れていきたいと話します。
山崎さん「私事ですが、先日結婚式を挙げまして、披露宴の料理の中で幸えびを出してもらったんです。すると式場のシェフが『こんなエビがあったんだ!』と気に入ってくださって、縁起も良いしおいしいからと、取り扱ってくださることになったんです。そうやって知ってもらうことができれば、きっと気に入っていただけるはず。多くの方に幸えびを食べて幸せになってもらいたいです」
「エビは国内消費量の内約9割が輸入頼み。国産化していくことで、輸送にかかるコストやCO2の削減にもつながります」
最後に、山崎さんが思い描く、幸えびと山崎さん自身の未来について聞きました。
山崎さん「陸上養殖で国産の水産物を作っていくことは、日本の将来のためにも絶対に必要なもの。幸えびをきっかけにそのことも知ってもらい、いつか当たり前のように陸上養殖の水産物が家庭の食卓に並ぶような未来を作っていくことができたら。そして個人としては、幸えびを通じたさまざまな経験の中から、自分の得意分野を見つけ伸ばしていくことで、さらに貢献できたらうれしいです」
■海幸ゆきのや
https://kaikoyukinoya.jp/
■関西電力
https://www.kepco.co.jp/
昨今、台風や大雨による水害のニュースなどが増え、警戒が高まっています。地震に対しては非常用持ち出し袋の知識がある人も多いかもしれませんが、特に水害について考えたとき、どのような備えをしたらいいのでしょうか。特に、子どもがいる家庭での注意点とは――。防災士、福祉防災認定コーチ、防災教育推進協会講師、 防災住宅研究所 理事、東京都防災コーディネーターの奥村奈津美さんにお話をうかがいました。
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防災士の奥村奈津美さん
家を選ぶ際からの防災意識 ~子どもがいる家庭で特に気をつけたいこと~
「防災、何から始めたらいいか、分からないんです」防災啓発活動をする中で、よく頂く質問です。防災で最初にやってほしいことは、敵を知ること! つまり、災害が起きたとき、地域や家にどんな被害が起こりうるのかを確認しておくことです。今は「ハザードマップ」という被害想定の地図が作られていて、例えば、水害では、豪雨などで浸水する恐れのあるエリア、土砂災害のリスクがあるエリアなどが想定されています。次に、家自体のリスクである耐震性について。1981年6月よりも前に建築確認された家は、旧耐震基準となり、大地震では倒壊する恐れがあります。1日の中で最も長く過ごしているのは自宅なので、まずは、自宅が安全か確認してください。
オススメは、家を選ぶ際に、なるべくリスクの少ない場所を選ぶ、そして、災害に強い家を建てる、もしくは購入することです。どうしても、金額や駅からの距離などの利便性、間取りなどを優先してしまうと思うのですが、危険な場所を選んでしまうと、常に、危険と隣り合わせの状況で過ごすことになります。豪雨の度に避難しなくてはいけないという場所は、オススメできません。
地球温暖化の影響もあり、雨の降り方が変わってしまいました。今後、温暖化が進み、水害はより激甚化、頻発化することが予測されています。また、国難級の災害とも言われる南海トラフ巨大地震は30年以内に70~80%、40年以内に90%程度と、高い発生確率になっています。たった数分で津波が到達すると予測されているエリアもあります。災害は必ず起きると思って自宅を備えて頂けたら幸いです。
特に、お子さんが小さい場合、避難所に避難するのも容易ではありません。抱っこ紐で抱っこし、非常持ち出し袋を持って、走って逃げることができるでしょうか? さらに二人目、三人目と家族が増えると、避難はより難しくなっていきます。だからこそ、避難しなくても自宅が最強の避難所となるような家が理想です。
あまり知られていませんが、阪神・淡路大震災以降、大地震でも窓ガラス一枚も割れることなく、土砂災害や津波にも耐えた、「壁式鉄筋コンクリートパネル組立造」という災害に最も強い建築工法もあります。沖縄ではほとんどがコンクリート住宅ですが、今後、温暖化の影響でスーパー台風が上陸するようになると、木造家屋では耐えられないような暴風になる恐れもあります。今年9月の台風14号も「スーパー台風」という表現が使われ、最大瞬間風速70メートルという予測もされていました。安心して在宅避難ができるようにするには、場所、そして頑丈な家を選ぶことが大切です。
生活の中で、どんなことに気をつけたらいい? ~停電への備えも~
過去の災害から「普段使っていないものは、災害時も使えない」という教訓があります。つまり、「フェーズフリー」の考え方で災害時にも使えるものを普段から使っておくことが大事になります。
最近は防災グッズもどんどん進化しています。停電対策と言えば、懐中電灯のイメージが強いかもしれませんが、今は、停電しない電球も販売されています。電球の中に蓄電できる機能が備わっていて、常にフル充電の状態をキープしてくれます。そして、停電すると、数秒後に自動点灯してくれ、電球を取り外すと懐中電灯としても使えるという優れものです。リビングや廊下、寝室など夜間使用する部屋の電球をこの電球に切り替えるだけで、停電後、真っ暗闇になり、けがをするリスクを軽減できます。また、子育て世帯に欠かせない電動自転車のバッテリーを、スマートフォンの充電機に変身させるアダプターも販売されています。ポータブル電源なども手に入りやすくなっていますが、維持管理のことを考えると、やはり普段使っている電動自転車のバッテリーを活用する方が簡単に継続できる備えとなるのではないでしょうか。
水の備蓄に関しても、水道管を太くしたような貯水タンクが販売されていて、それを設置することで水道水を常に数日分備蓄できるようになります。無意識でも備えられている状態、つまり防災は自動化の時代を迎えていると感じています。そのほか、非常食ではなく、普段食べている常温で長期保存できる食品をローリングストック(※)するなど、いかに日常の延長線上で備えられるかが大事になってきます。家選び同様、モノ選びも防災視点をプラスしてもらえたら幸いです。
※食べ物や日用品を少し多めに購入し、日常生活で消費しながら、新しいものに入れ替えていく備蓄方法
水害の状況キャッチ ~どんなアンテナをはっておいたらいい?~
水害は気象災害なので、事前に予測できることもあります。そこで重要になってくるのが、情報を受け取る力です。普段からアプリで雨雲レーダーなどを見るなど、使い方に慣れておくことをオススメします。私は、「NHKニュース・防災アプリ」「Yahoo!防災速報」というアプリを愛用しています。自宅や実家など3カ所の地域を設定することができ、豪雨の恐れなどがあるとプッシュ通知で教えてくれます。
そして、危険な場所に住んでいる場合は、避難が必要ですが、その避難のタイミングについて。普段の生活でも時間通りに行動することが難しい子育て世帯は、早めの避難が重要です。今は警戒レベルという5段階のレベルで避難情報などが発表されるようになりました。危険な場所に住んでいる方は、お子さんが小さい間は「レベル3で避難する」というのを心がけてください。そして、3メートル以上などの深い浸水想定のエリアは、垂直避難はオススメしません。いつ救助が来るか分からない中、子どもと籠城生活は考えただけでもリスキーです。
低層階に住んでいて、内水氾濫で床下浸水の恐れがある方は、玄関など水が入ってくる場所に土嚢を設置して、被害を軽減する方法もあります。ただ、大規模水害では役に立たないので、やはり自分の家がどのくらい浸水リスクがあるのかを知った上で、早めに避難することをオススメします。
子ども用非常持ち出し袋の備え方
子どもが一人で避難できるようになったら、子ども用の非常持ち出し袋は、一人一つずつ、用意しておきます。子どもが一人で自宅にいるときに災害が発生して避難が必要になったり、例え一緒にいても、避難途中に子どもとはぐれることもあります。避難所で時間を過ごすときに使うカードゲームや本、またお菓子など、好きなものを入れたり、子どもと防災を考えたりするきっかけ作りにもなるので、子どもと一緒に作ることをオススメします。
そして、入れるものの優先順位は、第一位は眼鏡や薬、補聴器などの体の一部になるもの、避難するときに必要なもの。余裕があったら、水や食料などを入れていきます。命よりも大切なものはないので、くれぐれも重くしすぎず、走って逃げられる重さにとどめてください。
奥村奈津美(おくむらなつみ)
NHK「おはよう日本」「あさイチ」などテレビ・ラジオをはじめ、雑誌・新聞な ど様々なメディアで「おうち防災」の専門家として出演。
東京都生まれ。広島、仙台で地方局アナウンサーとして活動。その後、東京に戻りフリアナウンサーに。 TBS『はなまるマーケット』で「はなまるアナ」(リポーター)を務めるほか、 NHK『ニュースウオッチ9』や『NHKジャーナル』など報道番組を長年担当。 東日本大震災を仙台のアナウンサーとして経験。以来10年以上、全国の被災地を訪れ、 取材や支援ボランティアに力を入れている。防災士、福祉防災認定コーチ、防災教育推進協会講師、 防災住宅研究所 理事、東京都防災コーディネーターとして防災啓発活動に携わるとともに、 環境省 森里川海プロジェクトアンバサダーとして「防災×気候変動」をテーマに取材、発信中。
「サステナブル防災」という言葉を作り、防災×SDGsの普及活動に力を入れる。3歳児の母。
【Instagram】https://www.instagram.com/natsumi19820521/
沖縄電力株式会社 離島カンパニー 離島事業部 離島技術グループ 副主任 平良 亮(34歳)
沖縄県には、島内で電気を作り、島民に電気を届けなければならない10の離島があります。その一つである波照間島(はてるまじま)で沖縄電力が沖縄県の実証事業で実現したのが、再生可能エネルギーで島内の電力を100%まかなうプロジェクト。このプロジェクトを担当した沖縄電力の平良 亮さんに、実現に至るまでの背景と離島の電力事業に掛ける想いを聞きました。
波照間島の電力が再エネ100%になった日
沖縄本島から約460キロメートル離れた日本最南端の有人離島・波照間島。人口500人ほどの島を舞台に2020年11月27日から12月7日にかけて、世界のエネルギー事情に変化をもたらす可能性を秘めたプロジェクトが成功しました。それは、風力発電設備由来の電気だけで、10日もの間、波照間島内で必要な電力を100%まかなったこと。
「社内は大喜びだった」と話すのは、このプロジェクトに携わった沖縄電力の平良さん。当時の波照間島での成功を、こう振り返ります。
平良さん「正直、島の方々からは、特に反響といった反響はなかったんです。風力発電設備自体はもう10年以上動いているので、もしかしたらずっと前から100%だと思っていたのかもしれません。でも、それくらい島の暮らしに影響が出ない、しっかりとした運用ができたのだと感じています」
このプロジェクトは、元々あった風力発電設備と蓄電池に、MG(Motor Generator)セットを設置したところからスタートしました。
MGセットとは、電気で動くモーターによって発電機を回す発電システムのこと。強い風が吹けば風力発電設備からの発電量は多くなります。しかし島の電力需要に対しその発電量が多くなり過ぎると、離島の電力供給の主となっているディーゼル発電機側の制約のために風車の出力を抑えなければならない場面もあるなど、もっと風力発電を活用する方法はないものかと考えたのが原点でした。
平良さん「やはり再生可能エネルギー(以下、再エネ)の電源は、他の発電設備に比べて天候によって左右されてしまう不安定なもの。従来は、その不足分をディーゼル発電機で補っていましたが、そこに風力発電でつくり過ぎた電気をためられる蓄電池と、その電気で発電できるMGセットを導入することで、再エネ由来100%の電気を形にできたんです」
プロジェクトは2017年から開始され、2018年に1時間47分、その後実証を繰り返して2020年に約10日間を記録。
平良さん「MGセットはディーゼル発電設備と違い出力を0キロワットにもできます。そのためディーゼル発電設備の運用をMGセットに置き替えることで、風が強ければ風力による発電量だけで電力の供給が行えます。また、MGセットから蓄電池に充電することも可能なため、風が弱くなって風力発電による発電量が十分に得られない時には、風が強過ぎて充電しておいた電気をMGセットから放電し、発電量を補います。そうすることで長い時間安定して再エネ由来100%での電力を島内に供給できるんです」
沖縄の離島で電力を安定供給する難しさ
海底ケーブルなどで沖縄本島と連系されていない波照間島を含む10離島は、そのすべての島で発電所を構えなければなりません。沖縄の離島で電力を安定供給するのは、殊のほか難しいと言います。
平良さん「各島の主要電源はディーゼル発電機になります。ただ、化石燃料の重油が燃料になるため、原油価格高騰の影響が大きく、さらに各島へ燃料を輸送する費用もかかり、結果的に燃料費も高くなる上、CO2(二酸化炭素)排出量の懸念もあります。そこで風力発電などの再エネの導入に力を入れてきました」
それから各島で風力発電設備は利用されてきましたが、台風によって羽が折れるなどの大きな設備被害が発生。そこで沖縄電力は、風に耐えるのではなく避ける方向にシフトしました。
平良さん「2009年に波照間島で国内初となる可倒式風車を導入しました。可倒式というのは、風車が立っている状態から90度近く倒せる風車のことで、現在では波照間島や南大東島など4つの島に計7機導入しています」
可倒式風車は、基本的に台風が接近したら、強風を避けるために倒されます。倒す時間は1時間もかからず、あの巨大な風車が地上へ近づいてくるさまは圧巻だそう。
平良さん「定期的なメンテナンスのためにも倒していて、地上で風車の目視点検ができるようになったのもメリットですね。とはいえ、台風による大きな被害がなくなったことが最も大きな変化です」
離島の生活を支える風力発電
10日間にわたる再エネ100%を実現した2基の風車には、2009年の設置当時に地元の小・中学生によって付けられたニックネームがあります。1号機が“波照間の力”を意味する『ベスマースィカラ』、2号機が地元の方言で“もったいない”を意味する『あったらさやー』。まさに波照間島の風を受け止める風車にぴったりな名前ではないでしょうか。
この2基とMGセットの仕組みに対して沖縄県庁からは、「多良間島(たらまじま)や粟国島(あぐにじま)など、波照間島と同じように再エネの出力が制限されているような小規模離島は他にもあります。知見を横展開できれば、そうした島々が抱える課題の解決が図れるはず」とコメントも。今後の進展に大きな期待を寄せています。
平良さん「今、波照間島でできたことを足掛かりとして、他の地域でもできるのか検討しているところです。さらに、当社のグループ会社では、沖縄で培った技術を海外展開していく動きもあります」
平良さんが所属する離島事業部は沖縄電力の中で唯一、カンパニー制を導入しています。発電から配電、電気使用などの受付や電気料金収納まで、離島の電気事業のすべてを一つの部署で担当するため、安定して電力を供給することはもちろん、赤字削減から温暖化対策まで幅広いことに取り組むチャレンジングな部署です。
平良さん「離島事業部は、離島の電力事業のすべてを担っており、とても面白い部署ですね。仕事にはやりがいを感じています。私たちの使命は電気を安定して供給すること。そして当社のコーポレートスローガンは『地域とともに、地域のために』です。まさに離島の電気事業はこの言葉通り。今後も、地域とともに、地域のために安定して電力を届けていく。それが私の役割です」
■沖縄電力
https://www.okiden.co.jp/
■沖縄電力「再生可能エネルギーによる100%電力供給への挑戦」
https://www.okiden.co.jp/company/recruit/adoption_detail/project06.html
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の発展のため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしていることをご存じでしょうか。今回は福井県・永平寺町を拠点にする北陸電力のハンドボールチーム「北陸電力ブルーサンダー」をご紹介。2024年9月に新設されるプロリーグへの参入も決まり、今注目が高まっています。
若さと勢いあふれる「北陸電力ブルーサンダー」
北陸電力には「北陸電力ブルーサンダー」という男子ハンドボールチームがあります。1990年に誕生し、1992年から国内最高峰リーグである日本ハンドボールリーグに所属しています。
創部から30年余りを積み重ねた歴史の中で、日本代表候補選手を複数輩出しており、日本ハンドボール界を牽引するチームの一つです。
日本リーグでのシュートシーン
ホームアリーナは、えちぜん鉄道・観音町駅から徒歩約5分にある「北陸電力福井体育館フレア」
22名のメンバーは、北陸電力グループの社員が半数、残り半数はその他の企業や自治体に勤める社員・職員です。平日は毎日朝から夕方まで各職場で働き、仕事を終えた夜に拠点である体育館に集結して練習をしています。シーズン中の週末であれば、試合日程に応じて全国各地への遠征も。
平均年齢は24.6歳と、日本ハンドボールリーグ内で最年少。そのため抜群のスタミナを誇り、“ブルーサンダー”のごとく電光石火の速攻(素早いカウンター攻撃)を武器としています。
18~30歳の選手で構成される若さあふれるチーム
昨年末、日本ハンドボールリーグは2024年にリーグをプロ化し、新リーグを創設すると発表しました。それに伴い、「北陸電力ブルーサンダー」は今シーズンいっぱいの2023年3月末で活動終了。4月からは同チームを母体とした新生クラブチーム「福井永平寺ブルーサンダー」として、新たな歴史を刻み始めます。
「プロに行くと分かってからは、やはりチームの空気が変わってきました」と話すのは、須坂佳祐選手兼監督。
「これまで以上に選手同士が厳しい言葉で意見しあったり、ライバル意識が強くなったり。プロになれるという期待感と、同時に緊張感が高まっているのがひしひしと伝わってきます。良い意味でピリッとしたムードで、次のステップへと上っているなという実感がありますね」
チーム最年長の30歳。今期よりチームの指揮官となった須坂選手兼監督
周囲からの注目も高まっているようで、「職場の同僚や上司から『新リーグにはどんな風に参加していくんや?』と声を掛けられることが多くなりました。そうやって話をしているうちに、ハンドボールのルールやポジション、選手のことにも興味を持って覚えてもらえたらうれしいですね。その分、プレッシャーも感じています」
ハンドボールの面白さ&ブルーサンダーの魅力とは
プロリーグ開幕に向け、これからますます盛り上がる日本ハンドボール界。そんなハンドボールの面白さについて藤坂知輝キャプテンは、「投げる・跳ぶ・走るという、スポーツにおけるダイナミックな動きの全てが入っているところ」と話します。
スピーディーなボールさばきからの強烈なシュートは圧巻
「選手同士が激しくぶつかり合う迫力もウリですね。とにかくスピード感がある試合展開で、次々とシュートが決まります。こんなに連続して得点が入るスポーツって、バスケットボールかハンドボールぐらいじゃないでしょうか。シュート&ゴールという、球技の試合において最も盛り上がるポイントが1度のゲーム中にたくさんあるのは魅力的だと思います」
さらに、「北陸電力ブルーサンダー」の魅力についてはこう話します。
「チームのコンセプトは、お互いを否定せず、相手をリスペクトすること。意見を言いやすい環境の中で、違う考えややり方が出たらまずは受け入れ、取り入れてから、さらに話し合うんです。チームの特色を定めてそれに全員で染まるのも一つの方法ですが、うちはそうではありません。みんなそれぞれ育んできたハンドボール感は違うわけですから、それを伝え合いながら尊重して、一人一人の個性や強みを生かすことを大切にしています」
小学3年生からハンドボール一筋。チームをまとめる藤坂キャプテン
こうしたチームづくりにより、「北陸電力ブルーサンダー」では全選手が生き生きと、楽しそうにプレーしている姿が見られます。
また、平均年齢が最も若いチームらしく、その伸びしろも注目ポイント。入部した時は無名だった選手が数年後に大きく化けて、リーグの得点ランキング上位に入る有名選手になることも珍しくないそうです。
選手の個性が光るプレーに注目
イベント出演やハンドボール教室などの地域貢献活動も活発に
「北陸電力ブルーサンダー」は地域に根差し、愛されるチームであることを大切に、地域貢献活動にも力を入れています。
例えば、地元のお祭りやイベントには積極的に参加し、地域の方々と交流。地元・永平寺町の「町民清掃の日」にはホームアリーナ周辺の道路を清掃するなど、町の一員としてボランティア活動に励んでいます。
また、2020年からは「永平寺町ふるさと大使」として、地域の魅力を発信する活動もスタート。試合で全国各地におもむいた際に、会場で永平寺町の観光PRを行っています。
永平寺町で除雪作業のボランティア活動を行う選手たち
福井県民応援チームとして、愛知県でのアウェイ戦で福井をPRする山崎選手
こうした多岐にわたる活動の中でも、特に力を入れているのがハンドボール教室です。地元小・中学校の体育の授業で生徒たちにハンドボールを教える、体力測定に向けてハンドボール投げを指導するといった取り組みを長年にわたり行ってきました。生徒たちからは「ハンドボールって面白い!」「ボール投げだけじゃなくて試合がしてみたい!」といった声が上がり、大盛況なのだとか。
ハンドボール教室の意義について須坂選手兼監督は、「まずはハンドボール人口を増やしたいというのがあります。実際、教室をきっかけに試合や練習を見に来てくれるようになった生徒や、ハンドボールを始めた生徒がいて、着実に次世代につながっていると感じています。また、参加した生徒たちから手紙をもらうことも多く、『頑張ってください』『応援しています』というメッセージがとてもうれしく、励みになっています」と話します。
子どもたちにとってハンドボールに興味を持つ大きなきっかけに
最後に、今後の目標について伺うと、「まずは日々、次の試合で思い切り戦えるよう準備を整えていくこと。そして一戦一戦、内容と勝利にこだわって戦っていくこと」と須坂選手兼監督。その先に見据えるのは、チームとして掲げる「日本一」の称号です。
さらに、チームから日本代表や、次の五輪出場選手を輩出することも大きな目標の一つ。年齢的にちょうどそのタイミングに当たる選手が多く在籍しているだけに目が離せません。
えちぜん鉄道観音町駅に設置されている、ふるさと大使「北陸電力ブルーサンダー」応援看板
また、プロリーグ新設に向けて、これまで以上にチームの露出や交流の機会を増やし、ファン獲得や地域との関係性を深めていきたい想いも。
「勝利はもちろんですが、さまざまな場面で皆さんに明るい話題をお届けしたいと思っています。子どもたちとその親世代の方々にもっと知っていただけるよう、例えば小学校の登下校の際に選手が通学路に立って見守りサポートができないかなと。密かな野望として、子どもたちの安全を守る活動を通し、北陸電力ブルーサンダーが“街のヒーロー”のような存在になれたら素敵だなと考えています」と須坂選手兼監督は意気込みます。
今までもこれからも、地域に根差し活躍を続ける「北陸電力ブルーサンダー」。2024年9月のプロリーグ新設を追い風に、さらに魅力的かつ身近なチームへと進化する様は見逃せません。お住まいの地域で試合が行われる際はぜひ会場へ足を運び、あふれる魅力を体感してみてください。
■DATA
北陸電力ブルーサンダー
住所:福井県吉田郡永平寺町松岡室21-5-3(北陸電力福井体育館フレア)
https://www.rikuden-bluethunder.com/
北陸電力
https://www.rikuden.co.jp/
<貢献する主なSDGsの目標>
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
東京電力エナジーパートナー株式会社 販売本部 法人営業部 都市事業ユニット 丸山佳宏(27歳)
2022年4月下旬、世界初のEVタンカー(電気推進タンカー)「あさひ」が運航を開始しました。自動車では一般的になってきたバッテリーを動力源とする“EV(Electric Vehicle)”ですが、巨大な船を電気で動かすとなると難易度は桁違い。その成功の鍵を握っていた東京電力エナジーパートナー 丸山佳宏さんは、環境に優しい港湾インフラを造るという使命感に燃えています。
完成! 世界初のEVタンカーに圧倒
1日当たり約500隻の船が行き交う東京湾は、世界屈指の海上交通過密海域。ここから外国へと旅立つ外航貨物船への給油を担うのが、2022年4月下旬に就航したEVタンカー「あさひ」です。
あさひは、エンジンの代わりに電気自動車約100台分に相当する大容量リチウムイオンバッテリーを搭載し、電力のみで航行する世界初のタンカー船。海運会社の旭タンカーが建造・所有する船で、船の電動化やDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業のe5ラボが企画・開発を行いました。
丸山佳宏さんが所属する東京電力エナジーパートナーの法人営業部都市事業ユニットでは、あさひの電力プランの検討をはじめ、電力を供給するための給電ステーションの設計や設置なども担当しています。
丸山さん「初めて完成したあさひを間近に見たのは、船のお披露目会でした。港に着いてすぐに目が行くほど、明らかに最新の船だとわかる未来的な外観で、船内もまるでホテルと思うようなキレイさ。ジョイスティックで操作する操縦席は飛行機のコックピットのようで、どこを見ても圧巻でした。詰めかけた報道陣も多く、改めて自分はすごいプロジェクトに関わっていたんだと実感させられましたね」
あさひは、電動化によって運航時に二酸化炭素、窒素、二酸化硫黄、ばい煙などを排出しません。それに加えて、充電の際には実質100%再生可能エネルギー由来の電気を使用しています。1年間稼働すると、400トンもの二酸化炭素の排出量が削減でき、これは一般家庭約300世帯が1年間電気を使用することで排出する二酸化炭素の量と同程度。それほど、環境に優しいタンカーということですね。
丸山さん「電動化によるメリットは、環境に優しいだけではありません。従来あった巨大なディーゼルエンジンがなくなることで、騒音や振動が圧倒的に少なくなり、船内の快適性がぐっと高まります。また、プロペラを360度どの方向にも向けられるような設計が可能なため、接岸する際に補助をする船も不要で、乗組員の労働環境や港湾周辺の環境改善にも効果が期待されているんです」
世界に1隻しかないEV船向けの電力プランを検討
「意義のあるプロジェクトに関わることができ、とても良い経験をさせてもらっています」と笑顔で語る丸山さんですが、お披露目の日に至るまでには、並々ならぬ苦労がありました。なにせ世界に1隻しかない船。普段は法人営業に従事している丸山さんにとっても、初めての連続でした。
丸山さん「法人営業は、お客さまの1年間の電気の使い方や使用量から最適なプランをご提案し、ご契約をいただくことが仕事です。今回は、あさひ向けの電力プランを考えるのが私のミッション。通常は前年度の電気使用量の実績などから必要な電力量をある程度想定できるのですが、今回は前例がないどころか船がまだ就航もしていないので、とても大変でした」
当然ながら、電力は動力だけに使われるのではありません。船内にどんな設備があり、電力をどれだけ消費するのか、プラン構築に必要な情報は多岐にわたります。
丸山さん「年間の航行スケジュールはもちろん、例えば停泊中にエアコンは使うのかといったことまで細かく協議を重ねていきました。一般家庭でもご契約いただくアンペア数によって基本料金が変わるように、電力プランはあさひの運行コストに直結しますから、責任は重大です」
港湾インフラの未来を担うEV船に貢献したい
さまざまな困難を乗り越え、無事に運用が始まったあさひ。カーボンニュートラルの実現を目指して電気自動車の普及が急速に進んでいるように、EVタンカーは未来の港湾インフラを左右する重要な役割を担っています。
丸山さん「タンカーに限らず、船の電動化を進めていくためには、乗り物と給電設備の双方がバランス良く普及していかなければなりません。そういう意味ではまだまだ道のりは長いですが、今後はタンカーだけでなく小型の船などにも電動化の波が広がっていけば、東京湾の景色は一変するはず。少しだけ、そんな未来が見えてきたのかなと思うと、今から楽しみです」
将来的には身近な船が電気で動くようになったり、無人航行ができたりなど、5年後、10年後には、船の在り方も大きく変わっているかもしれません。
丸山さん「あさひはそうした未来へ向けた第一歩。今回、携わることができ、とてもうれしいです。船舶業界における電動化の普及を進めていく上では給電コネクタの規格統一など、これから決めていかなければならないことはたくさんありますが、明るい社会を作っていくためには大切なこと。私自身もいろいろと学びながら、今後も貢献していきたいです」
EVタンカー「あさひ」
「あさひ」の内装
給電ステーション
■東京電力エナジーパートナー
https://www.tepco.co.jp/ep/
■EVタンカー「あさひ」について
https://www.tepco.co.jp/ep/notice/pressrelease/2022/pdf/220414j0102.pdf
<貢献する主なSDGsの目標>
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の発展のため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしているのをご存じでしょうか。今回は関西電力送配電が地域貢献活動の一環として行っている、ある清掃活動をご紹介。一般的なまちの清掃をイメージするとかなり違う? 電力会社ならではの装備で臨む、特別な清掃活動の様子をレポートします。舞台は奈良が誇る世界遺産・春日大社です。
春日大社に高所作業車が入る特別な日
古都・奈良を象徴する歴史ある神社の一つであり、全国から参拝者が訪れる春日大社。全国に約3000社ある春日神社の総本社です。
緑深い春日山原始林に包まれるように社殿が立ち並び、背後にそびえるのは古代から神域とされる神山・御蓋山(みかさやま)。これら一帯が境内とされ、総敷地面積は約30万坪にも上ります。
近鉄奈良駅から徒歩約25分。喧騒から離れ、うっそうとした林の中に神聖な空気が漂う
はじまりは飛鳥から平城京へと都が移された奈良時代。社伝には平城京の守護と国家繁栄祈願のため768年に創建されたとありますが、実際は奈良時代初期にさかのぼると考えられています。
1998年には春日大社社殿と御蓋山、春日山原始林などを含む全体が「古都奈良の文化財」として、世界遺産に登録されました。
春日大社では20年ごとに、御本殿の大修理や御調度品の調製などを行う「式年造替(しきねんぞうたい)」を実施しています。
これまで60回以上行われ、変わらぬ美しさが保たれてきました。ちなみに、60回を越えるのは春日大社と伊勢神宮のみなのだとか。
境内には鹿の姿も。神様のお供であり、神の使いとして大切にされている
毎年、環境省主唱の「環境月間」である6月に、関西エリアの各地で関西電力送配電による清掃活動が行われており、ここ春日大社でも、実に1998年から取り組まれています(※)。
清掃活動というと、ほうきで落ち葉を掃き集めたり、袋を片手にごみ拾いをしたりといった光景がイメージされがちですが、そこは関西電力送配電ならではの力の見せ所。一般的な掃除とはちょっと違います。
要となるのは、電力会社が所有する特殊車両の一種である高所作業車。この車両を使って、文字通り社殿の高所部分の清掃作業を行うんです。
※2020年4月、関西電力株式会社の送配電事業を関西電力送配電が継承。分社化以前の春日大社の清掃活動は、関西電力株式会社として実施。
社殿のすぐ側まで乗り入れる高所作業車
バケット部分に乗り込んだ作業員が社殿を清掃
高所作業車ならではの春日大社清掃活動
清掃当日、高所作業車に乗って現れたのは関西電力送配電の面々。日頃は電線の保守点検などでお馴染みの車両ですが、この日は電線の下を通過して、社殿が立ち並ぶエリアの中心部へとぐんぐん進入していきます。
作業現場に駐車すると、まずは全員で御本殿へ。本日の作業の無事を祈願します。
春日大社の方に案内され、まずは作法にのっとって参拝
清掃するのは、社務所と貴賓館の2カ所。それぞれ雨どいにたまった落ち葉などを取り除きます。
もしこれらをそのまま放置しておくと腐葉土となって堆積し、雨どいが機能しなくなってしまいます。とはいえ、簡単には手が届かない場所の清掃作業は、春日大社の職員だけでは対応できません。
そこで高所作業車と高所作業のプロフェッショナルを有する関西電力送配電に白羽の矢が立ち、23年前から清掃活動を行っています。
特に貴賓館はいわゆる迎賓館の役割を果たし、要人が訪れた際の接遇の場や、結婚式が執り行われる際の親族控室になる建物。大切なお客さまを迎えるのにふさわしい美しさを保つことが求められます。
日頃の電線の保守点検と同じ要領で作業準備や安全確認を進める
バケットに2人の作業員が乗り込むと、ブームがグンと伸びて建物の雨どいギリギリまで接近。手作業で少しずつ丁寧に、雨どいにたまった落ち葉を取り除きます。
地上では作業長が見守り、状況に応じて指示を出します。息の合った連携プレーはさすが。日常的に多種多様な現場対応を行っている精鋭たちの仕事です。
安全に配慮しながら慎重に作業が進められる
作業長ら地上のスタッフは作業の様子を注意深く見守る
関西電力送配電の中でこれからも長く続く取り組みに
清掃作業を担当するのは、関西電力送配電の奈良支社奈良配電営業所のメンバー。毎日県内のさまざまな場所にある送配電設備の保守点検作業を行っており、奈良県のすべてが彼らの仕事現場といえます。
そのような中で、年に一度この日だけは特別、聖域である春日大社での清掃作業が加わるのです。
信頼と実績の丁寧な手仕事が光る
「普段とは違う現場で、違う仕事をするのは新鮮ですね。春日大社ならではの厳かな空気も特別感があって、身が引き締まる思いです」と話すのは、係長の岩越吉彦さん。
今年の清掃活動を統括した岩越さん
作業長の下平駿さんは、「地域に電力を届けることが私たちの仕事ですが、普段仕事をしている上で『地域に貢献している』ということはなかなか表立って見えません。今日はそれが清掃という形で目に見えて実感でき、とても良い経験をさせていただいていると感じます」と話します。
下平さん(左)と春日大社 管理部 主事 藤井暢さん(右)
そして、作業を見守っていた春日大社の藤井さんからは最後に感謝の言葉が。
「高所作業は私たちではできないので本当に助かりました。貴重な文化財を守っていく使命を担う中、関西電力送配電の皆さんには23年変わらずサポートいただいていることに深く感謝しています。これからも末長いお付き合いをお願いしたいです」
なお、今回の清掃作業の動画を関西電力グループのFacebookで公開中。関西電力送配電と春日大社の特別な一日をまとめた見応えのある映像となっています。
さまざまな人の支援で、その美しい姿を保ち続けている春日大社。ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
■DATA
春日大社
住所:奈良県奈良市春日野町160
https://www.kasugataisha.or.jp/
関西電力送配電
https://www.kansai-td.co.jp/
<貢献する主なSDGsの目標>
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
電力会社の役割は、電気を作り、届けるだけではありません。地域の発展のため、環境を守るため、さまざまな活動を行っているんです。四国電力の子会社として発足した「Aitosa(アイトサ)株式会社」(以下、アイトサ)が取り組むのは、シシトウの養液栽培やAI・ITを活用したスマート農業の確立。私たちの食卓にも身近なプロジェクトの全貌をお伝えします。
高知県はシシトウの国内シェア日本一!
天ぷらや炒め物はもちろん、そのまま焼くだけでも美味しいシシトウ。β-カロテンやビタミンCが豊富で、老化防止や疲労回復、美肌などにも効果が期待される、健康にもいい夏野菜です。
甘さが引き立つ素焼きは、焼き鳥屋さんでも定番
輪切りを添えれば料理の彩りに
そんなシシトウですが、国産のほとんどが高知県で生産されているって知っていましたか?
四国4県の中で一番の面積を誇る高知県は、豊富な日射量と温暖な気候を生かした農業が盛んな地域。1ヘクタール当たりの園芸作物等の産出額、すなわち生産性が日本一なんです。 シシトウのほかにも、ショウガ、ナス、ミョウガ、ニラなど、多くの野菜で国内トップシェアの生産量を誇ります。
中でもシシトウは、国内シェア40%。その理由の一つが、ハウス栽培により一年を通じ安定して生産できることであり、飲食店などにも重宝されているからだそうです。なので、冬場のシェアにいたってはなんと90%! 普段あなたが食べているシシトウは、高知県産である可能性が高いのです。
収穫したばかりのシシトウ。発色が良く、つやつやと輝いている
Aitosaがあるのは、農業が盛んな高知県南国市
しかし、高齢化が進むにつれ農業の担い手が不足してきており、機械化できない部分が多く、人の手がかかる農作物の代表 ともいえるシシトウの生産量もだんだんと落ち込んできています。1992年には5100トン(約77億円)もの出荷量があった高知県産のシシトウですが、2018年には半分以下の2300トン(約34億円)まで減少しています。
シシトウは高知県 にとって大切な農作物 の一つです。これを守っていかなければ! と立ち上がったのが四国電力でした。
四国電力は、地元の基幹産業の活性化に貢献するべく、2018年から本格的に農業に参入し、香川県でイチゴの生産・販売を行う「あぐりぼん株式会社」を設立。高知県南国市でシシトウを作るアイトサは、それに続く第2弾として、2020年に立ち上げられました。
2021年7月に竣工したハウスは栽培面積約3000平方メートル 。1年目にして、基準となる面積当たりの収穫量は高知県下でトップクラスに
ハウスの中はハイテク設備が満載!
アイトサは、ただシシトウを栽培する会社ではありません。
(1)産地の維持・拡大
(2)AI・ITを駆使したスマート農業技術の研究開発
(3)養液栽培技術を用いた「最適栽培モデル」の確立
という3つの大きな目的による地域農業の活性化を実現するため、アイトサの栽培用ハウスは一般的なものとは一線を画しています。
まずは、見た目。大きく違う点として、養液栽培なので土がありません。シシトウの株は1本ごとにヤシ殻でできた培地に植えられており、そこに成長に必要な養液を与えることで育てています。
シシトウの株の根元。ヤシ殻の培地には根がびっしりと張っている
当初、ほかのシシトウ農家からは、農業未経験の新規就農、一般的なシシトウ農家の3倍以上の栽培面積かつ前例のない養液栽培では「無理!」「うまく育たないのでは?」と心配の声が多かったそう。
すべてが初めてのことばかりで、試行錯誤したものの、栽培開始当初は生育状態がかんばしくなく、収穫量は計画の1/4程度と本当に苦しい日々を過ごしました。シシトウは、意外と繊細で育てるのが難しい野菜なんです。
そこでカギとなったのが、「データ駆動型農業」です。アイトサでは、四国電力のグループ会社である四国総合研究所が開発した栽培環境をモニタリングできるシステムを入れており、ハウス内の環境を数値で見える化しました。
さらに、高知県が取り組む栽培環境の共有システムIoPクラウドと連携し、知見のある他の 農家さんの栽培環境データを確認。データの分析や対策にプラスすることで、比較と参考ができるようになり、栽培方法を確立していくことができたのです。
ハウスにある制御盤で、窓を開けたり、湿度を調整したりとさまざまな操作・設定ができ、ハウス内環境を自動でコントールしている
高知県のIoPクラウド「SAWACHI」によってスマートフォンからハウス内の環境や市場値動き、収穫量データなどをリアルタイムで確認・比較できる
加えて、周辺のシシトウ農家さんの協力の下、養液栽培に適した温度や湿度、CO2濃度に培養液の処方や潅水量などを細かく検証しました。
そのおかげで、1日1.6万個程度(約80キログラム)だった収穫量が、今では最大1日8万個超(約400キログラム)まで増加。アイトサの年間計画を大きく上回る結果となり、関係者一同驚きだったとか。
今後は栽培モデルをさらにブラッシュアップし、農業未経験者でも養液栽培を手軽に始められるモデルの確立を目指します。
電気で動くヒートポンプ空調設備。最適なハウスの環境を保つため、常に稼働している。環境にも配慮し、次世代型の農業には電力が欠かせない存在に
また、手間と人手が掛かる作業を自動化する仕組みも。現在、スマート農業技術の開発研究を行う会社と共同で研究を進めているのは、薬剤を自動散布する自走式のロボットです。
シシトウの安定的な生産には、病害虫予防として薬剤の散布が必要。現在は、温度と湿度が高いハウス内で保護用の服を着て作業を行う重労働ですが、このロボットが完成すれば大幅な負担軽減が見込めます。将来的には、収穫や選別作業、パック詰めなどの自動化も目指し、研究を進めていく考えです。
地域に寄り添い、共に未来をつくる
アイトサが目指しているのは、手間の掛かるシシトウ作りをAI・ITで省力化することで未経験でも参入しやすい土壌を作り、将来の就農人口を増やして、地域の活性化につなげていくこと。
この取り組みは、高知県の農業を背負っていく次世代の農家にも快く受け入れられている、と高知県農業振興部 IoP推進監の岡林俊宏さんは話します。
「アイトサさんは、地元の農家さんだけでは実現できない夢のある取り組みを進めてくださっています。情報発信も積極的にしていただいているおかげで、地元の若い農家さんや地区外の農家さんからも注目されています。アイトサさんの活動を通じて、高知県の施設園芸が若者にとってさらに魅力的な産業となっていくことを期待しています」
葉も身も緑色のシシトウは、AIロボットによる自動収穫の難易度が高い
本来、次世代型の生産スタイルは、地元農家からライバル視されてもおかしくないものです。それなのにアイトサと地域が良い関係を築けているのは、アイトサがあくまでも“一生産者”という立場を貫いているから。
農場長の菊池功一さんが、そこに地元高知への愛とプライドを持っていると熱く語ってくれました。
「アイトサで作られたシシトウは地元の農協を通じ、高知県産のシシトウとして、他の農家さんが作ったものと一緒に全国に向けて出荷されています。独自にブランディングして販路を作るのではなく、美味しいシシトウをたくさん作ることで、『高知のシシトウ』としてのブランド力を高める。私たちはそのために生産しています」
農場長の菊池功一さん(左)、代表取締役社長 武田博文さん(右)
一年中、いつでも欲しい量が手に入るからこそ、高知県産のシシトウは市場で安定した価値を保っています。その産地競争力を揺るぎないものにするべく、縁の下から地元を支えることがアイトサの取り組みなんです。
そうして地域に受け入れられたことで栽培方法のアドバイスなどの協力を得られ、未知数だった養液栽培によるシシトウ作りも早期に軌道に乗せることができました。
サイズの選別も現在は手作業。画像認識技術が進めば、作業はぐっと楽になる
「私自身、1年間農業担い手育成センターで勉強したとはいえ、元は電力会社の社員です。農業に取り組むのは初めてですから、家族にも負担をかけ、言葉では言い表せないほどの苦労もありました。でも、事業がいいスタートを切れたことをとてもうれしく思っています。今後は生産量をさらに増やしていくと同時に、生産者も増やしていく農業学校のような役割も担っていきたいですね。経営を含めて学び、地元で独立していただければ、地域全体がもっと明るくなっていくはず」と、菊池さんは意気込みます。
どこまでも地域のために、“愛”をもってスマート農業に取り組むアイトサ。全力で走り続ける彼らが作ったシシトウは、きっと皆さんがよく行くスーパーにも並んでいるはずです。未来の農業が生み出す味わいを体感してみてください。
■DATA
Aitosaスタッフ
Aitosa株式会社
住所:高知県南国市植田1825番地
https://www.aitosa.com/
個性的なシシトウやシシトウ料理も紹介されているAitosaのInstagramはこちら
https://www.instagram.com/aitosa_farm/
四国電力
https://www.yonden.co.jp/
<貢献する主なSDGsの目標>
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
テレビやネットの「電力のひっ迫」を知らせるニュースや、家の電気代の値上がりに直面して「節電したい」と思いつつも、実際には何から始めたらよいかわからないという人も多いのではないでしょうか。そんな方に向けて、家電製品アドバイザーの資格を持ち「家電女優」として活躍する奈津子さんに、いま家にある家電でできる節電術や、無理なく上手に節電・節約できるコツをうかがいました。
節電のポイントは、難しく考え過ぎないこと
――家庭で使う電気の量や電気代の現状について、奈津子さんはどう感じていますか?
コロナ禍で家庭の消費電力は増えていると言われています。テレワークや在宅時間が増えて家の電気代が目に見える形でアップしているのを、毎月の支払で実感している方も多いのではないでしょうか。2022年の現在では電気代の料金自体も値上がりしていますので、今まで省エネについて考えていなかった人も、節電を意識せざるを得ない状況になっています。私自身、家電女優として今回のように家電の使い方や節電テクニックをお話しする機会が増えていて、節電の情報が広く必要とされていると実感しています。
――家庭での節電を始めるときは、どんなことを意識すればよいでしょうか?
ポイントは、難しく考えすぎないこと。こまめに電気を消す、使っていないプラグを抜く、節電につながるアイテムを導入することなど、できることから始めれば、自然と結果が追いついてくると思いますよ。
エアコンは温度を調整するより「自動モード」に頼るのが正解
――家庭で多く電力を使う家電のひとつがエアコンですが、奈津子さんが実践されているエアコン節電術を教えてください。
消費電力が少なそうだからと微風モードを選ぶ方もいますが、微風モードは設定温度に到達するまでに時間がかかるため、消費電力が上がります。最近のエアコンはセンサー技術が向上していますし、冷房の設定温度を下げるよりも風量を上げるほうが電力使用が少ない傾向があるので、「自動」や「おまかせ」モードがベストです。また、上がった室温を急激に下げると電力を使うので、エアコンをこまめに切ったりつけたりするのは逆効果です。
もちろん冷房の設定温度を上げても節電になります。1度上げて風量を上げることで、年間約1,200円以上の節約ができると言われています。「遮熱にすぐれた厚手のカーテンを床から隙間なくつける」「室外機のまわりにものを置かない」「室外機に日除けカバーをつける」ことも節電に。フィルターのお手入れなどのお掃除も大切です。私はワンシーズンごとにプロにお掃除してもらい、自分でも月に1回掃除しています。理想は2週間に1回と言われていますが、無理なくできる範囲でトライしてみてください。
――気温の上下をできるだけ抑えることが節電につながるんですね。扇風機の節電術はありますか?
エアコンと上手に併用すると節電ができます。エアコンの設定温度を1度上げると電気代は約10%下がると言われていますので、扇風機を使いながらエアコンの設定温度を2度上げれば、月間約519円の節約ができます。また、昔の扇風機はAC(交流)モーターが主流で消費電力は平均35W程度でしたが、ここ数年で切り替わったDC(直流)モーターの消費電力は1.5~20Wと、とても省エネです。DCモーター型の扇風機なら1時間使っても電気代は約0.54円、1ヵ月使ってもわずか約86円です。かなり電気代が変わりますので、扇風機を買うときは型落ちの安いものではなく、DCモーター型を選ぶとよいでしょう。ちなみに、最近の人気モデルや有名メーカーの製品はほぼすべてDCモーター型になっています。
家で150台以上の家電を実際に使用している奈津子さん
キッチンでは家電を上手に使って節電・節水を!
――キッチンでできる節電についてもうかがいたいのですが、冷蔵庫の使い方のポイントは?
冷蔵庫は、放熱しにくくなることを防ぐため、上や周囲に物を置かない、直射日光のあたるところに置かないことが大切です。開閉回数をなるべく減らすのもポイント。食材の置き場所を決めておけば開ける時間を短縮できます。また、冷却運転を減らすため、調理後の料理は粗熱をとってから入れましょう。冷気の流れが悪くならないように、容量は7~8割までを意識する。冷凍庫は、凍ったものがお互いに冷やし合うので、ある程度ギュウギュウに入れてOK。ドアの開閉頻度や外出時間などをAIで予測して省エネ運転をする冷蔵庫もあるので、買い替えの際に検討してみてもよさそうです。
――炊飯器や食洗器を使う上で工夫できることはありますか?
炊飯器の保温機能を活用している方も多いと思いますが、炊飯器でご飯を保温する時間の目安は4時間。それを過ぎると、ご飯を電子レンジで温め直すほうが節電になります。7~8時間以上保温すると、もう一度炊く以上に電気代がかかりますので注意しましょう。1日に7時間保温してプラグをコンセントに差したままの場合と、保温せずにプラグを抜いた場合を比べると、年間で約1,240円の違いがあります。
最近は省エネよりもおいしさを追求するメーカーが増えており、強火力で一気にお米を炊き上げるので、どうしても電力を大量に消費してしまいます。一度の炊飯で多めに炊いて冷凍するのは一見節電になりそうですが、食べる直前に電子レンジで温める電気代がかかります。夕食をとる時間が異なる家族がいる場合は、炊飯から4時間以内であれば炊飯器の保温機能を使ったほうがいいでしょう。家族全員が同じ時間にごはんを食べるなら、1食ごとに食べきるぶんだけ炊くのもオススメ。炊飯器に関しては、メーカーや家族の人数などによって事情が変わるので、「保温の目安は4時間」ということだけ頭において、家族が食べる量によって炊く量を調整したらよいと私は思います。
食洗機はぜいたくな家電と思われがちですが、人間の手では耐えられない60℃以上の湯でしっかり洗浄してくれますし、手洗いするより節水になります。あるメーカーの食洗器は、手洗いと比べて、1回あたり2Lペットボトル約22本分、節水できます。いろいろなものが値上がりして家計を圧迫する中で、この節約は大きいですよね。また、食洗器の節電でぜひ意識してほしいのは、乾燥時間です。乾燥時間が長いほど電気代がかかるので、乾燥時間を短く設定するか、乾燥機能を使わないというのもひとつの手。洗浄が終わったらフタを開けて、自然乾燥させるとよいでしょう。
食洗機は、乾燥の工夫でより節電に
最新モデルのテレビはプラグを抜かないほうが経済的
――リビングで使うテレビや、照明の使い方・選び方のポイントはありますか?
テレビのプラグはこまめに抜くのがよいと思われていますが一概にそれがよいとは言えません。最近のテレビは省エネ化が進んでいて待機電力もごくわずか。待機中に放送波から番組表をダウンロードしたり予約録画したりしているため、主電源を入れ直すたびその通信に電力を使います。家電仲間の間では、長期間の留守でなければ、主電源はつけっぱなしにしておくのが経済的という意見が優勢ですね。
テレビの買い替えを検討しているのなら、節電効果的には、有機ELテレビよりも液晶テレビがオススメ。有機ELテレビはプラズマテレビと同じ自発光方式なので、画質はキレイですが消費電力が高く、液晶テレビは、LEDを使ったバックライト方式なので、消費電力は控えめです。
電球や蛍光灯を買い替えるときは、LED電球を選びましょう。1日5.5時間点灯した場合、白熱電球(60W相当)に比べて年間、約2,410円の節約になります。リモコン付きの照明器具はこまめにオンオフでき調光可能な機種が多くオススメ。最近では専用アプリで操作できる機種もあります。コロナ禍で不眠に悩む人も増えていますが、調光機能を使って寝る数時間前に部屋の明かりを少し暗くしておくだけでも、自律神経が切り替わり、睡眠に良い影響があります。
奈津子さんの家でも、LED電球が活躍中
洗濯は服を入れすぎないことが節電・エコに
――お洗濯やお風呂でできる、節電術はありますか?
洗濯機は、回数を減らすことよりも、洗う洗濯物の量を洗濯槽の7~8割にとどめることを意識しましょう。洗濯槽の上まで洗濯物を入れて洗うと、服どうしが擦れて傷む上に、洗剤も繊維に染み込まずに汚れが落ちません。結局、洗い直すことになり電気代も水道代もかかります。エアコンと同様に、洗濯槽やフィルターの掃除をこまめに行うのも、節電に効果的です。
お風呂の残り湯の活用も、節水できる上に、温かいお湯で洗浄力がアップするのでオススメです。今は残り湯洗い用のホース付きポンプも便利に進化しているので、以前より手間なく取り入れられます。また、マシン代の初期コストはかかってしまいますが、液体式の洗剤・柔軟剤をタンクに投入しておくだけで最適な洗剤を入れてくれる、自動投入機能が最近のトレンドです。手間が省けるだけでなく、惰性で投入していたぶんの洗剤を削減できてエコ。個人的に、近未来感があって好きな機能です(笑)。
シャワーヘッドの付け替えも、節水につながります。シャワーから流れる水の量は1分間で約10~12リットル。15分間流し続けたら浴槽1杯分になると言われています。今は60%以上節水できるモデルもあるので、手軽な節水方法として取り入れてほしいですね。シャワーヘッドを選ぶときには、自宅のシャワーと接続可能か必ずチェックしましょう。私も1回、失敗しました(笑)。
節水モデルのシャワーヘッドに取り替える際は、取り付け金具について確認を
家電の買い替えも節電術。「まだ使えるから」は電気代が上がる原因にも
――では節電から一歩進んで、家電を買い替えるときのポイントは?
今持っている家電と、買い替えを検討している家電の製品情報を打ち込むだけで年間の電気代を比較・表示してくれる環境省のサイト「しんきゅうさん」を活用するのがオススメです。無料で使えますし、パンフレットのスペックを比べてにらめっこしなくていいので、とても楽です。
今、家電の省エネ性能が格段に上がっています。10年前と比較すると、冷蔵庫は約40~50%、電球とLEDを比べると約80%、テレビも、約30~40%の節電ができます。エアコンや温水洗浄便座も同様で、古いモデルより、新しいモデルのほうが省エネ性に優れています。「使えるものをまだ使う」という考えはサスティナブルで大事ですが、実は古い家電が多く電気を消費していたり、環境面を考えても良くなかったりするので、家電を思い切って買い替えるのもひとつの手だと思いますね。
――今、奈津子さんは1歳のお子さんを育てていらっしゃいますが、子育てをする中で、何か強く意識するようになったことはありますか?
ありますね。私は仕事はしていますが主婦なので、値上がりで赤ちゃんの食事のための食材選びが難しいなと感じますし、育児をするようになって節約をより意識するようになりました。家電でいうと、子どもが生まれて変わったのがエアコンの選び方ですね。夫婦ふたりで暮らしていたときは、エアコンはある程度の性能があればいいと思っていましたが、子どもが生まれてからは、寝室用に、センサーの性能がよく、換気もできる優秀なエアコンを買いました。赤ちゃんの睡眠は繊細なので、子どもの睡眠の質を上げるための投資と考えて導入を決めましたね。
――この電力不足や値上げの夏を乗り切りたい読者に向けて、メッセージをお願いいたします。
節電、節電とストイックになったり、大きすぎる目標を定めたりしてしまうと、何から手を出してよいかわからないし、楽しくできないと思います。冷蔵庫のまわりのものをどかすとか、遮熱性のカーテンをかけるとか、簡単にできるテクニックもあるので、ゲームのように無駄なものをカットしていく感覚で、ご自身が楽しめる範囲で節電を始めるのがよいと思います。私自身、家の中で無駄な電気を探しては消して歩くようになって、最近はそれが楽しくなってきました(笑)。楽しんだ結果、出費が抑えられればクオリティオブライフも上げられますので、シビアになりすぎず、ぜひ実践してほしいです。続けているうちに、自身が快適に取り入れられるラインも見えてくると思いますね。
奈津子
女優・家電製品アドバイザー・スマートマスター。
ドラマ「野ブタを。プロデュース」で女優デビュー以降、連ドラにメインキャストで多く出演。小劇場から大劇場まで舞台も多数。秋元康氏プロデュースSDN48メンバーとしてアイドル・歌手活動も経験。在籍時、秋葉原に劇場があったことから電気街や量販店で家電にハマり、グループ卒業後、家電好きが高じてエンジニアや量販店の販売員などが所有する“家電アドバイザー”GOLD等級を独学で勉強して取得。
私生活では150台以上の家電に囲まれて暮らし、1歳の息子の育児中。連載は「たまひよONLINE」「共働きwith」等。
【Instagram】https://www.instagram.com/natsuko_kaden/
【Twitter】https://twitter.com/natsuko_twins
YouTubeチャンネル「奈津子の家電クリニック」https://www.youtube.com/channel/UCupjyzS5FlQypheKl95amUw
▼参考
https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20201007_01
https://www.jprime.jp/articles/-/24040?display=b
https://st.benesse.ne.jp/ikuji/content/?id=135419
https://seihinjyoho.go.jp/frontguide/pdf/catalog/2021/catalog2021.pdf
電力はなぜ足りなくなるの? 乾電池のように貯めて使うことはできないの? と、疑問に思ったことがある方も多いのではないでしょうか。このコラムでは「予備率」「電力需給ひっ迫警報」など、電気についてよく聞く言葉を解説します。
電気は貯められない? 品質を守るための「同時同量」とは
「同時同量」とは、使う電気の量と、発電する電気の量を常に同じにする原則のこと。電気は、乾電池やバッテリーなどに小さな量の電気を貯めることはできますが、複数世帯の生活を支えるような電気は、基本的に蓄えておくことができません。そのため、使う電気の量と発電量がいつも同じになるように調整する必要があります。
同時同量のバランスが崩れると、周波数が不安定になって電気の品質が落ちたり、大規模な停電発生につながったりすることもあります。季節や1日の間でも変わる電気の使用量に応じて、さまざまな発電方法を組み合わせて、発電量が調整されています。
東日本・西日本の周波数はなぜ違う?
「周波数」とは、電気製品で使われる「交流」の電気による波が、1分間に繰り返す回数のこと。ヘルツ(Hz)という単位で表されます。周波数は、新潟県の糸魚川と静岡県の富士川を結ぶ線を境に異なり、東日本では50Hz、西日本では60Hzの電気が使われています。
この違いは、明治時代、東京ではドイツから輸入した50Hzの発電機、大阪ではアメリカから輸入した60Hzの発電機を使って電気を作り始めたことに由来します。現在の電気製品の多くは50Hzでも60Hzでも使うことができますが、エリアと異なる周波数が設定されている電気製品を使うと、故障したり、機能性が変わったりすることがあるので注意しましょう。
気になるワード「予備率」ってどんな数字?
「電力が足りない」というニュースなどで使われる、「予備率」という言葉。それは、ピーク時の電力需要に対して、供給力の余裕がどれくらいあるかを表した数字です。
電気は基本的に、貯めておくことができません。そのため、気温の変化によって急に電力の需要が増えたり、発電トラブルで供給力が低下したりするケースに備えて、供給力に余裕を持たせておく必要があります。電力の需要は刻々と変動しますので、最低でも3%の予備率が必要です。また電力の安定供給のためには、8%以上の予備率が望ましいと言われています。
電力需給ひっ迫警報・注意報とは?
電力需給ひっ迫警報、電力需給ひっ迫注意報は、翌日に電気が足りなくなることが予想されたとき、資源エネルギー庁が前日16時をめどに発令します。電力需要に対する供給の余力が少なく、電力がひっ迫する可能性を早めに知らせることで、家庭や企業に節電の対策をしてもらうことが目的です。
需給ひっ迫注意報は、翌日の予備率が5%を下回る見通しのとき、需給ひっ迫警報は、翌日の予備率が3%を下回る見通しのとき、発令されます。この注意報や警報が出された際は、熱中症などの体調不良に注意しながら、無理のない範囲での節電を心がけましょう。
「でんき予報」もチェックしていざというときの電力不足を乗り切ろう!
各エリアの電力会社は、電力の使用状況を伝える「でんき予報」を公開しています。今日の需給状況が厳しくなりそうか、安定しそうかという見込みがわかるので、こまめにチェックして、効率的に電気を使ってみてはいかがでしょうか?
各エリアの電力会社が提供する「でんき予報」へアクセスできる一覧はこちら↓
電気事業連合会 節電情報ポータル
▼参考・出典
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の発展のため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしているのをご存じでしょうか。地元の海を守ろうと、沖縄県恩納村(おんなそん)で長年続く「チーム美(ちゅ)らサンゴ」というプロジェクトがあります。このプロジェクトに立ち上げ当初から携わっているのが沖縄電力。県内外の企業や漁協など地元関係者と共にサンゴの保全に取り組み続けています!
サンゴを植え付け、かつての水中景観を取り戻したい
沖縄県本島の西海岸。その中央部に位置するのが恩納村です。
青い海と空がどこまでも続く海岸沿いには、万座ビーチやナビービーチなど多くのビーチが点在。水平線にゆっくりと消えていくサンセットがのぞめるなど、昔からリゾートエリアとしてにぎわってきました。
名勝地・万座毛がある恩納村で「チーム美らサンゴ」は活動している
そんな恩納村の美しい海を活動エリアとし、2004年、「チーム美らサンゴ」が結成されました。
沖縄の海では近年、オニヒトデの食害や赤土の流出、海水温の上昇に伴う白化現象によりサンゴが激減しています。
「自分たちの手でサンゴを植え付け、かつての水中景観を取り戻したい」
この想いを一つに、沖縄電力を含めた県内外9社の企業が集い、恩納村漁業協同組合など地元関係者の協力のもと、サンゴ苗の植え付けプログラムや啓発イベントなどのサンゴ保全の取り組みを開始しました。
恩納村・沖縄県・環境省の後援も得て、現在では県内外17社が協力して運営し、美ら海を大切にする心を広めるよう活動を続けています。
プログラムの中でスノーケリングなどさまざまな体験ができる
これまで一年に5回ほど恩納村でサンゴ苗の植え付け体験イベントを開催し、2020年にはなんと累計1万5000本を達成しました。
さらに盛り上げていこうとした矢先に、新型コロナウイルス感染症が拡大し、一昨年、昨年はほとんどのイベントが中止に。
悔しい思いをした2年間でしたが、今年は無事、第1回イベントから開催できる状況になりました。
ボランティアダイバーがサンゴを植える海
「チーム美らサンゴ」は、チーム企業や地元の人たちだけが参加する取り組みではなく、広く全国から一般の参加者を募って、みんなで海を守ろうというプロジェクトです。なので、予約をすることで誰でも参加が可能です。
体験イベント当日、まずはサンゴのレクチャーから始まります。
「サンゴは動物か? 植物か?」「クラゲとウニ、どちらに近いか?」といったクイズ形式などで、サンゴの生態や役割、サンゴ礁の現状など、さまざまな視点からサンゴのことをわかりやすく教えてくれます。
イベントプログラムにおけるサンゴのレクチャー。ちなみに、前述クイズの答えは「動物」「クラゲ」
その後は、サンゴの養殖場見学、サンゴの観察ダイビング、サンゴ苗の植え付けダイビングと続き、朝から夕方までたっぷりサンゴに触れられる一日となります。
ただ、サンゴ苗を植え付ける場所は水深5メートルほどの岩礁エリア。参加資格として、ダイビングライセンスが必須になります。
ボランティアダイバーがサンゴ苗を植え付ける(提供:沖縄ダイビングサービスLagoon)
「ライセンスなんて持ってない!」と、諦めなくても大丈夫です。ノンダイバー用のプログラムもあります。
植え付け体験はできませんが、グラスボートで海中散歩したり、サンゴ苗を作ったり、スノーケリングでダイバーたちがサンゴ苗を植え付ける姿を見学したり。
グラスボートで海中探索
“環境保全活動”と重く受け止めずに、レジャーを満喫しながら、海を守ることにつながる素敵な一日が待っています。
作ったサンゴ苗は、数カ月間育ててから植え付けへ
ダイバーでもノンダイバーでも、とても楽しい体験が待っているのは間違いありませんが、海の環境を守るために、なぜサンゴ苗を植え付け始めたのでしょうか。
それはサンゴが「生物多様性」の宝庫だから。地球の70%を占める海の中で、サンゴがあるのは海洋面積全体の0.2%程度です。実はこの0.2%の中に、海の生き物の25%が暮らしていると言われています。
つまり、サンゴは4分の1もの海洋生物の命を支える基盤になっているんです。
ノンダイバーでもスノーケリングで観察可能
そんな海の生態系と密接な関係にあるサンゴの身に事件が起きました。
1998年、世界中で大規模なサンゴの「白化現象」が発生。海水温が高くなりすぎることなどが要因で起こる、サンゴが白くなり弱ってしまう現象です。
このとき、世界中のサンゴの90%が死んでしまったとされています。もちろん沖縄の海も例外ではありません。
恩納村漁協の創意工夫! 海の中にパイプを立て、その上でサンゴを養殖
海の生き物の25%が暮らすサンゴがなくなったらどうなるのか……。生物多様性の宝庫を守るため、また、海洋生物、その恵みを与える漁業、さらには沖縄の観光資源を守るために、サンゴをなくすわけにはいきません。
さらに、サンゴは自然の防波堤の役割もある上、二酸化炭素を吸収する、製薬の原料として医療の発展に貢献できる可能性があるなど、幅広く人の暮らしに関わっています。
サンゴ苗を植え付けることの価値は大きい
そんなサンゴの大切さを知っているからこそ、チーム美らサンゴでは、参画企業と恩納村漁業協同組合などの地元関係者と全国からの参加者が協力し、サンゴ保全活動に取り組み続けているのです。
ちなみに、チーム美らサンゴを後援する恩納村は、2018年に“世界一サンゴにやさしい村”を目指ざすとして「サンゴの村」を宣言しました。村では大切なサンゴを守る取り組みがさまざまな形で行われています。
チーム美らサンゴに込められた海人の想い
こうして20年近くの活動を続けてきた「チーム美らサンゴ」。その背景には、地元の海人(うみんちゅ)さんの強い想いがありました。
「子どもや孫の世代まで美しい海と地球を守るため、今の私たちができることを」
研究者や企業がリードするサンゴの保全活動は、沖縄県各地で同じように行われています。ただ、恩納村におけるサンゴ保全活動のように漁業者の想いからスタートしたものは、他に類を見ないそうです。
恩納村漁業協同組合の仲村英樹さんは、「サンゴの植え付けは、養殖したサンゴの断片を苗として育成し、海底に植え付けるもの。始めた当時は方法が確立されておらず冒険的な要素もありましたが、今では、養殖はサンゴ種苗施設を整備し、植え付けはチーム美らサンゴの活動によって現在の形となり、成功したものと考えています。沖縄電力さんもチーム発足当時から参画しており、これからも協力して進められれば、さらに魅力ある活動になると感じています」と、現在に至った経緯を振り返ります。
恩納村漁業協同組合の仲村さん
サンゴ種苗施設。チーム美らサンゴの活動に協力する海人さんがモズクの養殖場をサンゴのために改装した
「チーム美らサンゴ」結成当初から、その想いに共感して沖縄電力も参画し続けています。現在、チームの幹事社としてイベント開催をサポートするカーボンニュートラル推進本部 環境部の立野正美さんが、サンゴの再生にかける想いを教えてくれました。
「過去2年間は、新型コロナ感染症拡大の影響もあり、イベント中止の連絡ばかりでつらかったです。今年は、無事に第1回目のイベントが開催できて本当にうれしかったです。『地域とともに、地域のために』が当社のスローガン。『チーム美らサンゴ』は、それを実現できるプロジェクトです。将来的に、サンゴを植え付ける必要もなくなるような、地域の海が自然の状態に戻ることが理想です。これからも『美ら海を大切にする心』がもっと広まればと思いながらこの活動に取り組んでいきます」
「今年はすべてのイベントを開催したいです!」と笑顔の沖縄電力の立野さん
世界で同時に起きた白化現象から20年以上が経ち、現在では恩納村海域の天然のサンゴは回復傾向にあるそうです。
それでも、観光客が一カ所に集まりすぎてしまう「オーバーツーリズム」や天敵となる「オニヒトデの増加」、開発などに起因する「赤土の流出」、さらには近年世界中で社会課題とされている「海洋プラスチックごみ」など、サンゴの生態を脅かす問題はとめどなくあふれています。
気候変動やSDGsを機に、環境保全への意識はどんどん高まってきました。ただ、それを行動に移すことは簡単ではありません。
チーム美らサンゴ2022年秋の植え付けイベントの開催は、9月17日(土)、10月5日(水)、10月22日(土)、11月5日(土)の4回を予定(※)。
海のレジャーも満喫しながら、サンゴのこと、海のこと、地球の未来ことを考えられる恩納村に足を運んでみては。
※チーム美らサンゴの植え付けイベントは春と秋に行われ、参加予約は、春が3月頃、秋が7月頃に開始されます。詳しくはチーム美らサンゴHPをご覧ください。
■DATA
チーム美らサンゴ
https://www.tyurasango.com/
恩納村
https://www.vill.onna.okinawa.jp/
沖縄電力
https://www.okiden.co.jp/
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
テレビやネットのニュースなどで話題になる、電力需給の状況。家でも節電をしたいけれど、照明やテレビを消す以外にどんなことをしたらいいのか、わからない方も多いのではないでしょうか。そこでこのコラムでは、料理や掃除など、家事の中でできる節電術を紹介します。
家事に使う電気はどれくらい?
経済産業省の家庭向け資料「夏季の省エネ・節電メニュー」によると、太陽光発電の出力が減少し、電力需給が厳しくなる時間帯にもっとも電気を使うのはエアコンで、全体の38.3%。また、冷蔵庫は12%、炊事は7.8%、給湯は3.1%、洗濯機・乾燥機が1.8%と、家事でも、電気は多く使われています。また電気が特に使われる時間帯は、全体では13時~17時頃の日中ですが、家庭では18時頃から消費量が上がります。家では、日中の暑い時間帯だけでなく、夜の消費量にも注意が必要です。
冷蔵庫は詰め込み過ぎに注意!
では実際に、家事の中でどのように節電ができるのでしょうか。たとえば、毎日の料理に欠かせない冷蔵庫も、工夫次第で節電ができます。ポイントは、ものを詰め込み過ぎないこと。詰め込んだ冷蔵庫の食材を半分にすると年間で電気43.84kWhの省エネ、約1,180円分、節約できます。ビン詰めなど常温で保存できるものは外に出したり使わない食材を処分したりして、冷蔵庫を整理しましょう。
温かい食べ物は冷ましてから冷蔵庫へ。庫内の温度を「強」から「中」や「弱」にする、無駄な開閉をしないのも節電のポイントです。冷蔵庫を壁から離して設置するのも節電術のひとつ。上と両側が壁に接している場合と片側が壁に接している場合を比較すると、それだけで年間で電気45.08kWhの省エネ、約1,220円の節約ができます。
まだまだある!キッチンでの節電術
便利な食器洗い乾燥機も、賢く使って節電しましょう。食器の点数が少ないときは少量コースを使う、扉をあけて余熱で乾燥させるのも、節電のコツです。
ガスコンロやIHクッキングヒーターは、鍋にフタをして調理するとエネルギーのムダを抑えられます。食材を小さめに切ったり圧力鍋を使ったりすると、加熱時間を短縮できるのでおすすめです。
炊飯器を使うときは、長時間の保温に注意。3合炊いて1.5合を食べて残りを保存する場合、保温時間が4時間を超えると、電子レンジで温めなおしたほうが節電になります。電気ポットでお湯を沸かしておくときは、低めの温度で保温して必要なときに再沸騰させると節電に。長時間使用しないときはプラグを抜きましょう。
洗濯はまとめ洗いが正解!
洗濯機を使うときは、少量の洗濯物を毎日洗うよりも、まとめて洗ったほうが節電できます。容量の4割を入れて洗うより、8割入れて洗う回数を半分にするほうが、年間で5.88kWhの節電になり、水道代と合わせると年間で約4,510円、節約できます。乾燥機も同様に、まとめて乾燥して回数を半分に減らすことで、年間で41.98kWhの節電、約1,130円の節約が可能です。
乾燥機に頼りすぎず、自然乾燥も活用するとベターです。乾燥機のみで乾燥させるより、自然乾燥8時間後に未乾燥のものを補助乾燥するほうが、年間で約10,650円、節約できます(2日に1回使用)。
毎日の掃除でも、省エネが大切です。部屋を片付けてから掃除機をかけると、使用時間を短縮できます。ゴミが取れにくいじゅうたんは「強」、吸い込む強さを変えても取れるゴミの量がほぼ変わらないフローリングは「弱」にするなどして、モードを変えると経済的です。パックやダストカップにゴミが詰まった状態だと吸引力が落ちて消費電力量が増えるので、ゴミはこまめに捨てましょう。
省エネ家電への買い替えも選択肢に
省エネ家電に買い替えるのも、節電のひとつ。冷蔵庫は10年前と比べて約40〜47%の省エネを実現するなど、家電の効率性は大幅に向上しています。家電を買い替えるときに省エネタイプを選ぶのも、家でできる節電術です。環境だけでなくお財布にも優しい節電生活、今日から始めてみませんか?
▼参考・出典
夏は気温が高く、食品が傷みやすい時期。さらにエアコンや冷蔵庫など、“冷やす”には電気代が結構かかるなぁ……と生活の中で感じる方も多いのではないでしょうか。そこで、著書に『栄養素も鮮度も100%キープ! おいしい冷凍保存術』『いつでもおいしい 冷蔵・冷凍保存術』などをお持ちの料理研究家・食品ロス削減アドバイザー・防災士の島本美由紀さんに、冷蔵・冷凍での効率的な食品保存術を中心に、フードロス対策・料理へのおすすめ活用法についてお聞きしました。
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料理研究家・食品ロス削減アドバイザー・防災士の島本美由紀さん
フードロスとは、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品のこと。家庭から出るフードロスは4人家族の平均で年間6万円分と言われています。家庭から出るフードロスを減らすためにも、食品が傷みやすい夏の時期は冷蔵庫の使い方を見直しましょう。フードロスを防ぎ、食品をおいしく長持ちさせる冷蔵・冷凍保存術をご紹介します。
①冷蔵庫をうまく使いこなせると、こんなことがプラスに!
「気づいたら冷蔵庫の奥で野菜が傷んでいた……」「冷凍室で霜がついた謎の食品を発見して捨てた……」など、せっかく購入した食材を最後まで使い切れずに捨ててしまったという経験はありませんか? 食事作りは冷蔵庫を中心にまわっているので、冷蔵庫の使い方をちょっぴり見直すだけで、食材を最後まで使い切れるようになり、節約につながることはもちろん、家事効率もアップ。捨てる罪悪感からも解放されるので気持ちも整います。
冷蔵室は7割以下の収納に
冷蔵庫がパンパンになりがちな夏ですが、大切なのは冷蔵庫の収納量。冷蔵室は7割以下、冷凍室は7割以上の収納にしましょう。
まず、冷蔵室がパンパンだと冷気が効率よくまわらず、食材が傷みやすくなります。また、取り出したいものを探すのに時間がかかるので冷気が逃げてしまう原因にも。冷蔵室の収納を7割以下にすることで消費電力も抑えることができ、年間約960円の電気代がお得(※)になります。
ちなみに冷蔵室内の設定温度は『中』で十分。冬は気温も低いので『弱』の設定でOKです。設定温度を見直すだけで年間約1,360円も電気代がお得(※)になります。
冷凍室は7割以上の収納に
冷凍室の収納量は冷蔵室とは逆。7割以上のスペースに食材が入っていた方が効率よく冷え、節電効果もアップします。開いている時間を短くするためにも、冷凍室は重ねず、立てて収納が鉄則です。
(※一般財団法人省エネルギーセンター「家庭の省エネ大辞典」より)
②フードロスを減らす冷蔵保存術
冷蔵室からフードロスを減らすには、「見える」「まとめる」「取り出しやすい」の収納方法を実践していきましょう。
「見える」ひと目で見渡せる収納を意識する
開けたらパッと全体が見渡せるように収納しましょう。例えば、透明の保存容器を使用するとひと目で残量まで確認できるので常備菜などの食べ忘れを防げます。容器の種類は増やし過ぎず、2~3種類に統一することで使っていない時の収納もコンパクトになります。
「見える」ひと目で見渡せる収納を意識する
「まとめる」 グルーピングを意識する
あちこちに食材が散らばっていると、ダブり買いの原因に。種類ごとや使う目的ごとに食材をまとめておくと管理がしやすくなります。半端に残った加工食品やちくわなどは冷蔵室で1番見えやすい下段に置くと使い忘れもなく、献立も立てやすくなります。
グルーピングを意識して「まとめる」、そしてトレーを使って「取り出しやすい」かたちにした例
「取り出しやすい」 トレーを使って奥まで有効活用
用途別にトレーやボックスにまとめるとすぐに取り出せ、冷蔵庫の奥まで有効活用できます。食材が迷子にならないので、探す手間も少なくなり、買い忘れやダブり買いの予防にもなります。ドアを開けている時間が短くてすむので節電効果もあります。
ちなみに家庭から出るフードロスを食材別で見てみると、1位が野菜です。せっかく購入した野菜をおいしく食べきるためにも、正しい保存方法を知ることが大切です。例えば、小松菜やホウレン草などの葉物野菜は育った状態で保存した方が長持ちするので、野菜室に立てて保存しましょう。かぼちゃやパプリカ、ゴーヤーなどのヘタとタネのある野菜は水分の多いタネ周辺から傷んでくるので、残ったらヘタとタネを取って保存しましょう。きのこ類は水分と乾燥に弱いので、キッチンペーパーで包んでからポリ袋に入れて保存しましょう。おいしく長持ちさせることで野菜のフードロスを減らせます。
かぼちゃやパプリカ、ゴーヤーなどのヘタとタネのある野菜は水分の多いタネ周辺から傷んでくるので、残ったらヘタとタネを取って保存します
③フードロスを減らす冷凍保存術
肉や魚、野菜など、まとめ買いをしたら新鮮なうちに冷凍保存しておくと長持ちします。
例えば、肉は100gずつに分け、ラップで包んでから冷凍用保存袋に入れましょう。魚は1切れずつ、ハムやソーセージは使いやすい量ごとに分けて冷凍しておくと使い勝手抜群です。
魚は1切れずつ、肉は100g程度を小分けにして、ラップで包んでから冷凍用保存袋に入れると長持ちします
肉や魚の冷凍は一般的ですが、野菜の冷凍保存もおすすめ。例えば、キャベツや小松菜などの葉物野菜は、食べやすく切って生のまま冷凍用保存袋に入れて冷凍しておけば、使いたい時に使いたい量だけ取り出せ、凍ったまま調理ができるのでラク。色鮮やかなミニトマトや乱切りにしたパプリカ、細切りにしたにんじんなどを冷凍しておけば、食卓に彩りを添えてくれます。比較的日持ちのしやすい根菜類もぜひ冷凍してみてください。にんじんや大根、ごぼうなど、食べやすい大きさに切って冷凍しておけば、凍ったまま煮物やスープに使え、冷凍することで火の通りも早くなるので時短につながります。肉や野菜の保存期間は1か月。期限内に調理で使いましょう。
切ってから冷凍すれば、使いたい時に使いたい分量だけササっと取り出せます
また、頻繁に使わない調味料の保存も冷凍がおすすめです。柚子胡椒や豆板醤、甜麺醤などは容器ごと冷凍保存すれば1年間ほど保存可能(瓶が割れないよう、内容量はパンパンの状態でないよう気をつけて)。風味を損なわずにおいしく冷凍ができます。また、味噌など塩分が多い調味料はカチコチに凍らないので、冷凍室から取り出した直後でもスプーンで必要な分だけ取れるので使いやすいですよ。
頻繁に使わない調味料は容器ごと冷凍保存がおすすめ
④時短クッキングにもなる! 便利な下味冷凍
日々の食事作りをラクにしてくれるのが下味冷凍。下味冷凍とは、肉や魚に味をつけて冷凍保存したもののことで、冷凍することで調味料がしっかりと染み込むので、パサつきを防いで食感もやわらか。解凍して炒めたり、焼いたりするだけなので時短調理にもつながります。また、調味料が肉や魚の表面をしっかりコーティングしてくれるので乾燥しにくく、保存期間は2か月。下味冷凍することで、おいしさを長くキープしてくれます。
作り方はとっても簡単。例えば、冷凍用保存袋にひと口大に切った豚バラ肉200gを入れ、市販の焼き肉のタレ大さじ3を加えて軽くもみ、下味をつけた状態で冷凍するだけ。食べる時は冷蔵室に移して解凍し、玉ねぎやピーマンの薄切りと一緒に炒めれば豚肉のスタミナ炒めに。フライパンで炒めた肉を市販のカット野菜と盛り付ければスタミナ満点の焼き肉のサラダになります。
下味をつけた豚肉を冷凍しておくと、時短クッキングに!
特売などで購入した肉や魚を利用して、好きな調味料で味をつけて2~3セットほどまとめて作っておくと便利ですよ。上手に冷凍貯金をしておくことで、献立に迷うこともないし、雨などで買い物に出たくない日や忙しい日のごはん作りがグッとラクに楽しくなります。
使い忘れを防ぐためにも、冷凍用保存袋には日付と中身の食材名を書いておきましょう。そして月に1度、冷凍室を見直して古いものから食べていくなど、上手にローリングしていくと、おいしく食べきることができます。
島本美由紀(しまもと みゆき)
料理研究家・食品ロス削減アドバイザー・防災士 身近な食材で誰もが簡単においしく作れるレシピを考案。家事がラクになるアイデアなどに定評があり、ラク家事アドバイザー、冷蔵庫収納&食品保存アドバイザー、防災士としても活動。NHK「あさイチ」や日本テレビ「ヒルナンデス!」など、テレビや雑誌を中心に活躍し、著書は70冊を超える。一般社団法人「食エコ研究所」の代表理事を務め、令和3年には消費者庁主催の食品ロス削減大賞で審査委員長賞を受賞。公式YouTube「島本美由紀のラク家事CH」では、家事がラクになるアイデアや食品保存のコツを紹介している。
著書に「ムダなく使い切れる!冷蔵庫収納術」(コスミック出版)、「栄養素も鮮度も100%キープ!おいしい冷凍保存術」(宝島社)、「野菜が長持ち&使い切るコツ、教えます!」(小学館)などがある。
【公式YouTube】「島本美由紀のラク家事CH https://www.youtube.com/channel/UCbIPZfpFO5ccvs8MtelVobg
【オフィシャルサイト】https://shimamotomiyuki.com/
★節電情報について知りたい方はこちら!
ふだんあたりまえに、何気なく使っている電気。でも生活上なくてはならない社会インフラです。現在はコロナ禍の影響でおうち時間が増えるなど、生活の中での電気・家電の存在感は以前より大きくなってきているのではないでしょうか。そこで、「家電ラボ」を開設し、電化製品を研究・レビューしている石井和美さんに、「生活を豊かにしてくれるおすすめ家電」と、家電を選ぶ際のアドバイスをお聞きしました!
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フリーライター/家電プロレビュアーの石井和美さん
暮らしの中で欠かせない電気&家電。ふだんは何気なく使っていますが、家事の負担を軽減し、生活の質を上げてくれる便利な家電が数多く登場しています。現在はコロナ禍の影響で在宅時間が増え、生活の質を上げるために家電を買い足したり、買い換えたりする方も多く、注目が集まりました。最新の家電トレンドと、選び方をご紹介します。
➀便利家電、今のトレンドは?
現在、家電をとりまく状況は変化しつつあります。高度経済成長期には「子供の数は 2~3 人」が標準家族でしたので、家電もそういった世帯に合わせて販売されていました。しかし共働き世帯が増え、単身者やシニア世帯も急増しているため、家族形態やライフスタイルの多様化に合わせて、求められる家電も少しずつ変わってきています。
最近、人気なのは少人数用のコンパクトな家電です。一世帯あたりの人数が減っていることもありますが、キッチンのスペースに限りがある中で、家電の種類がどんどん増えて置き場所問題に悩む方が増えていることも理由のひとつ。新興メーカーから販売されている手頃な価格の家電も人気です。操作が簡単で、パッと使える小さな家電は、主に単身者や少人数の世帯で好まれています。
また、「省エネ」についても意識する方が増えています。特に冷蔵庫とエアコンは家庭内でも消費電力が大きい家電なので、気になる方も多いようです。家族形態の変化に合わせたコンパクト&便利化と、省エネな世界情勢に合わせたトレンドの2軸が、人気の傾向と言えるかもしれません。
冷蔵庫は、最新の上位モデルは省エネ性能が高くなっています。各社が力を入れているモデルは、モーターやコンプレッサーが最新で、断熱材も優秀です。よく「大きい冷蔵庫は電気代がかかる」と思い込んでいる方もいますが、中型冷蔵庫よりも消費電力が低いことも。
また、単に冷やすだけではなく、鮮度を保つことができます。食品が長持ちしたり、ラップなしでもサラダが潤っていたり、買い換えるメリットが高い家電です。
消費電力が大きい冷蔵庫は、サイズよりも性能面で選ぶのが◎
エアコンは、節電効果を上げるのであれば、サーキュレーターを同時に使うことをおすすめします。サーキュレーターで気流を作り、かくはんすることで部屋の温度が一定になります。夏場では体感温度も下がるので、エアコンの設定温度を上げることができます。節電につながるので、ぜひ試してみてください。なお、扇風機でも代用できますが、扇風機は人があたることを目的に作られているので、風が弱めでサーキュレーターほど気流を作り出すことができません。扇風機の中でもサーキュレーターとして使えるパワフルなタイプもありますので、一年中エアコンと併用して使うのでしたら、そちらのタイプを選ぶようにしましょう。
もうひとつ、注目していただきたいのは「照明」です。現在販売されている中で省エネなのはLED照明ですが、まだ蛍光灯の照明を使っている方も多く、家庭内では電力消費を占める割合が高いと言われています。廊下のダウンライトなど、細かいところも含めて全部の部屋をLED電球に変えていくことで、月々の電気代も抑えることができます。意外にも消費電力が大きいものなので、家の中の照明を改めて見直してみてくださいね。
②おすすめの「生活を豊かにしてくれる家電5選」
ここ数年で特に注目されている家電をご紹介します。同じように見えても、10年前より使い勝手や性能が上がっているものもあります。「家事の手間を減らしたい」「健康的な毎日を送りたい」など、目的は使う人によってさまざま。ユニークな家電もたくさんあるので、ぜひチェックしてください。
1、調理家電
コロナ禍以降、大人気の電気圧力鍋や電気調理鍋です。短時間で作ることができるのはもちろん、材料と調味料さえ入れれば「ほったらかし」でできることがメリット。料理で大切なのは加熱のさじ加減ですが、設定さえすれば自動でコントロールしてくれるので失敗がありません。むしろ、自分で作るよりも美味しくできることもあり、手放せないという声もよく聞きます。圧力料理だけでなく、低温調理、炊飯、発酵、炒め物まで幅広くできる調理家電もあります。コロナ禍により、運動不足で太ってしまった……という方からは、ヘルシーなサラダチキンなどができる低温調理機能も人気となっています。
電気圧力鍋や電気調理鍋が人気。調理家電は時間も電力も節約できるものも!
2、ちょい足し調理家電
コロナ禍以降、特に売れたのが生活に潤いを与える家電です。
15万円以上もするコーヒーメーカーが飛ぶように売れました。カフェに行けなくなったことで売れたコーヒーメーカーは、ミル付きの本格的なものから、カセット式で一杯ずつ淹れられる手軽なタイプまでいろいろ発売されています。以前よりも選択肢が増え、コーヒーを抽出する技術も上がったので、最新式のコーヒーメーカーは香りがよく、至福の一杯を楽しめます。
コロナ禍でおうち時間を楽しむコーヒーメーカーが人気に
コロナ禍になる前までは家庭の中で登場の頻度が少なくなってきていたホームベーカリーも再び注目されています。焼きたてのパンを食べることができるので、パン好きにはたまらない家電ですが、最新モデルは全粒粉パンやブランパンなどのヘルシーパンを作ることもできるので、「パンは好きだけれど、糖質などが気になる」という方も購入されています。
また、テーブルで楽しく家族で調理できるホットプレートも人気です。一人用のコンパクトなホットプレートは、そのままテーブルでお皿としても使えるので、洗い物を減らすことができます。
3、クリーン家電
在宅時間が増えてから、ゴミを見つけたときにパッとこまめに掃除する方が増えています。これまでは週末などにまとめて掃除をするので、ある程度重くても吸引力を重視する方が多かったのですが、ユーザーのニーズも変わってきました。今はサッと掃除できる、コードレスタイプの軽い掃除機が人気です。見つけたときにすぐに手にとることができ、置きっぱなしでも部屋のインテリアを邪魔しないスタイリッシュなデザインのクリーナーも続々登場しています。
空気清浄機も注目されています。空気清浄機の売上はずっと横ばいでしたが、コロナ禍以降は部屋の空気環境を整えるために、取り入れる方も増えています。適用畳数の表示がありますが、実際の部屋よりも大きいタイプ(2倍ほど)を購入するようにしましょう。スピーディに吸引できますので、ホコリや花粉などをしっかりキャッチできます。
4、最新の大容量冷蔵庫
冷蔵庫の性能がアップしていることは➀でも紹介しましたが、最新の大容量冷蔵庫は便利かつオトクです。資源エネルギー庁の資料によると、今どきの冷蔵庫は10年前と比べると約40〜47%の省エネに。10年以上前の古い冷蔵庫を使っている方は、最新モデルに買い換えれば消費電力を抑えることができます。また、断熱材が薄くなり、モーターなども小さくなっていますので、10年前と同じサイズでも内容量は大きくなっています。たくさんまとめ買いしてもたっぷり入るので安心です。
なかなか買い換えが難しい大型家電。久しぶりに買い換えたら、その進化に驚くかも…!?
5、大型テレビ
コロナ禍前まではスマートフォンなどで動画などを楽しむ方が多かったのですが、在宅時間が増えるようになり、せっかくなら大画面で楽しみたいという方が増え、テレビも売れています。
最近、特に人気なのはネット配信動画が見られるテレビです。ネット配信動画を補正する機能や、リモコンにネット配信用のボタンがあってすぐに切り替えられるタイプが人気となっています。
③自分に必要な家電を見極めるために
ここ数年で家電業界もサブスクリプションやレンタルサービスが急増していますので、そういったサービスの利用もおすすめです。せっかく欲しいものがあっても、特に高額な家電は躊躇することがありますよね。もし目的のものが借りられそうであれば、購入する前に、一度借りてみることをおすすめします。
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さまざまな用途・種類の家電が販売される昨今。そのバリエーションと性能の進化はめざましく、自分の生活に取り入れたら、地球に優しく、かつ快適だったり楽しみが生まれたりする豊かな時間が過ごせるかも。もし試してみたい場合は石井さんおすすめの「おためし」で、一度借りてみると「せっかく買ったのに……」という失敗や無駄がなくなりそうです。かしこくスマートに、電気ライフを楽しみたいですね。
石井和美(いしい かずみ)
フリーライター/家電プロレビュアー。
白物家電や日用品などを中心に製品レビューをテレビ・ラジオ・雑誌・WEBなど各メディアで紹介・解説。レビュー歴15年以上。茨城県守谷市に家電をレビューするための一戸建てタイプ「家電ラボ」を開設し、冷蔵庫や洗濯機などの大型家電のテストを行っている。ライター、家電コメンテーター、家電コンサルタントなども。
【WEBページ】家電ラボhttps://kaden-blog.net/
【Twitter】https://twitter.com/kazumi123
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瀬戸内の島々を自転車で巡る、しまなみ海道サイクリングの起点・終点として多くの人が訪れる広島県尾道市。実はかつてアサリの名産地だったこの街で今、石炭灰の力でアサリを復活させようという新たな試みが進んでいます。中国電力も協力するこの取り組みは、成功すれば再び美味しいアサリがたくさん採れるようになるのはもちろん、ひいては地球環境を守ることにもつながるのだとか。壮大なプロジェクトの中身と現状、未来への希望をご紹介します。
実は尾道名物だったアサリ
広島県東部に位置し、瀬戸内海に面して広がる温暖な港町・尾道。
風光明媚な街並みや数々の歴史ある寺社巡りが楽しめるほか、瀬戸内しまなみ海道の玄関口としても多くの観光客やサイクリストでにぎわう街です。
そんな尾道で今注目を集めているのが、アサリの産地復活を目指した実証試験です。
瀬戸内海に浮かぶ向島との間に尾道水道が流れる光景は、この地ならでは
尾道市東部の干潟で実証試験が行われている
尾道は昔アサリの一大産地であった歴史があり、住民にとってアサリはその時期になればいくらでも採れる、身近な海産物の一つでした。
農家でも仕事の合間、潮が引いたタイミングでサッとアサリを掘りに行っては日中砂抜きをし、そのまま夕飯のおかずにするというのが日常だったのだとか。
昔は尾道で身近な海産物だったアサリ(写真はイメージ)
そのため定番のアサリ汁に加えて、アサリ飯やから揚げにアレンジしたり、贅沢に巻きずしの具に使ったり。
豊富に採れるからこそさまざまな食べ方で楽しめる、豊かな食文化が育まれてきました。
アサリを贅沢に使ったアサリ飯、アサリ汁、アサリのから揚げ
特に尾道のアサリは、殻に厚みがあって身は白く大きく、旨みたっぷり。
初めて食べた人は、「アサリってこんなに美味しいものだったんだ!?」と衝撃を受けるといいます。
大きくプリプリの身の美味しさをダイレクトに楽しめるから揚げ
しかし、海の栄養素不足や、海水温上昇による天敵の増加など、近年の環境変化により尾道で採れるアサリの量は激減。1988年の漁獲量は約1750トンであったのに対し、2018年には約4トンまで落ち込んでいます。
気軽に手に入らなくなったことで、家庭の日常からアサリは姿を消すことに。今の子どもたちは地元産のアサリの美味しさを知らずに育っているという現実があります。
そこで2020年11月、再びアサリの街・尾道を取り戻そうという新たな取り組みがスタート。
地元漁協などで構成する松永湾水産振興協議会を主体に、尾道市、広島大学、中国電力の産官学連携で、アサリを中心とした生態系の回復へ向けた実証試験が始まったのです。
アサリ復活のカギは石炭灰!?
実証試験の舞台となるのは、東尾道に位置する松永湾の干潟。ここに「Hi(ハイ)ビーズ」という直径1~2センチメートルの粒を散布して、経過を観察しています。
Hiビーズを散布した際の様子
干潟にHiビーズを敷き詰める
Hiビーズは、中国電力の石炭火力発電所で発生する石炭灰に、少量のセメントと水を加えて固めたものです。
石炭灰に含まれるカルシウムやミネラルの作用によって、海や河川の悪臭の原因となる硫化水素を吸収する効果や、赤潮を引き起こす窒素、リンの発生を抑える特性があり、各地でヘドロの改良や水質改善に役立てられているほか、これまでの同社の実験を通じて、アサリの生育に良い影響を及ぼすこともすでに実証されていました。
しかも、同社から出る石炭灰は、その99%以上がHiビーズをはじめとした土木資源などにリサイクルされています。
石炭は植物の化石。それを燃やした後に生じる石炭灰は、自然にも安心して使える素材なんです。
石炭(左)を燃やして生じた石炭灰(フライアッシュ。右)を固めてできるのが「Hiビーズ」(中央)
今回のプロジェクトの調査・分析を担当した広島大学によると、Hiビーズにはこうした海の土壌改良に加え、石炭灰に含まれる栄養素やミネラルの供給によってアサリの餌となる細かな藻類を繁殖させる効果があることが改めて確認されました。
さらに、ある程度の厚さで敷設されたHiビーズは、チヌやナルトビエイといったアサリを餌とする天敵から物理的に身を守る、食害防止の効果も高いのだとか。
これらの効果によって、現地の環境は劇的に改善。アサリが全くいないゼロからのスタートだったにも関わらず、今では着実に成長した個体がいくつも確認されています。
試験場となっている松永湾の干潟。赤く囲まれている付近にHiビーズが散布されている
中国電力 電源事業本部 石炭灰有効活用グループの井上智子さんは、「これまでHiビーズは各地の海や川で成果を出してきましたが、その延長として今回アサリ復活のお手伝いをできることをうれしく思っています」と笑顔。
一方、尾道市 産業部 農林水産課の山田学さんは「これまで漁業者の皆さんがアサリの復活のために、干潟の耕運や保護用の網掛けなどを行ってきましたが、その成果を高めるためには、大変な労力が必要です。そのような中で今回、敷設するだけで食害防止や土壌改善の効果がある新しい技術を投入したとあって、地元の関心は非常に高いです」と話します。
プロジェクトに共同で取り組む尾道市の山田さん(左)と中国電力の井上さん(右)
「現状、2021年6月と12月に実施した調査では、アサリの個体数が増えたり、水質が改善するなどの効果が確認できており、2022年の調査結果にもさらに期待を寄せています。漁協の方々が主体のプロジェクトですが、市としても引き続き積極的にバックアップしていきたいです」(山田さん)
注目のブルーカーボン効果。アサリを守れば、人も地球も守れる
尾道産のアサリの復活。それは地元漁業関係者の悲願であり、市民にとっても美味しいアサリが食べられるようになることは非常に喜ばしいことです。
さらに十分な量が採れるようになれば、アサリを使った郷土料理の数々を名物グルメとして打ち出すことも可能になります。
アサリ料理という魅力が加われば、尾道の飲食業や観光業はさらに盛り上がることでしょう。
実証試験の結果、着実に個体数を増やしている松永湾のアサリ
サポートする市の代表、平谷祐宏(ひらたに・ゆうこう)市長もアサリへの想いはひとしおです。
「私が子どもの頃は、潮が引いたら海へ行ってアサリを採るのが日課でした。掘るというよりは拾うぐらいの感覚で、そこら中にアサリがいたんです。しかも、尾道のアサリは本当に美味しい。だから、皆さんと協力して絶対にアサリを復活させるぞ! という意気込みです。これはアサリ王国・尾道を実現する、アサリ大作戦なんですよ」
尾道の島で生まれ育ち、アサリ愛の深い平谷祐宏市長
また、アサリ復活の取り組みは、脱炭素社会実現の観点からも有益なアクションだといえます。
それは2009年10月、国連環境計画(UNEP)の報告書で、海藻などの生態系の作用によって海中に蓄積される炭素が「ブルーカーボン」と命名され、二酸化炭素(CO2)を吸収する新しい選択肢として提示されたことによります。
干潟にHiビーズを敷くと、その表面が海藻類で覆われます。そして光合成によって二酸化炭素を吸収することで海底に炭素が固定され、「ブルーカーボン効果」を発揮するのです。
「アサリの復活を目指す中でブルーカーボン効果が生まれ、脱炭素社会の実現につながるのは、尾道ならではのスタイル。また、豊かな海が戻ればアサリ以外の魚種も増えるでしょうし、そうすれば漁業も活気づいてさらに街が潤います。尾道に暮らす人にも、尾道を訪れる人にもうれしく、そして地球環境にも優しい。そんな明るい未来を目指して、地元漁協や中国電力さんをはじめ、ぜひ皆さんで力を合わせて一つの成功モデルを作っていきたいですね」(平谷市長)
「さまざまな人たちの力を結集しながらチームとして挑戦を続け、魅力ある尾道を作っていきましょう!」と団結
火力発電所で出た石炭灰を再利用し、アサリを復活させる。たくさん採れるようになったアサリが市民や観光客の楽しみを増やし、街が活性化する。さらに環境問題の解決にもつながるという壮大なプロジェクト。まさに幸せの循環であるこの輪が、今後ますます大きく広がっていくことに期待が高まります。
地元を想う人たちが手を取り合って、魅力あふれる街に進化し続ける尾道市に、皆さんも遊びに行ってみてはいかがでしょうか。
■DATA
東尾道地区におけるHiビーズ実証試験
尾道市
https://www.city.onomichi.hiroshima.jp/
中国電力 灰カラ三姉妹(石炭灰製品)特設サイト
https://www.energia.co.jp/business/sekitanbai/index.html
関連記事>>【インタビュー】「石炭灰を使った製品開発・用途拡大に貢献し、より高いレベルの業務に」中国電力・立花美咲さん
<貢献する主なSDGsの目標>
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
【今月の密着人】原子力発電環境整備機構(NUMO) 広報部 小沢愛恵(28歳)
原子力発電を利用することで発生する、いわゆる「核のごみ」と呼ばれる高レベル放射性廃棄物の最終処分事業を担う原子力発電環境整備機構(以下、NUMO)。そこで「高レベル放射性廃棄物とは何か?」「地層処分とは何か?」を子どもから大人まで広く知ってもらうため、ジオ・ラボ号という展示車両を活用し、全国各地をめぐる広報部の小沢愛恵さんに、誕生の背景や仕事への想いを聞きました。
地層処分をわかりやすく教えてくれるジオ・ラボ号誕生
高レベル放射性廃棄物の存在や、その処分方法を多くの人たちに伝えるため、2013年からジオ・ミライ号という地層処分模型展示車が全国を回っていました。しかし、老朽化に加え、手で触れる展示方法や見学時間の長さから、コロナ禍の影響を受けて引退。新たに2021年11月にデビューしたのが「ジオ・ラボ号」です。
地層処分とは高レベル放射性廃棄物を地下深くに埋めて処分する方法のこと。現在、北海道の寿都町(すっつちょう)・神恵内村(かもえないむら)で地層処分場の選定に向けた調査が進められています。この地層処分の事業を、日本で唯一担っているのがNUMOなのです。
つまりジオ・ラボ号は、日本唯一の地層処分を伝える展示車。広報部の小沢愛恵さんは4~5人のメンバーと一緒に、全国をめぐっています。
小沢さん「ジオ・ラボ号の中に入ると、大画面で見るアニメと壁面展示が見学できます。地表から地下300メートル以上深いところに建設する高レベル放射性廃棄物の処分場とはどんなものなのか、放射性物質を長期間閉じ込めておける地下の特性とは何かを、わかっていただけるようなつくりにしているんです」
ジオ・ラボ号の展示スペースはあえて薄暗く、壁面は地層のようなデザインにしています。室内に入ると没入感が生まれるようで、子どもたちから「おお~!」という歓声が上がることもあるとか。
ただ、新型コロナウイルスの感染対策で車内での滞在時間を短くしたため、デビュー当初は伝えたいことがしっかりと伝わるかどうか不安もあったそうです。
小沢さん「もともとジオ・ミライ号では見学に20分ほどかかっていましたが、情報量をギュッと圧縮しましたし、内容も難しいので本当に伝わるのか不安もありました。でも、あるご家族が壁面展示を熱心に読んでいる姿を見ていたら、これで大丈夫だと確信しましたね。ジオ・ミライ号は今のご時世に合わせて世代交代。10年近く働いてもらって本当に感謝しています」
子どもから大人まで。教えるたびに教えられる日々
NUMOの広報部はジオ・ラボ号と全国をめぐるほか、イベントやお祭り、ショッピングモールにブースを出展するなど、地層処分の説明を各地で行っています。さまざまなイベントに参加する中で、ものすごく詳しい子どもに会ったことがあるそうです。
小沢さん「正直ビックリしてしまって。家族で地層処分について会話すると聞いて、さらに驚きました。私は就職活動のときに初めてこの問題の存在を知ったくらいですし、そのときでも話題にしたかどうか。難しい話だからといって避けるのではなく、家族で話をする。本当にすごいなと思いました。私の方が知らなかったらどうしようって、ちょっと焦りもありましたね」
イベントに出展すると、「問題なのはわかるけれど、どうすればいいのかわからない」「必要だと思うけれど、地層処分場を家の近くに造ってほしくない」など、賛成でも反対でもない意見を多く聞くそうです。
小沢さん「あるときに、少し長くお話をさせていただいた方がいました。私の説明を聞きながら、その方も自分が思うことをたくさん話してくれて。最後に『少しずつでも地層処分のことを知っていただいて、多くの方からご意見をいただくことが大切なんですよね』とお話ししたら、『そういう考え方もあるよね』と。納得した感じではなかったのですが、その時に、互いに思ってることを話して、互いに聞くことは、ものすごく大切なことなんだなと実感しました」
まずは「地層処分」という言葉を覚えてもらいたい。頭の片隅にでも残してもらえたなら、インターネットやテレビ、新聞で見たときに少し気にしたり、自分から情報をキャッチしてみたりしてほしい。そうしたアクションを少しでもとってもらえたら、と小沢さんはイベントのときに考えているそうです。
小沢さん「自分から情報発信をするところまで進んでもらえたらなんて、なかなか難しいですよね。地層処分に関わることは、詳しい人だけで進めていい話ではないと思いますし、この問題については1人でも知っている人が増えることこそ重要なんです。私たちの活動を通じて、知るきっかけになれればうれしいですね」
地層処分を知らない人たちの橋渡しに
地層処分への理解を少しでも広げようと、日々活動を続けている小沢さんですが、学生時代からエネルギー業界を目指していたわけではありません。就職活動の時期に、両親から教えてもらったことが直接のきっかけだったそうです。
小沢さん「詳しく知らないまま就職説明会へ行き、『高レベル放射性廃棄物』や『地層処分』の話を聞いたとき、友達との会話で一回も出たことがないことに気が付いたんです。こんな大事な話なのに、私の周りには知ってる人がいないかも! この問題が世の中にまったく浸透していない!! と強く感じました」
自分自身がまったく知らなかったことを、同じように知らない人たちに伝えられる橋渡しになりたいと、進むべき道を決めました。もちろん今も当時抱いた想いは変わりません。ただ、説明会で抱いた危機感は、使命感に変わりました。
小沢さん「『日本で唯一、NUMOだけが担う事業』。就職活動時の説明会で聞いた言葉です。今、イベントなどでご意見を頂戴するたびに、その使命や責任の重さをひしひしと感じています」
時には美容メーカーなどが出展する女性向けのイベントに出展することもあるそうです。地層処分というテーマはその会場ではやや異色ではあったものの、参加者がアンケートでNUMOの出展内容について回答してくれたことがありました。
小沢さん「『説明を聞いたことが、地層処分に関するテレビ番組を見るきっかけになった』と回答してくれたんです。ああ、よかったと思いました。最近ではニュースで見聞きする機会もあり、言葉を知っている方は増えてきたのかなって印象があります。私たちにとって、それはすごく大きな一歩なんです。賛成や反対の意見を持つのはその先でもいい。まずは少しだけでも知っていただきたいんです」
地層処分は、「100年事業」とも呼ばれるほど時間のかかるもの。次の世代、その次の世代も必ず知っておかなければなりません。
小沢さん「より多くの世代の方に、より多く知ってもらうことが重要なんです。既にある問題であり、処分はどうしても必要なこと。この2つを必ずお伝えするよう気を付けています。地層処分の問題が遠い将来の話ではないことに、気が付いていただけるように。それが説明をする者として、重要な任務の1つなのかなと思っています」
■原子力発電環境整備機構(NUMO)
https://www.numo.or.jp/
【今月の密着人】中国電力株式会社 島根原子力発電所 保修部 岡田誠さん(33歳)
カーボンニュートラルを目指す時代に、発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しない発電方法の一つとして、原子力発電があります。今回スポットを当てるのは、そんな原子力発電所を安全に運営するために重要な役割を果たす「保修」のお仕事。設備の保守点検から耐震補強の工事まで幅広く担当する中国電力の岡田誠さんに、安全への強い意識とその背景にある願いを伺いました。
大きな地震にも耐えられる発電所に
島根県松江市にある島根原子力発電所に勤務する岡田さんは、発電所の安全運営に欠かせない施設保安などの仕事を担っています。再稼働に向けた準備を進める2号機に関わる設備の保守点検や耐震補強工事などについて、計画策定から現場管理までを行っています。
岡田さん「私が担当している設備の一つに、原子炉から発電用のタービンへと蒸気を送る配管があります。配管の外部から超音波でひびがないかを確かめたり、バルブ(弁)を取り外して数十個のパーツに分解したうえで劣化や損傷がないかを細かく確認したり。防護服を着て配管内部に入り、目視点検もします。定期的な点検だけでもたくさんあるので、地道な作業が多いですね」
点検する設備は巨大で大掛かりなものも多く、一人ではできません。
岡田さん「計画策定から点検完了まで数カ月を要することも。社内の関連部署や作業を担当する協力会社とスケジュールを緻密に調整しながら進めていかなくてはなりません。これがなかなか大変なんです」
特に2013年から行っている耐震補強工事は、発電所の安全性に大きく関わるプロジェクト。調査段階から慎重を期しました。
岡田さん「たとえ発電所直下で地震が起きたとしても、建物が損壊しないようにする必要があります。そのため、まずは発電所周辺の地震の形跡を12~13万年前までさかのぼるなど、時間をかけて調査が行われました。この地盤で起こりうると考えられる最大の地震にも耐えられるように補強を施しています」
万全な安全対策を積み重ねる
常に緊張感を保ちながら仕事に当たる岡田さんですが、その意識をさらに強くしたのが2016年の冬のことでした。
2号機の中央制御室につながる空調ダクトに穴が見つかったのです。この中央制御室は、24時間体制で発電所の状態を監視する重要な施設の一つで、徹底的な原因究明と対策が必要です。
岡田さん「穴の原因は、結露や塩害による腐食ではないかと推定しました。起こったことは真摯に受け止め、二度と同じことを発生させないためすぐに動きました。プラントメーカーの担当者と対策案を連日連夜話し合い、ダクトの形状や材質などを変更して取り替え。さらに、従来とは違う角度から目視点検ができるように新たな点検口を増設したうえで、点検回数を増やすなど二重三重の対策を徹底しました」
一連の対応には大きな苦労が伴いましたが、「地域の皆さんにご心配をおかけしないためにも、安全性を高めていかなくてはいけない」と、改めて強く決意したといいます。
岡田さん「あらゆるリスクを想定し続け、思い込みや先入観にとらわれない柔軟な姿勢で安全性を追求しつづけなければなりません。私が受け持つ仕事の一つ一つに地域の皆さんの暮らしがかかっているという責任の重さを忘れてはいけないと考えています」
友人、震災、東南アジアを通じて考え続けた原子力発電
エネルギー分野に興味を持ち始めたのは高校時代からと、若くして視座の高さが伺える岡田さん。とはいえその一歩目は、当時の友人の影響が大きいそうです。
岡田さん「酸性雨や地球温暖化などは教科書でも見るほど、当時も社会的に関心の高い問題でした。その中で、再生可能エネルギーや原子力発電がCO2を出さないクリーンなエネルギーとして注目されていて、興味を抱いたのが原点です。ただ、当時親しかった友達が地球環境問題への意識がものすごく高く、だいぶ影響されたのもあります(笑)」
その後、大学で原子力について学びました。東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故が発生したのはそのころです。
岡田さん「研究室の教授たちから、原子力発電所の徹底した安全対策について聞いていたぶん、衝撃を受けました。その後、国内で原子力が止まっていても停電は起きないし、当時は正直、このままなくしても大丈夫なんじゃないのかなと考えていました」
ところがその秋、ベトナムやカンボジア、タイなどを旅行した際に、その考えが一変することになります。
岡田さん「電力の供給がとにかく不安定だったんです。すぐに停電しますし、その影響で生活するのがとても不便。何よりも、当時は地球温暖化の影響から年々豪雨による洪水被害の規模が大きくなっていたころです。東南アジアの暮らしを目の当たりにして、生きること自体の存続が危ぶまれている場所があるという現実に、もう一度原子力発電の必要性を見つめなおしたんです」
岡田さんは中国電力に入社して以降、「発電所の安全性向上に貢献したい」という思いから、平日は3時間、休日は8時間ほどの猛勉強を続け、原子炉の運転に関して保安の監督を行う「原子炉主任技術者」などの難関資格を取得しました。
より安全な発電所運営に生かしていくため、引き続き、他の資格取得に向け、勉強に励んでいます。
岡田さん「地域の皆さんが安心できる島根原子力発電所であるよう、頑張りたいんです。それに、石油などの化石燃料に依存しすぎるシステムはよくありません。万一調達できなくなれば、エネルギーどころか、身の回りのものまで作れなくなってしまう。次世代のために、自分にできることを精一杯続けていきたいです」
増設した点検口
■中国電力-島根原子力発電所
https://www.energia.co.jp/atom_info/shimane/
■島根原子力発電所 特設サイト
https://www.energia.co.jp/atom/mukiau/index.html
阪神・淡路大震災で実家が全壊した経験がある辻直美さんは災害救助に目覚めて、さまざまな被災地へ向かうレスキューナースとして活動するようになりました。『レスキューナースが教えるプチプラ防災』(扶桑社)や『保存版 防災ハンドメイド 100均グッズで作れちゃう!』(KADOKAWA)といった防災の指南書籍も出されています。
今回は辻さんに、地震に対して、防災全般についてアツく語っていただきました。
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国際災害レスキューナース、まぁるい抱っこマイスター、一般社団法人育母塾 代表理事の辻直美さん
災害に備える準備の最初のステップは「自分の欲を知ること」?
――本日はよろしくお願いいたします。まずお聞きしたいのが、災害に備えるために、最初は何から始めたらいいのでしょうか、ということ。いわゆる防災グッズを用意はしていますが……。
なるほど、防災グッズ、そろえたくなりますよね……。ここで知ってほしいのが「何のために防災をするのか?」なんです。実は防災は、“被災して生きのびた後、復興して元の生活に戻るためのもの”なんです。防災という言葉からは「災害を防ぐ」イメージが湧くかもしれません。確かにまず生きのびるための備えではあります。ただ自然災害、特に地震は防ぎようがない、防災=被災ゼロにはならないのです。そして生き残ることを考えると、災害にあったその瞬間を生き残ればいい、というわけではありません。被災してもなるべく早く日常生活に近づける、そして元の生活に戻していくことが大切です。
「心構え」に聞こえるかもしれません。“あなたが生活で何を重要に思っているのかを考える”ことは、被災後の生活において重要な要素になります。この心構えがあるのとないのでは、それから先の行動が変わります。やみくもにグッズを買いそろえなくなり、あなたのしたい生活を守るため、戻すために、何が必要かを判断できるようになります。ではまず、あなたにとって一番優先したいものは何でしょうか。大きく分けて「食欲」「睡眠欲」「清潔欲」という3つから選んでみてください。
被災すると一気に非日常になります。だからこそ自分の欲求をかなえないと、がんばって片づけや自分の生活を立て直せない。だから何に対しての欲求が強いのか、自分と向きあうことが大切です。
あなたが「食欲」を重視しているとしたら、毎日飽きないように別のものが食べたいのか、同じものを毎日食べていても大丈夫なのかなどを考えます。そこで初めてあなたが何を備蓄しておくべきかが分かります。同じものが無理な人はバラエティに富んだ食料の備蓄が必要です。これはぜいたくではないのです。私は訓練しているので、同じものを食べ続けてもどこで寝ても大丈夫。しかし、「自分から“人が体を洗っていない時の臭い”がする」のが耐えられないと自覚しています。そして、お風呂に入らなくても、脇下・胸、デリケートゾーン、足を拭いておけば臭いはしないため、拭き取りシートをたくさん常備しています。
拭き取りシートは、100円ショップやいろいろなメーカーの商品の中でノンアルコールや赤ちゃん用のものなど、普段から試して自分の肌が荒れないものを厳選しています。部位別でも違うので、私の防災リュックの中は、拭き取りシートの精鋭たちが入っている。私はこれで、不安なく生きていけると安心できるんです。
このように私と皆さんのリュックの中身は違っていて、家族の中でもパパとママのリュックの中身が違うことがあるでしょう。防災リュックは1人に1つが必須です。ぜひ皆さんの防災リュックの中身を見直してくださいね。
『レスキューナースが教える プチプラ防災』より、非常持ち出し袋の中身一例
防災グッズや備蓄食料の状態チェックを忘れないための方法
――なるほど、それでいくと私は「食」派かもしれません。自分が被災したらどうなるかを考えて、必要な防災グッズをセレクトし直してみなければいけませんね……。さらに必要なアイテムを集めてからやるべきことがあると聞きました。
はい。こうして防災リュックに詰めたグッズを、普段使いしてほしい。日常生活の中で防災リュックが特別にならないでほしいんです。防災グッズを集めるだけでは意味がない。自分が万が一の状況に陥った後、生きていくために絶対必要なものが入っているのが防災リュックです。それなのに何年ごとにしかチェックしない、使い方も分かっていない、自分の欲求にも合っていないとしたら……。
大抵は、備蓄食料は3年とか5年とか長期保存できるものがほとんどですね。ただ、長すぎて消費期限を忘れがちです。ライトやラジオの電池はどうでしょう? スイッチを入れて動作するでしょうか。漏電や放電しているかもしれません。モバイルバッテリーなどは小まめに充電しないと、突然必要になった時に使えない場合、本当に困ります。
私は日常生活で困ったら、防災リュックから出して使うようにしています。ちょっと指を切ったら、リュックの中から絆創膏を出す。食事をレトルトで済まそうという時には、リュックからカレーを出す。リュックの中の在庫の定数が減ったら補充します。防災リュックは私の“ファーストエイド”なんです。
毎日触って毎日使うと不足も分かるし、在庫を入れ替えるから常にフレッシュな状態を保っています。防災リュックは私を絶対助けてくれるっていう安心感そのもの。これがあるから生きていける、と言っても過言ではありません。使ったことがないグッズや、知らない味の食料が入っている防災セットが役に立つとは思えません。
私は災害用トイレとして、ペット用のシーツとコンビニ袋とゴミ袋を複数セットにして小さなポーチに入れ、マルチツールといっしょに、どこへ行くにも必ず携帯しています。外出時に被災して、電気や水道が止まれば外でトイレが必要になると想像できるからです。
実は最近役に立ったんですよ。このポーチをゴミ出しに行く時にも持ち歩いているんですが、ある日のゴミ出しの帰り、マンションのエレベーターに乗っていると突然停止してしまって……。小さい子どもとそのお母さんも一緒に閉じ込められ、そこからなんと3時間も出られなかったんです。出られない緊張でお子さんがトイレにいきたくなってしまって、「ママ、トイレ……!」と。そこで「使って」とこのセットをサッと渡しました。お母さんには驚かれつつ喜ばれましたね。災害時もきっと同じようなことがあるでしょう。尿意は恐怖による緊張で、普段よりもよおすと言われています。
家の防災強化で生活が爆上がりする理由
――実際私も備蓄食料を期限切れにした経験があり……。初めて使うもの入っていますし、できる限りやってみようと思いました。次に自宅の備えについてもお話しいただけますでしょうか。
防災アイテムを常に触ったり普段から使ったりすると生活、QOL(クオリティオブライフ)が爆上がりします。だからやってみてほしいですね。自宅の備えは、まず自分がどのように被災するのかを調べておく必要があります。
家で普段いる場所を、360度見回してください。上、目の高さ、下を3回見て周りの危険を確認します。地震の時、ものは4つの動きをします。「倒れる」「落ちる」「移動する」「飛ぶ」です。これらの動きをしそうなものは、必ずあなたを傷つけます。つっかえ棒やすべり止めシート、地震耐震板などを組み合わせてものが動かないように備える。全部しっかりしたものを買ってお金をかけるのが必要なわけではなく、100均などのプチプラのものなどを織り交ぜながら、備えていきます。
【YouTube】プチプラ防災LABOちゃんねる【災害レスキューナースのテク】震度6以上の地震が家の中は起きたらどうなるの?
自宅でどういう被災をするのか、被災後の生活を詳しく知るために、私が秀逸だと思うWebサイトをご紹介します。「地震10秒診断」は地震にあう確率はもちろん、ライフラインの復旧までにかかる時間の目安が分かります。もうひとつは「東京備蓄ナビ」。こちらは建物別と、自分の属性と、一緒に住んでいる家族の属性に合わせた最低限の食料などの備蓄を示してくれます。これらで分かるのは最低限の目安。これはあなたの好みに合わせた備蓄ではありません。このリストを元に、自分の欲求とともに、備蓄するアイテムの量を考えようということ。
危険を知る、被災時の動きを決める。その上でいわゆる家具の固定や、棚の中身が飛びださないための備えを考えます。ちなみに皆さん食器棚はどうなっていますか? 意外と上部に重たいものを置いていませんか? たまにしか使わないホットプレートや土鍋、引き出物でいただいた大皿、そして来客用のティーセットや、おそろいのきれいな食器などなど……。対策せずにそれらが棚の上部にあったら、いざというとき頭の上に降ってくることをイメージしてみてください。
レスキューナースが教える プチプラ防災』より、2018年、震度6弱を記録した大阪北部地震後のようす。上が対策なしの隣家のキッチン、下が対策していた辻さんの家のキッチン。
手が届きにくい上のほうに置くのは、使わないからです。コロナ禍で踏ん切りがついて、私は上に置くようなら捨てようとある時思いました。今のご時世で自宅に気がねなく呼べる人って、バラバラのマグカップでも楽しくお茶できる人じゃないかって。ティーセットを使うようなお客さまは、コロナ禍で一切来なくなりました。というか、よくよく考えるとその前もそんなに使うことはなかったかもしれないと。だからしまっておくお客さん用のいい食器をなくす……というか、普段使いすることにしました。
そうしたら、生活が爆上がりしました。普通の食事でも目玉焼きがお洒落に、映えるようになりました(笑)。まさに防災を取り入れたら、気分と日常の質が高まったんです。
防災を極めると味気ない生活になるなんてことはありません。まず日々の生活を楽しみましょう。いざという時にも、防災によって楽しかった日常にすぐ戻ろうとふんばれるんじゃないでしょうか。
もちろん電気は命綱、マルチなアイテムで備えは万全に
――各地で日々、地震が起きていて、場合によっては停電などもあります。電気にかかわる部分でのお話も伺えますか。
電気がなかったらどんな生活になるのか、実際に被災しないと分からないのが実情です。たとえばマンションは水を電気で組み上げています。つまり停電したら水を飲めないし料理ができないのは当然で、トイレもお風呂も無理なんです。エレベーターは動かなければ階段を使わざるをえない。買い物した荷物を持って上がってみないと大変さは分かりません。被災後の片づけも部屋の中で何かあれば、ゴミなどを抱えて階段を降りるわけです。危ないですよ。被災後に電気が止まるとこれだけの困難が降りかかります、しかし多くの人の頭の中で停電とイコールにはなってないのです。
また停電自体イメージが湧かないかもしれない。ということで、先日実験をやりました。そうしたら参加者さんは、真っ暗にしてから懐中電灯を探してスイッチを押すまでに10分かかったんです。まず見えない、転んで危ない、ぶつかってものが落ちて足元はグチャグチャになる。そして先ほど言ったように、触って使ったことがないから、懐中電灯のスイッチは押すのかスライドさせるかも分からない。
だから触って使っておく必要があります。もちろん電池の状態の確認も必要。停電になってから液漏れに気づくのでは遅い。いざ停電で明かりが使えないのは、それこそ命にかかわります。
私は普段からソーラーモバイルバッテリーを使ってスマートフォンを充電しています。バッテリーが満タンなら、何パーセント充電できるか、どのくらいの時間がかかるのか、知っておきたいからです。私の防災用のラジオはソーラー充電も可能で、モバイルバッテリーとしても使えるスグレモノ。これを朝から窓際に出して、充電しておくのが日課です。また懐中電灯もモバイルバッテリー機能が付いていて、ランタンとして置いても使えます。こういった1台3役のような、マルチに使えるアイテムは重要。防災リュックのスペースを減らしてくれますし、自宅でものを増やしすぎずに済むのもポイントです。
【YouTube】プチプラ防災LABOちゃんねる【災害レスキューナースのテク】【備蓄】ライフラインが切れた時ホントに欲しいモノは?
被災は自分事。その時は必ず決断を迫られると肝に命じておいて
――最後に読者の方へ、防災に関してメッセージをいただけますか。
まず誰でも被災者になりうるということ。私はレスキューナースとして、発災後48時間以内に現場へ行きますが、その時に皆さんが「準備しておけばよかった」「実感がないのに被災者認定されてびっくりした」と話すのをたくさん聞きました。そして被災後に必要とされるのは、決断する勇気です。行くのかとどまるのか。使うのか使わないのか。被災された方はこうも言います。「災害時ってこんなに決断を強いられるのか」と。次から次へ決めていかないと、前へ進まない。誰も決めてくれません。大変ななか、自分で決めないといけない。
じゃあ決める勇気を持つためにはどうしたらいいのか?それは、怖くなくなるまで準備をすることです。迷うのは怖いからで、恐怖を感じるのは準備が足りないということ。ただ、防災グッズを買ってきただけだと決断する勇気は持てないはず。だって使い方を知らないから、漠然とした不安感がある。だから実際に使ってほしい。
防災はわざわざしようとすると面倒かもしれない。ただ極めていくと日常生活が爆上がりします。日常生活を楽しくするために、防災も楽しくやってみてくださいね。
辻 直美(つじ・なおみ)
国際災害レスキューナース、まぁるい抱っこマイスター、一般社団法人育母塾 代表理事。
国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。2022年(令和4年)4月で、看護師歴31年、災害レスキューナース歴27年。被災地派遣は国内29件、海外2件。
著書『どんなに泣いている子でも 3秒で泣き止み3分で寝る まぁるい抱っこ』(講談社)、『レスキューナースが教える プチプラ防災』(扶桑社)、『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(扶桑社)、『防災クエスト』(著者:辻直美/絵:エイイチ/小学館)『保存版 防災ハンドメイド 100均グッズで作れちゃう!』(KADOKAWA)がある。
【WEBページ】https://ikubojuku.org/profile/
※辻直美の「辻」は「二点しんにょう」
取材・文=古林恭
★さらに災害の非常用電源としても役立つ電気自動車や災害時お役立ち情報について知りたい方はこちら!
『災害時には電動車が命綱に!?xEVの非常用電源としての活用法』(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)
「節電」「省エネ」に関心が高まる昨今。“地球環境のためにいいもの”“家計にも優しい”一方で、“個人でできることは限られていそう”なんてイメージを持っている人も多いかもしれません。とはいえ、現在の世界情勢からこの夏、エネルギー不足が懸念されているニュースを見て、少しドキッとした方もいるのではないでしょうか。先行きへの不安はどうしようもないけれど、せめて自分の足元では「節電」に心がけるなど、ちょっとだけでも地球の未来に貢献していきたい。そんな気持ちを具体的な一歩につなげるにはどうしたらいいでしょうか。そのヒントを求めて、『おいしい節電レシピ』(東洋経済新報社)の著書でもある日本料理界の重鎮・「分とく山」の野﨑洋光料理長に「節電レシピ、実践のコツ」をうかがいました。
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「分とく山」総料理長・野﨑洋光さん
スーパーは自宅の冷蔵庫!発想を転換して節約を楽しむ
――本日はどうぞ、よろしくお願いいたします。早速ですが、節電レシピについておうかがいできればと思います。『おいしい節電レシピ』は東日本大震災のあった2011年夏の出版でした。あの夏も節電が話題でしたね。
実は「節電レシピ」本の企画の話をもらったばかりのときは、ちょっとむっとしたんですよ。「こんな時期に商売なのか!?」って。そしたら編集者さんから「今年は夏に電気が使えなくなる可能性があるからやりたい」と説明されて、たしかにそれは大変だ、それじゃ、とやってみることにしたんです。とはいえなかなか発想がうかばなくてね。電気を使わないと考えると、夏場は食材を10%で塩蔵(10〜15%以上の濃度の塩で漬け、長期保存する貯蔵法)しなければならないし、缶詰を使うといってもなかなか……。そんな中であることに気がついたんです。「そうだ! スーパーがあるじゃないか」と。今は物流環境が整っていますから、スーパーを家の冷蔵庫代わりにして鮮度のいいものを買ってくればいいわけですよ。
サバの水煮缶を使った胡瓜と心太の酢の物
たとえばみなさんは、イワシやサバを煮る時に臭み抜きに生姜をいれますよね。でも今は冷蔵技術の向上や物流環境がよくなって、スーパーでは鮮度の悪い「臭いイワシ」なんて売っていません。それは50年前の話で、いってみればサバの味噌煮のレシピなんて100年前のものなわけですよ。そこまで仕事しなくても十分おいしい素材なのに、調理をしすぎてしまう。ホウレンソウだって茹でて粗熱とって生ぬるいうちに醤油をかければ絶品ですよ。お刺身だってそのまま出せるのに、鮮度のいい魚をワザワザつみれにするとか、どうも余計な仕事をしすぎているのかもしれない、と。今はそのままで美味しくいただけるすごい時代なんだと考えたら、実は節電はとても簡単です。
――まず「発想の転換」が大事なんですね。
そうです。もし省エネのためにあまり加熱時間を使いたくないと思うなら、たとえば調味料はみりんや酒はアルコールをとばさなきゃ美味しくないので、みりんの代わりに砂糖を使えばいい。あるいは煮込まなければいい。作ったものを冷蔵庫にいれずにその場で食べればいいし、そもそも食べられる分だけ買ってくればいいとか、いろいろ発想できるでしょう。だから考え方は普段の料理とあまり変わらないんです。
大事なのは「作るとき、楽しみながらやる」ことですね。“簡単に作ること”の美味しさを楽しむっていうのかな。たとえば卵かけご飯だって、全部入れると温度が下がって美味しくないから、黄身だけにしてみる。あつあつのご飯に黄身だけ入れたら半熟で火が通って美味しいですよ。僕は目玉焼きが好きなんですが、白身がしっとりして黄身が半分くらい固まる感じになったらご飯の上にのせて箸で刺します。そうすると黄身が広がって、そこに醤油たらしてネギやわさびを添えたらほんとに美味しくて、50円くらいで大満足です。ほかにも得意料理に「塩トマトご飯」がありますけど、トマトを切ってしょうがをみじんぎりにして塩だけまぶしてごはんの上にかけるだけで絶品ですよ。行儀悪いって言われるかもしれないけど、楽しめばいいんです。なにもプロのように、お店のようにしなくたっていい。作ってすぐ食べられる、試しながら食べられるとか、家庭には家庭の楽しみがあるんです。
機転をきかせて使い回す、素材のうまみを利用する
――たしかに手抜きやずぼらな感じを少し敬遠したり、「料理していない」と思われたくなくて、しっかりした「料理」と思うものをしていたり、わざわざ複雑にしていた、という面は心当たりがあるかもしれません。
じゃがいもだって塩胡椒だけでおいしいじゃないですか。ただ冷蔵庫に入れるとまずくなっちゃいます。ポテトサラダだって作りたてが一番おいしい。だったら冷蔵庫なんて使わないで、すぐに食べちゃえばいいんです。
あとはちょっと機転をきかせて使い回すことも大事です。缶詰の汁だって出汁にできるし、お湯だって使いまわせます。菜っ葉をゆでたり、肉を霜降りしたお湯でそのまま味噌汁を作ればいい。農薬のことで捨てたほうがいいときもありますが、基本は灰汁だけとれば旨味はそこに出ているので使えますよね。ただし青物を長く茹でてしまうと酸が出てしまいますから、ちょっと茹でたくらいにしておいてくださいね。食材のうまみを生かして省エネにすることが、今どきで進歩的なんじゃないかな。
牛肉の大和煮缶を使ったハヤシライス
――節電だけでなく、「もったいない」も減らせそうですね。
僕は煮魚は生のうちに塩で味をつけてから、醤油と水で冷たいうちから煮て沸騰したらもう加熱を止めてしまいます。煮汁はそのままそばつゆにもなります。魚から出汁がでるからそれでいいし、むしろ煮るとまずくなってしまうんです。ベーコンやソーセージからも出汁がでるし、素材自体がうまみを持ってるんだからそれを利用すればいい。おでんも煮ませんよ。練り製品は完成したものですし、大根や里芋は煮ますけど薄く切れば短時間ですみますよね。あと、トマトジュースも出汁になるって知ってましたか? ただし100%だと濃すぎるので、トマトジュース1杯に対して水を2杯いれてください。味は濃すぎるとうまみがでないって覚えておくと便利です。豆乳や牛乳も薄めると出汁になりますよ。味噌や醤油だって、ほとんどの人はただ塩気で味をつけるものだと思ってますが、大豆から作られているので、それ自体がうまみも含んでいるんです。だからごはんに直接醤油でもいいし、味噌のっけたってかまわない。シンプルなものでも、それこそがプロにはない家庭のおいしさだってことに気がついて、楽しんでほしいですね。
削るのではなく、代用することを考える。節電レシピは「生きる知恵」
――野﨑さんは節電レシピで、鍋でごはんを炊くことも推奨していらっしゃいますね。
いざというときのために、方法を覚えておくと、いろいろ応用が利きます。1回や2回失敗するかもしれませんが、慣れたら鍋で炊けるようになります。どんな鍋でもいいし、そんなに難しくないからやってみてほしいですね。鍋でごはんを炊くとおこげができますが、それはおじやにすればいいですし、フライパンだったらおこげ面が広くできますから、そのまま野菜とチーズ、ソースをかけたらピサだってできますよ。基本の「100度の温度で20分たたないとコメからごはんに変身できない」というのを覚えておけば、ビニール袋でだってお米は炊くことができます。ビニール袋で炊く方法は本でも紹介していますが、震災なんかのときは便利ですよね。皿がなくても一人分の分量にわけられるし、ポットの中に入れておいても炊けちゃいます。
とはいえ、実は僕、数年前に1万円しないくらいの安い炊飯器を買ったんですよ。なぜかというと、炊飯器の蓋に付いているカップみたいなものでご飯と一緒におかずを作れるからなんですが、これが便利で。さっきから節電、節電といってますが、同時調理もそうですよね。便利なものは使ったらいいんです。ただ、ジャーの中にごはんを入れたままにしておくと30分たったら風味が失われてしまうので、炊けたらすぐにあけるのは忘れないでくださいね。そして小分けにして冷凍、食べる時にチンする。これで十分、おいしいんです。
――電気も使い方次第なんですね。
そうです。瞬間的に作るならロスしないとか利点はたくさんありますよ。フードプロセッサーを使えば洗い物だって減りますし、便利なものは上手に利用すればいいんです。IHで揚げ物すると油が散らないからガスより片付けがラクですし、温度設定もできて失敗が少ないからロスも少なくて便利。しかもガスより火力が強くて、あっという間に沸騰しますしね。
――ストイックに考えすぎるより、柔軟に楽しむほうがよさそうですね。
「真剣に考える、だけどポジティブに楽しむ」のが節電だと思います。そうそう、昔の人はごはんを食べたらお茶碗にお茶を入れていたのを知ってますか? 水を使うと環境を汚すから、お茶でそそげば洗剤も使わないというすごい知恵で。だんだん、そんなみっともないことやめろってなりましたけど、今、世界がもう一度そういうのを見直し始めていますよね。今までは美味しさばかりに注目して自由にやってきたけれど、これからの世の中はもう一回考えていかなきゃいけない。昔は地味に生活することは美徳だったんですよ。今はそういうのを恥ずかしいと思ってる人がいるかもしれませんが、まさに「食足りて礼節を欠く」ですよね。
でもこれからは「節電」が大事になって変わっていくんじゃないかな。それは、単に我慢しなければいけないとか、貧しくあらねばいけないということではなく、豊かさへの入り口として。自分たちを戒めるというか、自分の足元を見直して、削るんじゃなくて代役することを考える。節電レシピというのは、そういう生きる知恵みたいなものなんだと思います。
野﨑 洋光(のざき ひろみつ)
分とく山 総料理長
1953年 福島県石川郡古殿町生まれ。
学校法人石川高等学校卒業後、武蔵野栄養専門学校卒業。東京グランドホテル、八芳園を経て「とく山」の料理長に。
1989年「分とく山」開店。総料理長となる。
日本料理界に新風を吹き込み、伝統的でありながら独創的な料理を提案し続ける。
取材・文=荒井理恵 撮影=奥西惇二
★さらに節電や省エネについて知りたい方はこちら!
【今月の密着人】九州電力株式会社 福岡支店 企画・総務部 通信ソリューショングループ 下川光志郎(34歳)
九州電力が2021年冬、地域の小学生に向けた「ドローン操縦プログラミング体験授業」を初めて開講しました。ドローンを使った授業で、子どもたちにどんなことを伝えたのでしょうか。同教室で“先生”を担当した九州電力 下川光志郞さんに、仕事への想いや授業で得た気づきを聞きました。
電力会社社員が小学校でドローン先生に?
遠隔操作で自由に空を飛び、動画撮影や荷物を運ぶなどさまざまなシーンで活躍するドローン。電力業界では、電線や鉄塔など高所にある設備を点検する際に、近年ではドローンが幅広く利用されています。
今回の主人公、下川光志郞さんの所属チームが運営する「九電ドローンサービス」は、そんなドローンを使って測量や空中撮影を行う九州電力の新規事業の一つです。
下川さん「電力設備の保守・点検のために利用してきたドローンのノウハウを、社外向けのソリューションサービスとして地域に還元する。それが九電ドローンサービス発足のきっかけです。施設などのPR用に空中から動画を撮影したり、広大な敷地を測量したり、さらには農薬の散布などドローンを使ったさまざまなことを手掛けています」
ある日、九電ドローンサービスにいつもとはちょっと違う依頼が舞い込んできました。依頼主は、福岡県朝倉市のあさくら観光協会。
下川さん「企業が持つノウハウやスキルを地域の学生に還元していく取り組みの中で、『小学生に向けた体験授業をやってほしい』というものでした。私たちが普段の仕事で培った技術が、地域の子どもたちのためになるのならとうれしくなりましたね。何をしようか考えた末、『ドローンの自動操縦』をする授業にしたんです」
「給食の時間までやりたい!」ドローン教室、大成功
「ドローン操縦プログラミング体験授業」が開催されたのは2021年12月14日。舞台となる朝倉市立秋月小学校の体育館に、6年生30名が集まりました。
授業の内容は、あらかじめ動きをプログラミングしたドローンを、スタート地点から空中に設置された2つのフープをくぐらせ、ゴール地点に着陸させるというもの。シンプルですが、これがけっこう難しいそうです。
下川さん「まずはコースをメジャーで計測してもらって、移動させたい長さや高さを決めたら、タブレット端末のドローン操縦アプリの中でプログラミングをしていくんです。『何メートル直進した後、右に何センチ移動する』といった具合にパズルを組み立てるようになっていて、計測とプログラミングが正しくできていないとドローンはまったく違う方向へ飛んでいってしまうんですよ」
残念ながら本番ではゴールまでたどり着いたチームはありませんでしたが、調整を繰り返して挑戦したチームのドローンがフープを1つくぐれた瞬間、体育館に歓声が響き渡りました。
下川さん「授業は本当に大好評で手応えを感じました。『給食の時間までやりたい!』と子どもたちが言ってくれて、予定時間を延長したほどです。計測やプログラミングなどの作業に集中しながら、『楽しいな』と一人でつぶやいていた子が、とても印象に残っています」
体験授業を依頼したあさくら観光協会の事務局長・里川径一(さとがわ・みちひと)さんは、「小学校のプログラミング授業では、シミュレーションはできても、実際にリアルな体験までさせるのはなかなか難しいようです。今回の取り組みは、たくさんの先生方から関心を集めています」と、ドローン教室の成功に大満足。今後の広がりにも期待を寄せています。
下川さん「ドローン教室も、私たちのノウハウを地域に還元する方法の一つだと思っています。子どもたちの将来に何か少しでも役に立ったらいいですね。今後も機会があれば、ぜひ続けていきたいです」
ドローン操縦&測量のノウハウで地域の人に喜んでほしい
ドローンを使った空中撮影から動画編集までを手掛ける下川さんは、2019年の九電ドローンサービス発足当初、自ら志願してこの仕事に携わることになりました。
下川さん「昔からカメラや音響機材などの機械が好きで、大人になってからは風景の写真や動画を趣味で撮影していました。その経験が生きると思いましたし、何より好きなことが仕事にできる。さらに、地域にも貢献できるなんて、とても素晴らしいと思ったんです」
ドローンは単に映像を撮影するだけでなく、地形などを精緻に測量することもできます。ある仕事では、その地域にとって重要な歴史をひも解くきっかけとなったことも。
下川さん「過去に私の上長が担当した測量で、福岡県最西端にある小呂島(おろのしま)で日本最古の前方後円墳の可能性がある古墳を見つけたことがあったんです。さらに、佐賀県の名護屋城で昔の武将が歩いていた道かもしれないくぼみを発見することも。すごいですよね。ドローンで測量すれば、新しい発見ができます。これもまた、地域の方々への還元になるはずです」
将来は測量の仕事にも携われるよう、測量士補という国家資格の取得を目指して猛勉強中。もともと機械好きなこともありますが、下川さんの大きなモチベーションとなっているのが作った映像を届ける相手の存在です。
下川さん「仕事をしていて一番うれしいこと、それは完成した動画を見たお客様が喜んでくれた瞬間です。ドローン教室は、プログラミングで実際に動くことを体験してもらい、子どもたちの学びや発見になればと考えましたが、本当に楽しそうな姿を見ていたら、なんだか私の方がもらったものが多かったかもしれません。今後は、ますますお客様に喜んでいただけるよう、撮影や動画編集、測量に至るまで、さらに自分のスキルを磨いていきます。そして、ドローンで解決できることもそうでないことも、地域の皆さんの困りごとなら、何でも解決できるようになりたいです」
■あさくら観光協会
https://amagiasakura.net/
■九電ドローンサービス
https://www.kyuden-drone.jp/
■九州電力
https://www.kyuden.co.jp/
<貢献する主なSDGsの目標>
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の発展のため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしているのをご存じでしょうか。2021年9月、岐阜・下呂温泉でIT化を進めるプロジェクトの発表がありました。これに協力しているのが中部電力ミライズです。温泉街をどうやってデジタル化するの? と思いますが、実はこれからの温泉旅行をもっと面白くしてくれそうなんです!
花火にスイーツ、ジビエまで。どんどん面白くなる下呂温泉
ひと浴びすれば、ツルツルに! お肌に優しく、恋にまで効く(?)といわれる日本三大名泉の一つ「下呂温泉」。
飛騨川のせせらぎを聞きながら温泉につかり、夜は飛騨牛をジュワーっと。温泉とおいしいごはんで、日頃の疲れはどこへやら。
旅行会社など旅のプロが選ぶ「にっぽんの温泉100選(2021年)」で2位に選ばれるなど、古くから愛されてきた人気スポットです。
街の玄関口となるのはJR下呂駅。駅から降りると、山里と温泉街が調和した情緒あふれる風景が広がる
この数年で、実は下呂温泉がいろいろと変わっているのをご存じでしょうか。
温泉街の各所にできた「食べ歩きスイーツ店」、冬場の毎週末に打ち上げられる「プチ花火大会」、町全体でスタンプラリーができる「ナビアプリ」など、とにかく訪れた観光客を楽しませようと、毎年毎年新しいことを始めてきました。
プリンやパフェなど、温泉街で19種類の食べ歩きスイーツが楽しめる 提供:一般社団法人 下呂温泉観光協会
秋から冬にかけて、毎週土曜に花火大会を開催(※画像はイメージ) 提供:一般社団法人 下呂温泉観光協会
さらに2020年には、下呂市をはじめとした近隣エリアから、観光資源になりそうな“宝物”をぜーんぶ集めて、面白くてエコな自然体験を発掘。
そうした体験スポットをまとめた観光サイトも、2022年3月にオープンしたばかりです。
下呂市と周辺の体験メニューを網羅した新しい観光サイト 提供:一般社団法人 下呂温泉観光協会
2022年からは、シカ肉やイノシシ肉といった「ジビエ」も取り入れていくのだとか。
高たんぱく&低脂質なジビエとお肌をツルツルにする温泉が一緒に楽しめるとなれば、さらに女性に優しい温泉地になりそうです。
ジビエを観光メニューにしていこうと計画中(※画像はイメージ)
そんな日本を代表する温泉地が今、なぜかめちゃくちゃ「デジタル化」に本気になっています。
温泉街がデジタル化すると面白いワケ
「デジタル化ってWEBサイトとかアプリのこと?」と思ったら大間違い。下呂温泉の本気度は、そんなものではありません。主役は、スマートフォンでよく聞くあの「5G」。
簡単にいうと、「5G」は通信規格の最新版で、大容量データでもスピーディにやり取りできるというもの。重たい映像でスマホが固まる、なんてことは起きなくなります。
今回のプロジェクトは、この5Gを街中に広げ、オンラインでいろいろとできるようにしようというものです。
5Gで山間部にある温泉街が高速通信でつながるように
まず、2022年にスタートを予定しているのが「VR観光体験」です。
VR(バーチャルリアリティー。仮想空間)の中に、下呂市内各地の風景を作り、四季折々の風情やお祭りが疑似体験できるように。
例えば春に旅行したら、普通は夏秋冬にしか見れないものは観光できないですよね?
でもVRの中なら、夏祭りや雪景色などを仮想空間の中で体験できるようになるんです。
VR観光体験ができるようになる観光交流センター「湯めぐり館」は2022年4月1日にオープンしたばかり 提供:一般社団法人 下呂温泉観光協会
下呂温泉に5Gが広がると、もっとすごいことも。
温泉旅館やホテルでよく見る「ゲームセンター」。子どもの頃に楽しみにしていた人も多いはずです。
今はスマートフォンでゲームもやる子どもが増え、人気に陰りが…とも言われていますが、ここに5Gを入れるとどうなるでしょうか。
例えば、「3D金魚すくい」みたいなゲームを作り、すべての旅館やホテルに設置すれば、リアルタイムでホテル対抗戦やランキングを出すなんてことができるようになります。
コロナ禍で全国的にお祭りを開催できない今、5Gと宿泊施設をうまく組み合わせると、温泉街を舞台にした「デジタル縁日」を生み出せるかもしれません。
まだアイデアレベルの話なので、実際に行われるかどうかはわかりませんが、最新技術を使っているのに、とっても昔ながらの温泉街っぽいですよね。
3カ所の温泉施設をめぐれる「湯名人 湯めぐり手形」(1300円)。これもデジタル手形になるかも?
街の各所にあるカエルのモチーフ。デジタル化したら、いろいろと活躍しそうです
最新テクノロジーが支える古きよき温泉街の魅力
下呂温泉をはじめ、市内・隣市町村まで一緒に盛り上げていこうとしているこのプロジェクト。当然、下呂温泉の力だけではできるものではありません。
2021年9月に下呂市と下呂温泉観光協会、NTTドコモ、そして中部電力の子会社である中部電力ミライズの4者で「下呂未来創造プロジェクト」の連携協定を結び、実現に向けて進めています。
新しい観光を生み出すことに加え、下呂市民の健康や安全を守るなど、観光客と住民の双方を見て、下呂市をサステナブルな地域にすることを目指しています。
コロナ禍の今、5G通信で自宅からオンライン旅行ができるようになるかも
中部電力ミライズの中川輝秋さんと竹志田憧太さんは、下呂未来創造プロジェクトにかける強い想いを教えてくれました。
「未来の下呂温泉を目指していますが、昔の下呂温泉のイメージがすごくあるんです。浴衣で歩いて、みんなで楽しんでいる姿。どんどん観光に求めることが変わりつつあっても、それでも温泉にはたくさんの人が集まってきます。観光客が笑顔になれば、地元の市民も笑顔になる。そんな下呂温泉を維持していきたいです」(中川さん)
中部電力ミライズの中川さん
「皆さまに電気を安定的にお届けすることをはじめ、こうした町づくりに参加できるのは、とてもうれしいです。中部電力は、ずっと地域と共に歩んできました。これからも下呂市の発展に役に立っていきたいです」(竹志田さん)
中部電力ミライズの竹志田さん
プロジェクトをリードする下呂温泉観光協会の会長・瀧 康洋さんは、「地域を盛り上げるために下呂温泉でずっと続けてきたこと。それをさらに広げ伸ばそうと、皆さんと力を合わせています。小さな商店が輝ける街に、そして街の個性を残していくために。地道にやっていきたいです」と、期待を込めています。
プロジェクト全体の中核を担う下呂温泉観光協会の瀧会長(中央)。先述の「にっぽんの温泉100選(2021年)」では、下呂温泉未来創造プロジェクトなどの取り組みが評価され「実行委員会特別賞」を受賞した
浴衣&下駄姿で食べ歩きをして、ちょっと疲れたら足湯でほっこり。旅行や観光の考え方が変わってきても、温泉街にある古きよき“映える”シーンは今も変わりません。
今の時代に合わせてそれをこれからも続けられるように、新しいテクノロジーで支えていく。観光地として盛り上がっていけば、将来的には住みたくなる人も出てくるかもしれません。
下呂温泉の魅力を通信と電力が支えると、これまでになかった旅行のカタチが生まれるかも
下呂温泉が目指しているのは、そんなサステナブルな温泉地です。
10年後、50年後も、今と変わらず私たちが“温泉さんぽ”を楽しめるように、下呂温泉のこれからに期待したいですね。
■DATA
下呂温泉観光協会
住所:岐阜県下呂市森922-6
TEL:0576-24-1000
休み:不定休(12月30日~1月2日は休み)
https://www.gero-spa.com/
中部電力ミライズ
https://miraiz.chuden.co.jp/
下呂未来創造プロジェクト
※2021年9月6日プレスリリース
https://miraiz.chuden.co.jp/info/press/1206836_1938.html
<貢献する主なSDGsの目標>
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
【今月の密着人】東北電力株式会社 発電カンパニー燃料部(LNG) 佐藤卓(36歳)
いつでも当たり前に使える電気。その裏側には、電力の安定供給のために日夜尽力する、たくさんの人々がいます。今回焦点を当てるのは、電気をつくるための燃料を調達するお仕事。電力ひっ迫や世界情勢の変化に大きく関わる火力発電所の燃料「液化天然ガス(以下、LNG)」の調達に奮闘する東北電力 佐藤卓さんの熱い想いをご紹介します。
「電気はあって当然」を根本で支えるお仕事
日本の電力は現在、約8割が化石燃料による火力発電で賄われています。その大半を占める燃料がLNG。日本の電力を安定して供給するために、とても重要なポジションを担っています。
しかし、日本で使用するLNGは海外からの輸入頼み。さらに、LNGは石油や石炭と違って長期間の保管に向かないことから、タイムリーに調整する必要もあります。
東北電力 燃料部の佐藤卓さんが主に担当するのは、発電計画や電力の需給バランス、LNGの在庫量などに応じて、海外からLNGを運ぶ船の受け入れスケジュールを管理する「配船業務」。
ものすごくわかりやすく言えば、LNGの「仕入れ」と「在庫管理」です。
佐藤さん「東北電力では年間で約400万トン、船の数にすると60隻程度のLNGを毎年購入しています。LNGは長期保存ができないので、いつ、どれだけ在庫を確保しておくかというスケジューリングが欠かせません。価格も変動するため、なるべく安いタイミングで購入するのが理想です。さまざまなことを勘案しながら、在庫が極端に少ない谷のような状況をいかになくしていくか。それが私の仕事です」
LNGがなぜ発電において重要なポジションを担っているのか。それは、燃料ごとに火力発電所の役割には違いがあるからです。
佐藤さん「例えば、低コストで安定して発電できる石炭を使った火力発電はベースロード電源といって、比較的、電力の需要に左右されず常に一定量の発電を行います。つまり、“支える”のが役目です。対してLNGの火力発電は、需要の波に合わせて発電量を細かく調節し、バランスを取るのが役目。電気の需要は毎日細かく変化するので、LNGがないと上手く電気を届けられなくなってしまうんです」
寒波で大ピンチ! 人知れず危機を救ったヒーロー!?
そんな配船業務の大変さは、天候不良をはじめとした自然相手のトラブルが多いことだそうです。
佐藤さん「台風が船の針路に重なって到着予定が大きくずれ込んだり、船が港の目の前まで来ても波や風が強くて接岸できなかったり。また、そもそもLNGの産出国側で天然ガスがなぜか出ない、なんていうこともあるんです。1隻が運ぶLNGの量は6〜7万トン。1回の影響は甚大です。何かトラブルがあると職場はかなりピリッとしますね」
昨年(2020年)の冬、配船業務担当になってまだ2カ月程度だった佐藤さんに、いきなりその大変さを思い知らされる出来事が起こります。
今年同様に日本が記録的な大寒波に見舞われたことで、需要側と供給側でさまざまな要素が重なり、全国的にLNGが想定以上に使われました。
このままいけば、日本全体で電気が足りなくなる可能性が出てきたんです。
佐藤さん「全国的にLNGが、想定を大きく超える在庫不足になったんです。私たち東北電力も当時はかなり大変でした。というのも、LNGはなくなったからといってすぐに調達できるものではありません。通常はスポット的に調達をする場合でも、契約交渉から始めて実際にLNGが受入基地に届くまでには1カ月半~2カ月程度はかかるのが当たり前。ところが、その時は1カ月を切るスピードで調達しなければならなくなったんです」
何とか船の手配はできたものの、そんなときに限って天気予報は大荒れ。一進一退の状況に、佐藤さんは歯がゆさや焦りを感じていたと言います。
佐藤さん「万が一この船に何かあれば、東北の電気が止まってしまうかもしれない。そうなれば最悪、人命にも関わることだってあると思ったんです。私も東北が地元ですから、冬の厳しさは身にしみています。このタイミングで電気が使えなくなってしまうことは、絶対にあってはならないんです」
佐藤さんを突き動かしたのは、とにかく1日でも早くLNGを日本に届けなければならないという使命感でした。
佐藤さん「商社などのサプライヤー各社、LNGの受入基地などとの調整を重ねた結果、本当に皆さんの協力があって、なんとか危機を乗り切ることができました。船が無事に入港して、タンクにLNGが流れ始めたと連絡を受けたときには、心から安心しましたね」
お客様の一番遠くて、一番近い存在に。
佐藤さんをはじめ、電力に関わる多くの人が力を合わせ、なんとか乗り越えられた昨年の冬。急な寒波到来による電力需要の急増が原因の一つで、実はこれ、とても身近な問題なんです。
佐藤さん「誰でも家でエアコンを使っていると思います。季節の始まりにピッとリモコンを押して一度使い始めると、翌日以降も気温に関係なくなんとなく使い始めますよね。実は『エアコンのスイッチをいつ押すか』というのが、電力需要の波を左右する大きな要素の一つなんです」
これは極端に言えば、自宅にあるエアコン一つでLNGを消費するスピードが早まるということ。佐藤さんの仕事は電気を使う家庭や職場と一番遠いところにあるように思えますが、実はとても密接に関わっているんです。
佐藤さん「もちろん、LNGの調達はほかにも天候や海外情勢、発電現場の状況など、さまざまな要因が複雑に絡んできます。例えば、日本は約1割のLNGをロシア産に依存していることから、昨今のロシアとウクライナの問題は決して遠い国の話ではありません。エネルギーは日本の安全保障そのもの。その重責を担う担当者としてもっと視野を広く持ち、常に最新の情報をキャッチできるように尽力していきたいと思っています」
そして何より佐藤さんが忘れてはならないというのが、お客様目線です。
佐藤さん「私の仕事は、お客様との距離がどうしても遠くなります。だからこそ、今取り組んでいる仕事が本当に地域のために、お客様のためになっているのだろうかということを、常に意識しなければなりません。例えば、お客様に電気をより経済的にお使いいただくために、1円でも安くLNGを調達することなど、出来ることはたくさんあるはず。電力の安定供給を支えることはもちろん、さらに一歩、二歩とお客様に歩み寄れる仕事をしていきたいですね」
米国キャメロンLNGプロジェクトからの天然ガス調達船『Diamond Gas Sakura』
■東北電力-火力発電所
https://www.tohoku-epco.co.jp/power_plant/thermal.html
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の発展や、コロナ禍など環境変化に柔軟に対応するため、ほかにもさまざまな活動をしているのをご存知でしょうか。2021年8月、福岡県・福岡市にオープンした「eスポーツ チャレンジャーズパーク」。大会も開けるスタジアムまで備えたこの施設をバックアップするのが九州電力です。なぜ電力会社がゲーム? 西日本最大級のeスポーツ総合施設の魅力と共に、その背景をお届けします。
eスポーツの魅力を世界に発信!
全世界の競技人口が1億人以上と言われ、五輪大会正式種目への採用が検討されるほど盛り上がっているeスポーツ。
日本でも急速に人気が高まっていて、「中学生男子が将来なりたい職業」(2021年7月 ソニー生命調べ)では、プロeスポーツプレーヤーがYouTuberに次ぐ2位にランクインしているほど。
そんな時代だからこそ、昔ながらの“ゲーセン”ではない、まったく新しいeスポーツ施設が生まれています。その一つが、九州最大の繁華街・天神にオープンした「eスポーツ チャレンジャーズパーク(以下、チャレパ)」です。
天神南駅から徒歩3分、天神駅からは徒歩10分の天神ロフトビル8Fにある
チャレパには、博多の街を見下ろす開放的なフロアに、スタジアムやカフェ、ショップなど7つのエリアがあります。
メインとなるのが、5対5のeスポーツ対戦ができる円形のスタジアム。200インチの大スクリーンを中心に最大20名の観客が収容でき、ここから全世界に生配信することもできます。
どの席に座っても観戦しやすい円形のスタジアム
大会やイベントも頻繁に開催され、日本国内プロeスポーツリーグのパブリックビューイングなども行われています。
さらに、チャレパはプロeスポーツチーム「Sengoku Gaming」のホームスタジアムでもあります。2021年にシンガポールで行われた賞金総額50万ドルの国際大会「Wild Rift Horizon Cup」では5位タイになったこともある日本屈指の実力派チームです。
練習などでプロ選手が実際に訪れるスポットなので、ファンはもちろんプロを目指す小中学生にも夢を与える大切な場にもなっているんですよ。
施設内のショップでは「Sengoku Gaming」公式グッズも
超高速Wi-Fi&スイーツで人気テレワークスポットにも
誰でも気軽にeスポーツを楽しめる「プレイエリア」は、フロアの最奥にあります。
清潔感のある空間に20台の高性能ゲーミングPC。そこで20以上のゲームを快適にプレイすることができます。
ヘッドホンやマウスももちろんゲーミング仕様
特筆すべきは、超高速なインターネット環境。
チャレパを運営する九州電力グループの通信事業会社「QTnet(キューティーネット)」の光回線が使われていて、最大10Gbps対応の専用回線が整備されています。
これ、実は金融機関やデータセンターで使われているものと同じ。つまり安定的で超高速な通信環境が、チャレパの大きな強みとなっています。
全席どこに座っても最高の環境でプレイできる
魅力はゲームだけではありません。
スタジアムの隣にあるカフェは、昼は大きな窓から気持ちのいい陽が差し込み、夜は天神の夜景を見下ろす絶好のロケーション。
カフェのカウンターは、まるで海外のホテルのよう
おいしいフード&スイーツと一緒に、世界的に人気の高いニュージーランド発のコーヒーロースター「コーヒースプリーム」のスペシャルティコーヒーを飲んで、ゆったり一息。
ちなみに、ゲームで使われる超高速通信回線に加えて、カフェスペースでもWi-Fi利用が可能です。知る人ぞ知るテレワークスポットとしても密かに人気なのだとか。
「コーヒーと栗のモンブラン」(490円)は女性に人気
一番人気の甘辛い牛肉を挟んだ「SENGOKU DOG」(660円)
さらに、動画配信機材を完備した「配信ブース」もあり、カップル向けの時間貸しサービスもスタートしました。
2人でゲームを楽しんだら、カフェでひと休み。そんなデートスポットとしても、福岡のゲーム好きカップルに好評とのことです。
照明やマイクなどがあり、ゲーム実況配信も手ぶらでOK
ゲームを楽しむ子どもからシニアまでを九州電力が全力サポート
eスポーツの魅力を発信するチャレパ。
そのストーリーは、2019年に「QTnet」が「Sengoku Gaming」をバックアップするところから始まり、現在では施設運営などの取り組みを九州電力が広くサポートしています。
そこに掛ける熱い想いを、施設運営に関わる3人のキーパーソンに伺いました。
左から株式会社QTnet 経営戦略本部 稲葉太郎さん、「Sengoku Gaming」を運営する株式会社戦国 代表取締役 西田 圭さん、九州電力株式会社 テクニカルソリューション統括本部 野田純一さん
「通信事業にとって、eスポーツはとても親和性が高いスポーツです。eスポーツをリアルスポーツへ近づけ、福岡から世界に通じる文化を発信していく。そのためには、選手とファンの距離を縮めるリアルな場所が必要だと考え、チャレパを作ることになりました」(QTnet 稲葉さん)
もともとはコアなeスポーツファンに向けた施設であったものの、実際にオープンしてみると予想外の客層にビックリ。
ホームスタジアムを持つ国内チームはほとんどなく、選手たちのモチベーション向上に大きく影響。関東や東北から移住した選手もいるとか
「4分の1のお客さまがファミリー層なんです。今のゲームのことはわからないけど、チャレパで一緒にプレイすることで『子どもへの理解が深まった』というお声をよくいただきます。これをきっかけに、親子体験会をはじめ、ゲーム依存を不安に思う保護者に向けたワークショップなど、教育面での試みもたくさん行っています」(戦国 西田さん)
ほかにも、認知症予防の研究を兼ねた「シニア体験会」や、ホテルニューオータニ博多とコラボした「ゲーミング客室」などを開催し、あらゆる面でeスポーツの可能性を探っています。
「九州はアジアの玄関口。天神がeスポーツの聖地になれば、観光面でも面白くなります!」と熱く語る3人
「eスポーツによって福岡をさらに魅力的な街にできたら、地域に根ざす九州電力としてこれほどうれしいことはありません。チャレパがあることで、地域の子どもたちが元気になる。そしていつか、ここから世界に羽ばたくトッププレーヤーが生まれたらなんて。本当にワクワクします。eスポーツを支えるのは電気や通信環境。電力会社として、こうした新しい時代の取り組みをグループ会社と連携しながら支えていければ」(九州電力 野田さん)
地域の会社が力を合わせ、新しい文化と共に子どもたちの夢も応援する。チャレパに訪れれば、eスポーツの印象はまったく変わります。福岡がゲームの聖地と呼ばれるのも、そう遠い日ではないかもしれませんね。
■DATA
esports CHALLENGER’S PARK
(eスポーツ チャレンジャーズパーク)
住所:福岡県福岡市中央区渡辺通4-9-25 天神ロフトビル8F
営業時間:11:00~22:00(最終入店21:00)
休み:不定休(12月30日~1月2日は休み)
https://challepa.jp/
QTnet
https://www.qtnet.co.jp/
九州電力
https://www.kyuden.co.jp/
電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
<貢献する主なSDGsの目標>
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の役に立つため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしているのをご存じでしょうか。
2020年7月に、アイヌ文化が体感できる「ウポポイ(民族共生象徴空間)」が北海道・白老町(しらおいちょう)にオープンしました。これを地域と共に盛り上げてきたのが北海道電力です。ウポポイではどんなことが楽しめるのか、さらにオープンまでの舞台裏にも迫りました。
北海道・白老町にできた「ウポポイ」って何?
地場産の「白老牛」や地域ブランドの「虎杖浜たらこ」(こじょうはまたらこ)をはじめ、毛ガニやホッキ貝、サケやニジマスなど、海・山・川からの恵みが魅力の白老町。
北海道南西部に位置し、太平洋に面した町までは札幌市から南へ車で1時間ほど。
遠くを望めばホロホロ山やオロフレ山などの尾根がつながり、地域のほとんどが国有林に覆われるほど自然豊かな場所です。
ポロト湖畔。市街地からほど近くにも美しい景色が広がる
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
新千歳空港からJR白老駅までは特急電車で約40分
ほかにも、雄大な自然の中にこんこんと湧く温泉があったり、アウトドアレジャーを楽しめたりと、観光にはうってつけ。
そんな旅行に行けば新発見がたくさんありそうな白老町に、アイヌ文化の発信拠点「ウポポイ(民族共生象徴空間)」はオープンしました。
白老町は、古くから暮らすアイヌ民族が歴史を築いてきた町の一つ。アイヌ文化の復興や創造、発展を目指すこの地にナショナルセンターが誕生したんです。
ウポポイはポロト湖畔の合計約1万5000平方メートルもの敷地に広がる文化発信拠点(※写真はイメージ)
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
ウポポイには、アイヌ文化を“体感”できるさまざまな施設が立ち並びます。
北海道初で日本最北端の国立博物館となる「国立アイヌ民族博物館」をはじめ、アイヌ文化に触れられる「体験学習館」や「工房」、生活空間を再現した「伝統的コタン(集落)」など盛りだくさん。
ちなみに、愛称のウポポイは「(おおぜいで)歌うこと」を意味するアイヌ語。
国立アイヌ民族博物館なら「アヌココロ アイヌ イコロマケンル」(アヌココロのロは小文字)のように、各施設にもアイヌ語の名前が付けられています。
ポロト湖を背景にした「伝統的コタン」では、ユネスコ無形文化遺産にも登録されているアイヌ古式舞踊が披露される
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
新グルメやグッズも! 体感したいアイヌの暮らし
ウポポイの最大の魅力、それはアイヌを世界に発信する場所である以上に、「アイヌ文化って面白い!」と感じられるスポットだということ。
まず見てほしいのが、国立アイヌ民族博物館に展示された「衣装」。芸術品とも称されるアイヌの衣装は、伝統的な文化の粋(すい)が詰まっているとも言われます。
「伝統的な文化」と重たく受け止めずに、素敵なアイヌ文様が施された衣装は眺めるだけで楽しめますよ。
アイヌの衣装などが展示されている国立アイヌ民族博物館
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
アイヌの必須道具「マキリ(小刀)」。館内では「ことば」「くらし」など6つのテーマで展示されている
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
頭の中にアイヌ文化をインプットしたら、次は体にインプットを。
体験学習館を訪れれば、アイヌの楽器「ムックリ(口琴)」などの制作ができたり、「ポロトキッチン」でアイヌ料理の調理と試食が楽しめたり、アイヌのカルチャーにどっぷり漬かれます。
チプ(丸木舟、プは小文字)の操船を見ながら伝統的なアイヌの暮らしについて教えてもらえる
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
体を動かしたら、そろそろおなかが…。もちろん、歴史や文化を勉強するだけの場所ではありません。
園内にあるレストランやカフェには、白老町が誇る山海の幸と北海道の自然の恵み、そこにアイヌの食文化に由来した創作料理などを織り交ぜたメニューがずらり。
エゾシカのジビエからスイーツまで、まさにここでしか味わえない料理の数々に驚くはずです。
「焚火ダイニング・カフェ ハルランナ」の名物メニュー「ユク(蝦夷鹿)の焚火ロースト」(2800円、クは小文字)
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
「ヒンナヒンナキッチン 炎」のアイヌ文化を代表する食材を盛り込んだ「行者にんにくザンギ定食」(880円)
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
アイヌ伝統料理オハウ(温かい汁物)をメインにした「カフェリムセ」(ムは小文字)の「チェプオハウセット」(1200円、プは小文字)
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
「Sweets café ななかまど イレンカ」の人気スイーツ「クンネチュプ」(150円、プは小文字)。白老産のたまごを使用した半熟カップチーズケーキ
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
国立博物館ならではのオリジナルグッズもバラエティーに富んでいます。
アイヌ文様をデザインしたバッグやマグカップなど、ここでしか手に入らないものばかり。
トートバッグ(1350円)など、ウポポイオリジナルのアイヌ文様グッズは「国立アイヌ民族博物館ミュージアムショップ」で
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
ぬいぐるみ(2300円、左)やボールチェーンマスコット(900円、右)など、ショップ「ニエプイ」にはPRキャラクター「トゥレッポん」グッズが充実
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
レストランやカフェから窓の外を眺めれば、雄大な山々と青く澄んだポロト湖。
ガマやエゾヤマザクラ、ハルニレなどアイヌ文化に関わりの深い40種類以上の植物が園内の至るところで景色をつくり、四季折々の姿で湖畔を彩ります。
アイヌの人たちが暮らしてきた美しい景色に身を包めば、日頃ためてきたストレスもスッキリするはずです。
湖畔に広がる美しい風景。一面が凍る冬季のポロト湖も見どころ
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
オール北海道で応援するウポポイ
伝統芸能に限定グルメ、オリジナルグッズに美しい景色と楽しさ満載のウポポイ。実は、“オール北海道”でバックアップされてきました。
その中心となるのが、2016年に北海道庁が旗を振り、北海道の企業や団体等と共に設立された「ウポポイ官民応援ネットワーク」です。
設立当初はウポポイができることを知る人も少なく、「どうすれば応援の輪が北海道全域に広がるものか…」と、応援ネットワークは大きな悩みを抱えていました。
そこに北海道電力が入ったのは、2018年のこと。
ウポポイを応援するため社員の名刺にPRシールを貼ったり、ポスターやチラシで告知したり。小さなことからコツコツとできることを進めたそうです。
北海道電力でオープン直後まで同プロジェクトを担当した家入由佳梨さんが振り返ってくれました。
「アイヌの方々や北海道のため、当社には何ができるのか。それをずっと考えてきました。全社的な協力を仰ぐために各事業所へ一つ一つ丁寧に説明をし、各エリアでチラシを配ったり、お客様と会話するタイミングでお知らせしたり、ウポポイのPRにつながることを地道に続けてきたんです」
プロジェクトを担当した北海道電力 総務部の家入さん
提供:北海道電力
「最初は『ウポポイって何?』を説明するところからスタートしたので、直接は電力事業と関係がないぶん、理解を得るのに苦労しましたが、結果的に当社一丸となってバックアップすることができたのは、本当によかったと感じています」
アイヌ文様入りの北海道日本ハムファイターズのユニフォームを着て仕事をする北海道電力本店の従業員。道内にある10事業所で実施し、ウポポイのPRにつなげた
提供:北海道電力
広大な北海道全域に事業所と社員を有する同社の取り組みなどを機に、応援ネットワークの輪は急激に広がりをみせます。
現在、関係行政機関や経済団体、様々な企業など222団体(2021年12月31日現在)で構成され、北海道内でのウポポイの認知度は驚異の97.6%。
オープン直前は、北海道全体が「ウポポイ! ウポポイ!」とお祭り騒ぎになったそうです。
応援ネットワークの事務局運営を担う、北海道 環境生活部 アイヌ政策推進局 アイヌ政策課では、「今後も、新型コロナ感染症の状況を注視しながら、ウポポイをはじめとしたアイヌ関連施設などに多くの方が訪れることを目指し、情報発信をしていきます。特に北海道全域にネットワークがある北海道電力さんには大きな期待を持っています」と、さらなるバックアップに力を込めます。
2020年7月のオープン以降、修学旅行や観光ツアーなどで数多く利用されている
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
オープンから1年間で、ウポポイには約26万人が訪れました。来場者からは、「とても勉強になった」「もっとアイヌの歴史やルーツが知りたくなった」などの感想が寄せられています。
とりわけ目立つのが、体験交流ホールでの伝統芸能を見た人たちのコメント。
「歌と踊りが素晴らしくて自然と涙が出てきた」「とても感動しました! ぜひ多くの人に見てほしい」といった絶賛の声が多数集まっています。
体験交流ホールの古式舞踏などアイヌの伝統的な歌や楽器の演奏は必見
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
先述の北海道電力・家入さんも初めて見たときに、「歌と踊りに込められた魂を感じて、シンプルに感動しました! ウポポイのおかげで、アイヌの新しい一面を知ることができました」と、そのときの興奮を思い出しながら話してくれました。
提供:国土交通省
何となく知っている「アイヌ」のこと。知れば知るほどに、「素晴らしい文化だなぁ~」という発見があります。
行ってみないとわからない。それがウポポイです。
1日ではきっと回り切れないので、季節の移ろいを楽しむためにも、2度3度訪れてみてはいかがでしょうか。
■DATA
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団(※写真はイメージ)
ウポポイ(民族共生象徴空間)
住所:北海道白老郡白老町若草町2-3
営業時間:9:00〜17:00、土日祝9:00〜17:00(最終入場各60分前)※季節により変動します
休み:月曜(※祝日または休日の場合は翌日以降の平日)、年末年始(12月29日〜1月3日)
料金:一般1200円、高校生600円、中学生以下無料ほか
アクセス:札幌市街地から車で約1時間、新千歳空港から特急電車で約40分のJR白老駅より徒歩約10分
https://ainu-upopoy.jp/
ウポポイ 国立アイヌ民族博物館オンラインショップ
https://ainu-upopoy-museum.shop/
北海道
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/
北海道電力
https://www.hepco.co.jp/
<貢献する主なSDGsの目標>
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
【今月の密着人】九州電力株式会社 エネルギーサービス事業統括本部 火力発電本部 地熱調査グループ 倉山侑也さん(32歳)
世界各国が脱炭素社会を実現させるために歩みを進める中、日本にとって大きなカギの一つとなるのが「地熱発電」です。実は、世界第3位の地熱資源量を誇る日本。そこで今回フォーカスしたのが、国内で最も地熱発電の発電量が多い九州電力に勤める倉山侑也さんです。発電所づくりのために倉山さんが奔走するのは、地元の自然と人を思う熱い想いがありました。
狙うのは地下3000mの熱水と蒸気!
火山地帯にある高温な地中の熱エネルギーをもとに、電気を作り出す地熱発電。世界有数の火山大国である日本では、大きなポテンシャルがある発電方法として知られています。
最近では、脱炭素社会を目指し、2030年までに地熱発電施設の数を倍増させる目標を政府が掲げるなど、注目が集まっています。
そんな地熱発電ですが、発電所を1つ作るのには、なんと10年以上もの歳月がかかります。その理由を九州電力の倉山侑也さんは、自身の仕事でもある「地熱資源の調査」にあると言います。
倉山さん「地熱発電では、マグマによって熱せられた高温の地下水と蒸気を利用します。その地下水がたまっている場所を『地熱貯留層』と呼ぶのですが、地中深くにあるため、簡単に見つかるものではありません。それを探し出し、資源として使えるのかどうかを評価していくんです」
発電所の候補地探しで重要となるのが、フィールドワーク。国が所有するデータから目星をつけ、現場の状況を実際に確かめに行きます。
倉山さん「温泉地で硫黄のにおいがするように、地熱資源がある場所も特有の徴候があります。そうした成分によって地面が変質していたり、特徴的な岩石があったり、現地に行くと細かなヒントが見つけられるんです。ただ、そこまで行くのは体力勝負。多くは山の奥地にあるので、登山スキルは欠かせません」
いくつもの候補地から適切な場所を絞っていき、ようやく1カ所見つかるかどうか。まるでトレジャーハンターのようです。
倉山さん「さらに難しいのが、実際に掘ってみないと本当に地熱資源があるかわからない点です。温泉なら数百メートルで出ることもありますが、地熱貯留層があるのは1000~3000メートル。資源が見つかっても、規模や自然環境への影響といった調査が必要になりますし、国や自治体、地域の方々などの理解を得ていかなければなりません。そうしたことを十数年かけてすべてクリアし、ようやく地熱発電所が建設できるんです」
自然のことを考えた地熱発電所を造りたい
学生時代にエネルギー関係の仕事に興味を持ち、熱工学を専門に学んでいたという倉山さん。生まれ育った九州の電力会社である九州電力に入社を決めたのは、東日本大震災がきっかけでした。
倉山さん「当時は九州にいましたが、その後の混乱の中で、普段何気なく使っている電気のありがたみがすごく身に染みたんです。入社後に発電所に勤務する機会があり、実際に電気をつくる立場になると、電気のある生活が当たり前ではないことをより実感しました。目立たない存在だけれど、ないと困る。そんな縁の下の力持ちとして地元に貢献できることにやりがいを感じています」
その後、現在の地熱調査グループに配属されると、地熱発電の魅力に引き込まれていきました。
倉山さん「私は鹿児島県出身で、ずっと桜島を見ながら育ったこともあり、火山が大好きです。火山は地熱エネルギーの根幹。そうした地球が持つ大きなエネルギーをうまく利用して発電ができるのは、地熱発電の魅力だと思っています」
また、地域とのつながりを強く意識するからこそ、その場所が育んできた自然や美しい景観を残すことを第一に考えています。
倉山さん「自然環境は、できる限り維持したいんです。開発ありきで進めていくのではなくて、地域の皆さまの理解や協力を得られるような環境でつくっていけるのが理想です。ただ、建設するのに有望なエリアは国立・国定の自然公園が多いのも事実。地熱発電は二酸化炭素の排出量削減やSDGs(持続可能な開発目標)の観点からもメリットは多いですが、地域の自然環境にしっかりと目を向けていかなければならないと思っています」
日本の地熱発電を世界へ!
再生可能エネルギー推進の気運が高まる中、今後、技術力や発電量、経験値で国内随一の地熱発電企業である九州電力が培ってきたノウハウは、世界から求められる可能性があります。
倉山さん「当社グループは日本最大規模となる八丁原発電所(大分県)を含む全8施設の地熱発電所を九州で運営し、長年安全かつ安定して電気を供給してきました。その実績と、これまでに開発してきた技術力が最大の強み。これを九州だけでなく、国内外に広げていきたいです」
実際、インドネシアにある世界最大規模のサルーラ地熱発電所では、九州電力の技術が生かされています。さらに、2020年10月には福島県柳津町の猿倉岳(さるくらだけ)地域で地熱調査に着手するなど、続々とプロジェクトが動き始めました。
倉山さん「地熱発電は天候に左右されませんし、昼夜を問わずに安定して発電できます。さらに、化石燃料を使わないので二酸化炭素の排出量が圧倒的に少ないなど、メリットの多い発電方法です。特に日本は地熱資源に恵まれているので、有効活用していくべきと賛同してくださる方々も増えたと感じています。今、とても注目を集めていますが、これからも焦らず、地道に続けていくことが大切だと思っています」
倉山さんがそう考えるのには、これまで九州電力の地熱発電の礎を築いてきた先輩たちの存在があります。
倉山さん「大分県の八丁原発電所と大岳発電所は50年以上の歴史があって、地元の方々からの信頼を得られているだけでなく、町のシンボルのような存在として親しんでいただいています。それは電気だけでなく、発電に使った高温の蒸気や熱水をハウス栽培や住民の方の暖房用に提供するなど、エネルギーを余すことなく地域のために利用できるように、当社の先輩方が長年続けてきた努力のたまものだと思うんです。私が関わる発電所も、そういう存在になってくれたらうれしい。そのために、これからも地域の自然と人を大切にすることを第一に考えていきたいです」
■電気事業連合会・SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
https://www.fepc.or.jp/sp/social/
■九州電力-地熱発電
http://www.kyuden.co.jp/effort_renewable-energy_geothermal.html
NPO法人 MAMA-PLUGは、子育ての当事者が直面する社会問題について、クリエイティブな視点から解決に向けた取り組みを行うNPO法人。楽しく学び、賢く備え、自分で考え行動できる防災「アクティブ防災」を提唱し、東京都作成の女性視点の防災ブック「東京くらし防災」の制作に関わり、『子連れ防災BOOK』なども出版されています。普段の生活の中で気を付けることは?どんな備えをしたらいいの?女性が災害対策をする上で知っておくべきことは?などのポイントについて、理事の冨川万美さんにうかがいました。
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NPO法人 MAMA-PLUG アクティブ防災事業代表 冨川万美さん
日本は自然災害大国です。
現在、新型コロナウイルスの蔓延で窮屈な生活を未だ強いられている中でさえ、阪神・淡路大震災や東日本大震災のような地震災害、大型の台風や九州豪雨・西日本豪雨のような風水害など自然災害がいつ起きてもおかしくない状況で生活をしています。
最近では首都圏でも久しぶりに緊急地震速報が鳴り響き、ヒヤッとした方も多かったのではないでしょうか。
まずお伝えしたいのが、世代や、性別などに一切関係なく、一番大切なのは「命」だということです。ですが、せっかく助かっても、その後の「生活」に苦しんできた方々も実際少なくありません。自分の「命」と「生活」を守る防災を私たちは「オーダーメイド防災」と名付けています。
災害時でも生活していくのは自分です。
防災セットを丸ごと買って満足してしまいがちですが、今一度、「自分自身」または「自分の大切な家族」が必要なものは何かという視点で、是非「オーダーメイド防災」を考えてみてください。
今回のテーマは女性の防災です。災害時、特に女性が知っておくと良いことをお伝えします。
①女性視点の防災について
多様性の時代において、女性だけ特別視されるべきことは本来あるべきではないのですが、災害時においては、身体面で男女に大きな差があることは事実です。
例えば、女性特有の体調不良・月経・妊娠・授乳・性犯罪の被害など女性の視点で考えるべき点は多くあります。
私たちの団体では、災害被災者の方へのヒアリングなどを実施していますが、実際、被災された女性の体験談の中で非常に多い声としては
「冷えや不潔な環境による体調不良」(膀胱炎や膣炎・自律神経の乱れなど)
「月経に悩まされた」(清潔でないこと・ゴミの処理・ナプキン不足・生理痛など)
「娘が避難生活中に初潮になった」
「妊娠中だった」(健診にいけない・出産場所不足・冷えやストレスなどによる体調不良など)
「授乳場所に困った」(プライベートな空間確保の困難・周りへの気遣いなどによるストレス・清潔なミルクセットがないなど)
「報道されにくい性犯罪」(セキュリティの低さ、死角が生まれやすい環境などが原因)
が挙げられます。
MAMA-PLUG主催のセミナーでの風景
上記はほんの一部に過ぎません。近年は女性の視点を意識した避難所作りなどが盛んに行われ改善されてきていますが、実際に災害が起きてしまうと、避難所などは生活しにくい場所です。基本的には自宅で過ごすことを前提としているため、女性はいかに自分で自分を守ることが必要かが伺えます。
【身体面で気をつけたいこと】
過去の災害では、高齢の女性が逃げ遅れてしまった例が多く報告されています。もちろん女性に限ったことではありませんが、特にご高齢者の場合、体力に男女差が生まれやすいのも事実です。避難する際の助け合いや支え合いがとても大切です。
また、女性は筋肉量の比率から身体が冷えやすいため、ブランケットやカイロ、衣類などの防寒対策、温かい食事の備えなどを意識すると良いでしょう。また、漢方やハーブ・ストレッチ・マッサージなどで温活することもおすすめです。
【妊娠中・産後に気をつけたいこと】
妊娠中と一言で言っても、初期・中期・後期で気をつけるべきポイントは変わります。初期はつわりなどで苦しいにも関わらず、周囲からはわかりづらいので無理をしてしまった妊婦さんも多くいらっしゃいました。中期から後期にかけては、ゆっくりと身体を伸ばし、無理ない体勢で過ごすことも非常に大切です。エコノミークラス症候群や妊娠高血圧症候群に注意し、栄養面や、居場所の確保などを心がけましょう。
何よりも、お腹の赤ちゃんとご自身を守るために無理をせず、周囲にサポートを求めることもとても大事です。
新生児や生まれて間もない赤ちゃんがいる場合は、多くの人が集まる避難所などはとても過ごしづらいもの。被災地外への避難なども視野に入れ、プライベートが守られる場所を確保するよう心がけましょう。また、授乳中はリラックスできれば母乳は出続けます。水分補給を心がけ、授乳を安心して行えるよう、人目がある場合は授乳ケープや目隠しを準備しておきましょう。
ミルク育児や混合育児の場合は、清潔な哺乳瓶セットが必要です。煮沸消毒が難しい場合は使い捨てのものや液体ミルクなどを有効活用し、必要に応じてカップフィーディングなども実践できると心強いですね。
【子育て中に気をつけたいこと】
冒頭でもお伝えした通り、避難所自体、長期間の生活ができる場所ではありません。
在宅で避難生活をする場合、気をつけるべきポイントは
・子どもが食べたいものが備えられているか
・子どもの成長にあっているか
・日々の習慣になっていることを続けてあげられるか
になります。
食べ物に関しては、子どもに限らず自分が食べたいものを備えましょう。「乾パンやレトルト食品を食べてくれなかった」などという声も多くあります。
子どもが食べてくれない非常食でいっぱいにするよりは、そこまで栄養に拘らず、「美味しく食べてくれる」ことを重視してみてください。
我が家は息子の偏食が凄いので、お菓子などでもお腹がいっぱいになるよう備蓄していますよ。
また、子どもは成長のスピードが著しく、おむつや洋服のサイズはもちろん、食事スタイルも日々変化します。子どもの「今」と「少し先」の備えがあると安心です。
そして、習慣になっていることにも注意が必要です。
例えば、今の子どもたちはおそらくデジタルからは切っても切れない生活をしています。特に新型コロナウィルスの自粛生活で、動画配信やゲーム機などに助けられたご家庭も多いのではないでしょうか。
災害が起こると停電があり、デジタル生活が困難になりますが、なんの前置きも無しにいきなりデジタルを取り上げてしまうと子どもたちに大きなストレスがかかります。
復旧するまでの間ずっとというわけにはいきませんが、小型の発電機やバッテリーなどを利用して、
「今電気が使えなくなってしまったから、一緒に我慢しようね」
など説明する時間を確保するだけでも心に余裕ができます。
その他にも、できる範囲で身体を動かしたり、睡眠サイクルをなるべく守ってあげたりするなど、習慣をなるべく崩さないように生活できると良いですね。
【メンタル面で気をつけたいこと】
体調を崩さないための備えも大切ですが、それと同じくらい大切なのは「心」を守ること。大きなストレス下の生活は、心身ともに苦しみをもたらします。
災害時だからといって、自分を我慢させることはありません。
実際に過去の体験談では、
「音楽に救われた」
「本ばかり読んでいた。その時は気が楽だった」
「推しが居てよかった」
「甘いものが食べられた時嬉しくて涙が出た」
「お酒をみんなで飲んだら前向きな気持ちになれた」
「子どもの遊びスペースができたときとても嬉しかった」
など、それまでの生活で心の支えになってきた存在がいかに大切であるかが多く寄せられました。
災害時に自分の心の支えになるもの。今のうちから是非考えてみてください。
また、一人で抱え込まず、複数で行動することも重要なポイントです。
災害時は、パニックに陥り、冷静な判断や行動が困難になります。積極的に声を掛け合い、友人やご近所さんなど協力して過ごすと良いでしょう。
【犯罪面で気をつけたいこと】
あってはならないことですが、災害時に性犯罪が起こったのも事実です。停電により死角の増加、他者との生活スペースの共有によりセキュリティ面が低下してしまうためです。また、本当に残念なことに、そのような事実は、被害者を保護するため他の情報に比べて報道されることが少なく、犯罪者が野放しになってしまっているケースまであります。何も言えずに苦しんでいる方々(これは女性に限りません)がいらっしゃることを忘れてはならないのです。
これは決して許されるべきことではありません。
私たちにできることは、そのような犯罪に巻き込まれないよう自身の身を守ることと、そのような犯罪者を追求し続けるべきことだと思います。
気を付けるべきポイントとしては、
・なるべく一人で行動しないこと
・ユニセックスな服装で過ごすこと(普段は全く自由であるべきですが、特に寝る時間などは気を付けると良いでしょう)
・不審な人が万が一いた場合は、誰かに即知らせること
死角のない、安全な避難場所を積極的に作っていくことも防災の大切な視点です。
② 災害時に大切な電気について
前述もした通り、災害が起こると、ライフイン(電気・水道・ガス)が滞ってしまいます。
特に停電は、多くの被災体験で、
「真っ暗闇を初めて体験した」
「死角ばかりで日が落ちるのが怖かった」
「エアコンが止まって寒かった」
「スマホのバッテリーがなくて情報収集が困難だった」
などの声が寄せられています。
パニック状態に陥りやすい災害時、手元や空間を照らす明かりは真っ先に必要なもの。また、私たちの今の生活に必要なスマホの携帯用バッテリーも欠かせないアイテムです。
・懐中電灯(ヘッドライトタイプがおすすめ)
・ランタン(各部屋に準備しておくと安心)
・モバイルバッテリー(スマホの充電用)
・家庭用小型発電機
などが家にあると心強いでしょう。
また、気をつけなければならないのが「通電火災」です。
災害時に一気に停電になり、復旧した際にショートしてしまうことなどが原因で起こる火災のことです。東日本大震災の際も、通電火災が原因のものがありました。
自然災害で停電した際には、
・ブレーカーを落とす
・電源プラグを抜いておく
などの対策を図ってください。
いかがでしたか? 女性に限らず、様々な視点でみてみると、必要な防災が改めて見えてきます。 「命」と「生活」を守る防災、是非周りを巻き込んで防災力を上げていきましょう!
冨川 万美(とみかわ・まみ )
NPO法人 MAMA-PLUG アクティブ防災事業代表。 青山学院大学卒業後、大手旅行会社・PR会社勤務を経てフリーランスに転向。東日本大震災の母子支援を機に、子連れや家族のための防災を啓発するためにNPO法人MAMA-PLUG設立に携わる。被災体験を元にした「アクティブ防災」を提唱し、全国各地でのセミナー・自治体との連携・イベント・企業との協働・書籍の出版及び監修など様々な分野で活躍中。東京都「東京くらし防災検討・編集委員」、農林水産省「あってよかった家庭備蓄」委員、厚生労働省「非常時における児童館の活動に関する調査・研究」委員、東京都「帰宅困難者対策に関する検討会」委員などを務める。主な著者に、「子連れ防災BOOK」、監修本に「いまどき防災バイブル」。
【WEBページ】https://web-mamaplug.com/
★さらに災害時の対策・備えについて知りたい方はこちら!
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の役に立つため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしているのをご存じでしょうか。2021年9月、富山県の造り酒屋から新しい日本酒が発売されました。このお酒を造るために協力したのが北陸電力です。どうして電力会社が日本酒を? その裏側と思いに迫りました。
富山のダムで日本酒の熟成、はじめました。
寒ブリ、シロエビ、ホタルイカ、海からの恵みあふれる富山県。お酒が好きなら…ですが、肌寒くなるこの季節に北陸の幸と合わせて“くいっ”といきたいのは「日本酒」ではないでしょうか。
富山県の地酒は、古くからの造り酒屋が丹精込めて造る辛口系が多く、刺身ともよく合う“ザ・日本酒”的な味わいが魅力です。「ハズレがない」なんてこともいわれます。
そんな富山県の中心地・富山市の造り酒屋から、地元にあるダムで貯蔵された純米大吟醸「ありみね」と純米原酒「有峰」が発売されました。
2021年9月に発売開始した純米大吟醸「ありみね」(右:5500円/720ml)と純米原酒「有峰」(左:3300円/720ml)。それぞれ1年貯蔵酒
香り高い純米大吟醸「ありみね」とうま味の詰まった純米原酒「有峰」、それぞれ貯蔵期間が異なる2019年ものと2020年ものがあり、熟成が進むにつれてよりまろやかな味わいになっていくそうです。
この日本酒を手掛けたのが、富山で100年以上続く桝田酒造店。全国的に「満寿泉(ますいずみ)」という銘柄で知られる老舗の造り酒屋で、和菓子の「とらや」やスコッチ・ウイスキーの「シーバスリーガル」とコラボするなど、富山の地酒を盛り上げるため精力的に取り組んでいます。
そうした中で生まれたのが、「日本酒×ダム」のコラボでした。
「ありみね」と「有峰」が販売されている桝田酒造店 沙石(させき)。購入できるのはここだけ
富山湾近くの岩瀬大町に桝田酒造店 沙石はある
ダムに合う日本酒の造り方
さかのぼること2019年11月21日。2種類の日本酒が初めてダムに貯蔵されました。
桝田酒造店が酒造りで意識したのは「長期熟成」。1年や2年ではなく、10年、20年の貯蔵に耐えられるような味に仕立てられています。
「ここまで長期熟成を目指したものは初めて。本当に、どういう味になるのか楽しみです」と、日本で唯一このお酒を買える桝田酒造店 沙石の品川里美店長もワクワクを隠し切れません。
各450本がダムの点検用通路に貯蔵された
新しく造った日本酒は一般的に渋みや苦味があるもので、時間がたつにつれてそれがうま味へと変わっていきます。造り立てからおいしいものは、何十年後には甘味が強くなり過ぎてしまうのだとか。
今回は酸味を少し強めた味にしていて、熟成によってよりおいしくなるようにしたといいます。
コロナ禍の影響でしばらく時間がかかりましたが、貯蔵開始から1年9カ月後の2021年8月、待望の“初ダム出し”が実現。「1年貯蔵酒」(2年未満のため)として発売されました。
有峰ダムが日本酒をおいしくする理由
この日本酒が貯蔵されたのが、標高約1000メートルに位置する北陸電力の「有峰ダム」でした。富山湾まで続く常願寺川の水域に建つ水力発電所を動かすのが本来の役目です。
高さ140メートル、幅500メートルもの巨大なダムが広大な湖をたたえ、湖中ではイワナやニジマス、ワカサギが泳ぎ、湖畔ではブナやシラカバなどの樹々が季節に彩りを添えます。このため、地元ではダムと周辺エリアが一体となって景勝地として知られています。
雄大な自然に囲まれた有峰ダム。四季折々の景観が魅力だ
「ダムで貯蔵」と聞くと、この湖の中に沈めて保管していると考える人もいるそうですが、蔵となるのはダムの内部です。
ダムの一番上(堤頂)から約80メートル下の地下4階となる場所に、140メートルほどの長い点検用通路があり、そこで「ありみね」と「有峰」は寝かされています。
では、ダムで日本酒を貯蔵するのは、なぜでしょうか。決して奇をてらっているわけではなく、明確な理由があります。
それは、コントロールしなくても温度が一定だから。
日本酒の熟成には気温10℃程度が最適で、蔵や冷蔵庫で貯蔵されるのが一般的です。ただ、四季もあれば人の出入りもあるため、そうした設備で長期間温度を一定に保つのはなかなか難しい。
その点でダムは、年間を通じて9℃前後、ほとんど人が立ち入らず、外の空気にも触れない絶好の空間です。同じ温度で安定して長期熟成ができるのは、酒造りにとっての大きなメリットになります。
長い通路に、15本入りの1ケースを2~3段で積んで貯蔵する
これまで物の保管なんて当然したことのない有峰ダムが、こうして日本酒を受け入れられたのにも理由があります。有峰ダムを管理する北陸電力 常願寺水力センター課長の平野秀次さんが教えてくれました。
「実は、2020年度に有峰ダムが完成60周年、2021年度に北陸電力が創業70周年のアニバーサリーイヤーを控えていました。何か新しいことができないか、とちょうど考えていた時期だったんです」
そんなタイミングで「ダムで貯蔵ができないか?」と声を掛けたのが、桝田酒造店でした。有峰ダムは、北陸電力の中でも一番大きな水力発電用のダム。半世紀以上にわたって地域の電力を安定して供給し続けてきた施設です。地元のためになるのならと、トントン拍子に話が進んでいきました。
北陸電力の平野さん(左)と、桝田酒造店 沙石の品川さん(右)。協力して新しい日本酒造りに挑んでいる
「有峰ダムだから買いたい」地元住民が語る思い
発売以降、「評判も売行きも上々」と桝田酒造店 沙石の品川さんは顔をほころばせます。購入できるのは同店だけですが、同じ岩瀬地区にある懐石料理店「御料理 ふじ居」や鮨店「GEJO(げじょう)」などに訪れれば、富山のおいしい料理とのマリアージュを楽しむことも。
「『ダムで貯蔵!?』と、興味を抱くお客さまが多いと聞いています。造れる本数に限りがあるので、全国展開みたいなことは考えていません。あくまで地元で、地元の飲食店さんで飲んでいただきたい。それは大事にしていきたいです」と品川さん。
桝田酒造店 沙石なら、貯蔵酒と共に非売品の新酒(未熟成)も試飲可能。「30分唎酒」で2000円はお得
それに、この日本酒にはもう一つ大きな特徴があるとも。発売後にこんなことがありました。
「ある日、店の留守番電話に『ありみねが欲しい』と高齢だと思われる女性の方から伝言が残っていました。後日、代理の方が来店されたのですが、聞けばその方はダムができる前、今の有峰湖にあたる場所に住んでいたことから、発売するのを知って思い立ったと」(品川さん)
ほかにも、「過去に仕事で有峰ダムに関わったことがあるから」という購入者もいたそうです。
発売したばかりなのに、さまざまなエピソードがある日本酒。有峰ダムが長年にわたり地域と共に歩んできたからこそかもしれません。
ラベルやパッケージの写真は有峰ダム周辺の風景
地域を支えてきた水力発電用のダムが、地域の盛り上げにも役立っていく。町の反応を感じ、北陸電力の平野さんは長く続けていくことを目標に掲げます。
「質が良く、安い電気を安定して確実に届ける。それが私たちの使命です。カーボンニュートラルへのチャレンジをしているなかで、水力発電は二酸化炭素を排出しない重要なエネルギーの一つ。この日本酒をきっかけに、そもそものダムの役割などにも関心を抱いていただければ」と、日本酒の先にある思いも教えてくれました。
2020年6月と2021年10月に追加で貯蔵。ダムの中で静かに出荷の日を待つ
今後、2種類の日本酒は毎年、蔵入れを続けていく予定です。2021年は10月にそれぞれ240本が有峰ダムに貯蔵され、1年、2年、3年ものと、どんどんヴィンテージがラインアップされていきます。
数十年もの長期熟成をするとなれば、広さやその場所がなくならないことも重要になります。その点、ダムは広い上に、そう簡単になくなることはありません。
北陸で生まれた日本酒とダムのコラボレーションは、お酒好きにとって10年、20年と期待でほほが緩み続けるサステナブルな楽しみになりそうです。
■DATA
■桝田酒造店 沙石
住所:富山県富山市岩瀬大町93
TEL:080-2962-6683
営業時間:10:00~17:00(電話は11:00~16:00)
休み:火曜(祝日の場合は翌日)
純米大吟醸「ありみね」(720ml)
1年貯蔵酒:5500円、2年貯蔵酒:6600円
純米原酒「有峰」(720ml)
1年貯蔵酒:3300円、2年貯蔵酒:4400円
※すべて税込。価格は貯蔵年によって変わります
※2021年に蔵出しした420本は完売。次回は、2022年6月上旬に出荷予定です(2年貯蔵酒も同様)
■桝田酒造店
住所:富山県富山市東岩瀬町269
TEL:076-437-9916
http://www.masuizumi.co.jp/
■北陸電力
https://www.rikuden.co.jp/
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
<貢献する主なSDGsの目標>
【今月の密着人】北海道電力ネットワーク株式会社 札幌支店 配電部 配電工事グループ 永井晃輔さん(28歳)
電力会社の大切な使命は、いつでも確実に電気を届けること。電線に掛かりそうな木を伐採し、電気が通る道の安全を確保することも重要な仕事の一つです。そんな中、ごみとして処理していた大量の伐採木を使い、どういうわけか動物園のゾウを元気にしている電力会社の社員がいます。ゾウや動物園、さらには地域全体を喜びに包んだアイデアとは?
伐採した樹木をゾウのご飯に!
突然ですが、動物園の人気者ゾウが、1回に食べる食事の量はどれくらいだと思いますか?
正解は、野生のアジアゾウの場合は、1頭あたり200キログラム程度。一般的な動物園だと、干し草などを与えることが多く、食費は年間で約200万円もかかるそうです。
2020年11月、そんなゾウ4頭が暮らす北海道札幌市・円山動物園に、トラックいっぱいの樹木が運び込まれました。運んできたのは、北海道電力ネットワーク株式会社 札幌支店 配電部 配電工事グループの永井晃輔さん。なぜ電力会社が動物園に樹木を届けたのでしょうか。
永井さん「当社では停電などの事故を未然に防ぐため、電線に掛かりそうになっている樹木を切り落とす保守伐採を行っています。伐採した木は通常、ごみとして廃棄するのですが、一部をゾウのエサとして動物園に無償提供したんです」
札幌支店 配電部が一年間に根元から切る樹木は約6500本、切り落とす枝は約20万本分に上ります。
永井さん「干し草などのエサに比べれば、地元で切ってきた伐採木は新鮮そのもの。ゾウにとって、ものすごいごちそうなんですよ。実際、とてもおいしそうに食べていました」
ゾウへのプレゼントをひらめいた瞬間
電力会社として全国初の試みとなった、伐採木の無償提供プロジェクト。アイデアが生まれたきっかけは、「電線に掛かかりそうな木を切ってほしい」と永井さんが円山動物園に呼ばれた日にさかのぼります。
永井さん「普段は電柱の変圧器点検などの業務を担当していて、木の伐採作業もその中の一つです。伐採した樹木は通常持ち帰るのですが、樹木の所有者に引き取っていただくケースもあり、あの日も『切った木はその辺に置いておいて』と言われました。かなりの量があったので、なんとなく気になりお聞きしたら『ゾウのエサにする』と言うんです」
その瞬間、永井さんの脳裏にかつて円山動物園で見たゾウの姿がよぎりました。
永井さん「息子がとても好きで、年間パスポートを持っているほど家族でよく訪れていたんです。4年前に木を食べるゾウを初めて見て、とても驚きました。ゾウといえばリンゴなどの果物を食べるイメージがあったので、まさか木を食べるなんてと。それを思い出したんです」
伐採木の使い道を詳しく聞いてみると、種類によってサルやキリンなども食べることが判明。それなら他の場所の樹木も使えるかもしれないと、会社に戻ってすぐに企画書作りに取り掛かりました。
永井さん「実は、これが人生初の企画書でした。手探りでしたが、とにかく熱い思いをぶつけたんです。前例はないものの地域に貢献できると社内で認められ、進められることに。動物たちが好む樹木リストをまとめるところから、円山動物園を運営する札幌市と覚書を交わすまで、何もかも初めての経験ばかりでしたね」
動物だけじゃなく地域のために
2020年11月に初めて提供した伐採木は200キログラム。冬を越え、2021年4〜9月には8回に分けて合計3トンが運び込まれました。まとまった量を一度に運ぶのではなく、複数回に分けるのにも理由があります。
永井さん「せっかくなら、おいしく食べてもらいたい。だから鮮度にこだわりたいんです。特に私たちが切った木はその日の内に持っていくので、ゾウたちの食いつき方がまったく違うんですよ。『あっという間に食べてしまった』と、飼育員さんも驚いていました」
今年は年間で約10トンを提供する予定です。ゾウは新鮮なエサが食べられ、動物園は食費が節約できます。それ以上に、もっと大きな価値があることを円山動物園の動物専門員 野村友美さんが教えてくれました。
「枝葉を与えると、折る、樹皮をはぐ、葉をむしるといったゾウのさまざまな行動が引き出すことができ、そうした姿を来園された方々に観察してもらえます。また、食事に時間がかかることや、繊維質が多く栄養価が低いことから肥満予防にもつながるなど、メリットが多いんです。ゾウ4頭分の量を私たちだけで確保するのはとても難しいので、非常にありがたいですね」
さらに環境面にも良い取り組みだと、今後の継続と広がりに期待を寄せています。
永井さん「ちなみに、当社としてもメリットが多いんです。伐採木の保管や運搬、処理に掛かっていたコストを削減できますし、焼却処分をしないので二酸化炭素の排出量削減にも貢献できます。ごみとして処分するだけとは雲泥の差です」
ゾウ、動物園、電力会社、さらには地球にまで良いこと尽くしですが、永井さんが何よりうれしいのは地域とのつながりをより実感できることだと言います。
永井さん「伐採に行った先でこの話をすると、誰もが喜んでくれます。先日訪れた幼稚園でも『この木はゾウさんのご飯になるんだよ』と伝えたら、子どもたちの目がキラキラ輝いていました。地域と共にある電力会社の社員として、改めて実現できて良かったと感じます」
円山動物園での取り組みを機に、同社の旭川支店でも旭山動物園への提供がスタートしました。ちょっとした会話から生まれたアイデアは、今後大きく飛躍しそうです。
永井さん「私は、普段からお客様との会話を大切にしています。ニーズや業務改善のヒントは、ちょっとしたコミュニケーションの中に見つけられるからです。そう思って続けてきたことがついに実を結びました。まだ同じような可能性を秘めたヒントはあるはず。今後もお客様の声に耳を傾け、地域のためになることを実現していきたいです」
■電気事業連合会
SDGsの達成に向けた地域共生の取り組み
<貢献する主なSDGsの目標>
中国電力が送る、“電力業界初の試み”という、Nintendo Switch専用ソフト『あつまれ どうぶつの森』のゲーム内でキャラクターを通して行うカーボンニュートラルに向けた取り組み。このような取り組みでは、どのようなことができるの? どのように実現したの?そんな疑問を、中国電力 地域共創本部広報コミュニケーショングループの古谷 浩章さんに熱意たっぷりに語って頂きました。
電力会社が「あつまれ どうぶつの森」で情報発信??
『あつまれ どうぶつの森』ってどんなゲーム?
2020年3月20日に任天堂より発売された、Nintendo Switch専用ソフト『あつまれ どうぶつの森』。本作は様々な動物たちが暮らす無人島で、住人たちとコミュニケーションをとったり、釣りをしたり家具を集めたりなど、ほのぼのとした生活が楽しめるゲームです。部屋の内装などをカスタマイズできるアイテムは種類が豊富で、壁紙や服のデザインは自分で作ることも可能。また、自分の島には友達に来てもらうこともでき、誰かと一緒に遊ぶ楽しみも人気の理由のひとつ。
どんな風にスタートしたの?
電力業界初となる、「あつまれ どうぶつの森」と「カーボンニュートラル」のコラボレーション。ゲームが好きな方々にも楽しんで頂ける取り組みは、どのように実現したのかについてまずはお聞きしました。
古谷さん「今年の2月に今の部署へ異動してきてから少し経った頃、『Facebook10万人いいね!企画』を担当することになりました。会社に入ってから初めての企画だったのですが、地域の方やフォロワーの方に楽しんでいただくだけでなく、将来に向けて何か役立つことができないかと思っていました。また、当時、当社の『カーボンニュートラルに向けた取り組み』に関する認知度がとても低く、特に『女性や若年層』へ情報をお届けできていない、という課題があることを認識していました」
認知度の低さが課題となっていた「カーボンニュートラルに向けた取り組み」。そこで、古谷さんが目をつけたのが『あつまれ どうぶつの森』でした。
古谷さん「『あつまれ どうぶつの森』は、コロナ禍の中において、爆発的に普及しているゲームで、昨年頃からは食品メーカーやアパレルメーカーなど、多様な企業さんがこのゲームを活用した広報活動をされているのを目にしていました。ゲームユーザーではなかったにも関わらず、斬新な取り組みであり、親近感を抱いたことを覚えています。そして、Facebook 10万人いいね!企画を考えていた時期、同部署内で『あつまれ どうぶつの森』で何かできないか?を検討していた段階だったんです。私たちがやりたいことに、この企画がぴったりなのでは?と思い、その日に『あつまれ どうぶつの森』をプライベートで購入しました。自分でもやってみると、見事にハマってしまい……ゲームの自由度が高く、企業の広報でも十分で活用できることがわかりました」
他の部署の方からも意見を貰い、ついに広報活動がスタート!
古谷さん「以降は、先輩方や上司をはじめ、いろんな部署の方から意見をいただきながら、『あつまれ どうぶつの森』を活用した広報企画をスタートさせ、地域やフォロワーの皆さまに楽しんで頂けるよう、当社のマイデザインを制作・配布することになりました。そして2021年6月5日(土)に当社公式Facebook、Instagram、特設サイトにて公表したんです」
中年男性風のキャラクターは広報部長がモデル。古谷さんからの『出演オファー』に部長は快諾だったとか
古谷さんが解説!カーボンニュートラルとは?
取り組みの中心である「カーボンニュートラルを伝えること」。その「カーボンニュートラル」は、“温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする”“脱炭素を目指す”というイメージがあることを伝えると、「おっしゃる通りです」と古谷さん。カーボンニュートラルについて、わかりやすく説明頂きました。
古谷さん「ただ、耳にすることはあっても、なかなか分かりにくいですよね。直訳すると『炭素中立』。これもあまりピンと来づらいですね。意訳すると『CO2プラマイゼロ』といったところでしょうか。カーボンニュートラルは、ダイエットに置き換えると分かりやすい、と聞いたことがあります。ということで、地球=私に、CO2=カロリーに置き換えて考えてみましょう。最近、私(地球)はカロリーの高いものを食べすぎ(CO2を出しすぎ)て、太ってきました(大気中のCO2の割合が高い状態)。太りすぎは、健康によくないですよね(温暖化や異常気象)。自分でも耳が痛くなってきました。ただ、生きていくためには、食事をしないわけにはいきません(呼吸をするだけでもCO2が出ているように、CO2を全く出さない生活はできません)。だから、健康的な食事(CO2排出量をできるだけ低減すること)に加え、運動でカロリーを消費(植林などでCO2を吸収)して、バランスよく健康になろう(CO2プラマイゼロ)!という話なのです」
地球に優しくプラマイゼロを目指すけれど、「ちなみに、当社は多くのCO2を排出しています」と語る古谷さん。そこからどんな行動を心がけていくのでしょうか。
古谷さん「この現実に真正面から向き合い、2050年のカーボンニュートラル達成を目指して、現在、『発電時にCO2を減らすための取り組み』はもちろんのこと、燃料を燃やした後に出る『CO2を回収する技術』の実証研究、また『CO2を出さない発電方法』の開発に取り組んでいます」
ゲーム内でどんなことができるの?
「あつまれ どうぶつの森」内での取り組みは、現在第3弾までを展開中の中国電力。その内容とは?
「えねるぎあ島」では中国電力ならではのマイデザインを配布中
古谷さん「ゲーム内で活用できる『マイデザイン』をダウンロードしていただくことが可能です。第1弾として、当社の作業着やキャラクターを模した帽子、当社のロゴ、第2弾は、当社のスポーツチーム(陸上競技部、女子卓球部、ラグビー部)のユニフォーム、第3弾はカーボンニュートラルグッズとして、『トマトばたけ』『グリーンカーテン』を発表しました」
突然のトマトばたけ! 選ばれたその理由とは……?
古谷さん「マイデザイン第3弾で公開した『トマトばたけ』をご覧になって、『なぜトマトばたけ?』と思われた方もいらっしゃると思いますが、これは、現在検討中である『回収したCO2を作物に利用する』という手法を、『あつまれ どうぶつの森』の中で一足先に表現してみたものです」
部署を異動したての古谷さんが、初めて取り組んだ大きな本企画。そこで生まれた苦労は計り知れません。
古谷さん「個人的には、仕事として初めての企画であり、アイデアを形にしていくことの難しさを強く感じました。会社としても、今までに取り組んだことのないジャンルの企画だったので、ユーザー目線を大切にしつつ、社内でもいろんな方の意見を聞きながら、みんなで作り上げていくよう、意識しました」
取り組みで生まれるユーザーとの関わり
ゲーム内でのユーザーの関わりについて、古谷さんは「ゲーム内において、利用者とのコミュニケーション企画は、まだ行っていません。今後、利用者が楽しめる企画があれば、実現したいと考えています」と、これからに期待できる発言。では、SNSやニュースを見た方々から得られた反応とは?
古谷さん「みなさんからの反応として、総じて『かわいい』というコメントが多く、親近感を感じていただけた方も多かったようで、とても嬉しかったです。印象的だったのは、SNSでマイデザインを着用していただき『ダウンロードしました!』と画像を投稿されていた方を目にした時です。感動しました」
今回の「あつまれ どうぶつの森」内での取り組みに関しては、オンライン上での活動だけでなく、直接子どもたちに接する“出前授業”という場で、新しい企画として紹介も。
古谷さん「当社SNSでは、フォロワーさんからいいね!や肯定的なコメントをいただいています。社内からも、新しいことへのチャレンジとして頑張ってという激励や、いつかゲームでの広報が当たり前になれば、そんな仕事もしてみたい等の声もいただいています。先日は、出前授業で小学生の子供たちに紹介してみたところ、授業の雰囲気が一変するほど反応が良かったという声も伺いました。新しい企画なので、今後もさまざまな場面で活用していけるよう、アンテナを張っているところです」
斬新な視点から企画を進める古谷さんの、今後の展望にも注目です。
古谷さん「電力会社にとって、カーボンニュートラルに向けた取り組みの重要性は非常に高まっています。取り組みを進めるにあたっては、社内だけではなく、さまざまな方にご理解いただく必要があります。『あつまれ どうぶつの森』を通じて、幅広い方々にカーボンニュートラルについて知っていただくことが大切になると思います。そして、堅苦しいところだけではなく、みなさんに楽しんでいただきつつ、寄り添い、お役に立てるような企画を進めていければと考えています!」
ゲーム内にもある“電化”
「あつまれ どうぶつの森」での中国電力の取り組みを紹介しましたが、カーボンニュートラルを実現するためには、私たち電気を使う側の「電化」も重要な取り組みとされています。ゲームでは、その時々の世相を反映した内容も多いようですが、近年ではエネルギーが電気へ転換された「電化が進んだ世界」という舞台設定も見られることをご存じでしょうか?ここでは、2つのゲームをご紹介します。
最初に紹介するのは、フィンランドのゲームデベロッパー、コロッサル・オーダーが開発した都市開発シミュレーションゲーム「Cities: Skylines(シティーズ:スカイライン)」。PCだけでなく、 PlayStation 4やNintendo Switchなどでもプレイ可能です。
プレイヤーは都市計画のために、家やお店、学校などの施設の設置はもちろん、地下に水の通り道を作ったり、電気を通す作業もしなくてはいけません。作った都市は、その内容で人口や、そこに住む人の健康状態や学力などにも影響が出てきます。このゲーム内で見られる“電化”は、太陽光発電所や風力発電所など。生活基盤の整備に欠かせない要素として登場します。外国で見られる、水上型風力発電所も見逃せません! 拡張パックの「Green Cities」では、グリーンな脱炭素社会がテーマになっており、ソーラーパネルを設置して公共の電力消費を抑えられる環境に優しい建物や電気自動車なども登場するとか……!
続いて、コジマプロダクションによって制作されたPlayStation 4用ゲーム「DEATH STRANDING(デス・ストランディング)」。伝説の配達人と呼ばれている主人公・サムを操作して、荷物の配達ルートを開拓し、無事に目的地まで運ぶことが目的のゲームです。
本作に登場する“電化”は、風力発電所、電気で走る車やバイクなど。バイクはゲームのオープニングから主人公が乗っている姿を確認できます。ゲームを進めて、バッテリーの発電所を作成すれば、自由に乗ることも!
多くの人が毎日あたりまえに使っている電気ですが、生活になじみすぎて改めて向き合う機会は日常の中でそう多くありません。とはいえ、国際的に、環境的に、二酸化炭素やエネルギーの問題は、無視できない課題。そんな中で、中国電力が取り組む『あつまれ どうぶつの森』内での活動や、ゲームに登場する“電化”で年齢や属性を問わず日常の中で触れる機会があるというのは、これからの未来に対して、大事なことなのかもしれません。
文=永野鈴夏
★「カーボンニュートラル」についてもっと知りたい方に!
『「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?』
「カーボンニュートラル」って何ですか?(後編)~なぜ日本は実現を目指しているの?』
(経済産業省 資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ)
「電力会社」と聞いて思い浮かぶのは、「電気を作り、届ける」こと。でも実は、地域の役に立つため、環境のためなど、他にもさまざまな活動をしているのをご存じでしょうか。今回は、東京電力グループが手掛ける世界最大級の野菜工場にフォーカス。食料の大部分を輸入に頼る日本にとって、またSDGs(持続可能な開発目標)達成に向けて大きな期待が寄せられています。気になる味や安全性など、工場生まれの野菜の魅力に迫りました。
東京電力が静岡県藤枝市の工場で育てる野菜とは?
見るからにおいしそうな、青々とした立派なレタスたち。
左から時計回りに、グリーンリーフ、フリルレタス、サニーレタス
実はこれ、“工場生まれ”の野菜です。種まきから収穫まで一度も屋外に出さず、すべての作業が工場の中で行われています。
食べてみると、葉の一枚一枚が肉厚でみずみずしく、食感はパリッ! 何もつけずそのままでもおいしいだなんて、これならサラダもごちそうになりそうです。
作っているのは、静岡県藤枝市にある彩菜生活合同会社(以下、彩菜生活)の藤枝工場。2020年7月にスタートした世界最大級の生産能力を誇る「完全人工光型植物工場」が、このレタスたちの故郷です。
藤枝市の完全人工光型植物工場の内部。彩菜生活は、東京電力エナジーパートナー株式会社、芙蓉総合リース株式会社、株式会社ファームシップの3社による合同会社として設立された
完全人工光型の植物工場とは、LEDライトを利用し、人工の光だけで植物を育てる工場ということ。現在、毎日約2.5トンのレタスが収穫され、全国各地の食品加工工場へと出荷されています。
味は「おいしい!」と断言できるものの、気になるのが普通の畑で育てられた露地栽培の野菜との違い。実際のところ工場で作った野菜とは、どんなものなのでしょうか。
工場産の野菜だから無農薬でも長持ちする
露地栽培との決定的な違いは、天候や虫などの自然環境に左右されることなく、安定した栽培ができるところにあるそうです。
LEDライトの光の強さや当てる時間だけでなく、温度や湿度、二酸化炭素濃度、水の量、栄養素の配合など、あらゆる要素を調整できるため、野菜にとって快適な環境を人工的に作り出すことができます。
栽培時に理想的な環境を安定させると、野菜は同じような大きさに、早く、健康的に育ちます。だから…
・露地栽培よりも早く収穫できる
・無農薬でも虫食いや病気の心配が少ない
・形の違いなどによる廃棄ロスが少ない
などメリットが多いのです。
パレットの下には養液で満たされたプールがあり、野菜はそこから水分と栄養を取り込む
また、衛生的で長持ちすることも特筆すべき点。
ホコリや虫を入れない徹底した衛生管理のもと、雑菌の多い土を使わない水耕栽培(水と液体肥料による栽培方法)で育てられているため、野菜を腐らせる原因となる細菌の数を圧倒的に減らしているといいます。
どのくらい違うかといえば、1グラムあたりに付着している生菌数(細菌の数)が露地栽培の野菜はおよそ100万個なのに対して、藤枝工場の野菜は1000~1万分の1 (同社調べ)。それだけ工場生まれの野菜は傷みにくいというわけです。
しかも、ここで作られた野菜は、工場内で密閉されて出荷するのが原則です。出荷先の食品加工工場も衛生管理が行き届いた屋内で開封・加工するため、基本的には商品になるまで屋外にさらされることがありません。
「葉の裏に小さな虫が…」というような、葉物野菜を買うとたまに経験するアレがないに等しい、というのも大きなメリットでしょう。
野菜栽培に役立つ電力会社の省エネ技術
「実は世界的に見ても、日本は完全人工光型植物工場のシーンをリードする存在です」
そう教えてくれたのは、彩菜生活の立ち上げに深く関わる東京電力エナジーパートナー株式会社 法人営業部の井田健介さんです。
井田さんは彩菜生活のアイデアを立案した中心人物の一人。そこに込めた思いを熱く語ってくれた
彩菜生活を立ち上げるきっかけとなったのは、井田さんが仕事で訪れた食品関連会社からの相談でした。
「『最近、野菜が安定的に手に入らなくて困っている』というのです。気象状況の変化が原因で野菜が不作になることが増え、さらに入手できても質が悪く、価格が高いこともあると。それで調べてみたら、状況の深刻さに驚きました」
世界的な人口爆発による食料難や日本の農業が抱える人手不足など、気候変動の他にも問題は山積みだったといいます。
「社会問題の解決の役に立つことは、電力会社の使命だと考えています。そのためには電気を別の価値のあるものに変換し、提供してもいいはず。そう考えた結果が、野菜工場でした」
ウレタン製のパレットにレタスの種を撒いて数日立つと、少しずつ芽が出てくる
完全人工光型植物工場の場合、工場や機材などへの初期費用、空調設備やLEDライトの光熱費をはじめとした維持・管理費用がかかり、露地栽培に比べると多くのコストがかかります。当然、最終的な野菜の価格も少し高くなります。
ただ、それを上回るメリットは前述のとおり。仕入れを安定させながら衛生面も徹底しなければならない食品加工業者にとっては、喉から手が出るほどのもの。とはいえ高いとなると、なかなか使えません。
そこで重要となるのが、栽培のさまざまな場面で使われる電気の消費量です。工場生まれの野菜の価格を左右するといっても過言ではなく、このコントロールが業界全体の悩みとなっていました。
消費電力の抑え方が重要となれば、電気の使い方や省エネにノウハウを持つ電力会社の出番だ、と井田さんは感じたそうです。
「電力会社は電気の安定供給を使命とし、さまざまな企業に日々電気をお届けしていますが、オフィスや工場の省エネコンサルティングも重要な役割の一つです。そのノウハウを生かすことができれば、野菜工場による“食料の安定供給”を成功させることができると考えています」
一定の大きさに育つと、ゆとりのあるパレットへお引っ越し。上部のLEDライトがついたり消えたりすることで昼夜を再現する
さらに大きく育ったら、もっと間隔の広いパレットに移動。収穫まではもうすぐ
野菜工場を世界に求められる日本の産業に
立ち上げ前、井田さんが特に危機を感じたと語ってくれたのが、日本の食料自給率が30%台という事実でした。
今後、農業人口の高齢化や減少により、さらに低下してしまうであろうことが現実問題となっています。
収穫時の大きさは20センチメートルほど。栽培室は2階建てで、一日最大5トンを収穫できる生産能力がある
「いざというときのことがほとんど考えられていないのが、日本の現状です。電気と同じで、そこにあるのが当たり前だと考えていては、いざ供給がストップし、慌てて対応しても遅いでしょう。一刻も早く、食料を安定的に調達・供給できる仕組みを確立していかなければならないのです」
収穫されたレタスは袋に密閉、箱詰めされ冷蔵庫へ。そこからトラックで出荷される
同時に、食料自給率を上げることができれば、輸入にかかっているコストや、輸送時に排出される二酸化炭素量が軽減されるなど、別の効果が期待できることも忘れてはなりません。
野菜工場は、SDGsの目標として掲げられている「飢餓をゼロに」や「気候変動に具体的な対策を」などを達成に近づける実現可能な方法の一つと言えるのです。
野菜作りはSDGsの目標「飢餓をゼロに」、そして結果的に二酸化炭素排出量の削減につながれば 「気候変動に具体的な対策を」にも寄与する
彩菜生活からレタスを仕入れているコンビニに商品を卸す食品加工会社は、「安定した野菜の入手が難しくなってきている中で、私たちの仕事を持続させるためにも、将来的にできる限り多くの工場野菜を取り込んでいきたい」と、大きな期待を寄せています。
また、藤枝市にある食品加工会社からは「もっと地場産の食材を取り入れたいと考えていたので、地元に世界最大級の野菜工場ができてとてもうれしい」「新しい雇用が生まれ、地方創生にもつながる」といった声も。
野菜工場の誕生は、SDGsに掲げられる目標の「働きがいも経済成長も」や「産業と技術革新の基盤をつくろう」 にもつながりそうです。
地元に雇用を生み出すとともに、地域創生にもつながることから、SDGsの目標「働きがいも経済成長も」や「産業と技術革新の基盤をつくろう」にも貢献する
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